6.民主主義の基盤強化と国民の権利保障(政治改革)

政治改革<背景と考え方>

  1. (1)政治は、国民全体の幸福や社会の安全と秩序を維持するための調整・統合作用であり、日本でも多くの先進諸国と同様に、選挙を通じて選ばれた代表によって構成される議会が、国民の意思を体現しつつ国政を運営していく「議会制民主主義」を採用している。議会制民主主義においては、選挙を通じて表明された国民の意思により政府が形成され、国政の方向が定められることを理念としているが、現実的には、政党、政治団体、そして公職の候補者の政治活動によって国民の意思や利益が組織化され、政治の場に表明されている。
  2. (2)連合は、結成当初から、議会制民主主義が健全に機能することを基本目標の1つとして掲げるとともに、今日においては、与野党が政策で切磋琢磨する政治体制の確立や癒着のない透明でクリーンな政治の実現なども含めて運動を展開している。すなわち、連合が求める政治の実現に向けては、議会制民主主義の根幹をなす統治機構である議会が正常に機能することに加え、その円滑な運用のために無視し得ない存在である政党のあり方、多様な民意が適正に反映される選挙制度や主権者たる国民から信頼される政治資金制度などが重要となる。
  3. (3)しかし、昭和後期からの相次ぐ政治スキャンダルなどを受けて数々の施策が講じられた平成の政治改革を経てもなお課題が山積している。とりわけ「政治とカネ」に関する問題は後を絶たず、依然として閣僚や議員が不透明な政治資金の流れや口利き疑惑を追及される事態を招いており、「ザル法」といわれる政治資金規正法などの改正を求める声は根強い。
  4. (4)選挙制度についても、一票の較差の是正を中心に改革が試みられてきた。衆議院については、2017年6月に公職選挙法の一部を改正する法律が成立した結果、定数は小選挙区289、比例区176となり戦後最小の465となった。なお、衆議院選挙の議席配分方法については、2020年国勢調査の結果にもとづき「アダムズ方式」を導入することが決まっている。一方、参議院については、2015年7月の法改正により「合区」が創設されたことを受け、2018年7月に比例区において定数を4増やし、一部に拘束式の特定枠を設ける措置がとられた。この特定枠については一部の政党の党利党略と言わざるを得ないが、そもそも合区自体が都道府県という政治的単位の重要性を軽視した制度であり、民意が国会に届きづらくなるなどの難点があるため、対象となった県、全国知事会などもその解消を求めている。
  5. (5)こうした一連の政治改革の中でも、とりわけ、平成の政治改革の1つの柱であった政治主導は、正しい理念ではあったものの現時点では積極的に評価することを留保せざるを得ない状況にある。民主党政権では官僚や閣外議員を政策策定や決定の場から遠ざけたことなどから政治主導が空回りし、その後の自公政権では、官邸に過度に権力が集中し三権分立のバランスが崩れてしまっている。特に後者は、議院内閣制のもとで多数党が内閣を支える立場にあるといえども、少数党との丁寧な協議のもとで社会全体の利益に資する立法を行うという民主主義のプロセスが蔑ろにされる場面が散見されている点、行政監視機能が著しく低下している点に問題がある。一方、野党も民意を適切に反映させるべく国会論戦を挑んでいるものの、政府・与党の日程ありきの国会運営に巻き込まれ、対立法案については日程闘争に注力せざるを得ない状況に陥っている。そしてマスコミも、本質的な政策論議が深まらない与野党の姿ばかりを取り上げ、国民の政治不信を助長している。国会改革は国民本位の充実した審議を行うために急務であり、国会機能の強化と運営の効率化がセットで進められるべきである。
  6. (6)政治改革の遅れは、国民のさらなる政治離れを招きかねない。各種選挙の投票率の低下傾向には回復の兆しが見えておらず、特に2015年の法改正により選挙権が付与されることとなった10代の投票率については、法施行直後の2016年参議院選挙では18歳51.17%、19歳39.66%で、その後の国政選挙でも18歳に対して19歳は伸び悩む傾向にある。また、地方においては投票率の低下に加え、議員のなり手不足も深刻化しており、各級選挙で無投票当選が相次ぎ、町村議会議員選挙では定員割れも発生している。今後も多くの地方自治体で人口減少が進むことが確実視される中で、地方政治の持続性を高めるためには、公職休職を可能とする環境整備、兼職・兼業を前提とした議会運営の見直し、住民参加を促すことなどを目的とした「議会基本条例」の制定促進等が必要である(参考:2016年3月連合「地方における政策実現力の強化策検討のためのPT」報告書)。
  7. (7)このように日本の政治が危機的な状況に陥る中で、国民の政治への関心と信頼感を高め、わが国の民主主義をさらに成熟させるために政治改革の断行は急務である。立法府が自らの責任を果たすための議会改革等を進めるとともに、全世代の投票率向上に向けた主権者教育の充実、政治分野における女性の参画推進、そしてすべての人が選挙権・被選挙権を確実かつ適切に行使するための環境整備が求められる。

1.公職選挙法などを改正し、公平・公正でわかりやすく、また、政党・候補者が政策を競い合う、国民の立場に立った選挙制度にする。

  1. (1)公職選挙法について、買収・供応の禁止、利害誘導の禁止については現行の規定を維持しつつ時代に即した見直しを進める。

    ①インターネット等による選挙運動の解禁により発生した、Webサイト等を利用する場合の取り扱いと、文書図画の頒布・掲示に関する規制の不整合を是正する。

    ②戸別訪問については、有権者が候補者の政策を知り、その理解を深めるための有効な手段であるため、解禁する。

    ③公開討論会については、選挙期間中の開催を禁止する制限を撤廃し、自由に開催できるようにする。

    ④国政選挙においても電子投票制度を導入する。さらに、投開票における利便性と効率性の向上のため、指定された投票所以外の場所や端末での電子投票を可能とする。その際は、不正・トラブル防止、機器選定の公平性・透明性の確保、政党・候補者名の画面表示の公平性の確保などについて必要な措置を講ずる。

  2. (2)だれもが選挙権および被選挙権を確実に行使できるよう、必要な法改正を行うとともに投票率向上に向けた施策を講じる。

    ①高齢者、障がい者、要介護者、傷病者、妊婦、海外赴任者などの選挙権行使を保障するため、郵便等投票制度の投票証明書申請から実際の投票までの手続きの簡素化および対象者の拡大を行う。また、「成年被後見人の選挙権の回復等のための公職選挙法等の一部を改正する法律」にもとづき適正な運用が行われるよう対応をはかるとともに、代理投票における補助者の要件を改正する。

    ②障がい者に対する投票支援策として、投票方法、投票環境、投票用紙等に関するアクセシビリティを向上するとともに、政見放送の手話・字幕放送の義務化や選挙公報・選挙通知の多様な形態での提供など、選挙に関する情報保障を充実する。

    ③日常生活全般に介助が必要な障がい者が、選挙に立候補し活動を行うには多くの困難を伴うことから、障がいのある立候補者・当選者を想定した具体的措置を講ずる。

    ④投開票の簡素化・効率化、疑問票の削減、障がい者や要介護者の投票参加の拡大などの観点から、投票方法を自書式から記号式に改める。

    ⑤船員の選挙権行使を保障するため、現行の洋上投票制度が、都道府県知事選挙をはじめとする地方選挙においても実施可能となるよう制度の拡充をはかる。

    ⑥転居後3ヵ月に満たない有権者について、転居先の地方自治体が管轄する投票所において簡便に投票ができるように条件整備する。

    ⑦国は、有権者の投票機会のさらなる確保のため、共通投票所の設置の拡大、ならびに期日前投票の投票時間の弾力的な設定および移動期日前投票所の拡充について、地方の選挙管理委員会や市区町村へのきめ細かな対応・支援を行う。また、その経費について、国政選挙では十分な国費を確保するとともに、地方選挙でも実施にあたって財政運営上の支障が生じないよう必要な措置を講じる。

    ⑧県・市区町村選挙管理委員会は、投票者の利便性と投票率向上の観点から、投票所(期日前投票を含む)を頻繁に人の往来がある施設に設置する。また、共通投票所の設置の拡大、ならびに期日前投票の投票時間の弾力的な設定および移動期日前投票所の拡充に努めるとともに、施設側からの公募を行う。

  3. (3)国民が自らの権利や義務など国民生活を営むうえでの必要な知識を蓄えることに加え、政治に対する意識も高める中で政治参画を促すことを目的に義務教育段階から主権者教育を実施する。
  4. (4)すべての選挙の選挙権年齢が18歳以上へと引き下げられたことを踏まえるとともに、若者の政治意識高揚の観点から被選挙権も18歳以上へ引き下げる。
  5. (5)参議院選挙における合区については、都道府県という単位の政治的重要性に鑑み、参議院に地方の事情に精通した全国民の代表としての活動など、二院制のもとでの独自の役割を定めることによって解消する。
  6. (6)地方の選挙制度について、公平・公正、有権者の権利拡大の観点から制度改革を進める。

    ①統一地方選挙の期間に実施されていた地方選挙のうち、震災等の事由により統一実施でなくなったものについては、一定期間経過の後に再び統一実施となるよう制度改正を行う。

    ②選挙権年齢が18歳に引き下げられたことを踏まえ、1~3月上旬の間の任期満了に伴う地方選挙については受験と重ならない前後の時期に執行する等、特別な立法措置を講じる。

    ③永住外国人への地方参政権の付与については、国民的な議論と合意のうえで対応する。

2.国民の政治に対する不信感を払拭するため、政党法を制定し政党の位置づけなどを明確にする。加えて、政治資金規正法などを改正し、公開と透明性の確保を徹底するとともに規制の実効性を高める。

  1. (1)政党の位置づけ、権利・義務等を規定したいわゆる政党法の制定に向け、検討を進める。あわせて、国会運営の基本単位となっている会派についても、法的な地位、権利、政党との関係等を明確にすることも検討する。
  2. (2)政治資金に対する有権者の監視機能を発揮しやすくするため、収支の公開と透明性を高める。

    ①政治資金や選挙に関する法令遵守の徹底のための独立した専門機関を設置し、公職選挙法や政治資金規正法を実効性あるものとする。

    ②自らが代表者となっている政治団体の収支報告書には政治家本人の署名を義務づけるなど、政治資金の収支への政治家本人の責任を明確化するとともに、政治家本人に対しても虚偽記載に対する罰則を適用する。

    ③総務省および都道府県選挙管理委員会による政治資金収支報告書の公開・閲覧の期間を現行の3年より延長するとともに、インターネット上での公開を義務づける。

    ④資産公開については、政治任用された首相補佐官などについても議員と同様の資産公開を行う。

  3. (3)国民の政治に対する不信感を払拭するため、政治資金の授受に関する規制等の実効性を高める。

    ①政治家個人の政治資金の授受を禁止し、すべて政治資金は政治団体を介するものとする。政治家個人は主たる政治団体を1つ指定し、当該団体がその政治家の関係するすべての政治団体の資金収支を集計して報告する義務を課す。

    ②政治資金の金銭授受は、現金での授受を禁止し、受け手が指定した金融機関の口座を通じてのみ行うこととする。また、収入も監査の対象とする。

    ③政治献金の抜け道にもなっている、政党や政治団体の機関誌紙への「広告料」については、年間の上限額を定める。

    ④国会議員関係政治団体を親族が引き継ぐことを禁止し、解散時の資産は政党や国庫などに帰属させる法律を制定する。

    ⑤あっせん利得処罰法について、これまで立証の難しさからほとんど適用がなかったことから、その実効性を高める改正を行う。

  4. (4)国会議員在任中の株取引を禁止するとともに、親族・秘書などの名義の株取引は公開し、違反に対する国会議員本人の責任を明確にする。

3.多様な意見が適切に反映され充実した審議が行われる国会・地方議会へと改革する。

  1. (1)慣習憲法として存在し、その時々の総理大臣の判断に自由に行使されてきた憲法第7条3号の衆議院解散権については、議会が内閣不信任案をとおすという異例の事態が起こった際の解決策としてしか合理性はないことから、これを制限する。
  2. (2)与野党は、国会主導のもと、国会審議の充実化に向けた国会機能の強化策を講じるとともに、行政機関や立法機関の職員等の働き方にも留意し運営の効率化を進める。

    ①国会機能の強化

    a)国会法を改正し、通常国会の会期を大幅に延長して国会を実質的に通年化する。また「会期不継続の原則」を見直し、審議未了案件は後会に自動継続させ、衆議院の任期満了・解散をもって廃案とする。

    b)2014年に当時の与野党7党が申し合わせた審議充実策(党首討論の毎月1回実施、定例日の常任委員会開催、提出議案の速やかな委員会付託など)について各党は遵守を徹底する。

    c)いわゆる束ね法案の一括表決は、国民への情報公開の観点や国会議員の表決権を侵害しかねないなどの問題があるため一定の制限を加える。その際、法案を逐条的に審査・表決する制度などの導入を検討することによって、あわせて法案審議の充実もはかる。

    d)政党政治の確立、議員立法の活性化に向けて、両院の法制局、常任委員会調査室および国会図書館等の立法スタッフの強化をはかる。

    ②国会運営の効率化

    a)総理大臣や国務大臣の国会出席に上限を設け、外交や国内における政務を充実させる。

    b)審議の計画化をはかり、「質問通告」は2開庁日以前とする原則を徹底し、答弁に必要な準備時間を確保する。

    c)衆議院本会議でも電子投票による押しボタン式表決制を導入する。また、立法責任が明確になるよう、議員個人の投票結果を公開する。

    ③多様な意見の適切な反映

    a)政党交付金の配分については、議員数割部分に対する得票数割部分の比重を高めるなどの見直しを通じて、より民意が反映される制度となるよう検討を進める。

    b)2018年5月に施行され、2021年6月に改正された「政治分野における男女共同参画推進法」の実効性を高めるため、クオータ制導入に向けた必要な法整備を行う。また、政党による女性議員の発掘・育成を支援するために、女性議員の割合に応じた政党交付金の傾斜配分などの制度支援を行う。さらに、候補者・議員の仕事と生活の両立を支える環境整備や、あらゆるハラスメントを対象とした対策の強化を行う。

  3. (3)地方議会は、より充実した審議を行うべく議会運営の見直しやなり手不足などへの対策を進める。

    ①被雇用者が公職の候補者となる場合に休暇の取得ができ、議員期間中は休職のできる立候補休暇・公職休職制度を整備する。

    ②地方議会は、地方議員の兼職・兼業も前提とした議会運営の見直しを進めるとともに、広く住民の傍聴を促進するため、夜間・休日開催などの多様な開催形態を検討する。

    ③地方議会は、住民の福祉の向上と住民自治の発展を目的とし、地方議会の公開性・公正性・透明性の確保、執行に対する監視・評価や政策立案機能等を掲げる「議会基本条例」の制定に取り組む。また、地方議会における「議員立法」推進のための制度や議会事務局の調査機能の拡充など、「二元代表制(注1)」の機能充実のため環境整備を行う。

  1. (注1)二元代表制 ~首長と議会議員をともに住民が直接選挙で選ぶ制度

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