「年収の壁」(以下、「壁」)とは、パートタイムなどで働く人の年収が一定額に達すると、社会保険料の負担が発生したり、企業の配偶者手当の支給対象外になることから、それを防ぐために労働時間を減らすなどの就業調整を行うことをいう。特に、年収が130万円以上になると社会保険の扶養から外れ、公的年金の「第3号被保険者」や健康保険等の被扶養者でなくなり、自ら社会保険に加入することになる。さらに、配偶者の所得税の控除や企業の手当の支給などにも影響し、手取り収入が減少するケースもあるため、壁を意識して就業調整する人が多いと指摘される。
壁については、以前から女性の低賃金の一因になっているなどの問題が指摘されてきたが、ここにきて、その解消も視野に入れた議論が始まっている。社会保障審議会(厚生労働省)における次期年金制度改革に向けた議論では、社会保険の適用拡大が重要な論点の1つとなっている。また、社会保険制度における被扶養のあり方についても連合として今後議論する予定であり、これらは壁の解消にも大きく関わる。
壁が改めて注目されている背景には何があるのか。解消に向けて必要な視点は何か。永瀬伸子お茶の水女子大学教授と芳野友子連合会長が語り合った。
連合は、すべての働く人にとって「必ずそばにいる存在」をめざして活動を進めている。しかし、働く人たちは連合や労働組合をどう思っているのだろうか。連合が実施した「連合および労働組合のイメージ調査」(2023)では、「伝統的」「保守的」という、距離感のあるイメージが上位にあがった。そこで、連合は今、もっと「身近な存在」に感じてもらえるよう「労働組合のブランディング」というべきイメージアップ戦略をスタート。その第一歩が「はたらくのそばで、ともに歩む」という統一ワードがデザインされた新しいタグラインロゴだ。
ちなみに「ブランディング」とは、その存在・活動(ブランド)について、働く人たちが身近で魅力的であると感じてくれるようにイメージアップをはかり、自分たちが伝えたいメッセージをより効果的に発信していくことという意味だが、実は海外の労働組合も同じ課題に直面し、様々なチャレンジを始めている。そこで、本シリーズでは、海外を含めた先進的な取り組みを追いかけ、「身近な労働組合への道」をさぐることとした。