はじめに
この「2020~2021 年度 政策・制度 要求と提言」は、2019 年7 月から向こう2 年間に連合として取り組むべき政策を中心にまとめたものです。
今回の「要求と提言」は、2018 年11 月に集約した構成組織・地方連合会からの政策アンケートを参考にしながら作成を進め、各専門委員会、構成組織や地方連合会の政策担当者会議などで4 か月にわたり討議と意見交換を重ねて原案を策定しました。2019 年3 月7 日の中央執行委員会において原案を確認し、構成組織・地方連合会で原案に対する組織内討議を行いました。その後、約400 人が参加した5 月10 日の政策・制度中央討論集会でのさらなる討論を踏まえ、原案に対する修正・補強を行い、6 月6 日の中央委員会において最終決定しました。
構成については、以下の2 部構成としました。
第1 部「東日本大震災からの復興・再生に向けた政策」については、2019 年1 月から2 月にかけて実施した被災3 県(岩手・宮城・福島)へのヒアリング調査を踏まえつつ、震災発生から8 年あまりが経過してもなお山積している様々な課題への対応策をまとめました。
第2 部「連合として実現をめざす政策」は、2019 年5 月に策定した連合ビジョン「働くことを軸とする安心社会-まもる・つなぐ・創り出す-」が展望する2035 年の社会を見据えまとめました。具体的には、連合がこれまで積み上げてきた政策をもとに、足もとの社会・経済情勢などを加味し、7つの柱の下に、横断的な項目を含む、29 分野にわたる政策・制度に対する要求と提言となっています。
連合がめざす社会の実現に向けて、誰もが安心して働くことができるワークルールとディーセント・ワークの確立、分厚い中間層の復活に向けた適正な分配の実現、全世代支援型社会保障制度のさらなる構築、持続可能で包摂的な社会の実現をはじめ、すべての働く者・生活者のくらしの底上げ・底支えと格差是正、貧困の撲滅に資する政策の実行が不可欠であると考えています。そして、その政策実現に向けては、内外における政策発信力を一層強化していく必要があります。
この「要求と提言」は、構成組織・地方連合会・連合本部における討議の積み重ねにより、働く者・生活者が真に求める声を結集したものです。連合は、この内容について広く国民への理解浸透に努めながら、その実現と前進をはかり、「働くことを軸とする安心社会」の実現に向けた運動を積極的に展開していきます。
2019 年6 月6 日
日本労働組合総連合会
事務局長 相原 康伸
1.はじめに
(1)復興・再生の進捗状況
東日本大震災から8 年あまりが経過した。国は、「東日本大震災からの復興の基本方針」(2011年7 月)において復興期間を10 年間と定め、復興需要の高まる当初5 年間を「集中復興期間」、2016 年度からの後半5 年間は、被災地の自立につなげる「復興・創生期間」とし、取り組みを進めている。また、復興財源については、復興特別所得税等により広く国民全体の負担を求める中で、補正予算の編成や復興特別会計の創設を通じて財源確保を行いつつ、その規模も「集中復興期間」の5 年間で19 兆円程度から25.5 兆円程度まで拡大した上で、10 年間の復興財源を32 兆円(うち「復興・創生期間」は6.5 兆円程度)と見込み、復旧・復興の加速に向けて取り組んできた。
被災地においては、災害廃棄物処理の完了(帰還困難区域除く)はもとより、基幹インフラの本格復旧が進み、公営住宅の建設は2019 年度に完了する見込みである。一方、最大47 万人にのぼった避難生活者は、減少はしているものの、いまだに4.8 万人(2019 年4 月時点)の被災者が避難生活を余儀なくされている。また、被災地における雇用者数は、震災後の緊急雇用創出事業等の実施や復興需要等による有効求人数の増加により震災前の水準まで回復しているが、その一方で、沿岸部を中心に雇用のミスマッチなどの課題が生じている。
福島においては、原子力災害の影響が復興の大きな足かせとなってきたが、除染の進捗により、帰還困難区域を除くほとんどの地域で避難指示が解除され、帰還困難区域についても「特定復興再生拠点区域」として6 つの町村が再生計画を認定されるなど、本格的な復興に向けた取り組みが進みつつある。一方で、住民の帰還が十分に進まないことなど、いまだに復興・再生への課題は山積している。
今後もとぎれのない震災復興をはかるべく、政策面・財政面における国の強力なバックアップと、「復興・創生期間」終了後の復興財源や、2020 年度末の復興庁廃止後に設置することが示された後継組織のあり方などについて、早急かつ具体的な検討が求められる。
(2)産業・雇用の復興・再生に求められるもの
被災地では、時間の経過とともに被災者のニーズは多様になり、課題も変化している。住まいとまちの復興・再生においては、住宅再建が着実に進捗し、自主再建も進んでいる。その一方で、避難が長期化する中、要介護者の重度化や孤立死の増加が懸念されるなど、避難先における対応を含めコミュニティ形成への支援、住宅・生活再建に関する相談支援体制の整備等、医療・介護・福祉サービスなどの充実・強化が求められる。
産業の復興・再生については、「中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業」等を通じて、地域経済の核となる中小企業の再建・復興を支援する取り組みが行われてきた。津波で被災した農地や漁港は約9 割が機能を回復しているが、水産加工業においては震災により失われた販路確保等の課題が依然存在するなど、売上げの回復は道半ばである。また、インバウンドを中心とした観光振興に向け、政府が主体となった広報活動の推進など風評被害等の払拭への取り組みが引き続き求められる。
雇用の面についてみると、被災3 県の有効求人倍率は1.5 倍前後の水準で推移しているが、沿岸部の一部では、有効求人倍率は高いものの人口減少の影響や復興・復旧の遅れなどにより、雇用者数が震災前の水準まで回復していない地域や産業もあり、長期安定的な雇用の創出に向けた支援が引き続き必要である。
また、医療・介護は復興に欠くことのできない生活基盤の1つであり、被災地へ医療・介護人材を派遣する取り組みが継続されているが、とくに福島県沿岸部ではぎりぎりの人員体制でサービスを提供している実態があり、人材確保対策の継続・強化が必要である。さらに、持続可能な地域づくりの観点では、震災以前から存在する人口減少・超少子高齢化の進行への対応も欠かすことができない課題である。この間の復興の遅れから若年ファミリー層が転出し、高齢化に一層拍車をかけているとの報告もある中、子ども・子育て支援にとどまらず、若年雇用の創出など、取り組むべき課題の重要性は高い。
(3)福島の復興状況とさらなる取り組みの必要性
福島県は、福島第一原子力発電所事故により深刻な被害を受け、現在もその影響が復興の大きな足かせとなっている。この間、国は、避難指示解除区域への帰還に向けた避難者への生活支援等の総合的な対策を講ずるとともに、「福島再生加速化交付金」を新設し、長期避難者の生活支援から、早期帰還のための生活拠点形成などまで一括で支援する体制を整えた。しかしながら、小売店などの日常を支える生活インフラが十分に整っていないことなどから、住民の帰還は十分に進んでいないのが現状である。
産業の再生・活性化に向けては、福島相双復興官民合同チームによる個別訪問を通じたきめ細やかな支援が実施されている。また、原子力災害による風評被害対策として「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」が策定され、多方面への情報発信により、被災地産品の利用促進や観光業の促進に向けた取り組みが進められている。しかしながら、風評被害は国内外に根強く残っており、また、原材料の調達や流通のサプライチェーンがまだ完全な状態ではないことなどから、生産が本格軌道に乗り切れていない産業も存在する。
福島に住む人々が将来にわたって安心・安全に生活を営むことができるよう、帰還に向けた各種環境整備や生活再建・自立に向けた支援に引き続き取り組むとともに、風評被害の払拭や産業の再生・活性化、モニタリングポスト周辺や生活する家屋周辺での放射線線量に関する情報提供や定期的な健康診断など、多岐にわたる課題に的確に対応していく必要がある。
(4)震災からの復興・再生はわが国の最重要課題
連合は、東日本大震災からの復興・再生をわが国の最重要課題と位置づけ、2011 年からの8年間、様々な機会を通じて取り組みを進めるとともに、政府、関係機関への要請を行ってきた。今後も同様の認識のもとで、連合本部、構成組織、地方連合会が一体となって震災からの復興・再生に取り組んでいく。
2.今後の復興再生に向けた政策の柱
引き続き、東日本大震災からの復興・再生をわが国の最重要課題と認識する中、被災者の生活再建、被災地の産業再生と雇用創出の取り組みを一層強化するとともに、福島における除染実施後のフォローアップを含めた環境の回復と安心・安全のまちづくりを加速する必要がある。また、女性、障がい者、高齢者等、生活者の多様な意見を反映させた防災・復興は欠かせない。そのために、以下の6 項目を柱に東日本大震災からの復興・再生の着実な推進をはかる。
- 復興財源の確保および被災自治体への継続的支援
- 被災地域の雇用のミスマッチ解消につながる職業訓練の充実と雇用の確保、復興事業における労働安全衛生対策の強化
- 防災性が高く、社会保障サービスの提供体制が確保された「ひとが中心のまちづくり」の実現
- 放射性物質により汚染された廃棄物・表土の迅速な処理と除染実施後のフォローアップ
- 放射性物質の影響が懸念される地域・産地で生産された農水産物・加工食品に関する安心・安全の確保
- 安心して学び遊べる教育環境の整備
1.復興財源の確保および被災自治体への継続的支援
- とぎれのない震災復興をはかるべく、復興・創生期間(2016年度~2020年度)における復興財源を確実に確保するとともに、被災自治体の財政状況にきめ細かく配慮した予算措置をはかる。また、復興の進捗等のチェックを通じて、予算が適正に執行されていることを確認する。
- いまだに復興・再生への課題が山積する状況を踏まえ、「復興・創生期間」後の復興財源や2020年度末の復興庁廃止後の後継組織のあり方などについて、早急かつ具体的な検討を行い、必要な措置を講じる。
- 被災地域の特性を活かし、農林漁業の6次産業化の推進や、医療・介護分野、再生可能エネルギー分野などの成長産業の育成、観光産業における需要喚起施策など、複合政策を推進する。
- 中小企業等のグループで融資を受ける補助金制度(中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業)を継続するとともに、より利用しやすい制度とすべく、手続きの簡素化・効率化に取り組む。
- 被災地における人口減少対策として、UJIターンを促進するとともに、起業や企業誘致などに対する必要な支援を行う。
- 国内外の風評払拭に向け、「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」にもとづき、政府が主体となった広報活動による正確で分かりやすい情報発信、アジア各国を中心とした諸外国への働きかけによる輸入規制の緩和・撤廃の実現など、風評対策を強力に進める。
- 震災の記憶を風化させないために、 被災地の現状や復興に向けた活動等を内外に発信するとともに、震災語り部の育成や震災遺構の保存などに対する支援を行う。
- 復興・再生に必要な地域の行政機能を回復し、住民のニーズに対応するため、被災自治体における専門的分野に対応できる職員の配置や、適切な要員の確保など必要な措置を講じる。また、被災自治体の人材確保を支えるため、震災復興特別交付税措置を継続・強化する。
- 防災集団移転元地について、土地利用計画策定に必要な土地に関する取得要件を緩和するなど、市町村による利活用の取り組みを支援する。また、復興に必要な区画整理における土地所有者不明時の手続き簡素化など特例措置の法整備を求める。
- 生活支援相談員等による被災地における生活支援・相談活動を行う社会福祉協議会や、NPOなど中間支援組織の体制強化に向け、補助金など各種支援のさらなる充実を求める。
- 福島第一原子力発電所事故からの復興・再生に向けて、国内外の原子力研究機関と連携した事故の収束および放射性物質の除染を早期かつ着実に進めるとともに、モニタリングポスト周辺や生活する家屋周辺での放射線線量に関する情報提供や定期的な健康診断の実施などを求める。
2.被災地域の雇用のミスマッチ解消につながる職業訓練の充実と雇用の確保、復興事業における労働安全衛生対策の強化
- 被災地経済の早期復興、地域の雇用創出の核となる事業への雇用支援措置の継続などを通じ、質・量ともに十分な雇用を確保する。
①特定求職者雇用開発助成金(被災者雇用開発コース)の継続などにより、被災した離職者や被災地域に居住する求職者の就職を支援する。
②事業復興型雇用確保事業については、被災地における雇用創出の状況などを踏まえ、必要に応じて事業期間を延長する。
③被災者の自立支援に向け、住宅補助制度(住宅の現物給付または家賃補助)、就労支援のための融資制度などの拡充をはかる。
- 雇用のミスマッチ解消に向けて職業訓練メニューや公共職業安定所(ハローワーク)の人材確保対策コーナーの拡充をはかるとともに、労働局や公共職業安定所(ハローワーク)が地方自治体と連携して就職支援体制を強化する。
- 復興計画を着実に推進し、地元雇用を創出する。
①復興計画の担い手となる労働者に対して職業訓練の必要がある場合は、国がその職業訓練を支援する。
②公共事業を発注する際は、単に価格競争入札を行うのではなく、被災地域の労働者の雇用を優先するとともに、公契約基本法の考え方をふまえ、労働基準や労働安全衛生基準の遵守状況などを要件化する。
③復旧・復興事業において必要とされる資格・技術(建設機械・大型自動車運転免許など)を習得するための公共職業訓練・求職者支援訓練の周知を徹底する。
④有期労働契約の求人が多い復旧・復興事業の終了後、労働者の安定的な就労への移行が円滑に進むよう、医療や介護など、地域の雇用創出の核となる事業に関連した訓練メニューを強化する。
⑤復旧・復興事業に従事する要員が不足している地方自治体への人的支援を強化する。
⑥低賃金による人手不足等を理由とする安易な外国人労働者の受入れは行わない。
- 復旧・復興事業に際してのアスベスト・危険有害物質のばく露、過重労働などを防止するための、労働安全衛生教育および労働災害防止対策を徹底する。
①労働基準、労働安全衛生基準が遵守されるよう、指導・監督を強化する。また、現行基準の緩和は行わない。
②復旧・復興事業に従事する労働者の過重労働を防止するため、労働安全衛生法に定める産業医との面接指導の実施、労働時間の管理を徹底するなど、企業への指導・監督を強化する。
③復旧・復興事業における高所からの墜落防止、重機災害の防止などの労働安全衛生管理や、未熟練労働者に対する労働安全衛生教育を徹底する。
- 福島第一原子力発電所の廃炉作業に従事するすべての労働者について、離職後も含めた被ばく線量の管理徹底、過重労働防止のための十分な交替要員の確保、熱中症対策や墜落制止用器具の適切な使用による転落防止など、労働安全衛生・健康管理対策を強化する。
①作業に従事する労働者の被ばく線量については、電離放射線障害防止規則(電離則)に則って管理を徹底するよう指導を強化する。特に、内部被ばく防止策を徹底するよう指導・監督する。
②電離則に規定された特別教育を、作業に従事するすべての労働者に実施するよう指導・監督する。
③放射線被ばくについては、離職後を含めた長期的な被ばく線量管理にもとづく長期的な健康管理が重要であるため、緊急作業従事者の被ばく線量、健康診断結果などの情報のデータベース化による健康管理に加え、緊急作業に従事しなかった労働者についても、一定量以上の放射線を被ばくした場合には長期的な健康管理の対象とする。
④作業に従事するすべての労働者に対する、保護具の適切な装着、健康診断の受診を徹底するとともに、熱中症対策や作業環境の改善、メンタルヘルス対策にも万全を期すよう指導・監督する。また、国としても必要な援助を行う。
⑤電離則に規定された被ばく線量の限度超過により、一定期間原発業務に従事できなくなる労働者に対する、解雇などの不利益な取り扱いがないよう、企業への指導を徹底し、当該企業による配置転換や職業訓練、転職支援などに対して、必要に応じて国としての助成を行う。
- 18歳未満の者や外国人技能実習生の除染業務就労や、偽装請負や違法派遣などの労働法令違反がないよう、指導・監督を強化する。国が発注する除染などの業務において、下請を含めたすべての労働者に特殊勤務手当(除染手当)が確実に支払われる仕組みを早急に構築する。また、除染手当の中間搾取を行っている業者などに対する指導・監督を強化する。
- 除染特別地域等およびその周辺で働く労働者に対する安全衛生対策を強化する。
①一定の放射線量を超える環境下で働く労働者に対し、特別教育、保護具の適切な装着、被ばく線量の適切な管理、健康診断の受診など、除染電離則の遵守を徹底する。
②上記以外の場合であっても、労働者の安全確保のため関連3ガイドライン(除染等業務ガイドライン、特定線量下業務ガイドライン、事故由来廃棄物等処分業務ガイドライン)の遵守を徹底する。
- 原発事故収束および廃炉作業完了までには長期間を要し、多数の労働者が従事することから、放射線量の状況や健康への影響などに関する正確な情報を、政府として一元的に収集・把握し、速やかに開示する。
- 原子力規制委員会「放射線審議会」に委員として労働災害の専門家を加えるとともに、その審議状況を定期的に労働政策審議会安全衛生分科会に報告する。
3.防災性・環境性能が高く、社会保障サービスの提供体制が確保された「ひとが中心のまちづくり」の実現
- 電気・ガス・上下水道・情報通信などのライフラインなどの基幹設備や管路の耐震化を進め、災害時におけるバックアップ機能を充実させる。
- ハザードマップや集団移転・高台居住などのまちづくり計画を踏まえ、医療・介護・教育・交通などの機能を集約した、防災性が高くひとに優しいまちづくりを推進する。
- 仮設住宅から災害公営住宅への移転を進めるため、災害公営住宅の管理6年目から段階的に縮小され11年目で通常家賃となる家賃低減措置を拡充し、家賃負担の軽減をはかる。災害公営住宅への移転を進めるにあたっては、グループでの入居を促したり、集会施設を併設したりするなど、新たなコミュニティを構築しやすい対策を行う。
- 独居高齢者の増加や地域コミュニティの希薄化などにより、要介護状態の悪化や孤立死が発生することのないよう、アウトリーチ型の見守り機能や相談体制の確保に向けた支援を強化する。また、居住地にかかわらず被災者の健康対策や心のケア対策を継続するとともに、被災者が差別を受けずに地域で暮らせるよう住民への意識啓発を行う。
- 「福島再生加速化交付金」を継続し、避難指示解除が見込まれている地域の避難住民が早期帰還・定住を実現できるよう、安心・安全な生活拠点形成のための対応を着実に進める。
- 被災地で安心して医療・福祉・介護を受けられるようにするため、サービスを担う人材の養成・定着に資するよう、地域枠を活用した養成の促進や、住宅の確保など生活基盤への支援策を継続する。特に福島第一原発事故の影響で人材確保が困難な地域においては、地域包括ケアシステムのモデル事業を積極的に実施するなど、安心してくらし続けられるまちづくりに向けた支援策を強化する。
4.放射性物質により汚染された廃棄物・表土の迅速な処理と除染実施後のフォローアップ
- 放射性物質により汚染された廃棄物や除染後の表土などの処理について、地元・近隣住民・地方自治体の合意を得つつ、中間貯蔵施設など処理に必要な施設の整備を進め、仮置き場・仮々置き場に山積している残土を含め迅速に対応する。また、大量の残土などを処理施設に輸送する際には、通学時間や渋滞時間帯を避けるなど、地域住民や一般の道路利用者への影響を抑えつつ、安全を確保する。
- 現地の復興作業に従事した車両や機械設備類の除染と、当該機材の除染完了後の線量検査などに対し必要な支援を行う。
- 帰還困難区域を除く面的除染が完了した区域については、住民の安心・安全の確保に向け、継続的に線量の測定を行うなど、除染実施後のフォローアップを行う。
5.放射性物質の影響が懸念される地域・産地で生産された農水産物・加工食品に関する安心・安全の確保
- 放射性物質の影響が懸念される地域・産地で生産された農水産物や食品に対し、法定による生産・出荷時の検査体制を維持するための地方自治体等への公的補助を継続し、検査結果にもとづく適切な流通管理を通じて食の安心・安全を確保する。
- 放射性物質の影響が懸念される地域・産地で生産された農水産物や食品を取り扱う流通・販売事業者において、事業規模にかかわらず広く放射性物質の検査体制整備・強化がはかられるよう公的補助を行い、風評被害の回避を進める。
6.安心して学び遊べる教育環境の整備
- 被災による心的ストレスを抱える子どもや、特別な配慮を必要とする子どもにきめ細かな支援を行うため、養護教諭の未配置校への配置および配置校への複数配置を行う。また、スクールカウンセラーおよびスクールソーシャルワーカーを常勤配置する。
- 福島県において、運動不足に伴う子どもの肥満傾向や体力低下が続いていることから、「福島再生加速化交付金」を継続し、子どもたちの運動機会を確保するため、運動施設の整備を進める。
- 子どもたちが安心して学べるよう、保育料や入園料、小中学生に対する学用品費や給食費の援助など、「被災児童生徒就学支援等事業交付金」による教育費に関する公的支援を継続する。
1.現状に対する基本認識
(1)日本の経済社会の現状と課題
日本経済は、景気の回復局面が続いており、2019年1月には戦後最長の景気拡大期間を更新したとされている。また、2017年度の企業収益は過去最高となり、有効求人倍率や完全失業率といった雇用指標も良好な水準で推移している。それにもかかわらず、働く者の多くは景気の回復を実感できていない。
連合も2014春季生活闘争から毎年賃上げを実現し、雇用者報酬総額は増えているものの、実質賃金の伸び悩みが続いている。税や社会保険料の負担の増加などもあり、勤労者世帯の実質可処分所得は景気回復前とほぼ変わらない水準で推移している。また、非正規雇用で働く労働者数の増加をはじめ、雇用の流動化と不安定化、中間所得層の地盤沈下、貧困の固定化といった格差が深刻化し、男女間格差の改善も遅れている。
加えて、少子化を伴いながら急速に高齢化と人口減少が進み、とりわけ全人口に占める生産年齢人口の割合が大きく減少しているため、労働力不足がすでに不可避かつ継続的になっており、人手不足感が年々高まりを見せている。また、地域社会や家族の支え合い機能の弱まりと相まって、社会保障が担う機能の重要性は増しているが、国と地方の厳しい財政状況は地域における生活の維持・向上と社会保障の持続可能性に暗い影を落としている。
さらに、第4次産業革命をはじめとする技術革新の加速化は、多大な経済効果と生活者の利便性向上といった期待も大きい反面、従来型職種における雇用の大幅減少や個別化による格差拡大の可能性が危惧されている。また、温暖化をはじめとする気候変動や災害の激甚化、グローバル経済下における諸課題とあわせて、多くの国民が将来に対する大きな不安を抱えている。
これらの様々な課題に対し、経済社会がどのような影響を受け、今後どのような対策が必要なのか、持続可能性と包摂性を考慮した中長期的な観点からの政策とその実現が求められる。
(2)健全な議会制民主主義と二大政党的体制の実現に向けて
2012年12月に発足した第2次安倍政権は、「大胆な金融緩和」「機動的な財政出動」「民間投資を喚起する成長戦略」のいわゆる三本の矢からなる経済政策方針を掲げ、その後、「GDP600兆円」「希望出生率1.8」「介護離職ゼロ」の新三本の矢、一億総活躍社会の実現、働き方改革など、これまでの政策運営の総括もせずに新たな政策を打ち出したが、実体経済の改善には総じて結びついておらず、地方経済にも波及していない。
また、現政権においては、官邸に過度に権力が集中し三権分立のバランスが崩れた結果、民主主義のプロセスが蔑ろにされる場面が散見されている。加えて、公文書の改ざん・隠蔽や裁量労働制のデータ問題、毎月勤労統計調査の不正問題などに象徴されるように、国会の行政監視機能も著しく低下している。こうした行政府や立法府の状況は、有権者のさらなる政治離れを招きかねず、そのためにも、行政の信頼性・透明性の確保や政治改革の断行は急務である。
今後、社会の不確実性が増す中で、数々の課題に対処していくためには、多様な国民の声を代表する国会が熟議を尽くし、社会的合意形成をはかるプロセスが求められる。そのためにも、与野党が党派を超えて行政監視機能も含めた国会の役割を正常化させ、健全な議会制民主主義を取り戻すとともに、野党においては働く者・生活者の視点から将来の社会像を見据えた政策を国民に示し、政策で切磋琢磨する緊張感ある二大政党的体制の構築をめざす必要がある。一方、国民一人ひとりが主権者たる意識をもち、民主主義のさらなる成熟をめざさなければならない。
(3)「働くことを軸とする安心社会 -まもる・つなぐ・創り出す-」へ向けて
連合は、「働くことを軸とする安心社会」-働くことに最も重要な価値を置き、誰もが公正な労働条件の下、多様な働き方を通じて社会に参加でき、社会的・経済的に自立することを軸とし、それを相互に支え合い、自己実現に挑戦できるセーフティネットが組み込まれている活力あふれる参加型社会-をめざしている。加えて、持続可能性と包摂性を基底に置き、年齢や性別、障がいの有無、国籍などにかかわらず多様性を受け入れ、互いに認め支え合い、誰一人取り残されることのない社会、すなわち「つづく社会・つづけたい社会」の実現をめざしている。
アベノミクスの、強者をより強くし、自然とその富が全体に浸透するというトリクルダウン型の政策理念のもとでは、この目標達成は困難であり、すべての働く者のくらしの底上げ・底支え、格差是正、貧困の撲滅を着実に前進させるボトムアップ型の政策こそが求められている。
また、人口減少・超少子高齢化や第4次産業革命をはじめとする変革の波に対応するべく、人的投資の促進やワークルールの改善、セーフティネットの充実、多様な働き方を幅広く選択できる雇用システムの確立などを通して、ディーセント・ワークの実現と同時に、多様な「人財」の活躍とそれを互いに許容する包摂的な社会の構築に資する政策を推し進めていく必要がある。
2.2020~21年度の2年間に取り組むべき課題
(1)誰もが働くことの安心感を抱くことができるためのワークルールとディーセント・ワークの確立
公正かつ良好な労働条件のもとで安心して働き続けられることは、すべての国民に保障されている当然の権利である。多様な価値観を持つ労働者の活躍を促進するために「多様で柔軟な働き方」が進められているが、そこで生み出された富の人材への分配の不均衡を放置したままに、不十分なワークルールの下での労働や、やむをえず兼業・副業をせざるをえない低所得・長時間労働の拡大などを招くことは許されない。雇用形態にかかわらず、均等待遇の実現や、労働時間規制や解雇ルールなどの働く者の健康・安全や雇用を守るためのワークルールを維持・強化させる必要がある。
こうしたワークルールが徹底され、すべての働く者に保障された上で、子育て・介護と仕事の両立や、ライフスタイルに合わせた多様な働き方が可能となるよう、ディーセント・ワークの確立をめざす必要がある。
さらに、若者や女性、障がいを持つ人々などに対する就労支援、職業能力開発支援などを通じて、すべての人々の社会参画を促し、意欲と能力を引き出すことができる環境整備が必要である。また、性別や雇用形態、家計経済状況などによる所得や就業機会、教育機会などの格差の是正に向けて、参加保障と重層的かつトランポリン型のセーフティネットの一層の強化が求められている。
(2)分厚い中間層の復活に向けた適正な分配の実現
日本社会を再び活力あるものにしていくためには、日本において最も重要な資源である人的資源について、その可能性を拓き、育て、自ら働いて人間らしい生活を営むことができる「中間層」として再び厚みを増し、活性化させていくことが必要である。最貧層への対策のみならず、幅広い低所得者対策を考えるべきである。
そのためにも、質の高い雇用の創出、最低賃金も含めた労働処遇条件の向上、税による所得再分配機能の強化などを通じて、ワーキングプアなどの貧困の解消や格差是正、くらしの底上げ、底支えを確実に前進させなければならない。また、再分配においては、経済社会の支え手となる現役世代、特に低所得層において、自身のキャリア形成や子どもの教育などの人的投資を十分に行えるよう支援することを重視した取り組みが必要である。
(3)全世代支援型社会保障制度のさらなる構築に向けて
高齢化の進展や世帯人数の減少、非正規労働に従事する人などの増加が見込まれる一方、家族や地域、職域における支え合い機能が低下する中、社会保障に対するニーズは今後これまで以上に高まる。他方、社会保障制度は少子高齢化の進行により持続可能性の確保という大きな課題に直面している。しかし、持続可能性の確保のために給付抑制と負担増を進めるだけでは、国民の将来不安はむしろ高まりかねない。
団塊ジュニア世代や就職氷河期世代が高齢期を迎える2035年に向けて、社会保障と税の一体改革後の社会保障制度の新たなグランドデザインとその実現に向けた道筋を、労使、国民の社会対話によりつくり上げるとともに、国と地方の財政健全化に向けた抜本策を明示していくことが必要である。
そして、真の「皆保険・皆年金」を確立することによりすべての人に医療・介護・年金が保障され、さまざまな生きづらさを抱える人に必要な支援が提供されるよう、「全世代支援型」社会保障制度の再構築をさらに推し進め、持続可能な共生社会の実現をめざすことが必要である。
(4)持続可能で包摂的な社会の実現に向けて
地球規模の課題である温暖化をはじめとする気候変動、大気汚染などの自然環境破壊や資源不足は、人類の生存可能性と社会の持続可能性にとって喫緊の課題であり、近年の自然災害の大規模化、激甚化への影響も指摘されている。
グローバル経済下での課題である、貧困・格差、分断社会などの課題への対応も含めて、SDGsの目標達成は重要であり、これまで以上に幅広く様々な主体と積極的に連携し、持続可能で包摂的な社会の実現に向けて取り組む必要がある。
3.政策・制度要求の7つの柱
勤労者が安心、安全を実感し、安定したくらしを営むためには、連合がめざす「つづく社会・つづけたい社会」を実現することが不可欠である。そのためには、上記のような雇用と生活の諸課題の一つ一つを解決していかなければならない。2020~21年度の2年間は、「つづく社会・つづけたい社会」の実現目標とした2035年を見据えながら、足もとの社会・経済情勢や現状の問題点を踏まえて、横断的な項目(男女平等政策、中小企業政策、非正規雇用に関わる政策)を含む29分野の取り組み課題について、以下の7つの項目を柱とした政策の実現・前進をめざす。
(1) 持続可能で健全な経済の発展
持続可能で健全な経済の発展のためには、包摂的な社会の構築を進め、社会を支える分厚い中間層の復活と経済社会の自律的成長を取り戻すことが不可欠である。そのために、経済政策では、経済成長や雇用の創出・安定化、生活・将来不安の解消に資する施策への優先的・重点的予算配分、為替レートの適正化・安定化や持続的な成長軌道への復帰につながる適切な経済財政・金融政策、財政健全化に向けた財政構造の抜本改革を実施する。また、税制では、所得再分配機能の強化や消費税率引き上げの着実な実施等により、「公平・連帯・納得」の税制改革を実現し、くらしの底上げ・底支え、格差是正をはかる。産業政策では、新たな内需型産業の拡大・創出、外需の取り込み、中小企業支援を進めるとともに、イノベーションによる新たな価値の創出に向けた研究開発、設備投資、人材育成への支援などを通じて、持続的な産業の発展、安定的な雇用の確保につなげていく。地域活性化政策では、地域産業の振興と安定的な雇用創出のため、事業活動を一体的に支援する環境の整備が求められる。そのために産官学金労言のネットワーク構築と、それらを活用した地域の自主性・主体性が発揮されるまちづくりを進める。産業やくらしに密接に関連する資源・エネルギー政策については「連合の新たなエネルギー政策について」(2012年9月中執確認)を踏まえて対応する。
(2) 雇用の安定と公正労働条件の確保
雇用の質の劣化や労働条件の低下などにより格差が広がり、労働者の二極化が進む今日、労働者保護ルールの維持・強化はより重要性を増している。すべての働く者の労働時間を把握したうえで長時間労働を是正するとともに、あらゆるハラスメントの根絶に向けて、ハラスメントの禁止規定を含めた実効性ある対策を講じる。また、正規か非正規かという雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇を確保するとともに、高齢者や障がい者にも配慮した職場環境の実現に向けた取り組みを推進する。加えて、請負など雇用関係に依らない働き方の拡大に対して、労働者保護のセーフティーネットからこぼれ落ちてしまう就業者に対する適切な保護が必要である。社会の変化や流れを的確にとらえつつ、すべての労働者のディーセントワーク実現の観点から公正な労働条件を担保すべく法の整備と遵守に取り組んでいく。
(3)安心できる社会保障制度の確立
急速な高齢化と少子化、人口減少、地域の過疎化、地域や家族、職域による支え合い機能の低下、生活と仕事の両立の社会的要請の高まりなどにより、社会保障に対する需要はこれまで以上に高まっており、また、今後さらに高まることが見込まれる。社会保障制度が将来にわたってくらしの安心の基盤としての機能を発揮するためには、社会保障制度の機能強化が必要である。また、医療・介護・福祉等のサービスが確実に利用できるためには人材確保が極めて重要である。一方で、持続可能性の確保の課題も直視しなければならない。そのため、医療・介護・保育等を必要とするすべての人が負担可能な費用負担により確実に利用できるよう、人材など提供体制の確保と、財政基盤の強化をはかる。また、だれもが高齢・障がい等のリスクに対応した所得確保が保障されるよう、基礎年金の生活保障機能の強化とあわせ、すべての雇用労働者に対する社会保険(健康保険・厚生年金)適用の徹底、企業年金の普及を進める。
(4)社会インフラの整備・促進
社会インフラについては、人口減少・超少子高齢社会を迎える中、社会構造の変化に対応しつつ、環境負荷低減への対応や激甚化している災害への備えを強化するなど持続可能な社会基盤を構築していくことが重要である。そこで、国土・住宅政策では、地域の特性や住民生活に配慮するとともに、既存社会資本の長寿命化・老朽化対策に重点をおいた社会資本整備をすすめる。また、交通・運輸政策では、最新技術の活用等により一層の安心・安全を確保するとともに、環境負荷低減への対応、生活基盤としての地域公共交通の維持・再整備を行っていく。ICT政策では、災害時に強く、生活の質の向上に資するICT技術の利活用を推進するとともに、近年重要性が高まっているサイバーセキュリティ対策を強化する。
(5)くらしの安心・安全の構築
行き過ぎた経済合理性の追求がくらしの安心・安全にさまざまな歪みをもたらした反省や、グローバル化の一層の進展を受けて、SDGsがめざす「環境と社会・経済の統合的向上による持続可能な社会の実現」に向けた取り組みを進めていく。環境政策では、気候変動への対応として、各種温室効果ガスの削減と温暖化への適応、さらに、それら温暖化対策による雇用など地域社会・経済への負の影響を最小化するための「公正な移行」の具現化に取り組む。食料・農林水産政策では、食料自給力の向上による食の安全保障を強化する。加えて、供給者の担い手の確保とともに、6次産業化の推進によって、農林漁業の経営基盤の再生と新たな雇用創出をめざす。消費者政策では、消費者の安心・安全の確保ならびに倫理的な諸費者行動の促進の観点から、悪質商法被害の防止・救済、消費者教育等を推進するとともに、食の安全について科学的根拠にもとづいた対応をすすめる。防災・減災政策では、これまでの甚大な自然災害の教訓を活かし、ソフト・ハード両面からの体制整備を強化していく。
(6)民主主義の基盤強化と国民の権利保障
民主主義の基盤を強化し、国民一人ひとりの権利を保障していくことは、経済社会の中長期的な安定のためには欠かせない課題である。その解決のために、政治改革では、国民の立場に立った選挙制度、政治不信を払拭するための実効性ある政治資金規制、多様な意見の反映と充実した審議が行われる国会・地方議会へと改革する。行政・司法制度改革と地方分権改革では、国と地方の役割や権限の見直し、財源保障の充実を通じ、地域の自主性を尊重した公共サービスの提供体制を拡充するとともに、その前提となる公務員の自律的労使関係を確立し、民主的で透明・公正な公務員制度改革を実現する。また、手続きの透明性や国民への説明責任が担保された国民にわかりやすい司法制度をめざす。人権・平等政策では、人権侵害からの救済と差別の撤廃、性の商品化やDV、児童虐待などのあらゆる暴力からの人権保護を強化する。教育政策では、すべての子どもの教育機会を保障するため、社会全体で子どもたちの学びを支え、将来を担う人材を育成するための政策を強化する。
(7)公正なグローバル化を通じた持続可能な社会の実現
平和で安定した国際社会は、世界の労働者が安心・安全な生活を維持するための前提条件である。また、平和、人権、自由、民主主義、独立を基盤とし、社会対話を通じて世界中のすべての労働者がディーセント・ワークを確保できる公正な社会の実現が求められている。そのため、軍縮、核兵器廃絶など国連の取り組みの強化、多国籍企業における中核的な労働基準の遵守、未批准のILO中核条約の早期批准、SDGs達成に向けた取り組みの強化を通じて、すべての労働者にディーセント・ワークの機会が提供され、さらに持続可能で包摂的な国際社会の構築をめざす。
以上
経済政策<背景と考え方>
- (1)日本経済は、通商をめぐる諸外国の動向や相次ぐ自然災害など国内外における懸念要因を抱えつつも、緩やかな景気回復基調が続いてきたが、2018年末頃から陰りが見える。政府の経済政策の中心であるいわゆる「アベノミクス」では、長らく日本経済を苦しめてきたデフレからの脱却をめざして、日本銀行によるマイナス金利政策を伴う異次元の金融緩和政策等が進められてきたが、2%の物価安定目標は度々先送りされた後に達成期限を掲げることをやめ、政策の手詰まり感は濃くなりつつある。デフレの大きな要因とされてきた需給ギャップは、2017年以降プラス基調に回復したが、足もと2018年10-12月期には▲0.2%のマイナスに転じ、再び供給過剰の状況にある。このような状況が続けば、企業の設備投資意欲が減退するばかりか、生産縮小にともなう雇用の減少・賃金の停滞をもたらし、そのことがさらに国内需要の低下につながり、再びデフレが蔓延するといった悪循環に陥ることとなる。
- (2)最近の日本経済を俯瞰すると、2017年度の実質GDP成長率は、前年度比1.9%増と、3年連続のプラス成長となった。2017年は各四半期毎でもプラス基調を維持したが、2018年に入ると、1-3月期は▲0.3%。4-6月期は2.2%、7-9月期は▲2.5%、10-12月期は1.6%(いずれも季節調整済前期比年率)と、景気は減速している。これは、自然災害による供給制約の影響に加え、海外経済の回復ペース鈍化に伴い2017年に企業収益を大きく押し上げた輸出が伸び悩んだこと、景気の牽引役となってきた設備投資の伸びが一服したことが要因としてあげられる。先行きについては、消費税率引き上げ、東京オリンピック・パラリンピック開催によって景気の振幅が大きくなることが見込まれるが、オリンピック関連需要の一巡後には景気の停滞色が強まることが指摘されている。また、貿易摩擦の激化に伴う不確実性の高まりが、設備投資を更に下押しするリスクも抱えている。一方、これまでの緩やかな景気回復を背景に安倍政権により進められた政策運営のもとで、一部の上位層や大企業が富める一方で、不安定雇用は増加し、格差・貧困問題は深刻化している。加えて、危機的なレベルに悪化している国の財政状況を背景に、社会保障制度の持続可能性に対する国民の将来不安は一層強くなっている。そのような中で、社会全体の「底上げ・底支え」「格差是正」を確実にし、国民の将来不安の払拭を進めなければ、安定的・持続的な経済成長は到底望めない。
- (3)これらの課題解決のためには、強者だけが生き残るのではなく弱者も包み込み成長していくという包摂的な社会の構築を進める必要がある。そして、東日本大震災からの復興・再生を着実に推進するとともに、わが国経済を支える人的資本を強化するための積極的雇用政策と、くらしの安心を支える積極的社会保障政策の一体的推進、そのための安定財源の確保や再分配機能の強化を通じ、内需を活性化する必要がある。社会を支える分厚い中間層の復活と経済社会の自律的成長を取り戻し、連合がめざす「働くことを軸とする安心社会」の実現をはかるためにも、金融政策と経済・財政政策が一体となった政策運営が必要である。
1.安定した経済成長と公正な配分を最優先とするマクロ経済政策を実施するとともに、国民にとって安全で安心・信頼できる金融システムを構築する。
- (1)政府は、日本銀行の独立性・健全性を尊重しつつ連携し、為替レートの適正化・安定化および持続的な成長軌道への復帰につながる適切な経済財政・金融政策として、以下の対応を行う。
①人口減少・超少子高齢社会においても実質2%程度の経済成長をめざし、雇用創出・安定化、消費回復・内需拡大につながる経済活性化策を実施する。
②海外における債務危機や新興国の急激な成長鈍化等に起因する世界的な景気減速、世界各地で発生する地政学的問題といった外的リスク要因に備えるとともに、万が一、それらが顕在化した場合には日本経済への影響を抑制するために機動的・弾力的な経済財政・金融政策を行う。
③経済財政見通しを行う政府から独立した組織を設置し、客観的な見通しを前提にした政策立案を行う。
④2013年から始まった大規模な量的質的金融緩和により、巨額の国債購入が財政規律を弛緩させる要因となっていること、マイナス金利政策を含め金融機関の収益を悪化させるなどの副作用が目立つようになり、金融システムの不安定化が懸念されること等から、日銀は、デフレへの回帰と急激な金利上昇を回避しつつ、平時型の金融政策運営への「出口」に向かうことを検討する。
⑤国民生活や貿易財の交易条件に過度な悪影響をおよぼすような実体経済からかけ離れた急激な為替変動に対しては、G7各国と連携をはかりつつ、機動的かつ強力な市場介入を実施する。
- (2)金融機関が健全かつ適正な事業を運営し、預金者等の消費者利益を保護するとともに、地域経済を支える中小企業等に対してきめ細やかな融資判断を通じた資金供給を行うことができるよう、政府は、適切な監督と公的なバックアップを行う。
①金融機関の破綻への対応を強化するため、消費者保護の観点から、セーフティネット制度の充実をはかる。その財源は、事業者負担を基本としつつも、システミックリスクなど国民生活への影響を回避するため、政府が適切に公的資金を注入できるようにする。また、破綻処理にあたっては、取引先や従業員の雇用に十分配慮するとともに、経営健全化計画の確実な履行、経営者責任や株主責任を問う。
②政府は、金融機関の再編については、個別金融機関の主体性を尊重し、経営体質の強化と地域経済の活性化を重視した監督を行う。
③政府は、金融機関の破綻懸念先以下の債権への引当金に対する無税償却制度の導入や「銀行等保有株式取得機構」の活用などにより、金融機関の健全性をはかる。
④政府は、金融機関によるきめ細やかな融資判断やコンサルティング機能の強化、専門人材の育成など、中小企業やベンチャー企業の経営支援につながる政策の推進をはかり、事業育成の視点に立った支援をおこなう。
⑤政府は、信用保証制度枠の拡大を通じ、民間金融機関等による中小企業等への融資を促す。また、政府系金融機関は、地域の民間金融機関と協調のもと担保免除特例制度やDIPファイナンス(事業再生支援融資)を拡充するなど、中小企業等への事業融資強化、育成、支援、再生をはかる。
⑥政府は、中小企業やベンチャー企業が多様な手段を通じて資金調達ができるよう必要な環境整備を行う。一方で、投資家のすそ野を拡大する政策を実行する際には、投資家保護策や広報活動の充実をはかる。
⑦Fintech(注1)をはじめとした金融市場におけるICTやAIなどの進展を踏まえ、金融サービスの利便性の向上、セキュリティ対策の強化など国民が安全に利用できる制度を構築するとともに、利用者の保護や公正な競争条件の確保に向けて、金融機能ごとに同一の機能・リスクには同一のルールを適用するなど金融規制体系の再構築をはかる。また、金融機関やベンチャー企業などの連携と、双方の新たな事業展開に資する包括的な支援を行う。
⑧政府は、国民がライフステージに応じた金融経済教育を受けることができるよう、金融機関やNPOなどとも連携し、学校における教育の充実などをはかる。
⑨地域金融機関は、債務企業の「再生」「活性化」を最優先に据え、不良債権処理にあたっては、地域経済を支える中小企業等の役割や特性を十分に踏まえた上で、直接償却を多用することなく、間接償却も併用し、計画的に進める。(「地域活性化政策」参照)
⑩国・地方自治体は、地域金融機関が地域密着型金融としての役割を発揮し、産官学金労言の連携のもと事業再生や成長分野の育成、産業集積など雇用の創出に資する取り組みを推進するよう指導や支援を行う。(「地域活性化政策」参照)
- (3)政府は、国際的な連携もはかりつつ、金融資本市場の透明性を高め、労働者や国民生活に悪影響を与える投機的な資金の流れを規制する。
①政府は、金融危機につながる投機的な資産運用を防ぐため、運用成績を過度に反映する評価・報酬体系の是正に資するルール整備などを進める。
②政府は、金融機関への規制強化がシャドーバンキングへの資金のシフトを生まないよう、国際的な連携のもとで網羅的なルールづくりや監督強化を推進する。
③政府は、仮想通貨(暗号資産)に関する規制・監督強化を急ぎ、不正取引の防止・監視、預かり資産の保全、交換業者の財務内容開示等を含めた資金決済法や金融証券取引法の改正等によりルール・検査の厳格化を行う。
④政府は、機関投資家に対して「責任投資原則」「日本版スチュワードシップ・コード」や「持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則(21世紀金融行動原則)」の受入れを促すなど、責任投資の概念が広く浸透するよう取り組みを進め、責任投資に対する正しい理解のもと、個々の機関投資家が自らの投資判断においてESGを適切に考慮し非財務的要素を重視することを促す。
- (注1)Fintech ~主にICTを活用した革新的な金融サービス事業をさす。金融(Finance)と技術(Technology)を掛け合わせた造語。
2.政府は、雇用創出・安定化、社会保障制度の改革による生活・将来不安の解消、地域活性化・中小企業支援策の実施等の政策に重点を置き、内需主導による自律的な経済成長 を実現する。
- (1)新規産業・雇用を創出するために、将来にわたり特に発展が求められる分野(ICT、グリーン、ライフ、観光、サービス、農林漁業の6次産業化等)において、人材育成、技術開発、規制改革、予算・税制措置等官民の資源を集中投資する。(「産業政策」参照)
- (2)国・地方自治体は、「グリーン・ジョブ戦略」にもとづき、「グリーン」で「ディーセント」な雇用の拡大・創出が期待できる分野に重点的に投資を行うとともに、グリーン産業および構造転換をめざす産業に対し、技術的・財政的支援を行う。また、それら産業・雇用の転換に伴う「失業や労働条件の低下」に対し、社会対話を行いつつ、労働者の教育・訓練、再就職先の斡旋・確保、住宅の確保など、公正な移行措置を整備する。(「環境政策」参照)
- (3)求職者支援制度の訓練内容・訓練期間の拡充・強化、産業政策・雇用政策・教育政策と連携した職業能力開発施策の推進などにより、すべての働く者に対する職業能力開発施策と日本の成長と競争力を支える人材の育成を強化する。(「雇用・労働政策」参照)
- (4)多様な雇用・就業形態の労働者の雇用の安定と公正な処遇を確保するとともに、若年者・女性・高齢者・障がい者の雇用対策を強化する。(「雇用・労働政策」参照)
- (5)全世代支援型・すべての国民を対象としたセーフティネットへの機能強化を進めるべく、財源の確保、負担の分かち合い・所得再分配機能の強化など税制と一体となった社会保障制度改革を行う。(「社会保障制度の基盤に関する政策」参照)
- (6)地域における産官学金労言の連携のもと、ものづくり技術・技能の維持強化とその支援、人材育成強化とその支援、地域特性を活かしたまちづくりの推進など、地域連携を強化した地域経済・社会の活性化を進める。また、総合特区制度なども活用しさらなる活性化をはかる。(「地域活性化政策」参照)
- (7)金融機関が健全かつ適正な事業を運営し、預金者等の消費者利益を保護するとともに、地域経済を支える中小企業等に対してきめ細やかな融資判断を通じた資金供給を行うことができるよう、政府は、適切な監督と公的なバックアップを行う。(「経済政策」1.(2)参照)
- (8)政府は、協同組合の価値と役割・機能、政府の対応方針・行動指針を示した「協同組合憲章(仮称)」を制定する。
3.財政再建は、増税や一律的な歳出削減による財政赤字削減のみを先行させるのではなく、社会保障充実のための安定財源確保と中長期的な財政健全化を強く意識した財政構造の抜本改革を実施する。
- (1)政府は、自律的な経済成長をめざし、以下の点にもとづき、中長期的な財政健全化を進める。
①行財政改革と税制改革、および節度ある国債の発行により早期の「プライマリーバランス(注1)の黒字化」を達成した上で、高水準にある債務残高を中長期的に圧縮する。
②中長期的な財政再建・健全化をめざすうえでは、本格的な人口減少・超少子高齢社会に突入することを前提としながら、一律的な歳出削減を行うのではなく、税収基盤の強化を進めるとともに、社会保障、教育、環境、防災・減災、地域活性化など国民のくらしに直結した歳出項目へ予算配分を重点化する。そのために、社会保障と税の一体改革の着実な実現を通じて自動安定化機能を強化し、景気循環の影響を受けにくい財政構造を構築する。
③政府は、財政規律の維持・強化に向けて、補正予算編成も含めた年度予算全体の中での規律を厳格化する。そのために、中期財政フレームのような財政計画を策定する中で、新規国債発行や歳出額の上限を設けるなど、予算編成の枠組みをルール化する。
④歳入・歳出を含む行政監視機能の充実をはかるため、立法府への「日本版GAO(注2)」(行財政監視評価委員会(仮称))の設置も展望しつつ、国と地方の財政に関する将来推計や、政府の財政計画の監視・評価を行う内閣から独立した機関を設置する。
- (2)政府は、資産・負債両面からの視点による債務管理政策の充実をはかり、財政破綻に対する行き過ぎた懸念を払拭する。資産・負債の圧縮に際しては、不要な資産を適正に売却し債務を返済するとともに、資産の収益率と負債の調達金利とが見合うように、資産や負債の質を替える。資産については、金融資産や知的財産の運用を適正に行っていく。負債については、市場との親和性を高めた国債の発行計画を立て、資金調達コストを軽減する。また、国債管理と土地を除いた金融資産、知的財産、特許等の資産管理の機能を持つ組織の設置についても検討する。
- (3)政府は、財政投融資制度や特別会計についても、その財政活動を国民にわかりやすく明示するとともに、国会において透明性のある審議を行う。財政投融資制度は、民業補完を前提として、政府支援の必要性を終えた事業への融資・投資の廃止等抜本的な改革を進める。財投機関は、情報開示の促進と市場原理との調和をはかり、公的な役割を終える時期に合わせ、職員の雇用の場を確保しつつ廃止・縮小、民営化などを計画的に行う。特別会計は、仕組みを簡素化するとともに、経済や社会の環境変化に応じて毎年見直しを行う。
- (4)国と地方の役割分担を明確化し、地方自治体の自主性・自立性を高める地方分権を推進するために、政府・地方自治体は以下の諸施策を行う。
①国税と地方税の比率は、当面は社会保障と税の一体改革の進捗状況を踏まえて、国と地方の役割分担に応じた配分を進めつつ、将来的には少なくとも50対50 となるよう税源移譲を進める。
②地方交付税は、地方自治体間の財源の不均衡を調整し、すべての地方自治体が必要な公共サービスの一定水準を維持しうるよう財源を保障する制度であることから、政府は、基準財政需要額の算定にあたっては、地方自治体が参加する中で算定方法や交付税特別会計の予算・決算を決定し、その透明化をはかるとともに、効率的な行政事務を行うための算定方法の簡素化を進める。地方交付税の財源として、交付税の対象税目と地方への配分比率を拡大し、十分な交付税財源を確保するとともに、既存の国庫補助負担金制度について、公共事業等のための地方自治体の使い勝手の良い財源として国庫補助金の一括交付金化をはかるなどの改革を進める。このとき、社会保障や義務教育に係わる一般行政費国庫負担金は、一括交付金化の対象としない。
③地方自治体は、住民や地域の労働組合、NPO等、関係団体の参加のもとで、国または他の地方自治体が行うべき業務の仕分け、不要事業の廃止や民間への委託等を行い、行財政改革を進める。
- (5)公共事業について、一律的な事業量の削減を行うのではなく、地方の独自性と効率性の強化をめざし、国・地方自治体は以下の見直しや体制構築に向けた諸施策を行う。
①雇用創出、地域経済活性化および老朽化した社会インフラの再整備に資するもので、福祉型社会において不可欠なサービス部門や通信、防災、省エネ化などの生活基盤強化につながり経済効果も大きい事業を中心に重点化する。重点化にあたっては、雇用創出量を明示したうえで、必要なものは速やかに実行する。
②政府は、公共投資関係予算の効果検証を厳格に行い、不要事業を廃止するとともに、PPP(注3)・PFI(注4)による民間の資金やノウハウの活用も行いながら、投資効率を引き上げる。
③政府は、公共事業を地域の実情に即した地方自治体主導に改め、国の直轄事業は、地方自治体単独では実施が困難な広域事業や大規模災害の復旧事業、国際競争力強化のための産業基盤整備事業等に絞り込む。個別補助金は、地方の歳出に対する国の義務付けを縮小し、整理・統合する。
④国・地方自治体は、PFIも活用し、高齢者施設、病院、学校等、機動的かつ効率的な社会資本整備をはかる。また、事業の適用範囲や税制の軽減措置の拡大を行う。対象事業の選択にあたっては、公正・透明な手続きで行うことはもちろん、公共サービスの質の確保と適正な業務執行をはかる観点から、国や地方自治体が事業を行う場合とのコスト比較を義務づける。また、民間を活用する場合は、不当な価格競争に陥ることのないよう、事業者の選択方法についても公正性・透明性を担保したうえで、民間委託先従業員の適切な労働処遇条件の確保を要件に入れる。
- (注1)プライマリーバランス ~基礎的財政収支。国債など借入を除いた税収などの歳入から、過去の借入に対する元利払いを除いた歳出を差し引いた財政収支。
- (注2)GAO ~General Accounting Office の略。米国では、立法府内に設置され、議会の指示を受けて、行政に対する調査・提言を行っている。立法府が行政府の行った評価をチェックするとともに、行政府が評価し難い分野について評価を行う。分析・評価に関する専門的知識を活用するため、民間のシンクタンク、コンサルタント等の活用が求められている。
- (注3)PPP~Public Private Partnershipの略。公共サービスの提供に民間が参画する手法を幅広く捉えた概念で、「官民連携」とも呼ばれ、民間資本や民間のノウハウを活用し、効率化や公共サービスの向上を目指すものとされている。
- (注4)PFI~Private Finance Initiativeの略。PPPの代表的な手法の一つ。公共施設などの建設や運営などを民間企業の資金や経営能力、技術的能力を使って行う手法。
税制改革<背景と考え方>
- (1)わが国の経済社会は、人口減少・超少子高齢社会の到来、国民のライフスタイルの多様化に伴う共働き世帯や単身世帯の増加、雇用環境の変化に伴う非正規労働者の増加、第4次産業革命の進展など、大きく変化を遂げている。
しかし、わが国の税制は、これまでの個人・法人所得課税の税率フラット化、資産課税の軽課などによって、本来持つべき財源調達機能や所得再分配機能が低下し、経済社会の構造変化への対応力が弱まっている。国においては税収が一般会計の6割程度にとどまり、社会保障費をはじめとする歳出増を賄うことができず、国・地方の債務残高を累積させている。また、格差や貧困の固定化が社会の持続可能性に及ぼす影響が懸念される中、格差是正に資する税制の見直しも進んでいない。国民のライフスタイル、働き方、家族形態などに関する価値観の多様化、さらにはデジタル化による経済活動の変化を踏まえた課税の公平性や中立性の確保も課題である。 - (2)安倍政権は、この間の「骨太方針」において、経済社会の構造変化を踏まえた税体系全般にわたるオーバーホールを進めることを掲げ、とくに個人所得課税や資産課税については、所得再分配機能の回復や多様な働き方に対応した仕組みをめざすとしている。
しかし、この2年間に行われた税制改正を見ると、所得再分配機能の強化に向けた金融所得課税の強化などについては先送りされる一方で、所得捕捉格差の課題を残したまま給与所得控除から基礎控除への振り替えが行われるなど、小手先の対応が続いている。
消費税率の引き上げも2度にわたり延期されてきたが、持続可能な社会保障の安定財源確保のためにも2019年10月の税率引き上げは着実に行われるべきである。ただし、安倍政権が導入を決定した軽減税率制度は問題点を多く残したままであり、これに替わる真に効果的・効率的な低所得者対策が求められる。 - (3)税制改革の最優先課題は、引き続き、税による所得再分配機能の回復・強化である。とりわけ、基幹税の一つである所得税の財源調達機能と所得再分配機能を回復し、増加を続けている低所得層への対応をはじめ、くらしの「底上げ・底支え」「格差是正」をはかっていかなければならない。さもなければ、国民生活の安心・安定と持続可能な経済成長の実現は不可能である。また、地方分権推進・地域活性化や社会保障充実のための安定的な地方税体系の構築も重要課題である。
- (4)「税制改革基本大綱」を8年ぶりに改訂し、「税制改革構想(第4次)」として策定する。「公平・連帯・納得」の基本理念にもとづく税制改革の実現によって、格差を是正し、人々の暮らしや将来への希望を保障しうる社会保障・教育制度改革を税制面から支えていく必要がある。そのことを通じて、社会の分断を回避するとともに、給付と負担のバランスを回復させ、次の世代に持続可能で包摂的な社会を引き継いでいかなければならない。
1.政府は、納税者の理解・関心・納得に資する税制を実現する。
- (1)納税者の権利と義務をわかりやすく明示した「納税者権利憲章(仮称)」をつくるとともに、給与所得者に対しても、申告納税制度と年末調整制度との選択を認める。
- (2)行政手続きのデジタル化と税・社会保障の連携をはかるべく、マイナポータルを活用した「記入済み申告制度」の導入など、確定申告手続きの簡素化と利便性向上をはかる。
- (3)税のもつ意義・目的や主権者たる納税者の権利・義務についての租税教育を充実させ、学校教育の場で広く実施する。
- (4)税の使途に関する情報、中央・地方の財務の実態(債務残高など)、審議会や政党(とくに与党)における税制改正にかかわる議論経過の公開など、国民・納税者が税の使途を理解するのに必要な情報の開示を徹底する。
- (5)納税者の立場に立ち、裁判所への直接訴訟を認めるなど、不服申し立て制度を見直す。
- (6)税務通達を極力法令化するなど、通達行政の不透明性を是正する。
- (7)低所得者対策および有事における迅速かつ適切な給付のためのインフラとして、マイナンバー制度の活用により制度設計が可能となる給付付き税額控除を導入する。(注1)
- (8)「国税電子申告・納税システム(e-Tax)」と全自治体での「地方税電子申告サービス(eLTAX)」の一層の普及と利便性向上をはかるとともに、税制上のメリットを与える。
- (9)適正な税務執行をはかるため、ICTやAIの活用を進めることで所得把握や徴税業務の効率化をはかるとともに、必要な税務職員の人員数を確保し、その専門能力を高める。
- (10)報酬、料金等の支払調書について、本人への交付を義務づける。
- (11)公平な納税義務を確保するため、総収入申告義務の強化、脱税等の違反に対する罰則強化など、申告納税の環境を整備する。
- (12)各国と租税条約を締結し、租税に関する国際的な情報交換・監視体制を整備し、租税回避を防止するとともに、司法・警察と連携し、マネーロンダリングなどの犯罪撲滅にも役立てる。
- (13)デジタル経済における個人間取引やプラットフォームビジネスが進展する中、フリーランス等曖昧な雇用で働く労働者に対するセーフティーネットの提供に向け、マイナンバー制度を活用し、プラットフォーム事業者から税務当局への情報提供制度など、適切な所得把握と課税制度を構築する。
- (14)所得捕捉の適正化に向けて、所得捕捉率の実態調査を定期的に実施し、その結果を公表する。
- (注1)給付付き税額控除~給付付き税額控除とは、個人所得課税において税額控除を導入し、その控除額が引ききれなかった場合に「負の所得税」を給付する仕組みである。「負の所得税」を給付することで、課税最低限以下の層を含めた所得再分配が可能となる。
- 「就労支援給付制度」のイメージ
給与収入55~200万円で社会保険料・雇用保険料を負担している雇用労働者(約1500万人)に対し、社会保険料・雇用保険料(給与の約14%)の半額に相当する金額を所得税から控除する。給与収入200万円から徐々に低減し、250万円で消失する措置もあわせて講じる(対象者約600万人)。必要財源は1.5~2兆円程度を想定。
- 「消費税還付制度」のイメージ
合計所得が課税最低限の人(4000 万人程度)に対し、扶養者数に応じて、最低限の基礎的消費にかかる消費税負担相当分を定額で給付する。課税最低限の水準から徐々に低減し、消失する措置もあわせて講じる。必要財源は、消費税に換算した場合で税収の1割弱程度を想定している。
2.政府は、所得再分配機能の強化や、社会保障制度などの構築に必要な安定財源の確保に向け、税制全体を抜本的に改革する。
- (1)政府は、所得税を再構築し、所得再分配機能と財源調達機能を高める。
①利子・配当、株式等譲渡益の分離課税制度を廃止し、資産性所得を含めて所得課税を総合課税化する。「金融所得課税の一体化」は、総合課税化を条件とする。それまでの間は、金融所得にかかる税率を30%に引き上げるとともに、税率構造を段階化する。あわせて、租税回避措置を講じる。
②将来的な総合課税化実現の前提となる金融所得を含めた正確な所得捕捉の実現に向け、国民が開設する全ての預貯金口座とマイナンバーの紐付けを行う。
③人的控除は、できるだけ社会保障給付や各種支援施策等に振り替える。残すものは所得控除から税額控除に変えることを基本とする。
a)基礎控除は、基礎税額控除に変える(所得税4.8万円/人、住民税4.3万円/人)。
b)配偶者控除は、扶養税額控除に整理統合する。
c)成年扶養控除は、扶養税額控除(所得税3.8万円/人、 住民税3.3万円/人。平均所得(給与所得400万円程度)以下に対象を限定)に変える。税収の増加分は、就労支援や子育て支援等の財源とする。同居特別障害者加算は、障害者福祉手当の増額に振り替える。
d)特定扶養控除は、扶養税額控除と教育費税額控除(新設:所得税:2.5万円/人 住民税:1.2万円/人)に分割する。新設する教育費税額控除は、大学、専門学校等に通う扶養者がいる場合、所得制限、年齢制限を設けずに適用する。
e)平均所得以下の層に限定して、扶養者が扶養から外れる際に生じる世帯での「手取りの逆転現象」を調整するため、現状の配偶者特別控除に準じた措置を講じる。
f)勤労学生控除、老人扶養親族控除(70歳以上)、同居老親等加算、障害者控除、寡婦・寡夫控除は税額控除に変える。
④所得税の税率を5%ずつ、最高税率から段階的に引き上げる。当面、現行税率45%ブラケットを50%に、40%ブラケットを45%に、33%ブラケットを38%に引き上げる。
⑤低所得雇用者の社会保険料・雇用保険料(労働者負担分)の半額に相当する金額を所得税から控除する仕組み(就労支援給付制度)を導入する。(注1)
⑥課税最低限以下の層を中心に消費税の逆進性対策として、最低限の基礎的消費にかかる消費税負担分を給付する制度(消費税還付制度)を導入する。(注1)
⑦特定支出控除の控除対象基準(給与所得控除額の2分の1)を引き下げて申告納税の機会を拡大するとともに、給与所得者の必要経費の実情およびテレワーク等の進展に合わせて、職務上の慶弔費・自動車関係費、能力開発のための費用、周辺機器を含めたパソコン購入費、通信費、書籍購入費、労働組合費等を対象項目として追加・拡大する。
⑧テレワークにかかる費用を一旦労働者が負担し、後日手当で支払われる場合、通勤手当のように非課税にするなど、税制上の取り扱いについて検討する。
⑨単身赴任者の帰宅旅費については、本人の必要経費であり、通勤手当と合算のうえ、通勤費の非課税限度額(月額15万円)までは非課税とする。
⑩年俸制や派遣労働の通勤にかかる交通費実費は、納税者の申告にもとづき非課税とする。
⑪退職金控除は、働き方によって不利が生じないよう、勤続1年あたりの控除額を一律(年60万円)とする。
⑫医療費控除は、適用の下限額(10万円または総所得額の5%のいずれか低い方)を堅持する。
⑬日本国内に住所を有しているが、職業上の理由により、1年の大半を日本で居住していない者を「準居住者」とし、所得税・住民税の軽減をはかる。
⑭医師の社会保険診療報酬の特例(概算経費率による必要経費の計算特例)は廃止する。
- (2)政府は、資産課税を強化し、資産の再分配機能を回復・強化する。
①相続税の基礎控除を引き下げ、2,000万円+400万円×法定相続人数とする。なお、基礎控除の引き下げによる相続税の課税対象者の拡大を注視しつつ、必要に応じて死亡保険金の現行の相続税非課税限度額の拡充を検討する。
②相続税および贈与税の最高税率の引上げなど、累進性を高める税率構造の見直しを行う。
③直系尊属から子・孫に対する住宅、教育、結婚・子育て資金の一括贈与を非課税とする贈与税の特例措置については、資産を有する者ほど有利な制度であることから、制度廃止を基本とし、家族内の承継ではなく寄付の促進など社会への還元を促す方策を検討する。
④小規模宅地等の課税特例(相続した住居に引き続き住み続ける場合、330㎡まで評価額を80%減額する措置)は継続する。事業承継税制は、現行制度を維持する。
⑤現行の相続時精算課税制度は、将来的には一生累積課税方式(生前贈与を一生にわたって累積課税し、最終的には相続時に相続税と合わせて課税する方法)とする。
⑥土地基本法の理念に沿って、保有段階の安定的な課税を基軸に、経済状況に応じた譲渡・取得段階の課税を弾力的に組み合わせることで、地方税収の安定化と土地の有効活用促進をはかる。
⑦地価税は、性格・役割(資産課税や土地政策面)を踏まえて、その基本的枠組みを維持し、地価の上昇率が2桁を超えるまで凍結を維持する。
⑧土地等の譲渡に関する税制の簡素化や国税、地方税等の課税標準となる土地の評価のあり方について検討する。コンパクトシティづくりの促進や市街化調整区域内の土地利用のあり方等に留意しつつ、租税特別措置を総点検し、課税ベースを拡大する。また、住宅にかかる登録免許税と不動産取得税のあり方について簡素化、地方財源化する方向で検討する。
- (3)政府は、消費税の逆進性対策として「給付付き税額控除」の仕組みを導入するとともに、持続可能で包摂的な社会保障制度・教育制度の構築に向けた財源として、将来的な消費税率のあり方を明確に示す。
①軽減税率制度の政策効果・運用状況につき、不断の検証を行うとともに、真に効果的・効率的な逆進性対策、および、有事における迅速かつ適切な給付のためのインフラ構築に向け、マイナンバー制度を活用した「給付付き税額控除」(消費税還付制度(注1))を導入する。
②持続可能で包摂的な社会保障制度・教育制度等の構築のための必要財源確保に向け、将来的には、「給付付き税額控除」など効果的・効率的かつ徹底した低所得者対策の導入を条件した上で、消費税率を段階的に引き上げる。
③「期間を限定した消費税減税」について、有事の際は、一律の減税よりも真に支援を必要とする層に焦点を当てた施策が優先されるべき。
④次の世代が安心できる社会と健全な財政運営の実現に向け、国債の継続的な大量発行にもとづく財政運営や、それらに依存した消費税減税は行わない。
⑤2023年10月のインボイス制度導入に向け、特に中小企業における円滑な導入支援策を進める。
⑥簡易課税制度・法人の免税点は、廃止する。
⑦消費税の滞納防止のため、公共工事入札、備品調達の際にも納税証明書の添付を求める。
⑧ガソリン、酒、たばこ等の消費税における二重課税は、解消する。
⑨電子取引の増加等商慣行の変化に対応し、印紙税の課税対象を抜本的に見直す。
⑩納税者の消費税負担の理解浸透および滞納防止のため、消費税の小売り段階での表示は外税方式を原則とする。また、内税方式の場合は、価格表示や領収書に税額を明記する。
⑪消費税転嫁対策特別措置法などにもとづき公正な価格転嫁対策を強化する。
⑫消費税納税額の圧縮を目的とした正規雇用から派遣・請負への置き換えを防止するため、派遣労働、請負労働などの対価にかかる「消費税の仕入税額控除」について、そのあり方を見直す。
3.政府は、企業の社会的責任に見合った税負担の実現をはかる。
- (1)法人税率の引下げを行う場合には、引下げ分が企業における国内投資や雇用・所得の拡大に充てられることおよび代替財源の確保を大前提とする。また、過去に実施済の減税措置の政策効果を検証・公表する。
- (2)法人税の租税特別措置等は、政策手段として適切か、不断の見直しをはかる。また、租特透明化法にそって情報公開を行う。公表範囲について拡大する方向で検討する。
- (3)OECDを中心に論議されている、経済のデジタル化に伴う課税上の課題への対応(第1の柱:市場国に対し適切に課税所得を配分するためのルールの見直し、第2の柱:軽課税国への利益移転に対抗する措置の導入)につき、早期合意に至れるよう、国際的な政策協調に向けた取り組みを強化する。(注2)
- (4)いわゆる「法人成り」の問題等について、課税の適正化に向けた対策を強化する。(注3)
- (5)法人事業税については、外形標準課税(付加価値割)の法人事業税全体に占める割合を縮小させる。外形標準課税の適用範囲の拡大、税率、実施時期については、雇用や所得に与える影響および中小企業の業績回復の状況などを見極め、慎重に検討する。中小企業については、雇用安定控除を拡大する。そのうえで、外形標準による課税の考え方を維持しつつ、法人住民税などとの整理・統合を検討する。
- (6)欠損金の繰越控除については、現行の控除限度(控除前所得の5割)および控除可能期間(10年)を維持することを基本としつつ、コロナ禍による企業業績の落ち込みによる雇用への影響が長期化する恐れがあることも踏まえ、期間を限定し控除上限を緩和する。
- (7)中小企業の支援やディーセント・ワークを後押しする税制改革を行う。
①税法や各種制度ごとに異なる中小企業の定義について、対象範囲を拡大する方向で見直す。
②中小法人に対する法人税の軽減税率を基本税率の1/2の水準とする。
③「賃上げ・生産性向上のための税制」「中小企業向け所得拡大促進税制」の適用要件判定などで使用される「給与等支給総額」から、時間外・休日労働による支給額を除外する。
④中小企業に対する人材投資促進税制を復活させる。
⑤法定雇用率を上回って障がい者を雇用する企業、重度障がい者などを多数雇用している企業、障がい者の雇用促進と職場定着に資する設備投資を行う企業に対して法人事業税を減税する。
⑥事業拡大に伴い税制優遇措置の対象外となる場合、一定の猶予期間を設ける。
- (注2)経済のデジタル化に伴う国際課税上の課題を踏まえ、解決策の論点と今後の検討作業を取りまとめた「経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対するコンセンサスに基づく解決策の策定に向けた作業計画」がBEPS包摂的枠組にて策定され、2019年6月のG20財務大臣会合にて承認された。2020年10月には、第1の柱、第2の柱の合意に向けた「青写真」が合意され、2021年半ばまでに成功裡の結論に到達することをめざし、残された論点に迅速に取り組むことが確認されている。
- (注3)いわゆる「法人成り」の問題~個人事業者が所定の手続きを行い、株式会社等の法人に成り代わること。法人化により節税メリットが生じる場合が多いことから、個人事業者との間の課税不均衡の問題が指摘されている。
4.政府は、社会的課題に対応した公平で簡素な税制措置を行う。
- (1)NPO法人等の活動を支援する措置を強化する。
①NPO法人が行う介護サービス事業は、社会福祉法人の場合と同様、非課税とする。
②NPO法人についても、一般社団法人と同様に基金制度(出資金を債務でなく資産に計上できる仕組み)を使えるようにする。
③各自治体において、NPOなど市民活動団体を支援するため、自分の納税する住民税の一部について市町村を通じて寄附する仕組みを創設する。
④大規模自然災害の発生時における義援金や被災地支援を行うNPO法人などへの寄附金にかかる所得税、個人住民税、法人税の控除適用を迅速化するため、寄附金指定の仕組みを恒久化する。
⑤コミュニティ投資を含むESG投資に関する枠組みを整備し、税制上の措置も含め、普及・促進させる取り組みを検討する。
- (2)住宅関連の負担軽減措置として、下記の措置を講じる。
①住宅取得に要した借入金がある場合は各年の返済金にかかる利子相当額の、賃貸住宅に居住している場合は支払い家賃額の、それぞれ一定割合を各年分の所得税額から控除する、「家賃・ローン利子比例税額控除制度」を恒久措置として創設する。その際、一定の所得制限を設ける。
②新築住宅にかかる固定資産税の軽減期間を10年に延長する。
③個人住宅における耐震やバリアフリー、省エネのための改修工事と長期優良住宅に対する促進税制について、内容を拡充し、期間を延長する。
④現行の「住宅ローン減税」適用者が家族帯同で転居を伴う転勤をする場合は、減税措置を中断しないこととする。
⑤居住用財産の譲渡損失の繰越控除期間を5年に延長する。
- (3)退職後の所得確保などに向けて、中長期の資産形成を支援する税制の拡充はかる。
①財形年金貯蓄および財形住宅貯蓄の利子非課税限度額(現行550万円)を1,000 万円に引き上げるとともに、公的年金支給開始年齢が65歳となることに対応し、契約締結時60 歳未満の労働者を対象とする。
②貯蓄額が利子非課税限度額を超えた場合の課税方法を、非課税貯蓄額を超えた部分のみに課税するよう改める。
③退職後の所得確保に向けて、公的年金や企業年金を補完する個人の資産形成努力に対する税制上の措置について、資産形成手段の多様化などを踏まえ、利便性向上や充実の観点からあり方を検討する。
④退職給付である企業年金と自助努力である個人年金は性格が異なるため、税制上の取扱いを区別する。その上で、企業年金は労使合意に基づいて行われるものであり、労使自治を尊重する制度とする。個人年金は、高所得者優遇とならないよう考慮しつつ、すべての人が自助努力への支援を公平に受けられるようにする。
- (4)国民が将来の不安に備え社会保障でカバーできない部分について行う自助努力に対して、税制での支援を積極的に拡充・改善する。そのため、遺族、年金、医療、介護、地震など自然災害の保障にかかる各種保険料控除の拡充をはかる。
- (5)自然災害の激甚化と生活再建の長期化を踏まえ、現行の雑損控除から自然災害による被害の損失にかかる控除を分離し、「災害損失控除(仮称)」を創設する。
- (6)障害者雇用助成金、特定求職者雇用開発助成金等の益金不算入等、雇用拡大を支援する。
- (7)雇用労働者の能力開発を促進させる観点から、研修・資格取得費用の負担を軽減する「自己啓発税額控除」を検討する。
- (8)デジタルトランフォーメーション(DX)など技術革新の対応をはじめ、企業におけるイノベーションの創出およびオープンイノベーションによる新たな価値創出に資する研究開発の強化をはかるため、研究開発税制の拡充をはかる。
- (9)自動車関係諸税を軽減・簡素化する抜本改革を行う。
①いわゆる「当分の間税率」を廃止する。また、課税根拠を失っている自動車重量税を廃止する。自動車の保有・走行に関わる税のあり方を抜本的に見直し、軽減・簡素化をはかる。税体系は、環境性能の高い自動車や安全で自由な移動の確保につながる自動運転車の開発・普及促進に資するものとし、物流・公共交通機関(バス・タクシー・トラック)および軽自動車に軽減措置を講じる方向で検討する。
②今後の次世代自動車(圧縮天然ガス(CNG)車、燃料電池車、電気自動車など)の普及状況、自動運転技術の進展、自動車シェアリングの動向、ならびに道路など社会インフラ維持や移動の自由を確保するために必要な費用分担のあり方を踏まえ、地方財政に配慮しつつ、保有・利用を通じた課税根拠や税率のあり方を総合的に整理し、自動車関係諸税の軽減・簡素化をはかる。
- (10)総合的な交通政策の視点から、物流・公共交通に対して、適切な税財政上の措置を講ずる。
①インフラ整備や事業運営についての国・地方・事業者等の責任と役割を明確にし、総合的な交通政策を推進に資するよう、税と予算のあり方を見直す。
②政策目的を踏まえ、固定資産や燃料に関わる税の軽減措置等を講ずる。
- (11)大規模空港整備が終了した現在、その役割を終えた航空機燃料税を廃止・縮減する。
- (12)地球温暖化対策税については、以下の観点から、政策効果、国民負担の動向などを検証し、改善をはかる。
- 国民生活への影響に対する配慮と特定の産業・企業に過度な負担とならないよう現実的な税制とする。
- 化石燃料の最終消費段階で広く薄く負担をすることを基本とする。
- 税収は、地球温暖化対策に資するエネルギー対策、技術開発等に使用し、雇用創出に結びつける。
- 国内排出量取引制度等との二重の負担とならないよう調整する。
- 原料用の石油・石炭等は非課税とする。
- 物流・公共交通機関、農林漁業、石油化学産業等に負担軽減措置を講ずる。
- 税負担の明示やCO2の見える化をはかり意識喚起を行う。
- (13)各種税制のグリーン化(環境への負荷を軽減するために政策誘導する税制)をはかる。既存の減税措置については、政策効果の検証にもとづき制度の見直しを行うとともに、必要に応じて適用要件の簡素化を行う。
- (14)既存の目的税・特定財源は、その目的に照らして、歳出内容を厳格に評価し、かつ、その役割や税の負担割合についても評価結果にしたがい、必要な見直し行なう。
- (15)地方自治体は、森林環境保全にかかる独自課税について、森林環境税および森林環境譲与税との二重課税とならないよう、住民の意見を踏まえつつ税収の使途や課税内容を見直す。
- (16)労働債権を公租公課より優先するものとするため、国税徴収法第19条に「一般先取特権を有する労働債権は国税より優先するものとする」ことを追加する。
- (17)国際レベルで資金の投機的な動きを抑制するため、金融取引税などの国際連帯税導入について、国内における合意形成と国際合意を早期にはかる。その税収は主に貧困撲滅や気候変動対策の財源として活用する。
5.国と地方は、地方分権にふさわしい地方税・財政をめざして改革を行う。
- (1)地域による偏りが少なく安定的な地方税体系とする。
①所得税改革と歩調を合わせ、地方住民税の人的控除を所得控除から税額控除にかえる。所得税の基礎税額控除の引き上げと歩調を合わせ、地方住民税の基礎税額控除(3.3万円→6.6万円)と税率(10%→11%)を見直す。
②地方分権に逆行する特別法人事業税および地方法人税の仕組みを廃止し、法人住民税(法人税割)および法人事業税(所得割)と消費税の税源交換を実施することについて検討する。
③法人事業税については、外形標準課税(付加価値割)の法人事業税全体に占める割合を縮小させる。外形標準課税の適用範囲の拡大、税率、実施時期については、雇用や所得に与える影響および中小企業の業績回復の状況などを見極め、慎重に検討する。中小企業については、雇用安定控除を拡大する。そのうえで、外形標準による課税の考え方を維持しつつ、法人住民税などとの整理・統合を検討する。
④税制改革全般について地方財政への影響に配慮し、必要な税財源を確保する。
- (2)財政調整機能と財源保障機能の両方を兼ね備えた地方交付税の仕組みとし、現行の交付税水準を維持・改善する。
①地方財政計画の仕組みを基本的に維持する。
②地方における社会保障などの財源不足への対応として、臨時財政対策債の発行に替えて地方交付税の法定率引き上げを検討する。
③国と地方の協議の場等を活用し、地方財政計画の策定や地方交付税算定を行うなど、決定プロセスの透明化をはかる。
- (3)既存の国庫補助金負担金制度について、公共事業等のための地方自治体の使い勝手の良い財源として国庫補助金の一括交付金化をはかるなどの改革を進める。このとき、社会保障や義務教育に係わる国庫補助負担金は、一括交付金化の対象としない。社会資本整備総合交付金、防災・安全交付金については、地方自治体におけるより自由度の高い活用に向けて不断に制度を見直す。
- (4)「ふるさと納税制度」については、本来寄附金は経済的利益の無償の供与であることに鑑み、過度な返礼品の規制や個人住民税の特例控除の段階的な縮減など、制度・運用の両面において実効性のある改善をはかる。また、ふるさと納税の理念を周知徹底して、納税者や地方自治体における適切な制度活用を促す。
- (5)住民のニーズをふまえ、住民の立場に立った公共サービスとなるよう不断の見直しを行う。それに伴う税負担等について情報発信し、租税教育を行う。
- (6)地方自治体の課税自主権の活用は、住民の行政参加を促し自治意識を高める観点から、基本的には尊重する。ただし、新たな税を創設する際には、①財政状況や行・財政改革の計画を明らかにし、課税の必要性についての説明責任を果たす、②住民(法人も含む)が意見反映できる機会を設ける、③既存の地方税との関係を整理する、ことを前提とする。
- (7)税法上の総所得が基準となる国民健康保険料や自治体の補助金について、税法改正により生活困窮者の連鎖的な負担増とならないよう措置を講じる。
- (8)法人事業税の診療報酬に対する非課税措置を見直す。
産業政策<背景と考え方>
- (1)近年の日本の産業の業況は、全体としては個人消費や設備投資は堅調に推移してきており、景気は緩やかな回復基調が続いてきた。しかし、海外に目を向ければ、米中などの貿易摩擦、英国のEU離脱、新興国の金融経済環境の悪化、中国の投資過剰、米国経済の減速リスクなど、世界各国で発生する地政学的なリスクが懸念され、世界経済の悪化による日本経済の下振れリスクは大きい。また、国内においては、2019年10月の消費税増税による産業への影響も懸念されるところである。さらに、労働人口の減少がもたらす深刻な人手不足が多くの産業における喫緊の課題として顕在化している。
- (2)多くの中小製造業は、この間の原材料費の高騰などを価格転嫁できずに収益が悪化している。加えて、地方を中心に事業展開をしている非製造業においては、建設業や運輸業、サービス業・小売業、医療・福祉業をはじめとして人手不足が収益力の強化を妨げており、企業規模間、地域間、業種間の差が大きくなっている。中小企業では、人手不足による倒産や廃業が発生するなど、状況は極めて深刻である。また、多くの中小企業において、設備投資は伸び悩み、設備の老朽化が進んでいる。
- (3)以上のような状況の中で、確実に経済の好循環の実現につなげていくためには、価格競争から付加価値の向上に向けた企業戦略の転換、グローバル展開の強化による外需の取り込み、グリーン、医療・ヘルスケアなど新たな内需型産業の拡大・創出などを通じ、持続的な産業の発展、安定的な雇用の確保につなげていくことが求められる。その中で政府は、成長戦略の鍵となる施策として「コーポレートガバナンス・コード」を策定した。このコード(指針)は、「会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上」を目的とし、2015年6月から、東京証券取引所に上場するすべての企業に適用されることとなった。
- (4)わが国産業は、知識と経験による技術、技能、運用ノウハウなどが競争力の源泉であり、これらを担う人材の確保・育成の推進が重要である。産業自体の持続性、安定性を鑑みれば、ものづくりと人づくり重視の経済構造を指向すべきであり、新規技術の開発・実用化、基盤技術の振興、技能・技術の伝承等を確立すると共に、地域社会と連携した経済構造を構築することで、より一層の強化をはかる。また、政府は、研究・開発立国に活路を求めるための政策を用意しているが、技術・技能やノウハウに対する正当な対価を保障する知的財産保護の仕組みや、知的財産保護にも優越的な地位の濫用を防止する法的な制度を整備する。
- (5)中小企業政策は、地域経済活性化による雇用創出と密接不可分であり、資金的な支援、技術の開発・保護・育成のための支援など、各種支援策強化の為の政策・制度の確立が求められる。また、サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正な分配を実現するために、公正な取引慣行の確立・促進などの環境整備が必要である。
- (6)厳しい財政状況を背景に、公共サービスの効率化、コストダウンの要請が高まり、国や地方自治体から民間事業への公共工事や委託事業等における低価格・低単価の契約・発注が増大している。その背景の一つである格差、非正規雇用の拡大は社会問題化しており、政府として、人件費が公契約に入札する企業間で競争の材料にされていることを一掃し、公契約に労働基準条項を確実に盛り込ませる政策が求められる。
- (7)政府は、2018年6月に閣議決定された未来投資戦略2018において、「Society 5.0」「データ駆動型社会」への変革と題し、第4次産業革命の技術革新の社会実装により実現できる新たな国民生活や経済社会の姿を示した。その鍵となる「第4次産業革命」に的確に対応するためには、すべての産業に起こり得る様々な変化への対応について、グランドデザインを策定し、政府と研究機関、産業界などが連携して総掛りで取り組み、企業におけるイノベーションによる新たな価値の創出および組織の枠を超えたオープンイノベーションの促進に向け、研究開発や設備投資が求められる。また、産業構造の変化に対応した働く者の学び直しや企業の職業能力開発に対する支援を強化する必要がある。その際には、持続的、安定的かつ包摂的な成長を実現する観点から、中小企業を含めて、構造変化に的確に対応できるよう支援することが求められる。
- (8)経済連携の推進に関しては、TPP11が2018年12月に、日EU経済連携協定が2019年2月にそれぞれ発効した。この間、連合は、これらの協定がわが国の持続的成長と雇用創出はもとより、各国における公正で持続可能な発展とディーセント・ワークの実現に寄与するものとなるよう、交渉参加国のナショナルセンターをはじめとする多様な関係先と連携強化をはかり、必要な対応を政府に求めてきた。引き続き取り組みを進めるとともに、現在交渉中である東アジア地域包括的経済連携(RCEP)などについて、労働・環境など社会条項が組み込まれるよう政府に求めていく。また、経済連携協定が、幅広い分野に影響を及ぼす可能性があることを踏まえ、懸念される課題について引き続き丁寧に把握・検証のうえ、必要に応じて対策を講じることが求められる。
1.政府は、新規産業・雇用を創出する経済構造改革を進めるとともに、グローバル成長の取り込みをはかり、産業政策と雇用政策を一体的に推進する。
- (1)新規産業・雇用を創出するために、将来にわたり特に発展が求められる分野(ICT、グリーン、医療・ヘルスケア、観光、サービス、農林漁業の6次産業化等)と、それぞれの分野を有機的につなぐコンサルティングなどの分野において、人材育成、技術開発、規制改革、予算・税制措置等官民の資源を集中投資する。
- (2)雇用創出を新規産業の育成策の目標に据えるとともに、産業や事業の再生にあたっては、雇用の確保を第一義に政策を展開する。また、産業政策や関連する法律案の策定にあたっては、経済合理性の視点に加え、雇用安定や労使協議を前提とした良好な労使関係を活用できる内容とし、雇用保険財源によらない職業訓練の充実、企業における人的投資の支援、労働者が教育機関にアクセスしやすい環境の整備などセーフティネットを強化する。
- (3)第4次産業革命に伴いすべての産業に起こり得る様々な変化への対応について、グランドデザインを策定する。また、対応について検討するための、労使が参画する枠組みを早急に構築する。その際には、失業なき労働移動を可能にするとともに、格差の拡大が助長されることの無いよう、ディーセント・ワークを維持しながら全体の底上げをはかるなど「公正な移行」が実現するよう検討を進める。
①政府は、社会基盤やあらゆる産業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現に向けた環境整備を積極的に支援する。とりわけ、すべての産業におけるデジタル化の実態把握をはじめ、すべての産業・企業に対するIT人材育成を含めたデジタル化の導入促進の強化、中小企業におけるDXの支援を充実する。
②企業における人的投資、テレワーク環境の整備をはじめとする設備投資、研究開発等に対する支援を着実に実施する。特に、産業構造の変化に対応した働く者の学び直しや企業の職業能力開発に対する支援を強化する。その際には、雇用形態や企業規模による格差が生じることのないよう、特に弱い立場の労働者や、中小企業に対する支援策を講じる。
③政府は、IoT/ビッグデータ・AI等の活用によるデジタル化の健全な進展と安心・安全で信頼性のあるAIの社会実装に向け、研究・開発環境整備への支援のみならず倫理的課題への対応を強化する。
- (4)雇用創出量が大きく、経済波及効果も見込める観光産業について、観光案内所の増設、交通機関等での多言語表記、ICTを活用した多言語情報の提供等の環境整備を進めるとともに、通訳案内士の養成等多言語人材の育成を推進し、地域と連携した推進体制で取り組む。
- (5)超少子高齢化に伴う労働人口の減少、労働力の高齢化に対応するため、ロボット技術の開発や導入・普及の促進など、作業負荷の軽減や省力化に向けた整備を進める。
- (6)海外需要の取り込みをわが国経済の活性化に繋げるため、国内企業の海外展開を支援するとともに、社会インフラシステムの輸出促進のための環境整備等を行う。
- (7)知的財産・標準化戦略にもとづき知的財産を有効活用し、技術立国としての地位確立をはかる。また、わが国の産業を保護・強化するべく、知的財産制度の一層の強化を図る。
①ソフトウェアも含め、知的財産の評価・権利を確立し、不正使用の防止を徹底する。
②特許市場の整備、特許審査期間の短縮化のための審査体制強化、裁判所の知的財産権紛争処理体制の強化など、知的財産権制度の整備を行う。
③金型をはじめとする中小企業の技術が、特許・実用新案・著作権等知的財産権の枠組みで保護されるよう法整備を進め、外国への特許出願に対する支援策を強化する。
④外国出願特許については、早期権利化を実現するために、知的財産権制度の国際的な共通化をはかる。
- (8)わが国産業の競争力強化のために、企業の国際標準獲得を支援する。
①多様化する国際標準化活動に的確に対処できる仕組み作りを推進する。
②国際標準の策定にあたっては、技術優位の確保に向けたイニシアチブを得るため、基礎段階から産学との連携強化を積極的に推進する。
③認証の戦略的活用の促進に繋がる支援策を講じる。
④各国で異なる国際標準・規格については調和を図る。
- (9)営業秘密の流出防止のための制度整備を行う。
①不正競争防止法の適正な運用をはかるとともに、罰則の強化をはかる。
②労使協議における情報開示や労働者の権利が影響を受けることの無いよう、事業者に対し営業秘密管理指針の周知・徹底を行う。
③企業における知的財産戦略が多様化する中で、研究者の発明に対するインセンティブの整備に向けた取り組みを進める。
- (10)地震・津波・火山噴火・台風・集中豪雨などの自然災害、新型コロナウイルス感染症などのパンデミック、大規模停電、大規模システム障害、テロなど災害や事故の発生時における事業継続や事業復旧に関する企業等のリスクマネジメント(事業継続管理:BCM)の普及・促進を支援する。また、風水災など予測できるものによる人的被害、帰宅困難者などの発生を防ぐため、政府は、企業に対し、事前の業務停止などに関するマニュアルの設置に係る支援策を進めていく。
2.政府は、わが国経済の根幹を担う人材の育成をはかる。
- (1)ものづくりの重要性を認識し、実感できる初等・中等・高等教育の実施、さらには、生涯にわたる技術・技能の修得・継承の促進・支援を通じ、国民の勤労観の確立をめざした、人材の育成をはかる。
①ものづくり技術・技能の継承はもとより、世代に偏りのない技術・技能労働者の確保と人材の育成に向けて、技術・技能評価制度の社会的認知の向上をはかるともに、熟練技術・技能者が国内で積極的に活躍できる環境整備を行う。
②ものづくりマイスター制度(若年技能者人材育成支援等事業)等を活用し、効果的な技能の継承や後継者の育成を行うために、必要な場所・設備等の提供・支援を行う。
③ものづくりに関連する業種・職種における高度熟練技術・技能労働者を社会全体の財産と位置づけ、社会的評価を向上させると共に、有効的な活用をはかる。
a)工業系高等学校での技術実習指導や中小企業における技術・技能伝承に対する技能者派遣事業などへの助成を強化する。また、安全の確保など高等学校の教員に対する技術・技能の指導強化をはかる。
b)ポリテクセンターや都道府県産業技術専門校、専門高校・高等専門学校・大学の学校教育において、実践指導員や技能コンサルタントとして採用する。
c)ポリテクセンター・産業技術専門校の教育内容を精査するため、都道府県単位に政労使三者構成の教育内容検討委員会を設置し、民間ニーズに対応した教育内容を実現する。
④若年労働者のものづくり現場への就業意識を高めるため、小学校・中学校段階からのものづくり教育の履修時間の拡大と内容を充実させるとともに、職場体験学習の機会を増やす。また、高校・高専・短大・大学では、インターンシップを単位として認める制度を普及させると同時に、産業界の技術者等の外部講師を積極的に活用するなど、実践カリキュラムを盛り込む。勤労観の確立につながるよう努める。
- (2)産業・企業の発展に資する産業人材の育成のため、産学労と連携をはかり、産学連携教育や産学共同事業の強化、技術経営(MOT)人材を育成するとともに、国際標準作成の専門家を養成するために、企業や大学の技術者の育成に努める。また、理系人材の育成を担う企業・教育機関等への支援を強化する。
- (3)地域活性化に資するまちづくりを担う人材育成のため、地域を担うステークホルダーと連携を図り、まちづくりを担うリーダーを市民の中から登用するしくみや、インキュベーションマネジャーの育成強化を推進するとともに、ベンチャー・ビジネスを支援する。
- (4)第4次産業革命に対応した人材育成について、新たに必要とされる資質や能力・スキルなどを速やかに示すとともに、年齢や居住地に関わらず広く雇用の安定につながる実践的な育成システムの構築のために、産(労使)・官・学(高等教育機関、職業訓練機関)による具体策の議論を加速させる。
3.政府は、中小企業が自立できる基盤を確立し、独自の高度な技術と経営基盤の確立に向けた支援を行う。
- (1)2010年に閣議決定された「中小企業憲章」に関する国会決議を行うなど、中小企業の位置付け、中小企業政策の基本理念、政府の行動指針等をより明確にすることにより、中小企業政策の推進をはかる。また、地方自治体は、中小企業振興基本条例の制定促進に向けた環境整備を進めるとともに、条例において地域における労働団体の役割・責任を明確にする。
- (2)「中小企業総合情報センター」を設置するなど中小企業に対するサービスを一元化する窓口である中小企業支援センターの役割を拡充するとともに、中小企業のワンストップ相談窓口である「よろず支援拠点」の活用推進とサービスの向上に努める。
- (3)中小企業の販路開拓(ビジネスマッチング)のため、中小企業基盤整備機構が運営するJ‐GoodTech(ジェグテック)の機能を拡充し、周知に努める。
- (4)海外企業からの受注を増大させるために、JETRO(国際貿易振興機構)の「国際ビジネスマッチング(TTPP)」の周知と活用推進を行うとともに、海外からの問い合わせ、引き合い等を受け付ける窓口を設置する。
- (5)中小企業経営者の高齢化等を踏まえ、円滑な事業承継の促進に向けて、「事業承継ガイドライン」の周知や支援策の拡充を行い、あわせてニーズの掘り起こしなどを行っていく。
- (6)中小企業に対する高度な技術支援と生産基盤強化のため、産官学の共同研究を積極的に推進し、国が持つ技術や特許権を有効に活用できるシステムを構築する。
- (7)中小企業の経営戦略確立のため、ミラサポ(中小企業庁の中小企業支援サイト)における中小企業診断士や専門家の無料派遣枠の拡充を行うとともに、指導を受ける際の助成を行う。
- (8)不良原因究明、品質改善に取り組む中小企業を支援するため、工業試験場等からの人的支援等、地域における工業試験場等と中小企業の連携を強化する。
- (9)中小企業者による新卒者の採用を支援するため、ハローワークや、行政の外郭諸団体が積極的に採用会を開催する。さらには、業界団体・協同組合等が共同採用会を開催する団体を支援する。
- (10)中小企業に対し、業務効率化による生産性の向上や、求人時における効果的な企業PRが可能となるように、ICTの利活用を促進するための支援を行う。
- (11)中小企業に対するIoT導入および人材育成の支援を強化する。具体的には「地方版IoT推進ラボ」や「スマートものづくり応援隊」の拠点増加を推進する。
- (12)地域経済を支える中小企業・地場産業の活性化に資する金融環境整備を進め、地域金融機関は地域経済活性化支援機構等とも連携し、支援策を着実に実施していく。
- (13)中小企業における人材育成を支援するため、単独で負担することが難しい「社員教育等の研修会」や「福利厚生施策」などについて、地域または複数企業が連携して実施するための支援を行う。
- (14)中小企業における知的財産に関する悩みや相談を受け付けるために全都道府県に設置している「知財総合支援窓口」の機能を強化し、周知を徹底する。
- (15)中小企業における省エネ・生産性・安全性向上、人材不足への対応のための設備投資促進施策を拡充し、周知を徹底する。生産性向上特別措置法による税制支援の活用については、市町村による「導入促進基本計画」の策定、中小企業への働きかけを促進する。
- (16)大企業と中小企業が共に成長できる環境整備を目的に、主に労務費の価格転嫁等下請け振興基準の遵守などを宣言する「パートナーシップ構築宣言」の取り組みを強化・推進する。
4.政府は、労働者の意見反映システムの確立等を進め、健全な産業・企業体質の構築に向けた支援を行う。
- (1)企業のCSR(企業の社会的責任)への取り組みを強化させるとともに、地域や消費者も含めたすべてのステークホルダーに対して情報を公開させる。なお、取り組みにあたっては、雇用・労働・人権・環境分野を重視するとともに、重要なステークホルダーである労働組合や従業員の意見反映や利益確保が十分に行われるものとする。
- (2)CSR調達の取り組み促進に向けて、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は、「持続可能性に配慮した調達コード」に則り、全ての物品・サービスの受注者(サプライヤーおよびライセンシー)がILO中核的労働基準をはじめとする労働に関する国際的な基準を遵守するよう周知徹底をはかる。調達コードの不遵守またはその疑いが生じた場合の通報受付窓口については、効果的なものとなるよう整備する。国・地方自治体は同コードを採用する。
- (3)多様なステークホルダーの利益への配慮を含む企業統治や企業再編時の労働者保護を実現するために、事業譲渡における雇用や労働条件の保護に関する法律を整備する。また、企業の不祥事や法令違反を抑止するために、監査役・監査委員会の構成員に労働組合代表あるいは従業員代表を含めるなど、監査の機能および権限の強化をはかる。なお、現行の株主代表訴訟制度については、ガバナンスを効かせるために維持する。
- (4)企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、多様なステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを企業に認識させるとともに、ESG(環境、社会、統治)問題への対応を含め、労働組合への情報提供や協議など、ステークホルダーとの積極的な協働を促進するよう取り組みを進める。
- (5)上場企業における財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスにかかる情報等の非財務情報について、法令にもとづく開示を適切に行わせるとともに、法令にもとづく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むよう徹底をはかる。また、非上場企業における決算公告制度の運用についても徹底をはかる。
- (6)国際財務報告基準(IFRS)への対応方針は、労働者など多様な「利用者」の理解と納得の上に検討し、日本の産業構造や企業活動の実態に即した、成長と雇用の維持・創出に寄与するものとする。また、当面は、上場企業の連結財務諸表に対してIFRSを強制適用するべきではなく、任意適用を継続する。
- (7)投資ファンドや信託口を介した株式保有の増加に対応するため、上場企業が真の株主を調査することのできる権利を創設する。
- (8)上場企業の買収に関する規律を策定し、企業買収時における交渉過程・内容の透明化をはかるとともに、被買収企業の労働者代表に対して、買付文書に関する意見表明機会を担保する。また、この運用機関として、法的根拠を持った企業買収規制専門機関を設置し、構成員については、政府、金融機関、民間企業、弁護士、労働組合等から受け入れる。
- (9)国は、事業者内部の労働者からの通報が阻害されないよう、「公益通報者保護制度」について政府のガイドラインの活用や労使協議の促進などを通じて、制度の周知と普及、および適切な運用を徹底させる。また、通報者に不利益取扱い(報復)を行った企業に対する行政措置や刑事罰の導入、通報を理由とすることの立証責任の事業者側への転換など、通報者の保護・救済の強化につながる法改正を行う。
- (10)個人情報の保護をはかる際には以下の点に留意する。
①国、地方自治体は、個人情報取扱事業者等における実効ある個人情報保護を支援するとともに、個人情報保護状況の把握に努め、事業者に対し、適切な指導・支援を行う。ただし、就業規則等の改定を求める場合には、労使の十分な協議が前提であることに留意する。
②各省庁は、事業者に対する監督、指導等に関して、事業分野によって内容に過度な差異が生じないよう連携・調整を行う。特に高度な安全管理措置が求められている分野については、現場の従業員に過剰な負荷がかかることのないよう、守るべき基準の明確化と不断の見直しを行う。
- (11)建設工事の適正な工期の確保をするための「工期に関する基準」につき、丁寧な実態把握を行うとともに、適切な運営がなされるよう徹底する。
5.政府は、ディーセント・ワークの実現のための公契約基本法、公契約条例の制定など国内法等の整備および、ILO第94号条約の批准をはかる。また、国や地方による入札制度を改革する。併せて取引の適正化の実現に向けて、公正取引委員会や関係省庁の体制および権限の強化等を行う。
- (1)公契約(公共工事、サービス、物の調達など)に関する基本法を制定し、その中で公正労働基準と労働関係法の遵守、社会保険の全面適用等を公契約の基準とする。法整備をはかることにより、ILO第94号条約の批准をはかる。また、違反企業に対する発注の取り消しや違約金の納付制度等のシステムづくりを進めるとともに、発注者の責任も明確にする。
①公共工事等の入札における透明性確保、建設労働者の適切な労働条件確保に悪影響を及ぼすような工事価格や工期設定での受注に歯止めをかけるための措置を講ずる。
②努力義務として位置づけられている「予定価格と積算内訳」や「低入札価格調査の基準価格と最低価格」などの情報開示を、法的に義務づける。
③各自治体においては、「公契約条例」を制定する。また、自治体の工事や業務委託の入札・契約に関わる条例や要綱などに、労働基準法等の労働法制や社会保障関連法規に違反した企業を、発注対象から除外する項目を設けるとともに、発注者の責任も明確にする。
- (2)国や地方自治体による公共工事や公共調達等の入札にあたっては、透明性確保のための措置を講ずる。公契約において、公正労働基準の確保、環境や福祉、男女平等参画、安全衛生等社会的価値やコンプライアンス遵守なども併せて評価する総合評価方式の導入を促進する。
①公共事業等の入札において、労働条件等を含めた総合評価方式の導入を促進する。また、その際は、明確な評価基準を設定する。
②ダンピング受注の判断基準を明確に定める。発注機関において受発注者間で取り交わされる契約には対象範囲を明記し、各々の責任範囲を明確にする
③総合評価基準の運用にあたっては、労働条件の悪化につながる早期着手や工期短縮提案が加点対象とならないよう、提案内容を精査するとともに入札業者にその旨明示する。
- (3) 国や地方自治体による公共工事の発注にあたっては、労働条件、安全衛生および品質を確保する観点から、事業計画、設計、施工各段階においてそれぞれ適切な工期を設定する。
- (4)サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正な分配の実現に向けて、優越的地位の濫用を防止し取引の適正化と透明な市場を確立するため、独占禁止法、下請法、下請中小企業振興法を強化するとともに、公正取引委員会や中小企業庁の体制および権限の強化、調査・監視の強化、企業への周知徹底等により法の実効性を高める。また、すべての労働者の立場にたった働き方を実現するため、中小企業などの「働き方改革」を阻害するような取引慣行の是正などを強化する。
①公正取引委員会や関係省庁担当部門の人員を拡充し、機能・体制の強化をはかる。
②独占禁止法の課徴金制度の強化については、裁量型制度の導入も含めて検討を進めるとともに、「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(ガイドライン)の周知徹底をはかる。
③下請法(下請代金支払遅延等防止法)については、資本金区分による適用を廃止し全取引を対象とするとともに、銀行等の金融機関による信用供与も対象とする。「下請適正取引等の推進のためのガイドライン」の拡充や下請Gメンの増員をはかるとともに、これらの周知を徹底させる。
④下請企業からの情報提供・申告等に対し親企業からの報復措置をなくすシステムを設ける。また、単価の過度な水準引き下げ要求に対し、商取引における一定の規制を設けることを検討する。また、下請法の適用対象外となっている発注者と元請事業者の取り引きについても、適正な単価や積算モデルでの契約となるよう、同様の検討を行う。
⑤知的財産に関する優越的な地位の濫用を防止する法制度を整備するとともに、その実効性を高める。
⑥国・地方自治体は、労働基準関係法令違反防止に向けて、下請取引や工事委託契約において下請法や建設法に定められた公正取引の遵守を適切に監視するともに、通報制度である「中小企業における労働条件の確保・改善に関する公正取引委員会・経済産業省との通報制度」について、関係者への周知をはかる。
- (5)地方自治体の公共工事において、建築工事と設備工事の「分離発注方式」を徹底させる。
- (6)国や地方自治体におけるソフトウェア、アプリケーション開発の入札では、必要な工数(人日)に人件費を積算させたものに加え、著作権の帰属のあり方も含めた知的財産としての価値を付加して価格決定がされるよう制度を改革する。また、政府は、民間企業間におけるソフトウェアの開発において、適切な受委託となるよう、ソフトウェアの機能価値に基づく積算や多段階契約等の推進など対応を強化する。
- (7)改正官製談合防止法を適切に運用し、談合根絶に向けたさらなる改正や天下り規制の強化を行う。
- (8)国際的な経済活動における外国公務員に対する贈賄の防止のため、国外における捜査体制を強化する。
6.政府は、公正・透明・自由な国際経済活動の発展を促すとともに、経済連携協定に、労働、環境等社会条項を入れるべく見直しをはかる。また、新規案件については、有益な協定内容とするべく早期に参入を表明し、ルール作りから参画するよう努める。
- (1)国際経済活動については、WTOの理念である公正・透明・自由な多角的貿易体制の構築を国際協調のもとに進めることを念頭に、より質の高い経済連携協定(FTA/EPAなど)締結に向けて努力するとともに、外交面において国内産業のリスクとなりうる事項に関しては、適時適切な対応を行うとともに、国民への適切な情報開示、国民的合意形成に向けた丁寧な対応を行う。また、経済連携協定に、労働基本権の保証、環境条項等社会条項の組み込みに努める。
- (2)わが国の経済成長と雇用創出、各国における公正で持続可能な発展につながるよう経済連携を推進する。TPP11および日EU経済連携協定については、幅広い分野に影響を及ぼす可能性があることを踏まえ、懸念される課題について引き続き丁寧に把握・検証のうえ、必要に応じて対策を講じる。
- (3)モノ以外のすべての貿易が対象となりうる新サービス貿易協定(TiSA)について、国民生活に広範な影響を及ぼすことや、交渉中のFTA/EPAにも影響を及ぼす可能性があることを踏まえ、国民への適切な情報開示を行うとともに、懸念される課題に適切に対応する。(注1)
- (4)二国間及び地域内のFTA/EPAについては、自由で多角的貿易を促すWTOの理念を念頭とした内容となるよう努めるものとし、他国を排除することなく、自由・公正・透明な世界経済活動の交流を拡大し、各国労働者の生活を改善し、ILOにおける労働基本権をはじめとする中核的労働基準の遵守を確立するものとする。
①当該国にとって、持続可能な経済発展、国民生活や雇用の改善、環境保護、安全・健康の向上等を促すものとする。
②労働基本権の確保、労働者の雇用の安定と創出、公正労働基準の確保が、必ず実施されるものとする。
③当該国の労使関係の慣行(労使協議等)を尊重したものとする。
④労働分野については、当然、ILOの中核的労働基準やOECDの多国籍企業ガイドラインを遵守する。
⑤労働者の移動については、当該両国における雇用との調和と国民的合意を原則とする。
- (5)地域レベル、二国間のFTA締結に向けた共同研究会に労働組合代表を含める。
- (6)外国の不当な安値攻勢や知的所有権の侵害等の不公正貿易に対しては、アンチ・ダンピング措置の発動を含め厳正に対処する。また、市場の混乱をもたらす急激な輸入の増大に対しては、協定の範囲内でのセーフガード措置の機動的な発動を行う。
- (7)国際協定の規定を遵守させるため、各国に公労使三者が参加した委員会を設置し、違反事例の解消をはかる。
- (注1)新サービス貿易協定(TiSA)~世界貿易機関(WTO)に加盟する有志国・地域により、サービス貿易の一層の自由化に向けた新しい協定。現在、日本、米国、EUなど22カ国・地域が参加(EU各国を含めると48か国)。
地域活性化政策<背景と考え方>
- (1)地方を取り巻く環境は、グローバル化の進展や、若年人口の大都市への流出とこれに伴う高齢化・人口減少、産業構造の急激な変化等によって長らく厳しい状況が続いている。 こうした状況に対し、国はこれまでも様々な地方活性化策を講じてきたが、三大都市圏(特に東京圏)への人口集中には歯止めがかからず、地方部を中心とした工場立地の低迷や中心市街地の衰退による雇用の減少は、時を追うごとに深刻化している。
- (2)人口減少問題については、国立社会保障・人口問題研究所が2053年に日本の人口は1億人を下回り、2065年には8,808万人になると推計しているが、このまま地方から大都市への人口流出が継続すれば、現存の地方自治体の半数以上は、その存続自体が危機的な状況になるとの報告もある。こうした中、第2次安倍政権は、2014年9月に「まち・ひと・しごと創生本部」を設置し、同年11月には地方創生関連2法案(まち・ひと・しごと創生法、地方再生法の一部を改正する法律)を成立させるとともに、翌12月には人口の将来展望を示す「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」と、向こう5か年の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定した。あわせて、同法にもとづき、全国の自治体に対し「地方人口ビジョン」と、それを達成するための「地方版総合戦略」の策定を要請するとともに、広く関係者の意見が反映されるよう「産官学金労(言)」からなる推進組織の設置を求めた。2019年は、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の最終年となることから、各基本目標の進捗状況などを丁寧に振り返った上で、次期総合戦略に向けた検討を進め、地方創生のさらなる充実・強化に取り組んでいくことが求められる。
- (3)連合は、これまで「地域に根ざした顔の見える労働運動」を標榜する中で、未組織中小労働者や非正規労働者も含めた、すべての労働者の暮らしの底上げ・底支えのため、地方連合会・地域協議会を中心に地域課題の解決に取り組んできた。また、政府の「まち・ひと・しごと創生」の取り組みを「連合のめざす政策の早期実現」と「地域に根ざした顔の見える労働運動の実践」に結びつけるべく、地方創生に積極的に関与していくことを確認し、「地方人口ビジョン」「地方版総合戦略」を策定する地方自治体の推進組織に積極的に参画してきた。
- (4)地域産業の振興をはかり、安定的な地域雇用を創出するためには、国内の生産や研究機関、金融も含めた周辺サービスなど、事業活動を一体的に支援する環境の整備が求められる。また、地域活性化の推進にあたっては、持続可能な地域経済・地域社会の形成のため、地域の特性を熟知した地元住民、地元産業が主体となったまちづくりをめざすことが必要である。そのためにも、産官学の連携のみならず、地域金融機関、地域の労働組合、地域マスメディアなどが参加する産官学金労言のネットワークが求められており、「開かれた春闘」をめざし地域の様々な関係者と連携をはかる「地域フォーラム」を積極的に活用することも重要である。全国の地方自治体が「地方版総合戦略」の推進に取り組む中で、PDCAサイクルを着実に回していくことが重要であり、その際には、それぞれの地域が自主性・主体性を発揮し、地域の特性を活かしたまちづくりに取り組むことが必要である。連合は、産官学金労言をはじめ地域の幅広い関係者とのネットワーク構築・強化をはかり、引き続き地域活性化の実現をめざしていく。
1.大都市一局集中による弊害の是正に向けて、地域の特性を活かしたまちづくりを推進す ることで、知識・産業集積等地域産業の活性化による地域雇用の増大をはかる。そのた めに、核となる企業への支援を行い、地域内・地域間の連携を強化して、地域産業とし ての国際競争力を高める。またディーセント・ワーク実現のための公契約条例の制定など国内法等の整備を行う。
- (1)国内企業の国際競争力を高めるために、国内における生産や研究開発など、事業活動を支援する環境を整備する。
①国は、地場にある地域資源の見直しや産業の掘り起こしを行い、中核となる地場産業等の企業群を定め、地方自治体との連携を図り、関連企業の誘致・育成を進める。また、国や地方が企業を支援する際は、対象企業が持続的に雇用環境の改善や地域社会に貢献する事を条件に加える。
②国は、日本でしか作れない、ものづくりにこだわった製品の品質、デザイン、性能や機能の高付加価値性を、「メイド・イン・ジャパン(日本製)」ブランドとして世界に発信するとともに、政府のトップセールスを実施する。
③国は、地方自治体と連携し、海外の産業集積地の誘致策を研究し、海外企業の誘致を積極的に進める。
④国は、日本を中心とした国際産業クラスターを構築するため、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の推進などを通じ東アジア・ASEANとの経済連携の拡大・深化をはかり、関税負担の撤廃や技術認証の共通化などを進める。
⑤国・地方自治体は、地域産業を支える中小企業の国際競争力強化や自立的成長を促すため、新興国等の海外市場へのアクセスを可能とする情報・ノウハウ提供、人材獲得・育成支援、資金調達支援なども含めた総合的な支援体制を構築する。
- (2)地方自治体と連携し、地域の特性を活かした知識・産業集積を促進し、地域雇用の増大をはかる。
①国および地方自治体が実施する支援等は、全国一律的な基準ではなく、地方の特性・実態を活かしたものとし、支援等の評価・検証は地域住民の理解を得られるよう情報開示を徹底する。
②国・地方自治体は、地域資源を活用した起業や6 次産業化等の産業間連携による新たな地場産業の創出を促進するため、インキュベータ施設、賃貸工場、産学連携施設など、産業支援環境を整備する。インキュベータ施設においては、地域産業との連携や施設を拠点とした多様な人的ネットワークを生かしたビジネスマッチングを推進する。
③国・地方自治体は、NPO・コミュニティビジネス等のいわゆる社会的企業に対する支援を拡充する。とりわけ、コンサルティング能力や、技術商社機能をもつNPOの設立、地方の中小企業や商店街の活性化への支援を行う団体を地域で支援する。
④国・地方自治体は、ベンチャー・ビジネスを支援するために、融資制度の拡充、地域プラットフォーム等創業支援体制の拡充、技術開発の促進策の強化等の支援を行う。
⑤国・地方自治体は、地方における教育・研究機関を充実させる。
- (3)産業の国際競争力の向上、地域の活性化に資する施策を総合的、集中的に推進するために2012 年から本格始動した総合特区制度について、規制、税制、財政、金融等多面的な措置を組み合わせたパッケージ型支援の特徴を最大限活かすために、制度運営の改善をはかる。
①助成措置の主体や法令・通達等の改正が必要な場合の所管省庁が複数にまたがることでの手続きの煩雑さやスピード感の欠如などの問題を解決するため、国と地方の協議会への権限一元化など、縦割りの弊害排除に向けた体制整備と合意までのプロセスの簡素化をはかる。
②特区側の地方自治体は、総合特区計画の策定段階において、真の地域活性化ならびに雇用創出につながるよう、地域協議会での議論、合意形成プロセスの中に労働組合の参画を進めるとともに、地域内での情報提供、意見聴取を十分に行う。
- (4)産業の国際競争力強化と国際的な戦略的経済拠点の形成促進に向けた国家戦略特区制度について、憲法で規定された基本的人権はもとより、生存権や最低労働条件、全国一律で保護されるべき労働者の権利を守るための規制は、規制の特例措置の対象から除外する。
- (5)地域を担うステークホルダーと連携をはかり、中心市街地の活性化に向けて、再開発や大型施設の誘致などハード事業に過度に依存することなく、地域固有の資源を活かしたソフト事業も重視した取り組みを行う。
①「中心市街地活性化協議会」においては、地域の様々な主体・人材の参画や、基本計画への意見反映など、実効性を担保した組織・内容とする。
②中心市街地活性化の推進力向上のための事務局機能の強化に向けて、地域内の様々なセクター間の意見調整や人的・組織的ネットワークの構築を主体的に行う「まちづくり会社」の設立を推進するとともに、そこでの実務を通じてまちづくりを牽引する人材を育成する。
③地域住民が個人で培ってきた経験やスキルのデーターベース化など、住民が生涯を通じてから地域参画できるよう環境整備を進める。
- (6)地域経済を支える企業の事業再生、地方自治体が主体的に取り組む第三セクター改革を支援するとともに、企業、公的セクター、地域関係者、労働組合などと十分な協議を踏まえ、地域の面的再生への支援を行う。
- (7)雇用の安定・創出を実現するために、全都道府県において、労使と連携した懇談会・研究会の活性化をはかる。地域の労働組合代表と地方経済産業局、また地域の労働組合代表と中小企業再生支援協議会等の中小企業を支援する各機関とが、地域の産業振興と雇用・労働条件の維持・安定など、地域活性化策について意見・情報交換を行う場を設ける。また、従来の産官学の連携に加え、地域金融機関、地域の労働組合が参加する産官学金労言が一体となって、地域雇用の創出、新事業展開、技術開発等の地域産業活性化策を検討する場を設ける。
- (8)各自治体においては、「公契約条例」を制定する。また、自治体の工事や業務委託の入札・契約に関わる条例や要綱などに、労働基準法等の労働法制や社会保障関連法規に違反した企業を、発注対象から除外する項目を設けるとともに、発注者の責任も明確にする。(「産業政策」より再掲)
- (9)地方版総合戦略の推進にあたっては、実効性を担保する観点からも産官学金労言の枠組みを維持し、地域の多様な意見が反映される体制でのPDCAサイクルを通じ、総合戦略の不断の見直し・補強を行う。
- (10)地方創生交付金については、申請の簡素化を行うととともに、地方自治体との丁寧なやりとりを通じ、より地域の自主的・主体的取り組みを支援するものとする。
- (11)地方創生の取り組みは行政単位では限界があるため、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」における連携中枢都市圏の形成など、地方自治体間の広域連携の取り組みを支援する。
- (12)地方創生を着実に進めるため、地方人口ビジョン・地方版総合戦略に対する地域住民の認知度や地方創生への国民全体の気運を高める取り組みを支援する。
- (13)2010年に閣議決定された「中小企業憲章」に関する国会決議を行うなど、中小企業の位置付け、中小企業政策の基本理念、政府の行動指針等をより明確にすることにより、中小企業政策の推進をはかる。また、地方自治体は、中小企業振興基本条例の制定促進に向けた環境整備を進めるとともに、条例において地域における労働団体の役割・責任を明確にする。(「産業政策」より再掲)
2.国民にとって安心・信頼でき、地域経済の活性化に資する金融システムを構築する。
- (1)金融機関が健全かつ適正な事業を運営し、預金者等の消費者利益を保護するとともに、地域経済を支える中小企業等に対してきめ細やかな融資判断を通じた資金供給を行うことができるよう、政府は、適切な監督と公的なバックアップを行う。(「経済政策」より再掲)
①地域金融機関は、債務企業の「再生」「活性化」を最優先に据え、不良債権処理にあたっては、地域経済を支える中小企業等の役割や特性を十分に踏まえた上で、直接償却を多用することなく、間接償却も併用し、計画的に進める。
②国・地方自治体は、地域金融機関が地域密着型金融としての役割を発揮し、産官学金労の連携のもと事業再生や成長分野の育成、産業集積など雇用の創出に資する取り組みを推進するよう指導や支援を行う。
- (2)地域経済を支える中小企業・地場産業の活性化に資する金融環境整備を進め、地域金融機関は地域経済活性化支援機構等とも連携し、支援策を着実に実施していく。(「産業政策」より再掲)
3.地方自治体や各地域の労使などの地域関係者の創意工夫を活かした地域雇用対策を推進する。(「雇用・労働政策」より再掲)
- (1)地域雇用に関する雇用創造事業について、「地域雇用活性化推進事業」「地域活性化雇用創造プロジェクト」などの継続・拡充をはかり、地域における自発的な雇用創造の取り組みなどを支援する。事業やプロジェクトの検討・運営に関する協議会などへの労働組合の参加を保障する。
- (2)国(都道府県労働局/地方経済産業局など)・地方自治体・地元経済界などで構成される地域雇用創造に関する会議や協議会などへの労働組合の参加を確保し、地域の雇用創出、地域活性化策などについて総合的に検討する。
- (3)国は、地域主体の雇用創出・地域再生に向けて、Iターン、Jターン、Uターンの促進による人材確保、人材育成、起業促進、企業誘致などについて必要な支援を行う。
- (4)地域での人材育成機会の確保に向け、地域の企業グループが地方自治体と連携し、共同で雇用型訓練を実施するスキームを構築するなど、地域における人材育成の方策を検討する。
資源・エネルギー政策<背景と考え方>
- (1)連合は、2011年3月の東日本大震災により引き起こされた福島第一原子力発電所事故を踏まえ、2011年9月の三役会において、「エネルギー政策総点検・見直しの基本的方向性について」を確認した。その要旨は以下の通りである。
<基本的考え方> ①エネルギー政策の総点検・見直しにあたっては、「脱原発」「原発推進」の2項対立の議論を行うべきではなく、総合的・合理的・客観的なデータにもとづく冷静な議論のもとで、「安全・安心」「エネルギー安全保障を含む安定供給」「コスト・経済性」「環境」の視点から、短期・中長期に分けた検討を行う必要がある。また、国民の理解・納得という観点や「国民合意」のあり方にも十分に留意しつつ検討を行う。
②今回の福島第一原子力発電所事故により、大型の自然災害が不可避なわが国においては、原子力発電所事故が起こり得ること、そしてひとたび事故が起これば、人々の生活や健康、国土・海洋など広範な環境に甚大な被害をもたらす可能性があることを現実のものとして知ることになった。
③このことを踏まえれば、わが国においては、原子力エネルギーに代わるエネルギー源の確保、再生可能エネルギーの積極推進および省エネの推進を前提として、中長期的に原子力エネルギーに対する依存度を低減していき、最終的には原子力エネルギーに依存しない社会をめざしていく必要がある。
<具体的検討にあたっての留意事項> ④原子力エネルギー政策については、今回の事故とこれまでの原子力行政の総合的・徹底的な検証を踏まえ、規制のあり方とリスク管理の見直し、国と事業者の責任区分の明確化が必要である。
⑤短期的な課題としては、産業や雇用への影響に十分配慮しながら、エネルギー安全保障の観点を含め、安定的なエネルギー供給をはかる必要がある。そのためには、無理のない省エネによってエネルギー需要を抑制する一方、既存発電設備の有効活用などによってエネルギー供給の増強をはかる必要がある。その際には、定期点検等による停止中原子力発電所について、周辺自治体を含めた地元住民の合意と国民の理解、安全性の強化・確認を国の責任において行うことを前提に、その活用も含めて検討する必要がある。
⑥中長期的な原子力エネルギーに替わるエネルギー源の確保にあたっては、エネルギーコストの低減や人類全体の課題である温室効果ガスの排出削減などに取り組みつつ、新しいエネルギーのベストミックスを構築する必要がある。
⑦短期・中長期の取り組みにあたっては、再生可能エネルギーの積極推進、化石エネルギーの高度利用、分散型エネルギーシステムの開発、省エネ技術・製品の普及、エネルギー節約型のライフスタイル・ワークスタイルの普及などに対する政策的な支援が必要になる。こうした施策を進める際には、産業の空洞化や雇用の喪失を回避し、グリーン・ジョブの創出と「公正な移行」を通じてグリーン・イノベーションに繋げていく必要がある。
⑧エネルギー政策を見直すことは、国民生活や産業・雇用、働き方にも多大な影響を及ぼすことになり、連合が提唱する「緑の社会対話(仮称)」など、幅広い国民の合意形成をはかりながら、これを進めていく必要がある。
- (2)その後、これにもとづくエネルギー政策総点検・見直しPTにおける検討・報告を経て、2012年9月の第12回中央執行委員会において「連合の新たなエネルギー政策について」を確認し、「2014~2015年度 政策・制度 要求と提言」における資源・エネルギー政策については、「連合の新たなエネルギー政策について」の考え方を厳格に踏まえ策定した。
- (3)以降、「2018~2019年度 政策・制度 要求と提言」における資源・エネルギー政策の策定までにあたっては、その後の状況変化に応じて都度修正・補強を行った。
- (4)2018年7月、中長期的・総合的なエネルギー政策の基本的な方針である「第5次エネルギー基本計画」が閣議決定され、4年ぶりに改定された。本計画には、パリ協定や変化するエネルギー情勢を踏まえ、2030年のエネルギーミックスの実現に向けた対応方針と、2050年に向けたエネルギー転換・脱炭素化へのシナリオなどが盛り込まれている。また、2017年4月から見直しが適用された固定価格買取制度(FIT制度)については、2020年度末までの間にさらに抜本的な見直しを行うこととされている。今後、新たなエネルギーミックスをはじめ、更なる検討が進められる中で、連合は、働く者・生活者の立場から政策の実現を求めていく。
1.短期的に安定的なエネルギー供給をはかるための政策を推進する。
- (1)既存発電設備の有効活用によるエネルギー供給の確保をはかる。
【自家発電設備等の最大限の活用】
①公的な政策的支援によって事業者が自家発電設備等の活用にメリットを感じ、主体的に活用をはかるように環境整備を行う。具体的には、補助金によるコージェネレーションシステムの普及促進、燃料費用の補填、ピーク時間帯において自家発余剰電力が適正価格で買い取られる仕組みの導入、需要家が節電する電力を入札で買い取る「ネガワット取引」の普及拡大などの政策的支援を行う。
②系統制約の問題については、電力品質を確保するための系統連系技術要件の緩和や送配電事業者と新電力間の連系協議の簡素化などをはかる。
【定期点検等による停止中原子力発電所の活用】
③定期点検等で停止中の原子力発電所を再稼働する際には、安全性の強化・確認を国の責任において行うことと、周辺自治体を含めた地元住民の合意と国民の理解を得ることを前提とする。
④安全性の強化・確認と周辺自治体を含めた地元住民の合意と国民の理解については、以下の内容を基本とする。その上で、停止中原子力発電所の再稼働については、国民生活や産業・雇用に与える影響などを勘案し、国が責任を持って判断する。
<安全性の強化・確認について>
原子力規制組織、原子力安全規制(事故を踏まえた新たな規制基準を含む)、原子力防災体制という視点から、安全性の強化を行う。
a)原子力規制委員会は、規制機関として信頼されるために、その目的が「確立された国際的な基準を踏まえた原子力利用における安全の確保(設置法第一条)」であることを踏まえ、強い権限と原子力に関する高度な知見を持ち、政治および行政からの独立性の高い組織とする。
b)原子力安全規制については、以下の点について見直し・強化をはかる。
ア)原子力安全規制は、国内外の幅広い専門家等の意見やIAEA(国際原子力機関)による指摘、福島第一原子力発電所の事故の教訓を踏まえ、科学的・技術的知見を基本に、国際的な基準や先行する海外事例との整合を図りつつ、原子力安全規制の実効性を高めるよう、更なる原子力安全の向上に不断の見直しをはかる。
イ)原子力規制委員会は、新規制基準の適合検査について、審査体制の強化をはかるとともに、規制機関として行った評価や判断について、原子力規制に関する理解と信頼をより一層高めるため、周辺自治体を含めた地元住民や国民に分かりやすく、十分かつ丁寧に説明責任を果たす。
ウ)長期間の運転に伴って生じる原子炉等の劣化状況を踏まえた稼働上限を導入する。(注1)
エ)事業者自らも安全性向上に取り組む責任を明確化する。
c)原子力防災体制については、少なくとも以下の点について見直し・強化をはかる。
ア)原子力規制委員会により策定された原子力災害対策指針については、新たに得られた知見、地方自治体の取組状況や意見、防災訓練の結果等を踏まえ、実効性向上のため継続的に見直し・強化をはかる。
イ)災害発生時等に国民の生命・健康が確保される措置を導入する。
ウ)国は、地方自治体の実施する避難計画や地域防災計画の策定と運用など地域の実情に応じた原子力防災対策の強化等に対し、各自治体に任せるだけでなく、主体性を持ち積極的に関与するとともに、その責任を果たす。(注2)
<周辺自治体を含めた地元住民の合意と国民の理解について>
a)国は、自らの責任において安全性の強化・確認を行ったことを丁寧に説明し、周辺自治体を含めた地元住民の合意と国民の理解を得る。
b)国は、説明にあたっては、国民が正確・透明・公正であると判断できる情報および、その根拠となるデータを含めて公開する。
c)周辺自治体を含めた地元住民や国民に対する説明は、専門用語だけではなく、一般に理解しやすい平易な用語を使って行う。
d)周辺自治体の範囲としては、政府が法定化を検討している防災指針において、避難や屋内退避等の準備が求められることになる「緊急時防護措置を準備する区域(UPZ)」とすることも考えられる。
- (2)無理のない省エネによるエネルギー需要の抑制をはかる。
①東日本大震災によるエネルギー供給制約の教訓を踏まえ、需要を効率的に管理・制御することで省エネをはかるとともに、その経験を中長期な省エネの取り組みにつなげる。
②省エネ製品買替支援の補助金、購入・改築した住宅が省エネ型(高断熱性能など)である場合の補助金や税制優遇措置、HEMS(家庭内エネルギー管理システム)・BEMS(ビルエネルギー管理システム)導入のための補助金などの政策的支援を行い、省エネ製品、ZEH・ZEB(年間に消費するエネルギー量が概ねゼロになる建物)などの導入を促進すべき。
③貯蔵が困難である特性を持つ電力については、ピーク時の需給調整に応じる代わりに割引を行うなど価格メカニズムを活用してピーク需要が抑制される料金体系の導入・普及を促進することや、コージェネレーションシステム、家庭用燃料電池や電気自動車などを含む蓄電池、ガス・灯油空調導入のための補助金などの政策的支援を行い、ピークに着目して需要を抑制する。
④家庭部門やオフィス等においては、照明の抑制、冷蔵庫や空調設備の温度設定を無理のない範囲で控えめにするなど、一人ひとりの省エネ意識の醸成や取り組みの周知拡大と意識付けを粘り強く行う。その際には、エネルギー需給の見える化をはかる。
⑤電気事業者には、電力需要の状況や揚水発電所を含む既存発電設備の稼働状況について情報公開・情報提供を求め、節電行動につなげる。
⑥産業用部門における、操業調整などによるピークカット、ピークシフトは、育児・介護環境などの周辺分野での対応が必要となるなど、労働者への影響が極めて大きいことから、可能な限り回避する。やむを得ず行う場合には、労働者の負担にならない形で行うように、育児・介護環境などの周辺分野も含めて対応する。
- (3)政府は、原子力施設のみならず、火力発電所、送変電設備、ガス施設、製油所、再生可能エネルギー発電設備等の主要なエネルギーインフラ施設の安全対策および大規模災害時におけるライフライン確保・国民生活の安定化策を強化する。
- (注1)改正原子炉等規制法(2012年6月20日可決成立)では、発電用原子炉を運転できる期間は原則として40年とされた。ただし、法の施行状況を勘案して速やかに検討を行い、必要に応じて見直すとしている。
- (注2)政府の防災指針の見直しについて、原子力規制委員会は、2012年10月に原子力災害対策指針を策定し、「予防的防護措置を準備する区域(PAZ:原子力施設から概ね5kmが当面の目安)」、「緊急時防護措置を準備する区域(UPZ:原子力施設から概ね30kmが当面の目安)」を設定した。これに伴い全国にある原発の半径30km圏の自治体に地域防災計画の策定が義務づけられた。
2.中長期的に原子力エネルギーに対する依存度を低減し、最終的には原子力エネルギーに依存しない社会をめざすための政策を推進する。
- (1)国は、以下の基本的方向性および各種エネルギーの位置づけを踏まえ、原子力エネルギーに代わるエネルギー源を確保する。
<基本的方向性>
①わが国においては、原子力エネルギーに代わるエネルギー源の確保、再生可能エネルギーの積極推進および省エネの推進を前提として、中長期的に原子力エネルギーに対する依存度を低減していき、最終的には原子力エネルギーに依存しない社会をめざしていく。
②新しいエネルギーミックスを構築する際には、「安全・安心」「エネルギー安全保障を含む安定供給」「コスト・経済性」「環境」の視点から検討する。併せて、国民生活や雇用、経済への影響を明らかにする。
<再生可能エネルギーの位置づけ>
③再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力、地熱、太陽熱、バイオマス(食用農作物を除く)等)はエネルギー自給率の向上や温室効果ガス排出量の削減の有効な手段であり、原子力エネルギーに代わるエネルギー源の柱とするべく導入拡大を進めていく。
④太陽光・風力などは出力変動が大きいことから、これらの導入が進むことで、需給調整・系統安定化について今後、更なる取り組みを行う。この点、水力・地熱・バイオマス(食用農作物を除く)など供給安定性に優れる再生可能エネルギーの導入拡大が重要である。
⑤電気利用だけでなく、再生可能エネルギーの熱利用についても開発・普及を進めていく。
<化石エネルギーの位置づけ>
⑥原子力エネルギーへの依存度を低減していく中で、再生可能エネルギーの導入拡大には一定の時間を要することを踏まえると、安定供給やコスト・経済性、ベース電源からピーク電源まで幅広く活用できること、再生可能エネルギーの大量導入に伴う調整力としての役割などの観点から、今後とも化石エネルギーが重要な役割を果たしていく。。
⑦一方、CO2削減をはじめとする地球温暖化対策は今後とも必要であり、より環境負荷の小さい資源にシフトするとともに、化石エネルギーの徹底した高度利用を進める。
<原子力エネルギーの位置づけ>
⑧ひとたび原子力発電所事故が起これば、人々の生活や広範な環境に甚大な被害をもたらす可能性があることを踏まえ、安全・安心の観点から、原子力エネルギーに対する依存度は、再生可能エネルギーや化石エネルギーなどによる代替エネルギー源の確保を前提として、中長期的に低減させていく。
⑨既存の原子力発電所については、原子力に関する新たな規制組織・安全規制・防災体制の確立など、安全性の強化・確認を国の責任で行うことと、周辺自治体を含めた地元住民の合意と国民の理解を得ることを前提に、代替エネルギー源が確保されるまでの間、活用していく。なお、建設中の原子力発電所については、停止中原子力発電所の再稼働に関わる考え方(1.(1)③~④参照)に準じて対応する。
⑩原子力発電所の新増設や既設炉リプレースは、周辺自治体を含めた地元住民の合意と国民の理解の観点から、現時点では困難である。代替エネルギー源の確保、原子力技術の革新、使用済燃料の貯蔵・処分状況などを勘案して国が新増設等について責任を持って判断し、最終的には原子力エネルギーに依存しない社会を目指していく。
- (2)再生可能エネルギーは、エネルギー自給率の向上や温室効果ガスの排出削減の有効な手段であり、また、分散型エネルギーシステムの重要な構成要素でもあることから、原子力エネルギーに代わるエネルギー源の柱とするべく積極推進する。その際には、電力の安定供給への影響等も勘案し、再生可能エネルギーの特性や実態を踏まえた導入拡大を進めていく。
①再生可能エネルギーの積極推進に向けた支援策を講じる。
a)再生可能エネルギーの導入に対しては、安全の確保や環境との調和、公正な競争の確保など各種規制の趣旨とのバランスを考慮しつつ、諸外国の状況等も参考に、導入拡大と国民負担の抑制を、最適な形で両立させるような施策が構築されるよう、2020年6月の「再生可能エネルギー特措法」成立以降も引き続き不断の検証を行いながら、必要な措置を講じる。
b)「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)」および2022年4月に導入予定の「FIP制度」は、再生可能エネルギーに対する投資を促進することで量産効果を通じた価格低減が実現し、市場が確立されるまでの経過的な措置とする。
c)「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)」の運用にあたっては、以下の点(ア)~ク)に留意する
ア)買取価格の決定は、所得や地域間での格差の拡大や大口需要者等における雇用問題を考慮した上で、調達価格等算定委員会において、コスト効率的な再生可能エネルギーの導入を促す観点から慎重に検討する。
イ)制度実施に伴う企業や国民の負担について明らかにする。
ウ)買取価格は、再生可能エネルギーの発電設備の区分、設置の形態および規模ごとに決定する。
エ)買取に要する費用の負担は、電力消費者に対して全額を賦課するが、その際には全国一律に調整するなど公平性を担保する。
オ)送配電事業者および小売電気事業者は、正当な理由がない限り、買取や系統への接続を拒むことはできない。
カ)再生可能エネルギー事業の適正な実施を担保するため、安全規制や立地規制等の他法令の遵守や認定情報の公開に取り組むとともに、不適切な事業者に対しては認定の取消等、厳正に対処する。また、相次ぐ自然災害等で安全管理上の事故が多発している太陽光発電設備の保安規制について、公衆安全並びに作業安全を確保する観点から強化を図る。
キ)固定価格買取制度の詳細設計や運用にあたっては、公平な競争環境の確保を図るとともに、再生可能エネルギーの増加と電力安定供給の確保を両立するための調整電源の維持・確保策を講じる。
ク)今後大量に発生する、買取期間が終了する再生可能エネルギー固定価格買取制度対象電源については、当該買取期間においてすでに投資回収がなされていることを踏まえ、エネルギー供給の一翼を担う自立した電源として安定的な発電継続を可能とするような方策について検討する。なお、2009年に開始された余剰電力買取制度の適用対象である住宅用太陽光発電設備は、2019年以降順次、10年間の買取期間を終えることから、買取期間の終了とその後の対応について、官民一体となって広報・周知を徹底する。
d)「FIP制度」の導入にあたっては、再生可能エネルギーの最大限導入と国民負担抑制との両立、主力電源化に向けた電力市場への統合という制度改正の趣旨が堅持されるよう、対象となる電源、規模、プレミアムに係る参照価格の見直し期間等について定めるとともに、制度導入後も不断の検証を行い必要な措置を講じる。
e)「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)」および導入予定の「FIP制度」について、国の明確な責任のもと国民に対し重点的な周知・広報を行う。
f)家庭用の再生可能エネルギー導入の初期コストの低減をはかるため、固定価格買取制度(FIT制度)に補助金を組み合わせるなどの政策的支援を引き続き行う。
g)再生可能エネルギーの導入拡大やレジリエンスの強化、デジタル化への対応など電力ネットワークを巡る環境変化等に的確に対応するため、送配電設備の整備とこれに必要な投資を確保することとし、そのための託送料金制度の設計にあたっては、中長期的な電力安定供給の確保とこれを支える人材の確保・育成等に支障が生じないよう、現場実態や地域特性など関係者の意見等を踏まえながら検討する。
②再生可能エネルギーの積極推進において、以下の点a)~f)に留意する。
a)再生可能エネルギーの導入にあたって地域の人の意見が反映され、出資などによって地域の人が参画し、地域に利益が還元される仕組みづくりを支援する。
b)再生可能エネルギーの導入拡大の進展により、「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」による電力消費者に対する賦課金の増大や、電力多消費産業においては雇用への影響が深刻な問題となっており、引き続き制度の運用状況を注視するとともに、特に、企業や国民負担の妥当性や納得性、再生可能エネルギーの導入量とCO2削減効果、費用負担方法のあり方、国内産業の成長や雇用の創出効果、海外制度の動向などを精査し、最大限の政策効果と全体最適が確保されるよう柔軟かつ機動的な見直しを行う。
c)再生可能エネルギーの導入拡大と国民負担の抑制を両立するため、まずは既存系統を最大限に活用する。その上で、再生可能エネルギーの導入拡大をはじめとした環境変化を踏まえた送配電ネットワークの強化・広域化をはかるとともに、蓄電池や電気自動車などの新たな設備と火力、水力(揚水を含む)、コージェネレーションシステムといった既存設備を有効に組み合わせて活用することで需給調整・系統安定化をはかる、いわゆるスマートグリッドをはじめとするエネルギーマネジメントシステムなどを中長期の視点から構築していく。また、その際の必須機器であるスマートメーターについて、関連労働者の雇用安定等に配慮しながら、その導入を加速する。
d)これら需給調整・系統安定化に伴うコストは、最終的には電力消費者が負担することになることから、その導入のスピードや範囲は慎重にこれを検討する。系統安定化対策について公衆・作業安全の確保との整合をはかる。
e)国は、太陽光パネル等の再生可能エネルギー発電設備について、耐用期限経過後の大量廃棄に備え、設備のリユース・リサイクルや適正処理とともに、発電事業者等のユーザーによる回収・処理費用負担のための措置を講ずる。(「環境政策」6.(19)より再掲)
f)国・地方自治体は、太陽光発電事業に関して、生態系への配慮や、不適切な森林開発等に起因する土砂流出や濁水の防止等に向けて環境影響評価法の対象とし、副次的影響を精査する。(「環境政策」2.(11)より再掲)
- (3)化石エネルギー(石油、天然ガス、石炭)については、原子力エネルギーへの依存度を低減していく中で再生可能エネルギーの導入拡大には一定の時間を要することを踏まえると今後とも重要な役割を果たしていくことになる。その際、地球温暖化対策の側面からは、より環境負荷の小さい資源にシフトするとともに、化石エネルギーの徹底した高度利用を進める。
①化石エネルギーの高度利用に向けた支援策を講じる。
a)化石エネルギーの高度利用に関しては、IGCCやIGFC、高効率ガスタービンなど、先進的な技術開発とその普及を支援する。
b)燃焼効率の良いバーナーへの取替え促進など、需要先での効率化・高度化をはかる。
c)石油火力発電設備については、燃料貯蔵が容易で供給弾力性に富むという特性や、ピーク対応、あるいは再生可能エネルギーに対するバックアップ用として当面は一定数量が必要であることを踏まえ、老朽化した石油火力発電設備はリプレースによってその高効率化をはかる。
②化石エネルギーの安定的・低廉な価格での供給策を講じる。
a)中東における地政学的リスクの増大や資源ナショナリズムの動き、新興国のエネルギー需要増大を踏まえ、官民一体となった資源外交の強化などにより、シェールガスなどの非在来型資源も含めた多様な権益や海上輸送路の確保をこれまで以上に支援し、海外にその大半を依存する化石エネルギーの安定的・低廉な価格での調達手段の確保をはかる。
b)日本の排他的経済水域内に豊富に存在していると推定されるメタンハイドレートについては、メタンガスを安定的に取り出す技術や、空気中への大量のメタンガス放出を防ぐ技術の確立を進めるとともに、将来の商業資源化に向けて積極的に調査研究を進める。
c)産油国との関係強化、中東依存度低下、油田の効率的資産買収、石油の安定供給に努めるとともに、石油価格や輸入量の変動に対応できる体制づくりをめざす。また、独立行政法人「石油天然ガス・金属鉱物資源機構」の透明・公正な支援・連携によって、自主開発体制の強化をはかるとともに、国内資本により透明かつ効率的な運営を行う。
d)LNG・LPガスの安定供給確保に向けて、輸入先の分散化と産出国との関係強化に向けた積極的な資源外交などに努める。また、LPガスについては国家備蓄目標の早期達成と制度の確立をはかる。
e)環境負荷の軽減、ガスの効率的供給を進める観点で、国内パイプライン網を整備し、天然ガスの利用促進をはかる。また、ガス冷房の普及拡大や多様な料金メニューの設定等による季節間・昼夜間の需要の平準化、保安の強化等を促進しながら、安定供給に努める。
f)海外産炭国への生産・保安技術協力を通じて海外炭の安定確保をはかり、石炭の安定供給を確保する。
g)東日本大震災によって脆弱さが露見した国内における石油・ガスのサプライチェーンを強化する。とりわけ、製油所の耐震政策やガス導管の耐震化などの供給インフラの耐性強化を行う。
③世界規模での地球温暖化対策と産業発展・雇用増大に向けた支援策を講じる。
a)わが国は、優れた石炭利用技術をはじめ、世界最高水準のエネルギー利活用技術を有していることから、知的財産保護などに留意しつつ海外においてこれらを活用し、世界規模での地球温暖化防止に貢献するとともに、産業発展と雇用増大につなげる。
b)CCS(CO2回収・貯留)、CCUS(CO2回収・貯留・活用技術)について、経済性や環境課題の解決に加えて、貯留場所確保のための国際的な連携や社会的合意の形成についても支援し、開発・普及により、発電所等の大規模CO2発生源での実装を進める。
④低効率石炭火力発電所の段階的休廃止の実行は、供給安定性や経済性に優れる石炭火力の重要性や、関連労働者の雇用への影響等を踏まえながら、適切な政策支援を講じた上で、慎重に行う。
a)自家発電設備を有する企業は、すでに省エネ法の規制を製造プロセス全体で受けていることから、新たな規制を設けない。
b)とりわけ、廃業や雇用の喪失に直結しかねない小規模な独立系発電事業者や共同火力等に対しては、地域性や個々の事情などを踏まえ、慎重に対応する。
c)既存の低効率石炭火力発電所については、わが国における優れた石炭利用技術を活用し、高効率な石炭火力発電への移行を促進する。
- (4)原子力エネルギーに関する諸課題への取り組みを進める。
①原子力エネルギー規制の強化・見直しをはかる。(1.-(1)-④〈安全性の強化・確認について〉-a)~b)参照)
②原子力エネルギーのリスク管理を強化する。
a)原子力防災体制について、防災指針などの見直しを行う。(1.-(1)-④〈安全性の強化・確認について〉-c)参照)
b)労働者の放射線防護基準について、国際放射線防護委員会の勧告基準に沿って基準を整備し、関係者に分かりやすく周知する。
c)現在、電源立地制度にもとづく交付金の交付を受けている自治体においては、中長期的に原子力エネルギーに対する依存度を低減していく中でも安定的に住民の雇用が確保され、電源立地地域が健全に発展していけるような支援を行っていく。
d)使用済燃料は、既に相当量が存在しているなど、放射性廃棄物の処分は今後の原子力エネルギーの位置づけ如何に拘わらず解決しなければならない課題であり、その処理についてはこれ以上、子や孫の世代に先送りしない。高レベル放射性廃棄物および廃止措置等に伴って生じる低レベル放射性廃棄物の処分事業は、その事業の性格上、地元住民や国民の理解を得ながら、従来以上に国が前面に出た取り組みを行うとともに、最終処分場の選定においては、公正な手続きにもとづく社会的合意が尊重されるよう取り組む。
e)使用済燃料の貯蔵容量に余裕がなくなっている状況を踏まえ、乾式貯蔵を含めて、国が積極的に関与し、幅広く貯蔵容量増加対策を進めていく。
f)使用済燃料の処分を進めるため、放射性廃棄物の処分・貯蔵にかかる負荷軽減がはかられる再処理について、わが国の独自技術などにこだわることなく可能な限り早期の実用化に取り組むとともに、青森県など関係自治体との関係、技術・人的基盤への影響に留意しつつ、将来の政策選択肢の確保という観点から、並行して直接処分や暫定保管を可能とするための技術開発など、多様なオプションの検討を進める。
g)原子力発電所事故の影響は国境を越える可能性があることから、今後、多数の原子力発電所の新設が見込まれるアジア地域も含めて国際的な事故被害を解決するための仕組みづくりにも取り組む。
③原子力エネルギーに関する国と原子力事業者の責任区分を明確にする。
a)万一、原子力発電所に関わる事故が生じた場合には、被害を受けた住民や事業者が将来の健康管理なども含めて長期的に賠償・支援を受けられる体制が必要であることから、一義的には原子力事業者が引き続き無過失責任を負って賠償や支援に取り組む。
b)一方、原子力発電は国がその政策として推進してきた経緯があるため、国は、原子力損害賠償法の趣旨を踏まえ、国民負担にも留意しながら、被害を受けた住民や事業者が適切な賠償・支援を受けられるよう必要な措置を講じる。
c)被害者に対する仮払いなどの措置を含め、賠償指針が迅速に策定されるよう、国や原子力事業者の体制を事前に整備する。
④原子力技術と人材を確保する。
a)原子力エネルギーへの依存度を低減していく中にあっても、安全を確保するための原子力技術と人材、あるいは高経年廃炉、放射性廃棄物の処分に関する技術と人材などを確保する。
b)福島第一原子力発電所事故を受けて、今後は事故時の労働者の安全確保、事故を起こした原子力発電所の廃炉、除染、使用済燃料の貯蔵といった分野における技術と人材を育成・確保していく。
c)福島第一原子力発電所事故の教訓も含めてわが国が持つ高度な技術・人材により、原子力利用に関する安全確保やリスク管理の向上などの分野で世界に対して貢献していく。
d)国は、原子力事業者、大学、メーカー、研究機関などと密接に連携しながら、原子力技術と人材の安定的確保について、引き続き責任を持って取り組んでいく。その際には、原子力エネルギーに携わる人材が誇りと自信を持って働けるための環境を整備する。
- (5)省エネの推進、省エネ技術・製品の普及、エネルギー節約型のライフスタイル・ワークスタイルの普及をはかる。
①省エネ技術・製品の開発・普及に向けた支援策を講じる。
a) 省エネ製品買替支援の補助金、購入・改築した住宅が省エネ型(高断熱性能など)である場合の補助金や税制優遇措置、HEMS(家庭内エネルギー管理システム)・BEMS(ビルエネルギー管理システム)導入のための補助金などの政策的支援を行い、省エネ製品、ZEH・ZEB(年間に消費するエネルギー量が概ねゼロになる建物)などの導入を促進すべき。(1.(2)②より再掲 )
b)中長期的に省エネ効果を維持・向上していくためには、省エネにかかる技術・製品の研究開発が重要であることから、研究開発投資に対する補助金や税制優遇措置などの政策的支援を行う。
c)省エネは、電力についてだけ行うのではなく、熱や動力なども含めて検討し、ガスや石油製品も含めた最適活用を通じてエネルギー効率を高め、エネルギー全体の消費を抑制していく取り組みを進める。
d)省エネに資する国土インフラとして、コンパクトシティ化やモーダルシフトを推進する。
e) 諸外国では使用禁止であるが、わが国の省エネ基準では適合品となっている製品については、その基準を見直し、一層の省エネ推進をはかる。
②ピークに着目した需要抑制・節電を促進する。
a)貯蔵が困難である特性を持つ電力については、ピーク時の需給調整に応じる代わりに割引を行うなど価格メカニズムを活用してピーク需要が抑制される料金体系の導入・普及を促進することや、コージェネレーションシステム、家庭用燃料電池や電気自動車などを含む蓄電池、ガス・灯油空調導入のための補助金などの政策的支援を行い、ピークに着目して需要を抑制する。(1.(2)③より再掲)
b)ピーク時の節電を進めるため、市場黎明期にある蓄電池の普及を政策的に支援することで、量産効果を通じて、安全・高品質な製品の価格低減と市場確立を促進する。
③エネルギー節約型のライフスタイル・ワークスタイルの普及を促進する。
a)家庭部門やオフィス等においては、照明の抑制、冷蔵庫や空調設備の温度設定を無理のない範囲で控えめにするなど、一人ひとりの省エネ意識の醸成や取り組みの周知拡大と意識付けを粘り強く行う。その際には、エネルギー需給の見える化をはかる。(1.(2)④より再掲)
b)照明に要するエネルギーの削減を進めるため、自然の光を取り込む技術の開発・普及を進める。
c)空調設備の温度設定を控えめにするために季節ごとの気候に合わせた服装で勤務すること(スーパークールビズなど)の定着や、環境配慮型の消費行動の促進など、エネルギー節約型のライフスタイル・ワークスタイルの醸成・定着に取り組む。
- (6)分散型エネルギーシステムの開発・普及を促進する。
①東日本大震災により、大規模電源に電力供給の大部分を依存する体制から、再生可能エネルギー、自家発電設備といった分散型エネルギーと大規模電源が相互に補完的な役割を果たす新しい電力供給体制への変革を進める。
②分散型電源には、発電場所と需要場所が近接することで送電ロスを抑制することができ、また、コージェネレーションシステムや蓄熱設備では熱エネルギーを有効活用することも可能であり、分散型エネルギーの開発・普及を促進し、地域の特性に合わせたエネルギー使用効率を高める。
③分散型エネルギーは、平時だけでなく非常時も想定に入れて活用できる仕組みづくりを進める。また、小型石炭火力発電などの自家発電設備については、コージェネレーションとしての高効率化とC02源対策を推進するための政策的支援を行う。
④再生可能エネルギーの導入にあたって地域の人の意見が反映され、出資などによって地域の人が参画し、地域に利益が還元される仕組みづくりを支援する。(2.(2)②aより再掲)
⑤未利用エネルギー(生活排水・下水の熱、工場等の排熱、河川・海水の熱、雪氷熱など)について、高温域から低温域にわたる各段階において、発電用途も含めて無駄なく組み合わせるエネルギーシステムの整備を通じて、熱需要に対応する研究開発・普及を進める。
- (7)エネルギー供給は国民生活・経済活動に必要不可欠であり、エネルギーに関する基本政策などの策定にあたっては、国民の理解・納得、国民合意を得る。
①政府は、国民への「情報公開・情報提供」を適切に行った上で、「公正な手続き」を経て、エネルギーに関する基本政策について国民の理解・納得、国民合意を得る。
②国民に正確・透明・公正に「情報公開・情報提供」を行う。
a)国民に説明する際には、正確・透明・公正であると判断できる情報が根拠となるデータを含めて公開し、周辺自治体を含めた地元住民や国民に対する説明は、専門的な言葉ではなく、理解しやすい平易な言葉を使用する。
b)国民が、提供される情報を正確・透明・公正であると判断できるようにするため、国民の国に対する信頼を回復する。政府は、東日本大震災と福島第一原子力発電所事故以降の対応によって、とりわけ原子力エネルギー政策に関する国民からの信頼が著しく低下していることを真摯に受け止め、その信頼回復に向けた懸命な努力を行う。
③国民の理解・納得、国民合意のための「公正な手続き」を行う。
a)「公正な手続き」は、府省庁の枠を越え政府全体で認識を共有しつつ国民の理解と協力のもとで、労働代表、産業代表、消費者代表など広く国民各界各層が参加する公正で透明な国民的議論を経て確立する。
b)「公正な手続き」が安定的に運用されるためには、原則として法律の定めによることが望ましいことから、事前に様々な事態を想定した「公正な手続き」を法制化する。
- (8)電力システム改革は、「品質や供給信頼性を含めた安定供給」、「安全確保」、「安定的で低廉な価格」、「事業者の創意工夫によるサービスの向上」を目的として進める。
①電力システム改革を進める際には、安定供給、保安の確保、ユニバーサルサービスを前提とする効率的な供給体制が構築・維持されるよう、必要に応じて改善策を講じる。
②送配電部門の法的分離に関する諸課題への対応については、再生可能エネルギーの普及・拡大への対応、保安・災害対応力の向上、送配電網等の効率的なインフラ整備、低廉かつ安定的な電力供給確保等の観点を十分考慮した検討を行うとともに、必要な人材の確保・育成、関連技術・技能の継承、職業選択の自由など労働者の権利、労使自治の保障を前提とする。
③改革の実施にあたっては、市場に参加するすべての事業者が、公益的責任を果たすことを前提とした上で、公正で中立的な競争環境を整備することとし、特定事業者に対する非対称規制や過度な行為規制は避ける。
- (9)ガスシステム改革は、「品質や供給信頼性を含めた安定供給」、「安全確保」、「安定的で低廉な価格」、「事業者の創意工夫によるサービスの向上」「天然ガスの普及・拡大」を目的として進める。
①ガスシステム改革を進める際には、消費者・社会の総合的な利益や公正・公平な競争環境の整備といった視点を重視するとともに、とりわけ、安定供給、保安の確保、大規模災害時の対応力が維持されるよう、必要に応じて改善策を講じる。
②導管部門の法的分離に関する諸課題への対応については、天然ガスシフトや分散型エネルギーシステムの普及・拡大、保安・災害対応力の向上、ガス導管網等の効率的なインフラ整備、導管網整備に不可欠な小売部門と導管部門の連携、低廉かつ安定的な原料調達等の観点を十分考慮した検討を行うとともに、必要な人材の確保・育成、関連技術・技能の継承、職業選択の自由など労働者の権利、労使自治の保障を前提とする。
③改革の実施にあたっては、市場に参加するすべての事業者が、公益的責任を果たすことを前提とした上で、公正で中立的な競争環境を整備することとし、特定事業者に対する非対称規制や過度な行為規制は避ける。
- (10)政府は、改めてわが国における資源・エネルギー外交の基軸を固め、資源・エネルギーの長期安定確保・供給の実現に向けて主体的役割を果たすとともに、将来にわたって資源を確保していくため、近海を含めて、開発可能な国内資源の調査・開発を進める。また、海外資源の国際共同調査・開発への支援を強化する。
①資源供給国との関係強化および海外資源の自主開発・共同開発の拡大に積極的に関与する。
②資源・エネルギー供給変動や価格乱高下に備え、国家備蓄の充実および放出態勢・基準を整備する。また、災害発生時等に備え、アクセスルート等の整備・充実をはかる。
③希少金属(レアメタル)、希土類(レアアース)を含めた希少資源の安定調達・供給に向けて、供給国との関係強化、供給源の多様化など、官民が一体となった総合的かつ戦略的な取り組みを行う。また、長期のリスクに備えられるよう、国家備蓄の充実および放出態勢・基準を整備する。
④供給国による不当な行為については、WTOへの提訴など厳正な対応を行う。
⑤希少資源については、いわゆる「都市鉱山」のリサイクルの事業環境整備・技術開発の促進および代替原材料の開発を進めるとともに、希少金属の海外流出抑制のための制度を創設する。
⑥資源・エネルギー輸送の安定・安全性確保のため、日本籍船舶と日本人船員の確保や海上輸送ルートの治安改善に向けた国際的な連携・協力など、必要な措置を講じる。
⑦国内炭鉱閉山後の地域活性化、雇用機会増を実現する。
⑧国内休廃止鉱山の管理については、地域住民の健康保護と環境保全の観点から、助成制度等による国の支援を強化する。
3.政府は、国内のグリーン・ジョブの創出と低炭素社会への移行に伴う経済・社会情勢の変化が雇用に悪影響を与えないための対策(「公正な移行」)を講じる。
- (1)エネルギー政策の見直しによって、国内産業の競争力低下や空洞化、国内雇用への悪影響を引き起こすことを回避する。
- (2)エネルギー政策の見直しは、様々な形での産業構造転換をもたらす可能性が高いことから、政府は、低炭素社会への移行に伴う経済・社会情勢の変化が雇用に悪影響を与えないための対策(「公正な移行」)をこれまで以上に講じる。
- (3)原子力関係産業では、中長期的に原子力エネルギーに対する依存度を低減していく中では一定の産業構造変化が不可避であることから、「公正な移行」のための教育訓練などの支援を行う。
- (4)再生可能エネルギー、自家発電設備といった分散型エネルギーと大規模電源が相互に補完的な役割を果たす新しい電力供給体制を社会システムとして海外展開し、関連産業の振興と新規雇用の創出を支援する。また、再生可能エネルギー事業を展開するにあたっては、大型蓄電システムの商用化に向けた取り組みを推進する。
- (5)わが国は、優れた石炭利用技術をはじめ、世界最高水準のエネルギー利活用技術を有していることから、知的財産保護などに留意しつつ海外においてこれらを活用し、世界規模での地球温暖化防止に貢献するとともに、産業発展と雇用増大につなげる。(2.(3)③aより再掲)
- (6)燃料電池は、クリーンエネルギーであると同時に、分散型電源の普及や産業活性化にも寄与することから、さらなる技術開発を進めるとともに、安全性・耐久性等の技術基準を整備して可能な限り前倒しで広く本格導入を行う。また、家庭用定置型燃料電池の普及促進のために、補助金を拡充する。
- (7)燃料電池自動車、電気自動車、ハイブリッド車、天然ガス自動車等のクリーンエネルギー自動車や燃費効率の高いディーゼルエンジン等の開発・普及促進のための支援を行う。また、スマートグリッド等の次世代エネルギー社会システムの構築に重要な役割を果たす次世代自動車(ハイブリッド車、電気自動車、プラグイン・ハイブリッド自動車等)を活用した充放電システムや定置型蓄電池等に対する開発および導入への支援を推進する。
- (8)水素社会に向けた水素供給源・供給設備に関する技術開発や水素スタンド等のインフラ整備に対する支援を継続・拡充するとともに、必要な規制の見直しを進める。要な規制の見直しを進める。
雇用・労働政策<背景と考え方>
- (1)新型コロナウイルス感染症の影響が長期化しており、業況が悪化している業種で働く労働者やパート・有期・派遣で働く労働者などの雇用が脅かされている。政府は、新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の周知徹底やさらなる活用の促進に加え、求職者支援制度の要件緩和や特例措置を設けるなど職業訓練の拡充をはかっているが、今後さらなる対策も必要となる。
- (2)また、労働者の雇用を守るため、雇用調整助成金や産業雇用安定助成金なども活用しつつ、雇用調整助成金の活用などにより雇用を守りながら、雇用創出効果の高い分野に施策を集中し、産業政策と雇用政策を一体的に推進することが重要であり、同時に、パート・有期・派遣による雇用から正規雇用への転換促進、就労支援策の拡充、最低賃金の引き上げ、社会保険の適用拡大、若年者雇用対策の強化など、重層的な積極的雇用対策や社会的セーフティネットの整備に一層取り組む必要がある。雇用保険を財源として、失業等給付や各種助成金など「雇用のセーフティネット」が維持されているが、その財源の枯渇化が懸念されており、一般会計から十分な繰り入れが行われなければ、今後、さらに雇用情勢が悪化した場合に必要な対応ができなくなる。雇用保険の積立金財高については、一定量をつねに確保するとともに、暫定的に引き下げられた国庫負担を法律本則へ復帰させておく必要がある。
- (3)若者の雇用・就労の状況も、コロナ禍の影響を大きく受けている。大学生等の就職内定状況が前年に比べ悪化していることから、新たな就職氷河期世代を生じさせない対策が必要である。また、政府は3か年の集中対策として就職氷河期世代支援プログラムをとりまとめたが、コロナ禍の制限により、十分に機能を発揮できたとはいいがたい。求人の開拓や、資格の取得などを含めた教育訓練をより充実させるとともに、個人のニーズに沿った就職に向けたマッチングを強化し、若年層が長い職業生活を安心して働き続けられるよう、社会全体で若年雇用対策に取り組むことが重要である。
高年齢者雇用安定法の改正を受け、今後、高齢者の雇用はさらに進展することが見込まれている。就労を希望する労働者の増加や、雇用と年金の接続の観点からも、雇用形態にかかわらず希望するすべての労働者への70歳までの雇用確保が求められる。一方で、健康上の理由や家族介護などで継続雇用を希望することが難しい者に対する社会的セーフティネットの整備など、残された課題の解決も必要である。
2021年3月から障がい者の法定雇用率が引き上げられた。また、「障害者雇用と福祉施策の連携強化に関する検討会」において、これまで雇用と福祉がそれぞれで進めてきた就労支援などを今後一体的に進めるための議論が行われている。雇用と福祉双方の連携強化にむけた議論動向を注視しつつ、企業や障がい者ニーズも踏まえ、連合としても適宜意見反映をしていくことが重要である。
引き続き、職場における障がい者の差別禁止と合理的配慮の提供が、官民問わず適切に実施され、「働きづらさ」をかかえる労働者が、手帳を取得していなくても、就労困難性を判断して法定雇用率の対象にするなど、ソフト面・ハード面の双方から「働きやすい」環境整備を進めるとともに、法定雇用率の達成をめざし、さらなる支援が必要である。
- (4)日本で働く外国人労働者数は、コロナ禍において増加の一途を辿っている。外国人技能実習制度における賃金未払いや長時間労働をはじめとした、労働関係法令違反および人権軽視などの問題は依然として後を絶たない、加えて、コロナ禍による外国人労働者の解雇、雇止めなどの問題も明らかになっている。
一方、2019年4月より施行された「特定技能」制度は、施行2年後を目途に2021年以降見直しの議論が行われる予定である。日本で働くすべての外国人労働者の人権や権利が保障されるよう、外国人技能実習法を含め、外国人労働者政策として総合的な検討および体制整備を行うべきである。
- (5)コロナ禍において、テレワークをはじめとする柔軟な働き方が多くの企業で導入・活用されるなど、労働者の働き方は大きく変化している。テレワークや副業・兼業などの働き方は労働者にとっての利便性やニーズがある一方、労働時間が把握しづらい。更なる労働時間管理の徹底が求められる。
パートタイム労働者を除く一般労働者の年間総実労働時間は、業種によるバラつきはあるものの、10年ぶりに2000時間を下回ったが、過労死等の労災支給決定件数は高水準で推移している。「過労死等の防止のための対策に関する大綱」等に基づき、業種毎の調査・分析などを通じた施策の実効性確保や、曖昧な雇用で働く就業者も含めた長時間・過重労働対策の強化が求められる。
- (6)厚生労働省「労働組合基礎調査」によれば、労働組合の推定組織率はわずかに上昇しているものの2割に満たない水準で推移している。とくに正規雇用でない労働者の多くは未組織であり、集団的労使関係の及ばない労働者も多く存在している。
法令上「過半数代表」が関与する制度は、労働関係法のみならず、多く存在している。改正労働基準法における時間外労働の上限規制や同一労働同一賃金の法整備等をはじめ、「過半数代表」が果たす役割の重要性は高まっている。しかしながら、会社側の指名をはじめとした不適切な方法による選出など、必ずしも職場の代表としての正当性が担保できていない。まずは、過半数代表者の適正な選出や運用が図られるよう厳格な対応を徹底するとともに、引き続き労働者代表法制などの労働組合のない職場における労働者の声を反映する仕組みについて検討が必要である。
- (7)AIやIoTなど、第4次産業革命などの進展に対応した職業能力開発の「質のさらなる向上と量の拡大」が求められている。特に、デジタル化に対応できる人材育成支援メニューなどの充実が重要である。また、高齢者雇用安定法の改正により、労働者として働き続ける期間もさらに長くなることから、リカレント教育など働き続けながら、新たな知識や技術を習得することも必要となる。一方で、コロナ禍により特定の産業・企業において、離職を余儀なくされた労働者も相当数に上ることから、求職者支援制度の拡充を含め、セーフティネットとしての職業訓練を強化していく必要がある。
- (8)就業形態の多様化、IT化の進展、プラットフォームエコノミーの台頭等により、現行の「労働者」概念では捉えられない「曖昧な雇用」で働く就業者が増加している。コロナ禍において、「曖昧な雇用」で働く就業者のセーフティネットの脆弱性が顕在化する中、政府は「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を公表したが、ガイドラインは従来の考え方をまとめたものにとどまっている。従来の労働関係法令では対象とならない就業者の保護は喫緊の課題であり、社会の実態や就業形態の多様化などを踏まえた「労働者」概念の早急な見直しと拡充が求められる。
- (9)政府の「第13次労働災害防止計画」にもとづき「労働災害の撲滅」や「過労死等の防止等の労働者の健康確保対策」、「就業構造の変化及び働き方の多様化に対応した対策」などについて、企業規模や雇用形態に関わらず政労使で推進する必要がある。また、働き方改革を受けた長時間・過重労働対策や、今後増加が想定される高齢労働者や外国人労働者への安全確保対策も確実に実行していくことが求められる。さらに、いじめやハラスメントを含む職場の人間関係によるストレスやコロナ禍におけるテレワークの普及などによる新たな課題も勘案したメンタルヘルス対策も必要となる。同時に、新型コロナウイルスによる重症化リスクが高いとされる基礎疾患を抱えながら働く者への配慮を含め、「治療と仕事の両立支援」を制度としてあらかじめ整備しておくことも重要である。
- (10)いわゆる「無期転換ルール」については、施行後8年(2021年4月)の経過後に検討を加える旨が労働契約法の附則に規定されており、有識者による検討が行われている。施行状況を踏まえ速やかに検討を進め、労働者保護および実効性確保の観点から必要な措置を講ずるべきである。 また、有識者による「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」が行われているが、我が国では、既に労働審判員制度をはじめとした現行の労働紛争解決システムが有効に機能している。個別労働紛争の解決に向けては、既存の紛争解決システムの運用面での改善や、労働紛争を未然に防ぐための労働教育の実施などについて充実を図るべきである。
1.ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を中心に据えた雇用の拡大をはかるとともに、劣化した雇用の質を回復させる。
- (1)産業政策と雇用創出を一体的に推進し、良質な雇用の拡大をはかることで完全失業率2%台を堅持しつつ、雇用の質の回復を実現する。雇用および労働は、経済と社会の発展を支えるための前提であり、雇用の質の向上と働く意欲のある労働者の完全雇用実現の方策を、国の基本政策の中心に据える。
- (2)雇用の原則は「期間の定めのない直接雇用」であることを基本とし、非正規雇用から正規雇用への転換を促進する。
- (3)劣化した雇用の質を回復させるため、過労死やいわゆる「ブラック企業」などの問題に早急に対処するなど、国および地方自治体における労働行政を充実・強化する。
- (4)ディーセント・ワークの実現に向け、人や社会の成長を促す雇用・労働環境の整備、公平・公正なワークルールの整備と社会保障システムの再構築、職場における諸課題の解決システムの強化、労働政策を支える基盤の充実、職業生活を通じた自己実現をはかる観点から、「雇用基本法」(仮称)の策定をはかる。労働者が主体的に職業生活を充実・発展させていくことを基礎づける権利としての「キャリア権」を「雇用基本法」(仮称)に規定する。
- (5)労働者の意見を真に反映することができる政策決定プロセスを確立する。
①公労使の三者構成原則の重要性を再認識し、労働政策審議会の一層の強化をはかる。
②雇用・労働分野に限らず社会の多様な課題解決を進めるために、マクロの政策決定の場に労働者・労働組合代表が参加することができる仕組みを構築する。
2.失業から良質な雇用に早期に復帰・移行できるセーフティネットを拡充する。
- (1)雇用保険制度の充実をはかる。
①雇用形態にかかわらず、すべての雇用労働者に雇用保険を適用することとし、雇用保険の適用対象の拡大(週所定労働時間20時間未満の労働者、日雇労働求職者給付の受給資格要件の緩和など)をはかる。
②基本手当について拡充する。
a)法定賃金日額・所定給付日数・給付率を2000年改正前の水準にまで回復する。
b)特定受給資格者以外(一般離職者)に対する給付制限期間(3ヶ月)について、期間短縮などの見直しを行う。
c)災害時おける雇用保険の特例措置(実際に離職していなくとも基本手当の受給が可能となる措置)について、制度利用後に雇用保険被保険者資格を取得した場合、休業又は一時離職前の雇用保険の被保険者であった期間も通算できるようにする。
d)所得再配分と生活保障の観点から、「最低保障手当額」(仮称)の創設、家族を扶養する求職者の基本手当の手当額加算など、セーフティネットの拡充を検討する。
③2017年度から5年間の暫定措置である特定理由離職者(雇止めなどによる離職者)の所定給付日数の拡充については、制度の恒久化や雇止め離職者を特定受給資格者の対象へ追加するなど、有期契約労働者のセーフティネットを確保する。
④雇用保険の国庫負担については、失業時の生活の安定をはかることは国の責務であり、国庫負担の時限的引き下げが終了する2022年までに本則(4分の1)に確実に戻す。
⑤雇用保険の積立金は、給付の改善と財政運営の安定性のバランスを考慮し、適正な水準とする。なお、雇用保険の積立金は、労使が拠出した保険料のみで構成されており、その使途については労使の意見を最大限尊重する。
⑥雇用保険料率(失業等給付および雇用保険二事業)のあり方については、雇用失業情勢などを十分に踏まえ、雇用保険財政の安定的な運営の確保と給付水準の回復の観点から、安易な料率の引き下げは行わない。また、雇用・失業情勢が大幅に悪化した場合などに、雇用保険二事業などへの一般財源の投入も機動的になされる仕組みを構築する。
⑦教育訓練給付制度(一般教育訓練、専門実践教育訓練)については、リカレント教育が国の重要な政策課題としていることから、国の責任により一般財源で実施するよう見直しを行う。
⑧雇用保険を財源とする育児休業給付・介護休業給付については、少子高齢化対策が国の重要な政策課題であることから、国の責任により一般財源で実施するよう見直しを行う。
⑨労働保険特別会計の雇用保険二事業および労災保険の社会復帰促進等事業については、より効率的・効果的な事業として見直しを行いつつも、必要な事業は引き続き実施する。なお、雇用関係委託事業の委託先事業者の決定にあたっては、入札価格のみならず、事業内容の質を適正に評価した選定を行う。雇用関係助成金の生産性要件については、企業間格差の助長や当該企業の労働条件の悪化につながらないよう適正に運用する。
⑩雇用維持の観点から高い政策効果を有する雇用調整助成金については、その仕組みを堅持した上で以下の対応をはかる。
a)雇用失業情勢の変化に応じて要件を緩和するなど、機動的に運用する。
b)受給申請において、虚偽の報告(労働者への休業手当が支払われていなかったなど)を行った企業への罰則を強化する。
c)雇用調整助成金の適用対象外である「事故又は災害により施設又は設備が被害を受けたことによるもの」および「行政処分又は司法処分によって事業活動の停止を命じられたことによるもの」に伴う経済的損失を「経済上の理由」として適用対象とする。
d)一定規模以上の災害の発生などにより雇用調整助成金の財源が枯渇した場合は、国の責任として一般財源を投入できるようにするなど制度・財源のあり方を検討する。
e)産業雇用安定助成金を恒久的な制度とするとともに、雇用調整助成金の在籍出向も活用し「失業なき労働移動」を実現させる。また、個々の労働者の希望を踏まえたマッチングが実現できるよう、出向先の確保も含め、体制の強化をはかる。
⑪労働移動支援助成金については、離職を余儀なくされる労働者の再就職支援に必要な場合にのみ適用されるよう、支給要件を見直し、厳格に運用する。
⑫65歳以上のマルチジョブホルダー(複数の事業所で雇用される者)を対象に試行される2つの事業所の労働時間を合算して適用する制度については、対象となる可能性のある労働者に対し、制度実施の前から十分に周知・広報を行うこと。
⑬求職者支援制度の財源は、雇用保険制度から分離・独立した制度として全額一般財源で負担するよう見直しを行う。
- (2)公共職業安定所(ハローワーク)の機能を強化する。
①ILO第88号条約(職業安定組織の構成に関する条約)にもとづき、無料職業紹介、雇用対策(企業指導)、雇用保険(失業認定と失業給付)は国の指揮監督と責任により、全国ネットワークで一体的に運営する。
②国と地方自治体が連携して就労支援・生活支援を行う「一体的実施事業」を推進する。その際、運営協議会への地域労使の参画をはかり、求職者・利用者の利便性を向上させる。
③ハローワークの常勤職員を増員し、非常勤職員の常勤職員への転換を進めるなど、組織・人員体制を強化する。
④新卒者や3年以内の既卒者の支援を行う「ジョブサポーター」や、求職者の状況に応じたきめ細かな支援を行う「就職支援ナビゲーター」の増員、「ジョブ・カード制度」の技能・評価情報の活用などを通じ、キャリア・コンサルティング機能を向上させ、マッチング機能を強化する。
⑤就労を希望する高齢者に対し、ハローワークの生涯現役支援窓口等を活用しつつ、本人の意向を踏まえた適切な就労支援を行う。
⑥障がい者の就労促進に向け、ハローワークを中心とした「チーム支援」を強化する。
- (3)求人トラブルの抜本的解消に向け、2017年改正職業安定法の周知・徹底を行うとともに、職業紹介事業や募集情報等提供事業等、求職者や求人者が利用する事業の多様化を踏まえ、いかなる事業形態であれ適正な事業運営が行われるよう指導を強化する。
3.地方自治体や各地域の労使などの地域関係者の創意工夫を活かした地域雇用対策を推進する。
- (1)地域雇用に関する雇用創造事業について、「地域雇用活性化推進事業」「地域活性化雇用創造プロジェクト」などの継続・拡充をはかり、地域における自発的な雇用創造の取り組みなどを支援する。事業やプロジェクトの検討・運営に関する協議会などへの労働組合の参加を保障する。
- (2)国(都道府県労働局/地方経済産業局など)・地方自治体・地元経済界などで構成される地域雇用創造に関する会議や協議会などへの労働組合の参加を確保し、地域の雇用創出、地域活性化策などについて総合的に検討する。
- (3)国は、地域主体の雇用創出・地域再生に向けて、Iターン、Jターン、Uターンの促進による人材確保、人材育成、起業促進、企業誘致などについて必要な支援を行う。
- (4)地域での人材育成機会の確保に向け、地域の企業グループが地方自治体と連携し、共同で雇用型訓練を実施するスキームを構築するなど、地域における人材育成の方策を検討する。
4.有期契約、パートタイム、労働者派遣、請負など、多様な雇用・就業形態の労働者の雇用の安定と公正な処遇を確保する。
- (1)同一労働同一賃金の法整備の施行状況や待遇差に関する司法判断の蓄積などを踏まえつつ、雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇を実現に向けた取り組みを進める。
①同一労働同一賃金に係る法整備の実効性を確保するため、「同一労働同一賃金ガイドライン」を含め、パート・有期雇用労働者のあらゆる待遇差の改善に関し、労使への周知徹底をはかる。併せて、相談・支援体制の一層の充実・強化をはかる。
②待遇差の合理性の立証責任の使用者への転換や、待遇差が無効とされた場合の補充効の明確化など、残された課題について検討を進める。
③派遣労働者の待遇決定に関しては、派遣先から派遣元への情報提供義務の徹底など、法の実効性を確保するための周知及び指導徹底をはかる。
- (2)有期労働契約について、2012年改正労働契約法や有期特措法の施行後の運用状況の検証を行い、残された課題に引き続き取り組む。
①労働契約法第18条の無期転換ルールについて、法施行後の無期化と雇止めに関する検証を行う。
②有期労働契約の締結には合理的理由を必要とする入り口規制を行う。
③「有期労働契約の締結、更新および雇止めに関する基準」(大臣告示)の法制化をはかり、雇止め予告について、予告期間未満の場合の手当の支払も含めた制度化を検討する。
④有期特措法について、法施行後の特例の適用状況の検証を行い、労働者保護の趣旨が損なわれている場合には廃止も含めた制度の見直しを行う。
- (3)2020年7月の労働力需給制度部会における「労働者派遣制度に関する議論の中間整理」を踏まえ、改めて法の周知を徹底するとともに、厳格な指導・監督を行う。
①派遣労働者の希望を踏まえた雇用安定措置や、派遣期間延長の際の労働組合等への意見聴取の着実な実施を徹底する。
②引き続き検討課題とされた派遣先の団交応諾義務について、法定化に向け、労働組合法との関係も含めて早期に専門的見地から検討を開始する。
③「労働契約申込みみなし制度」の運用状況を検証しながら必要な見直しを行うとともに、対象となる偽装請負・違法派遣の一掃に向けた指導・監督を強化する。
④日雇い派遣は原則禁止を堅持し、禁止の例外事由の拡大などは行わない。
- (4)就業者保護の観点から法的に未整備の部分が多い、「クラウド・ソーシング」の普及などにより拡大傾向にある「自営型テレワーク」や「個人請負」「委託労働」などの形態で働く者について、適切な保護をはかる。
①労働基準法などの規定の趣旨に照らして保護すべき労働者は、雇用労働者に適用される労働関係法令を適用する。
②「曖昧な雇用」で働く就業者保護をはかるべく、「労働者」概念を社会の実態に合わせて見直し、拡充する。
③「労働者」概念の見直しと並行して、契約条件の明示や報酬額の適正化、契約の締結・変更・終了に関するルールの明確化等の法整備を図る。
④「曖昧な雇用」で働く就業者のうち、より独立性、事業者性が強い働き方をする者に対しては、個別の論点により保護の必要性について検討する。
- (5)副業・兼業の安易な推進は行わない。また、複数就労せざるを得ない者の保護に向け、法的未解決の課題を整理する。
①労働保険については、すべての雇用労働者にとってのセーフティネットとなるよう、適用と給付のあり方について検討を進める。
- (6)国や地方自治体の臨時・非常勤等職員の雇用の安定と待遇改善をはかるため、公務が適用除外とされる労働契約法やパート・有期法の趣旨が国家公務員・地方公務員制度へ反映されるようにさらに必要な法整備をはかる。
5.雇用労働環境の変化などに対応するワークルールの整備、確立をはかるとともに、集団的労使関係システムを構築する。
- (1)労働者保護の視点から、内定取消しの法理など確立した判例法理を条文化するなど、労働契約法の内容を強化し充実化する。
①労働契約法が対象とする労働者の範囲を拡大する。
②ILO第158号条約(使用者の発意による雇用終了に関する条約)を批准する。
- (2)整理解雇4要件については、判例で確立した4要件は緩和しない。また判断の基準を明確にするため、4要件を法制化する。
- (3)不当な解雇を拡大しかねない解雇の金銭解決制度は導入しない。
- (4)労働基準法第15条の労働条件の書面による明示の徹底をはかるとともに、いわゆる「固定残業代」のトラブルが生じていることを踏まえ、労働基準法施行規則を改正し、書面の交付にて明示しなければならない労働条件に「法定労働時間を超える労働時間があるときの時間外割増賃金の計算及び支払の方法」を追加する。
- (5)労働基準法における就業規則の作成・届出義務の対象は、10人以上から5人以上に拡大する。
- (6)過労死問題や、若者の使い捨てが疑われるいわゆる「ブラック企業」問題に対しても適切に対処するため、国および地方自治体における労働行政を充実・強化する。
①労働基準監督官をILO が提唱する基準(労働監督官1人当たり最大労働者数1万人)まで増員する。監督の強化に向けた根拠規定を整備し、違反した場合に企業名を公表するなど労働基準法違反への適正・厳格な対応をはかる。また、派遣・請負・個人請負など、多様化する雇用・就業形態に対応できるよう改革する。
②労働基準監督署の再編整理に関する具体的な計画は、労働政策審議会の調査・審議事項とする。
③国は、地方自治体が行う労働相談への支援や労働関係調査の委託事業の充実など、集団的労使関係を扱う地方における労政行政の充実・強化をはかる。
④国は労働者の基本的な権利・義務の周知・啓発を行う労働者教育施策を行うとともに、都道府県が行う労働者教育施策について支援を行い、労働者の権利に関する理解を促進する。
- (7)事業譲渡、合併など、あらゆる事業再編において、労働組合などへの事前の情報提供・協議を義務づけるなど、労働者保護をはかるための法制化を行う。
①分割・統合やM&Aに際し、企業に労働者に対しての責任をもたせるため、会社法の中に「労働者」という概念を導入して労働者の要件を法的に明確にし、労働者が不利益にならないような措置を講じる。
②すべての事業組織の再編において、労働契約の承継や解雇の制限、その他雇用の安定に必要な措置を強化する。
③労働組合などへの事前の情報提供・協議を義務化する。
- (8)民法(債権法)改正に対応して、労働者保護の観点から労働関係法の整備をはかる。 労働基準法第115条の消滅時効の期間については、民法(債権法)と同様の5年とする。
- (9)労働債権の優先順位の引き上げなど、倒産法制の整備を継続する。
①労働債権の優先順位を引き上げるとともに、労働債権の一部について、別除権(抵当・質権等)に優先させる制度(労働債権の特別な先取特権)を新たに創設する。また、国税徴収法を改正し、労働債権を公租公課より優先する。
②債権譲渡特例法については、労働債権の特別な先取特権にもとづいて労働債権の一定の割合を限度とし、優先的に配当を受けることとする。
③未払賃金の立替払制度について、倒産前6 ヵ月以内での退職とされている認定要件の緩和や、限度額引き上げなどによる制度の強化をはかるとともに、ILO第173 号条約(労働債権の保護)の趣旨に沿った制度となるよう国内法を整備し、早期に批准する。
- (10)国家戦略特区における雇用・労働分野の規制緩和は行わない。
- (11)不適切な選出方法が採られている事例等が散見される「過半数代表者」について、適切な運用がはかられるよう制度を整備するとともに、役割と機能を検証し、関与する制度や権限を縮減させる方向で検討する。また、労働者代表制の法制化に向けて検討する。
①「過半数代表者」への立候補機会の付与や無記名投票による選挙の実施、労働者の意見集約・反映などを法定し、「過半数代表者」の規定を厳格化・適正化する。
②「過半数代表者」が使用者からの不利益取扱いを恐れることなく事業場の全従業員の代表として十全に活動できるよう、労働組合法に規定されている不当労働行為救済制度を準用するなどして、「過半数代表者」への不利益取扱いの救済制度を整備する。
- (12)雇用・就業形態の多様化や企業組織の変化を踏まえ、親会社および親会社経営者が子会社従業員の雇用・使用者責任を負うべきことを明確化するとともに、純粋持株会社、グループ企業、派遣先企業、投資ファンドなどにおける使用者概念を明確化する。また、グループ企業などにおける労使関係のあり方について検討を行う。
- (13)労働組合法における労働協約の拡張適用要件を緩和する。
- (14)金融商品取引法のインサイダー取引規制への過剰反応により、団体交渉などにおける労働組合などへの経営情報の提供が阻害されないよう、法の理解促進・周知徹底をはかる。
- (15)電気事業および石炭鉱業の事業に働く労働者の憲法第28 条が保障する労働基本権を不当に制約しているスト規制法を廃止し、当該労働者について労働基本権を回復する。
6.長時間労働を是正し、ワーク・ライフ・バランスを実現する。
- (1)長時間労働の是正に向けて、労働時間短縮や年次有給休暇の完全取得など、労働者の健康・安全およびワーク・ライフ・バランスの確保に向けた施策を推進する。
①時間外労働の法定割増率を時間外50%、休日労働100%、深夜労働50%に引き上げる。特に、休日労働の割増率は35%から50%以上に早期に引き上げる。
②労働基準法第40条の特例措置(週44時間労働制)は早急に廃止する。
③フルタイム労働者のあるべき労働時間として「年間総実労働時間1,800時間」など、数値目標を示す。
④「ワーク・ライフ・バランス憲章」に盛り込まれた「消費者の一人として、サービスを提供する労働者の働き方に配慮する」との趣旨の周知をはかるなど、深夜化するライフスタイルや長時間労働を是正し、平日のゆとり時間の確保を重視した環境整備を行う。
⑤多くの労働時間規制の適用が除外されている管理監督者については、その定義を法律で明確に定める。なお、管理監督者性の判断基準に関する昭和63年の通達等にもとづく厳格な監督指導は直ちに徹底する。
⑥すべての労働者を対象に「休息時間(勤務間インターバル)規制(原則11時間)」を導入する。
⑦男女ともに限度時間「150時間」を目標として、限度時間「360時間」以内の徹底をはかる。
⑧時間外労働の上限規制の適用が猶予されている「自動車の運転の業務」「医師」および「工作物の建設等の業務」については、実態を踏まえ、上限規制の適用に向けた労働時間短縮の取り組みと、一般則の速やかな適用に向けた議論を行う。
⑨ワーク・ライフ・バランスおよび安全輸送の観点から、自動車運転者の長時間労働の改善および公正競争の確保のために、労働環境や賃金体系が適正なものとなるよう関連諸法の改正を行う。
⑩労働基準法第41条第1号の農業および畜産・水産業従事者に関する労働時間・休憩・休日規制等の適用除外は、労働実態の把握を行い、事業場単位で行われている適用のあり方などについて検討する。
a)長時間労働による「精神的・肉体的疲労からの回復」と「交通事故の防止」をはかるため、「休息期間」と違反事業者に対する罰則を法律に規定する。また、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(告示)の最大拘束時間の見直しをはかるとともに、事業者に連続休息期間の確保を義務づける。
b)過当競争や賃金体系における過度な歩合制が低賃金・長時間労働の原因であるため、安全輸送の観点から、いわゆる「オール歩合」「累進歩合」の禁止を法律に明記し、不適切な事業者を排除する制度を構築する。
⑪厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」については、改正労働安全衛生規則における労働時間の適正な把握方法と同様に、使用者に求める措置を労働基準法上の義務として法文化する。
⑫時間外労働・休日・深夜労働等の削減に向けて、「所定外労働削減要綱」、「賃金不払残業総合対策要綱」、「労働時間等設定改善指針」の周知徹底をはかる。
⑬公務における超過勤務の実態を把握するとともに、実効性ある超過勤務規制をはかる。
⑭教員にも労働基準法第37条を適用し、長時間労働の是正をはかる。
⑮「医師の働き方改革に関する検討会」の最終とりまとめを踏まえたうえで、地域における医療機関の取り組みを支援すべく、医療勤務環境改善支援センターの活性化をはかる。また、医療を受ける側の国民の理解を得ながら国が一体となり、医療現場で働くすべての労働者の長時間労働を是正する。
⑯ICTの進化・普及により生じている、退社後・休日の待機・呼び出しや行動範囲の限定という実態を調査するとともに、このような働き方/働かせ方に対する規制・ルールを検討する。
⑰高度プロフェッショナル制度は、施行後の状況を検証し、対象労働者の働き方や健康確保、対象業務の運用などに問題がみられる場合は、廃止も含めて制度の見直しを行う。
⑱裁量労働制の対象業務拡大は行わない。
⑲裁量労働制の導入手続きは、2003年の労働基準法改正前の手続きに戻すことを原則とし、(a)労使委員会の労働者側委員については、過半数労働組合がある場合を除いては、労働者からの信任手続きを必要とし、(b)労使委員会の決議要件は全員一致とする。
⑳裁量労働制の適用は、「本人同意」を要件とし、不同意の場合の不利益取り扱い禁止、適用後に本人が希望した場合には一定の予告期間後には通常の労働時間管理への復帰を保障することを明文化する。また、前年度の休暇取得率を踏まえた特別の休日労働規制など、健康・福祉確保措置の最低基準を法律に規定する。
㉑すべての労働者を対象に「連続勤務日数の規制」の導入を検討する。
㉒長時間労働につながる商慣行の見直しと取引の適正化をはかるため、事業主が取引上必要な配慮をする努力義務を定めた「労働時間等設定改善法」および「労働時間等設定改善指針」の周知徹底をはかる。
- (2)年次有給休暇取得促進に向けた施策を促進する。
①法定年次有給休暇の最高付与日数を25日に引き上げるとともに、最低付与日数20日に引き上げる。また、6ヶ月の継続勤務要件は廃止する。
②本人・家族の病気・看護休暇、配偶者出産休暇(5日間)などの新設をはかる。
③年次有給休暇の取得促進につながる具体的施策(取得促進に向けた計画などの提出義務の企業への賦課、取得率良好企業の認定制度の創設、ポジティブ・オフ運動の推進など)の展開や、ILO第132号条約を踏まえた長期連続休暇の取得、年間休日確保に向けた施策の整備とその推進をはかる。
④年次有給休暇の取得による不利益取扱いの禁止を労働基準法上明確化する。
⑤国民のゆとり確保の観点から、国民生活などに欠かせない分野を除き、正月三が日、特に「元日」については、特別な日として休業の制度化をはかる。
⑥5月1日を国民の祝日とし、4月29日の「昭和の日」から5月5日の「こどもの日」までを連休とする「太陽と緑の週」を制定する。
- (3)雇用型テレワークについて、「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」に示されている労働条件の明示、労働時間の把握・管理、労働災害への対応などに関して、周知・徹底をはかる。
- (4)「過労死ゼロ」の実現に向け、実効ある長時間労働是正策とともに、過労死等の事案の企業名公表など、労働者が安心して働けるよう、総合的な過労死等防止対策を講ずる。
①「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の見直しにおいて、労働時間やメンタルヘルスに関する新たな課題の把握と、対策の検討をすすめる。また、現行の数値目標の達成状況を評価するとともに、「過労死等ゼロ」にむけた取り組みを強力に進めるべく、PDCAサイクルの構築をはかる。
②教員など公務職場における過重労働の実態を早急に把握し、抜本的な過重労働対策を講ずる。
7.若年者、女性、高齢者の雇用対策を強化する。
- (1)すべての若者への良質な雇用・就労機会を実現する。
①良質な就労機会の実現に向け、若者雇用促進法の確実な実施、正規雇用化の促進、労働教育のカリキュラム化などを通じた若者雇用対策を講じる。
a)地域の特性を活かした雇用創出と地域再生を促進する。若者の安定した雇用確保に向け、地域の関係者が連携し、人材育成機会と若者の就労を積極的に支援する。
b)事業所内外での職業訓練の拡充を通じて非正規で働く若者の正規雇用化を促進する。学校などにおいて、ワークルールの知識など、働く際に必要な労働教育のカリキュラム化に向けた法制化などを推進する。
c)学校とハローワーク等が連携し、若者の就職支援を強化する。また、若者雇用促進法を踏まえ、就職活動を行う若者が必要とする企業情報の開示を徹底するとともに、就活サイトなどの実態把握を行い、若者に適切な情報提供が行われるよう指導・監督を行う。インターンシップや内定先が行う研修・アルバイトについて、トラブル防止に向けたガイドラインの整備を行うとともに、労働者性がある場合には、労働法規が遵守されるよう行政指導を徹底する。
d)若者が働き続けられる環境の整備に向けて、ワークルール遵守の徹底、ワーク・ライフ・バランスの実現など、労使の取り組みを促す施策を推進するとともに、若者の定着支援策を行う。
②若者雇用促進法について、青少年雇用情報の提供項目を増やす見直しを行う。
③少なくとも内定時には書面にて労働条件が明示されるよう、法整備を進める。
- (2)女性が就業を継続できる環境を整備する。(「男女平等政策」参照)
①妊娠・出産や育児などを経ながら男女がともに就業継続できる環境の整備に向けて、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法等の周知・徹底とともに、企業における両立支援制度等の充実、働き方の見直しを含めたワーク・ライフ・バランスの取り組みの促進・支援など、施策の拡充をはかる。
②マザーズハローワークの拡充、求人開拓、能力開発の促進、保育・介護サービスの拡充など、妊娠・出産・育児、介護などにより退職した女性の再就職を支援する施策を行う。
③ひとり親家庭の経済的自立を支援するため、「母子家庭等就業・自立支援センター」を「ひとり親家庭等就業・自立支援センター」へと名称変更のうえ、支援事業の拡充、職業能力開発支援など、福祉行政と労働行政の連携を強化し、個々の世帯態様に応じた総合的な施策を行う。
- (3)意欲ある高齢者が生きがい・やりがいを持って働くことのできるよう高齢者の雇用対策を講じる。
①高年齢者雇用安定法に定める「高年齢者雇用確保措置」を確実に実施し、希望する者全員の65歳までの雇用を実現する。
a)同一労働同一賃金に関する法律への対応を確実に実施し、通常の労働者と定年後継続雇用労働者をはじめとする60歳以降のパート・有期雇用で働く労働者との間の不合理な待遇差を確実に是正する。その上で、産業や業種・職種ごとに異なる労働環境等を勘案しながら、個別の労使協議を通じて、企業や職場において最適な働き方を検討するよう周知を図る。
b)現行の高年齢雇用継続給付制度については、セーフティネットの観点から継続する。ただし、給付制度を前提に処遇を過度に引き下げる運用がなされないよう周知を図る。
c)60歳定年企業において継続雇用を希望したが継続雇用されなかった者や、経過措置に基づく対象者を限定する基準がある企業において継続雇用の対象外となった者に対し、就労を継続するために必要な支援を強化する。また、地域社会における雇用機会の創出や、地域の企業における求人の掘り起こしなどを通じ、社会横断的な高齢者の雇用確保に向けた施策も講じつつ、雇用のマッチング機能をさらに強化する。
d)「高年齢者雇用確保措置」の対象外とされている有期労働契約を反復更新して60歳を迎える労働者についても、65歳までの就労が確実に確保されるよう、高年齢者雇用安定法を改正する。同時に、有期労働契約の労働者について、65歳までの安定した雇用確保をはかるため、当該労働者を65歳まで雇用する事業主に対する助成を拡充するなど、雇用と年金を確実に接続するための雇用支援措置を講じる。
②意欲ある高齢者が年齢に関わりなく、働くことのできる環境を整備する。
a)高齢者が働きやすい環境の確保に向けて、2025年度には老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢が65歳となることも視野に、高年齢雇用継続給付金のあり方を含めた高齢者の処遇のあり方、身体・健康状態を踏まえた適正配置や配慮義務の創設などの高齢者が働きやすい職場環境整備、法定定年年齢の65歳への引き上げなど、総合的な観点からの議論を加速する。
b)70歳まで継続雇用年齢を引き上げる場合は、それに合わせて高年齢雇用継続給付の受給可能年齢を65歳から70歳に引き上げる。
c)高齢期における多様な働き方のメニューが用意されるよう、助成金や税制優遇措置など、労使の取り組みに対する支援を行う。
d)新しい機械・技術への対応も必要となることから、定年前の早い段階から長期の職業能力開発施策を充実する。
③高齢者の健康状態に柔軟に対応するため、職場におけるきめ細かな職場環境の改善や、安全と健康管理のための配慮事項の整理など、ハード・ソフト両面からの対応をはかる。
a)高齢者のための職場環境整備に対する助成金を拡充する。
b)労働災害防止の観点から、労働者の身体機能向上に向けた健康作りを推進する。
c)安全と健康確保のための配慮事項の整理や、勤務条件や健康管理などの好事例を展開するとともに、導入を促進するための支援を強化する。
④シルバー人材センター事業において、職業紹介事業および労働者派遣事業に限り実施可能である「臨・短・軽」要件の緩和にあたっては、労働者を保護し、民業圧迫が発生しないよう対応をはかる。また、同事業における派遣・請負の区分については、ガイドラインなどを踏まえ、適正に運用する。
8.雇用の分野における性差別を禁止し、賃金格差の是正、男女の平等を実現する。
- (1)男女雇用機会均等法を以下のように見直す。
①法律の名称を「男女雇用平等法」(注1)とする。
②第1条(法の目的)に記された「男女の均等な機会及び待遇の確保」には、賃金の男女均等取り扱いが含まれることを明確にするとともに、各条文の性差別禁止条項は賃金格差是正のためにも運用されるべきであることを各条文の指針等に明記する。また、均等法の対象に性的指向・性自認による差別を加える。
③第2条(理念)に「男女労働者の仕事と生活の調和をはかる」ことを明記する。
④第6条(性別を理由とする差別の禁止)について、事業主が労働者の性別を理由として差別的取り扱いをしてはならない事項に「賃金の決定」を加える。
⑤事業主は、第6条に規定された事項の基準や運用のあり方を明らかにすることと、労働者から説明を求められた場合、事業主は説明しなければならないこと、また説明を求めたことを理由に不利益取り扱いをしてはならないことを指針に明記する。
⑥第7条(性別以外の事由を要件とする措置)について、間接差別法理を条文に明記し、指針における間接差別(注2)の禁止の基準を、限定列挙から例示列挙とする(現行3項目はあくまで間接差別の一例とし、一方の性に対して合理的な理由がなく不利益を生じさせることを幅広く禁じる)。また、どのようなことが間接差別に当たるかを「指針」で広く示す。
⑦第9条(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)において、婚姻を理由とする退職・解雇以外の差別禁止を明確化する。マタニティ・ハラスメントにおける被害者の就業継続を確保する。
⑧第10条(指針)にもとづく「募集および採用並びに配置、昇進および教育訓練について事業主が適切に対処するための指針」の法違反の判断を雇用管理区分(同じ区分の男女)ごとに行うことは、差別の温存や差別認定の範囲を狭めることなどになることから、この部分を削除する。
⑨第11条(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置)について、セクシュアル・ハラスメントを禁止するとともに、「性別役割分担意識に基づく言動」(ジェンダー・ハラスメント)や性的指向・性自認に関するハラスメントの防止措置義務を事業主に課す。さらに、指針で被害者の対象に職務の遂行に際して接触した取引先や顧客、利用者、患者、生徒などの第三者も含める。
⑩ハラスメントの回避や、療養が必要な労働者の休業と復職の権利の保障などについて、具体的なルールや手続を指針に明記する。また、被害者が第三者の場合も念頭に通報制度も含めた相談窓口の設置を行い、二次被害の防止対策を講じる。
⑪ドメスティック・バイオレンス(DV)などの性暴力(注3)が職場に与える影響を労働問題として認識し、被害者の継続就業のための支援として、加害者の接近や個人情報の開示を防ぐとともに、救済機関のアクセスなどに必要な休暇制度の整備などの配慮規定を設ける。
⑫ポジティブ・アクションに関する第14条(事業主に対する国の援助)に、事業主に以下の責務を課すことを追加する。
a)募集・採用・配置・昇進・教育訓練・福利厚生・退職などの取り扱いにおける男女の割合(格差)や賃金格差に関するデータの集計・作成・保管・開示について、義務を課す。
b)ポジティブ・アクションの計画策定、実施、実施状況の開示について、措置義務を課す。
c)ポジティブ・アクションの計画策定・実施状況のモニタリング結果の計画への反映等については、過半数労働組合もしくは過半数代表者への情報提供・協議を義務づける。
d)男女間格差の要因について労働者および労働組合から説明や協議を求められた場合、これに応じる義務を課す。
⑬「コース等で区分した雇用管理を行うに当たっての事業主が留意すべき事項に関する指針」を法的根拠のあるものとする。
⑭第18~27条(調停)を改正し、事業主に機会均等調停会議への出席を義務づける。
⑮第28条(調査)について、厚生労働大臣は、男女間賃金格差の改善に関して必要な事項、特に職務評価・職業能力評価などについて、調査、研究、資料を整備し、事業主への提供を行うように努めることを法律に明記する。
⑯第29条(報告の徴収ならびに助言、指導及び勧告)について、労働局長が勧告を行う場合であって必要と認められるときに、賃金格差をはじめとする現状の改善措置計画の作成を求めることができるようにする。措置計画は、労働組合もしくは過半数代表への説明・協議、または過半数労働組合もしくは過半数代表者の意見聴取と意見書の添付を義務づける。また、措置計画は労働者に対する義務でもある旨も明確化し、第29条に「措置計画の作成・提出が求められた場合は、労働者や労働組合に周知しなければならない」旨、追加する。
⑰事業主は、均等法の趣旨と事業主が講じている措置について労働者に周知・啓発しなければならない旨を法律に明記する。
⑱差別救済制度を設け、以下のようにする。
a)政府から独立した雇用平等委員会を設置し、都道府県単位で支部を設置する。
b)救済の対象は、雇用の全ステージおよび賃金等の労働条件に関する性差別(性的指向・性自認に関する差別を含む)、仕事と育児・介護に関する両立支援、短時間労働者等の均等・均衡待遇等、その他の労働条件に関する法違反および差別的取り扱いや不利益取り扱いの他、ハラスメントがあるときとする。
c)救済申し立てを理由とする不利益取り扱いを禁止する。
d)差別・格差の合理的根拠を示す証拠およびその裏づけ資料の提出義務は事業主にあるものとする。
e)資料の提出がない場合、あるいは資料の提出があっても合理的根拠が認められない場合には、差別を認定して是正を勧告できるようにする。また、委員会は差別の認定に関して調査する権限を持つものとする。
f)事業主がこの勧告にしたがわない場合は刑罰を科す。
⑲差別救済において政府から独立した雇用平等委員会が設置されるまでの間、第30条(公表)にもとづき厚生労働大臣(都道府県労働局長)の勧告にしたがわない企業名を公表するなどの制裁措置を行う。
⑳政府から独立した救済機関が設置されるまでの間、男女雇用機会均等法の実効性を強化するため、都道府県労働局・雇用環境・均等部(室)の人員を増員し、増加傾向にある相談や救済依頼に対し、迅速に対応できる体制を整える。その際、男女平等の観点に関して職員への十分な研修を行うものとする。
- (2)労働施策総合推進法等の関係法令を以下のように改正する。
①ハラスメント行為そのものを禁止する。
②パワーハラスメントの行為類型に「セクシュアル・ハラスメント」や「その他のいじめ・嫌がらせに該当する行為」を含め、あらゆるハラスメントを包括的に規制できるように指針で例示する。また、「個の侵害」(注4)には、性的指向・性自認に関するハラスメントも対象であることを指針で明確化する。
③パワーハラスメントに関する事業主が雇用管理上講ずべき措置の行為者・被害者の対象に職務の遂行に際して接触した取引先や顧客、利用者、患者、生徒などの第三者も含める。
④ハラスメントの回避や、療養が必要な労働者の休業と復職の権利の保障などについて、具体的なルールや手続を指針に明記する。また、被害者が第三者の場合も念頭に通報制度も含めた相談窓口の設置を行い、二次被害の防止対策を講じる。
⑤ハラスメントに関する事後的な救済措置として、新たに行政から独立したハラスメントに関する専門の救済機関を設置する。
⑥事業主が雇用管理上講ずべき措置も含めたハラスメント対策について、(安全)衛生委員会の活用を含め、労働者が参加した場で協議を行うものとする。
⑦ハラスメントが起こりやすい業種・業態・職務等の実態を把握し、効果的な追加措置を講じる。
- (3)労働基準法を以下のように改正する。
①第3条(均等待遇)に規定されている、差別的取り扱いをしてはならない理由に「性別」を加える。
②第4条(男女同一賃金の原則)について、ILO第100号条約の趣旨にもとづき同一または同一価値の労働に就く男女に同一の報酬を支払うことを義務づける旨を明記する。
③第64条の3(危険有害業務の就業制限)にもとづく女性労働規則第2条第2項に関して、同規則第2条1項第13号の「土砂が崩壊するおそれのある場所又は深さが5m以上の地穴における業務」および第14号「高さが5m以上の場所で、墜落により労働者が危害を受けるおそれのあるところにおける業務」についても、産後1年を経過しない女性から申し出があれば就業できないこととする。
- (4)女性活躍推進法を以下のように見直す。
①法の目的に、人権と性差別禁止にもとづいた雇用平等の実現と、非正規雇用も含めたすべての女性を対象とする格差是正と貧困の解消、および長時間労働削減による仕事と生活の調和の推進および法が女性差別撤廃条約の理念にもとづくことを明記する。
②企業内の女性活躍に関するデータの現状把握、分析およびこれらの情報開示については、すべての事業主の義務とする。
③状況把握、分析、情報開示は、パートタイム労働者、有期契約労働者、派遣労働者、臨時・非常勤職員等を含むすべての労働者を対象とする。
④すべての事業主に対し、雇用の全ステージにおける男女別の比率、男女別の配置状況、教育訓練(OJT、OFF-JT)の男女別の受講状況、両立支援制度の導入や男女別の利用状況、男女の賃金の差異、男女別の1つ上位の職階へ昇進した者の割合、男女の人事評価の結果における差異、非正規から正規への転換制度の有無と転換実績の男女別データ、各項目に関する現状把握、分析、情報開示を義務とする。
⑤行動計画策定指針には、あらゆる形態のハラスメントの禁止の取り組みについて盛り込む。
⑥各事業主の目標設定および行動計画策定、実行、改善見直し、達成のすべてのプロセスにおいては、具体的な取り組みが継続的に行われるよう労使の協議にもとづく検証が確実に行われる体制の整備を義務づける。
⑦時限立法となっている女性活躍推進法の一般事業主行動計画部分については、男女雇用機会均等法の第14条(ポジティブ・アクションに関する条文)に位置づけ、統合する。
⑧女性活躍推進法にもとづく認定に際しては、基準の適合確認の徹底と厳格化をはかり、認定後において基準に適合しなくなった場合は速やかに認定の取り消しを行う。
⑨女性が働く上での設備等の環境整備が進むよう両立支援等助成金(女性活躍加速化コース)を周知し、活用を促進するとともに、職場の実態を踏まえて継続的に充実をはかる。
- (5)すべての労働者の均等・均衡待遇の実現と労働条件の向上に向けて、以下のようにパート・有期法の改正を行う。
①第7条(就業規則の作成の手続)について、パートタイム労働者もしくは有期雇用労働者用の就業規則を作成・変更する場合は、パートタイム労働者もしくは有期雇用労働者のそれぞれ過半数を代表する者から意見を聴取することを事業主に義務づける。
②第9条(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止)については、要件でパート・有期雇用労働者の待遇を分ける規定を削除し、第8条(不合理な待遇の禁止)と統合する。将来的には、すべてのパート・有期雇用労働者を対象に、合理的理由がある場合を除き、待遇についてパート・有期雇用労働者であることを理由とする差別的取り扱いを禁止する。
③第10条(賃金)について、合理的な理由がない待遇の格差を禁止した上で、合理的な理由が認められた場合でも、均衡待遇の具体的な改善策を講じるよう事業主に措置義務を課す。
④第11条(教育訓練)について、通常の労働者と職務の内容が同一であるパート・有期雇用労働者には、職務遂行に必要となるもの以外の教育訓練も、通常の労働者に準じて実施することを義務づける。
⑤第13条(通常の労働者への転換)について、「短時間正社員制度」の活用を含めて正規労働者への転換の間口を広げ、キャリアラダーを整備し、希望する者の正規労働者化を促すことについて、事業主に義務を課す。また、差別的取り扱いの禁止の対象となる通常の労働者と同視すべきパート・有期雇用労働者が希望する場合は、優先的に雇用する。
⑥第14条(事業主が講ずる措置の内容等の説明)について、通常の労働者との待遇の違いの程度とそれが生じた理由を含めて説明する手段は、文書によることとする。
⑦事業所ごとに「雇用管理改善計画」の策定を課し、一定基準を満たせば厚生労働大臣の認定を与え、表示できるようにする。認定事業所には、法人税の税額控除など税制上の一定のインセンティブを与える。
⑧パート・有期法および省令、指針などを周知徹底するとともに、監督・指導体制を強化し、法の実効性を確保する。
⑨第18条(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告等)について、労働局長が勧告を行う場合であって、必要と認められるときには改善措置計画の作成を求めることができるようにする。当該計画については、過半数労働組合もしくは過半数代表者への説明・協議、または過半数労働組合もしくは過半数代表者の意見聴取と意見書の添付を義務づける。
⑩パート・有期法の努力義務規定にも紛争解決援助制度の対象を拡大する。また、労働契約法第18条の無期転換権を行使した労働者やパートとして採用されながらフルタイムで働いている無期雇用労働者に対する不合理な差別は、パート・有期法の脱法的行為として、同法に関する紛争解決手続を利用できるようにする。
⑪差別救済制度を設け、以下のようにする。
a)政府から独立した雇用平等委員会を設置し、都道府県単位で支部を設置する。
b)救済の対象は、雇用の全ステージおよび賃金等の労働条件に関する性差別(性的指向・性自認に関する差別を含む)、仕事と育児・介護に関する両立支援、パート・有期雇用労働者等の均等・均衡待遇等、その他の労働条件に関する法違反および差別的取り扱いや不利益取り扱いの他、ハラスメントがあるときとする。
c)救済申し立てを理由とする不利益取り扱いを禁止する。
d)差別・格差の合理的根拠を示す証拠およびその裏づけ資料の提出義務は事業主にあるものとする。
e)資料の提出がない場合、あるいは資料の提出があっても合理的根拠が認められない場合には、差別を認定して是正を勧告できるようにする。また、委員会は差別の認定に関して調査する権限を持つものとする。
f)事業主がこの勧告にしたがわない場合は刑罰を科す。
⑫第28条(雇用管理の改善等の研究等)に、厚生労働大臣は、教育訓練の実施やパート・有期雇用労働者に関する評価制度(職務評価・職業能力評価)について資料の整備を行い、必要な事業主に対して提供することを促進していくことを明記する。
- (6)性的指向・性自認に関する差別を禁止する法律を以下のように制定する。
①法の目的に、あらゆる人の性的指向・性自認に関する差別を禁止する旨を明記し、憶測による差別等にも対応できる法制とする。
②性的指向・性自認に関する差別に関して、雇用の全ステージや学校をはじめとするあらゆる分野における差別的取り扱いを禁止する。その際、憶測による差別や、家族が性的指向や性自認に関して困難を抱える者であることに対する差別についても禁止する。
③雇用の分野をはじめとするあらゆる分野において、性的指向・性自認に関するハラスメントの防止を措置義務とする。措置内容として、国は事業主等が防止に取り組む際の指針を作成し、プライバシー保護を徹底する等、性的指向や性自認の課題の特徴を踏まえた措置を講ずる。
④性的指向・性自認に関する合理的配慮を各事業主に義務づけるとともに、職場の円滑な対応を可能とするため、対応要領や指針を作成する。対応要領や指針には、労働者の施設利用や服装に関する扱い、性別欄の見直し、プライバシー保護や教育訓練等をはじめ、詳細な事例とともに記載する。
⑤対応要領や指針を作成する際には、労働者代表や性的指向・性自認で困難を抱える当事者等を構成員とする審議会を内閣府に設置し、意見反映の場とする。雇用の分野については労働者代表の意見を労働政策審議会において反映する。
⑥学校におけるいじめやハラスメント等の対応については、性的指向・性自認にかかわらず広く相談支援に応じることのできる体制整備を進めるとともに、外部の専門機関や地方自治体の相談窓口との連携を強め、子どもからの相談に応じることができるようにする。
⑦プライバシー保護や孤立等を防止する観点から、各都道府県に相談センター等の設置を義務づける。その際、相談者のプライバシーを相談センターが厳守するよう、相談対応のガイドライン作成や、秘密厳守の義務、および秘密漏洩に対する罰則を課す。
⑧行政は広範な性的指向・性自認に関する差別等の実態や、国内外の差別禁止や権利保障の取り組みに関する情報収集を進める。特に、合理的配慮の事例について積極的な収集を行う。
- (7)労働条件の時間比例を原則とする「短時間公務員制度」などの導入を行い、公務における臨時職員・非常勤職員の雇用安定と処遇改善をはかる。
- (8)男女間および雇用・就業形態間の賃金格差是正の実現へ向け、日本が批准しているILO第100号条約「同一価値労働・同一報酬」の実効性を確保のため、職務評価手法の周知・普及とさらなる研究開発を進める。
- (9)男女の職務分離の改善を進め、男性の多い職務への女性の進出、女性の多い職務への男性の進出を積極的に推進するために学校教育、職業能力開発、職業紹介、男女均等取り扱いなどの関連する行政の連携を進める。
- (10)ILO第183号母性保護条約を早期に批准するため、労働基準法第67条(育児時間)による育児時間中の賃金は100%保障することとし、産休終了時に原職または当該休業の直前と同一の額が支払われる同等の職に復帰する権利を保障する。
- (11)出産手当金については、賃金との併給の場合の限度額を雇用保険法の育児休業給付の限度である80%(標準報酬日額の80/100)まで引き上げる。
- (12)母体保護のため強制休業となっている産後休業期間については100%所得保障をする。
- (13)国内法を整備し、ILO第111号条約(雇用および職業についての差別待遇の禁止)、ILO第105号条約(強制労働の禁止)、ILO第171号条約(夜業禁止)、ILO第175号条約(平等なパートタイム労働)、ILO第183号条約(母性保護)、ILO第189号条約(家事労働者)の早期批准を行う。
- (注1)労働組合は、男女雇用機会均等法制定前から募集・採用など雇用のステージごとの機会の均等だけでなく、賃金差別や仕事と生活の調和などの課題も含んだ男女間の不平等を総合的に是正する雇用平等法の制定を求めた方針を掲げ続けている。
- (注2)間接差別 ~雇用分野における性別に関する間接差別とは、①性別以外の事由とする措置であって、②他の性の構成員と比較して、一方の性の構成員に相当程度の不利益を与えるもので、③合理的な理由がないときに講ずることである。具体的には、男女雇用機会均等法の指針において、以下の3点が間接差別として規定されている。
a)労働者の募集又は採用に当たって、労働者の身長、体重又は体力を要件とすること
b)コース別雇用管理における「総合職」の労働者の募集又は採用に当たって、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすること
c)労働者の昇進に当たり、転勤の経験があることを要件とすること。
- (注3)性暴力~社会的に形成される男女の差異(ジェンダー)にもとづくあらゆる暴力行為のことである。
- (注4)2011年度の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」では、職場のパワーハラスメントについて6つの行為類型が示された。
ⅰ 暴行・傷害(身体的な攻撃)
ⅱ 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
ⅲ 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
ⅳ 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
ⅴ 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
ⅵ 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
9.障がいの有無、種類および程度にかかわらず、障がい者が差別されることなく働ける社会の実現に向け、雇用対策を講じる。
- (1)雇用、福祉、教育の各行政機関が国および地域レベルで連携し、ハローワークを核とした地域のネットワーク、企業に対するサポートなどを重視した就労支援策を行うなどして、障がい者の雇用の促進と安定をはかる。
- (2)行政指導を強化するなどし、障がい者差別禁止・合理的配慮の提供義務の実効性を高め、障がい者の就労拡充・職域拡大をはかる。
- (3)就労継続支援A型の利用者は雇用労働者であり、労働関係法令が適用されることから、適正な運用がなされるよう指導・監督を強化する。また、障がい福祉サービスから一般就労への移行を進めるにあたり、ハローワーク就職件数に占める就労継続支援A型事業所の利用者数などの状況を的確に把握・分析した上で施策を講じる。
- (4)常用雇用移行率が高い障がい者トライアル雇用制度については、より活用がなされるよう検討・運用する。
- (5)障がい者の実雇用率向上に向けた就労支援策を強化し、障がい者の雇用促進と職場定着をはかる。なお、特定の業種について雇用義務の軽減をはかる除外率制度については早期に廃止する。
- (6)新しく雇用義務制度の対象に追加された精神障がい者(発達障がい者を含む)の雇用が着実に前進するよう、ハローワーク、医療機関、障害者・生活支援センターなど関係機関が連携しチーム支援を行うなど、就労支援と職場定着に向けた環境整備をはかる。なお、「精神障害者保健福祉手帳」については、取得の強要につながらないよう留意する。
- (7)中途障がい者や在職中に難病を発症した労働者の雇用継続に向けた施策を早急に検討する。また、病状や治療のために就業上相当の制限を受ける者を障害者雇用促進法に根拠づけた上で、合理的配慮の対象とするなど、就業上必要な措置がとられるよう法整備を検討する。
- (8)特例子会社については、当面、積極的差別是正措置として位置づけてその活用を進める。ただし、特例子会社や企業グループ全体の障がい者雇用率の適用にあたっては、ノーマライゼーションを盛り込んだ企業綱領の策定など、障がい者を特例子会社や企業グループ内の特定の会社に囲い込むことにならないよう指導を徹底する。
- (9)複数の中小企業が事業協同組合などを活用した障がい者雇用率制度を適用する際は、雇用主として責任を確保するよう指導を徹底する。
- (10)すべてのハローワークにおいて、手話通訳者、要約筆記者、視覚障がい者に対する支援者を2名以上配置するなど、障がい者の就労支援体制を拡充する。
- (11)障がい者の就職支援や雇用後の職場適応支援などを行うジョブコーチについては、301人以上の企業に1名以上配置することとし、そのための支援策を強化する。また、精神障がい者の就労拡大を踏まえ、ジョブコーチの養成をはかるとともに、ジョブコーチの実稼働を高める方策の検討やジョブコーチの労働環境整備を早急に行う。
- (12)「障害者就業・生活支援センター」を全「障害保健福祉圏域」に設置するとともに、職員やジョブコーチなど10人程度配置する。また、障がい者の生活支援だけでなく、就労支援を担うことができる人材の育成・確保・定着に向けた財政支援を行う。
- (13)「障害者雇用対策基本方針」の定める内容を着実に実行する。
- (14)「障害者雇用納付金制度」を財源として支給される障害者雇用調整金、報奨金、在宅就業障害者特例調整金、在宅就業障害者特例報奨金および各種助成金については、財源を含めた制度の見直しを行う。
- (15)ユニバーサル・デザイン等の観点から、事業場の施設や機材をチェックし、障がいがあっても働きやすい職場環境の整備を推進する。
- (16)雇用障がい者数の不適切な取扱いが行われていた国・地方自治体の部局において、障がい者雇用への理解を促進するとともに、差別禁止・合理的配慮の提供が実施されるよう、予算の確保や法改正を含めた必要な制度見直し、再発防止をはかる。
- (17)障がいに関する雇用・福祉施策の連携の強化などを含め、働きづらさを抱える者が、その程度に応じて必要な支援を受けて働くことのできる場の維持・創出と、安心して就労し続けることのできる環境の整備に向け、必要な制度の見直しを行う。
- (18)中小企業における障がい者雇用の推進のための支援、特に障がい者の受入実績がない「雇用ゼロ企業」に対する雇用前後の支援を強化する。
- (19)障がいのある労働者の労働災害を防止するため、企業に対し支援を強化する。
- (20)希望する障がい者が、障がい特性に応じて主体的にキャリア形成できるよう支援を強化する。
10.すべての働く者に対する職業能力開発施策と日本の成長と競争力を支える人材の育成を強化する。
- (1)安定した質の高い雇用へ向けた職業訓練を実施する。
①雇用形態や企業規模、在職・離職の違いにかかわらず、すべての働く者が自己の職業能力を最大限に開発・発揮し、安定した質の高い雇用に就くことができるよう、適切な職業能力開発機会を提供する。
②職業能力開発機会のより一層の提供に向けて、労働者や学生に対する職業能力開発施策に関する情報提供や啓発、事業主に対する助成制度の情報発信と周知徹底を行う。
③独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が担っているセーフティネットとしての職業訓練やものづくり分野の訓練実施などについて、国の職業訓練機能を堅持した上で強化をはかる。その際、国・地方自治体・民間教育訓練機関・企業などの役割分担を明確化する。
④企業の事業転換や技術・技能の陳腐化により業種転換・職種転換・離職などを余儀なくされる労働者について、キャリア・コンサルティングの活用などにより、職業訓練・再就職に向けた支援を強化する。とりわけ、AIやロボットなどの新たな技術革新への対応や、政策的な人材移動を目的とした職業能力開発については、企業・個人への支援に必要な原資を一般財源で確保する。
⑤障がい者、ひとり親家庭の親(母子家庭の母・父子家庭の父)、生活保護受給者などについて、居住地近隣での職業訓練機会を拡充するとともに、地方自治体・地域の教育訓練機関・公共職業安定所(ハローワーク)などが一体となり、就労に向けたきめ細かな支援を行う。
⑥公共職業訓練施設について、訓練指導員の増員や土日・夜間・随時開講や託児施設の設置など、離職者・在職者が必要な職業訓練を十分に受講できる、受講しやすくなる環境整備を行う。また、オンライン開講に関し、受講者の通信環境や実技訓練などに配慮した支援を行う。
⑦在職者の自己啓発・職業能力開発を促進するため、労働時間短縮などの配慮や有給の教育訓練休暇を与える事業主への支援を行うとともに、個人が負担した自己啓発費用について一定額までの税額控除を認める「自己啓発税額控除制度」を創設する。
⑧国・地方自治体・地域の教育機関(高等専門学校・短期大学・大学・大学院など)が連携し、「リカレント教育システム」(学校教育を終えて社会に出た以降も、個人の必要に応じて教育機関に戻り、繰り返し再教育を受けられる循環型・反復型の教育システム)を構築し、受講促進にあたっては必要な財源を一般財源から確保する。
⑨正規雇用の経験が少ない者を安定した雇用に結びつける雇用型訓練について、企業側にとって活用しやすくなるような誘導策も含めて制度を整備する。
⑩技能者育成資金融資制度について、融資金額の増額、融資時期の前倒し、手続の簡素化、利率を独立行政法人日本学生支援機構の奨学金と同水準とすることなど、改正を行う。
- (2)雇用保険を財源とする求職者支援訓練と専門実践教育訓練について、積極的な利用促進をはかる。
①職業能力開発行政と職業安定行政の連携を強化し、公共職業安定所(ハローワーク)を拠点に全国的かつ公平・安定に一定の水準で提供できる体制を確立する。
②求職者支援訓練と専門実践教育訓練について、すべての対象者が受講でき、安定した質の高い雇用へつながるよう講座を開設する。特に専門実践教育訓練については、講座開設の地域偏在の早期解消にむけ、新規講座の開拓を進める。また、幅広い労働者層を対象とした、AI・ICT、バイオ、化学など今後さらなる活用が期待される技術に関する講座を指定・開設し、新技術を既存の業務に活用できる人材の育成を進める。
③求職者支援訓練について、ニーズに即した訓練コース整備や訓練機関の質の向上、就職支援の一体的実施など、実効性ある制度の運用に努める。また、人手不足分野における早期人材育成のために短期間の訓練コースを指定するなど、必要に応じて柔軟な運用を行う。
④求職者支援訓練を受講する雇用保険受給者で、基本手当受給額が求職者支援法の職業訓練受講給付金(月10万円)に満たない者への差額補填を行う。
⑤職業訓練受講給付金の不支給要件の一つである「直前に給付金の支給を受けた訓練の最初の支給単位期間の初日から6年を経過しない場合」について、訓練終了後に一旦就職したものの、非自発的理由により離職を余儀なくされた場合には6年のインターバル期間を短縮する。
- (3)労働者の技術・技能における企業横断的な「ものさし」となる職業能力評価制度を構築する。
①業種・職種・職務ごとに必要な技術・技能に関する企業横断的な職業能力評価制度を整備する。特に、制度の整備が遅れているサービス分野においては、早急に制度の整備・充実をはかる。
②国・業界団体・産業別労働組合は、連携して企業横断的な職業能力評価制度の積極的な普及をはかる。
- (4)労働者が職業人生を通じて主体的にキャリア形成できるよう、支援体制を整備する。
①離職者・求職者・在職者など、対象ごとのキャリア・コンサルティングの標準モデルを確立させ、有効なキャリア形成支援を実施する。
②労働者のキャリア形成を支援するキャリア・コンサルタントの質や専門性を確保する。
③ジョブ・カードについて、生涯を通じた訓練受講と技術・技能の証明書としての機能を果たすことができるよう、その活用を推進する。
- (5)「第11次職業能力開発基本計画(2021年度~2025年度)」を策定し、状況に対応した必要な追加施策を検討する。
①事業主が労働者に対し能力開発の責任を有することを前提に、労働者の主体的・自立的な能力開発を支援する。
②日本の成長と競争力を支える人材を育成するとの視点にもとづき、政府(府省庁横断)・都道府県・教育機関・職業訓練機関などが連携し、バランスのとれた職業能力開発を実施する。また、その際、国と企業の果たすべき役割を踏まえ、産・学・官の持つ資源を最大限に活用する。
③公共職業訓練について、再就職や在職者の職業能力向上に結びつきやすいものとなるよう、産業構造の変化、技術革新、企業ニーズ、受講状況などを踏まえて訓練内容を見直し、高度化をはかる。
- (6)国・地方自治体・教育訓練機関・企業・労働組合・学校などの役割分担と相互連携を十分に行い、産業政策・雇用政策・教育政策と連携した職業能力開発施策を推進する。
①職業能力開発は雇用のセーフティネットであることを認識し、都道府県労働局や公共職業安定所(ハローワーク)との連携強化をはかり、職業能力開発行政に精通した職員を公共職業安定所(ハローワーク)に増員配置するなど、職業能力開発体制の充実・強化する。
②人材育成について、政府(府省庁横断)・労使・教育機関・職業訓練機関などが連携し、中・長期的視点から国としての人材育成戦略・施策を構築する。
③地域が主体となり、国・地域の労使・教育機関などの関係者が連携し、地域の特性を活かした中期的な産業政策、人材育成施策を構築する。
④公共職業能力開発施設(国・都道府県設置)は、地域の「技術・技能センター」として位置づけ、国・地方自治体・企業が連携して、新卒者・離職者・転職者・在職者などに対し、ものづくりなどを重視した職業訓練を強化する。
⑤技術・技能の継承や人材の確保・育成などについて課題を抱えるものづくり産業の中小企業に対し、関係省庁の連携を強化し、人材投資促進税制の復活や高度熟練技能者の活用、人材の確保・育成に関する支援措置を拡充する。
⑥技能検定で複数の上位級を有する技能士について、その社会的地位を向上させるため、職業能力開発促進法上の資格として「複合技能士」(仮称)を創設する。
⑦雇用型訓練の一つである「実践型人材養成システム」について、本来の目的である企業における次世代を担う人材のさらなる育成をはかる。
11.労働災害の予防と再発防止対策を強化し、労災補償を拡充する。
- (1)2018年に成立した改正労働安全衛生法について、職場の実情を踏まえて着実に実施する。
①改正労働安全衛生法により義務化された「管理監督者を含めすべての労働者の労働時間の適正な把握」や「産業医への情報提供」などが確実に実施されるよう周知・指導を行う。また、事業場において、産業医等が労働者からの健康相談に応じ、適切に対応できるよう事業場における必要な体制整備の支援を行う。
②ストレスチェックについて、労働者数50人未満の事業場も含むすべての事業場で実施されるよう、事業者や労働者などへの周知・指導を行い、必要な支援策を実施する。
a)労働者のプライバシー保護と不利益取り扱い防止に向け、指導・監督を強化する。ストレスチェック結果を踏まえた職場改善を推進するため、職場ごとの課題を明らかにする集団分析の実施と安全衛生委員会への報告を義務化する。
b)中小企業において、高ストレス者とされた労働者に対する面接指導が適切に実施されるよう指導を強化する。
c)派遣労働者に対してもストレスチェックが確実に実施されるよう派遣元・派遣先に周知・指導を徹底する。
③化学物質管理について、事業者がリスクアセスメントを確実に実施し、事業者がリスクアセスメントの結果にもとづき必要な措置を講じるよう、事業者などへの周知・指導を徹底する。また、体制整備が不十分な中小企業に対しては必要な支援策を実施する。
④化学物質のリスクアセスメントの実施に必要な危険性・有害性情報は、関係省庁で連携し、クラウド等によりデジタル情報として共有・活用できるプラットフォームを構築する。
⑤化学物質の危険性・有害性や健康影響については、科学的事実に基づき適正に判断するとともに、すでに危険性・有害性の検証を行った物質についても、必要に応じて再検証を行う。また、有害とされた化学物質を取り扱う事業場においては、保護具など準耐久財を含む設備投資を強化する。なお、粉じん等の形状による健康有害性については、物質固有のリスクと混乱が生じないように対応する。
⑥保護具の効果や限界、使用法を広く周知・広報するとともに、労働者に対する保護具のフィットテストが実施されるよう支援を強化する。
⑦重大な労働災害を繰り返す企業に対し、改善計画作成等の指示、勧告、企業名の公表などの対応を行う特別安全衛生改善計画制度について、同一企業での重大な労働災害再発を防止するための抑止力の1つとして積極的に運用する。また、対象を労働安全衛生関係法令以外の法令違反により発生した労働災害にまで拡大する。
⑧労働安全衛生法に違反した事業者に対する罰則を強化する。
⑨事業者と産業保健スタッフによる労働者の健康管理が適正に行われる環境整備を強化する。
- (2)労働災害を予防する施策の充実・強化をはかる。
①職場における化学物質管理について、危険有害性情報の伝達を義務化し、EUの「CLP規則(化学品の分類、表示、包装に関する規則)」並の規制とする。
②職場におけるメンタルヘルス対策を以下のとおり推進する。
a)メンタル不調の早期発見に加え、治療・職場復帰に至るまでの一連の対策を全体的に促進する措置の実施を検討する。
b)メンタルヘルス教育の実施、産業医や地域の医療機関などとの連携を通じた適切な医療体制の確保、ハラスメント対策、職場復帰プログラムなどを行う事業場に対し、公的支援を行う。
③職場における受動喫煙防止について、労働者の健康障害防止の観点から、職場の全面禁煙または空間分煙を事業者の措置義務とするよう、労働安全衛生法を改正する。
④現行の「機械の包括的な安全基準に関する指針」を「規則」に格上げする。また、機械譲渡時における機械の危険情報の提供について、リスクアセスメントの取り組みを促進すべく義務化する。
⑤事業者の義務である時間外労働が月80時間以上の労働者に対する「医師の面接指導とその結果に伴う事後措置」について、時間外労働が月45時間以上の労働者に拡大するとともに、面談後の事後措置の実施を徹底する。また、制度を円滑に運営するため、産業医の育成を一層促進する。
⑥夏季中心に熱中症の発生が相次ぐことから、事業者が職場における熱中症予防対策を適切に講じられるよう周知啓発するとともに必要に応じた指導を行う。
⑦快適な職場づくりや、2018年に発効したJISQ45100等の労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)の導入などにより、労働災害が減少した事業場に対し、特例メリット制におけるメリット率の上限を引き上げるなど、さらなる誘導措置を導入する。
⑧研修会や個別コンサルティングの実施など、特に中小企業に対しては、労働者への安全衛生教育の充実に向けた支援を重点的に行う。また、リスクアセスメントやOSHMSの導入支援、安全衛生サービス専門機関や専門家などの無料紹介などを行う。
⑨作業管理や保健指導、快適職場指針について、事業者責任を強化する。特に、初期対応と継続対応を重視する。
⑩労働基準監督官による労働災害発生時監督・災害調査や指導を強化する。また、都道府県労働局の安全衛生労使専門家会議について、専門委員の増員、安全衛生パトロールの実施、集団指導への参画などによる機能の強化、予算の増額、専門委員の権限の拡充などのほか、都道府県の労働政策に関する審議会の下に設置して活動内容を審議会に報告すること、労働基準監督署ごとに同様の機能を持たせることなど、労災防止に資するものとするよう、機能と権限を強化する。
⑪産業の特性や雇用・就業形態の多様性、第三次産業における労働災害の増加傾向などを踏まえた労働災害の実態調査・分析と対策を推進する。また、外国人技能実習生の労働災害の実態についても調査・分析対象とする。
⑫派遣労働者に対する派遣元・派遣先による効果的で厳格な安全衛生教育の実施、派遣元と派遣先の合同による安全衛生委員会の設置の推進、派遣労働者、有期・パート労働者などを含めた事業主の安全配慮義務の履行を確保する法整備を行う。加えて、派遣先責任の強化として、派遣先で派遣労働者の一般定期健康診断を代行実施する制度を法制化する。
⑬派遣・請負労働者の安全衛生体制を強化するため、「製造業における元方事業者による総合的な安全衛生管理のための指針」を義務化するとともに、製造業以外の業種においても適切に適用する。
⑭安全委員会・衛生委員会の設置義務をすべての事業場に拡大する。衛生委員会の設置基準について、当面は現行の50人以上から30人以上に変更する。また、事業場内の協力会社(下請会社、派遣元など)の安全衛生担当者を含めた「合同安全衛生委員会」の創設義務化を検討する。
⑮2018年4月にスタートした「第13次労働災害防止計画」(2018~2022年度)を着実に実行するため、計画実行に必要な予算・人員を確保し、重大災害の減少とリスク低減対策を一層推進する。また、働き方改革を受け、長時間・過重労働対策や高齢労働者の安全確保対策をより強化する。
⑯ILO第155号条約(職業上の安全及び健康並びに作業環境に関する条約)、同第170号条約(職場における化学物質の使用の安全に関する条約)、同第174号条約(大規模産業災害の防止に関する条約)を早期に批准し、日本の労働安全衛生水準の向上に向け、関連する国内法を整備する。
⑰ILO第200条勧告(HIV及びエイズ並びに労働の世界に関する勧告)にもとづき、雇用・職業上の差別禁止に向けた政策を推進する。
⑱自殺対策基本法に則り、職域における自殺の防止計画の策定、遺族や職場の同僚に対する支援策を強化する。
⑲地方自治体と、地域の精神科医療機関、自殺予防に取り組むNGO/NPOの連携を強化し、地域ぐるみの自殺対策を有効に機能させる体制を整備する。
⑳高齢者の労働安全対策に取り組む事業場の割合を増加させる。事業場において高齢者の災害発生リスクを検証し、安全衛生対策を推進する計画に高齢者の対策を盛り込む。また、高齢者の安全や健康を確保するための課題などに対する相談体制を整備・充実させる。
- (3)労災補償を拡充する。
①労災補償の認定について、労使も参画した「認定基準等審査会議(仮称)」を設置し、労災適用対象疾病の拡大や認定基準の見直しを行う。特に、長時間労働による労災認定の目安となる労働時間について、精神疾患の場合が脳・心臓疾患の場合より長くなっている認定基準の見直しを行う。
②労災補償の認定申請における申請者から使用者への立証責任の転換を含め、使用者の役割責任を強化する。
③労災隠しの摘発を強化する。
④労働保険審査制度について、審査手続きを迅速かつ確実に行う。
⑤労災保険制度について、政府管掌保険体制を維持する。
⑥労災保険特別加入制度について、対象職種の範囲拡大など、必要な見直しを行う。また、雇用類似の働き方をする者の労災保険の加入のあり方についても検討を行う。
- (4)アスベストばく露予防対策の強化と補償の充実をはかる。
①2012年3月に改定されたアスベスト関連疾患の労災認定基準の適用を徹底する。
②石綿障害予防規則の実効性を高めるため、監督・実地調査を強化する。また、労働者・管理者に対する事前調査や分析に関する研修などにより、ばく露予防対策の実効性を確保するとともに、ばく露予防対策に関する広報を強化する。
③小規模建築物も含めたアスベスト使用の実態調査を実施する。2030年頃にピークを迎えるアスベスト含有製品使用の可能性がある建築物などの解体・撤去作業に際し、台帳などによる適切な管理を行うとともに、作業を行う労働者と建築物などの利用者のばく露予防対策を徹底する。
- (5)長期治療を必要とする疾病などを抱える労働者が離職することなく働き続けられるよう、「治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」を普及・促進するほか、ガイドラインの内容の法定化を検討する。
12.外国人労働者が安心して働くことができるための環境を整備する。
- (1)外国人労働者の人権を尊重し、労働者保護を確保する。
①就労資格の有無にかかわらず、外国人労働者の労働基本権、日本人と同等の賃金・労働時間そのほかの労働条件や、安全衛生、労働保険の適用を確保する。
②外国人労働者に対して労働関係法令などをはじめとする権利に関する周知を徹底する。また、すべての労働基準監督署やハローワークなどにおいて、申請書類の多言語化なども含め、外国人労働者が母国語で相談や苦情を受け付けることができる体制を整備する。
③外国人労働者を受け入れる事業主が、労働条件通知書、就業条件明示書や就業規則等を外国人労働者の母国語や平易な日本語で作成することに対する支援を行う。
④外国人技能実習法や上陸基準省令等に明記されている日本人との同等額以上の報酬について、実効性を担保するための判断基準を設ける。
⑤外国人労働全般にわたる検討の場を労働政策審議会に設けるとともに、外国人労働者の就労環境整備をはかるための特別な法律を制定する。
⑥労働関係法令に違反する事業主に対しては、厳正に対処するとともに、受入れを停止する仕組みを設ける。
⑦悪質な仲介事業者等を排除するため、不当な仲介料や手数料等を徴収している登録支援機関や監理団体、職業紹介事業者等については、登録の抹消や許可の取消しを行うとともに、再び受入れることのできない仕組みを設ける。
- (2)外国人労働者の受入れ対象は、専門的・技術分野の外国人材とし、在留資格や就労資格の緩和などを通じたなし崩し的な受入れは行わない。
- (3)外国人労働者の受入れについては、外国人労働者の保護のあり方はもとより、国内雇用などに及ぼす影響や受入れ外国人材の「生活者」としての権利保障(社会保障、教育、公共サービス、防災、多文化理解の促進など)、更にはこれらに関する社会的コスト負担などの課題があることを認識し、検討プロセスの透明性を確保した上で、総合的かつ国民的な議論を行う。
- (4)生活者としての外国人に対する支援や共生施策については、居住する外国人および支援団体等から意見を聴く場を設け、真に実効性ある支援施策とするためのPDCAサイクルを構築する。
- (5)外国人の共生・支援を適切にフォローアップする仕組みとして、労使団体を含む多様なステークホルダーが参画する協議会を設ける。
- (6)在留資格制度をはじめとする外国人労働者の受入れにかかる各種制度について、以下の通り労働者保護の観点からの整備・改善をはかる。
①「専門的・技術的分野」として就労可能な入管法上の在留資格の安易な拡大や要件緩和は行わない。また、医師や看護師など法律上日本の資格を有しなければ就業できない「業務独占資格」はもとより、他の国家資格であっても国家間相互認証はしない。
②「高度人材ポイント制」の制度趣旨を没却するような安易な見直しは行わない。
③「特定技能」で受入れる業種・分野について安易な拡大は行わない。また、受入れ業種における日本人労働者の雇用状況、賃金水準等を定期的に把握し、受入れ停止の判断基準とする。
④「外国人技能実習制度」については、外国人技能実習法に示された制度適正化策を確実に履行し、国際貢献という制度本旨に沿った運営を行う。また、制度拡充や職種の安易な追加は行わない。
⑤外国人留学生の本来の目的である勉学に支障をきたすような「資格外活動」による就労を助長する事業主に対する罰則強化などを行い、不法就労を根絶する。
⑥国家戦略特区制度を活用した安易な外国人労働者の受入れは行わない。
⑦介護分野における外国人労働者の受入れは、介護福祉士資格を取得した者に限る。
⑧入国警備官の増員や入国管理局と警察との連携強化などを通じ、不法就労対策を強化する。
- (7)FTA/EPA/TPPなどを通じ、外国人労働者の受入れを拡大しない。
①相手国の資格を相互承認することで受入れを拡大しない。
②看護・介護分野は、労働条件や雇用環境、日本語による意思の疎通、出稼ぎによる家族離散、送出し国の頭脳流出などの課題があり、安易な受入れを行わない。
③看護師・介護福祉士候補者について、実態を検証した上で資格試験に向けた日本語教育などのさらなる支援の充実、制度の抜本的な改善を行う。また、不合格者の母国での就職支援を要請するなど、残留を合法化する制度改正を行わない。
④プライバシーに配慮しつつEPAにより受入れた労働者の処遇・労働条件などを調査し、調査結果を公表する。また、労働者への母国語による相談体制を確立する。
13.政府は、最低賃金および家内労働工賃の履行確保を強化する。
- (1)最低賃金の履行確保のための監督にあたる要員の増強等監督体制の抜本的強化をはかるとともに、違反事業所の積極的な摘発や罰則適用の強化など、最低賃金制度の実効性を高める。
- (2)最低賃金の改定額をふまえ、発注済みの公契約の金額を見直す。
- (3)家内労働工賃の業種について、実態にあった見直しをはかる。また、現行家内労働工賃の審議の充実をはかるとともに、その水準の引き上げと改定サイクルの短縮を促進する。
14.政府は、中小企業における勤労者の福祉の向上をはかる。
- (1)地域の雇用は中小企業が負うところが大きいが、個々の企業が福利厚生を単独で拡充することは財政的にも事務的にも困難である。地域活性化と企業規模間の福祉格差是正、中小企業の人材確保・育成・定着等の観点から、中小企業の福利厚生充実に向けた施策を講ずる。
- (2)「人材の確保・育成・定着」の支援のため、中小企業労働力確保法にもとづく各種助成制度の活用促進や優遇税制等経費の負担軽減措置など、中小企業にとって実効性ある総合的な施策を構築する。
- (3)中小企業における高齢者雇用の促進のため、高齢者の継続雇用や定年引き上げなどに対する助成金を継続する。
- (4)複数の中小企業が事業協同組合などを活用した障がい者雇用率制度を適用する際は、雇用主としての責任を果たすよう指導を徹底する。
- (5)中小企業労働者や職業能力開発機会が限定されている地域に居住する者について、国・地方自治体・地域の教育訓練機関などが連携し、職業能力開発に関する機会や情報における企業間格差・地域間格差の是正をはかる。
- (6)技術・技能の継承や人材の確保・育成などについて課題を抱えるものづくり産業の中小企業に対し経済産業省・厚生労働省・文部科学省などの連携を強化し、人材投資促進税制の復活や人材の確保・育成に関する支援措置を拡充する。
- (7)中小企業労働者の財産形成と退職金確保のための諸施策の充実をはかる。
①勤労者財形制度の普及・啓発を促進する。とりわけ、中小企業への普及と非正規労働者の加入促進をはかる。
②中小企業退職金共済制度への加入を促進するとともに、退職金不支給期間の是正をはかる。
a)一般の中小企業退職金共済制度および建設業退職金共済制度において「掛金納付期間が1年未満は支給なし」となっているが、企業の倒産・廃業の場合には掛金相当額が受給できるよう措置を講ずる。
b)「掛金納付期間が2年未満は支給なし」となっている清酒製造業退職金共済制度と林業退職金共済制度は、上記a)をめざしつつ、まずは「掛金納付期間が1年未満は支給なし」とする。
c)建設業退職金共済制度について、退職金水準を改善するべく、在職期間の短い退職者の支給水準を引き上げるとともに、24月未満の場合でも掛金相当額を支給する。
- (8)中小企業に対して適用が猶予されてきた月60時間超の割増率引き上げ(労働基準法第37条)が2023年4月から適用されるが、その確実な履行に向けて、適用までの間に、周知の徹底と取引の適正化を含む長時間労働抑制の環境整備を行う。
15.労働紛争の解決の迅速、適正化に向けて紛争解決機関などの整備・改善を行う。
- (1)労働者の団結権の擁護および労働関係の公正な調整をはかる専門機関としての労働委員会の改革・活性化を促進する。
①物件提出命令や証人出頭命令の運用を見直し改善する。
②労働委員会の出した物件提出命令や証人出頭命令に不服がある場合の行政訴訟を制限する。
③労働委員会命令の行政訴訟においては、「実質的証拠法則」を導入して労働委員会の判断を裁判所に尊重させる。
④労働委員会命令の司法審査は、地方裁判所からではなく高等裁判所からとする。
⑤労働委員会の「救済命令」の実効性の観点から、受訴裁判所による「緊急命令(取消訴訟の進行中に「救済命令」の全部または一部を暫定的に強制履行させる制度)」を見直し改善する。
⑥都道府県は、専門的知識と経験を持つ職員の育成・配置など、労働委員会の事務局体制を強化する。
⑦全国労働委員会連絡協議会のもとに設置される委員会が、全国の労働委員会における課題共有などの役割を果たし、労働委員会のさらなる活性化につながる組織となるよう、厚生労働省は労働委員会を所掌する官庁の責任として全面的にバックアップする。
⑧都道府県労働委員会においては女性委員を各側委員に1名以上任命する枠組みを検討する。
- (2)労働審判制度開始以降の運用について、検証・分析を行い、適切な見直しを行う。
①労働事件を担当する裁判官・書記官・事務局を増員する。
②各地方裁判所において女性の労働審判員を複数任命する枠組みを検討する。
③2017年4月より実施された労働審判申立受付の地裁支部の拡大の状況の効果検証をはかる。
④労働審判員法4条の許可代理について、一定の要件を満たした労働組合役職員の手続き代理を認めるよう運用をはかる。
⑤労働審判の利便性向上、迅速化の観点から、以下のとおり改善をはかる。
a)労働審判の定型申立書を作成し、申し立てが簡便にできるようにする。
b)書証などの閲覧については、事前配布もしくは労働審判員用の書証を用意する。
c)答弁書の提出期限の遵守について周知徹底をはかるとともに、最高裁判所として実態把握を行う。
d)期日における当事者の審尋については、迅速な解決のためにも、責任を持って判断できる当事者が出席する。
⑥労働審判員の能力向上のため、事例研究の機会を増やすとともに、適切な研修を政府予算により毎年開催する。また、労働審判員の経験交流・情報交換の場や重要な労働法改正時にあわせたスキルアップの機会の提供をはかるとともに、地方裁判所毎に行われている労働審判員の研修会について、内容の充実や質の均一化など、一層の充実をはかる。また、労働審判員とそのOB・OGの自主的組織として労働審判員連絡協議会が設置されたことも踏まえつつ、最高裁判所としても全国的な経験交流組織の設置などを検討する。
⑦健全な労使関係構築のため、審判員経験者が各企業・労働団体の職場でその経験をフィードバックできるよう環境を整備する。
- (3)個別労働関係紛争解決促進法の見直しを含め、労働事件を扱う司法制度を充実させる。
①司法制度改革を引き続き実施するとともに、検証・見直しを行う。
②労働事件に、労使の専門家が参加する「労働参審制」を全地方裁判所に導入する。なお、参審員は労使団体から選出された者を裁判所が任命し、裁判官と同じ評決権を持たせる。
③定型訴状を導入し、提訴が簡便にできるようにする。
④組合役職員の訴訟代理を認める。
⑤労働組合の「団体訴訟」を認める。
⑥労働関係訴訟の専門性確保の観点から、主要な高等裁判所に、職業裁判官1 名と労使団体の推薦による「労働裁判官」(仮称)2 名の計3 名により事件処理にあたる「労働高裁」(仮称)を創設する。
- (4)都道府県労働局の紛争調整委員会による紛争解決の実効性をあげるため、体制を強化するとともに出頭命令などの権限を付与する。
- (5)労働委員会による紛争解決の実効性をあげるため、個別労働紛争解決促進法の改正などにより時効の中断効を規定するとともに手続きの標準化をはかる。
- (6)総合労働相談コーナーのワンストップ化を図り、相談事案の振り分け機能を強化するとともに、労働紛争解決機関の連携強化と機能分化などの見直しをはかる。
①労働者が利用しやすい労働紛争事件解決機関となるよう、労働審判、都道府県労働委員会、都道府県労働局の紛争調整委員会の連携を強化するとともに、各機関が協力して周知徹底をはかる。
②労働者が適切な解決手続きを選択できるよう、総合労働相談コーナーにおいて、労働紛争に関する行政上の解決システム(都道府県労働委員会、都道府県労働局の紛争調整委員会)と司法上の解決システム(労働審判制度、通常訴訟など)についての情報提供を徹底する。
③労働相談・個別労働紛争解決制度関係機関連絡協議会の構成員に労働団体も含める。
- (7)集団・個別労使関係の双方において、社会保険労務士の不適切な介入事案が生じることのないよう、実効的な規制を整備する。
①社会保険労務士による団体交渉への介入可能範囲を示した厚生労働省通達を徹底する。併せて、監督官庁による指導・処分の徹底や業界団体の自主規制機能の強化を行い、違反行為を行う社会保険労務士に対する指導・監督を強化する。
②2014年の社会保険労務士法改正により補佐人制度の創設などの業容拡大の影響などを検証する。その上で、例えば補佐人として代理人とともに出廷・陳述できる社会保険労務士の範囲を特定社会保険労務士に限定するなどの見直しや、業容拡大に即した各種行為規制の整備などの必要な措置を講じる。
③不適切な情報発信の防止に向けた指導徹底および啓発をはかるとともに、不適切な情報発信を行った社会保険労務士に対する指導・処分を徹底する。
社会保障制度の基盤に関する政策<背景と考え方>
- (1)日本の社会保障制度は、国民皆保険・皆年金を柱に構築されてきた。しかし、高齢化の進展により65歳以上の高齢者人口は過去最高を更新し続け、総人口に占める割合は3割近くとなっている。社会保障給付費は増加し続けており、少子化の進行とあいまって、その基盤は大きく揺らいでいる。社会の基盤となる社会保障が将来にわたって必要な人に確実に提供され続けるよう、社会保障制度改革と安定財源の確保を一体的に進めていくことが必要である。
- (2)生活困窮者やその世帯の抱える課題は多様で複雑・複合的にからみあっている。生活困窮者自立支援制度や改正社会福祉法に新設された「重層的支援体制整備事業」を中核とし、早期的・予防的な観点からの支援も含め、包括的かつ伴走的な支援を強化していくことが重要である。また、生活困窮者が抱える家賃負担等の住まいをめぐる課題の解消に向けて、住居給付確保金の拡充策をはじめ、中長期視点での住まい保障について検討を進めるべきである。
- (3)生活保護受給世帯数は微減傾向にあるものの、その過半数を占める高齢者世帯の割合は増加傾向にある。また、新型コロナウイルス感染症拡大の影響による雇用情勢の悪化により、生活保護の機動的な運用が求められている一方で、生活扶助基準が段階的に引き下げられている。
- (4)社会保険の適用拡大に関しては、法改正が行われてきているものの、被用者全体をカバーするには程遠い状況である。さらなる適用拡大に向けて、政府は衆参両院の付帯決議を踏まえ、すべての労働者に社会保険を適用するよう徹底的な要件の見直しを行うとともに、労働組合のより一層の関与など取り組みの強化が求められる。
- (5)日本年金機構は、適用の徹底に向けた対応を強化するも、人員体制は「日本年金機構の当面の業務運営に関する基本計画」に基づき削減が行われている。このため、業務運営の効率化とともに、確実な業務執行を可能とする人員の確保が急務となっている。。
1.すべての人が必要な社会保障サービスを確実に受けられるよう、社会保障制度の基盤を確立する。
- (1)国は、人々が就労し、健康で文化的な生活を送るための所得を得て、税金や社会保険料を負担し、支え合う「働くことを軸とする安心社会」を実現するため、全世代支援型の社会保障の構築とすべての国民を対象としたセーフティネット機能の強化を進める。
- (2)社会保険は、「保険給付を受ける被保険者をなるべく保険事故を生ずべき者の全部とし、保険事故により生じる個人の経済的損害を加入者相互に分担すべきもの」とされており、個々人の加入者が支払う保険料が、その受け取る給付の期待値と同額になるという原則のもと、強制加入による逆選択の防止や、高所得者から低所得者への所得再分配の機能がある。これらの機能を踏まえ、持続可能な社会保障制度の確立に向けて、国民皆保険を堅持するとともに、社会保険の運営にあたっては、保険料の拠出者である被保険者の意思を反映する。
- (3)国は、社会保障分野の人材確保を進めるため、医療・介護・健康・福祉・子育て分野等を魅力ある産業とし、総合的、専門的な人材確保・育成制度の整備、労働条件の抜本的改善をはかる。
- (4)国は、所得再配分機能の回復・強化と安心と信頼の社会保障の実現の視点から、マイナンバー制度を円滑・着実に普及させる。
①マイナンバー制度の普及にあたり、個人情報保護のためのセキュリティ対策を万全に整える。
②医療情報との連携については、継続的な保健事業の推進をはかる観点から、保険者間における特定健診・特定保健指導に関する情報連携を推進する。レセプト情報との連携については、機微性の高い情報であることから、慎重に検討する。
③目的外利用やなりすましなどの不正行為を防止するための実効ある措置を講じる。また、苦情処理、権利侵害にかかる調査・救済などの機能を持つ第三者機関を設置する。
- (5) 国は、社会保障サービスの利用者自己負担を一定額に抑える「総合合算制度」の実現に向け、直ちに検討を進める。
- (6) 国は、生命の安全、人権、子どもの成長に深く関わる分野の最低基準について、積極的に役割を果たす。一方、地方の特性に応じた社会保障政策の実施に向けて、地方分権の観点から、国の義務づけを縮小する。
- (7)国および地方自治体は、社会保障や福祉の意義・制度の基本、社会連帯の重要性など、学校における「社会保障教育」を充実する。
- (8)地方自治体は、医療・福祉・介護・子ども子育て等の分野を超えた地域生活課題について、支援を必要とする人に寄り添った包括的・伴走的な支援を行うため、重層的支援体制整備事業(相談支援・参加支援・地域づくり)の実施体制を整備し、だれもが安心してくらせる共生社会を構築する。また、国は、好事例を展開するなど、任意事業である重層的支援体制整備事業の全国的な普及に向けた取組を進める。
- (9)国は、地域福祉の推進に向けて、市町村地域福祉計画および都道府県地域福祉支援計画の策定を義務づける。
- (10)国は、医療法人および社会福祉法人に対し、良質なサービスが提供されるよう、事業の継続性、経営状況や労働関係法令遵守事項を含め事業運営の透明性を確保し、他事業との経営・財務の分離、配当の制限、財務諸表の公表、理事会の公益性の確保、理事・役員などの親族制限、使途制限の徹底を進める。また、地方自治体は、医療法人、社会福祉法人に対し、実効性ある指導監督を徹底する。
- (11)国および地方自治体は、地域の見守りなど、地域福祉の重要な担い手となっている民生委員と児童委員について、兼務規定の廃止や報酬の改善、任命方法などの見直しを検討する。
- (12)国および地方自治体は、被災者に必要な支援が確実に提供されるよう、被災者の所在を把握するための「全国避難者情報システム」の運用を進める。そのため、避難者からの情報提供が確実に行われるよう、市民に対する周知活動を徹底する。
- (13)被災者の命と安全、健康を確保するための避難体制を確保する。
①国は、地方自治体が高齢者、障がい者、子ども、疾患のある人、外国人などの移動手段の確保を含む避難計画を策定し、周囲への遠慮をせずに避難所で生活できる体制を整えるための支援を強化する。また、外国人の防災対策に関しては、避難訓練時のアナウンスや被災時の避難場所の案内における多言語対応等、情報伝達を支援する体制を整備する。
②国および地方自治体は、被災地や避難所における感染性疾患の拡大を防止する観点から、様々な災害時に対応する感染症抑制の知見や経験を普及し、平時から対策を講じる。また、感染拡大状況における避難時の三密回避の観点から、平時からリスクアセスメントを行い、避難所の環境に応じた体制作りを行う。
③国および地方自治体は、夏場の大規模な災害等に備え、熱中症対策、衛生状態の確保を念頭に置いた避難所運営、避難体制を構築する。また、衛生管理に必要なドライアイスの製造・確保拠点の計画的な整備を進める。
④国および地方自治体は、避難所における被災者の健康状態を維持するため、マスク、手指用アルコール消毒剤、消毒剤、総合感冒薬、うがい薬等の分散備蓄体制を構築し、衛生環境を保持する。
⑤国および地方自治体は、医薬品、ワクチン、医療材料、衛生材料、水および医療用ガス等の分散備蓄・供給体制を構築する。
⑥地方自治体は、乳幼児の健康状態を確保するために特に必要となる水、粉ミルク、アレルギー食、清潔な環境などの確保に十分配慮した避難体制を構築する。
⑦地方自治体は、病院、介護保険施設、居住系サービス、福祉施設等における避難計画・体制を見直すとともに、同計画にもとづき職員・入所者等に対する防災教育や避難訓練の実施を徹底する。
⑧地方自治体は、在宅医療・介護等のニーズを把握し、避難体制を確保するため事業者との連携を深める。また、事業者が移動手段を確保できる体制整備を行う。
⑨国および地方自治体は、災害発生時の状況把握や復旧を担う労働者の健康確保の観点から、作業に従事する労働者の待機・宿泊施設の確保について必要な支援を行うこと。また、そうした支援について、災害協定締結業者や維持工事等の契約相手方にも周知する。
2.すべての人が健康で文化的な生活を送れるよう、重層的な社会的セーフティネットを確立する。
- (1)国は、現在の生活保護制度と雇用保険制度をベースに、社会保険・雇用保険制度の機能強化(第1のネット)、生活困窮者自立支援制度の就労支援や生活支援の充実・実施体制の強化(第2のネット)、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障する給付制度(第3のネット)に加え、いずれの層の施策とも組み合わされる「住宅支援制度」と「医療・介護費補助制度」(第4のネット)を整備し、きめ細やかな重層的なセーフティネットを構築する。
3.生活困窮者自立支援制度の実施体制の整備を進める。
- (1)地方自治体は、生活困窮者自立支援制度の確実な実施に向けて、総合的な実施体制を整備し、NPOや社会福祉法人、社会福祉協議会などの社会資源を活用するとともに、人材の確保と育成を進める。
- (2)国は、必須事業である「自立相談支援事業」「住居確保給付金」などの確実な実施を支援するとともに、好事例などの情報収集や横展開を進め、事業の質の改善を行う。「就労準備支援事業」など任意事業の地域差の平準化をはかる。また、事業委託にあたっては、事業の継続性や人材確保等を重視する。
- (3)国および地方自治体は、生活困窮者支援の質を確保するため、縦割りでない包括的なチームによる相談支援体制を全国的に構築し、アウトリーチによる早期からの「包括的」かつ「伴走型」の支援体制を確立・強化する。
- (4)国は福祉事務所設置自治体に対して、就労準備支援事業、一時生活支援事業、家計相談支援事業、学習支援事業などの任意事業を積極的に実施するよう支援する。補助率については4分の3とする。
- (5)国は、就労訓練事業(いわゆる「中間的就労」)の認定制度について、安全衛生の確保、情報公開、報告の義務等を要件化するなど、貧困ビジネス防止の観点から強化する。
- (6)国および地方自治体は、生活困窮者が抱える家賃負担や連帯保証人等の住まいをめぐる課題の解消に向けて、住居確保給付金の支給期間の延長や入居費用の支給に充てる金額の拡充、機関保証の活用を進める。また、住まいは生活の基盤であることから、国は住居費の支援等の生活困窮者に対する恒常的な居住保障のしくみの検討を進める。
- (7)国は、無料低額宿泊所の利用者の自立を助長する適切な住環境を確保するため、無料低額宿泊所の防災体制を強化するとともに適切な相談支援体制の整備を行う。
- (8)国および地方自治体は、登録住宅を増やすため、賃貸住宅の所有者等に対して改正住宅セーフティネット法の内容の周知を徹底する。また、地方自治体は、地域の実情に応じた賃貸住宅供給促進計画の策定を進める。
- (9)国および地方自治体は、就学援助金制度について、準要保護者への援助基準を保護基準の1.2倍以上とするとともに、援助経費などの改善を検討する。
- (10)国および地方自治体は、ホームレスに対して生活保護の給付を行い、併せて生活支援を充実する。
①緊急一時保護施設(シェルター)の活用、自立支援センターの整備・拡充等の適切な対応をはかる。
②新たな貧困層(ワーキングプア等)等若年層への相談支援体制の整備・拡充、就業機会の確保など、自立支援策を強化する。
③ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法第11条(公共施設の利用が妨げられている場合は、その管理者が適正利用のための必要な措置を講じる)は、国際人権法に則った上での措置とする。
4.すべての人の生存権が保障されるよう生活保護制度の基盤を強化する。
- (1)国は、生活保護制度が、すべての人が健康で文化的な最低限度の生活を保障していることに鑑み、生活扶助などの水準について、引き続き消費水準等に着目した改定を行い、安易な引下げは行わない。
①実施機関の窓口に生活保護の申請書類一式を備え置くことを義務づける。
②受給者の権利擁護をはかるため、苦情や相談、不服申し立て(審査請求)を受付け、調査権と行政への勧告権を持つ「第三者機関」を設置する。
③資産の保有状況の調査について、署名捺印によって包括的に同意を強制する「123 号通知」とその関連通知については廃止する。
- (2)国は、生活保護世帯の捕捉率について調査方法を確立し、公表する。
- (3)国および地方自治体は、 生活保護の申請にあたって、申請権が損なわれることのないよう徹底する。また、扶養義務を強要する運用を改善し、将来的には民法の扶養義務の範囲も縮小する。
- (4)国および地方自治体は、医療扶助の適正化を進めるとともに、不正請求を行った指定医療機関の取消を行う。
-
①高額薬剤における不適正事案への対応については、レセプト電子請求を普及し、レセプト点検のさらなる強化や重複投薬の是正に取り組むほか、指定医療機関制度の見直しによる不正請求を行った医療機関の排除を徹底的に行う。
②生活保護受給者に先発医薬品と後発医薬品について差額分の自己負担を求めることは、医療における患者の選択の幅が狭められることになりかねないため、慎重に検討する。
③医療扶助受給者による頻回受診が行われている医療機関に対する指導を徹底する。
④医療扶助による医療を受診した場合であっても、医療機関に対して診療明細書の発行を義務化する。
⑤医療扶助におけるオンライン資格確認等システムの導入にあたっては、被保護者の受療機会を確実に保障する。
- (5)国および地方自治体は、生活保護を受けずに自立的な生活に早期に移行できるよう、集中的な就労・自立支援方針を早期に策定する。様々な要因で就労できていない被保護者が就労できるよう、就労意欲の回復を含めたきめ細かな取り組みを促進する。また、被保護者が積極的に就労することで自立的な生活への移行を促進するため、生活扶助の勤労控除を拡大し、「脱却インセンティブ」を強化する。
- (6)国および地方自治体は、新たな生活困窮者支援など業務拡大等を踏まえ、福祉事務所の地方財政措置を大幅に充実するとともに、福祉事務所設置自治体においては、ケースワーカー標準配置数にもとづいた人員の配置、専門職などの人材の確保と育成を強化する。
- (7)国および地方自治体は、刑期を終えた人への支援に向けて、社会的な居場所づくり、住まいの確保、就労促進の支援に向けた取り組みを進める。
- (8)国は、総合支援資金貸付については連帯保証人等の貸付要件を緩和し、雇用保険の基本手当等の給付対象者に対する緊急小口資金については住所等の貸付要件を緩和する。併せて、生活資金貸付制度の周知を徹底する。
5.すべての労働者に社会保険を適用し、働き方に中立的な制度を確立する。
- (1)国は、すべての労働者が安心して働き、暮らし続けられるよう、雇用形態や企業規模の大小を問わず、社会保険の適用拡大を強力に推進する。
①社会保険適用の意義や、改正法の趣旨、労働条件不利益変更の禁止について効果的な周知を行う。
②事業者が、社会保険料負担を回避するため、労働時間等の労働条件を引き下げや偽装請負などの契約形態変更などにより、社会保険適用から外すことがないよう、指導・監督を徹底する。
③就業調整を防ぎ、被用者保険の適用拡大を円滑に進めるための支援策を講じる。また、労働者が誤解により就業調整を行うことを防ぐため、給付と負担について正確に理解することができるように周知徹底を行う。
④事業者の違法な適用逃れや該当する労働者の未適用などの労働者の不利益を防止するため、国税庁や地方自治体と連携し、徹底して社会保険適用を推進する。
⑤介護休業中の社会保険料の免除制度を創設する。
⑥自営業者等の所得比例年金の創設に向け、マイナンバーやインボイス制度の早期導入等による所得捕捉の徹底を進めるとともに、自営業者等の保険料負担(事業主負担)のあり方を整理する。
⑦短時間労働者等へのさらなる適用拡大に向けて、企業規模要件を速やかに撤廃し、適用基準として労働時間要件(週20時間以上)または年収要件(給与所得控除の最低保障額以上)のいずれかに該当すれば社会保険を適用させるように見直す。また、現行の被扶養者の年収要件を現行の130万円から給与所得控除の最低保障額以上に変更する。
⑧社会保険の非適用業種を撤廃し、常時5人未満の個人事業所も適用対象とする。
- (2)国は、社会保険の適用、徴収業務の確実な対応を進めていくため、公権力行使業務が行える職員(正規職員)を含め、日本年金機構の人員を確保し、体制を強化する。
- (3)社会保険の運営にあたっては、保険料の拠出者である被保険者の意思を反映する。
- (4)国は、社会保険審査会の審査の簡易・迅速化に向け、審査体制の見直しを行う。
①被保険者や受給権者など請求人の立場に立ち、審査基準の見直しや体制の整備を行う。
②請求人の審査会参加を担保する観点から、利便性を確保するため、社会保険審査会の開催場所を東京のみと限定せず、8ブロック(各地方厚生局単位)での開催や、ICTの活用を検討する。
③審査基準(関連法規や運用基準)や手続きなどを平易かつ的確に説明できるよう、請求窓口担当者に対する研修を強化する。
医療政策<背景と考え方>
- (1)人口減少・超少子高齢化の進行により人口構造が地域ごとに異なって変化していくことに伴い、医療提供体制および医療保険制度の再構築が課題となっている。誰もが住みなれた地域で安心して暮らし続けられるよう、患者本位で質の高い医療を切れ目なく受けられる地域包括ケアの推進が不可欠である。同時に、経済力を問わず公平に、かつ安心して医療へアクセスできるよう、皆保険の下で、保険者機能が発揮される持続可能な医療保険制度の確立が不可欠である。
- (2)人口構造の変化に伴い、各地域で必要となる医療機能の需要も変化するため、需要推計を勘案した「地域医療構想」に沿った提供体制の構築が進められている。医療機関の機能分化の推進においては、感染症拡大を考慮して「地域医療構想」を再検討するとともに、実効性確保の取り組みを強化し、必要な医療アクセスが保障され、また、医療機関の雇用問題が生じないよう配慮が必要である。また、厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」では、医師の長時間労働是正に向けた議論が進められているが、看護職をはじめ、医療機関で働く他職種の働き方も同様に見直す必要があり、こうした取り組みによって離職防止や復職促進につなげていくことが重要である。
- (3)国民医療費は40兆円を超え、高齢化や医療の高度化などによって今後も医療費の増加が見込まれる中、高齢者医療への現役世代の被用者保険からの拠出金等は、特に健康保険組合では拠出金と法定給付費を合わせた経費(義務的経費)の5割に迫っている。経済力によって医療アクセスに差が生じないよう配慮しつつ、被保険者の納得性確保と、保険者機能を積極的に発揮できる医療保険制度の確立に向け、高齢者医療制度の抜本改革を進めていく必要がある。
- (4)超長寿社会を迎えるわが国において、国民の健康寿命の延伸に向けた取り組みの重要性が高まっている。一人ひとりが健康で生き生きと暮らしていく上で、保険者や企業、個人が積極的に予防・健康づくりに取り組むための基盤整備や健康への意識啓発が必要である。
- (5)診療明細書の無料発行義務の対象拡大(2018年4月)や、医療広告の規制強化にかかわる改正医療法の施行(2018年6月)など、患者に対する情報の確保については一定の進展がみられる。しかし一方、2015年10月に開始した医療事故調査制度は事故の対象が限定的なために、実際に再発防止に結びつける取り組みには課題が残されている。安心・信頼で患者本位の医療の確立に向け、さらなる施策の強化が必要である。
1.地域で医療の質を低下させることなく医療機関の機能分化と連携を推進し、医療人材の確保対策を強化して、良質で切れ目のない医療提供体制を構築する。
- (1)地域包括ケアのさらなる推進に向けて、良質で切れ目のない医療提供体制を構築するため、以下の対応を行う。
①地域で医療の質を低下させることのないよう、感染症のまん延を考慮したうえで、医療機関の機能分化と連携、医療と介護の連携を推進する。
②医療機関の機能分化にあたり、急性期を脱した患者への医療や、高齢者の容体急変時の医療などを担う病床を確保するとともに、在宅医療や訪問看護を拡充する。
③第7次医療計画および地域医療構想の推進においては、感染症のまん延を考慮したうえで、地域実態に即して必要な医療提供体制を確保できるよう、国は都道府県の同計画・構想の実施状況を定期的に検証し、必要な施策の見直しを行うPDCAサイクルを確立するよう徹底する。また、各医療機関の医療機能を詳細に把握できるよう、病床機能報告制度におけるレセプトデータの分析・活用を拡大する。
④都道府県は地域医療構想の実現に向けて病床転換や病床数の調整を行う場合、医療機関の設置主体にかかわらず、域内の全ての医療機関を対象に協議を行う。その際、病床の統廃合にともなう雇用問題が生じないよう対策を講じる。
⑤国は、医療提供体制に対する被保険者や住民の意見を反映させるため、都道府県における医療計画の策定や「地域医療構想調整会議」への被保険者や住民の参画を促進するよう指針などの徹底をはかる。
- (2)地域医療構想にもとづき、地域医療支援病院の設置を推進するとともに、病院については医療圏単位に教育の機能、高度先進医療を実施する機能、政策医療を担う機能、「家庭医(仮称)」などを支援する機能などを地域実態に即して確保する。また、高額医療機器の共同利用を促進する。
- (3)在宅療養支援診療所・病院を地域における病診連携の中核的医療機関として位置づけ、病院や訪問看護ステーション、介護保険施設、居住系サービスなどとの連携により、切れ目なく安心して医療が受けられる在宅医療提供体制を構築する。
- (4)救命救急センターと他の医療機関との連携を強化し、救急医療を拡充する。救急を担う医療機関においては、救急に対応する医師や看護職、コメディカルの常時複数配置を義務づける。また、ドクターヘリ運用施設の増設など、体制を強化する。
- (5)精神科入院については、地域移行の推進による入院日数の短縮と精神病床の計画的な削減、社会的入院の解消、医療内容の改善、必要な医師・看護師の確保など、早期相談・治療・支援ができる体制を整備する。また、精神保健福祉士(PSW)の配置や専門的研修を受けた看護師が参画する精神科リエゾンチームの普及など、専門職による支援を拡充する。
- (6)女性医師が妊娠・出産・子育てなどを理由に離職することなく働き続けられる職場環境づくりのため、短時間勤務の推進や復職研修の機会拡充、宿日直・時間外勤務の調整などの配慮を強化するよう、医療機関に対して指導を行う。また、院内保育の充実や復職研修中に利用可能な保育の確保など、円滑な受講を促進するための条件整備を行う。
- (7)初期医療や病診連携の調整などの役割を担う「家庭医(仮称)」の認定制度を構築し、在宅療養支援診療所に「家庭医(仮称)」の配置を義務化するなどして、外来にかかる病院・診療所の役割分担を明確化する。また、新たに開業する医師は、一定期間以上の救急医療、へき地医療での臨床経験などを開業の必須要件とする。
- (8)「家庭医(仮称)」は、24時間の緊急応需体制を複数医による連携や地域の他医療機関との連携体制を構築することで確保しており、かつ訪問診療を行う総合診療専門医であることを要件とする。総合診療専門医を積極的に養成する観点から、当該認定を受けた者が一定期間「家庭医(仮称)」として従事した場合に奨学金の返済を免除するなどの支援を講じる。
- (9)医師の質の向上をはかるため、医科系大学の「医局講座制」、教育、研究のあり方について検討を進める。また、医師国家資格は専門性や知識を保つために5年ごとの更新制とし、「更新時研修」を義務づける。更新しない場合は資格停止も含めて検討する。
- (10)専門医療の質を確保する観点から、診療所の保険医療機関の指定時における標榜科は専門医認定を受けた診療科に限る。
- (11)地域における医師の偏在を是正するため、都道府県毎に国が定めた医師数の目安を超える地域での保険医の登録を認めない。なお、病院勤務医の場合は当該制限の対象外とする。
- (12)地域における診療科の偏在を是正するため、国は各圏域の人口等を勘案しつつ都道府県毎の診療科別医師数の目安を定める。目安を超える診療科については保険医療機関の指定を行わない。なお、(11)の保険医数が目安を超えていた場合であっても、当該診療科の医師数が目安を下回っていた場合には、指定を行う。
- (13)地域における医師・診療科の偏在を是正するため、国は地域医療支援センターの機能強化や地域医療研修の拡充、医科系大学の地域枠で入学した学生が卒業後も当該地域で医療を担う仕組みの構築、地域枠の定員拡大、医師少数区域における一定期間の勤務経験を認定された医師に対する評価の拡大など必要な支援を行う。また、都道府県は、医療対策協議会と地域医療支援センターの連携による取り組みを着実に実行する。
- (14)医師臨床研修制度について、すべての臨床研修病院の研修プログラムの質を向上させるため、全国共通の評価委員会を設置する。また、研修医が研修に専念できる労働環境を確保する。
- (15)安全で質の高い看護の提供を確保するため、国および都道府県は以下の施策を講じる。
①医療の安全確保のため、連合「看護職員の夜勤・交代制勤務のガイドライン」を踏まえつつ、労働時間の改善や勤務間インターバルの確保など、医療現場で働く労働者の健康確保に対する指導・援助等を強化する。
②看護職員の離職防止に向け、医療機関における労働環境の改善やマネジメントの向上、ワーク・ライフ・バランスの確保を進めるため、連合「看護職員の夜勤・交代制勤務のガイドライン」を踏まえつつ、夜勤交代制勤務の回数制限など労働時間管理を厳格に行う体制の確保を医療機関に指導する。また、患者やその家族等からのハラスメント抑止に向けた対策を強化する。
③都道府県ナースセンターや看護師等免許保持者の届出制度の周知をはかるとともに、潜在看護師を対象とする復職研修の機会を拡充するため、研修実施医療機関を支援するとともに、院内保育の充実や復職研修中に利用可能な保育の確保など、円滑な受講を促進するための条件整備を行う。
④高度急性期から慢性期まで、医療機能に応じた看護の提供と夜間の人員体制の確保を考慮した看護職員の需給計画を策定する。また、進捗状況を検証しながら看護職員の養成、定着、離職防止の取り組みを着実に実行し、適切な看護配置と看護職員の確保を着実に推進する。
⑤看護師養成課程を統合して看護制度の一本化を実現する。それに向けて、准看護師の移行教育を直ちに行い、准看護師養成制度を即時廃止する。また、効率的で受講しやすい内容や勤務時間の保障など、労働環境・条件の整備をはかる。
- (16)研修の充実をはかるなど、医療従事者が専門性を発揮して的確な医療を提供する「チーム医療」体制を確立する。
- (17)看護師の「診療の補助における特定行為」は、当該研修を受講した看護師が行うことを基本とし、受講者の同意と十分な研修時間の確保、研修中の欠員補充を前提に研修制度を実施する。また、「診療の補助における特定行為」をめぐる医療事故における責任のあり方について研究を進める。さらに、研修受講への財政支援を充実するとともに、修了した看護師の職務に相応しい賃金・労働条件の向上をはかる。
- (18)看護補助者が行う補助業務の内容と医療行為との区分けを明確にする。医療機関は、看護補助者に医療行為を行わせることのないよう、法令を順守した体制を確保するための雇用管理を徹底する。また、看護補助者に対する教育・訓練体制の確立、業務マニュアルを策定する。
- (19)地域医療介護総合確保基金は、地域医療構想の達成、医療・介護の連携推進、研修中の欠員補充を含む人材確保の事業に優先活用されるよう配分するとともに、基金事業の進捗を検証し、PDCAサイクルによる効果的な活用を徹底する。
- (20)都道府県は医療勤務環境改善支援センターによる能動的な働きかけで、すべての医療機関における「医療勤務環境マネジメントシステム」の取り組みを徹底するとともに、取り組みや同センターの運営において、労働組合の参画を推進する。また国は、同センターによる人材確保、離職防止、復職支援の取り組み成果を検証し、医療機関の勤務環境と雇用管理の改善に向けて、PDCAサイクルによる取り組みを徹底する。
- (21)医療安全の確保を前提とするオンライン医療(診断等)など、医療分野におけるICTの活用を推進するための法令等を整備する。
- (22)災害があっても医療機関あるいは在宅で安心して医療を受けられる体制を整えるため、以下の施策を講じる。
①DMAT(災害派遣医療チーム)による救命・急性期医療の対応や、DPAT(災害派遣精神医療チーム)および「心のケアチーム」によるメンタルケアに加え、感染症、慢性疾患、精神疾患など慢性期医療にも対応できる医療チーム体制を平時から整備する。
②災害時でも地域住民に対する医療・介護サービスを提供できるよう、広域的な医療と介護の連携体制を確保する。
③災害時の医薬品・医療機器・医療材料の安定供給と流通体制の確保に向けて、国、都道府県、市町村、企業、卸業者の連携を平時から強化する。
④都道府県は、関係団体と連携し、「災害医療コーディネーター」および「地域災害医療コーディネーター」の設置を推進し、国はこれを支援する。
⑤国は、すべての医療機関に非常用電源装置の設置を義務付けるなど、停電対策の推進とそのための財政支援を行う。また、大規模災害発生時における医療機関への優先的な燃料供給体制を構築するとともに医療機関における事業継続計画(BCP)の策定を進める。
⑥災害により機能停止した医療機関に受診していた患者が、他の医療機関で速やかに診療や処方箋の交付を受けられるよう、個人情報保護とデータのバックアップ体制を確保しつつ、都道府県をまたいだ電子カルテの共有化を進める。
⑦在宅でも安心して医療機器を使用できるよう、たん吸引機、人工呼吸器、酸素発生器、腹膜透析機器、輸液、中心静脈栄養および経管栄養のポンプなど在宅用医療機器のバックアップ電源の普及を進めるとともに、レンタル機器の確保と提供体制、患者への情報提供体制の確保を進める。
⑧大災害や停電下での地域における人工透析の提供体制を確保するため、水および透析液を備蓄した透析医療機関の計画的な整備や自家発電装置の長時間化、発電車や小型発電機の貸出体制への支援、電力供給の優先要請を行い、患者への情報提供を確実に行う。
⑨原子力発電所、核関連施設における事故に対応し、ヨウ素剤、放射性セシウム体内除去剤を備蓄し、確実に提供される体制を構築する。
2.患者による選択を支援する医療情報の内容と提供手段を充実するとともに、医療安全の確保と医療事故の原因究明・再発防止の取り組みを強化し、安心・信頼の患者本位の医 療を確立する。
- (1)患者が疾病と診療内容を十分理解できるようインフォームド・コンセントを医療法で義務づける。また、セカンドオピニオンや、根拠のあるデータにもとづく医療(EBM)、国民・患者の参加による標準的な診療ガイドラインの普及を推進する。
- (2)医療機関および保険者に「診療情報の提供等に関する指針」を周知徹底し、個人情報保護法にもとづきプライバシーの保護に十分留意しつつ、患者の申出に応じて理由を問うことなくカルテおよびレセプトを開示し、患者による自己の医療情報へのアクセスを保障する。また、患者にとって有益な医療情報の利活用のあり方について、患者参画の下で検討を進める。
- (3)すべての保険医療機関に対し、患者の自己負担の有無を問わず、システム改修が必要な場合などの例外なく、明細書の無償発行を義務化する。
- (4)正確で客観的なカルテ記載のため、「診療情報管理士」を国家資格とし、当面一定規模以上の病院への配置を義務づける。
- (5)すべての医療機関において電子カルテおよびレセプト電算処理システムの導入を推進するとともに、電子カルテとレセプトデータの長期保存を義務づける。
- (6)都道府県による医療機能情報提供制度の掲載項目に、医師の履歴、技術、経験や手術のアウトカム情報、経営状況や財務情報、看護師や専門職員数等を含めるなど、患者の医療機関選択に資する情報を充実する。また、日本医療機能評価機構による医療機関の評価・認定システムを国民・患者へ周知する。
- (7)良質の医療を受ける権利、身体的安全が確保される権利、情報を得る権利、医師や医療機関、治療方法を選択する権利などを規定した「患者の権利法」を制定する。
- (8)すべての医療機関における医療安全管理体制の強化に向けて、医療安全管理委員会や医療安全管理部門の設置を推進する。また、有床の医療機関における医療安全管理者の専従配置の義務づけに向け、医療安全管理者のサポート体制を強化する。
- (9)医師の行政処分に係る「医道審議会」における審議の透明性を確保するとともに、審議会委員に保険者と患者代表を入れる。また、医師免許取消など処分の基準を明確にする。
- (10)医療事故、不正請求、脱税、犯罪などによる保険医療機関・保険医指定の取消基準を明確化し、国の権限を強化し厳格に適用する。また取消事案の具体的内容を公開する。
- (11)指導・監査における不正防止に向け、地方厚生(支)局から厚生労働省本省への報告を徹底する。また、指導・監査体制を強化し、保険者や民間保険会社などと情報共有を行いながら医療機関による不正請求への対応を強化する。
- (12)国や各都道府県に医療従事者、保険者、労使や患者代表、弁護士などで構成する医療に関し苦情の処理・解決をはかる中立の第三者機関を設置する。
- (13)患者と医療従事者の信頼関係を構築する観点から、医療事故調査制度について、医療事故調査・支援センターによる調査権限の強化、調査対象の拡大を行うとともに、調査にもとづく医療事故の原因分析と再発防止に取り組むことを法的に位置づける。また、患者と医療従事者の双方を救済するため、無過失補償制度の法制化に向けた検討を進める。
- (14)誰もが安心して子どもを生み、育てることができる環境整備に向け、妊娠・出産を健康保険適用(現物給付)とする。産科医療補償制度については、国の責任で制度運営を行うとともに、補償対象の拡大に向けた検討を行う。同時に、同制度を通じて脳性麻痺発症の原因究明と同様事例の再発防止策を医療機関へ周知徹底する仕組みを確立し、安全な産科医療の標準化をはかる。また、脳性麻痺発症の発症リスクを国民に周知・啓発する。
- (15)自らが希望する医療やケアについて自分自身や周囲の家族等と話し合う「人生会議」の普及・定着に向けた国民への広報と相談支援体制の構築を推進するとともに、医師や家族との情報共有を促進し、患者の尊厳と自己決定権を尊重した医療を推進する。また、疼痛緩和や精神的ケアの充実、コーチングなど様々な観点から環境を整備し、人生の最期における最善の医療を患者自身が選択できる体制を整備する。
- (16)難病法にもとづく医療費助成の実施状況を検証し、患者救済の立場から、対象疾病および自己負担のあり方を検討する。また、幼稚園・保育所、学校などにおいて医療的ケアが必要な障がい児への医療提供を確保するとともに、難病相談・支援センターの取り組みを周知するなど、難病患者や家族などへの支援を強化する。
- (17)骨髄など造血管細胞の移植を必要とする患者への医療提供を推進するため、「移植に用いる造血幹細胞の適切な提供の推進に関する法律」を強化し、造血管細胞提供者の休暇取得など就業上の配慮を含め、患者と提供者双方への支援を充実する。
- (18)必要性の高い革新的新薬、希少疾病用医薬品、低侵襲で高度な医療機器・材料の研究開発を促進するため、安全性の確保や審査の透明性確保を前提に、国内治験環境の整備や国際共同治験の推進、承認審査の効率化・迅速化を進める。
- (19)薬害など医療被害の未然防止に向け、医療人材の養成課程で被害者の声を直接聞く学習を必須とする。薬害被害者救済には、「医薬品医療機器総合機構(PMDA)」の機能強化とともに、国の安全監視体制の責任の下、厚生労働省、PMDAなどの監視および評価を行い、薬害防止のために適切な措置を講じる医薬品規制行政機関などから独立した第三者機関の設置につなげる。
- (20)一般用医薬品の販売店におけるリスク分類別の販売管理を徹底する。インターネットをはじめとする郵便等販売の実態把握と検証を進める。
- (21)セルフメディケーション※の推進にあたっては、すべての人の健康確保につながるよう、低所得者に十分配慮しつつ進める。また、登録販売者の研修を充実させるなど資質向上をはかり相談体制を強化するとともに、医師、薬剤師等との連携体制を確保する。さらに、国民の医薬品の適正な使用や予防・健康づくりに資する情報発信や意識啓発を強化する。
※自己の認識する病気や症状を治療するために個人が薬を選択し、使用すること
3.入院・外来医療の機能分化と連携の推進、医療と介護の連携強化、質の高い医療の推進などを後押しする診療報酬改定を行うとともに、医療を必要とするすべての人が安心できる保険給付を保障する。
- (1)診療報酬制度については、項目を簡素化して誰もが分かりやすい診療報酬体系とするとともに、信頼できる保険医療へのアクセスを保障する。また、医療の質の向上や治療方法の標準化、医療の透明化をはかるため、医療機関による患者の逆選択が生じないことを前提に、出来高払いから「包括・定額化」への転換を進める。
- (2)がん診療連携拠点病院、地域がん診療病院、小児がん拠点病院の連携を強化し、地域間のがん医療の均てん化、がん診療の連携や緩和ケアを充実に資する診療報酬上の評価を行う。
- (3)診療所については、定額方式を原則とするとともに将来的には家庭医登録制度の採用と登録患者の数に応じた医療費支払方式である人頭払い制度の導入も検討する。
- (4)病院については、急性期入院医療を対象とする診療報酬の包括評価制度(DPC)の検証を継続しつつ、DPC準備病院および対象病院をさらに拡大する。
- (5)中央社会保険医療協議会(中医協)委員は、現行の三者構成(支払側、診療側、公益委員)の維持を基本とし、患者・被保険者代表が必ず参画できる仕組みとする。また、医師以外の医療従事者代表などを加える。
- (6)患者申出療養や再生医療をはじめとする保険外併用療養費制度は、患者の安全性の確保を最優先するとともに、保険収載を前提に検討を進め、安易な拡大を行わない。保険収載を前提としない「混合診療」は導入しない。
①保険外併用療養費制度の対象となる医療技術の安全性・有効性などの審査や評価の情報公開を行い、透明性ひいては公平性を確保する。
②実施においては、患者の安全な選択に資するよう、費用も含めた十分な情報提供と院外掲示・広告、本人同意、自費部分を含めた明細書発行などを義務づける。
③患者申出療養の医療を行う医療機関は、高度かつ専門的な医療を提供できる医療機関に限定する。また、実施に関与する関係医療機関の役割と施設基準を明確化する。また、広範な副作用被害や医療事故などの有害事象が発生した場合に、責任の多くが患者に負わせられることのない仕組みを確立する。
- (7)薬価改定は、患者の利益につながるイノベーションや医薬品の安定供給の観点から、革新的新薬や希少疾病用医薬品を積極的に評価する。また、薬価算定過程の透明性・信頼性を高める検討を進めるとともに、調整幅の性格を明確化し必要に応じて薬価に算入する。あわせて、医薬品の公正な価格形成を進めるため単品単価取引を推進する。
- (8)良質な後発医薬品の普及促進のため、情報提供、品質管理、トレーサビリティの確保、安定的な供給体制などを含めた評価システムを確立する。また、統一名収載を推進するとともに、後発医薬品の普及状況に応じて一般名処方加算は縮小する。
- (9)医薬品・医療機器等に対する費用対効果評価については、患者の利益を損なうような価格反映が行われない運用とする。
- (10)薬剤1日分の薬価合計額が175円以下の場合にレセプトへの傷病名、薬剤名、投与量の記載を省略できるルールを廃止する。
- (11)医療機器・材料の開発・輸入の促進や安定供給の確保のため、保険償還価格の算定は、機能区分別から銘柄別への見直しを検討する。また、保険償還価格の算定における外国価格調整のあり方に関する調査・研究を進め、内外価格差を縮小する。
- (12)「医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン」の実効性を確保するため、医療機関や関係業界に対し同ガイドラインの周知・取り組みを徹底する。
- (13)2020年度の診療報酬改定では、前回改定の結果検証を踏まえ、以下の観点から報酬改定を行う。
①患者にとって安心・安全で納得できる医療提供をいっそう進めるため、医療の質や入院患者のADL(日常生活動作)の維持・向上をはかる。
②入院医療の機能分化・連携の推進に向けて、患者の状態に応じた評価を進める。
③急性期後の回復期・慢性期にある患者が良質な療養環境で入院できる体制を確保する。また、早期のリハビリや、在宅医療、退院支援、訪問看護の充実をはかるとともに、介護報酬との同時改定を機に医療と介護のさらなる連携を推進する。
④外来医療の機能分化の推進に向けて、いわゆる「かかりつけ医機能」に対する診療報酬上の評価は、施設基準等とともに、現に患者に対して果たしている機能にもとづいて行う。
⑤認知症の人、精神疾患の患者をはじめとする長期入院している人の地域生活への移行を進める取り組みを充実する。
⑥医療従事者の負担軽減につながる人員配置を評価する。また、医療安全を確保した上で、多職種によるチーム医療の推進を評価する。
⑦入院基本料の施設基準における看護職員の月平均夜勤時間のさらなる要件緩和や、病棟群単位による入院基本料の拡大は行わない。
⑧重複・多剤投薬の是正、服薬管理の徹底、向精神薬の使用の適正化をはかる。
⑨新薬創出・適応外薬解消等促進加算については、革新的新薬などの開発につながるよう、未承認薬などの導入状況や企業要件等の見直しなどの影響を検証しつつ、制度化に向けて検討する。
- (14)高額療養費ならびに高額介護合算療養費は年齢区分を廃止し、経済力による患者の受診控えにつながらないよう検証しつつ、所得に応じた自己負担限度額へと転換する。また、同一保険者である場合は自己負担額が21,000円未満であっても世帯合算を可能とする。
- (15)子育て支援と、安心・安全な出産のため、妊娠・出産にかかる費用については、正常分娩も含めてすべて健康保険の適用(現物給付)とする。また、窓口自己負担が増加することのないよう別途負担軽減措置を講じ、現行の出産育児一時金は廃止する。具体的な診療報酬の設定などに向けて、医療機関から保険者への分娩費用の請求明細の提出を義務づけるなど、分娩の実態把握や費用内訳を把握・検証するとともに、産科医療の標準化を進める。
- (16)傷病手当金の支給額は、標準報酬月額の平均額の7割以上を確保する。
- (17)出産手当金の支給額は、標準報酬月額の平均額の7割以上を確保し、少子化対策の観点から、賃金との併給の場合の限度額を雇用保険法の育児休業給付の限度である80%(標準報酬日額の80/100)まで引き上げる。
4.皆保険を堅持しつつ持続可能な医療保険制度の確立に向け、保険者機能を十分に発揮でき、生活保護受給者を含めたすべての人が加入する公的医療保険制度に再構築する。
- (1)被用者保険と地域保険の2本立てによる皆保険を堅持し、保険者それぞれが自律的に保険者機能を発揮できる医療保険制度を確立する。
- (2)年齢別から負担能力に応じた負担のあり方へ転換し、負担の公平化をはかる。同時に、すべての未就学児が、必要な医療や健康診査を受けられるよう、低所得者の負担軽減を行う。
- (3)2002年健康保険法改正法附則第2条にもとづき、被保険者および被扶養者の医療に係る給付の割合については、将来にわたり100分の70を維持する。また、医療費の総額管理制は導入しない。
- (4)保険者は、AIを活用したレセプト審査の強化と審査体制の拡充をはかる。被保険者への情報提供の充実、ビッグデータを活用した医療費通知の内容充実、本人・家族申請によるレセプトの開示などを積極的に進める。また、医師・医療機関等に対する評価能力を高め、評価結果を加入者に対し積極的に公表する。
- (5)医療事故や医療費の不正請求に関する保険者の苦情処理機能と被害者委任による代理交渉権や、医師・医療機関などとの直接契約、費用総額をめぐる交渉権を確立する。
- (6)保険者は、レセプト減額査定により患者の一部負担に過払いが生じた際、1万円以下であっても医療費通知で被保険者に通知する。また、払い過ぎた患者一部負担の返還を代行する。
- (7)レセプトの審査支払機関による厳正な審査が促進されるよう、患者・被保険者代表の参画の下でICTの積極的な活用を進め、審査基準の標準化をはかるなど、社会保険診療報酬支払基金と国民健康保険団体連合会による審査機能を抜本的に強化する。
- (8)マイナンバーカード等を用いたオンライン資格確認システムの導入に際しては、患者の不便を生じないよう運用を整理するとともに、被保険者に対しては十分な周知・啓発を行う。
- (9)被保険者番号の個人単位化と当該個人単位番号を用いた医療情報の効率的な情報連携の推進等にあたっては、情報の機微性に鑑み、安心して利用できるよう、利用範囲や情報連携に関する法整備を行うとともに、本人の同意にもとづく運用を徹底する。
- (10)全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)の運営について以下の支援を行う。
①被用者保険のセーフティネットとして、中長期的に安定した運営の下で保険者機能を十分に発揮できるよう、国庫補助率は少なくとも現在の水準を維持し、財政基盤の安定化をはかる。
②運営委員会、都道府県支部評議会のみならず、加入者の意見を反映しながら、地域特性に応じた保健事業や医療費適正化事業の積極的な取り組みを支援する。
③都道府県単位の保険料率は、現行の仕組みを基本としつつ、保険者機能を発揮した支部の努力が反映される仕組みとする。インセンティブについては、保険者の努力では改善できない指標を除外するなど、支部間の公平性を確保する。
④船員保険事業については、船員労働の特殊性、独自性に鑑み、自主自立を基本とした管理・運営とする。
- (11)組合管掌健康保険(健保組合)のあり方について以下の見直しを行う。
①適正な保険者規模に関する検証を行い、地域総合型健保の設立などを含めて必要に応じた再編・統合を進める。
②健保組合が保険医療機関および患者などに行う立入調査権の付与のあり方を検討し、当面は国・都道府県の保険医療機関などへの調査に保険者を参画させる。
③事業主側の事情による安易な解散を防止するため、健保組合解散の認可にかかる審査は慎重に行う。その上で、指定健康保険組合に対する財政的支援を強化し、健康保険組合の解散数を減少させる。
④企業再編などにともなう被用者保険間の被保険者の移動に対応するため、必要な法定準備金の確保を前提に、準備金の取り崩しなどによる被用者保険間の財産移管を可能とする。
⑤夫婦が子などを共同扶養する場合の健康保険の被扶養認定では、年間収入の多少により画一的に判断せず、家庭の実態などに即して判断すべきことを通知などで周知徹底する。
- (12)国民健康保険のあり方について以下の見直しを行う。
①国は国民健康保険の財政主体が都道府県に移行した後の状況を把握し、保険者機能を発揮できる運営に向けて適切な支援を行う。
②医療機関と市町村、福祉事務所の連携により、医療費の支払いが困難な生活困窮者が速やかに生活保護申請の手続きなどにつなげられる仕組みを構築する。
③低所得者への医療を保障する観点から公費負担を拡充し、保険料滞納者、無保険者が生じないよう保険料軽減措置を講じる。将来的には、生活保護受給者を国民健康保険の被保険者とし、低所得者を含め保険料(税)と自己負担分を手当てするものとする。
④国保組合については、被用者保険との役割の違いを明確化し、被保険者の多くが高額所得者である場合などの実態や財政状況に応じて国庫補助のあり方を見直す。
- (13)現行の高齢者医療制度は廃止し、保険者機能が十分に発揮される仕組みとするため、被用者保険全体で退職者を共同で支える「退職者健康保険制度」(仮称)を創設することをめざし、当面、以下のとおりの見直しをはかる。
①被用者保険による高齢者医療への拠出金が今後も増加していくことに対し、医療の効率的な提供などによる医療費適正化を推進するとともに、所得再分配機能の強化、公費の拡充などを通じて、保険者機能を発揮できる保険運営を支援する。
②任意継続被保険者制度や特例退職者被保険者制度を利用しやすくするための要件緩和をはかる。
5.生涯を通じた健康的生活を支援する取り組みや国民の予防・健康づくりに対する意識啓発を推進するとともに、いっそうの公衆衛生の向上をはかる。
- (1)すべての人に予防・健康づくりの重要性を周知し、生活習慣の改善など個人の行動変容を促すため、地方自治体、保険者、事業主、マスコミ、教育機関、NPO、労働組合など地域社会全体で、心身の健康維持・増進に向けた取り組みを加速する。インセンティブ制度を活用した取り組みについては、保険料率の加減算への反映やペナルティの導入、賃金・労働条件への反映は行わないこととしつつ、個々の健康状況に応じた目標の設定など、誰もが参加できる仕組みとする。
- (2)自らの運動量や食事のデータを登録し、ビッグデータ等を活用した統計情報が閲覧できる仕組みを構築するなど、予防・健康づくりに向けた意識の涵養や行動変容を促す。
- (3)メンタルヘルスを含む様々な疾病の予防や対処方法、医薬品の適切な使用方法や副作用、予防接種の副反応などに対する国民の理解を深めるため、国は地方自治体や医療機関、介護事業者、保険者、学校などと連携し、世代を問わず積極的な健康教育をいっそう推進する。また、児童生徒の発達段階に応じた性感染症予防、依存症の防止を含む薬物乱用防止教育を推進する。
- (4)特定健診・特定保健指導の実施率の向上をはかるため、事業主に対して、非正規雇用労働者を含め、特定健診・特定保健指導を受ける際に就業上の配慮を徹底する。また、市町村が実施するがん検診と保険者による特定健診の同時受診を拡大する。
- (5)被保険者・被扶養者の健康増進のため、保険者と事業主によるコラボヘルスの推進をはかる。また、「日本健康会議」や、「健康日本21(第2次)」の取り組み内容の周知徹底をはかる。
- (6)保健所や市町村保健センターにおける保健指導の体制強化を進める。また、個人情報、プライバシー保護を前提に、インターネットを活用した健康相談の仕組みの検討を進める。
- (7)予防接種や輸血、血液製剤などに起因するウイルス肝炎などについては、慢性肝炎・肝硬変などを高額療養費制度の「特定疾病」の対象疾病とするなどの医療費負担の軽減をはかる。また国は、職域での検診の実施や肝炎治療休暇の促進を事業主に働きかけるとともに、ウイルス性肝炎に対する差別・偏見の禁止、慢性肝炎患者への障害年金の支給、拠点病院の整備など、総合的な対策を推進する。
- (8)新型インフルエンザをはじめとする新興・再興感染症に対して、世界的大流行(パンデミック)への備えも含め、以下の対策を講じる。
①国・地方自治体は、指定医療機関や保健所の機能強化を通じて、各種検査体制の拡充等、感染力や重篤性などの観点から危険性が極めて高い感染症などに対する対策を、平常時から準備する。また、その初期症状や予防方法、感染防止策などについて、国民に十分な周知・広報を行う。
②国は、予防と治療に必要な衛生資材、検査キット等の医療材料、治療薬、ワクチンなどを速やかに提供できる生産・備蓄・流通体制を整備する。
③国・地方自治体は、医療提供体制を確保し国民の生命・健康を維持するとともに、国民生活への影響を最小限にとどめるため、社会機能維持のため不可欠な業務に携わる労働者を労使合意の下に選定し、衛生資材、検査キット等の医療材料、治療薬、ワクチンなどを提供する。
④国・地方自治体は、平常時から感染症に関する正しい知識の普及・啓発、相談体制の強化など、感染症に対する偏見・差別等の防止に向けた対策を強化する。また、社会機能維持のための業務に携わる者の子どもの保育を確保する。
- (9)リプロダクティブヘルス/ライツの概念を踏まえ、女性の生涯を通じた性と生殖の健康・権利への支援を行う。
①各市町村や学校、職場で行う健康教育では、男女にリプロダクティブヘルス/ライツの知識の普及をはかる。
②女性の月経困難症、妊娠・出産、および女性特有の疾病などについて周知するとともに、すべての都道府県に女性健康支援センターを設置し、保健所・女性センターなどにおいても性差を考慮した健康相談が受けられるよう環境を整備する。
③母体保護法をリプロダクティブヘルス/ライツにもとづいた内容に改正する。刑法第29章「堕胎の罪」は廃止する。
介護・高齢者福祉政策<背景と考え方>
- (1)介護保険制度は2000年に創設されて以来着実に普及し、サービス受給者数、介護保険の総費用は年々増加している。今後のさらなる高齢化にともなう重度化の進行や単身・高齢夫婦のみ世帯、認知症の人の増加により、介護サービスに対する需要は加速度的に増大し、多様化することが見込まれる。
- (2)一方、介護保険財政は、少子高齢化の急速な進行により、介護保険制度の持続可能性の確保という深刻な課題に直面している。いわゆる軽度の要介護者に対する地域支援事業への移行によって、自治体の財政状況によってはサービスの量や質の格差が拡大する懸念がある。介護が必要になっても安心して暮らせる社会、介護と仕事の両立推進、「介護離職ゼロ」の実現に向けて、良質な保険サービスの給付と制度の持続可能性の確保の両立が求められている。
- (3)また、介護人材は慢性的に不足している。厚生労働省試算で必要とされている介護労働者数に実数が追いついていない。介護分野における有効求人倍率は全職業平均を大きく上回り、賃金も全産業平均と比較し依然として格差がある。介護人材の確保・定着、賃金・労働条件の改善は喫緊の課題である。また、在留資格「特定技能1号」の追加等が行われており、介護分野における外国人材の受入れに対して、サービスの質や労働条件の確保が課題である。
- (4)高齢者虐待の市町村への相談・通報件数や虐待判断件数は増加傾向にある。また、認知症患者数は、2025年に700万人を超える見込みである。誰もが住み慣れた地域で良質な環境のもとで自分らしくくらし続けられるよう、虐待の防止や成年後見制度等の権利擁護、認知症の正しい理解、本人や家族への支援体制の整備、在宅医療・介護の連携・充実が大きな課題である。
- (6)介護保険給付は実質的に高齢者に限られており、年齢にかかわらず介護を必要とする人が必要なサービスを受けられる普遍的な制度とすることが大きな課題である。
1.地域包括ケアを推進し、利用者が安心して住み慣れた地域でくらし続けることのできるサービス提供体制を強化する。
- (1)国および地方自治体は、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域でくらすことができるよう、医療・介護・生活支援等が一体的に提供される地域包括ケアを全国的に推進する。また、介護にかかる総合的なコーディネーターとしての地域包括支援センターが、地域のニーズに則し、かつ一定の水準を確保した実効あるものとして機能を発揮できるよう、十分な財政支援と人材の確保の強化、業務の効率化を進める。
- (2)国は、寝たきり・認知症予防や介護者のレスパイトケア、遠距離介護などの仕事と介護の両立にかかる総合相談窓口や支援体制を充実させる。家族などの介護者を支援するため、地域包括支援センターなどを拠点とした介護者支援対策を強化するとともにヤングケアラーをはじめとする若年層の介護者に対する情報提供や相談支援を行う。
- (3)国は、要介護者の状態が軽度化したケースに対する介護報酬による適切な評価や、軽度化に向けた利用者ならびにケアマネジャーの動機付けを強化する仕組みを創設する。その際、心身の状態の改善が進みにくい要介護者の介護サービスの利用が妨げられることにならない仕組みを検討する。
- (4)国および地方自治体は、利用者本位で公正・迅速な要介護認定の実現に向けた取り組みを進める。
①全国統一の要介護認定基準にもとづき、客観的かつ統一的な認定が行われるよう、訪問調査員、認定審査会委員の公正・中立かつ適正な調査・判定の実施に資する研修の改善や調査指導員の養成を拡充する。
②認定希望者が合理的な理由なく介護予防・日常生活支援総合事業にかかる基本チェックリストに誘導され、要介護認定審査が受けられないことがないよう、運用の周知・徹底を行う。
- (5)国は、地域が抱える課題把握や有効な地域資源の発掘に資するため、地域ケア会議の普及、啓発を推進する。そのため、都道府県・市町村や地域の医療・福祉・介護等関係者の役割を強化すべく支援するなど、各地の特性に応じた対応を促す。
- (6)国は、地域社会で認知症の人やその家族を支えるために、認知症の予防と治療やケア技術に関する研究開発など認知症対策をより一層強化するとともに、本人の意思が尊重され、住み慣れた地域で良質な環境のもと自分らしく暮らし続けるよう、治療・生活・移動・相談などに対する支援体制を整備する。また、認知症に関する理解促進に向けて、認知症サポーターの養成を引き続き推進するとともに、関係省庁が連携し、子どもや学生向け、若年等の啓発に取り組む。
- (7)国は、認知症の人やその家族が雇用継続されるよう、若年性認知症支援コーディネーターの配置を進めるとともに、事業主による就労上の配慮や、他の従業員の理解啓発などを支援する。
- (8)国および地方自治体は、介護事業者の防火対策や消火設備の設置、防災訓練、事故発生時の避難訓練、罹災後や感染症発生後の速やかな事業活動再開に向けた業務継続計画(BCP)の策定に対する支援を強化するなど、総合的な安全対策を講じる。
- (9)国および地方自治体は、サービス提供責任者が本来の業務に専念し、「直行直帰」の訪問介護員が利用者に関する情報を共有化できる体制を構築するため、サービス提供責任者の配置基準を引上げる。
- (10)自治体が事業者に対して行う指導監査を充実するため、労働法令遵守を含めた監査基準の明確化と人材確保・育成をはかり、国はそのための財政措置を行う。
- (11)国および地方自治体は、施設での身体拘束や虐待の根絶に向けて、各施設における身体拘束廃止ならびに虐待防止のための指針の整備や研修の実施、委員会の開催、適切な対策の検討とその結果の従業者への周知徹底が行われているかを確認し、指導監督を徹底する。また、介護保険適用外の施設における身体拘束・虐待に対する行政指導を厳格化するとともに、市町村は地域における高齢者住居の実態把握を徹底する。
- (12)国および地方自治体は、利用者への虐待などハラスメントを根絶するため、高齢者虐待防止法について住民への周知をはかるとともに、事業者、介護労働者への研修、指導を充実、徹底する。また、利用者やその家族からの相談・通報に対し迅速に対応できるよう体制整備を行う。
- (13)国および地方自治体は、事業所における家族や介護者等からの苦情や要望への対応が増加している実態を踏まえ、利用者がより適切なサービスが受けられるよう利用者と事業所の話し合いに対して斡旋や仲介等の支援を行う第三者機関の設置を検討する。
- (14)国および地方自治体は、判断能力が十分ではない人の権利擁護を推進する。
①「市民後見人」の育成・支援を進める。また、後見実施機関(成年後見センター)をNPOや社会福祉法人への業務委託等により設置し、支援体制を強化する。
②成年後見人制度を利用した際に法的能力等において過度の制限を受けることがない仕組みに見直した上で、その利用にかかる費用負担を減らすとともに、同制度の周知や人員確保など権利擁護の体制を整備する。
- (15)国は、居宅介護支援について、利用者の自立支援や軽度化に資する質の高いケアプランの策定を促進する観点で、以下の通りの対応をはかる。
①ケアマネジャーの独立性を確保するため、独立型の事業所を報酬上評価するなど支援を行う。また、特定事業所集中減算は、優良なサービスの利用が阻害されるなど、利用者の便益を損なう懸念があるため、独立性の確保により利用者の囲い込みを生じさせない仕組みを検討しつつ見直しを行う。
②ケアプランの質を向上させるため、ケアマネジャーの研修内容をさらに充実させる。また、研修を受講しやすい環境を整えるよう、事業者に対する指導を徹底する。
③利用者の状態把握やサービス担当者会議などを十分行えるように、事務の簡素化や文書負担軽減を進める。
④管理者要件が原則として主任介護支援専門員となることから、その資格を取得しやすいよう、研修機会の充実などをはかる。
- (16)国は、地域の実情に応じた地域密着型サービスの整備を着実に推進するため、自治体を支援する。特に、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」など夜間サービスについては、深夜を含めた業務であり利用者・介護労働者の安全を確保する観点から、職員の恒常的な複数名配置のための支援を強化する。
- (17)訪問看護ステーションの整備と大規模化を推進するとともに、キャリアパスのあり方などを検討し、看護師の確保をすすめる。
- (18)国は、要介護者が身近で迅速かつ適切な医療的処置を受けることができるよう、研修を受けた介護労働者の配置を評価する報酬とするとともに研修体制等を強化し、要介護者に安心の医療を提供できる体制を確保する。なお、その場合介護報酬上、医療行為を評価する。
- (19)国および地方自治体は、高齢者の尊厳を守る観点から、特別養護老人ホームや老人保健施設における多床室の新設は認めない。その際、所得水準に依らず入所できるための措置を強化する。また、1ユニット定員の拡大がケアの質の低下と職員の過度な負担につながらぬよう、夜間・深夜の職員配置を確保するための指導を徹底する。
- (20)国は、介護療養病床について、介護医療院への円滑な転換を促進するとともに、長期療養と介護のニーズを合わせ持つ利用者の住まいを確保する観点で、以下の通りの対応をはかる。
①経過措置期間の6年以内に介護医療院へ移行する。
②転換に伴って、要介護者の居住を確実に保障する。
③介護医療院は「生活施設」である観点から、最低でも一人あたり8㎡の床面積を前提とし、個室を基本とする。
④設備基準を満たせない介護医療院については、報酬の減額措置を検討する。
- (21)有料老人ホームなどについて、利用者が安心して生活できる住まいを確保する観点で、以下の通りの対応をはかる。
①国および都道府県は、未届老人ホームを無くすとともに前払金保全措置義務を確実に履行させるため、「有料老人ホームの設置運営標準指導指針」に沿って有料老人ホームへの指導・監督を徹底し、利用者が安心できる住まいの整備を進める。
②国および地方自治体は、サービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホームなどについて、入居に際して保証人がいない場合は、その代替として機関保証や成年後見制度を積極的に活用するとともに、入居者本人の意思に反して強制的に退去させないよう事業者に対して指導する。また、身元保証等高齢者サポートサービス事業者の監督体制を確立する。
- (22)国は、福祉用具の貸与料金について、上限価格の設定による適正化を徹底するとともに、仕様や機能等に応じた客観的かつ公正な価格設定を行う体制を構築するなど、サービス提供への影響を把握しつつ公定価格化を含めて引き続き検討を進める。また、福祉用具専門相談員の質の向上・確保に向けて、より実践的なスキル取得のための実地研修等をカリキュラムに組み込むとともに、担当利用者件数の上限を設けることを検討する。
- (23)国は、福祉用具について、利用者のQOLや介護労働者の負担軽減に資するイノベーションのための支援を行う。また、保険収載にかかる手続きはデータに基づき客観性と透明性を確保する。
- (24)国および地方自治体は、事業者指定について、以下の通り見直す。
①事業者の指定・更新要件に、労働関係法規の遵守と社会保険加入を追加する。
②在留資格「介護」または「特定技能1号」で働く外国人や技能実習生を含めた労働者について、賃金・労働条件が労働関係法規に違反している、または社会保険に加入させていない場合は、事業者指定の取り消しを行うなど、厳正な指導監査を実施する。
- (25)国は、地域の様々な人材を活用したネットワークを構築するため、自治体による地域支援事業の確実な実施を支援する。任意事業の介護給付費適正化事業、家族介護支援事業は必須事業とする。
- (26)国は、仕事と介護の両立支援を強化する観点から、職場における介護に関する従業員からの相談対応や法定および社内の両立支援制度の周知、介護保険制度に関する情報提供を徹底するため、「職業家庭両立推進者」の活用を促進する。(「男女平等政策」参照)
- (27)介護予防・日常生活支援総合事業(以下、「総合事業」という)について、以下の通りの対応をはかる。
①国および地方自治体は、総合事業の展開について、各自治体の取り組み状況をモニタリングし、随時フィードバックを行う体制を構築し、サービス水準の底上げをはかる。
②地方自治体の財政状況によってサービス水準の格差が拡大しないよう、国および都道府県は必要な補填を行う。
③国および地方自治体は、総合事業にかかる基本チェックリストの運用については、要介護認定を受けるべき人が、窓口の主観的な判断によって省かれることのないよう、明確な運用基準を定める。
④国および地方自治体は、ボランティアの活動実態および就労状況を把握し、介護労働者との役割および責任範囲の違いを明確にするとともに、ボランティアについて適切な保護をはかる。
⑤地方自治体は、利用者の希望を尊重し生活実態を十分に踏まえ、いわゆる軽度の要介護者に対し、総合事業の利用を強要しないようにする。また、利用者のサービスへのアクセスを損なわないよう、多様な主体によるサービスの展開・普及を支援する。その際、安価な報酬によるサービスやボランティアの濫用によって労働者の賃金水準やサービスの質の低下を招かないようにする。
2.介護労働者の労働条件や職場環境を改善し、介護を魅力とやりがい、誇りをもって働くことができる職業にし、介護労働者の安定的な確保をはかる。
- (1)国は、専門性をもつ介護労働者を安定的に確保するため、各年度の予算措置ではなく継続的な財源確保を行い、人材確保のための施策を引き続き講じる。
- (2)介護労働者の賃金・労働条件を向上し、介護職の魅力をさらに高めるために、以下の通りの対応をはかる。
①国は、介護職員処遇改善加算および介護職員等特定処遇改善加算を現場の継続的な処遇改善とキャリアアップにつながる賃金制度の構築に結びつけるとともに、すべての介護人材の全産業平均との賃金格差を是正するため、さらなる処遇改善を行う。この際、キャリアパス要件などについては雇用形態にかかわらず対象とされるよう徹底する。
②国は、介護職員処遇改善加算および介護職員等特定処遇改善加算の対象となるサービスと労働者を拡大し、介護職以外も含めた事業所全体の処遇改善をはかる。また、廃止が予定されている介護職員処遇改善加算(Ⅳ)および(Ⅴ)の取得事業所が上位区分の加算を取得できるよう支援を強化する。
③国および地方自治体は、事業者が介護職員処遇改善加算および介護職員等特定処遇改善加算を算定していることについて介護労働者への周知を徹底するよう指導する。また、現行の加算取得事業所が引き続き加算を取得できるよう、賃金表の作成など雇用管理改善の支援を拡大する。
④国および地方自治体は、介護労働者のモチベーションを高めるキャリアアップの仕組みや、働きがいのある職場づくりを推進し、介護職のイメージを向上する。
⑤国および地方自治体は、介護福祉士の配置を介護保険サービスの指定要件および介護報酬の算定要件に位置づけ、専門職としての地位の向上、確立をはかる。そのための十分な移行期間および移行教育の実施と、受講しやすい環境の整備を行うとともに、事業主・研修受講者への支援を周知・拡充する。また、介護福祉士教育の内容についても検討を行い、充実をはかる。
⑥国は、介護労働者の処遇改善やキャリア形成を促進するため、介護プロフェッショナルキャリア段位制度など、事業所における実践的なキャリアアップを推進する仕組みを報酬上評価する。
⑦国は、認知症や多様な障害に対応する専門的な介護など、より質の高い介護サービスや医療との積極的な連携を行うことのできる「認定介護福祉士」の教育・育成を促進する。
⑧国および地方自治体は、サービス提供責任者に対する能力開発プログラムの拡充や定期的な受講を義務づけるとともに、事業所による受講促進にかかる取り組みを評価するなど、キャリアアップの仕組みを整備する。
⑨国および地方自治体は、潜在介護福祉士などの復職支援を行う。そのため、離職した介護福祉士の資格等取得者の届出制度の周知徹底や研修制度の整備、また労働条件の改善をはかる。
- (3)国は、サービス提供を担う介護労働者の腰痛防止対策を講じるなど労働条件を改善し、安心して働ける職場環境づくりをすすめるとともに、介護現場の生産性向上をはかる。
①介護労働者の資格取得時、入職時等における感染症教育を徹底する。また、特に小規模の事業所における安全委員会・衛生委員会の設置を推進し、利用者やその家族からのハラスメント対策等を含めた心身の健康管理を事業規模によらず義務づける。
②「介護サービス情報の報告および公表」の運営情報項目に、労働者に対する健康診断・感染症対策の実施、夜間・早朝を含む労働時間・勤務体制、労働関係法規の遵守状況、社会保険の加入状況、離職率を追加する。また、利用者に対する周知を強化し、活用を促進する。
③介護労働者の負担軽減や介護現場の生産性向上のため、現場のニーズを踏まえつつ、介護サービスにおけるロボット・センサーをはじめとした新技術やAI・ICTの活用を促進する。そのため、研究開発や導入事業所に対する支援を強化する。
④テクノロジーを活用した場合の人員基準の緩和等については、施行後の実施状況の把握とともに実証データの収集を行い、利用者の安全への影響や介護労働者の負担増につながらないよう事業所を指導する。
- (4)国は、外国人介護人材について、在留資格「介護」および「特定技能1号」の創設や経済連携協定(EPA)にもとづく介護福祉士の就労範囲の拡大、技能実習制度への介護職の追加を踏まえ、働く外国人と利用者双方の人権擁護の観点から、以下の通りの対応をはかる。
①介護は利用者の身体・命にかかわる対人サービスであり、十分な意思疎通や正確な業務引継ぎ、緊急時の対応を確実に行える必要があることから、事業所における日本語能力の把握を厳格に行う。
②日本人との同等処遇を担保するため、事業所の指導・監査を徹底する。また、外国人労働者の人権擁護と継続的な就労の保障の観点から、事業所内外の相談窓口の拡充や、各事業所における雇用管理を徹底する。
③EPAにもとづき介護福祉士資格を取得した者について、事業所に対し、日本語能力の向上に向けた研修を継続的に実施するよう徹底する。指導や改善命令に従わないなど、問題があると判断された場合は、地方自治体等と連携し、事業指定の取り消しや在留資格「特定技能1号」による労働者、技能実習生の受け入れを認めないことなども含めて厳正に対応する。なお、当該事業所で雇用されていた者の継続的な就労機会を確保する。
④技能実習制度は技能移転が本旨であることから、十分な研修体制を確保できない事業所による受け入れは認めない。また、技能実習生を受け入れる事業所は介護サービス情報の公表制度にもとづき公表する。さらに、指導や改善命令に従わないなど、問題があると判断された場合は、地方自治体等と連携し、事業指定の取り消しやEPA介護福祉士候補者、在留資格「特定技能1号」による労働者の受け入れを認めないことなども含めて厳正に対応する。なお、当該事業所で実習を行っていた技能実習生の継続的な実習機会を確保する。
⑤在留資格「特定技能1号」の受け入れ事業所は、労働法令遵守をはじめ日常生活継続支援加算対象事業所であることなどを要件とする。また、不正が発覚した場合は、受け入れの取り消しとともに、介護保険法においても事業指定の取り消しなども含めて厳正に対応する。なお、当該事業所で雇用されていた者の継続的な就労機会を確保する。
⑥在留資格「特定技能1号」での滞在中に、在留資格「介護」に移行することも可能とされていることから、当該在留期間内における介護福祉士資格の取得を支援することについても検討する。
⑦技能実習「介護」における固有要件、在留資格「特定技能1号」に関する政府の受け入れ方針、介護保険法の履行確保の観点から、在留資格「介護」または「特定技能1号」や技能実習生にかかる労働者の受け入れ事業所に対する監督体制を強化するとともに、出入国在留管理、職業安定、介護保険の各関係政府部局および外国人技能実習機構並びに都道府県等が緊密に連携する体制を構築する。
3.介護サービスを必要とする人が必要なサービスを負担可能な費用負担で受けられる介護保険制度に再構築する。
- (1)国は、介護を必要とする様々な人を対象とした総合的・普遍的な制度へ介護保険制度を発展させるため、以下の通り被保険者・受給者の範囲を拡大する。
①現行において40歳以上とされている介護保険の被保険者・受給者の範囲は、18歳未満を除くすべての医療保険加入者とする。その際、新たに被保険者・受給者となる若年者からの納得が得られるよう、丁寧な説明を実施する。
②障害者総合支援法にもとづく介護給付において、介護保険と共通するサービスについては介護保険で対応し、その他のサービスは引き続き障がい福祉施策により提供するなど、利用者の実情に応じた介護サービスを提供する。
③若年障がい者への給付範囲拡大にあたっては、介護保険給付に加えて所得保障と就労支援策を講じるとともに、その納得が得られるよう、丁寧な説明を実施する。
④要介護認定の手続きについては、障がい者が現在受けているサービスを継続的に利用でき、必要な給付へのアクセスを損なわないようなあり方を検討する。
- (2)国は、介護保険にかかる給付のあり方について、以下の通りの対応をはかる。
①サービスの利用に対する給付割合について、負担能力に応じた負担としつつ、介護はサービスの利用が長期にわたることから7割給付を最低限とし、さらなる給付の引き下げは恒久的に実施しない。
②低所得者、生計困難者の負担実態を把握するとともに、現役並所得者等に対して行われた高額介護サービス費の上限引き上げや給付割合の引き下げによる家計への影響や、介護離職が増加していないかを、医療における負担と合わせて丁寧に分析し、生計維持に困難を来さぬよう、必要な措置を講じる。
③低所得者、生計困難者に対する社会福祉法人の利用者負担減免措置制度を拡充する。
④低所得者に対する補足給付について、高齢夫婦世帯の一方が介護保険施設の個室に入所した際に受ける居住費・食費負担の軽減措置を、多床室でも受けられるよう拡大する。
⑤ケアプランの有料化については、本来必要なサービスの利用が抑制されないよう、自立に資する適切なケアマネジメントの利用機会を確保する観点などから、慎重に検討する。
⑥生活援助中心型の訪問介護について、利用回数が一定以上のケアプランを市町村が検証する仕組みは、単身者を含む要介護者の在宅生活と家族の就労生活に影響を及ぼさないことを前提に運用し、利用回数に実質的な上限を設けることにならないように通知を徹底する。
- (3)国は、介護保険料のあり方について、以下の通りの対応をはかる。
①第1号被保険者(65歳以上)の所得段階別の保険料徴収について、保険料の段階決定の際の課税状況の認定を個人単位とするとともに、世帯主や配偶者への保険料の連帯納付義務を撤廃する。
②保険料の負担軽減措置の段階をさらにきめ細かく分けるなど、低所得者対策を拡充する。なお、低所得者に対する支援策が確立するまでの間は、保険料の滞納に対する給付制限について、特に悪質な場合を除き、凍結する。
- (4)介護保険制度の公正で透明な運用のため、住民・被保険者代表、介護事業者等で構成する「介護保険運営協議会」を全保険者に設置する。
- (5)国および地方自治体は、地域包括ケアの推進に対し、利用者、医療保険者、被保険者の声が反映できる仕組みにする。
- (6)介護保険サービスと介護保険外のサービスを同時一体的に提供する、いわゆる混合介護については、利益の大きいサービスが優先され、介護保険サービスを必要とする人へのサービス提供が阻害される懸念があるため慎重に検討する。
障がい者政策<背景と考え方>
- (1)福祉制度の谷間に置かれていたり、周囲からの理解が得られにくかったり、社会的支援制度の情報が不足していたりすることで、障がい者と家族は生活のしづらさに直面し、貧困に陥ることも少なくない。必要な福祉が受け入れられないまま、排除されることがないような社会を構築していかなければならない。
- (2)日本が障害者権利条約に批准・発効し、障がい者の人権の確立や当事者参画の保障などにおいて画期的な進歩がみられた。しかし、障がい者に対する差別意識は、いまだ払拭されているとは言い難い。引き続き、この間に制定・改正された各法の実効性を高めるとともに、条約の理念の共有と実践、行政や企業等の活動におけるさらなる具体化が求められる。
- (3)障害者虐待防止法が施行されて以降も、依然として障がい者に対する虐待は増加しており、その根絶に向け、一層の取り組みの強化が求められる。また、女性障がい者は、障がいに加えて女性であることによる複合的な困難を抱えている。虐待や暴力の被害に遭いやすく、経済的な自立を妨げられるなどの課題が多く存在するため、特段の支援が求められる。
- (4)障がい児は、教育・保育の機会が十分に得られない場合がある。また、18歳以降に就労の機会を得られず、生活的・経済的な自立を果たせない状況も多くあり、教育と雇用・福祉をつなぐ、総合的かつ継続的な支援が求められる。
- (5)障がい児・者の家族においては、介護などによる日常生活の負担が重く、就労継続など多くの課題が存在している。障がい児・者を支えながら働き続けることのできる社会的支援体制の整備が必要である。
1. 障がい者のあらゆる人権および基本的自由を確保し、固有の尊厳の尊重を促進するため、国連障害者権利条約の実効性を確保する。
- (1)国連障害者権利条約にもとづき、以下の通りの対応を行う。
①いかなる者に対する障がいに基づく差別も、人間の固有の尊厳及び価値を侵害するものであるとする条約の基本的考え方を強力に発信し、すべての人権および基本的自由が普遍的であるとする条約の理念を国民に対し徹底する。
②国は、障害者権利委員会に対する条約の実施状況の報告にあたっては、十分な情報収集と適切な実態把握を行う。また、国内法や制度の改善にあたって、国連障害者権利委員会の総括所見に加え、障害者権利条約のパラレルレポートを尊重する。
③国および地方自治体は、審議会などのあらゆる意思決定の場への障がい当事者の参加を保障する。
④国は、障がいのある女性や子ども、高齢者などが有する複合的な困難を解消するための支援を強化する。
⑤国および地方自治体は、インクルーシブな社会の実現に向けて法制度を整備し、地域における介護サービスを充実する。
- (2)障害者基本法の改正および障害者基本計画の改定に向け、以下の通りの対応を行う。
①国は、計画の実施状況のモニタリングにあたっては、障害者政策委員会にて障がい当事者やその家族の意見を十分に反映する。これに基づきPDCAサイクルを用いて取り組みの改善をはかる。
②国は、障害者基本計画の実効性を確保する観点で各自治体における障害福祉計画を点検し、実施状況に即した見直しまたは修正を行う。
③地方自治体は、障害福祉計画の実施に際し、障がい当事者やその家族を含め、住民の意見を広く取り入れ、障害福祉サービスの実態と多様な需要を把握した上で、サービス基盤を整備する。
④地方自治体は、障害児福祉計画の実施に際し、支援を行う家族の両立支援の視点をもって取り組む。
⑤国は、女性に対する複合差別の解消、間接差別を差別の定義に明記する。
- (3)障害者差別解消法の充実と定着に向けた見直しを進める。
①民間事業主における合理的配慮の実効性の確保に向け、建設的対話に基づき合理的配慮が提供されるよう取り組む。また、相談窓口へのアクセスを改善した上でワンストップ化をはかるとともに、紛争の防止や解決の支援にあたる体制を整備する。
②国および地方自治体は、国民に対し法の内容について周知の徹底をはかる。加えて、合理的配慮の事例を幅広く収集し、提供する。
③国は、各市町村における障害者差別解消地域協議会の設置を義務化するとともに、設置を促すための情報提供などの支援を強化する。
- (4)障害者虐待防止法について、以下の通りの対応を行う。
①国および地方自治体は、虐待の実態を把握し、虐待の根絶に向けた取り組みを強化する。その際、虐待の定義を明確化するとともに、第三者による相談・通報を促し、通報者の保護もはかる。また、虐待を受けた障がい者を緊急的に保護するため、権限を持った独立した第三者機関や専門職員の配置など体制を整備する。
②国は、虐待の通報義務の対象に、病院、保育所、学校、官公署を加えるなど、あらゆる場における虐待の早期発見をはかる。
③地方自治体は、虐待を受けた障がい者、虐待を行った家族等への心のケアを行う体制を整備する。
④国および地方自治体は、施設におけるすべての役職員や障がい者を雇用する企業のすべての使用者等に対し、虐待防止に向けた研修を徹底するよう指導を強化する。
⑤地方自治体は、障がい者福祉施設に対する第三者評価のあり方を見直し、障がい当事者やその家族、住民の参画を保障する。また、事業実施要項や運営規定を公開するよう指導する。
⑥国および地方自治体は、国民の理解を促進するため、法の内容について周知の徹底をはかる。
2.障がい者が地域で生活する権利を保障したインクルーシブな社会(共生社会)を実現する。
- (1)障がい者に特定の生活様式を強いることなく、地域社会で自立した生活を可能とするための支援を強化する。
- (2)障害者総合支援法に基づく福祉サービス等に関し、以下の通りの対応を行う。
①国は、障害支援区分の認定を含めた支給決定のあり方について、地域にくらす障がい者に必要な支給量が確保されているかなどの観点で検証し、見直しを行う。その際、障がい当事者を含めた関係者の意見が反映される措置を講じる。
②市区町村は、サービスの申請から利用開始までにかかる期間を短縮し、サービスが速やかに提供される体制を整備する。
③市区町村は、支給決定にかかるサービス等利用計画案の作成にあたっては、本人の意向が十分に反映されるよう配慮する。
- (3)障害福祉サービスに関わる労働者の処遇の改善をはかるとともに、人材の育成・確保・定着に向けた財政支援を講じ、質の向上と安定的な提供体制を確保する。
①国は、福祉・介護職員処遇改善加算および介護職員等特定処遇改善加算を確実に現場の職員の処遇改善へと結びつける仕組みづくりを行うとともに、全産業平均との賃金格差の是正に向け、当該加算の維持ならびにさらなる上積みをはかる。その際、特に人材確保が厳しい訪問系サービスに留意するとともに、キャリアパス要件などについては正規雇用・非正規雇用にかかわらず対象とされるよう徹底する。
②地方自治体は、処遇改善加算の算定にかかる職員への周知が徹底されるよう指導する。
③障がい者施設の職員配置基準や設置基準を、介護保険と同様の基準とする。
- (4)地方自治体は、障がい者の様々なニーズに包括的に対応できる総合的な支援センターの設置を推進し、障害福祉サービス利用の援助や就業にかかる相談支援や、住居、通いの場の確保など、地域での生活支援体制を強化する。
- (5)国は、精神障がい者の地域移行に向け、自宅や賃貸住宅における生活や24時間介助など医療、介護、生活面にかかる一人ひとりのニーズに基づき、地域社会における多様な生活を可能とするために必要な医療・介護・福祉サービスを整備する。また、地方自治体は、住まいの確保や相談・早期支援の充実並びに自立に向けた就業支援を行う。
- (6)障がい者の生活を支える支援は、障害者等手帳の有無にかかわらず、支援を必要とするあらゆる障がい者に提供する。
- (7)地方自治体は、積極的に地域生活支援事業の実施水準の向上に取り組む。国は、地域生活支援事業の実施水準の向上にむけて、適切な財源を確保する。
- (8)国および地方自治体は、障がい者の自立した日常生活や社会参加を促進するため、ユニバーサルデザインの理念をあらゆる施策に反映させ、建造物や福祉用具等の研究開発や普及のために必要な支援を行う。
- (9)国は、医療費負担を軽減するため、障がい児・者に対する公費負担医療制度を拡充する。
- (10)国は、障がい者の社会生活における移動やコミュニケーションの支援ならびに情報へのアクセス手段を保障し、あらゆる公共的な場における意思の疎通や情報の取得に際して不利益を被らないよう対策を講じる。
- (11)国および地方自治体は、災害が発生した場合には発生場所、規模、内容、今後の動向や対策など必要な情報を障がい者に提供する体制を整備する。災害情報の提供に当たっては、障がい者の特性に配慮した伝達手段やコミュニティネットワークを整備する。
- (12)国は、「身体障害者補助犬」(盲導犬・介助犬・聴導犬)の施策において、補助犬の育成を積極的に推進する。また、補助犬利用者に対する配慮を社会に浸透・定着させるために、積極的な啓発・広報を行い、周知を徹底する。
- (13)国および地方自治体は、障がい者の意思決定支援を充実するとともに、成年後見制度を利用した際に法的能力等において過度の制限を受けることがない仕組みに見直す。
- (14)国は、社会福祉協議会による日常生活自立支援事業にかかる生活支援員や成年後見制度を担う後見人を育成するため、研修を充実する。
- (15)国は、障がい児・者を支援する家族が仕事と家庭を両立できるための障害福祉サービスや支援体制の整備を行う。
①通学、通勤にかかる移動支援を地域生活支援事業から自立支援給付化し、居住地にかかわらず利用できる体制を整備する。その際、通年かつ長期にわたる外出にかかる制限を設けない。
②家族介護者の一時的な休息を理由とした障害福祉サービスの利用を認める。
③障がい当事者とその家族に対する障害福祉サービスに関する情報提供の強化や、情報交換できる場の確保を行う。
④支援を行う家族のための相談窓口やカウンセリング体制を強化する。
- (16)障がい児および保護者が別の方法での教育を希望しない限り、普通学級に在籍して教育を受けられる、「インクルーシブ教育」を推進する。(「教育政策」参照)
- (17)幼稚園・保育所・学校などにおいて医療的ケアが日常的に必要な障がい児(医療的ケア児)への医療提供を確保するため、医療的ケア児等コーディネーター養成研修等の保育士の受講を支援し、看護師や担当保育士等を確保した体制を整備する。(「医療政策」より一部再掲)
3.障がい者の自立的な生活を保障するため、住居、就労、所得などを保障する。
- (1)国および地方自治体は、障がい者が自ら住居を選択できるための施策を講じる。
- (2)障がい者が安心と働きがいを持って働ける場を拡充する。
①国は、福祉的就労にかかる利用料負担のあり方について検討を進める。なお、当面の間、工賃が利用料を下回ることのないよう支援策を拡充する。
②ディーセント・ワークや均等・均衡処遇に配慮した多様な就労機会を確保し、障がい者の自立的な就労を支援する。就労先の事業者については、貧困ビジネス防止の観点から安全・衛生の確保、情報公開・報告等を要件づけ、都道府県の認定とする。
③国は、障害者優先調達推進法の対象を民間企業にも拡張する。その際、障害者就労施設などへ積極的に仕事の発注や物品の購入を行う企業に対して助成を行うとともに、当該取り組みを評価する認定制度を創設する。
④障がい者の雇用対策・就労促進施策を強化する。(「雇用・労働政策」参照)
⑤国および地方自治体は、公契約の総合評価方式の得点の中に障がい者の新規雇用や雇用のための支援体制、 障がい者雇用率などを加点する。
- (3)国は、障がい者の所得保障を確立する。
①重度障がい者に対して、特別障害者手当の充実等により、現行の障害基礎年金1級と併せて、生活保護基準(生活扶助、障害者加算、重度障害者加算、住宅扶助特別基準額等の合計額)を上回る所得を保障する。
②障害認定審査の客観性と透明性を高め、確実に年金を受給できるようにする。また、障害認定に関する地域差を解消するにあたり、これまでの受給者に不利益を極力生じさせないように対策を講じる。
③外国籍の障がい者に対しても「特別障害給付金」を適用する。
子ども・子育て支援政策<背景と考え方>
- (1)「子ども・子育て関連3法」に基づき子ども・子育て支援新制度の施行5年後の見直しに係る対応方針がとりまとめられたが、財源確保や認可外保育施設等における保育の質に課題が残ったままである。いわゆる潜在的待機児童も含め、待機児童の解消も依然として課題である。政府は「新子育て安心プラン」を公表し、2024年度末までに約14万人分の受け皿を整備するとしており、実態を把握しながら、放課後児童クラブを含め確実に待機児童の解消を進めていくことが求められる。
- (2)児童虐待の相談対応件数は年々増加している。児童虐待の発生予防に向け、子どもの見守り体制の強化や保護者支援の充実が求められている。
- (3)「新しい社会的養育ビジョン」では、家庭養育優先の理念や特別養子縁組による永続的解決、里親養育の推進などの目標が定められ、子どもの権利保障のために最大限のスピードをもって実現するとしているが、達成には至っていない。目標達成に向けた着実な取り組みが求められる。
- (4)日本の「子どもの貧困率」はOECD加盟国のなかで高く、特に、子どもがいる現役世帯のうち大人が一人の世帯の相対的貧困率は極めて高い。貧困の連鎖を断ち切ることなど、子どもの貧困解消に向けた政府による積極的な取り組みが求められている。また、家計の安定のために、児童扶養手当の毎月支給の実現が求められる。
- (5)子ども・子育て支援の拡充が、女性労働力率の高まりによる労働生産性の向上と着実な経済成長、子どもの貧困の抑止につながることを社会全体で共有化することが重要である。政府は、子どもや子育てを社会全体で支えるという意識のもと、さらなる予算増額により、未来の力である子どもたちの豊かな育ちを支援することが求められている。
1.だれもが安心して子どもを生み育てられるよう、子ども・子育てを社会全体で支える仕組みを構築する。
- (1)結婚や出産は当事者の選択であり、国や行政が介入すべきではなく、子どもを心身ともに健やかに育成する基本的な責任はすべての保護者にあることを念頭に、子どもの最善の利益を優先しつつ、保護者が安心して生み育てられる条件整備や、子どもが健やかに育つための環境整備をはかることは社会の責任であることを国は明確にする。
- (2)次世代育成支援対策の推進に向け、次の措置を講ずる。
①国は、次世代育成支援対策推進法にもとづき、自治体および事業所が定めた次世代育成支援対策推進計画の達成状況を把握し、それらが着実に実施できるよう必要な支援措置を講ずるとともに、速やかに行動計画策定指針の変更に反映させる。
②地方自治体は、次世代育成支援対策協議会の設置など、地方自治体における次世代育成支援対策を推進する。
③国および地方自治体は、くるみん、プラチナくるみんなどの「認定マーク」の周知活動や企業の認定取得促進策を強化し、中小・零細を含むすべての企業が積極的に次世代育成支援を推進することを促す。
- (3)国は、消費税率の引上げによる財源(0.7兆円)を含めて1兆円超程度の財源を確実に確保する。併せて、地方一般財源も確保し、子ども・子育て支援に関する公的社会支出についてOECD加盟国の平均並みの水準をめざす。
- (4)国は、待機児童対策について、実施状況の把握、見直し等に労働者の意見を反映する。また、いわゆる潜在的待機児童を生じさせないよう、待機児童の定義と「新子育て安心プラン」を見直す。
- (5)国および地方自治体は、「子ども・若者育成支援推進大綱」に基づき、すべての子ども・若者の健全な育成と社会へのひとり立ちを支援するために社会環境の整備と必要な財政支援を行う。また、困難を有する子ども・若者とその家族の支援にあたっては、福祉と教育の連携などライフサイクルを通した切れ目のない支援を行う。
2.質が確保された待機児童の解消と、質の高い保育等のサービスの提供のため、幼稚園教諭・保育士等の人材確保の取り組みを進める。
- (1)国および地方自治体は、待機児童の速やかな解消と質の高い保育等のサービスの提供のために、幼稚園教諭・保育士・放課後児童支援員等の人材確保対策を強力に進める。
①待機児童の早期解消のため、質の高い保育所等の整備とともに幼稚園教諭・保育士等へ抜本的な処遇改善を行い、幼児教育・保育の質の向上および人材の定着と確保、ディーセントワークを実現する。
②幼稚園教諭・保育士等が職場で長く働き続けられるようにするために、研修やキャリアアップ制度を確実に利用できるよう支援する。
③潜在保育士が円滑に保育職場に復職できるよう、その支援体制を構築する。
④職員の資格について、幼稚園教諭の免許または保育士資格のいずれか一方しか有していない場合は、両資格取得を可能とする人員体制、財政支援を確保する。なお、保育教諭の政治的行為の制限等の処遇について、労働組合や関係機関と十分に協議する。
⑤放課後児童クラブの質を確保するため、放課後児童支援員の数は支援の単位ごとに2人以上を堅持する。また、放課後児童支援員の処遇改善と研修体制の強化のため人員体制、財政支援を確保する。併せて、保育時間の延長や職員体制の強化のため、放課後児童支援員の常勤化を進める。
⑥保育従事者の負担軽減や防犯、事故の予防など安全性の向上のため、保育サービスにおけるICTの活用に向け、研究開発をすすめる。
3.子ども・子育てを社会全体で支える第一歩としての「子ども・子育て関連3 法」の着実な施行のための取り組みを進める。
- (1)待機児童を早期に解消し、安心して子どもを生み、仕事と子育ての両立ができることで、誰もが能力を発揮できるよう、「子ども・子育て関連3法」の着実な施行のための支援を強化する。
①地方自治体は、潜在的なニーズも含め保護者の意向や状況を把握し、全国の待機児童の実態を明らかにする。また、地方版「子ども・子育て会議」において、各地方自治体事業計画の検証を行い、実効ある子ども・子育て支援がすべての地域で実施されるよう、対策を強化する。
②国は、待機児童解消のため、市町村を強力に支援するとともに、子ども・子育て支援新制度に保育サービスの利用者などの意見が確実に反映されるよう、「子ども・子育て会議」の機能を着実に発揮させる。
- (2)国および地方自治体は、既存の保育所および幼稚園の幼保連携型認定こども園への移行を促進するとともに、子ども・子育て支援新制度の質的な改善と量的な拡充をはかる。
①子どもの安全と育ちの保障を重視し、幼保連携型認定こども園の設置基準・職員配置基準を改善するとともに、基準を満たすための財政支援を行う。同様に、幼稚園・保育所についても改善する。
②保護者の様々な就労状況や経済状況にかかわらず、すべての小学校就学前の子どもに対するより良い幼児教育・保育環境を確保するため、インセンティブを設け、さらなる移行を促進する。
③市町村の保育に関わる責任を明確にし、あっせん、利用調整、要請の権限について、その実効性を確保する。また、利用者と教育・保育施設等との契約における施設の応諾義務を徹底する。なお、公立の教育・保育施設については、地域のニーズに応じて行政機関としての責務と役割も担うこととする。
④教育標準時間認定子ども(1号認定)に対して、定員を上回った場合の入所選考については、他の認定こども園と同様に、市町村のあっせん、利用調整、要請の対象とする。
⑤インクルーシブの理念を重視し、障がい児など、特別な支援が必要な子どもについて、市町村によるあっせん、要請などの利用支援を積極的に行う。同時に、受入れ側の人員配置、体制などを十分に確保する。
⑥保育所の認可について、「欠格事由に該当する場合や供給過剰による需給調整が必要な場合を除き、認可するものとする」との考え方どおり機動的に実行するとともに、都道府県と市町村との間で十分な連携がはかられるよう周知する。
⑦市町村が定める利用者負担額以外の上乗せ徴収・実費徴収については、上限を設定するとともに、低所得者対策として利用者負担の軽減などを実施する。
⑧小児医療や病児保育などの充実をはかる。
a)地域における小児医療・救急体制を確実なものとするため、財政支援の拡充等の対策を早急に講ずる。
- (3)国および地方自治体等は、事業所内保育、家庭的保育や小規模保育のさらなる整備・充実をはかる。
①事業所内保育施設について、さらなる整備・充実を進める。また、労使の主体的な判断のもと、積極的に子ども・子育て支援新制度の地域型保育の運営基準を満たし、地域の子どもを受け入れる体制をつくるとともに、適切なワーク・ライフ・バランスが確保できるよう努める。
②家庭的保育や小規模保育については、子どもの安全などの質を確保した上で、さらなる整備・充実をすすめる。特に都市部での家庭的保育や小規模保育の推進にあたっては、内部設備等だけでなく、子どもの最善の利益のため、周辺環境も考慮する。整備する際は、保育が適正かつ確実に行われるよう、認可保育施設を連携施設として確保する。
③過疎地の幼児教育・保育について、小規模保育の充実や、認可施設への移行に向けた認可外施設の改善を促すなど、安定的にサービス提供できるよう施策を拡充する。
- (4)国および都道府県等は、放課後児童クラブなどの地域子ども・子育て支援事業のさらなる充実をはかる。
①放課後児童クラブにおける待機児童を解消し、子どもを取り巻く環境を向上させるため、次の措置を講ずる。
a)市町村の実施責任を明確にし、小学校区内に最低1つ以上の設置をはかるよう早急に整備する。設置にあたっては、児童福祉法において「参酌すべき基準」とされている従事する者の資格、職員数については早急に「従うべき基準」へ改める。また、児童の集団の規模、設備、開所日数、開所時間などについても、その改善をはかるとともに「従うべき基準」へ改める。
b)放課後児童クラブにおいて、基準を満たすよう、施設の改善や職員の資格取得に向けた支援を行うとともに、適切なワーク・ライフ・バランスが確保できるよう努める。
c)保育時間の延長や入所要件の弾力化をはかるなど、地域のニーズと実情に応じて多様なサービスの提供を推進する。併せて、障がい児の受入れが可能な体制を整備する。
d)運営にあたって小学校との連携・協力体制を構築する。
e)「放課後子ども総合プラン」を推進するにあたっては、放課後児童クラブと放課後子供教室の連携を強化するとともに実施水準を確保する。また、児童館との連携を進める。
②保護者の負担軽減に資するよう、延長保育(幼稚園における預かり保育を含む)、夜間保育、休日保育等の拡充のため、財政支援を強化する。
③子育てが孤立しないよう、妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない支援を実施するため、市町村単位での子育て世代包括支援センターの必置化、地域子育て支援拠点事業の充実、相談業務を行う職員の専門性向上のための研修の充実、オンラインによる相談窓口の整備など、保護者への相談支援事業を強化する。
④病児・病後児保育の推進のため、医療機関併設型施設への助成拡充や、医療機関と保育施設等との連携強化をはかる。同時に、保育所などにおいては、安静室・調理施設、看護師・担当保育士を確保した病児・病後児保育体制を早急に整備する。
⑤ファミリー・サポート・センター事業における病児・緊急対応強化事業の普及促進をはかる。
- (5)国および地方自治体は、子どもの最善の利益を確保する観点から認可外施設への取り組みを強化する。
①認可外保育施設について、財政支援を行うことで認可施設への移行をはかり、保育環境を改善・向上させる。
②国は、自治体が全ての認可外保育施設への立入調査を実施するよう財政支援を強化する。
③企業主導型保育については、子どもの育ちと安全を保障するため、認定・指導・監査などに市町村による関与を行う。認可施設への移行を強力に進め保育の質を確保する。また、企業主導型保育事業における地域貢献の理念を徹底する。
- (6)社会全体で子ども・子育てを支えるために、地域資源の活用をはかる。
①国および地方自治体は、地域の子育て支援機能回復の観点から、児童館の運営・活動を拡充する。また、開設時間の延長、日曜開設等への支援を強化する。
②市町村は、NPOなど地域の様々な資源とともに子育て支援ネットワークを構築するとともに、保育施設などにその中核的な拠点としての役割を担わせる。
③国は、ベビーシッターについては、届出の義務付けだけでなく、認可制の導入などにより子どもの安全を確保するとともに、将来的には子ども・子育て支援新制度の枠内での実施によって子どもの最善の利益をはかることを検討する。
④国および地方自治体は、「子ども食堂」が子どもや子育ての地域の中での居場所となるよう、地域と連携できるよう支援する。運営にあたっては、地域の誰もが利用できるよう配慮する。
4.保護者の経済的負担の軽減をはかる。
- (1)国は、保護者の様々な就労状況や経済状況にかかわらず、子どもがより良い環境で育つことができるよう、無償化の対象施設となった認可外保育施設の質の改善に取り組み、認可化移行計画を進める。また、すべての小学校就学前の子どもの利用料の無償化に向け財源確保に努める。
- (2)国は、出産、子育てにかかる経済的負担を軽減するため、次の措置を講ずる。
①子育て支援と、安心・安全な出産のため、妊娠・出産にかかる費用については、正常分娩も含めてすべて健康保険の適用(現物給付)とする。また、窓口自己負担が増加することのないよう別途負担軽減措置を講じ、現行の出産育児一時金は廃止する。具体的な診療報酬の設定などに向けて、医療機関から保険者への分娩費用の請求明細の提出を義務づけるなど、分娩の実態把握や費用内訳を把握・検証するとともに、産科医療の標準化を進める。(「医療政策」より再掲)
②特定不妊治療費助成事業の助成額や回数をさらに拡大する。また、特定不妊治療(体外受精および顕微鏡受精)以外の不妊治療に対しても、助成制度を設ける。
③不妊治療の公費助成の拡大にあたり、不妊治療実績、費用、専門医の数、年間の治療件数などの情報開示制度を構築する。
④不妊治療の保険適用については、患者の安全性の確保と医療の標準化、医療アクセスへの公平性の確保を重視し、保険収載を前提としない「混合診療」の導入につながらない仕組みとする。
⑤18歳までの子どもがいる世帯に対し、公的賃貸住宅の優先入居を行う。また、子育て世帯など住宅セーフティネット法の住宅確保要配慮者が入居しやすくなるよう、民間の優良賃貸住宅に対する支援を強化する。
⑥児童手当について、次の措置を講ずる。
a)義務教育終了までの子どもを養育する保護者に対し、特例給付も含め所得制限や世帯合算なしで支給する。なお、所得再分配については、税制などにおいて対応する。
b)年少扶養控除の廃止等により、児童手当受給時に比して実質手取額が減少する世帯が生じない額(3歳未満児1人あたり月額20,000円程度、3歳以上中学修了までの子ども1人あたり月額15,000円程度)を最低限支給する。
- (3)国は、児童扶養手当などをはじめとしたひとり親世帯への支援策をさらに拡充し、子育て・生活支援や職業訓練等の自立支援策を個々の世帯の態様を踏まえ、総合的かつ強力に取り組む。また、児童扶養手当制度における一部支給停止(減額)措置は廃止するとともに、安定的な生活設計のため毎月支給とする。
- (4)国および地方自治体は、すべての未就学児が必要な医療および健康診査が受けられるよう、低所得者への負担軽減を行う。
5.子どもの人権を守り、子どもの豊かな育ちの環境を確立する。
- (1)国は、子どもの貧困対策への支援を拡充し、子どもの貧困の解消をはかる。
①子どもの貧困に関する全国的な実態調査を速やかに実施する。
②子どもの貧困対策を充実するために経済的支援、就労支援とともに、食事支援、生活支援、学習支援などを包括的に行う。
③ひとり親家庭の課題を把握・整理し、適切な支援メニューにつなげるため、母子・父子自立支援員を中心としたアウトリーチ(訪問支援)型の相談支援体制をより一層整え、相談支援窓口の整備のために必要となるさらなる支援を行う。
④地域における、ひとり親家庭への支援メニューや支援施策のさらなる周知、広報対策、利用を促進する。
- (2)国および地方自治体は、子どもの人権を守り、児童虐待の予防と対応策を強化するために、次の措置を講ずる。
①国は、親権者が子の利益のために子の監護及び教育を行う時や親権者以外が養育や教育をする時等、いかなる場合であっても子どもに対する体罰を禁止するため、法制化を検討する。
②子どもを人権侵害から保護するため、子ども自身の意見を表すための支援体制を整備する。
③保護者等の不安を解消し、妊娠期から子育て期までの支援を強化するため、妊婦健康診査や乳幼児健康診査の周知を徹底する。また、乳幼児健康診査や就学時健康診断において保護者への相談支援を同時に行うとともに、3歳児の健診以降の定期健診の機会を充実させる。
④児童虐待等に関する相談体制を以下のとおり強化する。
a)児童虐待相談処理件数の急増に対応し、児童相談所の児童福祉司の配置基準を大幅に引き上げ、それに応じた地方財政措置を行い、児童福祉司を増員する。また、児童福祉司に国家資格を有する者を任用するなど専門性の向上をはかる。
b)相談員、児童心理司等専門職員の配置を増やし、児童虐待に関する予防的な取り組み及び介入の徹底、虐待を行った保護者へのケア、家族再統合の支援など、児童相談所の機能を強化する。
c)被虐待児や虐待をした保護者などの心のケア、子どもの問題行動やトラウマへの適切なケアへの迅速な対応を行うため、市町村の児童家庭相談援助における職員の専門性の確保、カウンセラーの育成・計画的配置を進めるとともに必要な財政支援を行う。
⑤児童福祉関係行政機関である児童相談所、福祉事務所、保健所、保育所、学校、民間団体、NPO等の連携を強化するため、市町村による要保護児童対策地域協議会の設置を徹底するとともに、同協議会が児童虐待等の予防・早期発見・早期対応を果たせるよう、体制面などの機能を強化する。
⑥児童虐待防止法の国民への周知をはかる。特に、国民の通告義務(児童福祉法第25条)について、啓発、広報の徹底をはかる。また、児童虐待防止に向けた啓発のため、オレンジリボン運動を推進する。
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(3)国は、すべての子どもの育ちを保障する観点から、家庭への養育支援から代替養育までの社会的養育を充実させる。
①子どもへの影響を配慮しつつ児童養護施設の小舎化とグループホーム化をすすめるため、さらなる財源の投入を進め、小規模施設向けの保護単価の新設などの改善を行う。また、入所児童への個別的な支援を強化し、施設職員による虐待防止のため施設の職員配置基準の改善や、心理職員などの専門職員の配置が可能となるよう財源確保を行う。また、乳児院についても、措置費の改善を行う。
②施設を退所した児童等の自立支援のために、自立援助ホームに対する財政支援を強化し児童養護施設におけるアフターケア体制を充実する。
③施設職員による虐待を防止するため、養育(ペアレンティング)、暴力防止のための教育、人権教育などのプログラムを実施する。
④児童相談所の一時保護所について、子どもの心身に関する安定の観点から設置・運営基準を含めて改善を検討する。
⑤児童自立支援施設について、現行の設置主体を基本とし、夫婦小舎制の維持、職員の専門性の確保をはかる。母子自立支援センターなどの社会的養護関係施設について、さらなる機能強化のため財源確保を進める。
⑥里親制度の充実に向け、里親制度に対する広報の強化と里親の育成や支援強化に向け、児童相談所および児童家庭支援センター等の体制強化を進める。また、里親手当の引上げも検討する。
- (4)国および地方自治体は、障がい児支援について、次の措置を講ずる。
①障がいのある子どもの施策は子ども・子育て施策に組み込む。さらに特別な支援が必要な施策については、障がい者施策に組み込む。
②児童養護施設や乳児院、保育施設などの児童福祉施設について、障がい児も受け入れ可能な開かれた仕組みにするとともに、日常の生活の場にふさわしい施設水準に改善する。
③幼稚園・保育所・学校などにおいて医療的ケアが日常的に必要な障がい児(医療的ケア児)への医療提供を確保するため、医療的ケア児等コーディネーター養成研修等の保育士等の受講を支援し、看護師や担当保育士等を確保した体制を整備する。(「医療政策」より一部再掲)
④発達障がい児の早期発見と早期対応のための基盤を整備する。
- (5)国および地方自治体は、思春期・青年期における対策を強化する。
①思春期精神疾患に関わる専門家の養成を行うとともに、アウトリーチ(訪問支援)型の相談支援サービスを強化する。
②ひきこもり地域支援センターの設置を促進するとともに、同センターの周知をはかる。
③思春期に関わる総合相談窓口の設置に向け、学校や児童相談所、ひきこもり地域センターおよび地域若者サポートステーションなどの関係機関の連携を強化する。
年金政策<背景と考え方>
- (1)年金は高齢者世帯収入の約6割を占め、約5割が公的年金収入だけで生活しており、老後の生活保障の柱である。他方、高齢化が加速度的に進み、給付と負担のバランスを確保することが大きな課題となっており、拠出者である労使の参画のもと、財政の持続可能性と給付の十分性を両立させることが求められている。
- (2)2019年財政検証では、一定の要件の下で所得代替率50%を確保できるとの試算が示されたが、経済前提が甘く現実的とはいいがたい。また、基礎年金の所得代替率が将来的に大きく低下すると見込まれており、同検証結果は、国民に安心を提供できていない。
- (3)短時間労働者の厚生年金保険の適用拡大が進められてきているが、依然として厳格な適用要件が存続し対象者が限定的であるため、多くの短時間労働者が適用されず、被用者としての十分なセーフティネットが確立されていない。
- (4)年金積立金の運用について、基本ポートフォリオにおける株式の割合が5割とされたことなどによって、運用結果の変動幅が拡大し、国民の不安を高めている。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のガバナンスについては、被保険者の意思を確実に反映する点で全く不十分な経営委員会の委員構成となっている。
- (5)企業年金制度については、実施企業が減少傾向にあり、特に、中小企業では実施率が大きく低下している。また、短時間・有期等労働者の多くは企業年金の対象とされていない。
- (6)社会的にESG(環境・社会(労働)・コーポレートガバナンス)責任投資の考え方が非常に重視されてきており、労働組合としても取り組みの強化が求められている。
1.すべての人が不安なく暮らし続けられるよう、基礎年金の基盤強化や所得比例年金の創設など抜本改革を進め、真の皆年金を実現する。
- (1)だれもが高齢、障がいなどにより生じるリスクに対して安心して暮らし続けられるよう、公的年金による所得保障を行う。
①公的年金制度による所得保障の重要性、医療・介護の保険料や自己負担への対応、家計の維持、地域経済への影響などに鑑み、財産権、期待権をも十分考慮し、現行年金制度からの円滑な移行により年金制度を強化する。
②だれもが高齢、障がいなどにより生じるリスクに直面しても安心して暮らし続けられるよう、基礎年金の給付水準を改善するため、基礎年金の国庫負担割合を段階的に引き上げる。
③公的年金給付により、全給付期間を通じ、税・社会保険料を除く手取りベースの所得代替率50%以上の水準を確保する。
④支給開始年齢については65歳を維持する。また、繰上げ受給可能な年齢については60歳を当面維持する。
- (2)基礎年金の財政基盤を抜本的に強化しつつ、低年金者に対する福祉的給付を支給し、できる限り生活保護の受給に頼らず自立的な生活を可能とする制度に見直す。
①国会の超党派による議論の場で、新たな税制改革と一体となった年金制度改革の合意形成をはかるとともに、速やかな検討を行う。
②基礎年金の国庫負担割合の引き上げに要する財源は、所得税の累進性の強化、資産課税の強化など所得再分配の機能強化を前提に、消費税の税率引き上げを含め確保する。
③基礎年金の給付は、現行どおり老齢、障害、遺族の各給付とし、基礎的消費支出に相当する給付水準の確保をめざす。その上で、社会保険料など非消費支出の増加を踏まえた水準の引き上げについても検討する。
④高所得者に対する基礎年金の給付にあたっては、所得に応じて国庫負担分を返金する方式(クローバック)を導入する。
⑤低年金者等の生活を支援する年金生活者支援給付金の確実な支給を行うとともに、給付額の増額や年金保険料を支払えなかった者への対応などを検討し、低所得者加算など福祉的給付のさらなる充実に取り組む。
- (3)だれもが所得比例年金を受け取れるよう厚生年金を改革する。
①厚生年金は引き続き社会保険方式とし、すべての労働者に適用する。
②厚生年金の労使負担割合については、基礎年金の国庫負担割合の引き上げに合わせ見直す。
③自営業者等の所得比例年金の創設に向け、マイナンバーやインボイス制度の早期導入等による所得捕捉の徹底を進めるとともに、自営業者等の保険料負担(事業主負担)のあり方を整理する。その上で、厚生年金と自営業者等の所得比例年金との一元化を展望する。
2.公的年金に対する国民の安心と信頼を確保するため、公的年金の機能を強化するとともに、公平・公正な制度を確立する。
- (1)国は、財政検証の枠組みを以下のとおり見直す。
①年金財政の健全性を明らかにし、国民の信頼を確保するため、財政検証を毎年行い、その結果に基づき制度改正の検討を行う。その際、給付の十分性および所得再分配効果についてもあわせて検証を行う。
②財政検証の経済前提(物価上昇率、賃金上昇率、名目運用利回り)については、全要素生産性(TFP)上昇率をはじめとする前提条件について高齢化等の影響に十分留意しつつ、過去の実勢を踏まえて設定する。
③財政検証においては、政治的な影響を排除する。また、客観的に検証する場とともに、社会保障審議会年金部会に加えて拠出者が参画して議論する場を設ける。
- (2)国は、年金制度の抜本改革までの間、以下の措置を行う。
①将来の給付水準の確保を図るため、厚生年金について、デフレ下での年金受給者等への影響を検証した上で、マクロ経済スライドの名目下限措置を撤廃する方向で検討を行う。基礎年金は老後の生活の基礎的部分を賄うものとされていることから、財源を確保しマクロ経済スライドの対象から外す。また、障害厚生年金は障がい者の生活を支える重要な基盤であるため、調整率の設定は、障がい者の基礎率にもとづく方法に改める。
②支給開始年齢のさらなる引き上げは、低年金者の受給機会が損なわれるおそれがあるため、行わない。
③現行の40年納付に対する給付水準を維持しつつ、保険料拠出期間を延長し、延長した年数に応じて給付額を増額する仕組みとする。そのため、延長した年数に応じて基礎年金拠出金算定対象者の年齢上限の見直しを検討する。
④年金受給資格期間が10年に短縮されたことを踏まえて、年金は長く保険料を納めれば受給額が増える仕組みであること、任意加入、保険料後納制度、合算対象期間(カラ期間)を利用して10年を満たす場合もあること等について、国民に対し効果的に周知する。
⑤短時間労働者の被用者保険の適用拡大を進めるため、企業規模要件を速やかに撤廃し、労働時間要件(週20時間以上)または年収要件(給与所得控除の最低保障額以上)のいずれかに該当すれば適用となる基準に改める。あわせて、被扶養者の年収要件も現行の130万円から給与所得控除の最低保障額以上とする。(「社会保障制度の基盤に関する政策」参照)
⑥社会保険の非適用業種を撤廃し、常時5人未満の個人事業所も適用対象とする。
⑦標準報酬月額の範囲については、被用者保険内の所得再分配を強化するとともに、被用者保険の適用拡大を進めるため、最低賃金や健康保険の基準を念頭に下限を引き下げる。
⑧高所得者に対する年金課税については、総収入(賃金、事業所得、家賃、配当・利子等)にもとづくあり方を検討する。
⑨第3号被保険者制度の見直しについては、短時間労働者等への厚生年金のさらなる適用拡大、被扶養者認定の年収要件の見直しで対象者を縮小する。
⑩雇用労働者である国民年金第1号被保険者についても、育児休業の取得期間中の保険料免除措置を導入する。給付に反映する場合の財源は、国民年金財政で負担することを基本としつつ、公平なあり方を検討する。
⑪在職老齢年金について、就労に対する影響を検証した上で、以下のとおり見直すことも含めてあり方を検討する。
a)在職老齢年金非適用者(社会保険の適用要件を満たさない者、賃金以外の収入のある者)との公平性を確保するため、現行の在職老齢年金制度を廃止し、総収入(賃金、高年齢雇用継続給付金、事業所得、家賃、配当・利子等)をベースに、年金額を調整する制度に抜本的に改める。
b)在職老齢年金の支給停止額の算定に用いる総報酬月額相当額について、受給時における実際の賃金を反映する仕組みに改める。
c)働きながら年金を受給する者(65歳以降で総収入が一定額以上)の年金に対する一定の支給停止を行うが、支給停止となった部分については、部分繰り下げの扱いとし、繰り下げ額について一定の増額率を乗じたものを退職時から受給できる仕組みを検討する。
⑫遺族厚生年金について、以下のとおり見直す。
a)当面、遺族年金の支え手である被保険者の年収とのバランスをはかる観点から、年収850万円未満の遺族に支給される現行制度について、遺族となった者の年収に応じて、年収600万円程度から段階的に年金額を調整する仕組みに改める。また、適用認定については、毎年の年収をもとに認定する仕組みに改める。
b)遺族厚生年金の支給要件の男女差については、将来の遺族年金のあり方、方向性と整合性をはかりつつ、格差解消に向けて見直す。
⑬障害年金について、以下のとおり見直す。
a)障害基礎年金の支給を、障害厚生年金に合わせ3級障がい者からとし、給付水準を引き上げる。
b)障害認定審査の客観性と透明性を高め、確実に年金を受給できるようにする。また、障害認定に関する地域差を解消するにあたり、これまでの受給者に不利益を極力生じさせないように対策を講じる。(「障がい者政策」より再掲)
c)「特別障害給付金」の対象者の範囲を拡大することにより、20歳前の傷病者など無年金となっている障がい者の解消をはかる。
⑭失業中も障害年金や遺族年金等の受給権に結びつく納付要件を確保するため、厚生年金への「任意継続加入制度」を創設する。
a)継続加入期間の保険料負担は2年間を限度に猶予して、再就職後に追加分納する。
b)追納の保険料は、労使分、本人分(給付算定は半額)、免除制度(障害・遺族年金の対象)との3選択制とする。
c)追納期間は猶予期間の2倍(4年)以内とする。
- (3)国は、年金課税の見直しに伴う税収増について年金財政に全額繰り入れる。
- (4)国は、独立行政法人や民間委託を含む年金事務費については全額国庫負担を基本とし、内訳などをねんきん定期便に記載して被保険者に対し公表する。
- (5)国は、教育機関と連携し、公的年金制度の特徴である皆年金、社会保険強制加入の意義、賦課方式など、年金教育・広報の充実に取り組む。
- (6)国は、人材育成のための各種研修や専門人材の派遣などの年金制度の導入に向けた国際協力を積極的に行うとともに、社会保障協定(適用調整、保険期間の通算など)の締結を進める。また、現行の外国人への脱退一時金について、在日後帰国する外国人に制度の周知を徹底するとともに、脱退一時金の要件及び支給率を改善する。
3.保険料拠出者である労使の参画等によって透明で公正な制度運営を行い、年金制度の信 頼性を高める。
- (1)国は、年金記録問題の全面解決にあたる。
①年金記録問題は国が責任を持ち、年金記録が給付につながるよう、引き続き十分な業務執行体制を確保する。
②「ねんきんネット」等のツールを充実させ、被保険者、受給者への丁寧な周知活動を行うことにより「もれ」や「誤り」について心当たりがある場合の申し出を促す。
- (2)国および日本年金機構は、同機構の運営については、保険料拠出者である労使代表の参画、運営責任の明確化、信頼および利便性の向上を重視し、そのために必要な業務執行体制を確立する。
①社会保険の適用、徴収業務の確実な実施のため、業務の効率化・人員再配置を前提に、公権力行使業務が行える職員(正規職員)を含む人員を確保し、体制を強化する。
②国税庁をはじめとする関係省庁や関係団体との連携を強化しつつ、社会保険の未適用事業所に対する加入指導や職権適用を徹底するとともに、厚生年金の被保険者にかかる届出が確実に行われるよう事業主に対する指導を強化する。
③従業員の転退職による被保険者資格喪失の通知の際、年金保険料の未納や、未加入状態にならないように、注意喚起する。
④厚生労働省が個人情報保護の監督責任を負い、被保険者、受給者の個人情報が確実に保護される体制とする。
⑤被保険者や受給者が安心して利用できるよう情報セキュリティ対策を一層強化した上で、電子申請の利便性向上と利用促進をはかるとともに、年金相談等のさらなるオンライン化に取り組む。
- (3)国は、公的年金の年金積立金について、保険料拠出者である労使代表が参画する場で検討する体制を確立し、以下のとおり管理・運用を行う。
①厚生年金保険法等の規定にもとづき、専ら被保険者の利益のために、長期的な観点から安全かつ確実な運用を堅持する。
a)財政検証の前提条件等を抜本的に見直した上で再検証を行い、リスク性資産の割合を引き下げる方向でポートフォリオを見直す。
b)株式のインハウス運用は、公的資金による企業支配との疑念があるため、行わない。
c)積立金の取り崩しが必要になった際の年金給付に必要な流動性を確保するため、オルタナティブ投資はきわめて抑制的に行う。オルタナティブ資産への直接投資は、流動性の確保、カントリーリスクの回避等の観点から、行わない。また、投資一任の運用においても投資案件に対する一層のリスク管理を行うなど慎重な取り扱いを徹底する。
②GPIFの業務運営については、以下のとおりガバナンスを強化する。
a)GPIFにおいて、保険料拠出者である労使代表の意思の確実な反映を可能とするガバナンス体制を構築する。
b)経営委員会における経営委員の定数及びその配分について、保険料拠出者である労使代表の構成割合が過半数を占めるよう、速やかに検討を開始する。
c)国民に対する説明責任を果たす観点から、経営委員会の人選においては、年金財政や年金制度の専門家などを含めたバランスのとれた構成とする。
d)市場の公正性と国民の信頼性を確保するため、利益相反防止の規制を強化する。
e)国民の年金制度に対する信頼を高めるため、情報開示を強化するなど透明性を確保し、説明責任を果たす。運用上のリスクだけでなく、内部管理上のリスク管理を徹底し、公表する。経営委員会の議事録は、速やかに公開する。
f)四半期ごとの運用実績等を、被保険者および受給者に分かりやすく公表し、年金個人情報の定期的な通知の際にあわせて情報提供を行う。
g)自主的業務運営と責任の明確化をはかるため、役員選任の透明性を確保する。
③被用者年金一元化後も厚生年金・国民年金、共済年金の年金積立金の管理・運用業務を複数の主体に行わせる。
4.受給権保護の整った、将来にわたって安定的な給付を約束する企業年金制度を構築し、雇用形態や企業規模に関係なくすべての労働者が制度適用されるよう普及をはかる。
- (1)国は、企業年金の原資が賃金の後払いとしての性格を持つ退職給付であることを踏まえ、労使合意の尊重を前提に、長期にわたり確実に給付が保障される企業年金制度を確立する。
①企業年金の運営や重要事項の決定にあたっては、過半数労働組合がない場合を含め、加入者等の意思を尊重した運営がなされるよう、労使合同の委員会の設置など体制の構築を促す。
②すべての制度間の移換が可能となるようポータビリティを拡充する。また、確定給付企業年金(DB)間や、個人型DCからの受換のための基金等の規約の整備を促進する。
③受給権保護の強化をはかるため「企業年金基本法(仮称)」を制定し、企業年金の受給要件、受託者責任、情報開示の明確化、税制措置等に関する包括的な法整備をはかる。将来的には企業年金と退職一時金を包括する退職給付保護制度を確立する。
- (2)国は、企業年金が公的年金の補完機能を確実に果たすことができるよう、中小・零細企業の労働者や短時間・有期等労働者に対する制度の普及促進を抜本的に強化する。
①中小・零細企業向けの企業年金の充実をはかる。そのため、中小企業退職金共済(中退共)制度や総合型DB、簡易型確定拠出年金(DC)の普及をはかる。
②短時間・有期等労働者に対する企業年金制度の普及に向け、短時間・有期等労働者に対するモデル年金規約を整備し周知する。
③安定的な退職給付を確保し、企業年金のさらなる普及を促進するため、特別法人税は撤廃する。
- (3)国は、受給権保護の整ったDB制度のさらなる充実をはかる。
①代議員会や加入者による関与を強化するため、「運用の基本方針」の厚生局への届出を法令で義務づける。
②受給権保護のため、積立不足を防止する仕組みと支払保証制度を検討する。
③DBの財政基盤の強化のためリスク対応掛金の普及に向けて周知の強化をはかる。
④国は、DB併用の企業型DCの拠出限度額を「DCの拠出限度額(月額5.5万円)からDBごとの仮想掛金額(掛金相当額)を控除した額」とする見直しが、既存の企業年金の縮小や廃止など労働条件の変更を強いることにならないよう、労使自治を尊重する。
⑤国は、リスク分担型企業年金の規約の承認にあたり、労使合意の内容や経過について審査を厳格に行う。
⑥リスク分担型企業年金について、以下の内容について周知・徹底をはかる。
a)DBからリスク分担型企業年金への移行にあたり、運用結果により加入者および受給者の給付減額の可能性について、すべての加入者および受給者へ事前の十分な説明を行う必要があること。また、給付原資が基準ラインを下回る場合においては加入者等の3分の2以上の個別同意(加入者の3分の2以上で組織する労働組合の同意にて代替可能)を要すること。
b)再計算の結果に基づく加入者および受給者に対する給付額への影響の可能性について、加入者および受給者へ説明する必要があること。
c)給付改善等の制度設計に関する新たな労使合意があればリスク分担型企業年金掛金額の変更が可能であること。
d)リスク分担型企業年金掛金額の設定にあたっては、労使による十分な議論を踏まえなければならないこと。
e)リスク分担型企業年金の運用の基本方針や資産構成割合など、資産運用に関する意思決定に加入者等の意思を反映させるため、労働組合等が参画する委員会の設置を法令で義務づける。
f)給付額の改定に用いる調整率の算出方法や算出根拠となったデータなどを業務概況で周知する必要があること。
⑦DBやキャッシュバランスプラン(CB)の予定利率等の基礎率や掛金等について、設定後に定期的な見直しを行う際に、加入者の意思を尊重させるための労使合同の委員会の設置や労使協議等の開催と、加入者への情報提供を徹底する。
- (4)国は、DC制度について、DBや企業型DCから個人型DCへの安易な移行を防ぐとともに、企業型DCの制度の充実をはかる。
①労働者の責によらずに生活困窮に陥った場合など明確な制約を設けた上で、運用指図者である場合を含め中途引き出しができるようにする。
②想定利回りや商品構成等について、設定後に定期的な見直しを行う際に、運用商品の利回りや手数料、従業員の運用見直し状況などについてモニタリングし、加入者の意思を尊重させるための労使合同の委員会の設置や労使協議等の定期的な開催と、加入者への情報提供を徹底する。
③運営管理機関の業務撤退や企業再編など、労働者の責によらない事由に伴い発生する資産移管手数料や必要な情報提供、手続きについては、運営管理機関や事業主が責任を持って負担・対処する。
④企業型DCについて、デフォルト商品を含め、商品提供のあり方については労使の判断を尊重しつつ、過度な収益確保に走らないようリスク・リターン特性を十分に検討して決定するよう周知をはかる。また、加入者の納得性を確保する前提で、実効性のある商品除外規定を整備する。
⑤企業型DCについて、事業主が導入時および導入後の継続的な投資教育を行い、その上で加入者本人が納得して商品選択を行うよう指導を強化する。
⑥従業員にDCの掛金として拠出するか、給与・賞与などとして支払われるかを選択させるDC(選択型DC)については、労働条件の不利益変更となること、企業拠出型に比べ公的年金や傷病手当金などの給付額が減額する可能性があることについての事業主による正確な説明の有無、労使協議の経過や内容等について厚生局での確認を徹底する。
⑦企業型DCのマッチング拠出について、企業年金制度は退職給付であって事業主による拠出が基本であるため、事業主拠出を超えない範囲で加入者拠出を認めるという現行の仕組みを維持する。
5.年金基金(公的年金・企業年金)の運用にあたって、環境・社会・ガバナンスなどのESG課題を踏まえた責任投資の推進をはかる。
- (1)国は、年金基金(公的年金・企業年金)の運用に際して、責任投資(ESG投資)を推進する。
①連合「ワーカーズキャピタル責任投資ガイドライン」をもとに、公的年金および企業年金の運用に際し、投資判断に「環境・社会(労働)・コーポレートガバナンス」(ESG)など非財務的要素を考慮する責任投資を普及する。
②GPIFなど公的年金において、保険料拠出者である労使代表の参画のもと、責任投資に取り組む。
③公的年金においての投資(運用)目的は「専ら被保険者の利益のため」に他ならず、そのことについて運用受託機関や投資先企業と必ず共有をはかるよう促進する。
④企業年金において責任投資に取り組むにあたり、日本版スチュワードシップ・コードの受け入れや国連責任投資原則(PRI)、21 世紀金融行動原則の署名など、責任投資を促進させる取り組みとセットで展開する。
⑤企業年金において責任投資の促進をはかるため、厚生労働省が策定している規約例や運用ガイドラインにその考え方を盛り込む。
被爆者援護政策<背景と考え方>
原爆症認定訴訟の終結に向け、2010年4月に「原爆症認定集団訴訟の原告に係る問題の解決のための基金に対する補助に関する法律(原爆症救済法)」が施行された。これを受け、広島・長崎における集団訴訟は終結したが、国内すべての訴訟終結にはいまだ至っていない。
一方、被爆二・三世の健康不安等に対する課題については、「被爆二世臨床縦断調査」が現在実施されており、厚生労働省は数年内に蓄積した知見の解析を深め、今後の被害者援護施策の強化に向けて活用するとしている。
こうした動向を注視しつつ、科学的な根拠にもとづき運動を強化していく必要がある。
1.すべての被爆者を対象に、国家補償に基づく被爆者支援を実現する。
- (1)国は被爆者の実情に合わせた原爆症認定基準の見直しを行う。
①2013年12月に改定された新・原爆症認定方針にしたがい、原爆症認定審査が滞留なく円滑に実施されるよう、審査体制の拡充をはかる。
②2010年から施行されている「原爆症認定集団訴訟の原告に係る問題の解決のための基金に対する補助に関する法律(原爆症救済法)」について、すべての被爆者の救済に向けた実効性ある運用をはかる。
- (2)国は被爆二世・三世への援護の推進をはかる。
①放射線影響研究所で行われている「被爆二世臨床縦断調査」を今後も継続的に実施し、内容の充実をはかり、被爆二世の援護策に反映していく。また、被爆三世についての健康調査を含めた援護策を検討する。
②被爆二世健康診断については、2016年度に「多発性骨髄腫検診」が加えられたが、すべてのガン検診についても対象とする。
③「被爆二世臨床横断調査」結果について、科学的な根拠が明らかになった場合には、必要な援護策(被爆者援護法などの改正)を講じる。
- (3)国は在外被爆者の援護の充実をはかる。
①改正被爆者援護法により在外公館での被爆者手帳の申請・交付および健康管理手当など各種手当を確実に実施する。また、在外被爆者の実態把握に努める。
②在外被爆二世に対する「被爆二世検診」については、居住国の医療機関で受診できる措置を講じる。
- (4)国は「被爆体験者」に関する援護施策の見直しを行う。
①「長崎被爆体験者支援事業」(厚労省委託:被爆体験者精神影響等調査研究事業)における、被爆体験者医療受給者証の居住条件の撤廃を行う。また、被爆体験者についても、被爆者と選別することなく被爆者同様の援護施策を講じる。
国土・住宅政策<背景と考え方>
- (1)人口減少に伴う年齢や世帯構成の変化により、地域社会に様々な影響が生じている。「国土形成計画」にもとづき、地域の主体性を確保した上で、すべての生活者にとってくらしやすい国土計画・都市計画・まちづくりを進めていくことが求められる。
- (2)「社会資本整備重点計画」にもとづき、選択と集中の徹底をはかるとともに、地域住民の生活に係わる社会資本の長寿命化対策を推進し、持続可能で包摂的な社会資本整備を進める必要がある。
- (3)「住生活基本計画」では、「住宅確保要配慮者が安心して暮らせるセーフティネット機能の整備」を目標の一つとし、支え合いで多世代が共生するコミュニティの形成、公営住宅等による住宅確保要配慮者の住まいの確保など、住宅セーフティネット機能の強化等に関する各施策が掲げられている。「居住の権利」を基本的人権として位置づけ、経済状況にかかわらず、誰もが安全・安心で快適に住み続けることのできる賃貸住宅を確保することが求められる。
- (4)核家族化や単身世帯の増加といった家族構成の変化等から、全国の空き家数は増加傾向にある。空家等対策計画に基づく空き家対策を強化するとともに、住宅セーフティネット法の住宅確保要配慮者や外国人労働者など、特に配慮が必要な世帯に一定の基準を満たした空き家を提供するなどの支援策を拡充していくことが求められる。
1. 人口減少や少子高齢化、外国人労働者の増加などを踏まえ、すべての生活者にとってくらしやすいまちづくりを推進する。
- (1)国・地方自治体は、人口減少や少子高齢化、外国人労働者の増加などを踏まえ、地域の主体性を確保しながら、すべての生活者にとってくらしやすいまちづくりを推進する。
①人口減少に伴う年齢や世帯構成の変化などの地域実態に応じ、地域住民の参画のもとで、コンパクトなまちづくりなどについて検討できる環境を整備する。
②コンパクトなまちづくりを進める際には、都市計画や交通基本計画をはじめ、様々な施策が相互に機能し合うよう、都市間および省庁間の連携をはかる。
③都市部における中心市街地の整備を進め、大型集客施設・業務用ビル・公共施設等を集約し、都市緑化やエネルギーの共同利用などを促進する。
④市街地再開発事業施行区域の要件を緩和し、既存建築物の老朽化、敷地細分化の状況などに応じて対象範囲を拡大し、敷地細分化の防止と既成市街地再開発を推進する。
⑤すべての生活者が快適にくらすことができる、ユニバーサルデザインにもとづいたまちづくりを推進する。
⑥オフィスビルの新築・改修時に、省エネルギー型設備の導入をさらに促進するとともに、ビル・エネルギーマネジメントシステム(BEMS)や省エネルギー支援サービス(ESCO)などの事業育成のための補助金制度を拡充する。
⑦地域の山林資源を活用し、木材住宅、バイオマス発電源燃料、森林保全に向けた産業、雇用、再生可能エネルギーなどを作り出す。
- (2)国は、全国における地籍調査を推進するため、市町村に対する財政面および人材面での支援を行う。
①地籍調査の実施の有無により、自然災害発生後の住宅再建やライフライン復旧にかかる時間と費用に大きな差が生じるため、地籍調査を強化する。
②住みやすいまちづくりの観点から、地籍調査により所有者が不明確な土地をなくすことで、利用優先の土地活用と地価安定により生活と経済の安定をはかる。
③まちづくりと連動した土地政策を推進するため、土地取引の情報提供、土地行政の連携強化などにより、土地市場の透明化および活性化を推進する。
2.地域住民の生活に係わる既存社会資本の長寿命化や老朽化対策など、持続可能で包摂的な社会資本整備を行う。
- (1)国・地方自治体は、地域住民の生活に係わる橋梁、交通施設、上下水道施設、港湾岸壁など既存社会資本の長寿命化や老朽化対策により、持続可能で包摂的な社会資本整備を行う。
①橋梁、上下水道施設、港湾岸壁などについては、ICTを活用した早期検知システムの導入などによる維持管理を適切に行い、破損や事故を未然に防ぐ。
②交通安全の確保、都市景観の保全、災害拡大の防止・減災等の観点を重視し、情報通信回線・上下水道管・ガス管・電線等を一括埋設する共同溝の整備を推進する。
③内水氾濫・浸水対策における雨水貯留管の積極敷設ならびに下水道施設における重要な幹線(管路)等の耐震化を進める。
④大規模建築物や避難路沿道建築物などの耐震化や避難道路および沿道の建築物、軟弱地盤の地域を中心に液状化対策を推進する。
⑤学校、病院、空港、港湾、旅客施設、主要幹線道路、橋梁、公的賃貸住宅、公園緑地、排水処理施設の耐震補強など、地域住民の生活・安全・環境に関連した社会資本を優先的・効率的に整備する。
⑥社会資本整備を支える労働者の労働環境に配慮しつつ、国・地方自治体の技術者を含め、現場の担い手を安定的に確保および育成する。
- (2)国・地方自治体は、交通施設の整備について、都市計画やまちづくり、交通機関ごとの役割分担や既存施設の活用、効率化と利便性向上、自然環境への配慮を重視して推進する。
①交通施設の整備について、納税者・利用者への説明責任、自然環境への配慮を重視して推進する。併せて、整備事業に対する事後評価制度の導入も検討する。
②鉄道施設や道路について、老朽化し安全上問題がある橋梁やトンネル等の構造物に対し、民間事業者への支援も含め早急に対策を講じる。
③空港施設について、滑走路、空港ビルや駐車場などを一体的に運営し、安全性の確保と利便性の向上を前提に効率性を高める。また、滑走路延長やターミナルビルの増設などの追加投資は、既存空港を効率的に運営し必要性を精査する。
④新幹線整備について、国民の理解が得られるよう慎重な検討を行うとともに、投資の重点化を推進する。また、地域交通維持の観点から、並行在来線の経営分離問題や貨物路線の維持問題を解決する。
⑤道路整備について、拠点都市への接続向上、物流の円滑化など、地域住民の意見を踏まえて計画し整備を行う。三大都市圏においては、通過車両削減による渋滞解消などを目的に、環状道路・バイパス道路を拡充する。
⑥民間活力により社会資本整備を推進するため、PPPおよびPFIを活用するとともに、「公」と「民」の事業の責任範囲の明確化をはかる。
⑦上下水道など公益性の高い公共事業については、地方自治体における技術・管理人材の確保に努めるとともに、公共サービス事業の持続性・安定性と安全性を担保し、非常時における自治体間の相互応援体制の整備を促進する。
⑧上下水道の設備更新については、民間活用も含めた具体的方策について、受益者たる住民参加のもとで意思決定を行う。
⑨大都市圏への一極集中とそれに伴う住環境悪化、通勤問題、交通渋滞、防災問題など、様々な弊害を是正するため、地方分権や行政改革について国民的な議論を推進する。
3.「居住の権利」を基本的人権として位置づけ、誰もが安心して住み続けることのできる賃貸住宅を確保する。
- (1)国・地方自治体は、「居住の権利」を基本的人権として位置づけ、住宅セーフティネット法の住宅確保要配慮者などに加えて、外国人労働者など、特に配慮が必要な世帯に公的賃貸住宅や一定の基準を満たした空き家を供給するとともに、民間の優良賃貸住宅に対する支援を強化する。(「防災・減災に関する政策」参照)
①子育て世帯が安心して子育てできるよう、十分な広さと質を備えた賃貸住宅を供給する。また、高齢者が所有する住宅を子育て世帯が居住する賃貸住宅として活用する。
②高齢者がコミュニティを維持しながら地域に住み続けられるよう、サービス付き高齢者向け住宅を活用する。また、居住の安定と居住用資産の有効活用をはかるため、自己所有の住宅等を担保として高齢者に融資を行うリバースモーゲージ制度の普及に向けた支援を講ずる。
③「高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者居住安定確保法)」におけるサービス付き高齢者向け住宅を拡充する。また、障がい者にも対象を拡大し「高齢者および障がい者の居住の安定確保に関する法律(高齢者・障がい者居住安定確保法)」に改正する。
④住宅セーフティネット法の住宅確保要配慮者などの自立生活を支援するため、生活保護制度の生活扶助を見直し、住宅支援制度や住宅手当制度(住宅の現物支給又は家賃補助)を創設する。その際、一定の基準を満たした空き家の提供を含める。また、国は、無料低額宿泊所の利用者の自立を助長する適切な住環境を確保するため、無料低額宿泊所の防災体制を強化するとともに適切な相談支援体制の整備を行う。(「社会保障制度の基盤に関する政策」参照)
⑤住宅確保要配慮者などに良好な居住環境を備えた特定優良賃貸住宅を供給するため、家賃減額などの支援を強化する。
⑥公的賃貸住宅への入居資格を持つすべての対象者が入居できるよう、入居者の公平性・効率性を担保した制度の見直しを行う。また、地方自治体は、条例における「連帯保証人規定」を削除し、入居者が保証人を立てられない場合には保証人を免除する。
⑦生活困窮者が抱える家賃負担や連帯保証人等の住まいをめぐる課題の解消に向けて、住居確保給付金の支給期間の延長や一時金の支払い、機関保証の活用を行う。(「社会保障制度の基盤に関する政策」参照)
⑧公的賃貸住宅の計画的な建て替え、設備充実、ユニバーサルデザイン化、防犯対策などに対して、経費補助により事業期間を短縮する。
⑨民間賃貸住宅に住宅確保要配慮者などが入居している場合には、一定の要件のもと賃貸住宅の所有者に経費補助を行う。。
⑩誰もが安全・安心・快適に暮らせるよう、民間賃貸住宅の改修・建て替えを行う際には、一定の要件のもと賃貸住宅の所有者に経費補助を行う。。
⑪年間所得が1,500万円以下の個人が賃貸住宅に居住している場合は、支払い家賃額20%(上限は24万円)を各年分の所得税額から控除する「家賃比例税額控除制度」を創設する。(「税制改革」参照)
4.安全で良質な住宅・設備を適正価格で取得・改修できる住宅政策を推進するとともに、空き家対策を強化する。
- (1)国・地方自治体は、適正な価格で新築住宅を取得できるよう、税制の優遇や費用の補助を行う。
①新築住宅にかかる固定資産税の軽減期間を10年に延長する。また、居住用財産の譲渡損失の繰越控除期間を5年に延長する。(「税制改革」参照)
②長期優良住宅の税制優遇の拡充、超長期住宅ローンの開発などの環境整備を推進する。
③失業や収入の減少、病気などによって、住宅ローンの返済が困難になった者に対する、元金返済の猶予や返済期間の延長などの救済制度を設ける。
- (2)国・地方自治体は、適正な価格で既存住宅を取得できるよう、税制の優遇や費用の補助を行う。
①太陽光発電、高効率給湯器や燃料電池など、初期投資額の大きいリフォーム費用の補助、固定資産税の軽減などを行う。
②耐震性・省エネルギー性能・バリアフリー性能等を向上させるリフォームの促進とともに、省エネルギー性能を一層向上しつつ、長寿命でライフサイクルCO2排出量が少ない長期優良住宅ストックや ZEHストックを拡充する。
③リフォームが住宅の資産価値を高め、市場で適正に評価される仕組みづくりを推進する。また、既存住宅の住宅ローン減税を延長し減税額の上限を引き上げる。
④既存住宅の質や管理状況を反映させた価格査定方法の普及、リフォームにかかる費用を含む既存住宅への融資、既存住宅における固定資産税の軽減を新築住宅と同等にする。
⑤住宅履歴情報の蓄積・活用の普及を促進するとともに既存住宅の売買時における住宅性能表示、瑕疵担保責任、修繕記録、管理情報などに関する情報提供を行う。また、住宅・建築の専門家・専門家団体による相談窓口を整備する。
⑥既存住宅の耐震改修促進税制における所得税の特別控除額や固定資産税の減税額を拡充する。また、耐震性能診断・耐震改修工事を新耐震基準による住宅にも適用する。また、住宅の「直下率」を建築基準法や住宅性能表示制度に規定することを検討する。(「防災・減災に関する政策」参照)
⑦シックハウス対策については、ホルムアルデヒドなどの原因物質以外の代替物質も含めて総量規制を導入する。また、建築資材等に含まれる有害物質に関して、事業者への意識啓発、居住者への情報提供を推進する。
- (3)地方自治体は、増え続ける空き家(共同住宅含む)が火災や自然災害などによって周辺の住宅や住民に危険を及ぼさないよう、「空き家等対策計画」を策定し、実施する。また、住宅セーフティネット法にもとづく居住支援協議会を設置し、登録住宅を増やすため、賃貸住宅の所有者等に対して改正住宅セーフティネット法の内容の周知を徹底する。さらに、地域の実情に応じた賃貸住宅供給促進計画の策定を進める。
①倒壊のおそれのある空き家については、火災や自然災害などによって周辺の住宅や住民に危険を及ぼさないよう、先進的な事例をもとに計画を策定し対策を行う。
②倒壊のおそれのない空き家については、住宅弱者に向けた空き家データベースの構築や改修費の補助などを通じて有効活用をはかる。
交通・運輸政策<背景と考え方>
- (1)「交通政策基本法」が公布・施行され7年が経過した。政府は国会へ、2015年度から毎年度「交通政策白書」を報告し、「交通政策基本計画」に掲げられた施策や数値目標の進捗状況のフォローアップを行ってきた。第2次国土形成計画(2015年~2025年日本の命運を決する10年)にもとづき、「第5次社会資本整備重点計画」と一体的に実行される「第2次交通政策基本計画」の策定を進めていく必要がある。
- (2)訪日外国人旅行客は、2018年に年間3,000万人を突破し、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年には、年間4,000万人を目標としている。加えて2025年には大阪万博、2027年にはリニア中央新幹線の東京~名古屋駅間開業など、社会インフラ・交通網等の整備強化が進んでいる。また、グローバルな移動に対応した移動手段の最適化へ向けた「MaaS(マース)」(注1)の構築、人口減少・少子高齢化や訪日外国人旅行客の増加に適応した地域公共交通網の形成・再編も進められている。
- (3)人口減少・少子高齢化が進んでいる地域では、生活路線の維持・確保へ向けて、地方自治体、交通事業者など地域の関係者が緊密に連携した取組が行われてきた。自然災害が頻発する中、破壊された鉄路、道路、空港、港湾等を維持していくための橋梁やトンネル、車両、安全通信装置等の老朽化対策、耐震化を含めた安全対策やバリアフリー化への対応など、早急に対策を進める必要がある。
- (4)官民ITS構想・ロードマップを踏まえた、次世代ITS(注2)による交通渋滞対策・交通事故ゼロ、環境負荷を低減した自動車(二輪車等を含む)の開発・普及、モーダルシフトによる輸送の効率化などにより、環境への負荷が小さい交通・運輸体系をさらに発展させていく必要がある。
- (5)実用化に向けて開発が急速に進む自動運転化技術については、法整備を含めた社会ルールの構築や環境整備を早急に進める必要がある。
- (6)大規模災害時における迅速な救急救命活動や緊急支援物資の輸送などを支えるため、重要物流道路と代替・補完路において、国による道路啓開・災害復旧の代行制度の拡充等の措置を講ずる改正道路法が成立(2018年3月)した。国際海上コンテナ車(トラック積載時高さ4.1㍍・長さ16.5㍍・重量44㌧)を特車許可なく走行を可能とする重要物流道路制度を契機に、20年ぶりの改定となる広域道路交通計画(策定は1994年。1998年に見直し)をふまえ、緊急輸送ネットワークの整備を検証・推進する必要がある。
- (7)2016年1月の軽井沢スキーバス事故後、貸切バス事業者による事故の撲滅に向けて政府は同年12月、不適格者の排除等により、死亡事故ゼロ、負傷事故10年以内に半減を政策目標・効果とした「改正道路運送法」を施行した。国や「貸切バス事業適正化実施機関」による監査が優先的に行われ、国による事業許可も原則5年おきの審査・更新制となり、問題が多い事業者退出の仕組みが回りはじめている。バス車両も「衝突被害軽減ブレーキ」「ドライバー異常時対応システム」「ドライブレコーダー」装着の順次義務化が進められている。契約上認められる運賃の範囲は、旅行会社と交わす「運送引受書」に記載が義務づけられたが、運賃を抑えたい旅行会社と安くても定期的に仕事が欲しいバス会社の関係から安値競争は続いている。安全対策を含めた品質の底上げに向け、貸切バス事業者安全性評価認定制度(セーフティバス)を取得したバス事業者が選ばれるよう市場環境の整備が必要である。
- (8)自動車運送事業における運転者不足が深刻となっている。運転に必要な免許取得にかかる費用の支援や運転支援システムの導入支援、長距離トラックドライバーの休憩を目的としたトラックステーションの拡充と中間拠点で荷を受け渡す「乗り継ぎ方式」の活用など、荷主と運送事業者の協力による取引環境とトラックドライバーの長時間労働改善に向けたガイドラインにもとづく取り組みを進めることが必要である。また適正な賃金水準、安全を維持するための費用の確保、最低輸送運賃の確立などについて、運賃・料金設定の仕組みに適切に反映し、改正貨物自動車運送事業法(2018年12月8日成立)にもとづき、早期に運転者の労働条件改善を進めなければならない。
- (9)国土交通省は、改正タクシー特別措置法にもとづき供給削減措置を進め、課題や利用者ニーズの多様化に的確に対応するため、タクシー革新プラン2016にもとづく「事前確定運賃」「相乗りタクシー」「変動迎車料金」「定額タクシー運賃」など需要喚起と運行効率化による事業者の生産性向上の検証を行ってきた。他方で「ライドシェア」は、運行管理や車両整備等についての責任主体、安心・安全といった利用者保護やドライバーの労働者保護等の観点で、厳格に対応していくとともに利用者のニーズに応えられるタクシーサービスを進化させていくことが求められる。また、訪日外国人旅行客によるレンタカー利用と事故が増えており、違反した場合の罰則、交通法規や通行規制等の遵守について外国人利用者に対する説明や環境整備が必要である。
- (注1)MaaS ~「Mobility as a Service」の略。自動車や自転車、バス、電車など、全ての交通手段を単なる移動手段としてではなく、一つのサービスとして捉え、シームレスにつなぐ新たな移動の概念。実現には、移動・交通に関する大規模なデータをオープン化し、整備・連携が必要。
- (注2)次世代ITS ~自動走行システムの高度な安全性を確保するため、近接する車両や歩行者等の間で互いに位置・速度情報等をやり取りする高度運転支援システム。
1. 「交通政策基本計画」の着実な実行により、持続可能な社会基盤としての交通・運輸体系を確立する。
- (1)国・地方自治体は、「交通政策基本計画」を着実に実行し、わが国が直面する経済・社会の変化に的確に対応するとともに、国民生活や経済活動を支える社会基盤として、持続可能で強い交通・運輸体系を構築する。交通・運輸を担う人材の計画的な確保に向けて、資格・免許などの技術・技能の習得などの人材育成や同産業への就業を支援する。
①国は、交通政策基本計画の趣旨に沿った、地方自治体における計画策定を誘導・指導する。
②国・地方自治体は、交通政策基本計画の進捗状況を「見える化」しつつ、目標の達成に向けた施策のフォローアップを行うとともに、法制上・財政上の支援措置を講ずる。
③国は、地方自治体に交通政策を担当する専任者を配置するなど、人材を育成・確保する。
④国・地方自治体は、交通政策基本計画と整合のとれた自転車活用推進計画を定め、交通安全対策や歩道・自転車道・車道の分離、公共交通機関と連携した災害時における交通機能の維持、国民の健康増進などをはかる。
⑤地方自治体は、条例による荷捌き駐車施設の設置の義務化、駐車場法の特例制度として規定された荷捌き駐車施設の集約化、住宅街における駐車規制の見直しなど、地域実情にあわせて物流を考慮したまちづくりを推進する。
- (2)国・地方自治体は、「地域公共交通活性化・再生法の改正」などに基づき、「地域が自らデザインする地域の交通」「持続可能性のある地域の移動手段となるサービスの提供の確保」へ法定計画を見直していく。
①国は、交通機関の経営効率や地方自治体の財政負担軽減に係るKPIを設定した計画に基づく事業を支援し、その実現に向けては、地方自治体における組織体制充実のための安定的な財源と人財の育成・定着を確保する。
②地方自治体は、「法定協議会」「地域公共交通会議」「運営協議会」などで、地域住民に必要不可欠な交通路線の存続や廃止・代替を検討するにあたっては、交通・運輸産業に従事する労働者代表の意見を反映する。また会議運営にあたっては、納得・合意にもとづく協議を実施する。
③地方自治体は、新たな路線等の入札にあたって、「安全運行の担保」を明確に位置づけ、国土交通省が示した入札のガイドラインである「地域住民の生活交通を確保するための輸送サービスの運行主体の選定」および「貸切バスにおける新運賃・料金制度」を遵守するよう行政指導を行う。
- (3)国・地方自治体は、交通のシビル・ミニマム(生活基盤最低保障基準)維持の観点から、子どもの通学や高齢者の通院など、市民生活に必要不可欠な地域公共交通に対する助成を行い、路線・航路を維持・確保する。特に山間部・離島などに関しては、地域振興と一体となった維持対策を行い、自動運転技術等の先進技術の活用も観点として加え、実証実験などを積極的に展開し、早期の実用化を目指す。また国は、人的・財政的基盤が脆弱な地方自治体への専門人材派遣などの人的支援、財政支援を積極的に行う。
①生活交通の存続が困難な地域は、地方自治体が地域公共交通確保維持改善事業の拡充と事業計画策定の簡略化により、地域のニーズを踏まえた最適な代替交通手段を確保する。日常的な生活物資輸送など、離島の住民生活に不可欠な海上航路については、国が補助制度を充実させ、代替船の建造への支援を行う。
②複数市町村にまたがるような広域的・幹線的な生活交通路線については、国・地方自治体が地域の生活を支える観点から積極的に支援・補助するとともに、採算を向上させる対策を講じる。
③国は、高齢・障がい者の食料品アクセス問題(注3)の解決に向けて、関係府省間で連携し、施策を一体的に推進する。また地方自治体・商工会などで構成する協議会を設置し、情報通信技術を駆使した交流などを通じて「買い物弱者問題」に取り組む先進事例を共有する。また、宅配ネットワーク維持のための「小さな拠点」形成などの施策や貨客混載など、持続可能な買い物環境の改善に向けた仕組みが検討・創出されるよう地方自治体への支援を行い、地域の自立的な取組を促進する。
- (注3)食料品アクセス問題~高齢化や単身世帯の増加、地元小売業の廃業、既存商店街の衰退等により、過疎地域のみならず都市部においても、高齢者等を中心に食料品の購入や飲食に不便や苦労を感じる方(いわゆる「買い物難民」「買い物弱者」「買い物困難者」)が増えてきた。食料品へのアクセスは、商店街や地域交通、介護・福祉など様々な分野が関係する問題で、これまで国の関係府省、地方公共団体の関係部局が横断的に連携し、民間企業やNPO、地域住民などの多様な関係者と連携・協力しながら継続的に取り組まれてきた。
2. 先端技術を活用し、環境負荷が小さく、すべての利用者が利用しやすい交通・運輸体系づくりを促進する。
- (1)国・地方自治体は、地域公共交通を有効活用した交通体系を整備する。
①国・地方自治体は、鉄道の複線化・複々線化・相互乗り入れなど、混雑緩和対策・輸送力増強施策とともに、その助成を拡充する。また、市街地における路面電車(LRT)については、地域住民の合意形成をはかったうえで整備する。
②国・地方自治体は、車や二輪車・自転車とバスや鉄軌道などの公共交通機関との接続、駐車場・駐輪場の整備といった具体的な計画にもとづき、パーク・アンド・ライドを推進する。
- (2)国・地方自治体は、環境対応車(二輪車等を含む)の開発・普及、交通渋滞の解消をする道路システムなど、先端技術を活用し、環境負荷が小さい、自動運転や安全対策、環境に配慮などの技術開発・普及による交通・運輸体系を構築する。
①国は、国連自動車基準調和世界フォーラムの自動車安全・環境基準の国際調和と認証の相互承認をふまえ、自動運転化の実用化に向けた法整備、保険などの検討、自動運転に関するセキュリティガイドラインと高速道路での自動運転を可能とする自動操舵に必要な技術基準の整備、安全技術の促進に向けた支援制度を進める。
②国は、環境対応車(二輪車等を含む)の開発・普及のための各種優遇措置を拡充するとともに、充電設備や水素ステーション等インフラ整備に対する支援策を推進する。また、公用車を環境対応車に代替する。
③国は、ビックデータの活用、VICS(道路交通情報通信システム)の普及、新交通管理システムの整備を行うとともに、次世代ITSの導入を推進し、交通渋滞や交通事故を減少させる。
④国・地方自治体は、交通・物流を効率化するため費用対効果を検証した上で、交差点の立体化、道路の拡幅、環状道路・バイパス道路・物流拠点の適正配置などを実施する。
⑤地方自治体は、駐車場・タクシー乗場の他、主要駅での路線バス乗降場および貸切バスの駐車場の整備など、停まる安全を推進する。
- (3)国・地方自治体は、2020年度以降の「第7次総合物流施策大綱」の策定にあたって、自動車・鉄軌道・航空・海運などの各物流機関を最適に組み合わせ、安全かつ確実で、環境負荷の小さい物流体系の整備を推進する。
①国は、物流の国際展開において、現地企業との親和性、多国間との連携をはかるための標準化の視点から、国際的に通用する戦略とビジネスモデルおよびシステム構築、社内体制の整備を促進し、民族性、言語、商習慣、インフラ整備の状況、現地特有ネットワーク、異なる規制や法制度、会計・税務への対応など、課題克服へ向けた支援を進める。
②国・地方自治体は、長距離貨物輸送におけるモーダルシフトを推進する。
a)港湾での鉄道施設の整備、貨物鉄道と海上大型コンテナ輸送を結合する。
b)大都市間貨物鉄道経路・時間の確保、コンテナヤードの増強、貨物駅を改良する。
c)港湾と道路の一体的整備、複合一貫輸送に対応した内貿ターミナルの整備、環境負荷の小さい船舶の普及を促進する。
③国・地方自治体は、都市内・地域内物流の効率化のため、共同配送拠点を整備する。
④国・地方自治体は、物流情報提供設備を整備し、道路交通等の各種情報を提供する。
⑤国・地方自治体は、物流事業者における、ゼロエミッション自動車の普及を促進する。
- (4)国・地方自治体は、ユニバーサルデザインにもとづき、すべての利用者が円滑に移動・乗換えできる、交通機関・交通施設の整備を促進する。
①国・地方自治体は、旅客施設について、ユニバーサルデザインの推進、ホームドアの設置とベビーカーの利用環境改善、幅の広い歩道整備、歩道の段差・傾斜・勾配の改善、無電柱化、バリアフリー対応型信号機、見やすく分かりやすい道路標識・道路標示などの整備、視覚障がい者用ブロックの整備、誰でも使えるトイレの設置などによる、すべての人が利用しやすい施設整備を推進する。また国は、地方自治体が施工するエレベーターの設置、人工地盤や通路の新設など大規模工事に対する人的・財政的支援を行う。
②国・地方自治体は、旅客車両について、バリアフリー車両の導入を促進し、高齢者・障がい者などにやさしい交通事業を組み合わせて、地域の実態にあった効果的な交通環境整備を支援する。
③地方自治体は、高齢者・障がい者およびその介護者に対する福祉目的の運賃・料金割引を拡充するとともに、利用しやすい料金体系やダイヤを整備できるよう、地域の公共事業者と病院やスーパーなどとの業務提携を支援する。
④国は、「健康・医療・福祉のまちづくりの推進ガイドライン」にもとづく、公共交通の利用環境の向上、まち歩きを促す歩行空間の整備などへの支援を行うとともに、「心のバリアフリー」啓発活動、多言語対応、無料公衆無線LAN環境提供や多言語表記案内の改善、観光地における公衆トイレの整備など、ユニバーサルデザインにもとづくまちづくりを関係機関と調整し進める。
- (5)国・地方自治体は、事故を未然に防ぎつつ機能性を向上させるための道路整備や信号制御の高度化を行い、諸外国における歩きスマートホン操作の禁止・罰則例を参考に地域事情に応じて、歩きスマホについても条例等による規制を検討し、安全で人間優先のみちづくりを推進する。また、障がいの有無、年齢、性別、人種などにかかわらず安全に安心して利用できる道路環境を形成するため、コミュニティゾーン形成事業、あんしん歩行エリア、自転車通行環境整備モデル地区などの各種施策を推進する。
3. 災害に強い交通・運輸体系を構築し、交通・運輸全般の安全強化と輸送の安定確保を両立する。
- (1)国・地方自治体は、東日本大震災や熊本県を中心とする九州地震、西日本集中豪雨災害や北海道胆振東部地震など、想定外の自然災害が多発する現状をふまえ、災害に強い交通・運輸体系を構築する。(「防災・減災政策」参照)
①地方自治体は、災害に強い物流システムの構築に向けて、物流総合効率化法にもとづき広域物資拠点として機能すべき特定流通業務施設(民間物流施設)の選定を進め、非常用電源を完備する。また、自治体等の関係者などから構成される協議会を活性化し、地域事情に応じた支援物資輸送を実現するための広域連携体制を構築する。
②国は、港湾の事業継続計画(港湾BCP)の策定を支援するとともに、民間事業者との連携を進め、「災害救援フェリー」による救急輸送ネットワークを整備する。また、海上輸送については、レーダー等の施設整備、航路標識の耐震・耐波浪補強、航路用電源の自立型電源化(太陽電池化)を支援する。
③国・地方自治体は、発災時に被災地の支援を可及的速やかに実施するため、燃料備蓄を進めるとともに、代替輸送手段を迅速に確保できるよう、平時から輸送モード間の連携を促進する。
④国・地方自治体は、交通運輸インフラの耐震・津波・浸水・土砂災害対策や老朽化対策に対する支援を拡大し公共輸送機関の安全を確保するとともに、ICTを活用した渋滞情報・規制情報の提供などによる道路交通対策を行う。
- (2)国は、自動車運転者の労働時間の短縮など労働環境の改善をはかり、ワーク・ライフ・バランスおよび安全輸送の観点から、自動車運転者の長時間労働の改善および公正競争の確保のために、労働環境や賃金体系が適正なものとなるよう関連諸法の改正を行う。
①国は、自動車運送事業における監査体制の強化、自動車運転者の過労運転防止のための運行管理の高度化などを通じて、安全対策を強化する。
②国は、長時間労働による「精神的・肉体的疲労からの回復」と「交通事故の防止」をはかるため、「休息期間」と違反事業者に対する罰則を法律に規定する。また「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(告示)の最大拘束時間の見直しをはかるとともに、事業者に連続休息期間の確保を義務づける。
③国は、すべての事業用自動車にデジタルタコグラフおよびドライブレコーダーの搭載や、現行車両も含めた衝突被害軽減ブレーキシステムの義務化を進める。また、すべての事業者に定期的な電子監査を義務づけ、関係省庁で摘発に必要な情報を共有化する。
④国は、規制緩和による過当競争や賃金体系における過度な歩合制が低賃金・長時間労働の原因であるため、安全輸送の観点から累進歩合制度の禁止を法律に明記する。また、需給調整規制や運賃規制などにより、不適切な事業者を排除する制度を構築する。
⑤国は、「適切な賃金(報酬)・労働時間を無視した」発注(発注業者・荷主・顧客)を規制するため必要な法整備を行う。また、事業者が「確保すべき適正な人件費」を道路運送法などに規定し、正確な各種統計をもとに毎年規定の適正な人件費を改定する。
⑥国は、事業への参入用件を厳格化するとともに、事業者に対する事業継続の許可について、事業場の労働者の労働・社会保険への加入状況をより厳格に精査する。
- (3)国・地方自治体は、いわゆる「ライドシェア」などの新たな有償旅客運送事業について、既存の公共交通で保障されている利用者の安心・安全が確保されない限り、導入しない。また、空港、港湾、観光地において、訪日外国人旅行客を対象とした違法な白タク・白バス類似行為が目立つことから、道路運送法をはじめとする法令違反として厳正に対処する。
- (4)国は、車内・機内・船内における迷惑行為・危険行為などを規制・抑止するよう、迷惑行為・危険行為・暴力行為に対する乗務員の権限および罰則を強化する。
- (5)国は、飲酒や薬物中毒が原因とされる運転による交通事故を未然に防ぐため、危険運転に対する厳罰化をはかる。また交通事故発生時には、飲酒事実調査を必ず行い、交通事故証明書に結果を記載する。認知症が原因とされる交通事故対策として、より多くの高齢者が高齢者講習等を受けることができるよう環境を整備するとともに、高齢者の身体的かつ経済的負担を考慮した運転免許更新制度の改正および代替移動手段の確保を検討する。
- (6)国・地方自治体は、交通事故・負傷者の減少、交通事故死亡者ゼロをめざす。
①国・地方自治体は、急発進や急ブレーキをしないエコ運転の推進、交通安全教育の充実、運転技術の維持向上、安全な車とまちづくりを促進する。
②国・地方自治体は、高齢運転者による交通事故を防止するため、運転支援システムなど先進技術を搭載した自家用車への買い換え支援や、交通事故分析にもとづく交通安全に関する教育・啓発活動を推進する。
③国・地方自治体は、訪日外国人旅行客による交通事故の防止や事故被害者の利益を守るため、車線規制や速度規制、交通標識などの国内交通ルールや、事故発生時にとるべき行動などについて、運行供用者による外国人自動車運転者への周知を徹底する。
- (7)国は、自動車損害賠償保障制度により、ユーザーから支払われた保険料の一部が国の一般会計に貸し出されている状態を改め、自動車ユーザーによる共助システムについて、制度で定められた被害者救済事業や交通事故予防の研究事業の持続可能性が損なわれることがないように保険料を早期に返還する。
- (8)国は、航空機を利用したハイジャックなどの犯罪対策を強化して、航空法へ航空保安に関する国の責任を明記し、旅客・荷主各々の義務を明確にするなど航空保安体制を整備する。
- (9)国は、民間機優先の空域再編を実施するとともに、国土交通省・防衛省(自衛隊)・在日米軍に分かれている航空管制を国土交通省へ一元化し、航空安全を強化する。
- (10)国は、一元的な海上交通管制のもと、船舶の動静監視および情報提供体制を整えた、海上交通センターの機能向上をはかる。
- (11)国は、海洋汚染被害発生の未然防止・被害軽減をはかるため、日本領海へ立ち入る外国籍船舶に対し、賠償責任保険への加入を義務付けた船舶油濁損害賠償保障法の適切な運用をはかるとともに、海難時の油流出防止対策や外国船の座礁などによる油濁損害の防除費用に対する地方自治体への補助を実施する。
- (12)国は、国内空港における外国航空機による運送(シカゴ条約)、国内港間における外国船舶による旅客・貨物の沿岸輸送(船舶法)を認めないカボタージュ規制について、国内輸送の安全性を担保するため、一元的に制度の維持・運用をはかる。
- (13)国は、混雑が著しい港湾・浅瀬・狭水道における船舶航行の安全対策の強化・通航制限の解消のため、航路整備の推進、航路内漁網の排除、新規埋立事業・大型浮体構造物設置に際しての港湾機能・海上交通との調整、わが国に寄港する外国籍船舶への水先人の乗船・タグボート使用の義務化や責任制限の整備など各種対策を強化するとともに、事業停止・許可取消も含めた罰則強化・責任追及を推進する。
- (14)国は、コンテナ輸送の安全性を確保するため、アメリカ運輸省規則(49CFR)(注4)を参考に、積荷内容(重量、危険・有害物質等)・積付方法などの情報提供を荷主に義務付ける「海上コンテナ安全運送法(仮称)」(注5)を制定する。危険・有害物質輸送に関する国内規制に関して、危険・有害物質表示を国際基準に統一する。航空貨物については、国際民間航空機機関(ICAO)が定める世界航空保安計画(GASeP)にもとづき、新KS/RA制度(注6)を検証・改善する。
- (15)国は、航空・船舶・陸上輸送貨物および郵便への無申告危険品の混入を防止するため、国内法で危険品の荷主責任を明文化するとともに、国の責任で危険品に係わる申告義務を徹底させるとともに、荷主・梱包業者・代理店に対して、危険品を取り扱う責任に関する教育を義務化し、違反者への罰則を強化する。
- (16)国は、海上輸送の安定・安全性確保のため、日本籍船舶と日本人船員の確保、海賊・武装強盗などへの対応強化に向けた国際的な連携・協力など、必要な措置を講じる。
- (注4)アメリカ運輸省規則(49CFR)~the Code of Federal Regulations:アメリカにおける、輸出入の危険品輸送に関する規則。
- (注5)「海上コンテナ安全運送法(仮称)」 ~輸送の責任を明確にし、荷主、船社、港運、運送会社と港湾関係に携わる労働者の安全を守るための新法。
- (注6)新KS/RA制度 ~新known Shipper(特定荷主)/Regulated Agent(特定航空貨物利用運送事業者)制度:国際民間航空機関(ICAO)の国際標準などにもとづき、セキュリティレベルを維持しつつ物流の円滑化を図るため、荷主から航空機搭載まで一貫して航空貨物を保護する制度。
ICT(情報通信)政策<背景と考え方>
- (1)ICT(情報通信)分野においては、新たな技術やイノベーションが次々に生み出され、とりわけIoTやAIをはじめとした第4次産業革命の進展の中では、ICTを取り巻く環境は日々変化し、その重要性は増している。また、多様な情報通信機器の普及などを背景にくらしや産業の中でICTの領域は拡大しており、ICTはグローバル化した社会における社会・経済活動に不可欠な社会基盤となっている。
- (2)日本においては、既に世界的にみても高い水準の情報通信技術やインフラ整備が実現され、今後も、総務省が公表した「2020年代に向けた情報通信政策の在り方-世界最高レベルの情報通信基盤の更なる普及・発展に向けて-」にもとづいた、さらなる情報通信基盤の整備や通信と放送の融合が進められることになる。また、このような情報通信基盤の整備を背景に、あらゆるレベルで、国民生活の利便性向上や社会的課題の解決に向けて、ICT政策の積極的な利活用が検討されている。
- (3)ICTの利活用が進む一方で、サイバー攻撃やICTを利用した犯罪が深刻化している。こうした状況に鑑み、サイバーセキュリティ基本法が制定され、2015年9月、政府は「サイバーセキュリティ戦略」を閣議決定した。この中には、ICT利活用のさらなる促進に向け、国民が安全に利用するための環境整備をはじめ、セキュリティ技術の開発、ICT人材の育成といった重要な施策が盛り込まれている。サイバーセキュリティは国民の安全なくらし、また企業の経済活動を守る重要な観点である。政府が主体となり、セキュリティ体系の構築を早急に進める必要がある。
- (4)また、近年多発する自然災害の経験から、迅速かつ確実に住民に警報等の情報を伝達できる強い情報通信体制を確立することの重要性は高まっている。
- (5)政府は、2018年6月に「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」を閣議決定した。わが国は「Society 5.0」を目指すこととしており、基本計画にも、防災・減災、雇用の創出や健康の増進、公共サービスのワンストップ化など、ICTによって社会的課題の解決をめざす重要な施策が盛り込まれた。また、官民に散在するデータの連携、ビッグデータとしての利活用を目指すとしている。さらに、国際的な議論に供するため、AIをより良い形で社会実装し共有するための基本原則となる「人間中心のAI社会原則」を策定し、教育・リテラシー、プライバシー確保、セキュリティ確保や公正競争確保の原則など、留意すべき基本原則などを定めている。
- (6)誰もが簡易にICTを利活用できる社会を実現するためには、継続的なデジタルデバイド(注1)対策の徹底が必要不可欠である。加えて、国民一人ひとりが日常生活にあふれる情報と適切に向き合い、情報を扱う能力を身につけるための教育も重要である。
- (注1)デジタルデバイド ~パソコンやインターネットなどの情報技術を使いこなせる者と使いこなせない者の間に生じる待遇や貧富、機会の格差。
1.国・地方自治体は、防災・減災分野におけるICTの利活用と効果的な人的体制、地域住民との連携強化を図るとともに、災害に強いICTインフラの整備・構築に向けた支援・対応を強化する。
- (1)国・地方自治体は、災害発生時に情報が迅速かつ確実・正確に伝達されるよう人的体制も含めた整備を行う。
①Lアラート(注2)の普及・拡充とともに、情報発信と伝達の手段の多様化を推進する。また、平時におけるLアラートなどを活用した総合的防災演習の充実をはかる。
②J-Alert(注3)や防災行政無線などを通じた警報等が確実に伝わるよう設置場所や人的体制なども含めた整備を行う。
③防災行政無線および消防救急無線の早期かつ円滑なデジタル方式への移行を進めるとともに、妨害電波への対策を強化する。
④ソーシャルメディア(注4)なども含めた多様な情報通信手段の利用を周知・徹底するとともに、障がい者や外国人などに対しても確実に情報が伝わるよう施策を講じる。
⑤官民が保有するG空間情報(注5)を活用した「総合防災情報システム」の整備・運用を早急に進めるとともに、都道府県等における当該システム導入促進に向けた必要な財政や人的支援を積極的に行う。
⑥国・地方自治体は、災害発生時においても住民サービスや医療が提供されるよう情報資産を保護する取り組みを推進する。また、事業者に対してもバックアップ体制の構築などを指導する。
⑦国や関連機関が保有する防災関連データを統合し、ビッグデータ解析やAI等による災害予測や、災害対応に活用する防災情報サービスプラットフォームを早期に開発する。
- (2)国・地方自治体は、大規模災害発生後における情報通信手段の確保や情報提供のあり方など、情報の発信や収集に関わる総合的な取り組みを推進する。
①大規模災害時における臨時災害放送局(ミニFM放送局等)の設置・開設にかかる行政手続きの迅速化・簡素化を制度化する。
②政府や地方自治体は、災害時における非常用移動基地局、非常用電源設備の移送、燃料の確保など、情報通信事業者が確実に事業を遂行できるよう必要な支援や対策を行う。
③政府は、停電時においても情報通信手段が確保されるよう非常用蓄電池の普及・開発に対する支援や非常用発電機の燃料備蓄などの取り組みを進める。
④公共施設や避難所等に衛星携帯電話などの非常用通信手段を配備する。
⑤国・地方自治体は、被災地で必要となる情報の発信について一元的な管理を行うとともに、被災者からの行政等に関する問い合わせについてもワンストップでの対応が可能となるよう取り組みを推進する。また、地域ごとにきめ細やかな情報提供が行われるよう、通信と放送の融合などICTの活用や情報通信事業者をはじめとする民間事業者との連携を強化する。
⑥国は、昨今の大規模災害の発生状況を踏まえ、災害に強い次世代ネットワークを構築する観点から、主要情報通信設備の分散化や伝送路の冗長化(障害時の代替用の設備の用意など)、IoT・ビッグデータ・AIの活用による輻輳等の回避など、情報通信事業者と連携し対応を強化する。
- (注2)Lアラート ~地方自治体、ライフライン関連事業者など公的な情報を発信する「情報発信者」と、放送事業者、新聞社、通信事業者などその情報を住民に伝える「情報伝達者」とが、住民に必要な安心・安全に関わる公的情報などを迅速かつ正確に伝えることを目的に利用する情報基盤。住民は、全国の情報発信者が発信した情報をテレビ、ラジオ、携帯電話、ポータルサイト等の様々なメディアを通じて入手することができる。
- (注3)J-Alert ~弾道ミサイル情報、津波情報、緊急地震速報など、対処に時間的余裕のない事態が発生した際に、国から住民に緊急情報を瞬時に伝達するシステム。
- (注4)ソーシャルメディア ~ライン(LINE)、ツイッター、フェイスブック、ブログ、電子掲示板やホームページほか、ネットを利用して誰でも手軽に情報の発信や相互のやりとりができる双方向メディア。
- (注5)G空間情報 ~位置や場所に関連づけられている情報。官民が保有するG空間関連データを組み合わせて利活用することで、災害時の効率的な情報収集および伝達ならびに救助・援助が可能になる。
2.政府は、利用者の権利の担保と情報セキュリティの向上をはかるとともに、自由かつ公正な利用環境の整備および必要な法整備を図る。
- (1)ICT行政の推進にあたっては、省庁横断的な取り組みをより一層推進する体制を確立するとともに、施策立案と実現を行う。
- (2)政府は、セキュリティ対策を含めたインフラの整備を進める。
①政府は、ブロードバンドネットワークへの移行期における急速な技術革新の進展の中で、固定電話等の利用者に不安と利便性の低下が生じないよう万全の配慮を行う。
②電波需給の逼迫状況緩和に向けて、電波の効率的な利用やデータ圧縮などの研究開発を推進する。なお、ホワイトスペース(注6)の利活用については、公共空間としての前提のもと、地域密着型のエリアワンセグ放送や防災・減災放送などを推進する。
③電波利用料制度の見直しに際しては、利用者負担の増加や利便性の低下など国民への影響が出ないよう慎重に対応する。
④5G(注7)など新たな通信技術の利活用に向けた環境整備を図るなど、あらゆる産業と社会インフラの健全な発展に資する取り組みを進める。
⑤技術革新の進展を踏まえ、ICT人材やセキュリティ人材の育成・確保に向け、教育分野におけるICT利活用やICTモラル・リテラシー教育を推進する。また、高等教育・大学における実践的教育の支援や新たな技術習得等に向けた労働者の学び直し支援、教育機関と企業が連携できる仕組みの構築、人材交流の場を設けるなど、産官学連携による施策を推進する。
⑥プラットフォーマーをはじめとする企業が収集する多種・多様で膨大な情報の扱いやサイバー攻撃、著作権侵害など、インターネット上に顕在化している課題に対し、産官学が連携して対策を講じるとともに、早期の情報共有や、喫緊の課題である人材育成や技術開発、セキュリティ設備投資に関する施策を強化する。あわせて、国際的な対策やルールづくりを行う。
⑦国際的な技術革新競争に際し、良質なデータの獲得およびアルゴリズム(情報処理手順)構築に向けた国家的戦略を策定するとともに、個人情報や国家間の越境データの取り扱いに関する国際的規則を策定する。
⑧国・地方自治体・企業は、ビッグデータをはじめとする個人情報の流出や不正利用防止に向けて情報資源の適正な管理を行う。また、政府は、個人情報保護委員会の適正な運営を通じて、マイナンバーをはじめとする個人情報の厳格な保護を徹底するとともに、データの適切な利活用に向けて、不正競争防止法の周知・遵守を徹底する。
⑨テレワークの進展を踏まえ、就業時の情報セキュリティ向上、とりわけ管理分門が遠隔においても監査、監督業務が行うことができる環境整備を推進する。
- (3)国・地方自治体は、デジタルデバイド対策を徹底する。
①デジタルデバイドの解消に向け、ICT基盤(情報インフラ)がすべての地域・国民に保障されるよう、行政等が助成する仕組みを充実するなど、国、地方自治体、情報通信業者が連携し整備を進める。
②公共施設などで情報通信サービスを無料または安価に利用できる仕組みを構築する。
③高齢者や障がい者、外国人など誰でも分け隔てなく安易に情報通信を利用できるユニバーサルデザイン機器の開発支援を行う。
- (注6)ホワイトスペース ~隣り合う周波数帯の混信を防ぐために設けられていた空白の領域。デジタル方式での通信技術の進歩により、混信の懸念が少なくなったため有効活用が検討されている
- (注7)5G ~第5世代(5th Generation)無線移動通信技術の略称。通信速度は現行方式の4GやLTEより速い10Gbps以上で、1000倍もの大容量データの送受信が可能となる。
3.国・地方自治体は、ICTの利活用を促進し、生活者の利便性や生活の質の向上に資するICT政策を実施する。
- (1)国民が安心して行政情報に容易にアクセスできる「電子政府」を構築し、国民生活の利便性向上と経済の活性化につなげる。特に、マイナンバーの運用にあたっては、個人情報保護やセキュリティ対策に万全を期す。なお、マイナンバー法において、個人情報保護法等の特例として認められた任意代理人による特定個人情報の開示請求については、厳格な本人確認制度の構築、委任者への通知・確認、委任者と代理人との間で利益相反が認められる場合の開示請求制限などの個人情報保護策を地方自治体の条例等において徹底する。(「税制改革」、「行政・司法制度改革」参照)
- (2)ICTの利活用による社会的課題の解決や産業競争力向上等に向け、基礎研究等を一層推進するとともに、その成果の社会実装を促進する観点から、民間企業等における研究開発や設備投資に対する支援を行う。
- (3)ICTの利活用における安心・安全の確保に向け、消費者被害の防止や消費者の自立、および社会における多様な価値観を理解する観点から、すべての世代がICTモラル・リテラシー教育を受けられる機会を整備するとともに、教育機関における情報通信機器の導入を促す。
- (4)政府は、障がいや家庭での育児・介護などの要因で就労が困難な人をテレワークの普及・促進で支援する。テレワークの普及・促進にあたっては、適切な労務管理が行われるよう「在宅勤務ガイドライン」の周知・徹底や労働者保護ルールの明確化などをはかる。(「雇用・労働政策」参照)
- (5)医療安全の確保を前提とする遠隔医療(診断等)、用語・コードの標準化、電子カルテの普及促進など医療分野におけるICTを活用するための法令等を整備する。(「医療政策」参照)
- (6)国・地方自治体は、今後のまちづくりやインフラの整備・維持にあたっては、ICTを活用し、生活者の利便性や経済効率、エネルギー効率が高い、安心でくらしやすい社会の構築を推進する。
- (7)国・地方自治体は、スマートグリッドやHEMS/BEMSの開発・導入を支援するなど温室効果ガス削減に向けた取り組みを推進する。(「資源・エネルギー政策」、「国土・住宅政策」、「環境政策」参照)
環境政策<背景と考え方>
- (1)気候変動対策をめぐって、政府は「環境と成長の好循環」を掲げ、2050年までに、2013年排出量の80%削減という高い目標である「カーボンニュートラル(温室効果ガス排出・吸収量の差し引きゼロ)」をめざすことを表明し、今後「脱炭素」に向けて各種施策を展開していく。その一環として、政府は地球温暖化対策計画の見直しをはじめとして、イノベーションの促進と社会実装を重点的に進めていくこととしている。
- (2)気候変動対策においては、イノベーションに対する投資の活発化や新産業・雇用の創出は、経済成長のためにも促進されるべきものである。一方で、同時に「低効率の石炭火力発電所の休廃止」の表明がなされ、これにより労働者やその家族、さらには地域経済に負の影響が及ぶことが懸念される。エネルギー移行期には、「パリ協定」において掲げられる「責任ある対策」のひとつである「公正な移行(Just Transition)」を具現化するとともに「失業なき労働移動」が実現されなければならない。そのためにも、まずは国、地方、産業の各レベルにおいて、労働者を含む関係当事者との社会対話が積極的に行われなければならない。
- (3)新型コロナウイルスの感染拡大によって表面化した経済・社会の脆弱性の克服(いわゆる「ウィズ/アフターコロナ」社会への移行)を、「グリーンリカバリー」によって脱炭素・循環型社会の構築とあわせて世界的に推進させることが、国連においても取り組み課題とされている。連合は、この過程の中でSDGsの考え方が具現化され、「持続可能性」と「包摂」を基底におく、「働くことを軸とする安心社会」が実現されるよう取り組みを進める。
- (4)「水循環基本法」では、「国民共有の貴重な財産」である地表水及び地下水について、省庁横断的に水に関する施策を省庁横断的に実施し、水循環を流域で総合的に管理することを求めている。そのため、同法に基づいて策定された「水循環基本計画」に掲げられた各施策の進捗の検証の中で、関連する個別法の改正や新たな法律の制定の検討が必要となる。
- (5)社会全体の資源効率性を高めつつ、廃棄物・リサイクル産業を健全に育成し、わが国に適した循環型社会を構築する必要がある。そのため、廃棄物の適正な処理をすすめるとともに、プラスチックの海洋流出による環境汚染への対応、海外における廃棄物不適正処理による環境汚染防止に向けた、国際ルールの整備と国内におけるさらなる対策強化や、途上国に対する技術支援等を推進することが求められている。
- (6)現代社会は、数多くの化学物質により支えられているが、その危険性・有害性評価に関する情報は不足しており、情報収集とリスク評価・リスク管理をさらに進める必要がある。また、幅広いリスク・コミュニケーションとともに、低濃度長期ばく露、複合ばく露、ナノ物質などの課題に対する取り組みも重要である。
1.気候変動対策を積極的に推進するとともに、わが国の「カーボンニュートラル」の実現に向けては、「公正な移行」を具現化する。
- (1)「脱炭素」社会の構築に向けて、国・地方自治体は、SDGsの理念にもとづく「グリーンリカバリー」を次の取り組みによって進める。
①新たな技術開発と社会実装、経済・社会状況などの不確実性を踏まえて複数のシナリオやオプションを示すなど予見可能性の向上に努め、丁寧な国民的議論を通じた合意形成をはかる。
②「公正な移行」の観点から、失業や、労働移動による労働条件の低下などの雇用への悪影響が生じうる産業・地域をあらかじめ特定し、その影響度を測定するなどの分析をすすめる。
③同時に、地域における雇用吸収力のある「グリーンな産業」の育成、労働者の教育・訓練、社会保険や住宅などの社会的セーフティネットの強化等、必要な対策を一体的に講じる。
- (2)国は、「自国が決定する貢献」(NDC)の検討と実施に際しては、労働者も含む関係当事者との社会対話を通じて理解と協力を求める。
- (3)国は、国連・持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)の目標達成と「パリ協定」の実施において主導的役割を発揮するとともに、民間企業が中長期にわたり低炭素事業に安心して投資できるような環境整備を行う。
- (4)国は、新興国・途上国の持続的な発展と同時に、温室効果ガスの削減・抑制を促進するため、知的財産権などに留意しつつ「パリ協定」で正式に位置づけられた二国間クレジット制度(JCM)を充実させるとともに、JCMを活用したわが国の削減努力を国際的に発信する。また、ダブルカウント回避に関するガイダンス作成に積極的に関与するとともに、温室効果ガス排出量の測定・報告及び検証(Measurement, Reporting and Verification:MRV)については「技術に基づくボトムアップアプローチ」の観点から、ISOによる規格の動向も勘案しつつ、官民連携によるセクターイニシアチブで対応する。
- (5)国・地方自治体は、中期的な排出削減の達成手段として、カーボンプライシングのうち国内の産業・雇用、温暖化対策に不可欠な革新的技術の開発・普及に深刻な影響をおよぼすような排出量取引制度は導入しない。その上で、長期的な排出削減に向けた議論にあたっても、産業・雇用に対する負の影響を踏まえた上で、安易に導入することなく慎重に検討する。
- (6)国は、SDGs推進円卓会議や環境省のステークホルダーミーティングだけでなく、「環境」の個別分野に関し、地域においても十分な社会対話を行う。
- (7)国は、グリーン経済への転換に向け、各国と連携・協調しつつ、世界全体としての持続可能な開発に取り組む。また、「パリ協定」の前文に明記された「公正な移行」が締約国各国において円滑に実施できるよう支援するとともに、その実施にあたり必要となる社会対話を促進する。
- (8)国は、 WTO(世界貿易機関)協定やFTA(自由貿易協定)/EPA(経済連携協定)などの国際協定において「環境条項」を規定し、履行のためのモニタリングの実施を加盟・締結各国に要請する。
- (9)国は、酸性雨やPM2.5、光学オキシダントの低減に向け、近隣諸国などからの越境汚染に対し外交的・技術的対策を講じるとともに、国内においても、これまで以上にNOX(窒素酸化物)およびVOC(揮発性有機化合物)の削減を進める。また、対流圏オゾン汚染の実態把握と、その健康影響、農作物・植物影響を明らかにする。
2.脱炭素社会や循環型社会の実現に向けて、イノベーションの社会実装を進める。
- (1)国・地方自治体は、温室効果ガス排出削減に向けた各種施策の実施にあたり、国のエネルギーミックスを踏まえつつ、環境・エネルギー技術を深化・発展させる。
- (2)国は、温室効果ガスの削減や新技術の実用化にともなう国民負担や雇用、経済・産業活動に与える影響など、プラス面、マイナス面の正確な情報を統一見解として開示し、働く者も含めた広範かつ丁寧な国民的議論を通じた合意形成をはかる。
- (3)地方自治体は、2050年の長期目標策定・見直しには、地域の雇用・経済、人口動態などを含め、広範かつ丁寧な議論を通じ合意形成をはかる。
- (4)国は、再生可能エネルギーの普及に向けて、地熱など計画から設置までのリードタイムが長く事業予見性の低い電源も含め、導入のための支援を行う。 (「資源エネルギー政策」2.(2)① a)参照)
- (5)国・地方自治体は、改正ISO14001シリーズやエコアクション21などの環境関連規格の取得を促進するとともに、事業場への規格導入・更新に対するインセンティブを強化する。また、システムの運営と監査を進めつつ、環境パフォーマンスの向上を推進する。
- (6)国は、企業の統合報告書を充実させ、その信頼性の向上をはかる観点から、ESGなどの非財務情報を会計監査の対象としつつ、開示すべき最低限の内容を規定する「統合報告書作成基準」を作成する。
- (7)国・地方自治体は、イノベーションへの対応など企業の環境対策を促進するため、以下の環境対策に関連した技術・事業・産業の育成・支援を強化する。また、公正な移行の観点から、新たな技術の実用化にあたっては、その結果生じる労働移動や労働条件の変化、必要となる職業訓練などについて、政労使の社会対話を通じて対策を策定するとともに、資源効率性の観点から安全で効率的な再生・廃棄の技術を同時に確立する。
①イノベーションの基礎となる技術開発を進めるための基盤整備・人材育成を強化するとともに、実用化に向けた開発の加速化、社会における実証・導入および需要の創出に対する助成・優遇を推進する。その際には、政府窓口のワンストップ化とともに、利用しやすい制度設計と情報の一元化をはかる。
②低燃費・低排出ガス車および次世代自動車などの環境対応車への総合的な普及促進対策を講じるとともに、次世代自動車に関するインフラ整備を戦略的に推進する。
③諸外国の化学物質規制や内燃機関自動車の禁止措置など、中長期的を見据えた規制・課税やマーケットの動向、自然資本投資や環境効率性指標の動向を把握し、今後の技術開発計画に適切に反映させる。
④中長期を見据えた革新的環境技術の実証・導入段階までの開発プロジェクトは、新たに発生する知的財産権の帰属あり方やプロジェクトに参加する企業・大学の既存の技術の持ち込み規定などを検討したうえで、産官学共同で進める。
⑤CO2回収・輸送・貯蔵・利用(CCS/CCU)(注1)の技術開発については、国内外の制度的、環境的要因を勘案しつつ、早期の低コスト・低エネルギー化の実現とともに、大規模かつ効率的な処理を可能とする技術を確立する。
⑥持続可能なバイオ燃料の開発にあたっては、SDGsの目標を踏まえ、生物多様性への影響を最小限にとどめるとともに、非食用植物または非可食素材(家畜の飼料含む)であることを前提とし、安価で安定的な供給体制を構築する。
⑦水素エネルギーの広範な活用と導入拡大に向け、実用レベルの技術開発をさらに加速するとともに、水素の製造・貯蔵、輸送・活用の研究を進め、国際規格化を目指す。
⑧次世代電池の開発や、既存の電池技術の深化にあたっては、耐久性、安全性、経済性を確保しつつ、国を挙げた異分野融合の研究体制を構築する。
⑨効率的・体系的な道路整備と交通管制の高度化をはじめとする交通流対策を推進する。
⑩スマート・グリッド(賢い電力網)を早期に実現するため、スマートメーターなどのイニシャルコストへの補助・助成をさらに強化しつつ、HEMS・BEMSのメリットを広報し、その導入をさらに支援する。また、技術的課題の解決に向けた研究開発を推進する。(「資源・エネルギー政策」参照)
⑪送電ロスをこれまで以上に低減させる観点から、電線や変圧器を従来に比べロスの少ないものに交換することや高電圧化を実施する際に支援を行う。
⑫アスベスト被害の教訓をふまえつつ、安価で加工性、耐久性、安全性、リサイクル性に優れた軽量の耐火・断熱素材を開発する。
⑬小水力発電技術のイニシャルコスト低減と山間地における導入を促進する。
⑭代替フロンの段階的削減に対応する観点から、安全かつ安価なノンフロン冷媒および対応機材の開発・普及を推進するとともに、その導入支援策を強化する。
⑮廃棄物の安価な自動分別システムの開発・実用化や、資源の再利用を促進するリサイクル技術を開発する。
⑯複数のストレス・ホルモンの役割やその細胞間の伝達に関して包括的な研究を推進し、量産が可能で副作用が軽く、乾燥地や高塩濃度などの悪条件下に適応できるストレス耐性能を備えた植物を開発する。
- (8)国は、企業がESG投資に対応できるよう、サプライチェーン全体を俯瞰できる非財務情報の公開・発信をさらに促進するとともに、海外の金融機関などによるダイベストメント活動やエンゲージメント活動に関する情報などを収集・発信する。
- (9)国・地方自治体は、CO2に関する森林吸収源対策を強化するため、放置されている私有林の公的な管理をすすめるとともに、A材~D材のバランスのとれた国産木材の利用促進に向けた支援・補助を行う。また、森林整備にあたっては施業の集約化や路網の整備と機械化、木材市場や加工工場の集約、林業人材の確保育成など、川上から川下まで一貫した対策を支援することで生産性の向上図り、事業として成立する環境をつくる。
- (10)国・地方自治体は、太陽光発電事業に関して、生態系への配慮や不適切な森林開発等に起因する土砂流出や濁水の防止等に向けて、環境影響評価法の対象とし、副次的影響を精査する。 (「資源エネルギー政策」 2.(2)② f)より再掲 )
- (11)国・地方自治体は、需用者側のニーズやライフスタイルに対応したエネルギー供給を実施することを前提に、木質バイオマスの利用を促進し、CO2削減や山村の経済活性化をはかる。また、木質ボイラーなどの熱利用機器の導入にさらなる助成措置を行う。
- (12)国・地方自治体は、ヒートアイランド対策として、緑化地域の確保・保存など、地域の温暖化防止と環境保全の対策を推進する。
- (13)国・地方自治体は、環境に配慮した製品・サービスの付加価値を積極的に広報し、環境保護を意識した消費行動(日常での省エネや機器の買い替えといった低炭素行動)を促すとともに、消費者のニーズを勘案した「環境に配慮した製品・サービスの市場」の形成・拡大を支援する。
- (注1)CCS/CCU ~炭素回収貯留/炭素回収利用
3.(作業中の項目)
(作業中)
4.国内の各部門(産業、運輸、業務、家庭、その他)の省エネなど気候変動対策の取り組みを促進させ、国は地域においても展開されるよう支援する。
- (1)地方自治体は、「地域気候変動地域適応計画」を策定・改定するプロセスに、労使や研究者、NGOなどの参加を保障し、その意見を反映させる。また、予算上の制限から、予防措置の重点投資を検討する際には、ステークホルダーとの十分な議論のうえ、合意を得る。
- (2)地方自治体は、「地球温暖化対策推進法(温対法)」にもとづく実行計画の策定やレビューと見直し、さらに「地域気候変動適応計画」の策定と実施にあたっては、労働者を含む関係当事者の意見を聴取する。
①地方自治体は、「適応計画」に以下の内容を盛り込む。
a)地域の社会構造に関わる大規模な適応策の策定にあたっての、対象地域の住民・企業、労働者の理解と合意
b)住民の果たす役割の具体的な明記とその周知・広報
c)企業・団体による「適応計画」および「事業継続計画(BCP)」の策定・改定にあたっての必要な情報提供と技術的支援
d)気候変動の影響による地域の産業の廃業や移転に対応するための新たな雇用機会の創出や職業訓練等、「グリーン」で「ディーセント」な雇用の実現に関する対策
②国は、地方自治体における「適応計画」の策定を後押しし、地方において計画を実施するための財政と人材が確保されるよう支援する。
5.水資源の持続可能な利活用をはじめ水に係わる安全保障を確立し、国民生活の維持向上と生態系および健全な水循環の保全をはかるため、「水循環基本法」の基本理念・政策 の基本事項・基計画などを実現する。
- (1)国は、「水循環基本法」の理念である、「国民共有の貴重な財産」である水の循環を、省庁横断的に、かつ流域単位で総合的に管理・保全するため、同法に基づき策定された「水循環基本計画」の進捗点検の中で、必要となる個別法の改正や新たな法律の制定を検討する。
- (2)国・地方自治体は、生活雑排水を主因とする河川・湖沼の水質低下を防止するため、地域の実情に応じ、下水道・浄化槽など、生活排水処理施設の整備を推進する。また、節水型社会をめざし、雨水・再生水の利用を推進する。
- (3)国・地方自治体は、水源の確保、気候変動対策における森林吸収源対策の促進などの観点から森林整備・保全管理を強化する。
- (4)国・地方自治体は、水源近隣を含む地下水揚水量の報告を義務化するとともに、長期的な国益の観点から、重要となる水源林(土地)の売買を含め、大量の揚水に関する規制のあり方について検討する。
6.廃棄物対策について、循環型社会形成の観点からの取り組みの強化と、適正な制度設計 を促進する。
- (1)国は、資源効率性を促進する観点から「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)」による「産業廃棄物」と「一般廃棄物」の区分による不都合や、廃棄物と区分されない退蔵品などの扱い、さらに、各種リサイクル法の範疇を超えた課題について検討を行い、必要な改正を行う。
- (2)国・地方自治体は、希少金属を含む機器の再利用・再資源化に向け制定した「使用済小型電子機器等の再資源化の促進に関する法律(小型家電リサイクル法)」の周知・広報を強化し、再利用・再資源化の取り組みを広げる。また、バーゼル条約(有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約)、RoHS指令(有害物質使用制限指令)、WEEE指令(電気電子廃棄物指令)などの関連する規制や、海外での電気・電子機器のリサイクルの動向を継続的に把握し、小型家電リサイクル法の見直しを行う。
- (3)国・地方自治体は、産業廃棄物に関して、排出者責任と原状回復義務を徹底するとともに、循環型社会形成の観点から「拡大生産者責任」を明確にした制度を強化し、電子マニフェストの添付を義務化する。また、北米における「プロダクト・スチュワードシップ」の観点から、消費者の関与の強化と「エシカル消費」に関する周知・啓発を強化する。
- (4)国は、廃棄物の不法投棄に対する監視体制を強化するため、指導権限のある「環境Gメン」制度を全国の地方自治体に創設させるとともに、地方自治体における要員の確保など、制度の運営に必要な財政的支援をおこなう。
- (5)国・地方自治体は、産業廃棄物処分場周辺の環境負荷を低減するため、モニタリング体制と公表制度を強化する。併せて、処理品目区分の細分化、他の処分場や住宅・農地などに対する距離規制、搬入される産業廃棄物に対する総量規制など、産業廃棄物処分場に関する規制を整備・強化する。また、処分場への搬入基準・維持管理基準の遵守を徹底し、不適正処理を未然に防止する。
- (6)国・地方自治体は、産業廃棄物処分場の新設に際し以下の事項に配慮する。
①処分場の設置は、受け入れ地域の住民の合意を前提とする。さらに施設設置事業者と住民との間における「運営協議会」の設置や「環境保全協定」の締結などを義務化し、市民参加による運営を行う。
②処分場の確保は、事業者の責任の所在を明確にしたうえで、地元地方自治体などの関与のもとで進める。
③広域処理・処分を充実させる場合は、処分場設置場所周辺の万全な環境保全対策の実施、関係する都道府県・市区町村の合意と事前の計画策定、情報公開を前提とする。
④既にある処分場については、官民を問わず責任の明確化および環境保全と維持管理を徹底する。また、不法投棄を含む過去の処分状況については、調査と公表を徹底する。
- (7)国・地方自治体は、廃棄物処理場における火災や臭気の発生を防止するため棄物処理法施行令の見直しを検討する。また、廃プラスチック類の再生利用技術の研究に対する支援を行う。
- (8)国・地方自治体は、一般廃棄物の処理に際しては排出者としての地域住民と収集・運搬・処理・処分にあたる各事業主体の責任と役割を明らかにし、以下のように取り組む。
①資源循環型社会の構築および資源効率性の観点から、有価物の分別や生ごみのたい肥化など減量努力の促進と、分別排出・収集を徹底する施策を講じる。
②一般廃棄物の処理費用の徴収を検討する場合は、排出者責任と適正処理のための費用のあり方を明確にする。家庭ごみ有料化を検討する場合は、住民の合意を前提とする。
③爆発性・毒性・感染性などがあり、人の健康や生活環境に被害が生じる恐れのある適正処理困難物については、拡大生産者責任の観点から、事業者による自己回収・費用負担の対応を検討するなど、原則、行き場のない廃棄物をなくす。
④CAPD(連続携行式腹膜透析)バックやチューブ類などの在宅医療廃棄物については、スタンダード・ブリコーション(標準感染予防策)にもとづき排出方法を周知するとともに、地域の医師会と地方自治体で回収方法を協議するとともに、回収時の感染予防に向けた研修などを実施する。
- (9)国・地方自治体は、国は、バーゼル条約・廃棄物処理法のいずれにおいても対象外となっている中古製品の国内処理原則に則り、中古製品扱いで廃棄物を国外に持ち出す脱法行為を防止するよう、国内での再利用・資源回収を徹底・強化する。
- (10)国・地方自治体は、自然災害の廃棄物処理については、現行の被災自治体処理費用の2分の1の国庫補助を確実なものとして、現状被害に合わせて引き上げるよう、制度を改正する。また、地方自治体の炉の新設・更新のために、循環型社会形成推進交付金を充実させるなど、すべての地方自治体が制度に参加できるよう体制を整える。
- (11)国・地方自治体は、食品ロスの低減と食品リサイクルの推進に向けて、「食品の取引慣行の見直し」と「食品リサイクル製品‐認証・普及制度」の普及・促進をはかるとともに、食品リサイクル肥料によって生産された農作物について、通常の同種の農作物よりも価格の引き下げを可能とする優遇措置を検討する。また、食品関連事業者における消費期限・賞味期限の適切な設定並びに流通各社における納入期限・販売期限に関する運用ルールの見直しによって食品廃棄の削減をはかる。
- (12)国は、家電リサイクルについて、リサイクルに協力する消費者の不公平感を可能な限り払拭するとともに、モラルハザードを防ぐためにも、不法投棄を行った者への罰則を強化し、引き続き取締りを徹底させる
- (13)家電、及び小型家電のリサイクルについて、消費者、販売店における混乱の防止と制度運用の円滑化に向けて、管理票の電算化や販売店・製品等により異なる費用の統一化等により、関連事務手続を簡素化する。
- (14)国は、容器包装リサイクルについて、制度を統制する組織に要する費用や事業範囲、今後の国による費用負担も含めた関与のあり方などを加味したうえ、将来的な社会的コストの削減と資源の節約・再活用の観点から、それぞれが果たすべき役割を改めて整理・定義する。また、公平性確保の観点から、リサイクル義務を果たしていない「ただ乗り事業者」を減少させる。
- (15)国は、容器包装リサイクルの再商品化手法について、単一素材ごとの収集を実施しつつ、汚れが酷い素材や残渣などマテリアル・リサイクルに向かない素材については、ケミカルリサイクルやサーマル・リサイクルで対応する。また、地方自治体の廃棄物焼却における助燃材のあり方についても併せて検討する。
- (16)国は、容器包装リサイクルの費用負担について、労働者の雇用・労働条件への影響を最小化する観点から、制度を改革する際には、十分な移行期間を設けつつ、公的な支援を含めた適切な措置を講じる。また、地方自治体への拠出金は、これまで消費者への広報経費として活用されてきたことを踏まえ、今後も低減し続ける拠出金に代わり、各地方自治体が行う広報活動に必要な費用として充当可能な「新たな助成制度」を創設する。
- (17)国は、温室効果ガス排出、プラスチックごみの削減に向けて、レジ袋の有料化を義務とするための法制度を検討する。
- (18)国は、吹き付け石綿やポリ塩化ビフェニル(Poly Chlorinated Biphenyl:PCB)などの有害物質、石綿含有建材、CCA(クロム・銅・ヒ素化合物系木材防腐剤)処理木材などの有害物質含有資材については、建設リサイクル法を改正し、解体前の調査報告(調査の区分ごとの調査機関による報告)と措置または適正処理の報告(処理事業者のマニフェスト)を発注者に義務付けるとともに、フロンや代替フロンの回収についても報告を義務付ける。
- (19)国は、太陽光パネル等の再生可能エネルギー発電設備について、耐用期限経過後の大量廃棄に備え、設備のリユース・リサイクルや適正処理とともに、発電事業者等のユーザーによる回収・処理費用負担のための措置を講ずる。(「資源エネルギー政策」2.(2)② e)より再掲 )
7.石綿(アスベスト)対策を強化するとともに、「石綿健康被害救済法」による被害者救済制度を拡充する。
- (1)国は、「石綿健康被害基金」に資金拠出する「特別事業場」について、その認定要件から労災認定件数を除外するとともに、企業の拠出負担のあり方を再検討し、「石綿健康被害基金」に対する国の負担を増額する。
- (2)国・地方自治体は、今後、増加が予想される石綿を含有する建築物・工作物等の解体・改修、アスベスト廃材の運搬に際して、十分な飛散防止対策を徹底する。また、石綿の実態調査および補助金制度を強化するとともに、専門家の養成を強化する。さらに、石綿の飛散を低減できる解体・廃棄物処理方法を研究するとともに、国の積極的支援のもとで安価な無害化(非繊維化)技術の開発・普及を促進する。
- (3)国・地方自治体は、資産除去債務に関する会計基準にもとづき、既存の建築物などに存在する石綿について、実地調査を実施したうえで、当該建築物を所有する企業・団体の資産除去債務として計上することを促進させる。
- (4)国・地方自治体は、2016年12月に成立した「改正がん対策基本法」にもとづき、中皮種などの難治性で患者数の多くないがんの研究体制を確立するとともに、石綿を原因とする疾患の確定診断ができる拠点病院を整備し、早期発見と早期治療を迅速に実施する。
- (5)国・地方自治体は、石綿ばく露の可能性や専門医療機関の紹介・案内、石綿を原因とする疾患の自覚症状などに関する広報を積極的に行う。
- (6)国は、中皮腫を含む予後不良な疾病について、2035年に発症のピークを迎えるという予測を踏まえ、抗CTLA-4抗体、抗PD-1/PDL-1抗体などの免疫チェックポイント阻害薬の治験を加速するとともに、中皮種に対する免疫療法全体の費用を低減させる。また、免疫チェックポイント阻害薬の治療効果が現れない事例のメカニズム解明を進める。
8.化学物質対策を強化し、環境への影響を最小化する。
- (1)国は、国民の健康や環境を守るという視点から、「持続可能な開発に関する世界サミット(WSSD)」の2020年目標に向けたSAICM(国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ)国内実施計画およびSDGsの目標にもとづき、製造・使用から廃棄に至るまでの化学物質のライフサイクル全体を通じたリスクの低減を促進しつつ、廃棄物を含む化学物質の大気、水、土壌への放出を大幅に削減する
- (2)国は、化学物質の安全性に対する国民の不安への対処や、リスク評価・管理における取り組みのさらなる連携・強化をはかる。また、QSAR(Quantitative Structure Activity Relationship:構造活性相関)やカテゴリーアプローチなどの非動物試験による推計手法の精度の向上および適用場面の拡大、利用に耐える非GLP(non Good Laboratory Practice:優良試験所基準に適合しない)データの活用に加え、現行法の運用では拾いきれないリスクについても、適切評価する方法について検討を行う。
- (3)国・地方自治体は、災害などの異常事態の発生の際に、企業の保有する化学物質による健康被害・環境被害低減と消火・救援活動が円滑に実施できるよう、化学物質の保管に関する法令・条例の順守に加え、災害対策の観点から保有する化学物質の有害性や物理化学的特性を労働者や取引先へ周知させる。また、事業場の規模に関係なく立地や建屋構造などの環境的要因を加味した対策マニュアルの作成を促進する。
- (4)国は、「公害健康被害補償法」などの補償制度を見直すとともに、公害に関する苦情・紛争の円滑な解消を進める。また、環境・健康への複合的な影響を調査し、新たな認定と救済の制度を確立する。
- (5)国・地方自治体は、複雑な化学物質に関する法律・制度を解りやすく周知・広報するとともに、化学物質の許容摂取量以下(低用量)の長期ばく露影響や、環境における低濃度複合ばく露影響、製品中に混在する構成成分の間で発生しうる相互作用や相加性などの調査・研究体制を充実させ、化学物質の複雑なシナリオのリスクについても、感受性が高い集団への対応を強化する。
- (6)国・地方自治体は、化学物質の生態系への影響に着目した管理・審査体制を強化する。また、生態毒性試験の信頼性向上の観点から、慢性毒性値の標本数を引き上げるとともに、特に感受性が高いと考えられる試験生物を複数選定する。
- (7)国・地方自治体は、狩猟の装弾(散弾)や釣りの錘などへの鉛の使用について、周辺環境への影響を軽減するために、代替物質への転換を促進するとともに、必要な支援を行う。
- (8)国は、有害とされた化学物質の代替にあたり、代替前の物質と代替後の物質の総合的なリスク比較を行うとともに、易分解性物質の環境影響評価手法を構築し、有害な化学物質の代替とされた物質についても、分解過程および分解中間物質の有害性の有無を解明する。
- (9)国は、水銀の供給・使用、排出・廃棄を地球規模での規制、市場取引量削減や環境への排出削減に貢献する。特に、「水銀に関する水俣条約」発効後に発足した締約国会議(COP)において、主導的な役割を果たす。また、退蔵品対策とともに、これまで有価で取引されていた水銀の回収に対するインセンティブの低下が、違法投棄につながらないよう必要な対策を行う。
- (10)国は、ナノ粒子の計測技術、安全性試験法、ばく露低減機器や環境への流出抑制、排出シナリオや環境中挙動モデル・体内動態モデル構築などの研究・開発を促進するとともに、健康影響・環境影響の調査を強化する。また、ナノ粒子のリスク評価を化学物質のリスク管理の中に体系的に組み込むとともに、化学物質以外のリスクも考慮して規制や自主管理を行う。
- (11)国・地方自治体は、化学物質の管理・取り扱いを行う専門性の高い人材を計画的に育成する。
食料・農林水産政策<背景と考え方>
- (1)国連食糧農業機関(FAO)によると、2017年の世界の飢餓人口は約8億2千1百万人となっており、9人に1人が飢えで苦しんでいる、としている。これは、10年前の状況に逆戻りしており、2030年までに飢餓をゼロにするためには、持続可能な開発目標達成に向けて、より一層緊急に対策が採られるべきであると警告している。気候変動に伴う降雨パターンや作物生育期への影響や、干ばつ、洪水等の極端な気象現象が、紛争や景気後退とともに飢餓増加の主要因の一つになっている。多くの国で栄養不足と肥満が共存しており、安全で質の高い食料を全ての人に提供できる持続可能な農業や食料システムに向けての転換が必要である。
- (2)わが国の食料自給率(熱量ベース)は、1996年以降40%前後の横ばいで推移しており、先進諸国の中では最低水準となっている。食料安全保障の観点から食糧自給力の向上が不可欠であるが、政府は食料自給率を2025年度に45%まで引き上げる目標を設定した。
- (3)安心してくらすことができる社会を構築するうえで、食の安定供給および安心・安全の確保は最も重要な要素の一つであり、具体的施策の着実な実行をはかる必要がある。
- (4)わが国の農業の状況は、就業人口の減少・高齢化が進み、農村の過疎化や農地の荒廃により耕作面積が縮小するなど、生産構造の脆弱化が進行している。この対策として政府は、農林水産業の輸出力強化と輸出インフラ整備、6次産業化などの推進、経営所得安定対策の見直しおよび日本型直接支払制度の創設、農協・農業改革の推進と農業競争力の強化、農泊などを通じ、持続可能な競争力のある農業への再生をはかろうとしている。また、自由貿易推進のための国際経済連携を進める際には、食料自給の観点から国内の農林水産業の弱体化につながらないよう、政府には慎重かつ適切な対応が求められている。
- (5)わが国の森林資源は、2,505万haと国土の7割を占め、先進国で第2位の保有を誇る。そのうち人工林は1,000万haを超え、森林の総蓄積は約50億㎥に達している。2020年末には、約7割の森林が10齢級以上となり森林資源は、保育主体から循環利用、計画的に再造成すべき時期に入った。しかし現状は、需要に応じた安定的な原木供給についての課題があり、価格も30年前と比べて3分の1まで下落しているとともに、林業就業者数は長期的に減少を続け、高齢化が進行しているなど、生産構造の脆弱化克服も道半ばにある。一方で、「森林・林業基本計画」などにもとづき実行し、林業の成長産業化の実現へ取り組んだ結果、木材自給率は30%台(36.1%)へ回復しており、また若年就業者の割合も増加傾向にあるなど、明るい兆しが見られる面もある。
- (6)水産資源は、国家が主権的権利を主張する排他的経済水域や公海にまたがり、マグロやカツオ等の大洋を回遊する魚種、サケやマス等の河を遡る魚種などが存在し、このような資源を適切に管理するため、魚種と回遊海域ごとに地域漁業管理機関(注1)が設立され、国際的な合意のもと漁獲量や操業期間など資源管理措置が強化されている。加えてわが国の水産管理措置は、主要資源について産出量規制を基本に、投入量規制及び技術的規制を組み合わせてきた。しかし資源管理(注2)の厳しさ、海洋環境の変化による漁獲可能量(TAC)設定のための科学的根拠である生物学的許容漁獲量(ABC)と、国連海洋法条約の長期的に持続可能な最大生産量(MSY)とでは食い違いがあり、水産資源の持続的な安定供給は国際的な水産資源管理で新たな局面に入っている。
- (7)農林水産業を持続可能なものとするため、生産性向上と市場規模の拡大に向け競争力・体質強化、地域振興をはかることは喫緊の課題であり、海外でも通用する農業の「農業生産工程管理(GAP)」、林業の「緑の循環認証(SGEC)」、水産業の「水産エコラベル(MEL)」などの「国際認証」取得へ向けた生産者への支援が必要である。「食料・農業・農村基本計画」(2020年改定予定)、「森林・林業基本計画」(2021年改定予定)、「水産基本計画」(2022年改定予定)など基本計画の着実な遂行とともに、相互の連携を強化し、農林水産業の持続可能な産業基盤への再生・発展、成長産業化を早急かつ重点的にはかる必要がある。
- (注1)地域漁業管理機関 ~「国連公海漁業協定」の発効等を受け、それぞれの設立条約の規定に従って沿岸国や漁業国をはじめとする関係国・地域が参加し、資源評価等の科学的事項を検討するための科学委員会、各国の遵守状況を確認する遵守委員会等における検討状況を踏まえて、各水域の資源や漁業の実情等に応じ、実効ある資源管理を行う機関(例えば、世界のカツオ・マグロ類資源は、地域または魚種別にインド洋、中西部太平洋、全米熱帯、大西洋、保存の5つの機関によって全てカバーされている)。わが国も、漁船の操業海域や漁獲対象魚種に関して設立された地域漁業管理機関には原則、加盟している。
- (注2)資源管理 ~どの程度の親魚を残せば、翌年にどの程度の子魚が加入し、毎年どのくらいの魚が漁獲できるかの親子関係を決めるもの。改正漁業法にもとづく新たな管理システムで、最大持続生産量理論(漁獲できる魚を持続的に最大にする親の量を維持または回復することを目標とする管理)にもとづく資源管理を強化し、漁獲可能量による資源管理の対象を8割に拡大、個別割当(IQ)へ移行した。ところが最大持続生産量理論は、産卵親魚量と加入量で相関関係が見られず、現実の資源変動には、ほとんど適応しないことが明らかになり、生物学的許容漁獲量(50魚種84系群のうち資源水準高位14系群(17%)、中位31系群(37%)、低位39系群(46%))も厳しい状況となった。クロマグロは、漁獲可能量の増加が認められず、増加したクロマグロが入網し、定置網での大量漁獲が発生。大量漁獲をした漁協は罰金を払うことになり、操業ができなくなった漁業者は、国を相手に訴訟を起こす事態に発展した。
1.食料自給力の向上を戦略的に推進し、安定供給体制の維持・充実をはかる。
- (1)国・地方自治体は、農業・水産業の安定した経営基盤の構築および生産性の向上、持続可能な健全な発展を通じて、わが国の食料安全保障の根幹となる食料自給力の向上を戦略的に推進する。加えて、「緊急事態食料安全保障指針」にもとづき、効率的な備蓄、安定的な輸入の確保を実施するとともに、世界的な人口増加や、気候変動による減産、自然災害や紛争など、食料供給に影響を与える多様なリスクの影響度や発生頻度、対応の緊要性について分析・評価し、リスクごとの具体的な対応手順をとりまとめるなど、食料の安定供給体制の維持・充実をはかる。
- (2)国・地方自治体は、地産地消の推奨など国民運動の展開や、フードチェーンの連携強化などを通じて国産食品の消費拡大を促進する。食料消費は、高齢化や人口減少、ライフスタイルの多様化により食生活および国内市場構造が変化していることから、消費者視点を重視し、介護食品の開発・普及、薬用作物や加工・業務用野菜等の生産、地産地消、食育などを通じ、食品産業の現状を考慮した、きめ細かな新規需要の掘り起こしをはかる。
- (3)国は、「グローバル・フードバリューチェーン戦略」(注3)にもとづき、国産食品に対するジャパンブランドの確立や日本食文化の発信による海外市場の開拓、事業者に対するグローバル展開の支援などを通じて、国産食品の輸出拡大を促進する。(「産業政策」参照)
- (4)国・地方自治体は、改正食品表示法等をふまえ、食品関連事業者における消費期限・賞味期限の適切な設定を促す。また、食料資源の循環の観点から、流通現場における納入期限・販売期限に関する運用ルールの見直しや、フードバンク活動の普及促進・支援、消費者に対する啓発の推進などを通じて、食品ロス削減国民運動(NO-FOODLOSS PROJECT)のさらなる周知・徹底をはかる。(「消費者政策」参照)
- (5)国・地方自治体は、高齢・障がい者の食料品アクセス問題の解決に向けた対策について、施策を進める所管府省を定める。また、高齢化や人口減少などの影響により食料品の入手が困難となっている地域での移動販売や宅配サービスの展開など、事業者などとの連携をはかりつつ対応策を検討・実施する。(「産業政策」、「地域活性化政策」、「介護・高齢者福祉政策」、「交通・運輸政策」参照)
- (6)国・地方自治体は、「食育基本法」にもとづく「食育推進基本計画」の達成に向けて、消費者基本計画にある「消費者の権利の尊重と自立の支援」の考え方を踏まえつつ、食について考える習慣や、食に関する様々な知識、地産地消、食を選択する判断力を身に付けるための食育を一層推進する。(「消費者政策」、「教育政策」参照)
- (7)国は、世界の食料安全保障の観点から、ODA活用による開発途上国の農業支援や食品安全などに関する技術協力および資金協力、食料援助などを強化するとともに、遠洋漁業水域における漁場確保に資する施策を推進する。また、中国、インドネシアなど世界有数の多人口国を抱える東アジア地域における大規模災害時に備えた、食料安全保障体制を確立する。
- (注3)グローバル・フードバリューチェーン戦略」~「産学官連携で生産から製造・加工、流通、消費に至るフードバリューチェーンの構築を推進し、日本の食産業の海外展開と成長、食のインフラ輸出と日本食の輸出環境整備、経済協力との連携による途上国の経済成長を実現していく活動。
2.科学的根拠にもとづく国際的な枠組み原則(リスクアナリシス)に則り食の安全を確保し、安心して食生活を営める環境を整備する。
- (1)国・地方自治体は、消費者基本法と基本計画をふまえ、科学的根拠にもとづく国際的な枠組みによるリスク分析を行い、生産地から食卓にわたる食品の安全(注4)性の確保・品質管理の徹底をはかるとともに、消費者に対する適切な情報提供を行う。
①国は、輸入食品の安全確保に向けて、わが国の食品衛生基準にもとづく輸出国の責任による衛生対策と検査実施を原則とし、検疫所などにおける国内の監視・検査の強化をはかる。
②国・地方自治体は、食品や動植物に残留する農薬や農薬の植物代謝物および分解物について、ポジティブリスト制度の確実な実施を通じ、安全性の確保をはかる。
③国・地方自治体は、食品の安全性向上へ向け、食品中の化学物質および微生物、ゲノム編集など育種の安全性に関する課題に関し、適切な規制値の設定ならびに見直しを行う。また、低濃度・長期間摂取等も含めた影響、身体への影響に関する研究を推進する。さらに、消費者に対する化学物質等の含有濃度の実態調査、曝露評価等の取組状況および関連データについて適切に情報提供を行うとともに、摂食指導などのリスク低減のための対策を講じる。また、健康への懸念が示唆される物質については、予防的な取り組み方法にもとづき、その情報を公開する。
④国・地方自治体は、畜産物の安全確保に関する調査・研究および規制・流通管理、伝染病被害の拡大防止などの対策を強化する。
- (注4)食の安全 ~食品には「絶対安全」はないということを前提としつつ、内閣府消費者庁・食品安全委員会、農林水産省、厚生労働省が地方自治体と連携し、産地から食卓までのそれぞれの段階で「どのようなリスクが存在するか」、「そのリスクを抑えるためにどのような対策が必要か」を検討したうえで、生産・流通企業の自主的な安全対策も加え、総合的なリスク管理を行っている。ただし、「安全」は科学的根拠により示されるが、「安心」は個々人の判断にゆだねられている。
3.農山漁村の地域資源を活かした6次産業化などを推進し、農林水産業の成長産業化と地域の活性化をはかる。
- (1)国・地方自治体は、「六次産業化・地産地消法」に則り、農林漁村における6次産業化の推進をはかり、農林水産業の成長産業化と地域の活性化を重点的かつ戦略的に推進する。
①国・地方自治体は、農林水産業の成長産業化に向けて、消費者の需要に応じた農林水産物の生産・供給を支援する。そのため、食品などの生産・加工・流通過程で付加価値を高めていく連鎖(バリューチェーン)の構築や、各段階の技術力の向上を通じた食品の安定的な供給を推進する。また、食を通じた健康寿命の延伸に資するサービス分野などへの、新たな市場を創り出すための環境を整備する。
②国・地方自治体は、農山漁村の地域資源を活用し、農林水産業の健全な発展と調和の取れた再生可能エネルギーに係る取り組みの拡大・深化をはかり、持続可能な自立・分散型エネルギーシステムを構築する。
③国・地方自治体は、農商工連携、医福食農連携、農観連携、地理的表示保護制度などを通じて、農林水産物・食品のブランド化を進めるとともに、医薬や理工などの異分野に蓄積された技術・知見の活用、ICTの活用、新品種・新技術の開発・普及および知的財産の総合的な活用、次世代施設園芸などの生産流通システムの高度化などにより、新たな雇用を創出する。(「産業政策」、「資源・エネルギー政策」、「医療政策」、「介護・高齢者福祉政策」、「ICT(情報通信)政策」参照)
- (2)国は、6次産業化に取り組む従事者・事業体に対する起業や経営の安定化に関する支援の充実をはかる。地方自治体は、自らが核となり推進協議会を設置し、農林水産物などの地域の資源と地域金融機関の資金を活用して業を起こし、地域の雇用創出と経済成長をはかる。
①国は、「株式会社農林漁業成長産業化支援機構」の効果的な運営などを通じ、農林漁業者などが主体となって流通・加工業者などと連携して取り組む6次産業化の事業活動に対し、出資などによる支援をはかるとともに、きめ細やかな経営支援を一体的に実施する。国・地方自治体は、所得の向上と雇用確保につながった、「ワインの醸造・販売」「新規需要米を主原料としたパンの製造販売」「木質バイオマス発電」の好事例を共有していく。
②国は、「一般社団法人食農共創プロデュサーズ」により認定された「6次産業化プランナー」などを都道府県に配置し、地方自治体における加工適正のある作物の導入や、学校給食などのメニュー、直売所における観光需要向けの商品、新しい介護食品など新商品の開発・製造、販路開拓など、地域ぐるみの6次産業化の取り組みを支援する。
③国・地方自治体は、6次産業化に関する施策の普及、生産者の意識啓発のため、個別相談や流通業者などとの商談会、ポータルサイト(第6チャネル)やメールマガジンなどの情報発信を通じて6次産業化に取り組む農林漁業者等の事業を総合的に支援する。
- (3)国・地方自治体は、国土保全、地球環境保全、生物多様性に重要な里地里山保全、歴史や伝統ある棚田や疎水などの美しい景観の保全・復元、文化の伝承など、農山漁村・農林水産業の多面的機能のさらなる発揮を促進する。
- (4)国・地方自治体は、中山間地域の活性化と国土の均衡ある発展、環境と景観の保全、都市と農山漁村の交流の推進のため、Iターン、Jターン、Uターンなどにより地方で生活したい人のための定住環境を確保し、地域コミュニティを活性化する。
- (5)国・地方自治体は、農林水産業や生態系などに深刻な被害を及ぼしている野生生物対策として、捕獲従事者を確保しつつ捕獲目標を設定するとともに、被害防止と保護管理に関係する府省の連携、獣医師などとの協力のもと、野生生物の生息密度を、本来の自然生態系と均衡した適正レベルに維持する施策を推進する。また、狩猟で得た天然の野生鳥獣の食肉(ジビエ)などへの有効利用をはかる。
4.「食料・農業・農村基本計画」を着実に実行し、農業の持続可能な産業基盤を確立する とともに、戦略的に競争力のある強い農業を実現する。
- (1)国・地方自治体は、農業への新規参入や新規就農を促進するための支援・環境整備を充実し、持続可能な産業基盤の確立と成長産業化に資する担い手の育成・確保を重点的にはかる。
①次代を担う新規就農者に対しては、国・地方自治体が経営・技術、資金、農地に対応する財政面・実務面における支援制度の維持・充実をはかり、幅広い多様な担い手・就農者を確保する。
②国・地方自治体は、集落・地域の農業従事者の合意を前提に企業の農業参入をはかるとともに、法人雇用による就農の拡大、大規模家族経営や集落営農や経営の法人化など、多様な農業生産組織による担い手を育成・支援し、地域の再生および新規雇用の創出をはかる。
③国・地方自治体は、酪農・畜産業をはじめとする雇用就農者の労働負担の軽減など、労働条件・労働環境の整備・改善への支援をはかり、担い手の確保・定着につとめる。
④国は、農地利用の最適化(担い手ごとの集積・集約、耕作放棄地の発生防止・解消、新規参入の促進)や担い手の育成を支援する「農業委員会」の機能を強化するため、農業従事者の意見が地方自治体の政策へ適正に反映できるよう、制度を改善する。
- (2)国は、農業従事者の所得の確保をはかり、環境変化に適応しつつ安定した生産活動が維持できる経営基盤の再生および体質強化をはかる。
①経営所得安定対策については、意欲ある農業従事者が報われ、生産性向上に資する制度との観点から、多面的機能に着目した日本型直接支払制度の創設、戦略作物(麦・大豆・飼料用米など)の本作化による水田のフル活用、米政策の改革(生産調整の見直しを含む)など、国が競争力のある強い農業の確立に資する見直しを行う。また、農業・農村の多面的機能の維持・発揮(国土保全や水源の涵養、集落機能の維持など)、食料自給力向上と食料安全保障の確立をはかる。
②国産酪農・畜産物の安定供給と経営の安定を確保していくための所得補償制度については、国が産業の実情を踏まえつつ、その導入について検討する。
- (3)国・地方自治体は、農地の確保および生産性向上の観点から、耕作面積の維持・拡大および農地の有効利用をはかる。
①国・地方自治体は、「農地法(農地を所有できる法人の要件)」のあり方を検証し、転用規制による農地の確保を前提に、農地の取得に関する諸規制の緩和をはかる。
②国・地方自治体は、集落・地域単位で合意形成をはかりつつ地域農業のあり方を明確化し、中心となる経営体を特定したうえで農地集積を進める。
③耕作放棄地を引き受けて作物生産を再開する従事者に対しては、国・地方自治体が再生作業や土づくり、作付け・加工・販売の試行に関する支援を充実する。また、耕作放棄地の減少・利用促進をはかる。
④条件不利地域に対しては、国・地方自治体が多面的機能の発揮を推進する見地に立って、総合的な政策を策定・実施する。
⑤農業者の就業構造改善にあたっては、国が農村地域工業等導入促進法や企業立地促進法の見直しなど、農村地域の雇用創出を伴う施策を併せて実施する。
- (4)国・地方自治体は、農業における生産性向上に向け、さらなる品種改良、機械化および省力化の推進や、ICT技術の導入による高度化などに向けた複合的な研究開発を推進する。
- (5)国は、自由貿易協定への対応について、「食の安全保障」と食の安心・安全の確保、農林水産および関連産業への影響などを回避するため、万全の体制で保護・支援する。
- (6)食の安心・安全の確保、競争力のある農業に向けて地方自治体は、国民共有の財産である種子・種苗を守り、良質で安価な主要農産物種子の安定供給をするための種子条例の制定を推進する。(「産業政策」参照)
5.「森林・林業基本計画」を着実に実行し、林業の持続可能な産業基盤を確立するとともに、森林資源を循環利用する新たな仕組みを構築する。
- (1)国・地方自治体は、森林経営管理法(注5)および改正山村振興法(注6)と、両法の附帯決議(注7)にもとづき、森林整備・保全対策を積極的に推進するとともに、国産木材需要の拡大につなげる。また、森林資源の循環利用を通じて新たな産業づくりを行い、山村などにおける就業機会の創出と所得水準の上昇を実現する。
- (2)国は、市町村が区域内の森林の経営管理を行うにあたって、管理権集積計画の作成等の新たな業務を円滑に実施することが出来るよう、市町村の林業部門担当職員の確保・育成を図る仕組みを確立するとともに、必要な支援及び体制整備を図る。
- (3)国・地方自治体は、わが国木材総需要量の約7割を占める欧州諸国からの輸入材に対抗し得る競争力を確保していくため、日本特有の自然条件に伴う課題、森林所有者・境界の特定といった課題へ適確に対応し、施業集約化を効果的に進め、国産材の利用促進を通じた木材自給率の向上をはかる。(「産業政策」、「国土・住宅政策」、「国際政策」参照)
- (4)国・地方自治体は、「緑の雇用」事業などを通じ、段階的かつ体系的な人材の確保・育成を推進するとともに、現場の抱える課題に対応できる「フォレスター」「森林施業プランナー」を育成する。また、施業集約化などの森林経営計画の課題に取り組む担当職員の配置のための助成措置を講じるとともに、林業労働力の確保と定着に向けて、全産業平均と比べても高位にある労働災害の防止対策の強化や雇用管理の改善、所得を含めた労働条件の向上等の取り組みを推進する。(「雇用・労働政策」参照)
- (5)国・地方自治体は、管理が行き届かない森林を適切に保全するために、条件不利地域や不在村所有森林など集約化が困難な森林に対し、公的な森林整備を促進する。また、森林管理を促進する観点から、指向する森林のあり方に応じた路網整備を進める。(「環境政策」参照)
- (6)国は、「森林管理・環境保全直接支払制度」の着実な実施や、林業事業体(森林組合・林業会社など)の育成を通じ、林業従事者の所得確保ならびに持続的かつ安定的な森林経営の確立をはかる。また、定住支援や、集約施業が困難な森林を振興山村自治体が買い入れる際の全額国費による予算措置などを通じて山村の活性化をはかる。
- (7)国・地方自治体は、地方自治法施行令による特定随意契約を参考にしつつ、地域の事業体が優先的・安定的に事業を受注できる発注方式(随意契約)への変更を通じて、地元の雇用を守り、山村地域の活性化をはかる。あわせて国は、都道府県を基本単位とした入札の参加資格、植栽から下刈りまで一括した契約など、発注方式の改善を通じて林業での地元雇用の安定的確保を行う。
- (8)国は、地球規模での環境保全をはかるため、「違法に伐採された木材は使用しない」との考え方を明確に示し、違法伐採木材の流通を規制する。さらに、木材生産国などにおける違法伐採に係わる情報収集など監視を強化する。
- (9)国・地方自治体は、適正な森林管理を促進する観点から、外国資本による山林買収の実態を把握できる仕組みを構築し、適切な規制を行う。
- (10)国は、追加的な間伐などの森林整備に要する財源を毎年確保するとともに、鳥獣害被害に係わる対策を含め、主伐後の植栽による再造林、優良種苗の確保、間伐特措法にもとづく特定母樹の増殖など森林資源の循環利用の推進のための施策を確実に実施し、吸収量を確保する。また、二酸化炭素排出抑制のために、木質バイオマス再生エネルギーや木材のマテリアル利用の普及を図る。(「経済政策」、「税制政策」、「産業政策」、「資源・エネルギー政策」、「環境政策」参照)
- (11)国・地方自治体は、「森林環境譲与税・「森林環境税」について、使途については、地方自治体がすでに実施している森林・水源環境保全のための独自課税との整合性をはかる。また、自然的・社会的条件に照らして林業経営に適さない森林など、これまでの森林施策では対応出来なかった森林整備等に資するものとする。
- (12)国は、花粉症対策苗木の生産や植栽、花粉の少ない森林への転換、花粉の飛散防止など、花粉症発生源対策を推進する。
- (13)国・地方自治体は、森林生態系の不確実性をふまえた順応的管理の観点から、その土地固有の自然条件などに適した様々な生育段階や樹種から構成される森林となるよう、生物の生息環境に配慮した森林管理を行う。
- (注5)森林経営管理法 ~ 市町村が経営管理権集積計画を定め、森林所有者から経営管理権を取得したうえで自ら経営管理を行い、または経営管理実施権を民間事業者に設定する等の措置を講ずることにより、林業経営の効率化および森林の管理の適正化の一体的な促進を図り、もって林業の持続的発展および森林の有する多面的機能の発揮に資することを目的として5月25日、第196通常国会で成立した。
- (注6)改正山村振興法 ~基本理念を新設し、再生可能エネルギー利用推進など産業振興施策の特例および介護給付等対象サービスの確保など住民福祉の向上への配慮規定が新設された改正で、2015年3月31日、第189回通常国会で議員立法により成立した(有効期限2025年3月31日)。
- (注7)附帯決議 ~法的拘束力はないが、改正山村振興法は山村定住を促進する方策、木質バイオマス等のエネルギー利用の拡大など4項目が参議院で決議された。
6.「水産基本計画」を着実に実行し、水産業の持続可能な産業基盤の確立と、水産資源の維持管理強化ならびに水産食料の安定供給確保をはかる。
- (1)国・地方自治体は、既存の新規漁業就業者総合支援事業に加えて、漁船取得など初期投資に対する支援、新規就業後の継続的技術指導などの支援を拡充し、雇用機会の拡大と雇用のミスマッチ解消をはかる。また、漁業における労働条件および安全操業も含めた安全衛生管理体制の整備を推進し、雇用管理の改善につとめる。
- (2)国・地方自治体は、計画的に資源管理に取り組む漁業者を対象とする漁業共済・積立プラスの加入率向上、漁業経営セーフティーネット構築事業における積立への新規加入者の拡大を支援し、漁業従事者の所得確保ならびに持続的かつ安定的な漁業経営の確立をはかる。
- (3)国・地方自治体は、人為的要因以外の資源変動や地域特性に応じて、各地域がめざす地方創生に資する沿岸漁村を構築する。また、水産資源の維持管理強化、水産食料の安定供給の確保、水産物の管理拡大へ向けて、漁業者と企業経営体とが協調できる体制を構築する。
①国は、国際的なネットワーク・システムによる気候変動影響や海洋環境劣化に関する調査や、漁業資源の調査を推進する。
②国・地方自治体は、環境保全、森林整備、河川の生態系に配慮した改修、水質汚染の回避および削減に努め、河川、湖沼、沿岸における水産資源の保護・回復策を推進する。(「環境政策」参照)
③わが国の排他的経済水域では、資源水準に見合った漁獲量を実現するため、国・地方自治体が対象魚種の動向をふまえた漁獲可能量(TAC)の設定・配分、漁業許可などによる漁獲努力量(TAE)(注8)規制や禁漁期、禁漁区等の設定など漁業権・漁業許可制度などの適切な運用、漁獲量の個別割当(IQ)方式など漁業者による自主管理を推進する。また、違反操業に対する防止対策と監視・防止体制を強化する。海洋環境や漁場における水産資源の変動で、漁船間の消化率の違いによる過不足調整が必要な場合、国・地方自治体の監督の下で個別割合の取引を可能とするなど、漁船間の無駄な競争を防止し、漁獲可能量が最も効率的に利用されるような調整を行う。
④わが国の周辺水域については、国・地方自治体が周辺国・地域との連携を強化し、適切な漁業関係を構築する。あわせて、IUU(違法、無報告、無規制)漁業の取締りを強化するとともに、操業の国際取り決めを遵守する。また国は、韓国、中国、台湾などの漁船に対する漁獲割当量および許可隻数の遵守を徹底するとともに、漁業協定にもとづく暫定水域などを含め適切な資源管理を推進する。
⑤国は、国連海洋条約にもとでの商業捕鯨の再開に向けて、科学的根拠を示しつつ鯨類を含む海洋生物資源の持続可能な利用に関する国際的な理解を進める。(注9)
- (4)国・地方自治体は、海難事故の発生率が高い漁業従事者への安全対策として、海上保安庁の装備・人員の拡充とともに、AIS(注10)導入の促進、MICS(注11)の活用、復原性が高く転覆しにくい漁船への転換支援、ライフジャケット着用などの安全確保の徹底に向けた周知・広報などを行う。また、海上事件・事故を海上保安庁へ緊急通報できる「電話118番」の周知に務める。
- (5)国は、日本を含めたアジア諸国が未批准である漁船安全条約議定書(トレモリノス条約)の発効に向けたケープタウン新協定(注12)の採択にもとづき、わが国の批准に向けた国内法令化の検討を進める。
- (注8)漁獲努力量(TAE)~Total Allowable Effort:資源状態が悪化している漁業資源を早急に回復するために、資源回復計画の対象となる魚種について、対象となる漁業と海域を定めた上で、あらかじめ漁獲努力量の上限を「漁獲努力可能量」として定め、その範囲内に漁獲努力量を収めるように対象漁業を管理する、2003年に導入された制度。
- (注 9)国際捕鯨委員会からの脱退 ~日本による第二期南極海鯨類捕獲調査の国際法上の是非をめぐり、2010年5月にオーストラリアが日本を国際司法裁判所に提訴した。日本が国際司法裁判所の紛争当事国となった初のケースで、裁判は「日本の南極海での調査捕鯨は、事実上の商業捕鯨」(2014年3月国際司法裁判所判決)と日本が敗訴し、調査捕鯨は一時中止に追い込まれた。2018年9月の国際捕鯨委員会では、日本が商業捕鯨の一部再開を提案するも否決され、10月の北大西洋調査捕鯨で捕獲したイワシクジラ肉の持ち込みが商業目的によるワシントン条約違反として是正が勧告された。これらにより政府は2018年12月25日、国際捕鯨委員会から脱退を閣議決定。1988年から中断してきた商業捕鯨は、2019年7月1日から再開されたが、南極海および南半球は含まれず、日本の排他的経済水域内へ限られた。
- (注10)AIS ~Automatic Identification System:沿岸海域では入出港の連絡、船位通報、航行の安全、遭難通信、外洋では船舶相互間通信に使用する無線を利用した自動船舶識別装置。
- (注11)MICS ~Maritime Information and Communication System:海上保安庁が漁船等の船舶運航者やプレジャーボート、磯釣り、マリンレジャー愛好者に対して、漁業活動の状況、船舶の動静、気象警報・注意報、航路標識消灯など海の安全に関する情報を提供する沿岸域情報提供システム。
- (注12)ケープタウン新協定 ~トレモリノス条約の発効ができていない現状をふまえ、国際海事機関(IMO)は2012年、漁船の長さをトン数で読み替え(長さ24m総トン数300トン以上)、自国の排他的経済水域及び共同漁業規制水域は適用除外できるなど、アジアの実態に配慮したケープタウン新協定を採択した。
消費者政策<背景と考え方>
- (1)連合は、2017年11月、行き過ぎたクレームや暴言・暴力といった迷惑行為など、消費者行動の実態を把握するため、「消費者行動アンケート」を行った。接客業務従事者の半数以上(56.9%)が「暴言」「威嚇・脅迫的な態度」「説教など、権威的な態度」「従業員を長時間拘束」などの消費者による迷惑行為を「受けたことがある」とし、一般消費者の約6割(58.4%)がそうした行為を実際に見聞きしたことがあることが明らかになった。事業者と消費者との関係において、情報の非対称性などの問題から、消費者は保護されるべきである。関係機関が連携してよりよい消費社会を実現するためには、事業者と消費者がお互いを思いやり、倫理的な消費者行動を促すことが必要であり、法的な対応やガイドラインの作成、消費者教育などの具体策が求められる。
- (2)消費者庁は「第4期消費者基本計画のあり方に関する検討会」において、新たな消費者基本計画(2020年度~2024年度)の検討を行い、2018年12月に「最終報告書」をとりまとめた。連合は連合総研推薦委員を通じて、倫理的な消費者行動の促進、消費生活相談員の雇用の安定や処遇の改善などについて意見反映を行った。その結果、報告書に消費者庁として初めて「消費者(生活者)同士のトラブルや、常識的な程度を超えて執拗・過剰に苦情を申し立てるクレーマーへの対応について消費者教育に一定の効果を期待する」、「事業者との適切なコミュニケーションのとり方などについて消費者教育の内容を充実させるとともに、(中略)労働者問題を含むエシカル消費に係る消費者教育(中略)などについて必要な取組を進めるべきである」といった考え方が記載された。今後は、消費者庁などによる具体策の実行が求められる。
- (3)2018年6月に、これまで空白地域だった四国ブロックに適格消費者団体が設置された。国や地方自治体においては、消費者団体訴訟制度を効果的に運用するため、公的な活動をしているにもかかわらず予算や人的な配置が厳しい状況におかれている適格消費者団体の実情を踏まえた対応が求められる。また、消費者庁が設置されて10年が経過したにもかかわらず、消費者の身近な相談窓口となる消費生活センターが設置されていない市区町村が710(設置済みは1,011。2017年度「地方消費者行政の現況調査」)もある。地方自治体における人手不足や財源不足などの問題が背景にあることが指摘されている。地方消費者行政の財政基盤の強化をはかるとともに、非正規職員として働く大半の消費生活相談員の処遇の改善と能力開発の機会の充実をはかることで、人口規模に関わらず、すべての市区町村に消費生活センターの設置を進める必要がある。
- (4)民法の改正案が2018年5月に成立したことにより、2022年4月以降、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられることになった。これに伴い、保護者の同意がなくとも、クレジットカードをつくったり、ローンを契約したりすることができるようになる。同じく、若年消費者の保護を明確化した消費者契約法の改正案が成立したことで、消費者庁、文部科学省、法務省、金融庁が連携し、高等学校などで消費者教育を強化することになっており、消費生活センターの相談員による出前授業の取り組みなどが求められる。
1.倫理的な消費者行動の促進に向けた施策を推進するとともに、消費者行政の組織体制の充実ならびに機能強化をはかる。
- (1)国・地方自治体は、消費者による悪質なクレームや暴力などのカスタマーハラスメントの防止に向けて、倫理的な消費者行動を促進するための施策を推進する。
①消費者が行うクレームや改善要望は、健全な消費活動の実現のために必要な行為であり、商品開発やサービス向上につながるため、積極的に受け止める。
②カスタマーハラスメントは、人が人と接するあらゆる産業において生じている社会的な問題であり、防止に向けた具体策を講じる。
③消費者庁「第4期消費者基本計画のあり方に関する検討会」最終報告を踏まえ、消費者と事業者との適切なコミュニケーションなど、倫理的な消費者行動を促す消費者教育や、雇用・労働を含む人や社会に配慮したエシカル消費を促進する。
④業界や企業によるカスタマーハラスメントに関するマニュアル作成や従業員教育などの実施に向けたガイドラインを作成する。
⑤カスタマーハラスメントから労働者を守るため、厚生労働省の指針に定める事業者が講ずべき措置を法律に定める。
- (2)国は、専門人材の確保・育成など、消費者行政の司令塔として消費者庁の機能強化をはかる。また、関係省庁、地方自治体との連携を十分にはかり、消費者行政の充実・発展につとめる。
①消費者基本計画を実効性あるものとするため、地方自治体との連携を強化する。
②消費者安全調査会は、消費者に関する重大な事故があった際には、関係省庁と連携し、事故原因究明、調査、再発防止、消費者への丁寧な説明などを行う。
③消費者委員会は、独立した第三者機関として機能強化をはかり、消費者行政に関する監視・提言につとめる。
④食品安全委員会は、科学的知見にもとづき客観的かつ中立公正にリスク評価を行う機関として機能強化をはかり、食品安全行政の充実につとめる。
⑤国民生活センターは、消費者のための中核的機関として、消費生活センターとの連携を通じて、消費者行政の充実につとめる。また、「全国消費生活情報ネットワーク・システム(PIO-NET)」による事故情報の一元的集約、分析、原因究明の体制強化をはかる。
⑥誰もがどこに住んでいても質の高い消費生活相談・消費者被害の救済を受けられるよう、地方消費者行政の体制整備、消費者被害に遭いやすい高齢者などの見守りネットワークを構築する地方自治体を支援する。
⑦「地方消費者行政の充実・強化のための指針」を踏まえ、「地方消費者行政活性化基金」などによる財源確保について留意するとともに、地方自治体の自立的かつ持続的な消費者行政の運営を可能とするための基盤整備を行う。
- (3)国・地方自治体は、地方消費者行政の推進に向け、多様な消費者の身近な相談窓口として、人口規模に関わらず、すべての市区町村に消費生活センターを設置する。
- (4)国・地方自治体は、公的な活動をしているにもかかわらず運営面で厳しい状況に置かれている適格消費者団体に財政的・人的な支援を行う。
2.消費者の権利を守り、健全な消費行動の確保に向けた施策を推進する。
- (1)国・地方自治体は、食品をはじめとする商品・サービスの安全基準の設定や、重大事故情報報告・公表制度の運用の徹底、問題のある商品の回収ならびにサービスの差し止めなどに関する制度を整備し、消費者の生命・身体の安全を確保する。
①「事故情報データバンクシステム」を活用し、生命・身体にかかる消費生活上の事故情報などを収集・周知し、事故を防止する。
②商品・サービスの安全確保に関する事業者の責任を明確化したうえで、遵守に向けた啓発・支援を推進するとともに、違法な行為に対する厳正な措置を講ずる。
- (2)国・地方自治体は、消費者契約に関する各種制度の整備および適切な運営をはかり、消費者と事業者との公正な取引を確保する。
①不当な勧誘・契約によって消費者の財産上の利益を侵害することがないよう、消費者契約に関する制度を整備し、適切な運営をはかる。
a)消費者契約に関して、消費者被害に関する裁判例、消費者相談の蓄積を踏まえ、調査・分析を行い、救済に向けた環境整備、消費者保護を強化する。
b)「特定商取引法」の実効性を担保し、訪問販売、通信販売、電話勧誘販売などの特定商取引の適正化をはかる。
c)「割賦販売法」「貸金業法」などの実効性を担保するとともに、多重債務問題などに関する実態の把握ならびに対策の充実をはかる。
d)「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」の消費者へ周知徹底をはかる。
②取引に関する事業者の責任を明確化したうえで、遵守に向けた啓発・支援を推進するとともに、違法な行為に対する厳正な措置を講ずる。
- (3)国・地方自治体は、消費者の安全かつ適切な商品・サービス選択を確保する表示制度の整備・運用をはかる。
①食品表示に関する規定を一元化した「食品表示法」にもとづき、産地判別などへの科学的な分析手法の活用などにより、効果的かつ効率的な監視及び立入検査などの執行業務を通じて食品表示の適正化を担保する。
②食品表示制度は、消費者が適切に食品を選択するための機会の確保や、消費者のニーズに即した食品の生産の振興に資するよう国際基準との整合を進める。また、「不当景品類及び不当表示防止法」「外食の原産地表示ガイドライン」にもとづき、事業者に対する適正な表示に関する啓発・指導を強化し、外食におけるメニューなどの適切な表示を推進し、不正表示を一掃するとともに、食品表示ウオッチャー制度の継続・強化をはかる。
③加工食品の原料原産地表示の義務化については、実行可能性を確保しつつ、消費者にとって真に必要な情報が提供可能な表示方法を検討する。
④機能性表示制度については、消費者の健康被害が発生した場合や、事業者による虚偽の届出、消費者が誤解をする誇大な表示をした場合などに対し、届出の撤回と事業者に対する厳正な処分を行う。また、表示が妥当かどうか監視を行い、本制度の適正運営の周知徹底をはかる。
3.科学的根拠にもとづく食の安全を確保し、安心して食生活を営める環境を整備する。
- (1)国・地方自治体は、消費者基本法と基本計画をふまえ、科学的根拠にもとづくリスク分析を行い、生産地から食卓にわたる食品の安全性の確保・品質管理の徹底をはかるとともに、消費者に対する適切な情報提供を行う。
①TPP11の発効に伴い、表示義務のない外国産の遺伝子組み換え食品の増加や、低濃度・長期間摂取による影響も加味した適切な規制値の設定ならびに見直しを行い、身体への影響に関する研究の推進、含有濃度の実態調査、消費者に対する情報提供・摂食指導など、リスク低減のための対策を講じる。また、健康への懸念が示唆される物質については、予防的取り組み方法にもとづき、その情報を公開する。
②食品表示法にもとづくアレルギー表示や食品添加物表示について、飼料添加物中の不純物および分解・反応生成物に関する表示の徹底、適切な規制値の設定、摂取状況の調査と分析法の向上、検討過程を含めた消費者に対する情報公開など、安心・安全の確保に向けた取り組みを推進する。
③いわゆる健康食品など栄養機能食品制度(特定保健用食品・機能性表示食品・栄養機能食品)は、製造管理・品質管理の徹底、身体への影響に関する研究の推進、健康被害の情報収集・分析、消費者に対する情報公開・摂食指導など、安全確保に向けた取り組みを推進する。
④遺伝子組換え食品・動物用医薬品の原料生産に用いる遺伝子組み換え微生物については、安全性に関する審査の徹底、身体や環境への影響に関する研究の推進、流通管理の徹底、消費者に対する情報提供や適切な表示など、安全確保に向けた取り組みを推進する。
- (2)国・地方自治体は、食中毒をはじめとする食品事故などの未然防止と、発生時の拡大防止・原因究明に向けた食品衛生監視の体制を強化するとともに、消費者への適切な情報提供を徹底する。
①フードディフェンスの考え方を踏まえた衛生管理システム強化によるHACCP導入、GAPやGMPの導入に向けた環境整備、実効性を慎重に考慮したトレーサビリティの拡大などを通じて、食の安全・安心の確保に資するフードチェーンを確立する。衛生・品質管理システム導入などを担う人材育成や、消費者理解を促進するための取り組みを推進する。
②食中毒事件の被害拡大防止に必要な原因究明を行うとともに、対策事例を共有し、細菌・ウイルス・動物性自然毒・植物性自然毒などに関する疫学調査を支援する。
③食品防御の考え方と対策を周知し、危機管理などに関する取り組みを促進する。法令遵守の徹底や食品事故対応マニュアルの整備などを促す取り組みを継続する。
- (3)国は、「食品安全基本法」を、国・地方自治体および食品関連事業者の責務ならびに消費者の役割を明らかにする法律から、消費者の権利を保障する法体系に改める。
- (4)国は、「食品衛生法」で規定されている食品等事業者の販売食品および原材料等の安全性確保のための必要な知識・技術の習得や検査などの措置を義務規定とする。
- (5)国は、食品ロスの削減を推進する。また、食品関連事業者における消費期限・賞味期限の適切な設定ならびに流通現場における納入期限・販売期限に関する運用ルール(「三分の一ルール」)の見直しを促進する。
4.悪質商法などによる消費者被害の防止と救済に向け、消費者教育や情報提供を強化する。
- (1)国・地方自治体は、不当な取引や表示などに関する消費者への情報提供・注意喚起、被害の回復・救済および苦情処理、事業者に対する監視・指導強化、悪質な行為に対する罰則の強化などをはかり悪質商法から消費者を保護する。
①新たな悪質商法の手口や形態を迅速に把握し、関係者による情報の共有化をすすめる。さらに、警察庁などとも連携して適切な措置をはかるとともに、消費者に対する情報提供・注意喚起につとめる。
②適格消費者団体による消費者団体訴訟制度の適切な運用により、消費者被害の未然防止・拡大防止をはかるとともに、集団的消費者被害回復にかかる訴訟制度を通じて、被害者救済のための環境整備をはかる。
③裁判外紛争処理手続(ADR)の機能強化を通じて、消費者の苦情を適切かつ迅速に処理する。
④社会問題化している各種特殊詐欺(振り込め詐欺など)や個人間取引による消費者同士のトラブルなどについて、新たな手口や形態を迅速に把握し、消費者に対する情報提供を行うことで被害の未然防止をはかる。
- (2)国は、事業者内部の労働者からの通報が阻害されないよう、「公益通報者保護制度」について政府のガイドラインの活用や労使協議の促進などを通じて、制度の周知と普及、および適切な運用を徹底させる。また、通報者に不利益取扱い(報復)を行った企業に対する行政措置や刑事罰の導入、通報を理由とすることの立証責任の事業者側への転換など、通報者の保護・救済の強化につながる法改正を行う。
- (3)国は、「個人情報保護法」の円滑な運用をはかり、個人情報の適切な取り扱いの推進をはかるとともに、個人情報漏洩事故の未然防止のために事業者等に対する啓発・支援を推進する。
- (4)国・地方自治体は、消費者被害に遭いやすい高齢者や子ども、障がい者などに配慮しつつ、被害の未然防止・拡大防止をはかるとともに相談体制を強化する。
- (5)国・地方自治体は、学校における出前講座などを通じて、社会保障、金融経済、生活設計、財やサービスの価値に対する正しい理解、食品ロスの削減、食の安全の推進、事業者との適切なコミュニケーションのとり方、消費者志向経営のあり方、労働者問題を含む持続可能なエシカル消費などに関する消費者教育を実施する。
①消費者被害・トラブルに関する相談ダイヤル「消費者ホットライン188」の認知率を向上させるために、広報活動を強化する。
②民法改正により成年年齢の引下げが行われたことを受け、新たに成年となる18歳、19歳の知識や経験の不足に乗じた悪徳商法による消費者被害を防止するため、悪意ある事業者に対する規制強化や違法行為への罰則強化をはかる。また、被害の未然防止のため、学校への出前講座による消費者教育を行う。
③「消費者教育推進法」にもとづき、行政、教育機関、民間企業、労働組合など多様な主体の参画により、消費者教育に関する方針や計画を策定し実施する。
④消費者教育の担い手となる専門人材を確保・養成する。
防災・減災に関する政策<背景と考え方>
- (1)わが国は、111の活火山、35,462の河川を有しており、1989年以降、毎年平均で25回の台風が上陸するなど自然災害の発生リスクは極めて高い。また、現時点において土砂災害の危険は約53万箇所、雪崩の危険が約2万箇所を数える。加えて、気象庁が1949年に震度階級を設定して以降、震度7以上の揺れを観測した阪神・淡路大震災(1995年)、新潟県中越地震(2004年)、東日本大震災(2011年)、熊本県を中心とする九州地震(2016年4月14日・16日)がある。そうした状況の中で、これまでの自然災害では、広範囲なライフラインの停止や燃料供給の途絶など、社会基盤への甚大な被害により、行政の限界と自助・共助の重要性、減災の考え方など多岐にわたる課題が浮き彫りとなった。
- (2)また今後、発災の確率が高い地震について、内閣府の被害推定にもとづき土木学会が示した発災後20年間に及ぶ経済活動の被害予測は、首都直下地震で死者約2万3,000人・被害額約778兆円、南海トラフ地震で死者30万5,000人・被害額約1,410兆円となっている。さらに、コースが予測しにくい「スーパー台風」(注1)の襲来、線状降水帯(注2)の発生など局地的な風水害の増加・大規模化、一部の火山活動の活発化、気温40度超えの猛暑など、深刻な被害をもたらす自然災害も発生している。災害を止めることは不可能であるものの、今後の災害による人的・物的被害の軽減するための「減災」の取り組みを強化することが不可欠である。
- (3)東日本大震災や熊本県を中心とする九州地震、西日本集中豪雨災害や北海道胆振東部地震などによる復興・復旧には、相当の時間を要する一方、被災地以外の地域においては、時間の経過とともに発災当時の不安が薄らいでおり、今後、震災の記憶が過去のものとなる前に、わが国において総合的な「防災・減災」対策を国民の参加のもとに構築する必要がある。
- (4)「災害対策基本法」における防災体制や防災計画については、取り巻く状況の変化に対応し、被害拡大の防止と迅速な災害復旧に備える必要がある。併せて、老朽化による事故や、災害発生時にライフラインを支えることになる公共施設等の施設を点検・整備し、耐震化・老朽化対策などの機能の向上・維持をはからなければならない。また、災害復旧時の市民生活の早期安定に向け、国および地方自治体の迅速な支援体制の強化が求められている。
- (5)東日本大震災や熊本県を中心とする九州地震、西日本集中豪雨災害や北海道胆振東部地震など、これまでの自然災害の教訓を経て明らかになったわが国の危機管理・防災対策の問題点を勘案しつつ、これからの「防災・減災」体制を実現するには、膨大な予算と長期間を要するが、重点的分野から優先的に対応する必要がある。
- (注1)スーパー台風 ~台風は、北大西洋や南シナ海(赤道より北かつ東経180度よりも西で100度より東)で発生する熱帯低気圧で、中心付近の瞬間最大風速が17.2m/s(34ノット)以上になる。2013年、フィリピンで発生した台風は、瞬間最大風速が80m/s以上だったことから、風速67m/s以上の台風が「スーパー」と呼ばれることになった。明確な定義はないが、気象庁の台風階級で最も強い、54m/s(105ノット)以上の「猛烈な台風」がほぼ該当する。米軍合同台風警報センターによる台風階級でも最も強い区分にあたる。
- (注2)線状降水帯 ~次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなした、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50~300km程度、幅20~50km程度の強い降水をともなう雨域。最近の事例では、2018年6月28日から7月8日の西日本集中豪雨災害の総降水量が四国地方で1,800ミリ、東海地方で1,200ミリを超えた。また、九州北部、四国、中国、近畿、東海、北海道の観測地点で降水量値が観測史上第1位となり、岐阜県、京都府、兵庫県、岡山県、鳥取県、広島県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、長崎県(1府10県)に特別警報が発令された。
1. 総合的な防災・減災対策を充実させる。
- (1)国・地方自治体は、わが国の公助、共助、自助、外助が適切に機能する「災害マネジメントサイクル(Disaster Management Cycle)」を構築し、人命を最優先しつつ自然災害リスクに対する国民のリテラシー向上に向けてハザードマップを周知するとともに、活用に向けた防災教育を徹底し、関係団体と連携し、社会全体としての防災能力を向上させる。
- (2)地方自治体は、平時から地域における「顔の見える関係」を構築し、災害時の助け合いにつなげ、女性、子どもも含めた地域のコミュニティづくりを推進する。
- (3)国・地方自治体は、地域防災計画の策定・修正において、地域住民・地域企業の意見を反映させることはもとより、地方防災会議に女性・若年者・高齢者・障がい者・生活困窮者・外国人労働者の参画を担保する。地域防災会議へは、多様な立場の参画を担保し、タイムライン防災などについて住民の理解が深まる理解促進をはかる。(「社会保障制度の基盤に関する政策」(12)① 参照)
- (4)地方自治体は、国が定めた「男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針」に従って防災・復興に取り組むとともに、防災担当部局に女性職員を配置し、女性のニーズを把握する。
- (5)国・地方自治体は、市民・事業者による自主防災活動との連携や、災害に対するボランティア活動など地域で求められる役割を広く周知・広報するとともに、ボランティア休暇制度の充実について産業・使用者団体等の理解を促進する。また地方自治体は、地域の社会福祉協議会が災害時の被災地支援活動を円滑かつ体系的に実施できるようにするため平時から社会福祉協議会の強化を支援する。さらに、災害時に避難施設となりうる民間施設の登録利用とともに、当該施設を所有する企業・組織への支援・助成制度を構築する。
- (6)国・地方自治体は、支援協定の締結など地方自治体間の連携を促進する。また、支援協定にもとづく特例として、行政機関の許認可などにより営業区域が限定される民間事業者が、指定営業区域を越えて被災地支援を行えるよう、法整備を行う。
- (7)被害が広域・甚大で当該地方自治体の対応能力が著しく低下している場合には、首長の要請がなくても自衛隊の出動を含め、国が復旧・復興の指揮を執る。さらに、甚大な被害が発生した被災自治体の自主財源が乏しく、その後の復旧・復興に向けて、国による財政支援の明確な担保と長期的な支援が必要な場合には、特別の立法措置を行う。
- (8)国・地方自治体は、首都直下地震や南海トラフ巨大地震、台風や集中豪雨などの風水害に備えるとともに、災害に強い国土づくりに向け、人命を最優先にして被害の最小化をはかる減災対策を推進する。
- (9)国は、被災者生活再建支援法を改正し、被災者の住宅に対する被災者生活再建支援金の対象・金額を拡大する。また、応急仮設住宅の建設、公営住宅などの提供、被災者が自ら民間賃貸住宅を仮住居とした場合の家賃補助など、仮住居に関する公的支援を拡充する。なお、応急仮設住宅での滞在期間が長期化する場合、早急に仮設ではない公営住宅等に移り住むことができるよう対策を強化する。
- (10)国・地方自治体は、地震保険の制度としての強靭性を高めつつ、関係団体と連携し、地震保険の必要性や制度内容をこれまで以上に周知・広報し、その普及・促進を行う。
- (11)国・地方自治体は、防災上、緊急整備を要する地域や被害・復旧コストを明確に公表し、地域住民の自然災害に対する認識を深める。また、「都市防災総合推進事業」の範囲を拡大し、都市以外においても「災害危険度判定調査」を実施するなど、防災整備事業を拡大する。
- (12)国・地方自治体は、自然災害に対応できる人材確保を含めた体制の維持をはかる。
- (13)国・地方自治体は、電気・ガス・石油・交通・運輸などの社会インフラに関する防災・減災対策について、作業員の安全を確保しつつ、ハード・ソフトの両面から強化し住民への周知をはかる。
- (14)国・地方自治体は、近年の多発する災害を受け、雇用確保に向けた施策、企業による地域への貢献、避難所の提供などに対する支援を含む企業の「事業継続計画(BCP)」の策定を努力義務として法制化し、その策定・改定を促進する。また、まだBCPを策定していない中小企業に対する策定支援について、技術的支援を行うとともに、企業の防災対策の強弱を入札における加点要素に加えるなどBCP改定・制定のインセンティブを導入する。
- (15)国・地方自治体は、企業の安全配慮義務が自然災害にもおよぶことを周知・広報し、就業中の事業場で遭った自然災害や、帰宅を命じた際の通勤途上などでの労働者保護をさらに促進させる。
- (16)国・地方自治体は、気候変動適応法にもとづき、地域が限定された災害に対応できる農作物に対するリスク分散につながる保障制度の確立と、気候変動に対応した品種の開発と転作などの指導を行う。
- (17)国・地方自治体は、防災教育の場としての「学校」に継続的な防災教育の仕組みを構築していくとともに、地域住民を対象とした防災訓練や勉強会を実施し、防災意識の向上と危険地域の周知徹底をはかる。また、災害時に子どもが通う学校と保護者が情報共有するための安価で安定的なシステムを開発・普及するとともに、帰宅できない子どもが多く発生する場合に備え、あらかじめ学校と保護者の間で引き渡し判断などのルールについて確認する。
- (18)国・地方自治体は、災害用の装備品・備蓄品について、女性、高齢者、障がい者、子ども、外国人労働者の意見もふまえて拡充するとともに、防災訓練を強化する。(「社会保障制度の基盤に関する政策」(12)① 参照)
2. 災害時に機能する信頼性の高い情報収集・伝達体制を構築する。
- (1)国・地方自治体は、住民、地域組織、学校、企業などと連携し、災害発災時に被害状況を収集・集約・精査し、関係機関へ情報が迅速かつ確実・正確に伝達・共有されるよう人的体制も含めた体制整備を行う。(「ICT(情報通信)政策」より再掲)
①Lアラートの普及・拡充とともに、情報発信と伝達について多言語発信を含めた手段の多様化を推進する。
②J-Alertや防災行政無線などを通じた警報等が確実に伝わるよう設置場所や人的体制なども含めた整備を行う。
③防災行政無線および消防救急無線の早期かつ円滑なデジタル方式への移行を進めるとともに、妨害電波への対策を強化する。
④ソーシャルメディアなども含めた多様な情報通信手段の利用を周知・徹底するとともに、障がい者や生活困窮者、外国人労働者等に対しても確実に情報が伝わるよう施策を講じる。(「社会保障制度の基盤に関する政策」(12)① 参照)
⑤官民が保有するG空間情報を活用した「総合防災情報システム」の整備・運用を早急に進めるとともに、都道府県等における当該システム導入促進に向けた必要な財政や人的支援を積極的に行う。
⑥自治体における防災担当者の育成・確保や平時におけるLアラートなどを活用した総合的防災演習の充実をはかる。
⑦国・地方自治体は、災害発生時においても住民サービスや医療が提供されるよう情報資産を保護する取り組みを推進する。また、事業者に対してもバックアップ体制の構築などを指導する。
⑧発災が予測される際に公共交通機関等を停めて安全を確保するなどの災害対応に関する情報を広く周知するため、地域の企業や学校等との情報共有のための必要なネットワークづくりを進める。
- (2)地方自治体は、情報が錯綜しないよう、住民、地域の消防団・水防団や地域コミュニティ組織、民間企業などと連携し、特性の違う複数の手段により被害状況を収集・集約し、防災関係機関、報道機関、ライフライン・公共交通機関へ逐次情報の共有化をはかる。
- (3)国・地方自治体は、発災時における防災担当者の業務負担の極度な増加につながらないシステムを構築し、迅速な情報の収受を実現する。また、災害により故障が発生した場合にも、迅速に対応できる体制の整備をはかる。
- (4)国・地方自治体は、大規模災害発生後における情報通信手段の確保や情報提供のあり方など、情報の発信や収集に関わる総合的な取り組みを推進する。(「ICT(情報通信)政策」より再掲)
①大規模災害時における臨時災害放送局(ミニFM放送局等)の設置・開設にかかる行政手続きの迅速化・簡素化を制度化する。
②政府や地方自治体は、災害時における非常用移動基地局、非常用電源設備の移送、燃料の確保など、情報通信事業者が確実に事業を遂行できるよう必要な支援や対策を行う。
③政府は、停電時においても情報通信手段が確保されるよう非常用蓄電池の普及・開発に対する支援や非常用発電機の燃料備蓄などの取り組みを進める。
④公共施設や避難所等に衛星携帯電話などの非常用通信手段を配備する。
⑤国・地方自治体は、被災地で必要となる情報の発信について一元的な管理を行うとともに、被災者からの行政等に関する問い合わせについてもワンストップでの対応が可能となるよう取り組みを推進する。また、地域ごとにきめ細やかな情報提供が行われるよう、通信と放送の融合などICTの活用や情報通信事業者をはじめとする民間事業者との連携を強化する。
⑥訪日外国人旅行客の増加をふまえ、観光庁の災害アプリ「Safety tips」の利用促進と共に、適宜機能の充実をはかる。
- (5)地方自治体は、自然災害が発生した後に建築物の敷地・構造および建築設備の安全・衛生・防火・避難などの状況について、土木・建築に関する公的資格を有する者が検査・判定し、その結果を報告する現行の「被災宅地危険度判定」・「応急危険度判定」制度を統合する。
- (6)国・地方自治体は、高齢者、障がい者、子ども、外国人労働者その他特に配慮を要する者に対し、発災時に実現可能な対応策を定めるとともに、「地域の連携や助け合い」による正確な情報の伝達と安全な避難活動につなげるための支援を行う。また、防災・減災に関する児童用、障がい者用、外国人労働者用などのパンフレットを作成し、効果的に配布する。(「社会保障制度の基盤に関する政策」(12)① 参照)
- (7)国・地方自治体は、これまでの災害の教訓をもとに、情報伝達の補完手段としての、自治会・町内会などによる連絡網の整備など、地域の助け合いなどを促進する。また、非常時において特定小電力トランシーバの活用や、アマチュア無線を活用した「非常通信ボランティア活動」について検討を行う。
- (8)国・地方自治体は、防災行動計画の中に、国・地方自治体、公共交通機関、企業、学校、住民が連携する「タイムライン(「いつ」、「誰が」、「何をするのか」をあらかじめ時系列で整理した防災行動計画)」を組み込み、災害時に各主体が連携した対応を行うことを支援する。
3. 災害の被害を低減させるための施設・装備を充実させる。
- (1)国・地方自治体は、研究機関や大学、民間企業と協力し、自然災害軽減化技術の開発・普及を行う。
- (2)国・地方自治体は、災害に向け優先的に補強すべき箇所を把握するための診断技術の精度を向上させるとともに、災害に耐えうる設計・施工方法を進展させる。
- (3)国・地方自治体は、予防保全の観点から、建築物・構造物の変状を単に補修するだけでなく、その原因を追及して機能を強化し、相対的に安全性を高める。
- (4)国・地方自治体は、既存施設の耐震化や津波対策をはかる。また、老朽化が進む社会資本を適切に維持管理・更新し、長寿命化を推進する。さらに近年の大規模災害の教訓をふまえ、上下水道のような生活に必要な公益事業の迅速な復旧を行うため、非常時における自治体間の相互応援体制の整備を促進する。(「経済政策」、「国土・住宅政策」参照)
- (5)国・地方自治体は、救援ヘリ、特殊車両、特殊艦艇、発電機、防災備品などの装備品の充実と備蓄品の拡充を行う。
- (6)国・地方自治体は、大規模建築物や避難路沿道建築物などの耐震化や、住宅の耐震改修に対する支援をはかる。
- (7)国・地方自治体は、平常時にはスポーツ施設として運営し、発災時には緊急避難施設としての機能を備えた運動施設の整備など、民間の知恵や資金を活用したPPP/PFIを推進する。
- (8)国・地方自治体は、水害や土砂災害を未然に防ぐため、災害の起こりやすさや想定される被害を考慮した上で、予防的な治水対策を計画的かつ着実に実施する。
- (9)国・地方自治体は、災害に強い国土づくりや防災・減災対策を推進するため、社会資本整備総合交付金等を活用する。
- (10)地方自治体は、大規模な災害発生時に備え、平時から他地域の地方自治体との効果的な相互扶助をはかるため、「広域的地域間共助推進協議会」を活用し、行政・民間事業者・労働組合などによる広域的な地域間共助を推進する。
- (11)国・地方自治体は、東日本大震災の教訓を生かし、津波などによる被害が大きいと想定される地域において地籍調査を強化することで、官民境界の調査などを推進する。(「国土・住宅政策」参照)
- (12)国・地方自治体は、訪日外国人旅行客が安全に安心して旅行できるように、大規模災害時に宿泊・観光施設における初動対応や避難誘導が行える体制を構築する。
- (13)国・地方自治体は、情報通信・上下水道・石油・ガス・電気などのライフラインの安心・安全を担保するとともに、学校・病院・空港・港湾・旅客施設・主要幹線道路・橋梁などの公共・生活関連施設における耐震補強や老朽化対策を早期に完了させる。
- (14)国・地方自治体は、わが国の多くの地域に立地する臨海部工業地帯を自然災害に強い構造へと速やかに整備をすすめる。
- (15)国は、災害発生時における避難施設となる公共施設において、最新の基準法令に沿った耐震化を計画的に進め、耐震補強工事後の耐震強度や工事費用を国民にとってわかりやすいものとなるような仕組みづくりを推進する。
- (16)国は、巨大地震に伴う津波などが想定される地域において、地域全体の「高台移転」など大規模な減災対策に当該自治体および住民の合意が得られている場合は、その実施に向け適切な財政的支援を行う。
- (17)国・地方自治体は、初期消火の成功率向上の観点から、家庭用消火器・簡易消火器具の保有、風呂水のためおきなどの促進や、家具の転倒・落下防止対策の実施による防災行動の実施可能率の向上に向けた周知・広報活動を強化する。
- (18)国・地方自治体は、落石や土砂災害の予防の観点から、山林などの地籍調査をさらに推進し、その所有者に対し管理の強化を求める。(「国土・住宅政策」参照)
4.災害発生時に機能する医療体制を整備・強化する。
- (1)災害があっても医療機関あるいは在宅で安心して医療を受けられる体制を整える。(「医療政策」より再掲)
①DMAT(災害派遣医療チーム)による救命・急性期医療の対応や、DPAT(災害派遣精神医療チーム)および「心のケアチーム」によるメンタルケアに加え、感染症、慢性疾患、精神疾患など慢性期医療にも対応できる医療チーム体制を平時から整備する。
②災害時でも地域住民に対する医療・介護サービスを提供できるよう、広域的な医療と介護の連携体制を確保する。
③災害時の医薬品・医療機器・医療材料の安定供給と流通体制の確保に向けて、国、都道府県、市町村、企業、卸業者の連携を平時から強化する。
④都道府県は、関係団体と連携し、「災害医療コーディネーター」および「地域災害医療コーディネーター」の設置を推進し、国はこれを支援する。
⑤災害により機能停止した医療機関に受診していた患者が、他の医療機関で速やかに診療や処方箋の交付を受けられるよう、電子カルテ化の推進とデータのバックアップ体制を構築する。
⑥在宅でも安心して医療機器を使用できるよう、たん吸引機、人工呼吸器、酸素発生器、腹膜透析機器、輸液、中心静脈栄養および経管栄養のポンプなど在宅用医療機器のバックアップ電源の普及を進めるとともに、レンタル機器の確保と提供体制、患者への情報提供体制の確保を進める。
⑦大災害や停電下での地域における人工透析の提供体制を確保するため、水および透析液を備蓄した透析医療機関の計画的な整備を行い、患者への情報提供を確実に行う。
⑧国は、すべての医療機関に非常用電源装置の設置を義務付けるなど、停電対策の推進とそのための財政支援を行う。また、大規模災害発生時における医療機関への優先的な燃料供給体制を構築するとともに医療機関における事業継続計画(BCP)の策定を進める。
- (2)国・地方自治体は、被災地や避難所における感染性疾患の拡大を防止する観点から、医療分野での感染症抑制の知見や経験をもとにした予防措置に対し、人的・物的・財政的な対策を行う。
- (3)国・地方自治体は、一次救命措置が実施可能な市民を育成するため、救命講習などを各地で開催するとともに、学校教育においても、積極的に導入する。
- (4)国・地方自治体は、クラッシュシンドロームとその対象方法などについて、広く周知・広報を行う。
5.多発化・深刻化する気象災害(大雨(豪雨)、台風、高潮、竜巻、内水氾濫(浸水害)、 洪水害、地すべり、崖崩れ、土石流、豪雪、暴風雪等)の発災時に対応できる体制を 整備する。
- (1)国・地方自治体は、風水害の頻度・規模が大きく変化していることを受け、想定最大規模(1,000年に一度の降雨量)の浸水想定域の公表を定めた水防法(2015年改正)など風水害対策関連法規を検証し、より深刻な事態を想定した「命を守ることを重点とした地域防災計画」を策定・改定する。
- (2)国・地方自治体は、気象情報の分析などを強化し、気象災害の予見可能性を高めるとともに、災害対策技術の向上をはかる。
- (3)国・地方自治体は、建築・建造物、工作物の管理・予防措置に不備があった場合、天災であっても損害賠償を請求される可能性があることについて周知・広報を行い、管理者による施設管理を徹底させる。
- (4)国・地方自治体は、各地域の様々な災害に対応した各種ハザードマップや危険箇所など住民の資産に影響を及ぼす可能性のある情報の提供について、地域の実情を踏まえつつ、慎重かつ確実に実施するとともに、自主避難の目安について一層の周知・広報を行う。(「国土・住宅政策」参照)
- (5)国・地方自治体は、避難勧告などを出しても安全確保行動をとらない住民が一定程度存在することを想定し、深刻化する風水害と生活への影響に関する啓発活動をこれまで以上に強化する。
- (6)国・地方自治体は、土砂災害防止の観点から、災害がより発生しやすい箇所を特定しつつ森林管理を重点的に行うとともに、斜面の崩壊等防止工事などを強化する。
- (7)国・地方自治体は、豪雪地帯対策特別措置法にもとづき、豪雪時における、交通・通信の確保、農林業対策、生活環境施設の整備等などを強化するとともに、除雪中の事故防止対策を拡充する。
- (8)国・地方自治体は、除雪にかかる予算を拡充しつつ、豪雪時における弱者対策を充実させるとともに、除雪作業の地域格差を低減する。
- (9)国・地方自治体は、ICT技術を活用し、地域防災機能を強化するとともに、自然環境保護との両立を基本に、流域における森林・農地・河川などを一体とした治水計画を作成・実施する。
①自治会や消防団等の地域コミュニティを支援・強化し、地域防災力の向上をはかる。
②多発化する豪雨災害などを受け、洪水・内水(浸水)・土砂災害等の各種ハザードマップの作成・公表、および、見直しを行うとともに、地域防災計画の見直しを行う。また、きめ細かな気象予報と地域住民への緊急情報システムを早急に確立する。
- (10)国・地方自治体は、地下河川や地下遊水池を含む河川整備を推進するとともに、道路の透水性・排水性舗装への転換を促進し防災機能を強化する。
- (11)国・地方自治体は、風水害や土砂災害を未然に防ぐため、特殊土壌地帯災害防除および振興臨時措置法などにもとづき、災害の起こりやすさや想定される被害を考慮した上で、予防的な治水対策を計画的かつ着実に実施する。
- (12)国・地方自治体は、建設発生土の不適切処理に対処するため以下の対策を講ずる。
①公共工事におけるフロー管理にもとづく指定処分(発注者が契約業者に土砂の搬出先を指定)を民間工事も対象とする。
②堆積に伴う生活環境保全上(粉じん、濁水など)及び防災上の支障の未然防止と除去ができるよう地方自治体が土地所有者と盛土の行為者に適正管理の責任や指定処分など取扱いの徹底ができるよう法令・条例の運用の実効性を高める。
③建設発生土の不適切な投棄に対しては、廃棄物の不法投棄に対する罰則と同等とする。
6.到来が予想される巨大地震や火山活動などの発災時に対応できる体制を整備する。
- (1)国・地方自治体は、大規模建築物や避難路沿道建築物などの耐震化や、住宅の耐震改修に対する支援をはかる。また、住宅の「直下率」を建築基準法や住宅性能表示制度に規定することを検討するとともに、軟弱地盤の地域を中心に液状化対策を推進する。(「国土・住宅政策」参照)
- (2)国・地方自治体は、首都直下地震や南海トラフ巨大地震などに備えた、災害に強い交通・運輸体系を構築する。(「交通・運輸政策」参照)
①広域物資拠点として選定された民間物流施設における非常用電源設備を導入する。
②大規模災害時に民間事業者と連携して、「災害救援フェリー」による救急輸送ネットワークを整備する。
③大規模災害時に鉄道が運行できない場合に備え、燃料を備蓄し、トラック・バス輸送の活用などにより代替輸送を確保する。
④駅や高架、橋梁やトンネルなどの耐震対策を行う。
- (3)国・地方自治体は、阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本県を中心とする九州地震、西日本集中豪雨災害や北海道胆振東部地震など、これまでの自然災害の教訓を踏まえ、地震に伴う土砂災害・津波などの情報発信のあり方や、避難所の設定・運営のあり方について、女性、高齢者、障がい者、子ども、外国人労働者の意見も踏まえて検証・改定するとともに、震災の記憶が忘却されないよう必要な措置を講ずる。
- (4)国・地方自治体は、都市部においては、公共交通機関の体制整備をはかるとともに、企業、住民と協力しつつ、駅前滞留対策や一時滞在施設の運営など帰宅困難者対策の充実をはかる。また、帰宅困難者対策を総合的に推進するための条例を制定する。
- (5)国・地方自治体は、農村部においては、危険なため池や、溢水のおそれのある農業用施設などの整備を進めつつ、農業用燃料タンクの重油流出による火災発生などの二次災害への対策を講じる。離島においては、ヘリコプターや船舶を活用した関係機関の連携による避難体制や救出・救助体制を構築する。過疎地においては、建設発生土の投棄や、残土崩落による水路の閉塞や景観悪化、資源有効利用促進法や条例等で定められた施策では十分な効果が得られない課題について対応するため、循環型社会形成推進基本法を根拠とした排出者責任の具体化を検討する。
- (6)国・地方自治体は、火山などの監視体制の強化と、桜島などの経験をもとにした火山灰対策の蓄積と水平展開をはかる。また、噴火の場合は、避難までの時間的猶予がほとんどなく、生命に対する危険性が高いため、噴火警報や避難計画の周知を十分に行う。
- (7)国・地方自治体は、住宅・マンションの耐震診断・耐震改修の支援(改修費用の一部補助を強化)を行う。(「国土・住宅政策」参照)
- (8)国・地方自治体は、ビル・マンション、戸建住居などにより異なる防災対応の周知・広報の強化をはかる。(「国土・住宅政策」参照)
- (9)国・地方自治体は、火山活動や噴火の予知が現状では困難であることを踏まえ、火山活動の変化を感知するシステムのより一層の普及とともに、活動変化をすばやく近隣の市町村や登山者などに伝達する。
- (10)国・地方自治体は、火山活動や噴火による影響が長期間継続する傾向にあることに鑑み、噴火などによる被害が発生した場合においても、地域住民が日常的な仕事や生活を送れるよう十分な準備と対策を検討する。
7.自主防災組織と消防団・水防団の体制を強化する。
- (1)国・地方自治体は、防災ボランティアの登録制度を全国に展開させるとともに、ボランティア休暇制度の充実について産業・使用者団体等の理解を促進し、防災NPOによる専門家派遣を強化する。
- (2)国・地方自治体は、自主防災組織や消防団・水防団への女性の参画を促進するとともに、女性の能力が発揮できるよう環境整備を行う。
- (3)国・地方自治体は、自主防災組織や消防団・水防団の役割と意義について、地域住民への意識啓発・広報を行い、参加と協力を求める。
- (4)国・地方自治体は、消防団・水防団員が活動するために必要な人数を確保する観点から、団員が所属する企業に対するインセンティブ施策を導入する。
- (5)国・地方自治体は、消防団・水防団員の装備品の充実と訓練の強化を行うと共に、防災ボランティア活動共済保険などへの加入を支援する。
政治改革<背景と考え方>
- (1)政治は、国民全体の幸福や社会の安全と秩序を維持するための調整・統合作用であり、日本でも多くの先進諸国と同様に、選挙を通じて選ばれた代表によって構成される議会が、国民の意思を体現しつつ国政を運営していく「議会制民主主義」を採用している。議会制民主主義においては、選挙を通じて表明された国民の意思により政府が形成され、国政の方向が定められることを理念としているが、現実的には、政党、政治団体、そして公職の候補者の政治活動によって国民の意思や利益が組織化され、政治の場に表明されている。
- (2)連合は、結成当初から、この議会制民主主義が健全に機能することを基本目標の1つとして掲げるとともに、今日においては、与野党が政策で切磋琢磨する政治体制の確立や癒着のない透明でクリーンな政治なども含めて運動を展開している。すなわち、連合が求める政治の実現に向けては、議会制民主主義の根幹をなす統治機構である議会が正常に機能することに加え、その円滑な運用のために無視しえない存在である政党のあり方、多様な民意が適正に反映される選挙制度や主権者たる国民から信頼される政治資金制度などが重要となる。
- (3)しかし、昭和後期からの相次ぐ政治スキャンダルなどを受けて数々の施策が講じられた平成の政治改革を経てもなお課題が山積している。とりわけ「政治とカネ」に関する問題は後を絶たず、依然として閣僚や議員が不透明な政治資金の流れや口利き疑惑を追及される事態を招いており、「ザル法」といわれる政治資金規正法などの改正を求める声は根強い。
- (4)選挙制度についても、一票の較差の是正を中心に改革が試みられてきた。衆議院については、2017年6月に公職選挙法の一部を改正する法律が成立した結果、定数は小選挙区289、比例区176となり戦後最小の465となった。なお、衆議院選挙の議席配分方法については、2020年国勢調査の結果にもとづき「アダムズ方式」を導入することが決まっている。一方、参議院については、2015年7月の法改正により「合区」が創設されたことを受け、2018年7月に比例区において定数を4増やし、一部に拘束式の特定枠を設ける措置がとられた。この特定枠については一部の政党の党利党略といわざるを得ないが、そもそも合区自体が都道府県という政治的単位の重要性を軽視した制度であり、民意が国会に届きづらくなるなどの難点があるため、対象となった県、全国知事会などもその解消を求めている。
- (5)こうした一連の政治改革の中でも、とりわけ、平成の政治改革の一つの柱であった政治主導は、正しい理念ではあったものの現時点では積極的に評価することを留保せざるを得ない状況にある。民主党政権では官僚や閣外議員を政策策定や決定の場から遠ざけたことなどから政治主導が空回りし、その後の自公政権では、官邸に過度に権力が集中し三権分立のバランスが崩れてしまっている。特に後者は、議院内閣制のもとで多数党が内閣を支える立場にあるといえども、少数党との丁寧な協議のもとで社会全体の利益に資する立法を行うという民主主義のプロセスが蔑ろにされる場面が散見されている点、行政監視機能が著しく低下している点に問題がある。一方、野党も民意を適切に反映させるべく国会論戦を挑んでいるものの、政府・与党の日程ありきの国会運営に巻き込まれ、対立法案については日程闘争に注力せざるを得ない状況に陥っている。そしてマスコミも、本質的な政策論議が深まらない与野党の姿ばかりを取り上げ、国民の政治不信を助長している。国会改革は国民本位の充実した審議を行うために急務であり、国会機能の強化と運営の効率化がセットで進められるべきである。
- (6)政治改革の遅れは、国民のさらなる政治離れを招きかねない。各種選挙の投票率の低下傾向には回復の兆しがみえておらず、特に2015年の法改正により選挙権が付与されることとなった10代の投票率については、法施行直後の2016年参議院選挙では18歳51.17%、19歳39.66%だったものの、その後の国政選挙では低下傾向にある。また、地方においては投票率の低下に加え、議員のなり手不足も深刻化しており、各級選挙で無投票当選が相次ぎ、町村議会議員選挙では定員割れも発生している。今後も多くの地方自治体で人口減少が進むことが確実視される中で、地方政治の持続性を高めるためには、公職休職を可能とする環境整備、兼業を前提とした議会運営の見直し、住民参加を促すことなどを目的とした「議会基本条例」の制定促進等が必要である(参考:2016年3月連合「地方における政策実現力の強化策検討のためのPT」報告書)。
- (7)このように日本の政治が危機的な状況に陥るなかで、国民の政治への関心と信頼感を高め、わが国の民主主義をさらに成熟させるために政治改革の断行は急務である。立法府が自らの責任を果たすための議会改革等を進めるとともに、全世代の投票率向上に向けた主権者教育の充実、政治分野における女性の参画推進、そしてすべての人が選挙権・被選挙権を確実かつ適切に行使するための環境整備が求められる。
1.公職選挙法などを改正し、公平・公正でわかりやすく、また、政党・候補者が政策を競い合う、国民の立場に立った選挙制度にする。
- (1)公職選挙法について、買収・供応の禁止、利害誘導の禁止については現行の規定を維持しつつ時代に即した見直しを進める。
①インターネット等による選挙運動の解禁により発生した、WEBサイト等を利用する場合の取り扱いと、文書図画の頒布・掲示に関する規制の不整合を是正する。
②戸別訪問については、有権者が候補者の政策を知り、その理解を深めるための有効な手段であるため、解禁する。
③公開討論会については、選挙期間中の開催を禁止する制限を撤廃し、自由に開催できるようにする。
④国政選挙においても電子投票制度を導入する。加えて、投開票における利便性と効率性の向上のため、指定された投票所以外の場所や端末での電子投票を可能とする。その際は、不正・トラブル防止、機器選定の公平性・透明性の確保、政党・候補者名の画面表示の公平性の確保などについて必要な措置を講ずる。
- (2)だれもが選挙権および被選挙権を確実に行使できるよう、必要な法改正を行うとともに投票率向上に向けた施策を講じる。
①高齢者、障がい者、傷病者、妊婦、海外赴任者などの選挙権行使を保障するため、郵便投票の投票証明書申請から実際の投票までの手続きの簡素化および対象者の拡大を行う。また、「成年被後見人の選挙権の回復等のための公職選挙法等の一部を改正する法律」にもとづき適正な運用が行われるよう対応をはかるとともに、代理投票における補助者の要件を改正する。
②障がい者に対する投票支援策として、投票方法、投票環境、投票用紙等に関するアクセシビリティを向上するとともに、政見放送の手話・字幕放送の義務化や選挙公報・選挙通知の多様な形態での提供など、選挙に関する情報保障を充実する。
③日常生活全般に介助が必要な障がい者が、選挙に立候補し選挙活動を行うには多くの困難を伴うことから、障がいのある立候補者を想定した具体的措置を講ずる。
④投開票の簡素化・効率化、疑問票の削減、障がい者の投票参加の拡大などの観点から、投票方法を自書式から記号式に改める。
⑤船員の選挙権行使を保障するため、現行の洋上投票制度が、都道府県知事選挙をはじめとする地方選挙においても実施可能となるよう制度の拡充をはかる。
⑥転居後3ヵ月に満たない有権者について、転居先の地方自治体が管轄する投票所において簡便に投票ができるように条件整備する。
⑦国は、有権者の投票機会のさらなる確保のため、共通投票所の設置の拡大ならびに期日前投票の投票時間の弾力的な設定について、地方の選挙管理委員会や市区町村へのきめ細かな対応・支援を行う。また、その経費について、国政選挙では十分な国費を確保するとともに、地方選挙でも実施にあたって財政運営上の支障が生じないよう必要な措置を講じる。
⑧県・市区町村選挙管理委員会は、投票者の利便性と投票率向上の観点から、投票所(期日前投票を含む)を頻繁に人の往来がある施設に設置する。また、共通投票所の設置の拡大ならびに期日前投票の投票時間の弾力的な設定に努めるとともに、施設側からの公募を行う。
- (3)国民が自らの権利や義務など国民生活を営むうえでの必要な知識を蓄えることに加え、政治に対する意識も高めるなかで政治参画を促すことを目的に義務教育段階から主権者教育を実施する。
- (4)すべての選挙の選挙権年齢が18歳以上へと引き下げられたことを踏まえるとともに、若者の政治意識高揚の観点から被選挙権も18歳以上へ引き下げる。
- (5)参議院選挙における合区については、都道府県という単位の政治的重要性に鑑み、参議院に地方の事情に精通した全国民の代表としての活動など、二院制のもとでの独自の役割を定めることによって解消する。
- (6)地方の選挙制度について、公平・公正、有権者の権利拡大の観点から制度改革を進める。
①統一地方選挙の期間に実施されていた地方選挙のうち、震災等の事由により統一実施でなくなったものについては、一定期間経過の後に再び統一実施となるよう制度改正を行う。
②選挙権年齢が18歳に引き下げられたことを踏まえ、1~3月上旬の間の任期満了に伴う地方選挙については受験と重ならない前後の時期に執行する等、特別な立法措置を講じる。
②永住外国人への地方参政権の付与については、国民的な議論と合意の上で対応する。
2.国民の政治に対する不信感を払拭するため、政党法を制定し政党の位置づけなどを明確にする。加えて、政治資金規正法などを改正し、公開と透明性の確保を徹底するとともに規制の実効性を高める。
- (1)政党の位置づけ、権利・義務等を規定したいわゆる政党法の制定に向け、検討を進める。あわせて、国会運営の基本単位となっている会派についても、法的な地位、権利、政党との関係等を明確にすることも検討する。
- (2)政治資金に対する有権者の監視機能を発揮しやくするため、収支の公開と透明性を高める。
①政治資金や選挙に関する法令遵守の徹底のための独立した専門機関を設置し、公職選挙法や政治資金規正法を実効性あるものとする。
②自らが代表者となっている政治団体の収支報告書には政治家本人の署名を義務づけるなど、政治資金の収支への政治家本人の責任を明確化するとともに、政治家本人に対しても虚偽記載に対する罰則を適用する。
③総務省および都道府県選挙管理委員会による政治資金収支報告書の公開・閲覧の期間を現行の3年より延長するとともに、インターネット上での公開を義務付ける。
④資産公開については、政治任用された首相補佐官などについても議員と同様の資産公開を行う。
- (3)国民の政治に対する不信感を払拭するため、政治資金の授受に関する規制等の実効性を高める。
①政治家個人の政治資金の授受を禁止し、すべて政治資金は政治団体を介するものとする。政治家個人は主たる政治団体を一つ指定し、当該団体がその政治家の関係するすべての政治団体の資金収支を集計して報告する義務を課す。
②政治資金の金銭授受は、現金での授受を禁止し、受け手が指定した金融機関の口座を通じてのみ行うこととする。また、収入も監査の対象とする。
③政治献金の抜け道にもなっている、政党や政治団体の機関誌紙への「広告料」については、年間の上限額を定める。
④国会議員関係政治団体を親族が引き継ぐことを禁止し、解散時の資産は政党や国庫などに帰属させる法律を制定する。
⑤あっせん利得処罰法について、これまで立証の難しさからほとんど適用がなかったことから、その実効性を高める改正を行う。
- (4)国会議員在任中の株取引を禁止するとともに、親族・秘書などの名義の株取引は公開し、違反に対する国会議員本人の責任を明確にする。
3.多様な意見が適切に反映され充実した審議が行われる国会・地方議会へと改革する。
- (1)慣習憲法として存在し、その時々の総理大臣の判断に自由に行使されてきた憲法第7条3号の衆議院解散権については、議会が内閣不信任案をとおすという異例の事態が起こった際の解決策としてしか合理性はないことから、これを制限する。
- (2)与野党は、国会主導のもと、国会審議の充実化に向けた国会機能の強化策を講じるとともに、行政機関や立法機関の職員等の働き方にも留意し運営の効率化を進める。
①国会機能の強化
a)国会法を改正し、通常国会の会期を大幅に延長して国会を実質的に通年化する。また「会期不継続の原則」を見直し、審議未了案件は後会に自動継続させ、衆議院の任期満了・解散をもって廃案とする。
b)2014年に当時の与野党7党が申し合わせた審議充実策(党首討論の毎月1回実施、定例日の常任委員会開催、提出議案の速やかな委員会付託など)について各党は遵守を徹底する。
c)いわゆる束ね法案の一括表決は、国民への情報公開の観点や国会議員の表決権を侵害しかねないなどの問題があるため一定の制限を加える。その際、法案を逐条的に審査・表決する制度などの導入を検討することによって、併せて法案審議の充実もはかる。
d)政党政治の確立、議員立法の活性化に向けて、両院の法制局、常任委員会調査室および国会図書館等の立法スタッフの強化をはかる。
②国会運営の効率化
a)総理大臣や国務大臣の国会出席に上限を設け、外交や国内における政務を充実させる。
b)審議の計画化をはかり、「質問通告」は2開庁日以前とする原則を徹底し、答弁に必要な準備時間を確保する。
c)衆議院本会議でも電子投票による押しボタン式表決制を導入する。また、立法責任が明確になるよう、議員個人の投票結果を公開する。
③多様な意見の適切な反映
a)政党交付金の配分については、議員数割部分に対する得票数割部分の比重を高めるなどの見直しを通じて、より民意が反映される制度となるよう検討を進める。
b)2018年5月に施行された「政治分野における男女共同参画推進法」の実効性を高めるため、クオータ制導入に向けた必要な法整備を行う。また、政党による女性議員の発掘・育成を支援するために、女性議員の割合に応じた政党交付金の傾斜配分などの制度支援を行う。さらに、議員の仕事と家庭の両立を支える環境整備を行う。
- (3)地方議会は、より充実した審議を行うべく議会運営の見直しやなり手不足などへの対策を進める。
①被雇用者が公職の候補者となる場合に休暇の取得ができ、議員期間中は休職のできる立候補休暇・公職休職制度を整備する。
②地方議会は、地方議員の兼職も前提とした議会運営の見直しを進めるとともに、広く住民の傍聴を促進するため、夜間・休日開催などの多様な開催形態を検討する。
③地方議会は、住民の福祉の向上と住民自治の発展を目的とし、地方議会の公開性・公正性・透明性の確保、執行に対する監視・評価や政策立案機能等を掲げる「議会基本条例」の制定に取り組む。また、地方議会における「議員立法」推進のための制度や議会事務局の調査機能の拡充など、「二元代表制(注1)」の機能充実のため環境整備を行う。
- (注1)二元代表制 ~首長と議会議員をともに住民が直接選挙で選ぶ制度
行政・司法制度改革<背景と考え方>
- (1)わが国では、超少子高齢化や人口減少が進行するとともに、都市部と山間部、内陸部と沿岸部など、地域間だけでなく、地域内での二極化が進む一方で、地域で求められる公共サービスも多様化している。また、リーマンショックを契機とする経済危機からの回復過程や東日本大震災からの復興過程の中では、それまでの行き過ぎた経済効率の追求が、ソーシャル・キャピタル(注1)の減少をもたらし、そのことが地域経済、地域社会に様々な負の影響を与えたことが明らかになっている。
- (2)社会経済が成熟し、大きく右肩上がりの成長が期待できない中で、上記のような本質的課題を克服するためには、政府・地方自治体だけでなく、地域の民間事業者、NPOなどが持つ知的・人的資源を有効に活用することが重要である。そのためにも、地域住民の参加のもと、NPOや企業等の多様な主体が当事者としての自覚と責任を持ち、協働・共助に取り組むことで、支え合いと活気ある社会をつくる「新しい公共」を推進する必要がある。
- (3)また、限られた財源の中で、住民のための公共サービスを維持・向上させるためには、行政改革を積極的に推進する必要があるが、その一方で、行政の透明性の確保、安心・安全のためのセーフティネットの確保を前提としながら、効率的で質の高い公共サービスを実現することが求められる。そのためには、それを担う「人と組織の改革」を行わなければならないが、まずもって、国際基準から大きく逸脱している公務員の労働基本権を取り戻すことが必要である。わが国の公務員の労働基本権については、これまでILOから11度もの勧告を受けていることを踏まえ、自律的労使関係が確立されるまでの間、国、地方自治体は労働基本権制約の代償措置たる人事院・人事委員会勧告制度を尊重することが必要である。国民本位の行政を行うためには、引き続き政府に対し、透明で公正な公務員制度改革を求めていかなければならない。
- (4)規制改革にあたっては、「雇用の安定」「消費者保護」「公平・公正な競争条件の確保」を前提とし、そのメリット・デメリットを慎重に見極め、行き過ぎた規制緩和にならないよう、雇用のセーフティネット、国民への安心・安全を保障する必要がある。
- (5)司法制度についてはこれまで「労働審判制度」や「裁判員制度」が実施されるなど、国民が参加することでより良い制度となるよう改革が進んできた。また、2016年5月には刑事訴訟法が改正され、冤罪を防止する観点から一部事件に限って被疑者取り調べの過程の録画が義務づけられた。今後、わが国の司法制度が国民の信頼を得つつ、増加するニーズに応えるためには、引き続き制度を充実させることが求められている。
- (注1)ソーシャル・キャピタル(Social capital)~社会関係資本と訳される事が多い。OECDでは、「グループ内部またはグループ間での協力を容易にする共通の規範や価値観、理解をもったネットワーク」と定義される。地域社会においては、住民同士の信頼関係や良好な人間関係のもとで、相互の協調行動や行政とのパートナーシップが活発になるほど、豊かな社会を形成できるとされる。日本では、東日本大震災の復興過程において、地域のつながりや絆の重要性が指摘され、注目が高まった。
1.政府は、生活と雇用の安定・向上に責任を持ち、労働組合も参加した平等で公正・透明かつ効率的な国民生活の維持・向上につながる行政改革、関係法人改革を推進する。
- (1)国の重要施策の策定に労働組合代表を含む民間有識者の意見を反映させるとともに、審議会などにおけるジェンダーバランス(男女比率)に配慮する。
①行政における政策の企画立案に国民や働く者の意見を反映させるため、政府の諮問会議や審議会などに産業界、専門家、学識経験者などに加え、消費者や労働組合代表を必ず参加させる。特に、国民生活や雇用労働に重要な影響を及ぼす政策分野の審議会については、労働者、生活者の意見を重視し、労働組合代表を含める。
②「政策評価・独立行政法人評価委員会」に、学識経験者だけでなく消費者、労働組合代表などを審議に参加させるとともに、評価結果を行政運営に的確に反映させる。また、各法人運営において、地域で運営協議会を有するところは、当該地区における消費者、労働組合代表の参加により、評価機能を強化させるとともに、中央の評価委員会と連携させる。
③政府は、歳入・歳出を含む行政監視機能の充実をはかるため、立法府への「日本版GAO(注2)」(行財政監視評価委員会(仮称))の設置を展望しつつ、非議員の積極的な招致を含め決算行政監視委員会の機能・組織を大幅に拡充し、より効率的な政策実現をめざす。(「経済政策」参照)
- (2)効率的かつ公正、透明な中央省庁体制を確立する。
①不明確な許認可基準や事前規制などの不透明な裁量型行政を抜本的に見直し、明確で公正・公平なルールによる事後チェック型行政への転換を進める。
②各府省における縦割り行政を是正するため、省庁間における情報の共有化、中央省庁と地方自治体間の情報システムの単一化を推進する。また、地方自治体への権限委譲と地方支分部局への権限委任を一層進める。
③法令適用事前確認手続については、制度の周知広報を行うとともに、制度趣旨に沿い、民間企業の事業活動が迅速かつ公平に行われるよう、利便性の向上をはかる。
④公文書管理法を改正し、公文書の保存義務範囲の拡大、電子決裁の義務化、公文書管理委員会による監督機能の強化などをはかる。
また、地方自治体においても、公文書管理に関する条例の制定などを進める。
- (3)マイナンバー制度を活用することで、国民生活を守るセーフティネットの仕組みづくりと公正・公平な社会基盤の構築を行う。
①マイナンバー制度が確実に運用され定着するよう、公正・公平な社会基盤として必須であることを引き続き訴え、国民全体への周知を進めると共に、個人情報や資産が国に把握されることの不信に対し明瞭で正確な説明を行っていく。
②感染症を含む緊急事態において、予算措置のみで行う給付にもマイナンバーを使用できるよう、社会保障・税・災害対策の三分野に限定された現行制度を見直し、利用範囲の拡大を法定化する。
③その他の分野での利用については、個人情報の保護を前提に、安全性の確保、行政の効率性の向上および国民生活の利便性の向上が認められる項目を対象とし、国民への丁寧な説明と合意形成をはかる。
④マイナンバー制度を活用し税情報(課税所得)と社会保障給付を連携させ一体的に運営する「給付付き税額控除」を導入し、有事の迅速かつ適切な給付インフラを構築する。
⑤緊急時のセーフティネットとして機能させるため、マイナンバーと口座情報の紐付けを行う。さらに、真に必要な層への的を絞った支援の基盤整備、「給付付き税額控除」の導入、及び金融所得課税を含めた所得税の総合課税化に向けて、国民が開設する全ての口座情報とのひも付けを行う。
- (4)すべての国民が安心して行政情報に容易にアクセスできる「電子政府」を構築し、国民生活の利便性向上につなげる。
①住民基本台帳ネットワークは、行政機関個人情報保護法の下、情報セキュリティ対策を強化し、安心してオンラインによる行政手続ができる体制を整える。
②オンライン申請と住民基本台帳をシステム的に連携させ、申請手続きをデジタルで完結させるなど、真の意味での行政のデジタル化を図る。
③そのために、国は申請データ項目や処理フロー等の統一基準を策定した上で、システム仕様について国が決定し、各地方自治体に対しシステム構築に向けた財政支援を行う。
④デジタル行政推進にあたっては、災害時に備えた非常用電源の確保、データのバックアップやバックアップセンターの整備など、非常時においても業務を継続するために必要な方策を適切に講ずる。
⑤マイナンバーカードを活用した納税手続きの簡素化や、身分証明書として使用できるよう関係諸団体への通知を徹底するとともに、自治体に災害時の避難所の入退所管理での利用を促すなど、普及促進を図る。
⑥マイナポータルは、マイナンバーカードと共にデジタル・ガバメントの基盤であり、マイナポータルがハブとなり、国・地方・民間(保険会社、金融機関など)からの様々な情報を税申告(記入済み申告制度)と給付申請にもつなげ、行政手続きのデジタル化と税・社会保障の連携を図る。
⑦フリーランス等への社会保険適用が求められる中、プラットフォーマ―からの情報を取り込むなどによるマイナポータルの活用により、所得など労働者の実態を正確に把握し、フリーランス等への各種セーフティネットにつなげる。
⑧マイナンバーカードの利用で可能となる対象手続数が更に増加し、制度の利用範囲も拡大していくことが見込まれる中、国民の安心・安全のため、個人情報の厳格な保護、なりすまし防止、また個人情報保護委員会の機能強化など、国民の不安を払拭するための個人情報保護策を引き続き講じる。
⑨行政機関における個人情報保護措置の強化を前提として、国と地方自治体の権限を明確にしつつ、国と地方の垣根を越えた行政のワンストップサービスを一層進める。
⑩地方支分部局など、行政機関を統廃合する場合には、交通アクセスに不利な地域の住民への配慮など、地域事情や「電子政府」構築の進展状況を十分踏まえ、慎重に検討する。
- (4)財政構造改革にあたっては、安全・安心といった国民生活の質に直結する社会保障、公共サービスの充実・強化のために、税制改革による歳入の見直し、公共事業の抜本的な見直しによる歳出の効率化を同時に推し進め、健全な財政をめざす。
- (5)「男女共同参画社会基本法」「第3次男女共同参画基本計画」(内閣府)に基づく施策を推進するとともに、現行計画の実績を踏まえて実効性ある次期計画を策定する。
- (6)公益通報者保護制度における内部職員などからの通報・相談窓口の設置が遅れている市区町村への窓口設置を推進、拡充する。
- (7)独立法人などの改革については、国民へのサービスの水準の低下を招かず、当該職員の雇用の場を確保しつつ、国民生活の維持・向上につながる改革を行う。
①独立行政法人の整理・見直しにあたっては、労働組合との協議を尽くし、職員の雇用不安を引き起こさないよう、個別具体化法案に職員の雇用確保の対策について明示する。
②独立行政法人や特殊法人、認可法人の情報公開を徹底し、公正取引や労働法制の遵守と経費の透明化、事務の効率化を進めるとともに、経営責任の明確化を徹底する。
③独立行政法人については、公益性を堅持しつつ、事業運営における責任体制を明確化して過度な行政の介入を排除する。また、事業運営などについて幅広い国民の声を反映する。
- (8)情報公開法に基づき、行政および独立行政法人などの情報公開を積極的かつ迅速に行い、行政の透明化を進めるとともに、行政における個人情報の保護の徹底をはかる。
①国民からの情報公開請求に対し、不開示の決定をする際には、不開示理由を提示する。事案を請求先以外に移送する際には、理由を提示し責任の所在を明確にする。
②開示請求者、行政機関、独立行政法人などの所在地以外への請求窓口の設置を促進するとともに、電子情報化の推進によりインターネットによる請求手続きを可能とする。
③情報公開・個人情報保護審査会は、民間事業者に対する勧告・命令機能の付加や、専門性が求められる審査にも効率的かつ適正な対応ができるようにする。
④個人情報保護関連法を改正し、法令などに基づく場合を除き社会的差別を助長する情報の収集を禁止する。また、保護法を盾にした不祥事隠しを防止するための対策を講じる。
⑤行政機関・独立行政法人などの個人情報保護法については、職員もしくは職員であった者などの対象に加え、組織的行為も対象とし罰則を規定する。
⑥国、地方自治体は、個人情報取扱事業者などにおける実効ある個人情報保護を支援する。また、個人情報保護状況の把握に努めるなど、監督、指導を適切に行う。なお、就業規則などの改定を求める場合は、労使の十分な協議が前提であることに留意する。また、消費者の利便性を損なわないよう基準を明確化する。
- (9)住民基本台帳の閲覧制度については、個人情報保護の観点から、行政機関が利用する場合など公共性が認められる場合を除き、原則非公開とする。
- (10)すべての地方自治体において貸借対照表を作成するなど、会計制度の透明化を進め、財政状況について情報公開を徹底する。
- (11)政府の広報機能の強化については、政策や法制化の考え方、進捗状況を国民に伝える機能を強化するとともに、この役割を支える言論の自由や市民の知る権利を担保する。
- (12)東日本大震災の経験を踏まえ、非常時に自治体に求められる職種の専門性維持やノウハウの蓄積、それらを担う人材(職員)の確保・育成を行うなどの、公共サービスのリスク管理体制を確立する。
- (13)公正取引委員会の法執行機能を強化・充実する。労働基準監督官を増員し、公正労働基準の監督機能を強化する。また金融機関などに対する市場監視機能を抜本強化するため、証券取引等監視委員会(SESC)に対し、金融庁が同委員会に委任している権限を直接付与し、会計・監査・開示に関する権限を与える(日本版SEC(注3))。
- (注2)GAO ~General Accounting Office の略。米国では、立法府内に設置され、議会の指示を受けて、行政に対する調査・提言を行っている。立法府が行政府の行った評価をチェックするとともに、行政府が評価し難い分野について評価を行う。分析・評価に関する専門的知識を活用するため、民間のシンクタンク、コンサルタントなどの活用が求められている。
- (注3)SEC ~Securities and Exchange Commissionの略。米国の証券取引委員会。大統領や連邦議会から相対的に独立した独立規制機関であり、2,000人体制という巨大な組織で、インサイダー取引、株価操作、情報開示違反等証券関連法規違反事件を捜査し告発する権能をもつ。
2.政府は、新しい公共と民主的で透明な公務員制度改革を進める。
- (1)政府は、地方自治体、民間事業者、NPO、協同組合など多様な担い手が地域課題を共有し対話できる場を各都道府県に設置するとともに、提案型モデル事業を展開するための交付金を復活するなど、「新しい公共」の推進をはかる。
- (2)国民本位の行政を行うため、ILO勧告(注4)に従って、公務員の労働基本権を保障し、公正で能率的に職務を遂行でき、職務能力を高められる公務員制度を構築する。
①一般職の公務員には、原則として労働三権を回復し、団体交渉を基本とした給与・勤務条件決定の仕組みを導入する。また、非現業職員にも不当労働行為救済制度を適用する。
②刑事施設に勤務する職員、消防職員に団結権を認め、労働組合を結成する権利を回復する。
③一般職の公務員に対し、労働組合法、労働基準法、労働関係調整法を適用する。また、雇用保険の適用について検討を行う。
④行政組織方針や国民のニーズに応える行政のあり方など、団体交渉になじまない課題について、労使が意思疎通を深めるための労使協議制度を設ける。
⑤労働委員会に公務部門を担当する委員を配置し、賃金などの団体交渉が不調に終わった場合、労働委員会が斡旋、調停、仲裁を行う制度とする。
- (3)労働組合参加により人事処遇制度を構築し、公平、公正な人事処遇、人事評価とする。
①一般の公務員(含む管理職)の人事処遇は、職務・職責に応じて行うものとし、その職務・職責に対応する処遇内容を労働組合との交渉・協議を通じて定め、適用する。
②人事評価に関する制度や、その運用のあり方などは、勤務条件事項またはそれに密接に関わる事項であることから、労使間で交渉・協議する。
③縦割り行政を廃し、職務・職責を適切に遂行できる人材を配置・育成するため、各府省間の人事交流、配置転換、関係団体などへの出向・派遣に関わるルールを定める。
④公務員の賃金体系については、自律的な労使関係を構築する中で、労使での十分な協議、検討のうえで決定していく。
- (4)採用区分にとらわれない登用や民間などの有為・有能な人材の活用などにより、公務能率向上をはかるとともに、ワークライフバランスの実現に対応するため、中途採用、任期付採用の拡大や、短時間勤務制度など、多様な勤務形態の導入・活用を行う。公務員の民間企業派遣については、労働組合との交渉・協議に基づき派遣基準を定める。
- (5)国の非常勤職員制度の抜本改革のため、労働組合が参加する検討の場を設置し、政府全体として解決に向けた取り組みを推進する。当面、国の非常勤職員の任用は、同一労働・同一賃金を基本とした明確な法規定を設け、勤務条件などについて、常勤職員に適用している法令、規則を適用する。
- (6)採用試験制度の再編や幹部候補育成課程などの整備を踏まえ、採用試験の別によらない、能力・実績に基づく人事管理を徹底するとともに、再就職規制などの透明で厳格な運用を進める。
- (7)公務員に対する基本的人権の制限は、公務員としての職責を果たすために必要最小限の範囲にとどめる。
①不法、不当な職務命令を排除する不利益取り扱いの禁止を法定する。
②政治的行為の制限規定について、一般の公務員(除く管理職)は一定条件の政治活動を行いうるものに改める。
③信用失墜行為に関する服務規定について、公正・公平な基準を示す。
- (8)総人件費の抑制や行政改革の実施により、行政機関・独立行政法人などに働く者の労働条件、雇用に影響が予想される場合には、必ず事前に関係労働組合との交渉・協議を行い、労働条件の維持、雇用の確保に万全の対策を講ずる。
- (9)国家公務員制度改革にあわせ、地方自治を支える基盤として地方公務員制度改革を行う。
①ILOにおける国際労働基準に沿い、地方公務員の労働基本権を確立する。
②地方公務員制度は、地方自治体および労使間の自主性・自律性を尊重するものとする。
③臨時・非常勤職員の処遇改善に向けて、地方公務員法、地方自治法などについてパートタイム・有期雇用労働法の趣旨を踏まえた更なる改正を行う。加えて、これら処遇改善に向けて適宜必要な予算措置を行う。
- (注4)ILO勧告 ~2002年2月に連合がILO結社の自由委員会に提訴した日本の公務員制度改革案件(第2177号案件)に対する同委員会の審査報告書が同年11月にILO理事会において採択され、報告書の中で日本政府に対して、労働側の主張を受け容れ、日本の現行公務員制度はILO条約(結社の自由・団結権保護、団結権・団体交渉権)に違反しており、すべての関係者と全面的で率直な協議が直ちに実施されるよう勧告したもの。これまで11回の同案件に関する勧告が出されている。
3.政府は、雇用創出、地域活性化につながる規制改革進めるとともに談合を排除し、公正労働と質の高いサービスを確保できる入札改革を行う。その際、雇用安定のセーフティネットに配慮し、公正ルールを確立する。
- (1)規制改革については、 先端技術等競争力や新たな雇用・産業の機会創出につながる分野の規制を優先して見直すとともに、国民の安全や健康の確保、環境保全、公正労働基準の維持など「社会の質」に関わる規制は強化する。規制改革の推進にあたっては、不公正取引の排除、反競争的行為による独占の禁止、雇用の安定など、公正な競争ルールの確立をはかる。また、行き過ぎた規制改革が起きないよう、規制改革された結果に関する検証システムを構築する。
- (2)官民競争入札の事業選定にあたっては、国民に保障されるべき公共サービスの質・水準を明示した上で、「官民競争入札等監理委員会」において慎重に検討する。
- (3)構造改革特区や総合特区は、地方自治体が住民や労働組合などの幅広い意見を必ず聞き入れた上で構築し、真に雇用創出や地域活性化に資するよう進める。特区の特例措置が、労働条件の悪化、企業倒産・失業増などの弊害をもたらす場合は、国・地方自治体が責任をもってこれを廃止し、復旧させる。
- (4)公契約において、公正労働基準の確保、環境や福祉、男女平等参画、安全衛生など社会的価値も評価する総合評価方式の導入を促進する。その際は明確な評価基準を設定する。
- (5)公契約に関する基本法を制定し、その中で公正労働基準と労働関係法の遵守、社会保険の全面適用などを公契約の基準とする。法整備をはかることにより、ILO第94号条約の批准をはかる。また、違反企業に対する発注の取り消しや違約金の納付制度などのシステムづくりを進める。あわせて、発注側(国や地方自治体など)についても、改正官製談合防止法の適切な運用や公務員の天下り規制強化などによって、談合などを生み出さないしくみを強化する。
4.司法制度改革を着実に推進する。
- (1)司法制度改革審議会意見書の理念を実現する司法制度改革が今後も推進されるよう、労働組合代表を含む民間有識者による会議を実施する。
- (2)裁判員制度の国民への定着を促進する
①裁判員制度への国民の理解を促進するための取り組みを推進する。
②裁判員に選ばれた国民が裁判に参加しやすい環境を整備する。特に、各企業が「裁判員休暇」を有給で創設するよう啓発活動を推進する。
③裁判員とその家族などに対するインターネット上の誹謗中傷も含めた安全が担保できるよう必要な制度の見直しを行うとともに、裁判員の精神的負担に対するフォローが出来る体制を整える。
④裁判員候補者の辞退率の上昇に拍車がかかることがないよう、辞退事由についてのチェック機能を強化する。また、裁判員経験を社会で適切に共有できるよう、守秘義務の明確な運用に向けたガイドラインを策定する。
- (3)手続きの透明性や国民への説明責任が担保された、国民にもわかりやすい刑事司法制度の実現に向けて更なる改革を推し進めるとともに、現行制度の運用の適正化をはかる。
①裁判員裁判対象事件・検察独自捜査事件に限らず、全事件の取調べの全過程を録音・録画することを制度化する。
②通信傍受の対象拡大に際しては、通信事業者の負担や対応者の安全確保に配慮した制度設計を行うとともに、通信の秘密が守られるよう適正な運用を行う。
③被疑者・被告人の身柄拘束の判断が適正に行われるよう、防御権とともに刑事訴訟法に考慮事情を明記する。
④被疑者取調べへの弁護人の立会いを制度化する。
⑤証拠の全面的な開示を進めるとともに、再審請求事件においても証拠開示を制度化する。
- (4)「法テラス」(注5)が利用者本位の運営となるよう、業務状況のフォローアップと適宜見直しを行う。
- (5)裁判官、検察官、弁護士の法曹人材の質・量(数)を十分に確保する。多様な法曹人材を養成するため、法科大学院における教育や司法試験の在り方、司法修習の在り方、就職支援のための制度整備などが一体的な制度となるよう必要な見直しを行う。
- (6)法律文言の見直しや訴訟手続きを簡易なものに改善する。また、司法のしくみや働き全般に関する司法教育を学校教育や社会人教育においても充実させる。
- (7)労働事件を扱う司法制度を充実させる。(「雇用・労働政策」参照)
①労働事件に、労使の専門家が参加する「労働参審制」を全地方裁判所に導入する。なお、参審員は労使団体から選出された者を裁判所が任命し、裁判官と同じ評決権を持たせる。
②労働関係訴訟の専門性確保の観点から、主要な高等裁判所に、職業裁判官1名と労使団体の推薦による「労働裁判官」(仮称)2名の計3名により事件処理にあたる「労働高裁」(仮称)を創設する。
- (8)改正民法(債権法)の施行にあたっては、労使双方に広く周知するとともに、当事者の予見可能性を害することのないよう、十分な経過措置を講じる。
- (9)商法(運送・海商関係)改正にあたっては、船員の労働債権の範囲を狭めることがないよう、現行法を尊重したうえで、より労働者の保護に資する改正を行う。
- (注5)法テラス ~独立行政法人。地方裁判所本庁所在地(全国50カ所)に地方事務所を持ち、紛争解決に役立つ法律情報や紛争解決機関の情報の無料紹介、民事法律扶助、犯罪被害者支援など、国民に対して法律に関連するサービスの提供を行う。
地方分権改革<背景と考え方>
- (1)1993年6月、衆参両院における「地方分権の推進に関する決議」が可決され、これを契機として地方分権改革の取り組みがスタートした。1995年5月には「地方分権推進法」が成立し、それを受けて発足した地方分権推進委員会の5次にわたる勧告にもとづき、1998年5月に「地方分権推進計画」が閣議決定され、2000年4月に「地方分権推進一括法」が施行された(第一次地方分権改革)。これにより、これまで国と地方を「上下」関係にしていた機関委任事務制度が廃止となり、地方自治体の事務は自治事務と法定受託事務に整理され、法律上は「対等・協力」関係となった。
- (2)2004年から2006年にかけて、税財政制度改革として「国から地方自治体への税源移譲」「国庫補助負担金改革」「地方交付税改革」の3つの改革が一体的に行われたが(三位一体の改革)、地方自治体への権限や税財源の移譲などが十分に進んでいないことなどを受けて、2006年12月に「地方分権改革推進法」が成立し、第二次地方分権改革の取り組みがスタートした。同法にもとづいて発足した地方分権改革推進委員会は、第1次~第4次にわたる勧告を行い、これらを踏まえて「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」(第1次~第4次一括法)が制定され、これまで国が義務づけてきた基準や施策などを、地方自治体が地域特性やニーズに応じて自ら決定し実施できるようになった。
- (3)この間、民主党政権においては、地域主権改革を一丁目一番地の改革課題とした上で、2010年6月に閣議決定した地域主権戦略大綱の中で「日本国憲法の理念の下に、住民に身近な行政は、地方公共団体が自主的かつ総合的に広く担うようにするとともに、地域住民が自らの判断と責任において地域の諸課題に取り組むことができるようにするための改革」と定義し、2011年の第1次一括法、第2次一括法に加え、地方六団体(注1)の念願であった「国と地方の協議に関する法律」を成立させ、国と地方自治体との協議の場が法制化されることになった。その後、第2次安倍政権において第3次一括法(2013年)および第4次一括法(2014年)が成立し、これをもって地方分権改革推進委員会の勧告事項は一通り検討されたとして、第二次地方分権改革は一区切りとなった。
- (4)その一方で、規制緩和や権限移譲は第1次~第4次一括法に盛り込まれた事項のみに限られることや、事務の移譲に見合った税源移譲が行われていない等の課題を踏まえ、今後の地方分権改革を推進する新たな手法として、2014年度から、これまでの委員会勧告方式に代えて、権限移譲や規制緩和を地方から国に対して提案する「地方分権改革に関する提案募集制度」が導入された。その後、各年度における「地方からの提案等に関する対応方針」の閣議決定にもとづき、移譲された事務・権限が円滑に執行できるよう、国は確実な財源措置を含め必要な支援を行うとするとともに、国から地方自治体、都道府県から指定都市への事務・権限の移譲や、地方自治体に対する義務付け・枠付けの見直し等について、関係法律(第5次、第6次、第7次、第8次一括法)の整備が進められ、第198通常国会においては、第9次一括法が審議されている。
- (5)「働くことを軸とする安心社会」の実現に向けては、地方分権改革を進め、地方自治体の機能を高めることは不可欠の課題である。なぜならば、働くことを支える公共サービスは、人々に身近なところで、それぞれのニーズを汲み取りながら設計され、提供される必要があるからである。 国と地方自治体それぞれが分担すべき役割を明確にし、地方自治体の自主性・自立性を高めるとともに、地域住民の意思を反映することで、個性豊かで活力に満ちた地域社会の実現を図るとともに、公平・公正かつ効率的な行政運営を求めながらも、住民のための公共サービスの質を落とすことなく、生存権や生命の安全、ナショナルミニマムの確保を堅持しうるバランスのとれた改革が必要である。
- (6)連合は引き続き、国と地方の役割・権限の見直し、財源保障の充実を通じ、人口減少・少子高齢化に対応する、地域の自主性を尊重した公共サービスの提供ができる体制の拡充を求めていく。
- (注1)地方六団体 ~地方自治体の首長の連合組織である全国知事会・全国市長会・全国町村会の執行3団体と、地方議会の議長の連合組織である全国都道府県議会議長会・全国市議会議長会・全国町村議会議長会の議会3団体を合わせた6つの団体の総称。これらの団体はいずれも地方自治法第263条の3に規定されている全国的連合組織に位置づけられており、地方自治に関する事項について総務大臣を通じて内閣に申し出を行なったり、国会に意見書を提出したりすることができると定められている
1.国と地方は、役割分担を明確にしつつ、地方自治の本旨に合った地方分権を進めるとともに、充実した審議と住民の意見反映が行われる地方議会へと改革する。
- (1)国、都道府県、市町村の役割分担を明確にして国と地方との関係を再検討する。「基礎自治体優先の原則」による行政に転換し、住民の意思を反映した行政制度となる仕組みを整備する。その際、保育、介護、児童養護、障がい者福祉、義務教育など、生存権や生命の安全の確保など、とりわけ人としての尊厳や子どもの成長に深く関わるサービスについては、国の最低基準の確保を前提とする。
①国家としての存立に関わる事務や全国的な視野に立った施策、国の責任としてのセーフティネットなど、国が担うべき事務以外の事務については広く地方自治体が担うべく、地方自治体の事務に対する国の義務づけを縮小する。
②国の直轄事業は、「全国的な見地から必要とされる基礎的または広域的事業」に限定する。国の直轄事業の範囲は法令に明示し、事業ごとの法的根拠の明示を義務づけるとともに地方負担のあり方を見直す。それ以外は原則として地方自治体が実施または管理するものとする。
③国の直轄事業については、国と地方が事前に協議し、事業実施に際して地方議会の議決を経るなど、地方の合意のもとで必要な事業を実施する。
④法定受託事務はできる限り新設しないこととし、現行の法定受託事務についても適宜見直し、自治事務を拡大する。
⑤地方自治体の自治事務に対する国の是正の要求については、国の関与を出来る限り抑制するため、発動要件を厳しく限定する。
⑥都道府県と市町村の争いに関わる「自治紛争処理委員」については、独立した第三者機関としての機能を十分に持たせる。
- (2)地方自治体は、地方議会の活性化に加えて、行政事務手続きの簡素化、行政情報へのアクセス向上等に取り組むとともに、地方行政の政策決定過程や行政評価への住民参加を促進させる。情報公開条例、行政手続条例、個人情報保護条例、行政評価条例の制定を促進するとともに、外部監査制度の導入やチェック機能等の役割を果たすNPOの活用を進める。
- (3)国は、地方税財源の充実確保に向け、地方分権と地方税財源のバランスのとれた改革を行う。
①地方分権の推進状況を継続的に監視するとともに、国と地方の役割分担をふまえ、地方税財源の改革を進めていく。見直しにあたっては、人や税財源をセットで検討する。
②国と地方の協議の場などを活用し、地方財政計画の策定や地方交付税算定を行うなど、決定プロセスの透明化をはかる。
③国税と地方税の比率については、当面は、社会保障と税の一体改革の進捗状況を踏まえて、国と地方の役割分担に応じた配分を進めつつ、将来的には少なくとも50 対50 となるよう引き続き税源移譲を進める。(「経済政策」より再掲)
④既存の国庫補助負担金制度について、公共事業等のための地方自治体の使い勝手の良い財源として国庫補助金の一括交付金化をはかるなどの改革を進める。このとき、社会保障や義務教育に係わる一般行政費国庫負担金は、一括交付金化の対象としない。社会資本整備総合交付金、防災・安全交付金については、地方自治体におけるより自由度の高い活用に向けて不断に制度を見直す。(「経済政策」、「税制改革」より再掲)
- (4)行財政基盤の強化および地方分権の推進に資する行政体制の確立を進める。
①地方自治体は、地方行政の基盤強化や行財政運営の効率化をはかるとともに、都道府県をはじめ区域を越える広域的行政課題に対応するため、住民合意のもと、広域連合制度を活用する。
②地方自治体は、合併等地域住民に大きな影響を及ぼす事案については、住民投票を活用してその是非を問う。その際、あらかじめ住民への情報開示を十分に行う。
③政府は、市町村合併の主たる目的である行財政効率化に逆行する合併特例法における合併市町村議員の在任特例を廃止する。
④国・地方自治体は、道州制について検討する場合には、地方分権改革に関する諸問題について、自治と統治のバランスや、地方自治体の自立と相互連帯の観点から十分に検討を行うとともに、地方自治を実現するための手段・仕組みとして、そのあり方や具体像について検討する。
⑤大都市制度の検討にあたっては、住民・国民に情報を公開するとともに、目的や全体像をわかりやすく説明し住民・国民本位の地方分権に資するよう検討する。
- (5)地方自治体は、財政情報や財政運営情報を開示し、議会審議や監査の充実、オンブズマンによるチェックなど、地方自治体財政の健全性確保に向けた仕組みを構築する。(「行政・司法制度改革」より再掲)
①住民参加による行政評価を徹底して必要性の低い公共事業は、縮小・廃止する等歳出構造を見直し、効率的な公共サービスの提供を進める。
②財政再建団体に陥らないよう、地方議会は、実効性ある行政監視の実施等の改革を進める。また、地方自治体の行財政運営についてのチェック機能を強化させる。
③再生団体・早期健全化団体となった場合は、住民生活への過度な影響を避けるため、住民の暮らしや安心・安全に直結する住民サービスなどの水準確保に十分配慮する。
- (6)地方議会は、兼職も前提とした議会運営の見直しを進めるとともに、広く住民の傍聴を促進するため、夜間・休日開催などの多様な開催形態を検討する。(「政治改革」より再掲)
- (7)地方議会は、住民の福祉の向上と地方自治体の発展を目的とし、地方議会の公開性・公正性・透明性の確保、執行に対する監視・評価や政策立案機能等を掲げる「議会基本条例」の制定に取り組む。また、地方議会における「議員立法」推進のための制度や議会事務局の調査機能の拡充など、「二元代表制(注2)」の機能充実のため環境整備を行う。(「政治改革」より再掲)
- (注2)二元代表制 ~首長と議会議員をともに住民が直接選挙で選ぶ制度
2.国と地方は、相続税、土地税制等資産課税の強化や、企業の社会的責任に見合った税・社会保険料の負担、社会的課題に対応した公平で簡素な税制措置などを行うとともに、地方分権にふさわしい地方税・財政をめざして改革を行う。(「税制改革」より再掲)
- (1)土地等の譲渡に関する税制の簡素化や国税、地方税等の課税標準となる土地の評価のあり方について検討する。コンパクトシティづくりの促進や市街化調整区域内の土地利用のあり方等に留意しつつ、租税特別措置を総点検し、課税ベースを拡大する。また、住宅にかかる登録免許税と不動産取得税のあり方について簡素化、地方財源化する方向で検討する。
- (2)地域による偏りが少なく安定的な地方税体系とする。
① 所得税改革と歩調を合わせ、地方住民税の人的控除を所得控除から税額控除にかえる。所得税の基礎税額控除の引き上げと歩調を合わせ、地方住民税の基礎税額控除(3.3 万円→6.6万円)と税率(10%→11%)を見直す。
②地方分権に逆行する特別法人事業税および地方法人税の仕組みを廃止し、法人住民税(法人税割)および法人事業税(所得割)と消費税の税源交換を実施することについて検討する。
③法人事業税については、外形標準課税(付加価値割)の法人事業税全体に占める割合を縮小させる。外形標準課税の適用範囲の拡大、税率、実施時期については、雇用や所得に与える影響および中小企業の業績回復の状況などを見極め、慎重に検討する。中小企業については、雇用安定控除を拡大する。そのうえで、外形標準による課税の考え方を維持しつつ、法人住民税などとの整理・統合を検討する。
- (3)財政調整機能と財源保障機能の両方を兼ね備えた地方交付税の仕組みとし、現行の交付税水準を維持・改善する。
①地方財政計画の仕組みを基本的に維持する。
②地方における社会保障などの財源不足への対応として、臨時財政対策債の発行に替えて地方交付税の法定率引き上げを検討する。
③国と地方の協議の場等を活用し、地方財政計画の策定や地方交付税算定を行うなど、決定プロセスの透明化をはかる。
- (4)既存の国庫補助金負担金制度について、公共事業等のための地方自治体の使い勝手の良い財源として国庫補助金の一括交付金化をはかるなどの改革を進める。このとき、社会保障や義務教育に係わる国庫補助負担金は、一括交付金化の対象としない。社会資本整備総合交付金、防災・安全交付金については、地方自治体におけるより自由度の高い活用に向けて不断に制度を見直す。
- (5)「ふるさと納税制度」については、本来寄附金は経済的利益の無償の供与であることに鑑み、過度な返礼品の規制や個人住民税の特例控除の段階的な縮減など、制度・運用の両面において実効性のある改善をはかる。また、ふるさと納税の理念を周知徹底して、納税者や地方自治体における適切な制度活用を促す。
- (6)住民のニーズをふまえ、住民の立場に立った公共サービスとなるよう不断の見直しを行う。それに伴う税負担等について情報発信し、租税教育を行う。
- (7)地方自治体の課税自主権の活用は、住民の行政参加を促し自治意識を高める観点から、基本的には尊重する。ただし、新たな税を創設する際には、①財政状況や行・財政改革の計画を明らかにし、課税の必要性についての説明責任を果たす、②住民(法人も含む)が意見反映できる機会を設ける、③既存の地方税との関係を整理する、ことを前提とする。
- (8)税法上の総所得が基準となる国民健康保険料や自治体の補助金について、税法改正により生活困窮者の連鎖的な負担増とならないよう措置を講じる。
- (9)各自治体において、NPOなど市民活動団体を支援するため、自分の納税する住民税の一部について市町村を通じて寄附する仕組みを創設する。
人権・平等政策<背景と考え方>
- (1)人種、民族、宗教、肌の色、性別、年齢、疾病、障害、門地、性的指向・性自認等による人権侵害はいまだに続いている。また、近年では特定の人種や民族に対し憎しみをあおるような差別的表現、すなわちヘイトスピーチやインターネット上で知らない間に行われている差別拡散などによる悪質な人権侵害が横行しており、大きな社会問題となっている。
- (2)日本国憲法第13条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由および幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と規定されている。国は人権の尊重を国政上の最重要課題として扱うことが要求されているが、公権力による人権侵害、私人間における人権侵害のいずれに対しても、十分かつ迅速な解決と救済は保障されていない。
- (3)民主党政権時の2012年11月、「人権委員会設置法案」ならびに「人権擁護委員法の一部を改正する法律案」は国会に提出されたが、審議に入れず廃案となった。一方自民党は、人権委員会の設置に対して反対の姿勢を明確に示しており、「個別法」で対応するとしている。2016年には「障害者差別解消法」、「ヘイトスピーチ解消法」および「部落差別解消推進法」など差別禁止に関する法律は制定されたが、法の実効性に欠けるため、地方自治体での条例制定など法の具体化に向けた取り組みを進め、差別禁止を含む包括的な人権侵害救済法(仮称)を制定し、救済制度や国内人権委員会の創設が急務である。
- (4)日本人拉致問題について、2014年5月に再調査を実施することで日朝は合意したが、北朝鮮は2016年2月12日、拉致被害者を含むすべての日本人に関する包括的調査を行う特別調査委員会を解体すると一方的に宣言した。その後進展がなく、2019年1月現在、政府が認定している北朝鮮による日本人拉致被害者17名のうち、帰国者はわずか5名に留まっているほか、拉致の可能性を排除できない行方不明者は800名以上に上る。
1.人権侵害を廃絶するため、人権侵害への救済制度を確立し、差別を許さない社会づくりを推進する。
- (1)国は人権侵害に対する十分かつ迅速な解決と救済を目的とする「人権侵害救済法(仮称)」を早期に制定し、人権救済機関を設置する。
①人権侵害救済法(仮称)は、人権侵害を受けた被害者の救済を目的とし、人種、民族、信条、性別、年齢、社会的身分、障害などを含むものとする。
②人権救済機関については、政府からの独立性を担保した人権委員会を設置する。
③人権委員会については、我が国における人権侵害に対する救済・予防、人権啓発のほか、国民の人権擁護に関する施策を総合的に推進し、政府に対して国内の人権状況に関する意見を提出することなどをその任務とする。
- (2)国は就職差別の廃絶へ向け、応募採用の実態把握を行い企業への指導を強化するとともに、ILO111号条約を早期に批准する。
①「職業安定法第5条の4、および大臣指針」「男女雇用機会均等法」「統一応募用紙」の趣旨を各事業所に周知徹底するため、さらに創意工夫を加え、啓発・指導を強化する。
②文部科学省および高校、大学などと協力して、「受験結果報告書」用紙の収集など各地の取り組みの実態を具体的に把握するとともに、「報告書」用紙の参考例または好事例を示し、特に大卒者の取り組みの全国化と充実をはかる。また、事業所独自の「エントリーシート」の項目についての点検も強化する。
③応募時における健康診断の実施や健康診断書の提出について、事業主に対して啓発、指導を強化するとともに、業務遂行に必要な特定職種の場合に限定されるよう啓発、指導を徹底する。
④取り組みの遅れている地方自治体や小規模事業所などに対して啓発活動の強化などの対策を講じる。
⑤採用における差別を禁止する法整備をおこない、ILO111号条約を早期に批准する。
- (3)国は北朝鮮による日本人拉致事件を早期に解決する。
- (4)国はすべての被爆者を対象に、国家補償に基づく被爆者支援を実現する。(「被爆者援護政策」より再掲)
- (5)国は差別やえん罪のない安心して働ける社会に向けて積極的に取り組む。
- (6)国は「障害者差別解消推進法」、「ヘイトスピーチ解消法」および「部落差別解消法」について、法の実効性の確保に向けて必要な法改正等に取り組む。
2.政府は、グローバル化の進展に伴って増加する人権擁護など諸課題への対応を強化する。
- (1)「人身取引対策行動計画2014」などに基づき、労働搾取の防止、人身取引被害者の保護・未然防止と被害者支援の強化に努める。また、ILO「1930年の強制労働条約の2014年の議定書」を批准する。(「国際政策」より再掲)
- (2)真に保護するべき難民に対する保護強化の観点から、難民条約等国際的な理念に則り、難民認定制度や運用を改善し、包括的保護制度を確立する。また、第三国定住の拡大および「難民保護法」の制定を目指し、早急に検討を進める。(「国際政策」より再掲)
3.人権を冒とくする性の商品化や暴力を許さない社会づくりを推進する。(「男女平等政策」 より再掲)
- (1)政府は「第5次男女共同参画基本計画」(2020年12月決定)の「第5分野 女性に対するあらゆる暴力の根絶」に記載されている施策について迅速かつ着実に実行する。
- (2)女性に対するあらゆる暴力(パートナーからの暴力(DV))、性犯罪、売買春、ストーカー行為、セクシュアル・ハラスメントなどを根絶するため、「女性に対する暴力をなくす運動」(毎年11月12日から女性に対する暴力撤廃国際デーである11月25日までの期間、内閣府男女共同参画推進本部)を中心に、社会認識の徹底、意識啓発や情報周知などの充実をはかる。また、商業的な目的で行われる未成年の性的搾取に対する規制を強化するとともに、偽装請負に対する取り締まりなど性的搾取を防ぐための監視と査察のプログラムを強化する、「親子断絶防止法」の制定や離婚別居後の子の居所指定に関連する法改正については、配偶者からの精神的・身体的暴力が深刻なケースにおいて、被害者や子どもの安心・安全が脅かされる恐れがあるために慎重に検討する、ストーカー対策においては、加害者への説得を行える体制を地域ごとに整備するなど、性の商品化や暴力への対策を講じる。
- (3)性の商品化や暴力を許さない社会づくりに向け、包括的な「性暴力等被害者支援法」を制定する。
①法の目的を性暴力、売春、虐待等様々な困難を抱える女性等や同伴する子どもをはじめとする被害者が、尊厳を回復し、基本的人権が尊重される旨を記載する。
②基本理念に、女性等や同伴する子どもをはじめとする被害者の人権と自己決定を尊重し、困難からの自立に向けた切れ目のない支援を明記する。
③法は困難からの自立に向け支援を必要とするすべての女性等や同伴する子どもをはじめとする被害者を対象とし、従来の相談、一時保護、施設利用に加えて就労支援など地域生活における中長期支援を含む。
④関係機関の連携により、個々の事情に応じた支援を行う。
⑤医療費・検査費用等は公費負担とする。
⑥専門性の確保や人権への配慮、プライバシー保護の担保のため、関係機関等は研修等を実施する。
⑦広く暴力被害等に関する教育・啓発を実施する。
- (4)「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」について、緊急保護命令違反に対する罰則強化、デートDV(恋愛カップル間暴力)被害者保護、対象に同性カップルなどあらゆる形態の家族を含めることや、加害者を自宅から出て行かせる別居命令、暴力を受ける子どもへの単独の保護命令を可能とすることなどの見直しを行う。
- (5)国および地方自治体は、性別にかかわらずすべての暴力(性犯罪、性暴力、DVなど)の被害者の支援体制の充実をはかる。
①配偶者などからの暴力相談支援センター機能を充実し、全市区町村での設置を促進する。
a)相談、緊急時の一時保護、居住施設の確保、保護命令制度の周知徹底など、婦人相談所の相談保護体制の強化と全政令指定都市への設置など、施設整備の充実をはかるとともに、全市区町村に婦人相談員等の相談窓口の設置を進める。
b)婦人相談員の専門性の向上と雇用の安定をはかり、心理療法担当職員の増員、医療機関との連携など緊急一時保護体制を強化する。
c)官民の資源を活用した被害者保護の受け皿づくりを進め、母子生活支援施設や民間シェルターなどがDV被害者への安定した支援を行うよう連携強化する。
d)保護された母子への心理的ケアの充実をはかるため、児童家庭支援センターや児童相談所との連携をはかる。保護期間中は通学できない同伴児童のために学習指導員の配置を行う。
②性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターを全国に設置し、性犯罪・性暴力被害者の保護と支援の受け皿づくりを促進する。
a)性犯罪被害者のニーズに寄り添った支援を実施するため、二次被害を受けることなく1カ所で法的・医学的(心身両面)・心理的・社会的支援を受けることができるワンストップ機能を確立する。
b)医療関係者、弁護士、臨床心理士、ソーシャルワーカー、支援者、NPOなど、地域で活用できる資源を結集し、24 時間対応可能な緊急保護体制を整備する。
③外国人に対する通訳や在留資格手続きなどの支援を進める。
④女性警察官の増員など、関係各機関における女性担当者の増員や、相談担当者に対する研修の実施など、二次的被害の防止をはかる。
⑤性犯罪・性暴力の専門的知識を有する司法へのアクセスを確立する。
- (6)加害者には、適切な更正プログラムを受講させるなど、再発防止の体制を確立する。
- (7)国は、人権擁護の観点から、人身売買(トラフィッキング)について、以下の取り組みを実施する。
①「人身取引対策行動計画2014」にもとづき、未然防止策を強化する。
②2014年7月に出された「国連自由権規約委員会」勧告を踏まえ、人権に配慮した被害者の保護と帰国、再定住までのきめこまかなフォロー体制を構築する。
③被害者支援の強化に向け、民間シェルターなどへの積極的な支援を行う。
- (8)国は、性犯罪、性暴力被害者の人権擁護を強化する。
①性暴力被害者の人権擁護の強化、二次的被害を受けないよう事件の立証のあり方について改善するため、いわゆる「レイプシールド」(注3)を被害者の権利として法制化する。
②教職員、警察官、婦人相談員、人権擁護委員、民生委員、児童委員、家庭裁判所調停員、裁判官などの対応者側に、セクシュアル・ハラスメント、配偶者から の暴力、つきまとい行為(ストーカー行為)、児童虐待などについての理解を深める研修と最新の情報提供を行う。
③被害者の人権擁護の強化をはかるために、「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(リベンジポルノ法)」の法改正を早期に実現する。
④性犯罪の事実認定における暴行・脅迫要件を削除し、国連女性差別撤廃委員会の勧告にもとづき、対象に配偶者の強姦も含めるものとする。
⑤性犯罪・性暴力被害に対する予防教育を関係機関が連携して取り組むよう改善する。
- (9)「児童買春、児童ポルノ禁止法」の確実な履行と施設の充実をはかるため、中央・地方行政は、子どもの人権に関する相談・一時保護・広報などを行う窓口または支援センターなどを設置する。
- (10)子どもを有害情報(性の商品化、暴力表現など)から保護するために、報道・表現の自由に留意しつつ、放送・新聞・出版などマスメディアに対して、自主的な規制機関の設置 や機能の充実を強く求め、受け手側から苦情や意見の申し立てが簡便にできる仕組みを提 供させる。インターネット上の「子どもポルノ」など有害情報を排除する対策を講じ、子どもの商業的性的搾取に関する取り組みを強化する。「ネット上のいじめ問題」への対策を強化する。また、子ども自身のメディア・リテラシー(注4)向上のための支援を積極的に行う。
- (注3)レイプシールド ~犯罪事実とは無関係の被害者の過去の性遍歴等を暴いたり、証拠として提示することを禁止することについて、アメリカをはじめ欧米各国で法整備されているが、日本では未整備。
- (注4)メディア・リテラシー ~メディアからもたらされる膨大な情報を、各人が無批判に受け入れるのではなく、批判的に読み解く力をつけること。
教育政策<背景と考え方>
- (1)政府は2017年12月、2019年10月からの幼児教育の無償化、2020年4月からの高等教育の一部無償化を含む「新しい経済政策パッケージ」を閣議決定した。連合はこの間、「第4次税制改革基本大綱」ならびに「新21世紀社会保障ビジョン」の改定の検討作業と併せて、「教育制度構想」の検討を行ってきた。これは、「教育費の無償化」「労働教育」「リカレント教育」を3つの柱とするもので、「教育費の無償化」では、家庭の経済格差が子どもの教育機会の格差を生まないよう、すべての教育にかかる費用の無償化を行い、社会全体で子どもたちの学びを支えることを求めている。
- (2)教科書としてデジタル教科書を使うことができるようになる「学校教育法等の一部を改正する法律案」が2018年5月に成立した。デジタル教科書が利用できるようになることで、ICTを活用した学習の促進や、障がいなどにより従来の教科書を使った学習が困難な子どもの支援、また、新学習指導要領における授業の改善にもつながるものである。
- (3)異なる文化・言語を背景とした子どもも含め、すべての子どもを教育の場に包摂し学ぶ権利を保障することが求められる。また、いじめ防止対策推進法が施行されているが、社会問題化を背景とした、いじめに関する積極的な把握もあり、文科省の調査では、いじめの認知件数は増加の一途をたどっている。価値観の多様性を認め、いじめの根本的な解決につながる体制を整える必要がある。
- (4)連合は、「教育制度構想」において、2020年度以降の新学習指導要領の実施に向けて、働くことに関する知識を深め活用できるよう、労働教育のカリキュラム化をさらに推進することを求めている。誰もが安心と希望を持ちながら働き続けることができる社会を実現する必要がある。
- (5)2019年12月に給特法一部改正法が成立し、2020年4月に施行された。この間、学校における働き方改革に関して、連合は中央教育審議会の場で連合推薦委員を通じて、「給特法を見直した上で、労働基準法37条を適用し、時間外手当や休日手当などの割増賃金を支払うことを原則とすべきである」と主張してきた。これまでの給特法の枠組みは維持されることとなったが、「在校等時間」の計測のもと、教育職員の「時間外勤務」には上限が設定された。今回の改正による学校現場の働き方改革の状況を注視するとともに、引き続き、教職員定数の改善や業務の削減など、働き方の見直しを行うことが必要である。
- (6)連合は、「教育制度構想」において、社会人の学び直しには、「費用」と「時間」が大きな阻害要因となっているため、学費負担の軽減をはじめ、「有給教育休暇」の制度化など、社会人の学び直しに向けた環境整備を求めている。変化し続ける社会に適応し、個人が生涯に渡って学び続ける社会を実現するため、誰もが学びたいときに学べる環境を整える必要がある。
1.社会全体で子どもたちの学びを支え、すべての子どもの教育機会を保障するため、教育にかかる費用は原則として無償とする。
- (1)国・地方自治体は、貧困の連鎖を断ち切り、家庭の経済格差が教育機会の格差を生まないよう、就学前教育から高等教育まで、すべての教育にかかる費用の無償化を行い、社会全体で子どもたちの学びを支える。
①就学前教育の完全無償化を推進する。子どもの最善の利益をめざして幼保一体化を進め、社会で支える保育・教育環境を確保する。
a)幼保一体化を進めるにあたっては、児童虐待の世代間連鎖対策、保護者支援、子育て相談支援機能などの福祉的機能を基盤に据える。
b)保育所と幼稚園の保育・幼児教育の実践を活かしつつ、施設基準・人員配置基準の統一化、資格の統一化、研修機会の保障等の処遇の統一化などを進めるとともに、各施設に養護教諭を配置する。
c)入所方式や価格設定などについて、すべての子どもと保護者への公平な利用を保障する仕組みとする。また、公平な利用を保障するため市町村の責務と権限を強化する。
②義務教育の学校給食を完全実施し無償化する。
③教育の機会均等を保障するため、義務教育の根幹である国庫負担制度を拡充し、学習指導上必要な教材を無償支給とする。デジタル教科書についても無償化制度を適用する。
④就学援助制度を拡充するとともに、援助が必要な家庭に漏れがないような基準とする。また、国は地方自治体が実施する就学援助事業のための財源措置を確実に行う。
⑤GIGAスクール構想など教育のICT化にかかわる情報アクセス環境について、社会インフラとして整備する。また、高校生についてもGIGAスクール構想の「1人1台端末」の対象として、早期に配備するとともに、ソフトウエア費、保守・機器更新費などを予算化する。
⑥高等学校に通うすべての生徒の授業料を無償化する。所得制限のある高等学校等就学支援金、生活保護受給世帯および非課税世帯のみを対象としている高校生等奨学給付金、定時制・通信制の教科書等給付費を拡充する。
⑦大学・専門学校などのすべての学生の学費を無償化する。
a)奨学金に頼らずに高等教育を受けられるよう、運営費交付金や私学助成を増額し学費を低額化する。
b)無償化に至るまでは、高等教育における奨学金制度を充実し、周知・広報を徹底する。
c)無利子奨学金貸与者のみが対象となっている所得連動型の返還制度を、有利子奨学金貸与者にも拡大する。
d)返還猶予や減額返還(現行10年)の期間延長、延滞金の賦課率(現行5%)の引き下げなど、返還困難者への救済措置を拡充する。保証制度は人的保障を廃止し、機関保証を原則とし、保証料を引き下げる。
e)当面は、無利子奨学金の枠を拡充するための予算措置を行う。将来的には、国の奨学金制度をすべて無利子とする。
f)学習の時間を確保する観点から、住民税非課税世帯を対象とした給付型奨学金は金額および対象者を拡充し生活費に充てる。
g)中間層(無償化対象外)の負担軽減をはかるため、所得連動返還型奨学金制度の仕組みを活用した卒業後拠出金制度を導入する。
2.多様な価値観や文化の違いを認め合える社会をめざし、すべての子どもを包摂する教育を推進する。
- (1)国・地方自治体は、価値観の多様性を認め、いじめの根本的な解決につながる体制、子どもが相談しやすい体制をつくる。また、不登校や中途退学、虐待を受けた子どもの学ぶ権利を保障する。
①多様な子どもに対応するため、すべての学校に養護教諭を配置する。
②いじめや虐待、貧困などを早期に把握し、適切に対応するため、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーをすべての学校に常勤配置する。
③フリースクールや中学校夜間学級での学びを支援するなど、すべての子どもが学ぶための環境を整備する。また、教育費負担の軽減を含め、家庭に対する経済的な支援を行う。
- (2)国・地方自治体は、障がいのある子どもや、異なる文化・言語を背景とした子どもなどが、普通学級に在籍して教育を受けられるインクルーシブ教育を推進する。
①障がいのある子ども・保護者と十分に話し合い、必要な合理的配慮を行う。
a)子どもの障がいの程度や特性に応じたきめ細かい対応を行うため、普通学級を含めた教職員の増員や予算の拡充、十分な研修機会を提供するなどの条件整備を行う。
b)就学先の決定は、障がいの程度、教育的ニーズなどを踏まえ総合的に検討した上で、子ども・保護者の選択権を最大限尊重し、教育委員会・学校と合意形成をはかる。
c)意思表示に課題がある子どもに対するICT教育の充実など、自立した生活につながる内容を組み込む。
d)普通学級に在籍しながら通級指導教室で学ぶ子どものために、担当教員の増員と専門性の向上など環境整備を進める。
②異なる文化・言語を背景にした子どもの教育環境を整備する。また、生命・人権・平等の尊重を土台に、社会的な資質・能力・態度を育む教育を進める。
a)教員の指導体制および指導力の充実による、留学生および外国人児童・生徒の受け入れ体制の強化、また、帰国児童・生徒の入学・編入などの条件を整備・拡充する。
b)外国人児童・生徒の教育の権利と機会を確保するため、就学に関する情報を、より多くの言語(多言語)、および、いわゆる「やさしい日本語」で伝えるとともに、日本語教育および母語・母文化教育の支援、外国人学校への運営補助を行う。
c)諸外国語教育、とりわけ英語教育の充実とともに、諸外国の文化などを認識しあい共生できるよう、話し合いや交流の場を設定する。また、近隣諸国との相互理解を進めるため、対立する意見も含め、現代・近代史にも時間をかけた歴史教育を進める。
d)人種、民族、宗教、肌の色、性別、年齢、疾病、障害、門地、性的指向・性自認等による人権侵害を解消し、人権意識を高めるための教育を行う。
e)ジェンダー平等教育のための基本方針を策定し、教職員や社会教育主事などに対する研修を行う。また、教科書の見直しや教材開発、性別で分けない名簿を進めるとともに、スクール・セクシュアル・ハラスメント防止に努める。
3.社会人として必要な知識を身につけ意識を醸成するため主権者教育を充実する。
- (1)国・地方自治体は、イノベーションへの対応など企業の環境対策を促進するため、以下の環境対策に関連した技術・事業・産業の育成・支援を強化する。また、公正な移行の観点から、新たな技術の実用化にあたっては、その結果生じる労働移動や労働条件の変化、必要となる職業訓練などについて、政労使の社会対話を通じて対策を策定するとともに、資源効率性の観点から安全で効率的な再生・廃棄の技術を同時に確立する。
①参政権、生存権、社会保障、税・財政、国の債務、司法
②環境、防災、食、農林水産、資源、エネルギー、ICT、消費、金融、生活設計、経済
- (2)政治的教養・活動に関する教育にかかわる文部科学省2015年通知の「公正かつ中立な立場で生徒を指導する」ことを市区町村の教育委員会・学校長・教職員に浸透させる。あわせて、教職員が主権者教育の指導に必要な知識や指導方法等を身に付けるための研修を充実させる。
- (3)幼少期から主権者としての意識を積み重ねるために、新学習指導要領に基づき、小・中学校の段階から指導の充実を図るとともに、児童会・生徒会や地域活動を充実化させる。
- (4)子どもたちがICTを効果的かつ責任を持った使い方ができるように、メディアリテラシーをはじめ、ユネスコなどが推奨する「デジタル・シティズンシップ教育」を推進する。
4.働くことに関する知識を深め活用できるよう、労働教育のカリキュラム化を推進する。
- (1)国・地方自治体は、幼児教育から高等教育までの教育課程や社会教育において、労働の尊厳や労働組合の意義を深く理解し行動するための教育を行い、勤労観・職業観を養う。
①労働組合、企業、NPOなど、各種団体と連携し、勤労観・職業観を養うための社会体験や労働体験の場を活用する。また、労働組合役員やOB・OGなど外部講師による出前講座や職場見学の機会など、働くことの意義や知識を学ぶ時間を設定する。
a)労働組合などによる、労働教育に関する寄付講座や出前講座を支援する。
b)職場見学や労働体験の内容を充実するとともに、インターンシップなどを通じて多様な労働の現場に触れ、働くことの意義について学ぶ機会を充実する。
c)ものづくり教育や公共職業能力開発施設での工作教室、技能塾などを通じて、ものづくりの大切さについて学ぶ機会を充実する。
d)教員がロールプレイやワークショップなどの手法を研究したり、寄付講座や出前講座を受け入れたりするための時間を確保できるよう条件整備を行う。
- (2)国・地方自治体は、働く上で必要なワークルールや労働安全衛生、使用者の責任、雇用問題などに関する知識を深め活用できるよう、労働教育のカリキュラム化を推進する。
①働くことに関する知識を深め活用できるよう、働くことの意義や労働の尊厳を深く理解し、働くことによって社会や地域とかかわり成長していく力を育成する。
a)ILO憲章、日本国憲法や労働関係法にもとづく働く者の権利・義務(ディーセント・ワーク、ワークルール)
b)健康で働くための諸制度、労働安全の確保の大切さ、ワーク・ライフ・バランス
c)労働組合の意義、労働組合が果たしている役割
d)起業家・NPO・NGO・農業・漁業・林業などの様々な働き方
②地域の産業界などと連携し、教職員と企業で働く労働者の人材交流をすすめるとともに、学校から社会へ円滑に移行する進路保障システムを構築する。
a)労働体験、インターンシップなどの推進のために、学校、地域、企業などの連携を強化するしくみや、インターンシップ期間の単位認定など、制度面の拡充を推進する。また、トライアル雇用を活用し、柔軟に就職に結び付けられるようにする。
b)進路指導を充実させるため、地域の産業界や労働組合の人材を活用する。
③新学習指導要領の実施に向け、子どもの実態に合わせて運用できるよう、授業内容や指導方法などにおける環境整備を行う。また、学校のカリキュラム編成や授業内容に関する権限を確保し、弾力的な適用を行う。
5.人口減少や少子化を踏まえ、地域に根ざした教育基盤を整備し、家庭・学校・地域が一体となった教育を推進する。
- (1)国・地方自治体は、人口減少や少子化を見据えた教育環境を整備する。
①学校が地域コミュニティの拠点や災害時の避難所となっているため、学校統廃合を行う際には、保護者や地域住民の意見・要望を聞いた上で慎重に検討する。やむを得ず学校統廃合を行う場合には、スクールバスを必置とし、遠方から学校に通う子どもの負担を軽減し安全を確保する。
②第4次産業革命に伴う人材育成に向けて、ICT教育やプログラミング教育を進める際には、地域間格差が生じないよう、教育条件を整備する。
a)教育と技術を組み合わせたEdTech(エドテック)を活用し、無線LANやタブレット端末を全校に配備するなど、プラットフォームを構築する。
b)放送大学や大規模な公開オンライン講座の「MOOC」(ムーク:Massive Open Online Courses)を活用した学びを拡充する。
c)現実の課題解決に取り組む「リビング・ラボ」や「プロジェクト型学習」を活用し、地域社会における課題解決に向けた学びを拡充する。
③全国学力・学習状況調査の結果公表が、学校や児童・生徒の競争や序列化につながらないよう取り扱う。子どもや保護者、教職員などの意見を踏まえ必要な見直しを行う。
- (2)地方自治体は、地域に開かれたコミュニティ・スクールの設置を推進し、地域・学校・保護者がつながることで、地域の大人が子どもを見守る体制を構築する。
①地域住民・教職員・保護者の代表などが学校運営や協力のあり方に関する協議する、コミュニティ・スクールや学校評議員会の設置を推進する。
②「地域学校協働本部」を設置し、地域・学校・保護者がつながることで、子どもの成長を支える体制を構築する。
③体験活動や保護者とのふれあいなどを重視した「子どもの休暇制度(仮称)」を創設し、地域・学校・家庭の教育機能が発揮できる環境整備を進める。
④放課後に子どもが安全に過ごせる放課後子ども教室など、保護者の勤務時間を考慮した、子どもの居場所づくりを強化する。
⑤通学路の安全対策を進めるとともに、登下校時の安全確保に向けた施策を推進する。
- (3)保護者が地域で安心して子育て・家庭教育を実践するための環境整備を推進する。
①長時間労働の是正や単身赴任の削減・縮小を進める。また、授業参観や就学説明会、地域の教育活動に保護者が参加する場合の「子育て・教育休暇(仮称)」を制度化する。
②保護者のワーク・ライフ・バランスの実現につながる職場風土・制度面の環境整備を推進する。
③子どもの権利を保障し成長を支援する「子ども(児童)の権利条約」を地域に根づかせるため、「子どもの権利条例」を制定するとともに、子どもオンブズパーソン制度を創設する。
④デジタル化された学習履歴(スタディ・ログ)などの個人情報の取り扱いについて
は、慎重に検討を進める。また、学校健康診断結果の電子化に際しては、その活用を
学校保健に限定する。
6.教育行政の政治的中立性、継続性、安定性を確保するとともに、教職員の長時間労働の是正や働きがいの向上を通じて教育の質的向上を推進する。
- (1)国・地方自治体は、教育行政における政治的中立性、継続性、安定性を確保する。
①地方議会は、首長が任命・罷免する教育長や教育委員について同意する際に、候補者の教育に対する考えや課題認識に関して所信表明を求める。
②総合教育会議は会議を公開し議事録を公表する。
③教育委員会は、事務局が扱う日常的な業務に対し監査機能を持つとともに、より多くの地域住民や保護者を教育委員に選任する。
④教職員の人事権や給与負担権限の都道府県から市区町村への移譲については、全国的な教育格差が生じかねないことから慎重に検討する。
⑤教育委員会は、会議の運営改善、情報公開などにより活性化をはかり、教育、文化、スポーツなどの幅広い分野で地域の特性を活かした、教育行政を推進する。
- (2)国・地方自治体は、教職員定数の拡充や、教員養成システムの改善など、指導体制の強化を通じて教育の質的向上をはかる。
①総額裁量制にもとづく教職員の給与・配置について、教育予算の増額を前提に、運用実績を踏まえて地方自治体の裁量を拡大する。また、教員に優れた人材を確保し、安定的に質の高い人材を確保するために、教員給与の優遇措置を維持・継続する。
②教員が子どもと向き合う時間を確保し、一人ひとりにきめ細かな教育を行うため、35人学級に向けた環境整備を進めるとともに、その効果と課題を検証して、中等教育を含め、さらなる少人数学級を推進する。あわせて、部活動の学校から地域への移行、ICT支援員やICT活用教育アドバイザーの配置、専科教員をはじめとする学級担任外教員やスクールスタッフなどの拡充による指導体制の強化を推進する。
③教員の長時間労働の是正など、労働環境の改善をはかるため、教員に労働基準法37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)を適用するなど、給特法の抜本的な見直しを視野に、当面は、改正給特法第7条関連の「在校等時間」による勤務時間管理と上限規制の遵守を徹底する。
④教職員の非正規化が深刻であるため、非正規教職員の抜本的な処遇改善など、労働環境の改善をはかる。加えて、教職員に対するメンタルヘルス対策を強化し、精神疾患で休職する教職員数を減少させる。
- (3)国・地方自治体は、教職員に対する研修やフォローアップの継続を通じて、教職員の専門性およびやりがいの向上を通じて教育の質的向上をはかる。
①研修を充実し、本人の希望や適性に応じて目標を持ったキャリア形成を進める。その際、採用時の国籍や年齢制限の撤廃、企業やNPOなどでの外部研修の充実、管理職型、専門職型等のキャリアの複線化、短時間勤務制度の充実など、条件を整備する。
②教員免許制度について、義務標準法一部改正法の附則第3条における検討規定も念頭に、養成から研修まで一体的な改革を進める。また、更新制度については、個々の教員の再学習および気づきの機会とするとともに、画一的な講習受講や、免許状失効、教員の負担などの課題解決にむけて、抜本的な見直しを行う。
- (4)国・地方自治体は、入学式や卒業式などの学校行事を、子ども(児童)の権利条約にある意見表明権に基づき、児童・生徒の主体的な参画によって行うことを保障する。内容は児童・生徒の意向なども取り入れ各学校の判断に委ねる。
7.持続可能な社会の発展を担う人材を育成するために、リカレント教育・学び直しなど、生涯学習の観点から必要な教育環境の整備を進める。
- (1)国・地方自治体は、第4次産業革命による技術革新を見据え、能力開発支援に必要な一般財源を確保するとともに、専門職大学をはじめとした働くことに直結する学びの機会を拡充する。
①国際化・情報化社会における連帯、共生による発展をめざし、必要な教育を充実する。
a)持続可能な社会の基礎となる環境教育
b)ものづくり教育を再構築するための科学技術・理数教育
c)プログラミング教育などのICT教育
d)グローバル社会に対応する外国語教育
②潜在的な需要を有する成長分野(子育て、医療・介護、環境、情報通信、農業、林業等)をはじめ、幅広い分野において社会のニーズをとらえた教育を促進する。
③専門高等学校は、農業、工業、商業など職業現場のノウハウに関する教育を通じて、将来のスペシャリストを育成するため、職業教育の位置づけを明確にした上で、社会状況の変化や学習ニーズに柔軟に対応できる教育環境を整備する。また、高度な実践的かつ専門的な職業教育を行うために高等専門学校や各種専門学校の教育環境を整備する。
④大学・大学院は、国際的な質保障を意識した質の高い高等教育を実践する教育プログラムを確立する。また、地域活性化に資する、学びの拠点として位置づけ、企業・地域との連携を強化し、産学一体となってわが国の成長を支える厚みのある人材層を戦略的に形成する。
- (2)国・地方自治体は、生まれてから亡くなるまでの生涯にわたって、誰もが学びたいときに学びの機会に参加できるよう環境を整備する。また、高齢者のインターンシップや再雇用の観点からも学び直しの環境整備を進める。
①国は、幅広い知識にもとづき多様な考え方を理解できる人材を育成するための、リベラルアーツ教育を充実させる。
②国は、企業が長期の教育訓練休暇制度を導入しやすいよう、社員が休暇を取得し学び直した際に支援を行う「人材開発支援助成金」を拡充する。
③高等教育機関は、社会人が企業に在籍しながら通学できるカリキュラムの編成や休日に開講する講座、オンデマンド講座などを充実させる。
④企業は、企業が社会人の学び直しの課程におけるインターンシップに協力するなど、連携を強化するとともに、学び直しをした社会人を評価するよう人事制度を変革する。
⑤高等教育機関は、社会人特別選抜枠の拡大、編入制度の弾力化、夜間大学院の拡充、科目等履修制度・研究生制度の活用、通信教育・放送大学の拡充を進める。また、公開講座を拡充するとともに、施設の地域開放を進める。
国際政策<背景と考え方>
- (1)平和で安定した国際社会は、世界の労働者が安心・安全な生活を維持するための前提条件である。しかし、地域紛争、国境を越えたテロ、宗教対立、領土問題、民族紛争などが絶えず、一般の労働者や市民が犠牲となっている。日本は、国連を中心とする国際協調主義に立ち、アジア・太平洋諸国との連携に基づく地域の安定および世界平和の実現に向けて積極的な役割を果たさなければならない。特に核兵器廃絶に向けた核軍縮・不拡散は、世界平和を希求するうえでも、また被爆国民の立場からも重要課題であり、その必要性を世界に発信していくことはわが国の使命でもある。
2017年、国連において「核兵器禁止条約」が採択されたものの、批准した国は未だ19ヵ国(2019年1月現在)に止まり、核兵器廃絶に向けた各国の対立は解消されていない。また、2018年6月に史上初の米朝首脳会談が行われ、非核化に向けての共同声明が出されたが具体的進展は見られず、核弾頭は世界に未だ約14,450発(2018年6月現在)も存在している状況の中で、2020年に開催される核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けた取り組みは核兵器廃絶に向けて重要となる。
- (2)世界経済は緩やかな成長局面を迎え、貿易・投資協定の締結など経済的な結びつきが強まっている一方で、経済の自国優先主義や貿易摩擦の顕在化、多国間枠組からの脱退、多くの新興国での経済減速がみられる。各地域に目を向ければ、ユーロ圏の低成長、米国における政治・経済の不透明感、中東を中心とした地政学的なリスクなどにより、不確実性がよりいっそう増している。世界の失業者数は2億人に迫り、かつ、多くの人々が脆弱な雇用状態に置かれ、「質の高い雇用の創出」からは程遠い状況にあり、格差の拡大を招いている。加えて、IoT、ビックデータ、AI等の技術革新といった「第4次産業革命」の急速な進展により、仕事の世界は大きく変わろうとしている。雇用の創出、労働者の権利保護、社会対話の促進、社会的保護の土台整備などを通じて、サプライチェーンをはじめとしたそれぞれの産業に関わる人々も含め、すべての人にディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の機会が提供される、健全で持続可能な経済・社会の構築が急務である。
- (3)2018年3月に署名され、12月30日に発効したTPP11協定、同じく2018年7月に署名、12月に国会で承認され、2019年2月1日発効の日EU経済連携協定において、労働に関わる項目やILO中核的労働基準の尊重・履行に関する規定が盛り込まれたことは評価できる。現在交渉が行われているRCEPに関し、2018年11月にシンガポールで発出された「RCEP交渉に係る共同首脳声明」において「RCEPの様々なステークホルダーとの継続的な関与の価値を再確認する」と言及されたとおり、ステークホルダーとして労働組合を関与させることが必要である。欧米を中心に保護主義の台頭が懸念されるが、今後も公正で持続可能な成長を秩序ある市場経済のもとで追求するために、労働者の権利保護や環境への配慮など社会的側面を考慮した国際貿易ルールを早急に確立し、実効性を担保する必要がある。また、建設的な労使関係に基づいた企業の発展が労使双方に利益をもたらすこと、万一労使紛争が長期化すれば労使双方が甚大な損害を被りかねないことから、多国籍企業において建設的な労使関係を構築し、労使で対話を行うことで紛争を回避することが必要である。そのため、「OECD多国籍企業行動指針」やILO「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」の周知・遵守を徹底するとともに、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」国別行動計画を早期に策定することは、政労使がそれぞれに、また連携して取り組むべき重要な課題である。
- (4)2015年9月の国連総会で、2030年を達成期限とする「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(2030アジェンダ)が採択された。その中で掲げられた17の持続可能な開発目標(SDGs)および169のターゲットは、先進国と開発途上国が多様なステークホルダーとともに達成に向けて取り組む国際社会全体の普遍的な目標である。なかでも、目標8として「包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用とディーセント・ワークの促進」が盛り込まれたことはとりわけ重要である。2016年に設置された「SDGs円卓会議」には、連合もその構成員として参加し、「SDGs実施指針」の策定など政府の取り組みに参画しているところである。「SDGs実施指針」において、「労働組合は、社会対話の担い手として」「ディーセント・ワークの実現や持続可能な経済社会の構築に重要な貢献を果たすことが期待される」と位置づけられている。日本としての国際的な役割と責任を果たすため、SDGsの達成に対する国内外の貢献について積極的に発信し、実践していくために、引き続き社会的パートナーの1つとして連合と連携していくことが求められる。
- (5)グローバル化の進展に伴い、国際的な人の移動が増加する中で、テロ、紛争、暴動の脅威が広がり、さらには自然災害や感染症などのリスクも増している。在外邦人の安全確保に向けた情報収集・危機管理体制の整備・強化をするため、在外公館の整備・拡充が求められる。また、増加する訪日外国人や日本在住外国人の安全対策のため必要な対策を講ずることも必要である。
1.政府は、平和・人権を守る外交推進により、くらしの安心・安定・安全を確保する。
- (1)すべての核兵器の廃絶と未臨界を含む核実験の禁止を求める。
①包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効に向けた取り組みを実施する。
②核兵器用核分裂物質生産禁止条約(カットオフ条約:FMCT)の交渉促進に取り組む。
③核兵器禁止条約(NWC)の批准・発効に向けた外交努力を求める。
④2020年の核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議に向け、実効ある合意形成に向けた取り組みを推進する。
⑤北朝鮮の核兵器開発放棄を、国連決議と六ヶ国協議の枠組みにより進めるとともに、北東アジア非核化実現のため非核兵器地帯条約の検討に着手する。
- (2)北朝鮮による日本人拉致事件を早期に解決する。(「人権・平等政策」より再掲)
- (3)領土返還の意義についての国民的理解を促進させ、日本の領土である北方四島(択捉、国後、歯舞、色丹)の早期返還を実現し、日ロ平和条約を締結する。そのため、新たなアプローチである日ロ共同経済活動を推進する。
- (4)日本の領土である竹島の問題については、地域の安全確保と安定化をはかりつつ、早期解決に向けて国際社会の理解を深める。
- (5)在日米軍基地の整理・縮小に向けた取り組みを推進する。
①日米合意に基づく沖縄普天間基地の移転について早期実現をはかる。
②在沖縄米軍の移転実弾演習における協定を遵守し、住民の安全が確保されるよう求める。
③基地の整理・縮小に際し、基地で働く労働者の雇用・生活に配慮する。
④MVオスプレイの運用において、飛行の安全性、騒音規制及び低空飛行訓練等に係わる日米合同委員会の合意事項の遵守徹底を求めるとともに、運用の見直しをはかる。
- (6)日米地位協定の抜本的見直しをはかる。
①日米合同委員会を通じて締結される個々の施設及び区域に関する協定の内容について、関係地方自治体から、住民生活の安全確保及び福祉の向上をはかるため要請があった場合は、これを検討する旨を明記する。
②日米合同委員会の駐留軍等労働者の雇用条件については、「相互間で、別段の合意をする場合を除く」を削除し、国内法令遵守の徹底をはかる。
③法律第174号(駐留軍労働者の賃金・雇用条件)の内容は、日米地位協定に条文化し、雇用主・防衛大臣が主体的権限を持って団交当事者としての責任が果たせる体制を確立する。
④労働者が解雇され、かつ、雇用契約が終了していない場合、日本国の裁判所又は労働委員会の決定が最終的なものとなった旨の手続きの「適用」を改正し、日本国の裁判所又は労働委員会の最終決定に服する旨を明記する。
⑤日米合同委員会の合意事項を速やかに公表する旨を明記する。
⑥日本政府が、駐留軍等労働者に係わる公務を遂行するうえで、基地への立ち入りを求めた場合には制限しないことに同意する旨を明記する。
⑦基地が所在する地方自治体に対し、事前の通知後の施設及び区域への立ち入りを含め、公務を遂行する上で必要かつ適切なあらゆる援助を与える。
⑧航空機事故・山火事等合衆国軍隊の活動に起因して発生する公共の安全又は環境に影響を及ぼす可能性がある事件・事故については、基地内で発生した場合においても、速やかに事件・事故に関する情報を関係地方自治体に提供する。
⑨在日米軍の訓練・演習などの諸活動の実施については、政府及び地方自治体に事前に通知するとともに、日本の関係当局との協議の仕組みを設ける。
⑩在日米軍の演習、訓練、施設整備等の諸活動の実施に対しては、航空法等の日本の国内法を適用する旨の明記をする。
⑪在日米兵による犯罪に対しては、日本の国内法を適用し、公訴が提起される前に、日本国の当局から被疑者の起訴前拘禁の移転の要請がある場合には速やかに応ずる旨を明記する。
⑫基地返還時における汚染浄化等を含む原状回復、ならびに基地周辺地域の環境保全について、米軍への義務付けを求める。
- (7)人権や労働者の権利を侵害している国に対し、ILOなどの国際機関や関係諸国と連携して、改善につながる措置を講ずる。引き続きミャンマーに対し、民主化の進展を着実に進めるための積極的な支援を行う。
2.政府は、質の高い雇用を伴う公正で持続可能な経済・社会の構築に向け、国際機関や政府間会合の機能強化と社会対話を促進する。
- (1)グローバル化する経済に対する公正なガバナンスの確保に向け、国連をはじめとする国際機関やG20などの政府間会合において実効性ある経済・金融、労働政策を策定する。
①雇用・労働問題をG20議論の中心に据え、L20、B20との協議を常設化するなど社会的パートナーとの対話を促進する。また、成長戦略と雇用政策の一貫性を担保する観点から、雇用労働大臣・財務大臣合同会合が継続開催されるよう準備会合などで働きかける。
②APEC(アジア太平洋経済協力)、ASEM(アジア欧州会合)などの政府間会合やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、ADB(アジア開発銀行)などの国際金融機関において社会対話が促進され、グローバル・ジョブズ・パクト(注1)の原則に基づきディーセント・ワーク・アジェンダ(注2)が推進されるよう働きかける。
- (2)WTO(世界貿易機関)を中心とした多角的自由貿易体制や二国間および地域内のFTA/EPAに労働、環境などに関する社会条項を組み込むことにより、公正で持続可能なものとする。(「産業政策」参照)
- (3)TPP11や日EU経済連携協定において、労働条項や環境条項が盛り込まれ、とりわけ労働条項ではILO中核的労働基準における権利の維持が謳われているが、これらの実効性を担保する体制づくりを行う。
- (4)国際金融機関が実施する各種事業において、中核的労働基準が遵守されるメカニズムを構築する。
①IMFが融資を行う場合、当該国労働組合と事前協議を行い、当該国政府に対しても当該労働組合との事前協議を義務づける
②世銀グループやADBなどの各国際開発金融機関が行うプログラム/プロジェクトについて、入札を希望する企業に対しては中核的労働基準の遵守を義務づける。また、監視メカニズムを設け、労働組合を含むステークホルダーと共同で雇用状況・労使関係等への影響の調査を行う。
③世銀グループは、2018年に発効した新たなセーフガード政策である「環境・社会フレームワーク」に規定されている労働者の保護が確実に実施されるよう、モニタリングに労働組合を関与させる。
- (注1)グローバル・ジョブズ・パクト(仕事に関する世界協定)~ 2009年のILO総会で採択された文書。雇用を中心とした経済回復に向けて、政労使が取り組むべき基本原則を示している。
- (注2)ディーセント・ワーク・アジェンダ~ ディーセント・ワークの実現に向けた取組み課題。具体的には、4つの戦略目標(①仕事の創出、②仕事における権利の保障、③社会的保護の拡充、④社会対話の促進)、および、横断的目標としてのジェンダー平等の推進を通じて実現することとされている。
3.政府は、中核的労働基準などの尊重・遵守とILO条約批准を促進し、ディーセント・ワークを実現する。
- (1)ILO未批准条約の批准と既批准条約の国内適用・遵守を促進する。
①ILO中核8条約のうち未批准の2条約(第105号、第111号)を最優先条約とし、早期批准に向けた道筋を明らかにする。
②ILO結社の自由委員会の累次の勧告およびILO基準適用委員会・個別審査の結論に沿い、公務員の労働基本権回復に向けた取り組みを進める。(「行政・司法制度改革」参照)
③連合が優先的に批准を求めるその他のILO条約(注3)についても、国内における課題を整理し、環境を整備する。
④批准を妨げている課題を政労使で共有化するなど、協議を加速させるため、第144号条約(三者の間の協議(国際労働基準))に基づき設置されたILO懇談会の運営を改める。
- (2)ILOの実施する開発協力活動に対し、財政支援も含め、密接かつ実効的に協力する。とりわけ、中核的労働基準の尊重・遵守、雇用創出、社会保護の拡充、社会対話の推進、ジェンダー平等などに向けた活動を重視する。
- (3)国連改革が進む中にあっても、ILOの三者構成主義、国際労働基準、社会対話などの基本的原則や価値を維持するとともに、世界各地の国別事務所などの組織機構を含めILOの政策立案・調整・実施機能を確保する。
- (注3)連合が優先的に批准を求めるILO条約~ ※第18回中央執行委員会(2015.3.5)確認
(*)批准国数は2019年1月時点、批准した後に破棄した場合も数に含む
4.多国籍企業が社会的責任を果たしていくよう、日系および外資系の多国籍企業に関する取り組みをより一層強化する。
- (1)多国籍企業における建設的な労使関係の構築と労使の対話による紛争回避のため、在外公館や関係省庁が連携し、各日系企業がILO「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」(注4)や「OECD多国籍企業行動指針」を遵守するよう、周知徹底をはかる。また、「行動指針」加盟国の在日商工会議所などに対しても周知をはかる。
- (2)政府は、日本NCP(注5)が労使紛争の早期解決に十分な役割を果たせるよう人的・財政的な拡充をはかる。また、日本NCP委員会(注6)がOECD多国籍企業行動指針の普及に加え、労使紛争の早期解決に関して実質的な議論を行う場となるよう努め、必要に応じて、在外企業の労務管理に精通した専門家を加える。
- (3)政府は、企業の社会的責任(CSR)履行促進の観点から、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」(注7)に基づく国別行動計画を早期に策定・実施する。その際、ステークホルダーとしての労働組合を策定プロセスに参加させる。また、労使による国際枠組み協定(グローバル枠組み協定)締結、国連グローバル・コンパクト登録、児童労働撲滅、フェアトレード実施などに積極的に取り組む企業への優遇策について検討する。
- (4)政府は、途上国、新興国におけるソフト面のインフラ整備支援に、「労使関係についての人材育成」を組み込むことにより、多国籍企業における建設的な労使関係の構築や、生産性の向上、労働安全衛生の確保などの取り組みを促進し、当該国の発展に寄与する。その実施に当たっては、(公財)国際労働財団(JILAF)などを活用する。
- (5)政府は、租税回避防止のための国際的連携の動きが強まる中、租税回避地対策の強化や租税条約の締結などに取り組む。(「税制改革」より再掲)
- (6)政府は、グローバル企業の低税率国への利益移転等に伴う国際的な課税ベースの浸食を食い止めるため、「BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクト」の勧告を踏まえ、中小企業の負担増に配慮しつつ国内法を整備する。また、国境を越える資金の流れの透明化に向けたルールを策定する。(「税制改革」より再掲)
- (7)CSR調達の取り組み促進に向けて、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は、「持続可能性に配慮した調達コード」に則り、全ての物品・サービス及びライセンス商品の受注者(サプライヤーおよびライセンシー)がILO中核的労働基準をはじめとする労働に関する国際的な基準を遵守するよう、周知徹底をはかる。調達コードの不遵守またはその疑いが生じた場合の通報受付窓口については、効果的なものとなるよう整備する。国・地方自治体は同コードを採用する。(「産業政策」より再掲)
- (注4)ILO「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言(2017年改訂版)」~2017年3月のILO理事会にて改定。サプライチェーンやデューデリジェンスについての言及があり、また、同宣言の実施メカニズムについて規定されている。
- (注5)NCP(ナショナル・コンタクト・ポイント)~『OECD多国籍企業行動指針』の普及・実施、問題解決の支援のために、各国政府等に置かれている連絡窓口のこと。日本NCPは、外務省、厚生労働省、経済産業省により構成されている。
- (注6)日本NCP委員会~『OECD多国籍企業行動指針』の普及・実施のため、日本NCP、連合、経団連で構成される委員会。
- (注7)国連「ビジネスと人権に関する指導原則」~2011年に国連人権理事会で承認された、全ての国と企業が尊重すべきグローバル基準。人権を保護する国家の義務、人権を尊重する企業の責任、救済へのアクセスの3つの柱で構成されている。2016年、政府は同「国別行動計画」策定を表明し、2019年1月現在その作業中である。
5.政府は、持続可能な開発目標(SDGs)(注8)に基づき、グローバルにバランスの取れた、持続可能な社会開発に向けた取り組みを推進する。
- (1)「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針」(政府策定)に基づき、国内外の取り組みを着実に進める。
①「SDGsアクションプラン」作成などの場面において、労働組合を含むステークホルダーを参加させ、持続可能な開発目標推進本部の機能強化をはかる。とりわけ国際労働組合総連合(ITUC)が重点目標に位置づける目標1、5、8、10、13、16に関する議論には労働組合を必ず参加させる。あわせて、財源確保策についても具体化させる。
②開発途上国におけるSDGs実施体制の構築、戦略作りに対する支援を行う。
③SDGsの国内での認知度向上を国民運動として取り組む。とくに、あらゆるステークホルダーと連携し、普及・啓発活動のための体制および予算措置を具体化させる。
- (2)SDGs達成をめざす観点から、ODA(政府開発援助)を人間の安全保障の理念に立脚した途上国の社会・経済開発や地球規模課題の解決に活用する。
①理念・目的・基本原則の確立、手続の透明性確保、実施体制の強化に向け、ODA基本法を早期に制定する。
②(公財)国際労働財団(JILAF)などを活用し、労働、教育などの社会開発分野におけるODA、特にSDGsの目標8に関してディーセント・ワークの推進に向けた雇用の創出、労働者の権利保護、社会対話の促進、社会保護の土台整備などについての規模・内容の拡充をはかる。
③ODA事業において、サプライチェーンも含め、中核的労働基準の遵守を徹底する。
④ODA事業のうち、気候変動に関するプロジェクトについては、「公正な移行」に沿った対策を講じる。(「環境政策」参照)
⑤国連が先進諸国に対し目標として求めているODAのGNI(国民総所得)比0.7%に向けた道筋を示す。
- (3)国際レベルで資金の投機的な動きを抑制するため、金融取引税などの国際連帯税導入について、国内における合意形成と国際合意を早期にはかる。その税収は主に貧困撲滅や気候変動対策の財源として活用する。(「税制改革」より再掲)
- (注8)持続可能な開発目標(SDGs)~ 2015年9月採択。ミレニアム開発目標(MDGs)の後継であり、17の目標と169のターゲットからなる。
- 目標1
- あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる
- 目標2
- 飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する
- 目標3
- あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
- 目標4
- すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する
- 目標5
- ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う
- 目標6
- すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する
- 目標7
- すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する
- 目標8
- 包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
- 目標9
- 強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る
- 目標10
- 各国内及び各国間の不平等を是正する
- 目標11
- 包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する
- 目標12
- 持続可能な生産消費形態を確保する
- 目標13
- 気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる
- 目標14
- 持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する
- 目標15
- 陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する
- 目標16
- 持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する
- 目標17
- 持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する
(目標の和訳は地球環境戦略研究機関(IGES)作成による仮訳をベースに外務省が編集)
6.政府は、グローバル化の進展に伴って増加する人権擁護など諸課題への対応を強化する。
- (1)テロ、紛争、暴動の脅威の拡大や自然災害、感染症などに対応するため、以下の取り組みを行う。
①在外公館の体制強化をはかり、海外安全情報の収集に万全を期すとともに、在外邦人への情報提供や安全確保など危機管理に関する取り組みを一層強化する。
②災害発生時には、関係省庁、NGOや民間ボランティア、各国の援助隊・関係機関と連携して迅速に支援体制を築き、早期復旧・復興をはかる。
③訪日外国人旅行者が日本滞在中に自然災害によって被災した際には、在日本各国大使館・領事館と連携してスムーズな帰国に向けた必要な措置を講ずる。
- (2)日本在住外国人の人権を守るため、以下の取り組みを行う。
①永住外国人への地方参政権の付与については、国民的な議論と合意の上で対応する。(「政治改革」より再掲)
②合法的に滞在し、就業している外国人が、滞在の延長、定住、永住などを希望する場合には、安定的に長期間滞在することを可能とするため、在留許可基準の明確化と手続きの簡素化をはかる。
③生活分野、労働分野に関する法制、公的支援制度や公共サービスについて、外国語文による案内を配備するなど、外国人も利用しやすい環境を整備する。
- (3)「人身取引対策行動計画2014」などに基づき、労働搾取の防止、人身取引被害者の保護・未然防止と被害者支援の強化に努める。また、ILO「1930年の強制労働条約の2014年の議定書」を批准する。
- (4)真に保護するべき難民に対する保護強化の観点から、難民条約等国際的な理念に則り、難民認定制度や運用を改善し、包括的保護制度を確立する。また、第三国定住の拡大および「難民保護法」の制定を目指し、早急に検討を進める。
(横断的な項目)・男女平等政策<背景と考え方>
- (1)2020年12月、政府は「第5次男女共同参画基本計画」を閣議決定した。しかし、過去の基本計画で掲げられた目標の多くが未達成であり、それらの実現に向けた具体的な対策が急がれる。加えて、2003年に設定された「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に占める女性の割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する(202030)」目標は、「2020年代の可能な限り早期に」と先送りされた。世界の潮流は2030年までに意思決定の場に女性が50%入る「203050」であり、これ以上の停滞は許されない。加えて、世界経済フォーラムが発表しているGGI(ジェンダー・ギャップ指数)でも、日本は156ヵ国中120位と先進国で最下位となっており、特に政治・経済分野での男女間格差が指摘され続けている。
そのような中で、2021年2月には、公的組織のトップが、「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」などと発言した。女性に対する偏見に満ちた差別発言であり、国内外から非難の声が上がった。にもかかわらず、その後も「(女性の登用が進まないことに関して)女性側にも原因がないことはない」などの差別発言が続き、日本の人権感覚が国際社会からも疑われかねない状況となった。一方で、一連の発言に対して、今まで声を上げてこなかった人々が抗議したことは、ジェンダー平等に関する意識の変化といえ、この機運を確実なものとする必要がある。
- (2)2020年の女性の就業者数は3,044万人、雇用者数に占める女性の割合は44.3%で、M字カーブの谷の部分は浅くなりつつあるが、その主な要因は、非正規雇用労働者の増加によるところが大きい。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で就業者数は減っており、特に非正規雇用の女性への影響が大きくなっている。
2016年に女性活躍推進法が施行され、管理職に占める女性の割合は、長期的には上昇傾向にあるものの、13.7%と諸外国に比べて低い水準にとどまり、男性の賃金を100とした時の女性の賃金は74.3と、依然として男女間格差は解消されていない。雇用や賃金における格差が存在しているにもかかわらず、女性活躍推進法の状況把握の基礎項目には「男女間の賃金の差異」が含まれておらず、情報公表の対象項目にもなっていない。
女性が直面している様々な困難が解消され、働きがいを持てる就業環境の整備は急務であり、女性活躍推進法のさらなる周知・点検の徹底と定着、中小企業への浸透など、法の実効性を高める必要がある。
- (3)男女がともに仕事と生活の調和を実現するためには、働き方を見直し、男性も含めた労働時間の短縮や、仕事と育児や介護等の両立支援に向けた環境整備が不可欠である。
しかし、固定的性別役割分担意識と男性の長時間労働は、男性の育児や家事への参画を阻んでおり、男性の育児休業取得率は上昇傾向にあるものの7.48%にとどまる。育児休業の取得期間も2週間未満が7割を超える。そのような中、未だ女性労働者の半数が第1子出産前後で退職している。
一方、介護の状況を見ると、家族の介護・看護のために離職した労働者は、年間約10万人で推移しており、働きながら介護をする男性も増えている。また、介護離職者の再就職は3割であり、その多くが非正規雇用となっている。さらに、育児と親の介護を同時に担う「ダブルケア」を行う人口も25万人と推計されており、男女ともに30歳から40歳代の働き盛りの世代がこの問題に直面している。それらの状況の改善は喫緊の課題であり、男女がともに仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)をはかることができるよう、実態やニーズに応じたさらなる法整備が求められている。
- (4)2019年6月、ILOは第108回総会において「仕事の世界における暴力とハラスメントの根絶」に関する条約と勧告を採択した。あらゆるハラスメントの根絶は今や国際的な課題となっている。
一方、日本国内の現状を見ると、都道府県労働局等に設置された総合労働相談コーナーに寄せられる「職場のいじめ・嫌がらせ」に関する相談件数は増加傾向にあり、2012年以降すべての相談の中でトップとなっている。また、厚生労働省の実態調査(2017年)では、企業の相談窓口へ寄せられる内容は、パワー・ハラスメントに関する相談が32.4%と最も多くなっており、従業員の32.5%が過去3年間にパワー・ハラスメントを受けている。都道府県労働局へ寄せられる相談件数は、セクシュアル・ハラスメントに関する相談が最も多く、次いで婚姻、妊娠・出産等に関するハラスメントについての相談が多い。なお、職場以外でも女性に対する差別発言や、各級議員による性的指向・性自認(SOGI)に関する問題発言などが頻発しており、あらゆるハラスメント対策を求める声が高まっている。
国内外の動きも背景として、2020年6月には改正労働施策総合推進法、改正男女雇用機会均等法等が施行された。パワー・ハラスメントの防止措置義務や、ハラスメントは「行ってはならない」との責務規定が法制化されるなど、ハラスメントの抑止効果が期待される。しかし、ハラスメントが蔓延する現状に鑑みれば、ハラスメント行為そのものを禁止することが重要であり、さらなる法整備に向けて早期に取り組む必要がある。
2018年5月に「政治分野における男女共同参画推進法」が成立したものの、理念法にとどまり、女性議員の数は遅々として増えない。政治分野における女性の参画をより積極的に推進するため、クオータ制導入へ向けた法整備が必要である。
- (5)国連で採択された「持続可能な開発目標・SDGs」に係る施策を総合的かつ効果的に推進し、目標を達成させていく必要がある。貧困や不平等をなくし、年齢や性別、障がいの有無などにかかわらないディーセント・ワークの実現に向け、女性のエンパワーメント、女性に対するあらゆる形態の差別や暴力の根絶などをめざす目標5「ジェンダー平等を実現しよう」の取り組みを中心に位置づけることが重要である。
そのうえで、国際的な連携をはかり、条約などの取り決めを遵守する姿勢を示すべきである。女性差別撤廃条約にもとづく性差別禁止、特に雇用の全ステージにおける直接・間接差別の禁止に関する法制度の充実が必要である。また、「雇用及び職業についての差別待遇」に関するILO第111号条約や、2021年6月25日に条約発効となる「仕事の世界における暴力とハラスメントの根絶」に関するILO第190号条約を早期に批准すべきである。さらには、ILO条約勧告適用専門家委員会が日本政府に強く求めている同一価値労働・同一賃金の原則の実現による均等待遇の確保や、性やライフスタイルに中立な税・社会保障制度の実現による格差是正、貧困の解消が強く求められている。
加えて、日本は、国連女性差別撤廃委員会から再三の勧告を受けているにもかかわらず、選択的夫婦別氏制度の導入や女性の再婚禁止期間の廃止について未だに法改正が実現していない。特に選択的夫婦別氏制度については、国民世論で実現を望む声が高まっているにもかかわらず、「第5次男女共同参画基本計画」では極めて消極的な記述にとどまった。民法における男女差別の解消に向けて引き続き運動を展開する必要がある。
1.雇用の分野における性差別を禁止し、賃金格差の是正、男女の平等を実現する。
- (1)男女雇用機会均等法を以下のように見直す。(「雇用・労働政策」より再掲)
①法律の名称を「男女雇用平等法」(注1)とする。
②第1条(法の目的)に記された「男女の均等な機会及び待遇の確保」には、賃金の男女均等取り扱いが含まれることを明確にするとともに、各条文の性差別禁止条項は賃金格差是正のためにも運用されるべきであることを各条文の指針等に明記する。また、均等法の対象に性的指向・性自認による差別を加える。
③第2条(理念)に「男女労働者の仕事と生活の調和をはかる」ことを明記する。
④第6条(性別を理由とする差別の禁止)について、事業主が労働者の性別を理由として差別的取り扱いをしてはならない事項に「賃金の決定」を加える。
⑤事業主は、第6条に規定された事項の基準や運用のあり方を明らかにすることと、労働者から説明を求められた場合、事業主は説明しなければならないこと、また説明を求めたことを理由に不利益取り扱いをしてはならないことを指針に明記する。
⑥第7条(性別以外の事由を要件とする措置)について、間接差別法理を条文に明記し、指針における間接差別(注2)の禁止の基準を、限定列挙から例示列挙とする(現行3項目はあくまで間接差別の一例とし、一方の性に対して合理的な理由がなく不利益を生じさせることを幅広く禁じる)。また、どのようなことが間接差別に当たるかを「指針」で広く示す。
⑦第9条(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)において、婚姻を理由とする退職・解雇以外の差別禁止を明確化する。マタニティ・ハラスメントにおける被害者の就業継続を確保する。
⑧第10条(指針)にもとづく「募集および採用並びに配置、昇進および教育訓練について事業主が適切に対処するための指針」の法違反の判断を雇用管理区分(同じ区分の男女)ごとに行うことは、差別の温存や差別認定の範囲を狭めることなどになることから、この部分を削除する。
⑨第11条(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置)について、セクシュアル・ハラスメントを禁止するとともに、「性別役割分担意識に基づく言動」(ジェンダー・ハラスメント)や性的指向・性自認に関するハラスメントの防止措置義務を事業主に課す。さらに、指針で被害者の対象に職務の遂行に際して接触した取引先や顧客、利用者、患者、生徒などの第三者も含める。
⑩ハラスメントの回避や、療養が必要な労働者の休業と復職の権利の保障などについて、具体的なルールや手続を指針に明記する。また、被害者が第三者の場合も念頭に通報制度も含めた相談窓口の設置を行い、二次被害の防止対策を講じる。
⑪ドメスティック・バイオレンス(DV)などの性暴力(注3)が職場に与える影響を労働問題として認識し、被害者の継続就業のための支援として、加害者の接近や個人情報の開示を防ぐとともに、救済機関のアクセスなどに必要な休暇制度の整備などの配慮規定を設ける。
⑫ポジティブ・アクションに関する第14条(事業主に対する国の援助)に、事業主に以下の責務を課すことを追加する。
a)募集・採用・配置・昇進・教育訓練・福利厚生・退職などの取り扱いにおける男女の割合(格差)や賃金格差に関するデータの集計・作成・保管・開示について、義務を課す。
b)ポジティブ・アクションの計画策定、実施、実施状況の開示について、措置義務を課す。
c)ポジティブ・アクションの計画策定・実施状況のモニタリング結果の計画への反映等については、過半数労働組合もしくは過半数代表者への情報提供・協議を義務づける。
d)男女間格差の要因について労働者および労働組合から説明や協議を求められた場合、これに応じる義務を課す。
⑬「コース等で区分した雇用管理を行うに当たっての事業主が留意すべき事項に関する指針」を法的根拠のあるものとする。
⑭第18~27条(調停)を改正し、事業主に機会均等調停会議への出席を義務づける。
⑮第28条(調査)について、厚生労働大臣は、男女間賃金格差の改善に関して必要な事項、特に職務評価・職業能力評価などについて、調査、研究、資料を整備し、事業主への提供を行うように努めることを法律に明記する。
⑯第29条(報告の徴収ならびに助言、指導及び勧告)について、労働局長が勧告を行う場合であって必要と認められるときに、賃金格差をはじめとする現状の改善措置計画の作成を求めることができるようにする。措置計画は、労働組合もしくは過半数代表への説明・協議、または過半数労働組合もしくは過半数代表者の意見聴取と意見書の添付を義務づける。また、措置計画は労働者に対する義務でもある旨も明確化し、第29条に「措置計画の作成・提出が求められた場合は、労働者や労働組合に周知しなければならない」旨、追加する。
⑰事業主は、均等法の趣旨と事業主が講じている措置について労働者に周知・啓発しなければならない旨を法律に明記する。
⑱差別救済制度を設け、以下のようにする。
a)政府から独立した雇用平等委員会を設置し、都道府県単位で支部を設置する。
b)救済の対象は、雇用の全ステージおよび賃金等の労働条件に関する性差別(性的指向・性自認に関する差別を含む)、仕事と育児・介護に関する両立支援、短時間労働者等の均等・均衡待遇等、その他の労働条件に関する法違反および差別的取り扱いや不利益取り扱いの他、ハラスメントがあるときとする。
c)救済申し立てを理由とする不利益取り扱いを禁止する。
d)差別・格差の合理的根拠を示す証拠およびその裏づけ資料の提出義務は事業主にあるものとする。
e)資料の提出がない場合、あるいは資料の提出があっても合理的根拠が認められない場合には、差別を認定して是正を勧告できるようにする。また、委員会は差別の認定に関して調査する権限を持つものとする。
f)事業主がこの勧告にしたがわない場合は刑罰を科す。
⑲差別救済において政府から独立した雇用平等委員会が設置されるまでの間、第30条(公表)にもとづき厚生労働大臣(都道府県労働局長)の勧告にしたがわない企業名を公表するなどの制裁措置を行う。
⑳政府から独立した救済機関が設置されるまでの間、男女雇用機会均等法の実効性を強化するため、都道府県労働局・雇用環境・均等部(室)の人員を増員し、増加傾向にある相談や救済依頼に対し、迅速に対応できる体制を整える。その際、男女平等の観点に関して職員への十分な研修を行うものとする。
- (2)労働施策総合推進法等の関係法令を以下のように改正する。
①ハラスメント行為そのものを禁止する。
②パワーハラスメントの行為類型に「セクシュアル・ハラスメント」や「その他のいじめ・嫌がらせに該当する行為」を含め、あらゆるハラスメントを包括的に規制できるように指針で例示する。また、「個の侵害」(注4)には、性的指向・性自認に関するハラスメントも対象であることを指針で明確化する。
③パワーハラスメントに関する事業主が雇用管理上講ずべき措置の行為者・被害者の対象に職務の遂行に際して接触した取引先や顧客、利用者、患者、生徒などの第三者も含める。
④ハラスメントの回避や、療養が必要な労働者の休業と復職の権利の保障などについて、具体的なルールや手続を指針に明記する。また、被害者が第三者の場合も念頭に通報制度も含めた相談窓口の設置を行い、二次被害の防止対策を講じる。
⑤ハラスメントに関する事後的な救済措置として、新たに行政から独立したハラスメントに関する専門の救済機関を設置する。
⑥事業主が雇用管理上講ずべき措置も含めたハラスメント対策について、(安全)衛生委員会の活用を含め、労働者が参加した場で協議を行うものとする。
⑦ハラスメントが起こりやすい業種・業態・職務等の実態を把握し、効果的な追加措置を講じる。
- (3)労働基準法を以下のように改正する。
①第3条(均等待遇)に規定されている、差別的取り扱いをしてはならない理由に「性別」を加える。
②第4条(男女同一賃金の原則)について、ILO第100号条約の趣旨にもとづき同一または同一価値の労働に就く男女に同一の報酬を支払うことを義務づける旨を明記する。
③第64条の3(危険有害業務の就業制限)にもとづく女性労働規則第2条第2項に関して、同規則第2条1項第13号の「土砂が崩壊するおそれのある場所又は深さが5m以上の地穴における業務」および第14号「高さが5m以上の場所で、墜落により労働者が危害を受けるおそれのあるところにおける業務」についても、産後1年を経過しない女性から申し出があれば就業できないこととする。
- (4)女性活躍推進法を以下のように見直す。
①法の目的に、人権と性差別禁止にもとづいた雇用平等の実現と、非正規雇用も含めたすべての女性を対象とする格差是正と貧困の解消、および長時間労働削減による仕事と生活の調和の推進および法が女性差別撤廃条約の理念にもとづくことを明記する。
②企業内の女性活躍に関するデータの現状把握、分析およびこれらの情報開示については、すべての事業主の義務とする。
③状況把握、分析、情報開示は、パートタイム労働者、有期契約労働者、派遣労働者、臨時・非常勤職員等を含むすべての労働者を対象とする。
④すべての事業主に対し、雇用の全ステージにおける男女別の比率、男女別の配置状況、教育訓練(OJT、OFF-JT)の男女別の受講状況、両立支援制度の導入や男女別の利用状況、男女の賃金の差異、男女別の1つ上位の職階へ昇進した者の割合、男女の人事評価の結果における差異、非正規から正規への転換制度の有無と転換実績の男女別データ、各項目に関する現状把握、分析、情報開示を義務とする。
⑤行動計画策定指針には、あらゆる形態のハラスメントの禁止の取り組みについて盛り込む。
⑥各事業主の目標設定および行動計画策定、実行、改善見直し、達成のすべてのプロセスにおいては、具体的な取り組みが継続的に行われるよう労使の協議にもとづく検証が確実に行われる体制の整備を義務づける。
⑦時限立法となっている女性活躍推進法の一般事業主行動計画部分については、男女雇用機会均等法の第14条(ポジティブ・アクションに関する条文)に位置づけ、統合する。
⑧女性活躍推進法にもとづく認定に際しては、基準の適合確認の徹底と厳格化をはかり、認定後において基準に適合しなくなった場合は速やかに認定の取り消しを行う。
⑨女性が働く上での設備等の環境整備が進むよう両立支援等助成金(女性活躍加速化コース)を周知し、活用を促進するとともに、職場の実態を踏まえて継続的に充実をはかる。
- (5)すべての労働者の均等・均衡待遇の実現と労働条件の向上に向けて、以下のようにパート・有期法の改正を行う。
①第7条(就業規則の作成の手続)について、パートタイム労働者もしくは有期雇用労働者用の就業規則を作成・変更する場合は、パートタイム労働者もしくは有期雇用労働者のそれぞれ過半数を代表する者から意見を聴取することを事業主に義務づける。
②第9条(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止)については、要件でパート・有期雇用労働者の待遇を分ける規定を削除し、第8条(不合理な待遇の禁止)と統合する。将来的には、すべてのパート・有期雇用労働者を対象に、合理的理由がある場合を除き、待遇についてパート・有期雇用労働者であることを理由とする差別的取り扱いを禁止する。
③第10条(賃金)について、合理的な理由がない待遇の格差を禁止した上で、合理的な理由が認められた場合でも、均衡待遇の具体的な改善策を講じるよう事業主に措置義務を課す。
④第11条(教育訓練)について、通常の労働者と職務の内容が同一であるパート・有期雇用労働者には、職務遂行に必要となるもの以外の教育訓練も、通常の労働者に準じて実施することを義務づける。
⑤第13条(通常の労働者への転換)について、「短時間正社員制度」の活用を含めて正規労働者への転換の間口を広げ、キャリアラダーを整備し、希望する者の正規労働者化を促すことについて、事業主に義務を課す。また、差別的取り扱いの禁止の対象となる通常の労働者と同視すべきパート・有期雇用労働者が希望する場合は、優先的に雇用する。
⑥第14条(事業主が講ずる措置の内容等の説明)について、通常の労働者との待遇の違いの程度とそれが生じた理由を含めて説明する手段は、文書によることとする。
⑦事業所ごとに「雇用管理改善計画」の策定を課し、一定基準を満たせば厚生労働大臣の認定を与え、表示できるようにする。認定事業所には、法人税の税額控除など税制上の一定のインセンティブを与える。
⑧パート・有期法および省令、指針などを周知徹底するとともに、監督・指導体制を強化し、法の実効性を確保する。
⑨第18条(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告等)について、労働局長が勧告を行う場合であって、必要と認められるときには改善措置計画の作成を求めることができるようにする。当該計画については、過半数労働組合もしくは過半数代表者への説明・協議、または過半数労働組合もしくは過半数代表者の意見聴取と意見書の添付を義務づける。
⑩パート・有期法の努力義務規定にも紛争解決援助制度の対象を拡大する。また、労働契約法第18条の無期転換権を行使した労働者やパートとして採用されながらフルタイムで働いている無期雇用労働者に対する不合理な差別は、パート・有期法の脱法的行為として、同法に関する紛争解決手続を利用できるようにする。
⑪差別救済制度を設け、以下のようにする。
a)政府から独立した雇用平等委員会を設置し、都道府県単位で支部を設置する。
b)救済の対象は、雇用の全ステージおよび賃金等の労働条件に関する性差別(性的指向・性自認に関する差別を含む)、仕事と育児・介護に関する両立支援、パート・有期雇用労働者等の均等・均衡待遇等、その他の労働条件に関する法違反および差別的取り扱いや不利益取り扱いの他、ハラスメントがあるときとする。
c)救済申し立てを理由とする不利益取り扱いを禁止する。
d)差別・格差の合理的根拠を示す証拠およびその裏づけ資料の提出義務は事業主にあるものとする。
e)資料の提出がない場合、あるいは資料の提出があっても合理的根拠が認められない場合には、差別を認定して是正を勧告できるようにする。また、委員会は差別の認定に関して調査する権限を持つものとする。
f)事業主がこの勧告にしたがわない場合は刑罰を科す。
⑫第28条(雇用管理の改善等の研究等)に、厚生労働大臣は、教育訓練の実施やパート・有期雇用労働者に関する評価制度(職務評価・職業能力評価)について資料の整備を行い、必要な事業主に対して提供することを促進していくことを明記する。
- (6)性的指向・性自認に関する差別を禁止する法律を以下のように制定する。
①法の目的に、あらゆる人の性的指向・性自認に関する差別を禁止する旨を明記し、憶測による差別等にも対応できる法制とする。
②性的指向・性自認に関する差別に関して、雇用の全ステージや学校をはじめとするあらゆる分野における差別的取り扱いを禁止する。その際、憶測による差別や、家族が性的指向や性自認に関して困難を抱える者であることに対する差別についても禁止する。
③雇用の分野をはじめとするあらゆる分野において、性的指向・性自認に関するハラスメントの防止を措置義務とする。措置内容として、国は事業主等が防止に取り組む際の指針を作成し、プライバシー保護を徹底する等、性的指向や性自認の課題の特徴を踏まえた措置を講ずる。
④性的指向・性自認に関する合理的配慮を各事業主に義務づけるとともに、職場の円滑な対応を可能とするため、対応要領や指針を作成する。対応要領や指針には、労働者の施設利用や服装に関する扱い、性別欄の見直し、プライバシー保護や教育訓練等をはじめ、詳細な事例とともに記載する。
⑤対応要領や指針を作成する際には、労働者代表や性的指向・性自認で困難を抱える当事者等を構成員とする審議会を内閣府に設置し、意見反映の場とする。雇用の分野については労働者代表の意見を労働政策審議会において反映する。
⑥学校におけるいじめやハラスメント等の対応については、性的指向・性自認にかかわらず広く相談支援に応じることのできる体制整備を進めるとともに、外部の専門機関や地方自治体の相談窓口との連携を強め、子どもからの相談に応じることができるようにする。
⑦プライバシー保護や孤立等を防止する観点から、各都道府県に相談センター等の設置を義務づける。その際、相談者のプライバシーを相談センターが厳守するよう、相談対応のガイドライン作成や、秘密厳守の義務、および秘密漏洩に対する罰則を課す。
⑧行政は広範な性的指向・性自認に関する差別等の実態や、国内外の差別禁止や権利保障の取り組みに関する情報収集を進める。特に、合理的配慮の事例について積極的な収集を行う。
- (7)労働条件の時間比例を原則とする「短時間公務員制度」などの導入を行い、公務における臨時職員・非常勤職員の雇用安定と処遇改善をはかる。
- (8)男女間および雇用・就業形態間の賃金格差是正の実現へ向け、日本が批准しているILO第100号条約「同一価値労働・同一報酬」の実効性を確保のため、職務評価手法の周知・普及とさらなる研究開発を進める。
- (9)男女の職務分離の改善を進め、男性の多い職務への女性の進出、女性の多い職務への男性の進出を積極的に推進するために学校教育、職業能力開発、職業紹介、男女均等取り扱いなどの関連する行政の連携を進める。
- (10)ILO第183号母性保護条約を早期に批准するため、労働基準法第67条(育児時間)による育児時間中の賃金は100%保障することとし、産休終了時に原職または当該休業の直前と同一の額が支払われる同等の職に復帰する権利を保障する。
- (11)出産手当金については、賃金との併給の場合の限度額を雇用保険法の育児休業給付の限度である80%(標準報酬日額の80/100)まで引き上げる。
- (12)母体保護のため強制休業となっている産後休業期間については100%所得保障をする。
- (13)国内法を整備し、ILO第111号条約(雇用および職業についての差別待遇の禁止)、ILO第105号条約(強制労働の禁止)、ILO第171号条約(夜業禁止)、ILO第175号条約(平等なパートタイム労働)、ILO第183号条約(母性保護)、ILO第189号条約(家事労働者)の早期批准を行う。
- (注1)労働組合は、男女雇用機会均等法制定前から募集・採用など雇用のステージごとの機会の均等だけでなく、賃金差別や仕事と生活の調和などの課題も含んだ男女間の不平等を総合的に是正する雇用平等法の制定を求めた方針を掲げ続けている。
- (注2)間接差別 ~雇用分野における性別に関する間接差別とは、①性別以外の事由とする措置であって、②他の性の構成員と比較して、一方の性の構成員に相当程度の不利益を与えるもので、③合理的な理由がないときに講ずることである。具体的には、男女雇用機会均等法の指針において、以下の3点が間接差別として規定されている。
-
a)労働者の募集又は採用に当たって、労働者の身長、体重又は体力を要件とすること
b)コース別雇用管理における「総合職」の労働者の募集又は採用に当たって、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすること
c)労働者の昇進に当たり、転勤の経験があることを要件とすること。
- (注3)性暴力 ~社会的に形成される男女の差異(ジェンダー)にもとづくあらゆる暴力行為のことである。
- (注4)2011年度の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」では、職場のパワーハラスメントについて6つの行為類型が示された。
ⅰ暴行・傷害(身体的な攻撃)
ⅱ脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
ⅲ隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
ⅳ業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
ⅴ業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
ⅵ私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
2.男女平等社会実現に向け、男女共同参画社会基本法にもとづく「第5次男女共同参画基本計画」を着実に実行し、男女平等の視点に立った社会制度・慣行の見直しを推進する。
- (1)「男女共同参画社会基本法」の理念を達成するために以下の施策を推進する。
①女性差別撤廃条約の履行状況ならびに第5次男女共同参画基本計画の施策の実施状況を継続的に監視するために、権限と実効性があり、定期的に施策を評価できるモニタリング機関を設置する。
②「男女共同参画基本法」をあらゆる機会・媒体などを通じ、国民各層に広く周知する。 また、基本法(基本計画)の趣旨に沿い、政府は、市町村における基本計画の策定、条例化に資するよう、情報提供などの支援を行う。
③都道府県の「男女共同参画基本計画」の達成状況を監視し、都道府県に対して勧告する権限を有する評価委員会を設ける。委員会は、当該地域の労働組合、経済団体、NPO・NGO、女性団体などで構成する。
④調査や統計における統計情報の提供にあたって、男女別統計(ジェンダー統計)の整備を、国、地方自治体、公的機関に義務づけるとともに、すべての民間団体、機関は男女別統計の収集・整備・提供に努めることとする。
- (2)政府は「第5次男女共同参画基本計画」を着実に実行する。
①国、地方自治体、公的機関などは、2020年12月に閣議決定した「第5次男女共同参画基本計画」にもとづく「2030年代には、誰もが性別を意識することなく活躍でき、指導的地位にある人々の性別に偏りがないような社会となることを目指し、その通過点として、2020年代の可能な限り早期に指導的地位に占める女性の割合が30%程度となるよう目指して取り組みを進める」との目標の達成に向けて、さらに踏み込んだポジティブ・アクションの実行等を通じ、女性の参画拡大を進める。
②民間部門でも「2020 年 30%」の目標の周知徹底をはかり、さらなるポジティブ・アクションの実行について国は指導する。
③国は、メディアに関わる業界における女性の参画を拡大するよう働きかける。
④国および地方自治体が設置・開催する防災・復興会議や、災害時の避難所の運営などの現場の意思決定などの防災・復興に関するあらゆる意思決定の場への女性の参画を拡大する。
⑤国は、個人のライフスタイルの選択に中立的な税・社会保障制度へと見直す。
⑥女性の人権と平等を確保するため、国は、個人通報制度と調査制度を有する女性差別撤廃条約選択議定書を早期に批准する。
⑦2030年までに、指導的地位に女性の占める割合を50%にすることを目標とし、2020年以降も、あらゆる分野における女性の積極的参画を達成するため、さらなる取り組みを加速させること。
- (3)男性自身が持つ固定的性別役割分担意識の解消に向け、長時間労働を前提とした働き方や介護等の困難を一人で抱えがちな傾向について、ジェンダーの観点からさらなる調査研究を進め、男女共同参画社会を効果的に推進する。
- (4)雇用の場におけるポジティブ・アクションを推進する。
①公契約基本法を制定し、各府省の公共調達において、男女共同参画等に積極的に取り組んでいる企業を優先する。地方においては、公契約条例を制定し、男女共同参画等に積極的に取り組んでいる企業を優先する。
②行政分野において、男女が同等の成績である場合に女性を採用・登用する「プラス・ファクター方式」を採用する。
- (5)2018年5月に施行された「政治分野における男女共同参画推進法」の実効性を高めるため、クオータ制導入に向けた必要な法整備を行う。また、政党による女性議員の発掘・育成を支援するために、女性議員の割合に応じた政党交付金の傾斜配分などの制度支援を行う。さらに、議員の仕事と家庭の両立を支える環境整備を行う。(「政治改革」より再掲)
- (6)性別にもとづく固定観念にとらわれない視点から、公的機関の策定する広報・出版物における表現は、国の「男女共同参画の視点からの公的広報の手引き」にしたがうよう周知・徹底をはかる。また、マスメディアから受ける影響も大きいことから、民間についても準拠するよう指導する。
- (7)男女平等社会実現に向けて、民法を下記のとおり改正する。
①選択的夫婦別氏制度を導入する。ただし、別氏を選択した夫婦の子の氏については、その出生の際に、父母の協議により、子の称する氏を父または母いずれかの氏とする。
②女性の再婚禁止期間を廃止する。
③親族・扶養義務者の範囲を縮小の方向で見直す。
④離婚時の財産分与、子どもに対する親の養育費負担を制度化する。
⑤無戸籍の要因ともなっている嫡出推定については、子どもの福祉を守ることを最優先に考え、柔軟に対応できるようにする。具体的に、嫡出否認の否認権者を子など夫以外にも拡大する。また、行使期間も夫の現行の1年を延長するとともに、子などに認める場合もそれぞれ合理性・整合ある期間とする。
⑥戸籍法を改正し、出生届書の嫡出子と嫡出でない子の別の記載事項をなくす。
⑦同性パートナーの権利保障のため事実婚に準じた扱いとすることや、戸籍変更要件の緩和など、性的指向や性自認に関する課題の解消に向けた民法の整備を進める。
- (8)男女平等の視点に立った学校・社会教育を推進する。(「教育政策」より再掲)
①国・地方自治体は男女平等教育のための基本方針を策定し、教職員や社会教育主事などに対する研修を行う。またジェンダー平等の視点から、教科書の見直しや教材開発、男女混合名簿を進めるとともに、スクールセクシュアル・ハラスメント防止に努める。
②人種、民族、宗教、肌の色、性別、年齢、疾病、障害、門地、性的指向・性自認等による人権侵害を解消し、人権意識を高めるための教育を行う。
- (9)性やライフスタイルに中立な税・社会保障制度を確立する。(「年金政策」、「税制改革」より再掲)
①雇用労働者である国民年金第1号被保険者についても、育児休業などの取得期間中の保険料免除措置を導入する。給付に反映する場合の財源は、国民年金財政で負担することを基本としつつ、公平なあり方を検討する。
②第3号被保険者制度の見直しについては、短時間労働者等への厚生年金のさらなる適用拡大、被扶養者認定の年収要件の見直しで対象者を縮小する。
③遺族厚生年金について、以下のとおり見直す。
a)当面、遺族年金の支え手である被保険者の年収とのバランスをはかる観点から、年収850万円未満の遺族に支給される現行制度について、遺族となった者の年収に応じて、年収 600 万円程度から段階的に年金額を調整する仕組みに改める。また、適用認定については、毎年の年収をもとに認定する仕組みに改める。
b)遺族厚生年金の支給要件の男女差については、将来の遺族年金のあり方、方向性と整合性をはかりつつ、格差解消に向けて見直す。
④人的控除としての配偶者控除は、扶養税額控除に整理統合する。
⑤勤労学生控除、老人扶養親族控除(70 歳以上)、同居老親等加算、障害者控除、寡婦・寡夫控除は税額控除に変える。
⑥非婚のひとり親世帯についても、寡婦・寡夫控除を適用する。
⑦夫婦が子等を共同扶養する場合の健康保険の被扶養の認定において、年間収入の多少により画一的に判断せず、家庭の実態などに即して判断すべきことを通知などで周知徹底する。
3.人間らしい働き方を実現するために、男女が仕事と生活を調和できる環境を整備する。
- (1)長時間労働の是正に向けて、労働時間短縮や年次有給休暇の完全取得など、労働者の健康・安全およびワーク・ライフ・バランスの確保に向けた施策を推進する。(「雇用・労働政策」より再掲)
①時間外労働の法定割増率を時間外50%、休日労働100%、深夜労働50%に引き上げる。特に、休日労働の割増率は35%から50%以上に早期に引き上げる。
②労働基準法第40条の特例措置(週44時間労働制)は早急に廃止する。
③フルタイム労働者のあるべき労働時間として「年間総実労働時間1,800時間」など、数値目標を示す。
④「ワーク・ライフ・バランス憲章」に盛り込まれた「消費者の一人として、サービスを提供する労働者の働き方に配慮する」との趣旨の周知をはかるなど、深夜化するライフスタイルや長時間労働を是正し、平日のゆとり時間の確保を重視した環境整備を行う。
⑤多くの労働時間規制の適用が除外されている管理監督者については、その定義を法律で明確に定める。なお、管理監督者性の判断基準に関する昭和63年の通達等にもとづく厳格な監督指導は直ちに徹底する。
⑥すべての労働者を対象に「休息時間(勤務間インターバル)規制(原則11時間)」を導入する。
⑦男女ともに限度時間「150時間」を目標として、限度時間「360時間」以内の徹底をはかる。
⑧時間外労働の上限規制の適用が猶予されている「自動車の運転の業務」「医師」および「工作物の建設等の業務」については、実態を踏まえ、上限規制の適用に向けた労働時間短縮の取り組みと、一般則の速やかな適用に向けた議論を行う。
⑨ワーク・ライフ・バランスおよび安全輸送の観点から、自動車運転者の長時間労働の改善および公正競争の確保のために、労働環境や賃金体系が適正なものとなるよう関連諸法の改正を行う。
⑩労働基準法第41条第1号の農業および畜産・水産業従事者に関する労働時間・休憩・休日規制等の適用除外は、労働実態の把握を行い、事業場単位で行われている適用のあり方などについて検討する。
a)長時間労働による「精神的・肉体的疲労からの回復」と「交通事故の防止」をはかるため、「休息期間」と違反事業者に対する罰則を法律に規定する。また、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(告示)の最大拘束時間の見直しをはかるとともに、事業者に連続休息期間の確保を義務づける。
b)過当競争や賃金体系における過度な歩合制が低賃金・長時間労働の原因であるため、安全輸送の観点から、いわゆる「オール歩合」「累進歩合」の禁止を法律に明記し、不適切な事業者を排除する制度を構築する。
⑩厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」については、改正労働安全衛生規則における労働時間の適正な把握方法と同様に、使用者に求める措置を労働基準法上の義務として法文化する。
⑪時間外労働・休日・深夜労働等の削減に向けて、「所定外労働削減要綱」、「賃金不払残業総合対策要綱」、「労働時間等設定改善指針」の周知徹底をはかる。
⑫公務における超過勤務の実態を把握するとともに、実効性ある超過勤務規制をはかる。
⑬教員にも労働基準法第37条を適用し、長時間労働の是正をはかる。
⑭「医師の働き方改革の推進に関する検討会」の中間とりまとめを踏まえたうえで、地域において医療機関による労働時間短縮の取り組みを推進すべく、評価体制の整備と、医療勤務環境改善支援センターによる相談支援の強化をはかる。また、医師の労働時間の実態把握と、取り組みの改善を定期的に行うとともに、医療を受ける側の国民の理解を得ながら国が一体となり、医療現場で働くすべての労働者の長時間労働を是正する。
⑮ICTの進化・普及により生じている、退社後・休日の待機・呼び出しや行動範囲の限定という実態を調査するとともに、このような働き方/働かせ方に対する規制・ルールを検討する。
⑯高度プロフェッショナル制度は、施行後の状況を検証し、対象労働者の働き方や健康確保、対象業務の運用などに問題がみられる場合は、廃止も含めて制度の見直しを行う。
⑰裁量労働制の対象業務拡大は行わない。
⑱裁量労働制の導入手続きは、2003年の労働基準法改正前の手続きに戻すことを原則とし、(a)労使委員会の労働者側委員については、過半数労働組合がある場合を除いては、労働者からの信任手続きを必要とし、(b)労使委員会の決議要件は全員一致とする。
⑲裁量労働制の適用は、「本人同意」を要件とし、不同意の場合の不利益取り扱い禁止、適用後に本人が希望した場合には一定の予告期間後には通常の労働時間管理への復帰を保障することを明文化する。また、前年度の休暇取得率を踏まえた特別の休日労働規制など、健康・福祉確保措置の最低基準を法律に規定する。
⑳すべての労働者を対象に「連続勤務日数の規制」の導入を検討する。
㉑長時間労働につながる商慣行の見直しと取引の適正化をはかるため、事業主が取引上必要な配慮をする努力義務を定めた「労働時間等設定改善法」および「労働時間等設定改善指針」の周知徹底をはかる。
- (2)年次有給休暇取得促進に向けた施策を促進する。(「雇用・労働政策」より再掲)
①法定年次有給休暇の最高付与日数を25日に引き上げるとともに、最低付与日数20日に引き上げる。また、6ヶ月の継続勤務要件は廃止する。
②本人・家族の病気・看護休暇、配偶者出産休暇(5日間)などの新設をはかる。
③年次有給休暇の取得促進につながる具体的施策(取得促進に向けた計画などの提出義務の企業への賦課、取得率良好企業の認定制度の創設、ポジティブ・オフ運動の推進など)の展開や、ILO第132号条約を踏まえた長期連続休暇の取得、年間休日確保に向けた施策の整備とその推進をはかる。
④年次有給休暇の取得による不利益取扱いの禁止を労働基準法上明確化する。
⑤国民のゆとり確保の観点から、国民生活などに欠かせない分野を除き、正月三が日、特に「元日」については、特別な日として休業の制度化をはかる。
⑥5月1日を国民の祝日とし、4月29日の「昭和の日」から5月5日の「こどもの日」までを連休とする「太陽と緑の週」を制定する。
- (3)雇用型テレワークについて、「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」に示されている労働条件の明示、労働時間の把握・管理、労働災害への対応などに関して、周知・徹底をはかる。(「雇用・労働政策」より再掲)
- (4)「過労死ゼロ」の実現に向け、実効ある長時間労働是正策とともに、過労死等の事案の企業名公表など、労働者が安心して働けるよう、総合的な過労死等防止対策を講ずる。(「雇用・労働政策」より再掲)
-
①「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の見直しにおいて、労働時間やメンタルヘルスに関する新たな課題の把握と、対策の検討をすすめる。また、現行の数値目標の達成状況を評価するとともに、「過労死等ゼロ」にむけた取り組みを強力に進めるべく、PDCAサイクルの構築をはかる。
②教員など公務職場における過重労働の実態を早急に把握し、抜本的な過重労働対策を講ずる。
- (5)国は、男女がともに仕事と生活を調和できる環境を整備するため、育児・介護休業法を以下のように改正し、「両立支援法」とする。
①育児・介護休業制度の制度利用による不利益取り扱いの禁止について、周知・徹底をはかる。また、不利益取り扱い禁止の実効性を高めるため、法律に違反した企業について、企業名を公表し、過料などの罰則を課す。
②育児休業・介護休業等を理由とする上司・同僚などによるハラスメントの防止措置の対象に、両立支援制度を利用していない場合の育児や介護に関するハラスメントも追加する。
③実労働時間の短縮をはかるため、時間外労働の規制強化(年間150時間)と年次有給休暇取得促進のための措置を講ずる。
④育児・介護休業法第23条にかかる指針において、労使協定により短時間勤務制度の適用を排除できる例として示されている「流れ作業方式による製造業務等」については削除する。
⑤介護休業については、その期間を現行の93日から少なくとも1年に延長し、分割回数は制限を設けず、柔軟に対応できる制度とする。
⑥現行の短時間勤務は請求権とする。少なくとも、介護のための所定労働時間の短縮措置等の選択的措置義務のうち、短時間勤務制度は単独措置とし、介護の事由解消まで回数の制限なく利用できる制度とする。育児に関する短時間勤務については、子が中学校就学の始期に達するまで請求できることとし、当面は小学校就学前までとする。
⑦所定外労働の免除は、対象となる子の年齢を3歳までから「中学校就学の始期に達するまで」へ引き上げる。なお、当面は小学校就学前までとする。
⑧有期雇用労働者の育児休業・介護休業の取得要件を撤廃する。
⑨深夜業が免除される者の子の対象年齢は、小学校就学の始期に達するまでから「中学校就学の始期に達するまで」へ拡大する。
⑩育児・介護を行う者が請求したとき、休日労働・変形労働を免除する措置を設ける。
⑪介護サービスを利用できない場合や看取り介護を行う場合などは、介護休業期間を延長できる特例を設ける。
⑫育児・介護など、多様な労働者のニーズに応じて、フルタイムの正社員と転換可能な短時間正社員制度の導入が進むよう支援を拡充する。
⑬男性の育児休業取得促進に向けて、「パパ・ママ育休プラス」の拡充や産後8週以内に男性が20日以上育児休業を取得した場合、休業中の所得保障が割り増しになる制度等の施策を講じる。
⑭介護休業中の社会保険料について労働者負担分の掛け金を免除する。
⑮子の看護休暇・介護休暇について、現行の2人以上年10日の日数制限をなくし、子1人につき年5日とし、時間単位での取得も可能な制度とする。
⑯国は、仕事と介護の両立支援を強化する観点から、職場における介護に関する従業員からの相談対応や法定および社内の両立支援制度の周知、介護保険制度に関する情報提供を徹底するため、「職業家庭両立推進者」の活用を促進する。
⑰事業主が当該労働者に対して個別に育児休業・介護休業等に関する定めを周知する努力義務を措置義務とする。
⑱男女平等の観点から、男性にも保護規定として配偶者の妊娠・出産に伴う不利益取り扱いの禁止を設ける。
⑲男女平等の観点に留意の上、育児休業の分割取得化をはかる。
⑳仕事と不妊治療の両立に必要な支援制度を法制化する。
㉑差別救済制度を設け、以下のようにする。
a)政府から独立した雇用平等委員会を設置し、都道府県単位で支部を設置する。
b)救済の対象は、雇用の全ステージおよび賃金等の労働条件に関する性差別(性的指向・性自認に関する差別を含む)、仕事と育児・介護に関する両立支援、パート・有期労働者等の均等・均衡待遇等、その他の労働条件に関する法違反および差別的取り扱いや不利益取り扱いの他、ハラスメントがあるときとする。
c)救済申し立てを理由とする不利益取り扱いを禁止する。
d)格差の合理的根拠を示す証拠およびその裏づけ資料の提出義務は事業主にあるものとする。
e)資料の提出がない場合、あるいは資料の提出があっても合理的根拠が認められない場合には、差別を認定して是正を勧告できるようにする。また、委員会は差別の認定に関して調査する権限を持つものとする。
f)事業主がこの勧告にしたがわない場合は刑罰を科す。
- (6)国は、「雇用均等基本調査」で男女別の育児休業取得期間を毎年調査し、公表する。
- (7)仕事と子育てが両立できる環境整備を促進する。
①次世代育成支援対策推進法について、一般事業主行動計画および特定事業主行動計画の策定を推進するとともに、「子育てサポート企業認定(くるみんマーク認定)制度」および「特例認定(プラチナくるみん認定)制度」の普及・拡大をはかるため、税制優遇の拡充などにより企業に積極的インセンティブを与える。
②次世代育成支援対策推進法にもとづく認定に際しては、基準の適合確認の徹底と厳格化をはかり、認定後において基準に適合しなくなった場合は速やかに認定の取消を行う。
- (8)妊娠・出産や育児などを経ながら男女がともに就業継続できる環境の整備に向けて、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法等の周知・徹底とともに、企業における両立支援制度等の充実、働き方の見直しを含めたワーク・ライフ・バランスの取り組みの促進・支援など、施策の拡充をはかる。
- (9)マザーズハローワークの拡充、求人開拓、能力開発の促進、保育・介護サービスの拡充など、妊娠・出産・育児、介護などにより退職した女性の再就職を支援する施策を行う。
- (10)ひとり親家庭の経済的自立を支援するため、「母子家庭等就業・自立支援センター」を「ひとり親家庭等就業・自立支援センター」へと名称変更の上、支援事業の拡充、職業能力開発支援など、福祉行政と労働行政の連携を強化し、個々の世帯態様に応じた総合的な施策を行う。
4.すべての子どもの豊かな育ちと男女が協力しながら仕事と子育てを両立することができる社 会の実現に向け、子ども・子育てを社会全体で支える第一歩としての「子ども・子育て関連 3法」の着実な施行に向けた取り組みを進める。(「子ども・子育て支援政策」より再掲)
- (1)結婚や出産は当事者の選択であり、国や行政が介入すべきではなく、子どもを心身ともに健やかに育成する基本的な責任はすべての保護者にあることを念頭に、子どもの最善の利益を優先しつつ、保護者が安心して生み育てられる条件整備や、子どもが健やかに育つための環境整備をはかることは社会の責任であることを国は明確にする。
- (2)待機児童を早期に解消し、安心して子どもを生み、仕事と子育ての両立ができることで、誰もが能力を発揮できるよう、「子ども・子育て関連3法」の着実な施行のための支援を強化する。
①地方自治体は、潜在的なニーズも含め保護者の意向や状況を把握し、全国の待機児童の実態を明らかにする。また、地方版「子ども・子育て会議」において、各地方自治体事業計画の検証を行い、実効ある子ども・子育て支援がすべての地域で実施されるよう、対策を強化する。
②国は、待機児童解消のため、市町村を強力に支援するとともに、子ども・子育て支援新制度に保育サービスの利用者などの意見が確実に反映されるよう、「子ども・子育て会議」の機能を着実に発揮させる。
- (3)国および地方自治体は、既存の保育所および幼稚園の幼保連携型認定こども園への移行を促進するとともに、子ども・子育て支援新制度の質的な改善と量的な拡充をはかる。
①子どもの安全と育ちの保障を重視し、幼保連携型認定こども園の設置基準・職員配置基準を改善するとともに、基準を満たすための財政支援を行う。同様に、幼稚園・保育所についても改善する。
②保護者の様々な就労状況や経済状況にかかわらず、すべての小学校就学前の子どもに対するより良い幼児教育・保育環境を確保するため、インセンティブを設け、さらなる移行を促進する。
③市町村の保育に関わる責任を明確にし、あっせん、利用調整、要請の権限について、その実効性を確保する。また、利用者と教育・保育施設等との契約における施設の応諾義務を徹底する。なお、公立の教育・保育施設については、地域のニーズに応じて行政機関としての責務と役割も担うこととする。
④教育標準時間認定子ども(1号認定)に対して、定員を上回った場合の入所選考については、他の認定こども園と同様に、市町村のあっせん、利用調整、要請の対象とする。
⑤インクルーシブの理念を重視し、障がい児など、特別な支援が必要な子どもについて、市町村によるあっせん、要請などの利用支援を積極的に行う。同時に、受入れ側の人員配置、体制などを十分に確保する。
⑥保育所の認可について、「欠格事由に該当する場合や供給過剰による需給調整が必要な場合を除き、認可するものとする」との考え方どおり機動的に実行するとともに、都道府県と市町村との間で十分な連携がはかられるよう周知する。
⑦市町村が定める利用者負担額以外の上乗せ徴収・実費徴収については、上限を設定するとともに、低所得者対策として利用者負担の軽減などを実施する。
⑧小児医療などの充実をはかる。
a)地域における小児医療・救急体制を確実なものとするため、財政支援の拡充等の対策を早急に講ずる。
- (4)国および地方自治体等は、事業所内保育、家庭的保育や小規模保育のさらなる整備・充実をはかる。
①事業所内保育施設について、さらなる整備・充実を進める。また、労使の主体的な判断のもと、積極的に子ども・子育て支援新制度の地域型保育の運営基準を満たし、地域の子どもを受け入れる体制をつくるとともに、適切なワーク・ライフ・バランスが確保できるよう努める。
②家庭的保育や小規模保育については、子どもの安全などの質を確保した上で、さらなる整備・充実をすすめる。特に都市部での家庭的保育や小規模保育の推進にあたっては、内部設備等だけでなく、子どもの最善の利益のため、周辺環境も考慮する。整備する際は、保育が適正かつ確実に行われるよう、認可保育施設を連携施設として確保する。
③過疎地の幼児教育・保育について、小規模保育の充実や、認可施設への移行に向けた認可外施設の改善を促すなど、安定的にサービス提供できるよう施策を拡充する。
- (5)国および都道府県等は、放課後児童クラブなどの地域子ども・子育て支援事業のさらなる充実をはかる。
①放課後児童クラブにおける待機児童を解消し、子どもを取り巻く環境を向上させるため、次の措置を講ずる。
a)市町村の実施責任を明確にし、小学校区内に最低1つ以上の設置をはかるよう早急に整備する。設置にあたっては、児童福祉法において「参酌すべき基準」とされている従事する者の資格、職員数については早急に「従うべき基準」へ改める。また、児童の集団の規模、設備、開所日数、開所時間などについても、その改善をはかるとともに「従うべき基準」へ改める。
b)放課後児童クラブにおいて、基準を満たすよう、施設の改善や職員の資格取得に向けた支援を行うとともに、適切なワーク・ライフ・バランスが確保できるよう努める。
c)保育時間の延長や入所要件の弾力化をはかるなど、地域のニーズと実情に応じて多様なサービスの提供を推進する。併せて、障がい児の受入れが可能な体制を整備する。
d)運営にあたって小学校との連携・協力体制を構築する。
e)「放課後子ども総合プラン」を推進するにあたっては、放課後児童クラブと放課後子供教室の連携を強化するとともに実施水準を確保する。また、児童館との連携を進める。
- (6)国および地方自治体は、子どもの最善の利益を確保する観点から認可外施設への取り組みを強化する。
①認可外保育施設について、財政支援を行うことで認可施設への移行をはかり、保育環境を改善・向上させる。
②国は、自治体が全ての認可外保育施設への立入調査を実施するよう財政支援を強化する。
③企業主導型保育については、子どもの育ちと安全を保障するため、認定・指導・監査などに市町村による関与を行う。認可施設への移行を強力に進め質を確保する。また、企業主導型保育事業における地域貢献の理念を徹底する。
- (7)社会全体で子ども・子育てを支えるために、地域資源の活用をはかる。
①国および地方自治体は、地域の子育て支援機能回復の観点から、児童館の運営・活動を拡充する。また、開設時間の延長、日曜開設等への支援を強化する。
②市町村は、NPOなど地域の様々な資源とともに子育て支援ネットワークを構築するとともに、保育施設などにその中核的な拠点としての役割を担わせる。
③国は、ベビーシッターについては、届出の義務付けだけでなく、認可制の導入などにより子どもの安全を確保するとともに、将来的には子ども・子育て支援新制度の枠内での実施によって子どもの最善の利益をはかることを検討する。
④国および地方自治体は、「子ども食堂」が子どもや子育ての地域の中での居場所となるよう、地域と連携できるよう支援する。運営にあたっては、地域の誰もが利用できるよう配慮する。
- (8)国は、待機児童対策について、実施状況の把握、見直し等に労働者の意見を反映する。また、いわゆる潜在的待機児童を生じさせないよう、待機児童の定義を見直した上で、十分な財政措置を講じ、待機児童解消という目標達成のため対策を見直し、着実に実行する。
- (9)国および地方自治体は、「子ども・若者育成支援推進大綱」に基づき、すべての子ども・若者の健全な育成と社会へのひとり立ちを支援するために社会環境の整備と必要な財政支援を行う。また、困難を有する子ども・若者とその家族の支援にあたっては、福祉と教育の連携などライフサイクルを通した切れ目のない支援を行う。
- (10)国および地方自治体は、待機児童の速やかな解消と質の高い保育等のサービスの提供のために、幼稚園教諭・保育士・放課後児童支援員等の人材確保対策を強力に進める。
①待機児童の早期解消のため、質の高い保育所等の整備とともに幼稚園教諭・保育士等へ抜本的な処遇改善を行い、幼児教育・保育の質の向上および人材の定着と確保、ディーセントワークを実現する。
②幼稚園教諭・保育士等が職場で長く働き続けられるようにするために、研修やキャリアアップ制度を確実に利用できるよう支援する。
③潜在保育士が円滑に保育職場に復職できるよう、その支援体制を構築する。
④職員の資格について、幼稚園教諭の免許または保育士資格のいずれか一方しか有していない場合は、両資格取得を可能とする人員体制、財政支援を確保する。なお、保育教諭の政治的行為の制限等の処遇について、労働組合や関係機関と十分に協議する。
⑤放課後児童クラブの質を確保するため、放課後児童支援員の数は支援の単位ごとに2人以上を堅持する。また、放課後児童支援員の処遇改善と研修体制の強化のため人員体制、財政支援を確保する。併せて、保育時間の延長や職員体制の強化のため、放課後児童支援員の常勤化を進める。
⑥保育従事者の負担軽減や防犯、事故の予防など安全性の向上のため、保育サービスにおけるICTの活用に向け、研究開発をすすめる。
- (11)国は、子どもの貧困対策への支援を拡充し、子どもの貧困の解消をはかる。
①子どもの貧困に関する全国的な実態調査を速やかに実施する。
②子どもの貧困対策を充実するために経済的支援、就労支援とともに、食事支援、生活支援、学習支援などを包括的に行う。
③ひとり親家庭の課題を把握・整理し、適切な支援メニューにつなげるため、母子・父子自立支援員を中心としたアウトリーチ(訪問支援)型の相談支援体制をより一層整え、相談支援窓口の整備のために必要となるさらなる支援を行う。
④地域における、ひとり親家庭への支援メニューや支援施策のさらなる周知、広報対策、利用を促進する。
- (12)国は、消費税率の引上げによる財源(0.7兆円)を含めて1兆円超程度の財源を確実に確保する。併せて、地方一般財源も確保し、子ども・子育て支援に関する公的社会支出についてOECD加盟国の平均並みの水準をめざす。
- (13)国は、保護者の様々な就労状況や経済状況にかかわらず、子どもがより良い環境で育つことができるよう、無償化の対象施設となった認可外保育施設の質の改善に取り組み、認可化移行計画を進める。また、すべての小学校就学前の子どもの利用料の無償化に向け財源確保に努める。
- (14)国は、出産、子育てにかかる経済的負担を軽減するため、次の措置を講ずる。
①子育て支援と、安心・安全な出産のため、妊娠・出産にかかる費用については、正常分娩も含めてすべて健康保険の適用(現物給付)とする。また、窓口自己負担が増加することのないよう別途負担軽減措置を講じ、現行の出産育児一時金は廃止する。具体的な診療報酬の設定などに向けて、医療機関から保険者への分娩費用の請求明細の提出を義務づけるなど、分娩の実態把握や費用内訳を把握・検証するとともに、産科医療の標準化を進める。(「医療政策」より再掲)
②特定不妊治療費助成事業の助成額や回数をさらに拡大する。また、特定不妊治療(体外受精および顕微鏡受精)以外の不妊治療に対しても、助成制度を設ける。
③不妊治療の公費助成の拡大にあたり、不妊治療実績、費用、専門医の数、年間の治療件数などの情報開示制度を構築する。
④不妊治療の保険適用については、患者の安全性の確保と医療の標準化、医療アクセスへの公平性の確保を重視し、保険収載を前提としない「混合診療」の導入につながらない仕組みとする。
⑤18歳までの子どもがいる世帯に対し、公的賃貸住宅の優先入居を行う。また、子育て世帯など住宅セーフティネット法の住宅確保要配慮者が入居しやすくなるよう、民間の優良賃貸住宅に対する支援を強化する。
⑥児童手当について、次の措置を講ずる。
a)義務教育終了までの子どもを養育する保護者に対し、特例給付も含め所得制限や世帯合算なしで支給する。なお、所得再分配については、税制などにおいて対応する。
b)年少扶養控除の廃止等により、児童手当受給時に比して実質手取額が減少する世帯が生じない額(3歳未満児1人あたり月額20,000円程度、3歳以上中学修了までの子ども1人あたり月額15,000円程度)を最低限支給する。
- (15)国は、児童扶養手当などをはじめとしたひとり親世帯への支援策をさらに拡充し、子育て・生活支援や職業訓練等の自立支援策を個々の世帯の態様を踏まえ、総合的かつ強力に取り組む。また、児童扶養手当制度における一部支給停止(減額)措置は廃止するとともに、安定的な生活設計のため毎月支給とする。
- (16)国および地方自治体は、すべての未就学児が必要な医療および健康診査が受けられるよう、低所得者への負担軽減を行う。
5.リプロダクティブヘルス/ライツ(性と生殖の健康・権利)を確立する。
- (1)リプロダクティブヘルス/ライツの概念を踏まえ、女性の生涯を通じた性と生殖の健康・権利への支援を行う。(「医療政策」より再掲)
①リプロダクティブヘルス/ライツの概念にもとづき、女性の生涯を通じた性と生殖の健康・権利に関する社会環境の整備および実態調査を規定した法制度の確立を求める。
②政府の「第5次男女共同参画基本計画」(2020年12月決定)を着実に実行するとともに、特にリプロダクティブライツの視点を含めた政策展開を推進する。
③各市町村や学校、職場で行う健康教育では、男女にリプロダクティブヘルス/ライツの知識の普及をはかる。
④学校教育において、すべての児童生徒の発達段階に応じた性教育、特に性的自己決定権に関する教育の充実をはかる。
⑤HIV/エイズについて、児童生徒の発達段階に応じた性感染症予防、薬物乱用防止教育を推進する。
⑥女性の月経困難症、妊娠・出産、および女性特有の疾病などについて周知するとともに、すべての都道府県に女性健康支援センターを設置し、保健所・女性センターなどにおいても性差を考慮した健康相談が受けられるよう環境を整備する。
⑦男女の思春期、更年期などに対して適切な健康相談が受けられるよう環境を整備する。
⑧医療機関の機能分担と連携強化、救急医療や産科・小児医療体制の確立により、地域の医療格差、医師・看護師などの不足を解消し、良質で安心の医療サービスを提供できる体制を確立する。
⑨長時間労働や、深夜労働が妊娠・出産に与える影響についての調査・研究を行い、改善措置を講じる。
⑩リプロダクティブヘルス/ライツの理念から、不妊治療時の仕事と治療の両立ができる環境の整備を行う。
⑪母体保護法をリプロダクティブヘルス/ライツにもとづいた内容に改正する。刑法第29章「堕胎の罪」は廃止する。
⑫女性の生涯を通じた健康支援のニーズに対応するため、21.1%(2016年)の女性医師割合を30%に増やすことをめざし、女性医師の就労環境の改善、仕事と生活の両立支援策の充実など女性医師のM字カーブを解消する。また、女子学生の医学部への進学、医療機関でのキャリアアップを支援する。
6.人権を冒とくする性の商品化や暴力を許さない社会づくりを推進する。
- (1)政府は「第5次男女共同参画基本計画」(2020年12月決定)の「第5分野 女性に対するあらゆる暴力の根絶」に記載されている施策について迅速かつ着実に実行する。
- (2)女性に対するあらゆる暴力(パートナーからの暴力(DV))、性犯罪、売買春、ストーカー行為、セクシュアル・ハラスメントなどを根絶するため、「女性に対する暴力をなくす運動」(毎年11月12日から女性に対する暴力撤廃国際デーである11月25日までの期間、内閣府男女共同参画推進本部)を中心に、社会認識の徹底、意識啓発や情報周知などの充実をはかる。また、商業的な目的で行われる未成年の性的搾取に対する規制を強化するとともに、偽装請負に対する取り締まりなど性的搾取を防ぐための監視と査察のプログラムを強化する、「親子断絶防止法」の制定や離婚別居後の子の居所指定に関連する法改正については、配偶者からの精神的・身体的暴力が深刻なケースにおいて、被害者や子どもの安心・安全が脅かされる恐れがあるために慎重に検討する、ストーカー対策においては、加害者への説得を行える体制を地域ごとに整備するなど、性の商品化や暴力への対策を講じる。
- (3)性の商品化や暴力を許さない社会づくりに向け、包括的な「性暴力等被害者支援法」を制定する。
①法の目的を性暴力、売春、虐待等様々な困難を抱える女性等や同伴する子どもをはじめとする被害者が、尊厳を回復し、基本的人権が尊重される旨を記載する。
②基本理念に、女性等や同伴する子どもをはじめとする被害者の人権と自己決定を尊重し、困難からの自立に向けた切れ目のない支援を明記する。
③法は困難からの自立に向け支援を必要とするすべての女性等や同伴する子どもをはじめとする被害者を対象とし、従来の相談、一時保護、施設利用に加えて就労支援など地域生活における中長期支援を含む。
④関係機関の連携により、個々の事情に応じた支援を行う。
⑤医療費・検査費用等は公費負担とする。
⑥専門性の確保や人権への配慮、プライバシー保護の担保のため、関係機関等は研修等を実施する。
⑦広く暴力被害等に関する教育・啓発を実施する。
- (4)「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」について、緊急保護命令違反に対する罰則強化、デートDV(恋愛カップル間暴力)被害者保護、対象に同性カップルなどあらゆる形態の家族を含めることや、加害者を自宅から出て行かせる別居命令、暴力を受ける子どもへの単独の保護命令を可能とすることなどの見直しを行う。
- (5)国および地方自治体は、性別にかかわらずすべての暴力(性犯罪、性暴力、DVなど)の被害者の支援体制の充実をはかる。
①配偶者などからの暴力相談支援センター機能を充実し、全市区町村での設置を促進する。
a)相談、緊急時の一時保護、居住施設の確保、保護命令制度の周知徹底など、婦人相談所の相談保護体制の強化と全政令指定都市への設置など、施設整備の充実をはかるとともに、全市区町村に婦人相談員等の相談窓口の設置を進める。
b)婦人相談員の専門性の向上と雇用の安定をはかり、心理療法担当職員の増員、医療機関との連携など緊急一時保護体制を強化する。
c)官民の資源を活用した被害者保護の受け皿づくりを進め、母子生活支援施設や民間シェルターなどがDV被害者への安定した支援を行うよう連携強化する。
d)保護された母子への心理的ケアの充実をはかるため、児童家庭支援センターや児童相談所との連携をはかる。保護期間中は通学できない同伴児童のために学習指導員の配置を行う。
②性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターを全国に設置し、性犯罪・性暴力被害者の保護と支援の受け皿づくりを促進する。
a)性犯罪被害者のニーズに寄り添った支援を実施するため、二次被害を受けることなく1カ所で法的・医学的(心身両面)・心理的・社会的支援を受けることができるワンストップ機能を確立する。
b)医療関係者、弁護士、臨床心理士、ソーシャルワーカー、支援者、NPOなど、地域で活用できる資源を結集し、24 時間対応可能な緊急保護体制を整備する。
③外国人に対する通訳や在留資格手続きなどの支援を進める。
④女性警察官の増員など、関係各機関における女性担当者の増員や、相談担当者に対する研修の実施など、二次的被害の防止をはかる。
⑤性犯罪・性暴力の専門的知識を有する司法へのアクセスを確立する。
- (6)加害者には、適切な更正プログラムを受講させるなど、再発防止の体制を確立する。
- (7)国は、人権擁護の観点から、人身売買(トラフィッキング)について、以下の取り組みを実施する。
①「人身取引対策行動計画2014」にもとづき、未然防止策を強化する。
②2014年7月に出された「国連自由権規約委員会」勧告を踏まえ、人権に配慮した被害者の保護と帰国、再定住までのきめこまかなフォロー体制を構築する。
③被害者支援の強化に向け、民間シェルターなどへの積極的な支援を行う。
- (8)国は、性犯罪、性暴力被害者の人権擁護を強化する。
①性暴力被害者の人権擁護の強化、二次的被害を受けないよう事件の立証のあり方について改善するため、いわゆる「レイプシールド」(注5)を被害者の権利として法制化する。
②教職員、警察官、婦人相談員、人権擁護委員、民生委員、児童委員、 家庭裁判所調停員、裁判官などの対応者側に、セクシュアル・ハラスメント、配偶者からの暴力、つきまとい行為(ストーカー行為)、児童虐待などについての理解を深める研修と最新の情報提供を行う。
③被害者の人権擁護の強化をはかるために、「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(リベンジポルノ法)」の法改正を早期に実現する。
④性犯罪の事実認定における暴行・脅迫要件を削除し、国連女性差別撤廃委員会の勧告にもとづき、対象に配偶者の強姦も含めるものとする。
⑤性犯罪・性暴力被害に対する予防教育を関係機関が連携して取り組むよう改善する。
- (9)「児童買春、児童ポルノ禁止法」の確実な履行と施設の充実をはかるため、中央・地方行政は、子どもの人権に関する相談・一時保護・広報などを行う窓口または支援センターなどを設置する。
- (10)子どもを有害情報(性の商品化、暴力表現など)から保護するために、報道・表現の自由に留意しつつ、放送・新聞・出版などマスメディアに対して、自主的な規制機関の設置や機能の充実を強く求め、受け手側から苦情や意見の申し立てが簡便にできる仕組みを提供させる。 インターネット上の「子どもポルノ」など有害情報を排除する対策を講じ、子どもの商業的性的搾取に関する取り組みを強化する。「ネット上のいじめ問題」への対策を強化する。 また、子ども自身のメディア・リテラシー(注6)向上のための支援を積極的に行う。
- (注5)レイプシールド ~犯罪事実とは無関係の被害者の過去の性遍歴等を暴いたり、証拠として提示することを禁止することについて、アメリカをはじめ欧米各国で法整備されているが、日本では未整備。
- (注6)メディア・リテラシー ~メディアからもたらされる膨大な情報を、各人が無批判に受け入れるのではなく、批判的に読み解く力をつけること。
(横断的な項目)・中小企業政策<背景と考え方>
- (1)中小企業がわが国に果たす役割は大きい。中小企業が光り輝くことにより、安定的で活力ある経済と豊かな国民生活が実現される。地域・地場の産業を支える中小企業の発展は地域の活性化に決定的に重要であり、中小企業政策は地方政策や雇用政策と密接不可分であることを認識したうえで推進する必要がある。(以下、産業政策の<背景と考え方>参照)
1.安定した経済成長と公正な配分を最優先とするマクロ経済政策を実施するとともに、国民にとって安全で安心・信頼できる金融システムを構築する。(「経済政策」1
- (1)金融機関が健全かつ適正な事業を運営し、預金者等の消費者利益を保護するとともに、地域経済を支える中小企業等に対してきめ細やかな融資判断を通じた資金供給を行うことができるよう、政府は、適切な監督と公的なバックアップを行う。(「経済政策」1.(2)より再掲)
①政府は、金融機関によるきめ細やかな融資判断やコンサルティング機能の強化、専門人材の育成など、中小企業やベンチャー企業の経営支援につながる政策の推進をはかり、事業育成の視点に立った支援をおこなう。
②政府は、信用保証制度枠の拡大を通じ、民間金融機関等による中小企業等への融資を促す。また、政府系金融機関は、地域の民間金融機関と協調のもと担保免除特例制度やDIPファイナンス(事業再生支援融資)を拡充するなど、中小企業等への事業融資強化、育成、支援、再生をはかる。
③政府は、中小企業やベンチャー企業が多様な手段を通じて資金調達ができるよう必要な環境整備を行う。一方で、投資家のすそ野を拡大する政策を実行する際には、投資家保護策や広報活動の充実をはかる。
④地域金融機関は、債務企業の「再生」「活性化」を最優先に据え、不良債権処理にあたっては、地域経済を支える中小企業等の役割や特性を十分に踏まえた上で、直接償却を多用することなく、間接償却も併用し、計画的に進める。(「地域活性化政策」参照)
⑤国・地方自治体は、地域金融機関が地域密着型金融としての役割を発揮し、産官学金労言の連携のもと事業再生や成長分野の育成、産業集積など雇用の創出に資する取り組みを推進するよう指導や支援を行う。(「地域活性化政策」参照)
2.政府は、雇用創出・安定化、社会保障制度の改革による生活・将来不安の解消、地域活性化・中小企業支援策の実施等の政策に重点を置き、内需主導による自律的な経済成長を実現する。(「経済政策」2
- (1)地域における産官学金労言の連携のもと、ものづくり技術・技能の維持強化とその支援、人材育成強化とその支援、地域特性を活かしたまちづくりの推進など、地域連携を強化した地域経済・社会の活性化を進める。また、総合特区制度なども活用しさらなる活性化をはかる。(「経済政策」2.(6)より再掲)
3.政府は、所得再分配機能の強化や、社会保障制度などの構築に必要な安定財源の確保に向け、税制全体を抜本的に改革する。(「税制改革」2
- (1)政府は、消費税の逆進性対策として「給付付き税額控除」の仕組みを導入するとともに、持続可能で包摂的な社会保障制度・教育制度の構築に向けた財源として、将来的な消費税率のあり方を明確に示す。(「税制改革」2.(3)より再掲)
①軽減税率制度の政策効果・運用状況につき、不断の検証を行うとともに、真に効果的・効率的な逆進性対策、および、有事における迅速かつ適切な給付のためのインフラ構築に向け、マイナンバー制度を活用した「給付付き税額控除」(消費税還付制度(注1))を導入する。
②持続可能で包摂的な社会保障制度・教育制度等の構築のための必要財源確保に向け、将来的には、「給付付き税額控除」など効果的・効率的かつ徹底した低所得者対策の導入を条件した上で、消費税率を段階的に引き上げる。
③「期間を限定した消費税減税」について、有事の際は、一律の減税よりも真に支援を必要とする層に焦点を当てた施策が優先されるべき。
④次の世代が安心できる社会と健全な財政運営の実現に向け、国債の継続的な大量発行にもとづく財政運営や、それらに依存した消費税減税は行わない。
⑤2023年10月のインボイス制度導入に向け、特に中小企業における円滑な導入支援策を進める。
⑥消費税の滞納防止のため、公共工事入札、備品調達の際にも納税証明書の添付を求める。
⑦消費税転嫁対策特別措置法などにもとづき公正な価格転嫁対策を強化する。
4.政府は、企業の社会的責任に見合った税負担の実現をはかる。(「税制改革」3
- (1)OECDを中心に論議されている、経済のデジタル化に伴う課税上の課題への対応(第1の柱:市場国に対し適切に課税所得を配分するためのルールの見直し、第2の柱:軽課税国への利益移転に対抗する措置の導入)につき、早期合意に至れるよう、国際的な政策協調に向けた取り組みを強化する。(注2)(「税制改革」3.(3)より再掲)
- (2)法人事業税については、外形標準課税(付加価値割)の法人事業税全体に占める割合を縮小させる。外形標準課税の適用範囲の拡大、税率、実施時期については、雇用や所得に与える影響および中小企業の業績回復の状況などを見極め、慎重に検討する。中小企業については、雇用安定控除を拡大する。そのうえで、外形標準による課税の考え方を維持しつつ、法人住民税などとの整理・統合を検討する。(「税制改革」3.(6)より再掲)
- (3)中小企業の支援やディーセント・ワークを後押しする税制改革を行う。(「税制改革」3.(8)より再掲)
①税法や各種制度ごとに異なる中小企業の定義について、対象範囲を拡大する方向で見直す。
②中小法人に対する法人税の軽減税率を基本税率の1/2の水準とする。
③「賃上げ・生産性向上のための税制」「中小企業向け所得拡大促進税制」の適用要件判定などで使用される「給与等支給総額」から、時間外・休日労働による支給額を除外する。
④中小企業に対する人材投資促進税制を復活させる。
⑤法定雇用率を上回って障がい者を雇用する企業、重度障がい者などを多数雇用している企業、障がい者の雇用促進と職場定着に資する設備投資を行う企業に対して法人事業税を減税する。
⑥事業拡大に伴い税制優遇措置の対象外となる場合、一定の猶予期間を設ける。
5.より再掲)
- (1)地域による偏りが少なく安定的な地方税体系とする。(「税制改革」5.(1)より再掲)
①法人事業税については、外形標準課税(付加価値割)の法人事業税全体に占める割合を縮小させる。外形標準課税の適用範囲の拡大、税率、実施時期については、雇用や所得に与える影響および中小企業の業績回復の状況などを見極め、慎重に検討する。中小企業については、雇用安定控除を拡大する。そのうえで、外形標準による課税の考え方を維持しつつ、法人住民税などとの整理・統合を検討する。
6.政府は、新規産業・雇用を創出する経済構造改革を進めるとともに、グローバル成長の取り込みをはかり、産業政策と雇用政策を一体的に推進する。(「産業政策」1
- (1)第4次産業革命に伴いすべての産業に起こり得る様々な変化への対応について、グランドデザインを策定する。また、対応について検討するための、労使が参画する枠組みを早急に構築する。その際には、失業なき労働移動を可能にするとともに、格差の拡大が助長されることの無いよう、ディーセント・ワークを維持しながら全体の底上げをはかるなど「公正な移行」が実現するよう検討を進める。(「産業政策」1.(3)より再掲)
①政府は、社会基盤やあらゆる産業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現に向けた環境整備を積極的に支援する。とりわけ、すべての産業におけるデジタル化の実態把握をはじめ、すべての産業・企業に対するIT人材育成を含めたデジタル化の導入促進の強化、中小企業におけるDXの支援を充実する。
②企業における人的投資、テレワーク環境の整備をはじめとする設備投資、研究開発等に対する支援を着実に実施する。特に、産業構造の変化に対応した働く者の学び直しや企業の職業能力開発に対する支援を強化する。その際には、雇用形態や企業規模による格差が生じることのないよう、特に弱い立場の労働者や、中小企業に対する支援策を講じる。
③政府は、IoT/ビッグデータ・AI等の活用によるデジタル化の健全な進展と安心・安全で信頼性のあるAIの社会実装に向け、研究・開発環境整備への支援のみならず倫理的課題への対応を強化する。
- (2)知的財産・標準化戦略にもとづき知的財産を有効活用し、技術立国としての地位確立をはかる。また、わが国の産業を保護・強化するべく、知的財産制度の一層の強化を図る。(「産業政策」1.(7)より再掲)
①金型をはじめとする中小企業の技術が、特許・実用新案・著作権等知的財産権の枠組みで保護されるよう法整備を進め、外国への特許出願に対する支援策を強化する。
7.政府は、わが国経済の根幹を担う人材の育成をはかる。(「産業政策」2
- (1)ものづくりの重要性を認識し、実感できる初等・中等・高等教育の実施、さらには、生涯にわたる技術・技能の修得・継承の促進・支援を通じ、国民の勤労観の確立をめざした、人材の育成をはかる。(「産業政策」2.(1)より再掲)
①ものづくり技術・技能の継承はもとより、世代に偏りのない技術・技能労働者の確保と人材の育成に向けて、技術・技能評価制度の社会的認知の向上をはかるともに、熟練技術・技能者が国内で積極的に活躍できる環境整備を行う。
②ものづくりマイスター制度(若年技能者人材育成支援等事業)等を活用し、効果的な技能の継承や後継者の育成を行うために、必要な場所・設備等の提供・支援を行う。
③ものづくりに関連する業種・職種における高度熟練技術・技能労働者を社会全体の財産と位置づけ、社会的評価を向上させると共に、有効的な活用をはかる。
a)工業系高等学校での技術実習指導や中小企業における技術・技能伝承に対する技能者派遣事業などへの助成を強化する。また、安全の確保など高等学校の教員に対する技術・技能の指導強化をはかる。
④若年労働者のものづくり現場への就業意識を高めるため、小学校・中学校段階からのものづくり教育の履修時間の拡大と内容を充実させるとともに、職場体験学習の機会を増やす。また、高校・高専・短大・大学では、インターンシップを単位として認める制度を普及させると同時に、産業界の技術者等の外部講師を積極的に活用するなど、実践カリキュラムを盛り込む。勤労観の確立につながるよう努める。
8.政府は、中小企業が自立できる基盤を確立し、独自の高度な技術と経営基盤の確立に向けた支援を行う。(「産業政策」3
- (1)2010年に閣議決定された「中小企業憲章」に関する国会決議を行うなど、中小企業の位置付け、中小企業政策の基本理念、政府の行動指針等をより明確にすることにより、中小企業政策の推進をはかる。また、地方自治体は、中小企業振興基本条例の制定促進に向けた環境整備を進めるとともに、条例において地域における労働団体の役割・責任を明確にする。
- (2)「中小企業総合情報センター」を設置するなど中小企業に対するサービスを一元化する窓口である中小企業支援センターの役割を拡充するとともに、中小企業のワンストップ相談窓口である「よろず支援拠点」の活用推進とサービスの向上に努める。
- (3)中小企業の販路開拓(ビジネスマッチング)のため、中小企業基盤整備機構が運営するJ‐GoodTech(ジェグテック)の機能を拡充し、周知に努める。
- (4)海外企業からの受注を増大させるために、JETRO(国際貿易振興機構)の「国際ビジネスマッチング(TTPP)」の周知と活用推進を行うとともに、海外からの問い合わせ、引き合い等を受け付ける窓口を設置する。
- (5)中小企業経営者の高齢化等を踏まえ、円滑な事業承継の促進に向けて、「事業承継ガイドライン」の周知や支援策の拡充を行い、あわせてニーズの掘り起こしなどを行っていく。
- (6)中小企業に対する高度な技術支援と生産基盤強化のため、産官学の共同研究を積極的に推進し、国が持つ技術や特許権を有効に活用できるシステムを構築する。
- (7)中小企業の経営戦略確立のため、ミラサポ(中小企業庁の中小企業支援サイト)における中小企業診断士や専門家の無料派遣枠の拡充を行うとともに、指導を受ける際の助成を行う。
- (8)不良原因究明、品質改善に取り組む中小企業を支援するため、工業試験場等からの人的支援等、地域における工業試験場等と中小企業の連携を強化する。
- (9)中小企業者による新卒者の採用を支援するため、ハローワークや、行政の外郭諸団体が積極的に採用会を開催する。さらには、業界団体・協同組合等が共同採用会を開催する団体を支援する。
- (10)中小企業に対し、業務効率化による生産性の向上や、求人時における効果的な企業PRが可能となるように、ICTの利活用を促進するための支援を行う。
- (11)中小企業に対するIoT導入および人材育成の支援を強化する。具体的には「地方版IoT推進ラボ」や「スマートものづくり応援隊」の拠点増加を推進する。
- (12)地域経済を支える中小企業・地場産業の活性化に資する金融環境整備を進め、地域金融機関は地域経済活性化支援機構等とも連携し、支援策を着実に実施していく。
- (13)中小企業における人材育成を支援するため、単独で負担することが難しい「社員教育等の研修会」や「福利厚生施策」などについて、地域または複数企業が連携して実施するための支援を行う。
- (14)中小企業における知的財産に関する悩みや相談を受け付けるために全都道府県に設置している「知財総合支援窓口」の機能を強化し、周知を徹底する。
- (15)中小企業における省エネ・生産性・安全性向上、人材不足への対応のための設備投資促進施策を拡充し、周知を徹底する。生産性向上特別措置法による税制支援を活用については、市町村による「導入促進基本計画」の策定、中小企業への働きかけを促進する。
- (16)大企業と中小企業が共に成長できる環境整備を目的に、主に労務費の価格転嫁等下請け振興基準の遵守などを宣言する「パートナーシップ構築宣言」の取り組みを強化・推進する。
9.政府は、労働者の意見反映システムの確立等を進め、健全な産業・企業体質の構築に向けた支援を行う。(「産業政策」4
- (1)上場企業の買収に関する規律を策定し、企業買収時における交渉過程・内容の透明化をはかるとともに、被買収企業の労働者代表に対して、買付文書に関する意見表明機会を担保する。また、この運用機関として、法的根拠を持った企業買収規制専門機関を設置し、構成員については、政府、金融機関、民間企業、弁護士、労働組合等から受け入れる。(「産業政策」4.(8)より再掲)
10.政府は、ディーセント・ワークの実現のための公契約基本法、公契約条例の制定など国内法等の整備および、ILO第94号条約の批准をはかる。また、国や地方による入札制度を改革する。併せて取引の適正化の実現に向けて、公正取引委員会や関係省庁の体制および権限の強化等を行う。(「産業政策」5
- (1)公契約(公共工事、サービス、物の調達など)に関する基本法を制定し、その中で公正労働基準と労働関係法の遵守、社会保険の全面適用等を公契約の基準とする。法整備をはかることにより、ILO第94号条約の批准をはかる。また、違反企業に対する発注の取り消しや違約金の納付制度等のシステムづくりを進めるとともに、発注者の責任も明確にする。(「産業政策」5.(1)より再掲)
①公共工事等の入札における透明性確保、建設労働者の適切な労働条件確保に悪影響を及ぼすような工事価格や工期設定での受注に歯止めをかけるための措置を講ずる。
②努力義務として位置づけられている「予定価格と積算内訳」や「低入札価格調査の基準価格と最低価格」などの情報開示を、法的に義務づける。
③各自治体においては、「公契約条例」を制定する。また、自治体の工事や業務委託の入札・契約に関わる条例や要綱などに、労働基準法等の労働法制や社会保障関連法規に違反した企業を、発注対象から除外する項目を設けるとともに、発注者の責任も明確にする。