- (1)国連食糧農業機関(FAO)によると、2020年の世界の飢餓人口は約8億1千1百万人となっており、9人に1人が飢えで苦しんでいる、としている。2030年までに飢餓をゼロにするためには、持続可能な開発目標達成に向けて、より一層緊急に対策が採られるべきであると警告している。気候変動に伴う降雨パターンや作物生育期への影響や、干ばつ、洪水等の極端な気象現象が、紛争や景気後退とともに飢餓増加の主要因の1つになっている。多くの国で栄養不足と肥満が共存しており、安全で質の高い食料を全ての人に提供できる持続可能な農業や食料システムに向けての転換が必要である。
- (2)わが国の食料自給率(熱量ベース)は、1996年以降40%前後の横ばいで推移しており、先進諸国の中では最低水準となっている。食料安全保障の観点から食糧自給力の向上が不可欠であるが、政府は食料自給率を2025年度に45%まで引き上げる目標を設定した。
- (3)安心してくらすことができる社会を構築するうえで、食の安定供給および安心・安全の確保は最も重要な要素の1つであり、具体的施策の着実な実行をはかる必要がある。
- (4)わが国の農業の状況は、就業人口の減少・高齢化が進み、農村の過疎化や農地の荒廃により耕作面積が縮小するなど、生産構造の脆弱化が進行している。この対策として政府は、農林水産業の輸出力強化と輸出インフラ整備、6次産業化などの推進、経営所得安定対策の見直しおよび日本型直接支払制度の創設、農協・農業改革の推進と農業競争力の強化、農泊などを通じ、持続可能な競争力のある農業への再生をはかろうとしている。また、自由貿易推進のための国際経済連携を進める際には、食料自給の観点から国内の農林水産業の弱体化につながらないよう、政府には慎重かつ適切な対応が求められている。
- (5)わが国の森林資源は、2,505万haと国土の7割を占め、先進国で第2位の保有を誇る。そのうち人工林は1,000万haを超え、森林の総蓄積は約50億㎥に達している。2020年末には、約7割の森林が10齢級以上となり森林資源は、保育主体から循環利用、計画的に再造成すべき時期に入った。しかし現状は、需要に応じた安定的な原木供給についての課題があり、価格も30年前と比べて3分の1まで下落しているとともに、林業就業者数は長期的に減少を続け、高齢化が進行しているなど、生産構造の脆弱化克服も道半ばにある。一方で、「森林・林業基本計画」などにもとづき実行し、林業の成長産業化の実現へ取り組んだ結果、木材自給率は30%台(36.1%)へ回復しており、また若年就業者の割合も増加傾向にあるなど、明るい兆しが見られる面もある。
- (6)水産資源は、国家が主権的権利を主張する排他的経済水域や公海にまたがり、マグロやカツオ等の大洋を回遊する魚種、サケやマス等の河を遡る魚種などが存在し、このような資源を適切に管理するため、魚種と回遊海域ごとに地域漁業管理機関(注1)が設立され、国際的な合意のもと漁獲量や操業期間など資源管理措置が強化されている。加えてわが国の水産管理措置は、主要資源について産出量規制を基本に、投入量規制及び技術的規制を組み合わせてきた。しかし資源管理(注2)の厳しさ、海洋環境の変化による漁獲可能量(TAC)設定のための科学的根拠である生物学的許容漁獲量(ABC)と、国連海洋法条約の長期的に持続可能な最大生産量(MSY)とでは食い違いがあり、水産資源の持続的な安定供給は国際的な水産資源管理で新たな局面に入っている。
- (7)農林水産業を持続可能なものとするため、生産性向上と市場規模の拡大に向け競争力・体質強化、地域振興をはかることは喫緊の課題であり、海外でも通用する農業の「農業生産工程管理(GAP)」、林業の「緑の循環認証(SGEC)」、水産業の「水産エコラベル(MEL)」などの「国際認証」取得へ向けた生産者への支援が必要である。「食料・農業・農村基本計画」(2020年3月閣議決定)、「森林・林業基本計画」(2021年6月閣議決定)、「水産基本計画」(2022年4月閣議決定)など基本計画の着実な遂行とともに、相互の連携を強化し、農林水産業の持続可能な産業基盤への再生・発展、成長産業化を早急かつ重点的にはかる必要がある。
- (注1)地域漁業管理機関 ~「国連公海漁業協定」の発効等を受け、それぞれの設立条約の規定に従って沿岸国や漁業国をはじめとする関係国・地域が参加し、資源評価等の科学的事項を検討するための科学委員会、各国の遵守状況を確認する遵守委員会等における検討状況を踏まえて、各水域の資源や漁業の実情等に応じ、実効ある資源管理を行う機関(例えば、世界のカツオ・マグロ類資源は、地域または魚種別にインド洋、中西部太平洋、全米熱帯、大西洋、保存の5つの機関によって全てカバーされている)。わが国も、漁船の操業海域や漁獲対象魚種に関して設立された地域漁業管理機関には原則、加盟している。
- (注2)資源管理 ~どの程度の親魚を残せば、翌年にどの程度の子魚が加入し、毎年どのくらいの魚が漁獲できるかの親子関係を決めるもの。改正漁業法にもとづく新たな管理システムで、最大持続生産量理論(漁獲できる魚を持続的に最大にする親の量を維持または回復することを目標とする管理)にもとづく資源管理を強化し、漁獲可能量による資源管理の対象を8割に拡大、個別割当(IQ)へ移行した。ところが最大持続生産量理論は、産卵親魚量と加入量で相関関係が見られず、現実の資源変動には、ほとんど適応しないことが明らかになり、生物学的許容漁獲量(50魚種84系群のうち資源水準高位14系群(17%)、中位31系群(37%)、低位39系群(46%))も厳しい状況となった。クロマグロは、漁獲可能量の増加が認められず、増加したクロマグロが入網し、定置網での大量漁獲が発生。大量漁獲をした漁協は罰金を払うことになり、操業ができなくなった漁業者は、国を相手に訴訟を起こす事態に発展した。