最低賃金は、働いて受けとる賃金の最低額を法的に保障する制度です。この最低賃金の金額以下で労働者を働かせた場合、使用者は罰則の対象となります。
最低賃金額は時間額で示されます。最低賃金の対象となる賃金は、通常の労働時間に対応する賃金です。具体的には、実際に支払われる賃金から、以下の賃金を除外したものが最低賃金の対象となります。
毎月支払われる賃金から上記の5つのものを差し引いた後の金額を時間額に換算し、それが最低賃金額より低い場合は違反となります。仮に最低賃金額より低い賃金を労使合意の上で定めたとしても、法律により無効とされ、最低賃金額が支払われることになります。また、最低賃金額を理由に労働者の賃金を引き下げることは許されません。
なお、最低賃金には都道府県ごとの「地域別最低賃金」と、特定の事業もしくは職業ごとに設定される「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります。派遣労働者の場合は、派遣先の職場に適用される地域別最低賃金あるいは特定(産業別)最低賃金の適用を受けることになります。
最低賃金はパートやアルバイト、外国人労働者を含め、すべての「労働者」に適用されますが、見落とされがちなのが、「割増賃金」です。割増賃金には、時間外割増賃金、深夜割増賃金、休日割増賃金があります。
時間外割増賃金は、法定労働時間(1日8時間)を超えて働いたときに適用されるもので、使用者は通常の賃金から25%以上割増させた賃金を支払う必要があります。例えば、就業規則で定められた勤務時間が9時~17時(休憩1時間、所定労働時間7時間)の人が9時~19時に働いた場合、17時~18時は法定労働時間内の残業のため通常の賃金が適用されますが、18時~19時の労働は法定労働時間を超えるため、使用者は25%増し以上の賃金を支払わなければなりません。
深夜割増賃金は、深夜・早朝勤務(午後10時~午前5時)における割増賃金です。深夜・早朝(午後10時~午前5時)に働かせたときは、使用者は25%以上割増させた賃金を支払う必要があります。また、休日割増賃金は法定休日(週1日又は4週を通じて4日)の労働に対する割増賃金で、通常の賃金の35%以上の割増賃金が適用されます。
なお、割増賃金は重複して発生することがあります。時間外労働が深夜業となった場合は50%以上(25%+25%)、休日労働が深夜業となった場合は60%以上(35%+25%)の割増率となります。
「地域別最低賃金」は、パートやアルバイト、外国人労働者を含め、すべての「労働者」に適用されるものです。
地域別最低賃金は全国すべての都道府県で設定されます。基本的には、毎年改定されます。その金額は各都道府県労働局長が、金額改正が必要だと認める場合に地方最低賃金審議会に諮問し、同審議会の意見(答申)を尊重して決定します。地域別最低賃金額を下回る賃金を支払った場合の使用者への罰金は、上限50万円です。
「特定(産業別)最低賃金」とは、2007年の最低賃金法改正(2008年7月施行)により規定されたもので、特定の事業もしくは職業ごとに設定される最低賃金です。各都道府県の特定の産業ごとに設定されており、当該産業の、年齢・業種・業務などの条件で労働者の一部を除外した基幹的労働者※にのみ適用されます。関係労使が、当該産業の基幹的労働者について、地域別最低賃金より金額水準の高い最低賃金を必要と認めた場合に設定されます。
特定(産業別)最低賃金の金額は、関係労使の申し出を受けて、厚生労働大臣または都道府県労働局長が決定(改正)の必要性を最低賃金審議会に諮問し、必要との意見が出された場合に、同審議会で審議された意見(答申)を尊重して決定(改正)します。特定(産業別)最低賃金額を下回る賃金を支払った場合の使用者への罰金は、上限30万円です。
なお、特定(産業別)最低賃金に当てはまる事業や職業に就いている労働者は、地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の高い方の額以上の賃金が支払われることになっています。
※基幹的労働者とは、次のような人たちを除く労働者をさします。
・18歳未満65歳以上の者
・雇い入れ後、一定期間未満で、技能習得中の者
・その他、当該産業に特有の簡易な業務に従事する者