5.くらしの安心・安全の構築(環境政策)

環境政策<背景と考え方>

  1. (1)気候変動対策をめぐって、政府は、2030年までに2013年度排出量の「46%削減」、また2050年までの「カーボンニュートラル(温室効果ガス排出・吸収量の差し引きゼロ)」を実現するための方針である「GX実現に向けた基本方針」と今後10年の方向性(ロードマップ)を2023年2月に閣議決定した。さらに、この基本方針にもとづく「GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)」が第211通常国会で成立した。
  2. (2)「GX実現に向けた基本方針」には、社会全体のGX推進として「公正な移行」が盛り込まれたが、「失業なき労働移動」や重層的セーフティネットの必要性には言及されておらず、今後10年のロードマップにも位置づけがない。雇用や地域経済への負の影響を最小化する「公正な移行」を実現するには、政労使を含む関係当事者が関わる「社会対話」を実施し、複数のシナリオにもとづく政策対応が必要である。また課題を深掘りするには、省庁横断的な推進体制が必要である。そのためにも、今後10年のロードマップに「公正な移行」を加え、道筋を明らかにし、必要な予算措置を講ずるとともに、地域や雇用の課題を深掘りするためにも、省庁横断的な推進体制を構築する必要がある。
  3. (3)国連やEUなどが進める、新型コロナウィルスの感染拡大によって表面化した経済・社会の脆弱性を「グリーンリカバリー」によって脱炭素・循環型社会の構築とあわせて世界的に克服すること、また日本政府が地域脱炭素の推進においても提唱する「地域循環共生圏」の構築は、いずれもSDGsの考え方やゴールが具現化され、「持続可能性」と「包摂」を基底とした「働くことを軸とする安心社会」が実現されることと同義としなければならない。実現に向けて、連合は労働組合も含む幅広い社会対話が持たれ、参加が保障されるよう取り組みを進める。
  4. (4)「水循環基本法」では、「国民共有の貴重な財産」である地表水及び地下水について、省庁横断的に水に関する施策を省庁横断的に実施し、水循環を流域で総合的に管理することを求めている。そのため、同法に基づいて策定された「水循環基本計画」に掲げられた各施策の進捗の検証の中で、関連する個別法の改正や新たな法律の制定の検討が必要となる。
  5. (5)社会全体の資源効率性を高めつつ、廃棄物・リサイクル産業を健全に育成し、わが国に適した循環型社会を構築する必要がある。そのため、廃棄物の適正な処理をすすめるとともに、プラスチックの海洋流出による環境汚染への対応、海外における廃棄物不適正処理による環境汚染防止に向けた、国際ルールの整備と国内におけるさらなる対策強化や、途上国に対する技術支援等を推進することが求められている。
  6. (6)現代社会は、数多くの化学物質により支えられているが、その危険性・有害性評価に関する情報は不足しており、情報収集とリスク評価・リスク管理をさらに進める必要がある。また、幅広いリスク・コミュニケーションとともに、低濃度長期ばく露、複合ばく露、ナノ物質などの課題に対する取り組みも重要である。

1.気候変動対策を積極的に推進するとともに、わが国の「カーボンニュートラル」の実現に向けては、「公正な移行」を具現化する。

  1. (1)政府「GX実現に向けた基本方針」の実施にあたっては、「公正な移行」の実現やS+3Eの確保を念頭に、分野横断的課題に対応できる体制を省庁横断的に構築し、関係産業や地域の労働組合を含む関係当事者との積極的な社会対話を基本に進め、丁寧な国民的合意形成をはかる。
     その際、以下の内容を踏まえる。
    ①新たな技術開発と社会実装、経済・社会状況の不確実性を踏まえた複数のシナリオやオプションを示すなど予見可能性の向上に努める。
  2. (2)「公正な移行」の具体化にあたっては、「グリーンな雇用創出」や「地域脱炭素化」、「失業なき労働移動」と重層的なセーフティネットへの検討に早期に着手し、そのための十分な予算措置を講ずる。その際には、以下の内容を踏まえる。
    ①失業や労働移動による労働条件の低下などの雇用への悪影響が生じうる産業・地域の特定と、その影響度を測定と分析を進める。
    ②地域における雇用吸収力のある「グリーンな産業」の育成、労働者の教育・訓練、社会保険や住宅などの社会的セーフティネットの強化等の必要な対策を一体的に検討する。
  1. (3)国は、「自国が決定する貢献」(NDC)の検討と実施に際しては、労働者も含む関係当事者との社会対話を通じて理解と協力を求める。
  2. (4)国は、国連・持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)の目標達成と「パリ協定」の実施において主導的役割を発揮するとともに、民間企業が中長期にわたり低炭素事業に安心して投資できるような環境整備を行う。
  3. (5)国は、新興国・途上国の持続的な発展と同時に、温室効果ガスの削減・抑制を促進するため、知的財産権などに留意しつつ「パリ協定」で正式に位置づけられた二国間クレジット制度(JCM)を充実させるとともに、JCMを活用したわが国の削減努力を国際的に発信する。また、ダブルカウント回避に関するガイダンス作成に積極的に関与するとともに、温室効果ガス排出量の測定・報告及び検証(Measurement, Reporting and  Verification:MRV)については「技術に基づくボトムアップアプローチ」の観点から、ISOによる規格の動向も勘案しつつ、官民連携によるセクターイニシアチブで対応する。
  4. (6)国は、「成長志向型カーボンプライシング」の具体的制度設計に向けては、S+3Eを原則として産業の競争力を確保し、雇用への影響を最小限に留めるため、脱炭素移行コストは、特定産業だけでなく、便益を享受する国民全体で広く負担することを基本に丁寧な議論の上で進める。
     その際、以下の内容を踏まえる。
    ①脱炭素への移行コストは、国民・企業・自治体など国全体で負担し、適正に転嫁できる環境を整備する。その際、負担は公平性・透明性を確保する。
    ②複雑な現行のエネルギー関連諸税の整理・軽減が行われないまま、賦課金や特定事業者負担金だけを増やさない。
    ③排出量取引制度開始後の排出枠に関するルール改正や価格の不安定さによる負担を、特定の産業、とくにGXリーグに参加する企業のみに負わせない。
    ④具体的な投資・支援対象の設定、中長期にわたる具体的制度設計など、具現化に際しては、国が責任を持ち前面に立って国民、企業、自治体などに充分な説明を行い、国民的な合意形成を丁寧に進める。
    ⑤エネルギー価格は国民生活や産業に大きく影響するため、価格高騰下では、国の責任において過度な国民負担を抑制するようにする。
    ⑥必要に応じて制度の見直しに機敏に対応できる体制とする。
  5. (7)国は、SDGs推進円卓会議や環境省のステークホルダーミーティングだけでなく、「環境」の個別分野に関し、地域においても十分な社会対話を行う。
  6. (8)国は、グリーン経済への転換に向け、各国と連携・協調しつつ、世界全体としての持続可能な開発に取り組む。また、「パリ協定」の前文に明記された「公正な移行」が締約国各国において円滑に実施できるよう支援するとともに、その実施にあたり必要となる社会対話を促進する。
  7. (9)国は、 WTO(世界貿易機関)協定やFTA(自由貿易協定)/EPA(経済連携協定)などの国際協定において「環境条項」を規定し、履行のためのモニタリングの実施を加盟・締結各国に要請する。
  8. (10)国は、酸性雨やPM2.5、光学オキシダントの低減に向け、近隣諸国などからの越境汚染に対し外交的・技術的対策を講じるとともに、国内においても、これまで以上にNOX(窒素酸化物)およびVOC(揮発性有機化合物)の削減を進める。また、対流圏オゾン汚染の実態把握と、その健康影響、農作物・植物影響を明らかにする。

2.脱炭素社会や循環型社会の実現に向けて、イノベーションの社会実装を進める。

  1. (1)国・地方自治体は、温室効果ガス排出削減に向けた各種施策の実施にあたり、国のエネルギーミックスを踏まえつつ、環境・エネルギー技術を深化・発展させる。
  2. (2)地方自治体は、2050年の長期目標策定・見直しには、地域の雇用・経済、人口動態などを含め、広範かつ丁寧な議論を通じ合意形成をはかる。
  3. (3)国は、再生可能エネルギーの普及に向けて、地熱など計画から設置までのリードタイムが長く事業予見性の低い電源も含め、導入のための支援を行う。 (「資源エネルギー政策」2.(2)① a)参照
  4. (4)国・地方自治体は、改正ISO14001シリーズやエコアクション21などの環境関連規格の取得を促進するとともに、事業場への規格導入・更新に対するインセンティブを強化する。また、システムの運営と監査を進めつつ、環境パフォーマンスの向上を推進する。
  5. (5)国・地方自治体は、「GX実現に向けた基本方針」に沿った対応を進めるにあたり、イノベーションへの対応など企業の取り組みを促進するため、以下の環境対策に関連した技術・事業・産業・人材の育成・支援を強化する。
    ①GX経済移行債等により調達した資金の投資先について、「GX実現に向けた基本方針」中の「国による投資促進策の基本原則」に掲げる「基本条件」の「国内の人的・物的拡大につながるもの」に加え、「付加価値の高い、グリーンでディーセントな雇用創出につながるもの」も対象とする。
    ②イノベーションの基礎となる技術開発を進めるための基盤整備・人材育成を強化するとともに、実用化に向けた開発の加速化、社会における実証・導入および需要の創出に対する助成・優遇を推進する。その際には、政府窓口のワンストップ化とともに、利用しやすい制度設計と情報の一元化をはかる。
    ③低燃費・低排出ガス車および次世代自動車などの環境対応車への総合的な普及促進対策を講じるとともに、次世代自動車に関するインフラ整備を戦略的に推進する。
    ④諸外国の化学物質規制や内燃機関自動車の禁止措置など、中長期的を見据えた規制・課税やマーケットの動向、自然資本投資や環境効率性指標の動向を把握し、今後の技術開発計画に適切に反映させる。
    ⑤中長期を見据えた革新的環境技術の実証・導入段階までの開発プロジェクトは、新たに発生する知的財産権の帰属あり方やプロジェクトに参加する企業・大学の既存の技術の持ち込み規定などを検討したうえで、産官学共同で進める。
    ⑥CO2回収・輸送・貯蔵・利用(CCS/CCU)(注1)の技術開発については、国内外の制度的、環境的要因を勘案しつつ、早期の低コスト・低エネルギー化の実現とともに、大規模かつ効率的な処理を可能とする技術を確立する。
    ⑦持続可能なバイオ燃料の開発にあたっては、SDGsの目標を踏まえ、生物多様性への影響を最小限にとどめるとともに、非食用植物または非可食素材(家畜の飼料含む)であることを前提とし、安価で安定的な供給体制を構築する。
    ⑧水素エネルギーの広範な活用と導入拡大に向け、実用レベルの技術開発をさらに加速するとともに、水素の製造・貯蔵、輸送・活用の研究を進め、国際規格化を目指す。
    ⑨次世代電池の開発や、既存の電池技術の深化にあたっては、耐久性、安全性、経済性を確保しつつ、国を挙げた異分野融合の研究体制を構築する。
    ⑩効率的・体系的な道路整備と交通管制の高度化をはじめとする交通流対策を推進する。
    ⑪スマート・グリッド(賢い電力網)を早期に実現するため、スマートメーターなどのイニシャルコストへの補助・助成をさらに強化しつつ、HEMS・BEMSのメリットを広報し、その導入をさらに支援する。また、技術的課題の解決に向けた研究開発を推進する。(「資源・エネルギー政策」参照
    ⑫送電ロスをこれまで以上に低減させる観点から、電線や変圧器を従来に比べロスの少ないものに交換することや高電圧化を実施する際に支援を行う。
    ⑬アスベスト被害の教訓をふまえつつ、安価で加工性、耐久性、安全性、リサイクル性に優れた軽量の耐火・断熱素材を開発する。
    ⑭小水力発電技術のイニシャルコスト低減と山間地における導入を促進する。
    ⑮代替フロンの段階的削減に対応する観点から、安全かつ安価なノンフロン冷媒および対応機材の開発・普及を推進するとともに、その導入支援策を強化する。
    ⑯廃棄物の安価な自動分別システムの開発・実用化や、資源の再利用を促進するリサイクル技術を開発する。
    ⑰複数のストレス・ホルモンの役割やその細胞間の伝達に関して包括的な研究を推進し、量産が可能で副作用が軽く、乾燥地や高塩濃度などの悪条件下に適応できるストレス耐性能を備えた植物を開発する。
  6. (6)国は、資金の投資先において、ESGに関係する取り組みが進むよう、以下のような環境整備を行うとともに、国際的スタンダードの確立に向けたイニシアティブをとる。
    ①企業において、人権を含むデューデリジェンスが確立され、ESGの「S」や「G」の側面においても法令遵守や情報公開が行われるよう、とくに中小・零細企業に対する技術的支援などの環境整備をあわせて行う。
    ②企業の統合報告書を充実させ、その信頼性の向上をはかる観点から、ESGなどの非財務情報を会計監査の対象としつつ、開示すべき最低限の内容を規定する「統合報告書作成基準」を作成する。
    ③有価証券報告書および有価証券届出書における「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」を、企業行動のESGに関する取り組みの実態をより反映させたものにするとともに、海外の金融機関などによるダイベストメント活動やエンゲージメント活動に関する情報などを収集・発信する。
    ④機関投資家に対しては、「責任投資原則」「日本版スチュワードシップ・コード」や「持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則(21世紀金融行動原則)」の受入れを促すなど、責任投資の概念が広く浸透するよう取り組みを進め、責任投資に対する正しい理解のもと、個々の機関投資家が自らの投資判断においてESGを適切に考慮し非財務的要素を重視することを促す。(「経済政策」から再掲)
  7. (7)国・地方自治体は、CO2に関する森林吸収源対策を強化するため、放置されている私有林の公的な管理をすすめるとともに、A材~D材のバランスのとれた国産木材の利用促進に向けた支援・補助を行う。また、森林整備にあたっては施業の集約化や路網の整備と機械化、木材市場や加工工場の集約、林業人材の確保育成など、川上から川下まで一貫した対策を支援することで生産性の向上図り、事業として成立する環境をつくる。
  8. (8)国・地方自治体は、太陽光発電事業に関して、生態系への配慮や不適切な森林開発等に起因する土砂流出や濁水の防止等に向けて、環境影響評価法の対象とし、副次的影響を精査する。 (「資源エネルギー政策」 2.(2)② f)より再掲 )
  9. (9)国・地方自治体は、需用者側のニーズやライフスタイルに対応したエネルギー供給を実施することを前提に、木質バイオマスの利用を促進し、CO2削減や山村の経済活性化をはかる。また、木質ボイラーなどの熱利用機器の導入にさらなる助成措置を行う。
  10. (10)国・地方自治体は、ヒートアイランド対策として、緑化地域の確保・保存など、地域の温暖化防止と環境保全の対策を推進する。
  11. (11)国・地方自治体は、環境に配慮した製品・サービスの付加価値を積極的に広報し、環境保護を意識した消費行動(日常での省エネや機器の買い替えといった低炭素行動)を促すとともに、消費者のニーズを勘案した「環境に配慮した製品・サービスの市場」の形成・拡大を支援する。
  1. (注1)CCS/CCU ~炭素回収貯留/炭素回収利用

 

3.国内の各部門(産業、運輸、業務、家庭、その他)の省エネなど気候変動対策の取り組みを促進させ、国は地域においても展開されるよう支援する。

  1. (1)地方自治体は、「地域気候変動地域適応計画」を策定・改定するプロセスに、労使や研究者、NGOなどの参加を保障し、その意見を反映させる。また、予算上の制限から、予防措置の重点投資を検討する際には、ステークホルダーとの十分な議論のうえ、合意を得る。
  2. (2)地方自治体は、「地球温暖化対策推進法(温対法)」にもとづく実行計画の策定やレビューと見直し、さらに「地域気候変動適応計画」の策定と実施にあたっては、労働者を含む関係当事者の意見を聴取する。

    ①地方自治体は、「適応計画」に以下の内容を盛り込む。
     a)地域の社会構造に関わる大規模な適応策の策定にあたっての、対象地域の住民・企業、労働者の理解と合意
     b)住民の果たす役割の具体的な明記とその周知・広報
     c)企業・団体による「適応計画」および「事業継続計画(BCP)」の策定・改定にあたっての必要な情報提供と技術的支援
     d)気候変動の影響による地域の産業の廃業や移転に対応するための新たな雇用機会の創出や職業訓練等、「グリーン」で「ディーセント」な雇用の実現に関する対策

    ②国は、地方自治体における「適応計画」の策定を後押しし、地方において計画を実施するための財政と人材が確保されるよう支援する。

 

4.水資源の持続可能な利活用をはじめ水に係わる安全保障を確立し、国民生活の維持向上と生態系および健全な水循環の保全をはかるため、「水循環基本法」の基本理念・政策 の基本事項・基計画などを実現する。

  1. (1)国は、「水循環基本法」の理念である、「国民共有の貴重な財産」である水の循環を、省庁横断的に、かつ流域単位で総合的に管理・保全するため、同法に基づき策定された「水循環基本計画」の進捗点検の中で、必要となる個別法の改正や新たな法律の制定を検討する。
  2. (2)国・地方自治体は、生活雑排水を主因とする河川・湖沼の水質低下を防止するため、地域の実情に応じ、下水道・浄化槽など、生活排水処理施設の整備を推進する。また、節水型社会をめざし、雨水・再生水の利用を推進する。
  3. (3)国・地方自治体は、水源の確保、気候変動対策における森林吸収源対策の促進などの観点から森林整備・保全管理を強化する。
  4. (4)国・地方自治体は、水源近隣を含む地下水揚水量の報告を義務化するとともに、長期的な国益の観点から、重要となる水源林(土地)の売買を含め、大量の揚水に関する規制のあり方について検討する。

 

5.廃棄物対策について、循環型社会形成の観点からの取り組みの強化と、適正な制度設計 を促進する。

  1. (1)国は、資源効率性を促進する観点から「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)」による「産業廃棄物」と「一般廃棄物」の区分による不都合や、廃棄物と区分されない退蔵品などの扱い、さらに、各種リサイクル法の範疇を超えた課題について検討を行い、必要な改正を行う。
  2. (2)国・地方自治体は、希少金属を含む機器の再利用・再資源化に向け制定した「使用済小型電子機器等の再資源化の促進に関する法律(小型家電リサイクル法)」の周知・広報を強化し、再利用・再資源化の取り組みを広げる。また、バーゼル条約(有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約)、RoHS指令(有害物質使用制限指令)、WEEE指令(電気電子廃棄物指令)などの関連する規制や、海外での電気・電子機器のリサイクルの動向を継続的に把握し、小型家電リサイクル法の見直しを行う。
  3. (3)国・地方自治体は、産業廃棄物に関して、排出者責任と原状回復義務を徹底するとともに、循環型社会形成の観点から「拡大生産者責任」を明確にした制度を強化し、電子マニフェストの添付を義務化する。また、北米における「プロダクト・スチュワードシップ」の観点から、消費者の関与の強化と「エシカル消費」に関する周知・啓発を強化する。
  4. (4)国は、廃棄物の不法投棄に対する監視体制を強化するため、指導権限のある「環境Gメン」制度を全国の地方自治体に創設させるとともに、地方自治体における要員の確保など、制度の運営に必要な財政的支援をおこなう。
  5. (5)国・地方自治体は、産業廃棄物処分場周辺の環境負荷を低減するため、モニタリング体制と公表制度を強化する。併せて、処理品目区分の細分化、他の処分場や住宅・農地などに対する距離規制、搬入される産業廃棄物に対する総量規制など、産業廃棄物処分場に関する規制を整備・強化する。また、処分場への搬入基準・維持管理基準の遵守を徹底し、不適正処理を未然に防止する。
  6. (6)国・地方自治体は、産業廃棄物処分場の新設に際し以下の事項に配慮する。

    ①処分場の設置は、受け入れ地域の住民の合意を前提とする。さらに施設設置事業者と住民との間における「運営協議会」の設置や「環境保全協定」の締結などを義務化し、市民参加による運営を行う。

    ②処分場の確保は、事業者の責任の所在を明確にしたうえで、地元地方自治体などの関与のもとで進める。

    ③広域処理・処分を充実させる場合は、処分場設置場所周辺の万全な環境保全対策の実施、関係する都道府県・市区町村の合意と事前の計画策定、情報公開を前提とする。

    ④既にある処分場については、官民を問わず責任の明確化および環境保全と維持管理を徹底する。また、不法投棄を含む過去の処分状況については、調査と公表を徹底する。

  7. (7)国・地方自治体は、廃棄物処理場における火災や臭気の発生を防止するため棄物処理法施行令の見直しを検討する。また、廃プラスチック類の再生利用技術の研究に対する支援を行う。
  8. (8)国・地方自治体は、一般廃棄物の処理に際しては排出者としての地域住民と収集・運搬・処理・処分にあたる各事業主体の責任と役割を明らかにし、以下のように取り組む。

    ①資源循環型社会の構築および資源効率性の観点から、有価物の分別や生ごみのたい肥化など減量努力の促進と、分別排出・収集を徹底する施策を講じる。

    ②一般廃棄物の処理費用の徴収を検討する場合は、排出者責任と適正処理のための費用のあり方を明確にする。家庭ごみ有料化を検討する場合は、住民の合意を前提とする。

    ③爆発性・毒性・感染性などがあり、人の健康や生活環境に被害が生じる恐れのある適正処理困難物については、拡大生産者責任の観点から、事業者による自己回収・費用負担の対応を検討するなど、原則、行き場のない廃棄物をなくす。

    ④CAPD(連続携行式腹膜透析)バックやチューブ類などの在宅医療廃棄物については、スタンダード・ブリコーション(標準感染予防策)にもとづき排出方法を周知するとともに、地域の医師会と地方自治体で回収方法を協議するとともに、回収時の感染予防に向けた研修などを実施する。

  9. (9)国・地方自治体は、国は、バーゼル条約・廃棄物処理法のいずれにおいても対象外となっている中古製品の国内処理原則に則り、中古製品扱いで廃棄物を国外に持ち出す脱法行為を防止するよう、国内での再利用・資源回収を徹底・強化する。
  10. (10)国・地方自治体は、自然災害の廃棄物処理については、現行の被災自治体処理費用の2分の1の国庫補助を確実なものとして、現状被害に合わせて引き上げるよう、制度を改正する。また、地方自治体の炉の新設・更新のために、循環型社会形成推進交付金を充実させるなど、すべての地方自治体が制度に参加できるよう体制を整える。
  11. (11)国・地方自治体は、食品ロスの低減と食品リサイクルの推進に向けて、「食品の取引慣行の見直し」と「食品リサイクル製品‐認証・普及制度」の普及・促進をはかるとともに、食品リサイクル肥料によって生産された農作物について、通常の同種の農作物よりも価格の引き下げを可能とする優遇措置を検討する。また、食品関連事業者における消費期限・賞味期限の適切な設定並びに流通各社における納入期限・販売期限に関する運用ルールの見直しによって食品廃棄の削減をはかる。
  12. (12)国は、家電リサイクルについて、リサイクルに協力する消費者の不公平感を可能な限り払拭するとともに、モラルハザードを防ぐためにも、不法投棄を行った者への罰則を強化し、引き続き取締りを徹底させる
  13. (13)家電、及び小型家電のリサイクルについて、消費者、販売店における混乱の防止と制度運用の円滑化に向けて、管理票の電算化や販売店・製品等により異なる費用の統一化等により、関連事務手続を簡素化する。
  14. (14)国は、容器包装リサイクルについて、制度を統制する組織に要する費用や事業範囲、今後の国による費用負担も含めた関与のあり方などを加味したうえ、将来的な社会的コストの削減と資源の節約・再活用の観点から、それぞれが果たすべき役割を改めて整理・定義する。また、公平性確保の観点から、リサイクル義務を果たしていない「ただ乗り事業者」を減少させる。
  15. (15)国は、容器包装リサイクルの再商品化手法について、単一素材ごとの収集を実施しつつ、汚れが酷い素材や残渣などマテリアル・リサイクルに向かない素材については、ケミカルリサイクルやサーマル・リサイクルで対応する。また、地方自治体の廃棄物焼却における助燃材のあり方についても併せて検討する。
  16. (16)国は、容器包装リサイクルの費用負担について、労働者の雇用・労働条件への影響を最小化する観点から、制度を改革する際には、十分な移行期間を設けつつ、公的な支援を含めた適切な措置を講じる。また、地方自治体への拠出金は、これまで消費者への広報経費として活用されてきたことを踏まえ、今後も低減し続ける拠出金に代わり、各地方自治体が行う広報活動に必要な費用として充当可能な「新たな助成制度」を創設する。
  17. (17)国は、吹き付け石綿やポリ塩化ビフェニル(Poly Chlorinated Biphenyl:PCB)などの有害物質、石綿含有建材、CCA(クロム・銅・ヒ素化合物系木材防腐剤)処理木材などの有害物質含有資材については、建設リサイクル法を改正し、解体前の調査報告(調査の区分ごとの調査機関による報告)と措置または適正処理の報告(処理事業者のマニフェスト)を発注者に義務付けるとともに、フロンや代替フロンの回収についても報告を義務付ける。
  18. (18)国は、太陽光パネル等の再生可能エネルギー発電設備について、耐用期限経過後の大量廃棄に備え、設備のリユース・リサイクルや適正処理とともに、発電事業者等のユーザーによる回収・処理費用負担のための措置を講ずる。(「資源エネルギー政策」2.(2)② e)より再掲

 

6.石綿(アスベスト)対策を強化するとともに、「石綿健康被害救済法」による被害者救済制度を拡充する。

  1. (1)国は、「石綿健康被害基金」に資金拠出する「特別事業場」について、その認定要件から労災認定件数を除外するとともに、企業の拠出負担のあり方を再検討し、「石綿健康被害基金」に対する国の負担を増額する。
  2. (2)国・地方自治体は、今後、増加が予想される石綿を含有する建築物・工作物等の解体・改修、アスベスト廃材の運搬に際して、十分な飛散防止対策を徹底する。また、石綿の実態調査および補助金制度を強化するとともに、専門家の養成を強化する。さらに、石綿の飛散を低減できる解体・廃棄物処理方法を研究するとともに、国の積極的支援のもとで安価な無害化(非繊維化)技術の開発・普及を促進する。
  3. (3)国・地方自治体は、資産除去債務に関する会計基準にもとづき、既存の建築物などに存在する石綿について、実地調査を実施したうえで、当該建築物を所有する企業・団体の資産除去債務として計上することを促進させる。
  4. (4)国・地方自治体は、2016年12月に成立した「改正がん対策基本法」にもとづき、中皮種などの難治性で患者数の多くないがんの研究体制を確立するとともに、石綿を原因とする疾患の確定診断ができる拠点病院を整備し、早期発見と早期治療を迅速に実施する。
  5. (5)国・地方自治体は、石綿ばく露の可能性や専門医療機関の紹介・案内、石綿を原因とする疾患の自覚症状などに関する広報を積極的に行う。
  6. (6)国は、中皮腫を含む予後不良な疾病について、2035年に発症のピークを迎えるという予測を踏まえ、抗CTLA-4抗体、抗PD-1/PDL-1抗体などの免疫チェックポイント阻害薬の治験を加速するとともに、中皮種に対する免疫療法全体の費用を低減させる。また、免疫チェックポイント阻害薬の治療効果が現れない事例のメカニズム解明を進める。

7.化学物質対策を強化し、環境への影響を最小化する。

  1. (1)国は、国民の健康や環境を守るという視点から、「持続可能な開発に関する世界サミット(WSSD)」の2020年目標であったSAICM(国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ)後の新たな国内実施計画(ポストSAICM)を進めるとともに、SDGsの目標にもとづき、製造・使用から廃棄に至るまでの化学物質のライフサイクル全体を通じたリスクの低減を促進しつつ、廃棄物を含む化学物質の大気、水、土壌への放出を大幅に削減する。
  2. (2)国は、化学物質の安全性に対する国民の不安への対処や、リスク評価・管理における取り組みのさらなる連携・強化をはかる。また、QSAR(Quantitative Structure Activity  Relationship:構造活性相関)やカテゴリーアプローチなどの非動物試験による推計手法の精度の向上および適用場面の拡大、利用に耐える非GLP(non Good Laboratory Practice:優良試験所基準に適合しない)データの活用に加え、現行法の運用では拾いきれないリスクについても、適切評価する方法について検討を行う。
  3. (3)国・地方自治体は、災害などの異常事態の発生の際に、企業の保有する化学物質による健康被害・環境被害低減と消火・救援活動が円滑に実施できるよう、化学物質の保管に関する法令・条例の順守に加え、災害対策の観点から保有する化学物質の有害性や物理化学的特性を労働者や取引先へ周知させる。また、事業場の規模に関係なく立地や建屋構造などの環境的要因を加味した対策マニュアルの作成を促進する。
  4. (4)国は、「公害健康被害補償法」などの補償制度を見直すとともに、公害に関する苦情・紛争の円滑な解消を進める。また、環境・健康への複合的な影響を調査し、新たな認定と救済の制度を確立する。
  5. (5)国・地方自治体は、複雑な化学物質に関する法律・制度を解りやすく周知・広報するとともに、化学物質の許容摂取量以下(低用量)の長期ばく露影響や、環境における低濃度複合ばく露影響、製品中に混在する構成成分の間で発生しうる相互作用や相加性などの調査・研究体制を充実させ、化学物質の複雑なシナリオのリスクについても、感受性が高い集団への対応を強化する。
  6. (6)国・地方自治体は、化学物質の生態系への影響に着目した管理・審査体制を強化する。また、生態毒性試験の信頼性向上の観点から、慢性毒性値の標本数を引き上げるとともに、特に感受性が高いと考えられる試験生物を複数選定する。
  7. (7)国・地方自治体は、狩猟の装弾(散弾)や釣りの錘などへの鉛の使用について、周辺環境への影響を軽減するために、代替物質への転換を促進するとともに、必要な支援を行う。
  8. (8)国は、有害とされた化学物質の代替にあたり、代替前の物質と代替後の物質の総合的なリスク比較を行うとともに、易分解性物質の環境影響評価手法を構築し、有害な化学物質の代替とされた物質についても、分解過程および分解中間物質の有害性の有無を解明する。
  9. (9)国は、水銀の供給・使用、排出・廃棄を地球規模での規制、市場取引量削減や環境への排出削減に貢献する。特に、「水銀に関する水俣条約」発効後に発足した締約国会議(COP)において、主導的な役割を果たす。また、退蔵品対策とともに、これまで有価で取引されていた水銀の回収に対するインセンティブの低下が、違法投棄につながらないよう必要な対策を行う。
  10. (10)国は、ナノ粒子の計測技術、安全性試験法、ばく露低減機器や環境への流出抑制、排出シナリオや環境中挙動モデル・体内動態モデル構築などの研究・開発を促進するとともに、健康影響・環境影響の調査を強化する。また、ナノ粒子のリスク評価を化学物質のリスク管理の中に体系的に組み込むとともに、化学物質以外のリスクも考慮して規制や自主管理を行う。
  11. (11)国・地方自治体は、化学物質の管理・取り扱いを行う専門性の高い人材を計画的に育成する。

 

TOPへ