1 .持続可能で健全な経済の発展(産業政策)

産業政策<背景と考え方>

  1. (1)コロナ禍やロシアによるウクライナへの軍事侵攻に端を発した資源や原材料の供給制約が断続的に発生しており、わが国の産業全体に大きな影響を与え、収益の悪化につながっている。加えて、労働力人口の減少による深刻な人手不足が産業の持続的な成長に向けた喫緊の課題として顕在化している。また、今後、国家間の分断がさらに深まる懸念もあり、国際経済秩序は歴史的な岐路に立たされていることから、資源や原材料の供給途絶、重要システムへのサイバー攻撃および技術の流出などの国際的な脅威から国内産業を守り、経済上の安全保障を確保する必要性が高まっている。そのような背景から、2022年5月に経済安全保障推進法が成立した。
  2. (2)中小企業を中心に、この間のエネルギーや原材料費の高騰、労務費などの上昇を価格転嫁できずに収益が悪化している。また、建設業や運輸業、サービス業・小売業、医療・福祉業をはじめとして人手不足が収益力の強化を妨げており、企業規模間、地域間、業種間の差が大きくなっている。加えて、中小企業では、人手不足による倒産や廃業が発生するなど、状況は極めて深刻である。デジタルやグリーンといった産業構造の変化への挑戦は、中小企業の成長に向けた好機となり得る一方で、対応が図られない場合には困難な状況に陥る事態も懸念される。
  3. (3)以上のような状況の中で、わが国の経済を立て直し、新たな成長軌道に乗せていくには、価格競争から付加価値の向上に向けた企業戦略の転換、グリーン、医療・ヘルスケアなど新たな内需型産業の拡大・創出などを通じ、持続的な産業の発展、安定的な雇用の確保につなげていくことが求められる。また、資源や原材料の供給途絶リスクやカーボンニュートラルの実現といった世界が直面する課題解決に向けた技術・システムなどを確立するとともに、それらを海外展開することで、新たな外需を獲得し成長へとつなげていくことも求められる。2015年6月に施行された「コーポレートガバナンス・コード」は、東京証券取引所の上場会社に適用され、その後の改訂を経て「会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上」のための指針となっている。
  4. (4)わが国産業は、知識と経験による技術、技能、運用ノウハウなどが競争力の源泉であり、これらを担う人材の確保・育成の推進が重要である。産業自体の持続性、安定性を鑑みれば、ものづくりと人づくり重視の経済構造を指向すべきであり、新規技術の開発・実用化、基盤技術の振興、技能・技術の伝承等を確立すると共に、地域社会と連携した経済構造を構築することで、より一層の強化をはかる。また、政府は、研究・開発立国に活路を求めるための政策を用意しているが、技術・技能やノウハウに対する正当な対価を保障する知的財産保護の仕組みや、知的財産保護にも優越的な地位の濫用を防止する法的な制度を整備する。
  5. (5)中小企業政策は、地域経済活性化による雇用創出と密接不可分であり、資金的な支援、技術の開発・保護・育成のための支援など、各種支援策強化の為の政策・制度の確立が求められる。また、サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正な分配を実現するためには公正な取引慣行の確立・促進などの環境整備が必要不可欠であり、「パートナーシップ構築宣言」の推進およびその実効性確保が求められる。
  6. (6)厳しい財政状況を背景に、公共サービスの効率化、コストダウンへの要請が高まり、国や地方自治体から民間事業への公共工事や委託事業等における低価格・低単価の契約・発注が増加しており、結果として労働者の賃金および労働条件の著しい低下を招いている。政府として、人件費が公契約に入札する企業間で競争の材料にされることを一掃し、公契約に労働基準条項を確実に盛り込ませる政策が求められる。
  7. (7)政府は、2022年6月に閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」において、各国がデジタル化、最先端技術の開発、グローバルサプライチェーンの再構築など、コロナ後の経済・社会システムの再構築を見据えて大規模投資を官民一体となって推進しており、日本も変革を迫られているとし、「人への投資」「科学技術・イノベーションへの投資」「スタートアップへの投資」「GX(グリーントランスフォーメーション)及びDX(デジタルトランスフォーメーション)への投資」の4本柱に投資を重点化する考えを示した。今後、すべての産業に起こり得る様々な変化への対応について、政府と研究機関、産業界などが連携して総掛りで取り組むことが求められる。また、産業構造の変化に対応した働く者の学び直しや企業の職業能力開発に対する支援を強化する必要がある。その際には、持続的、安定的かつ包摂的な成長を実現する観点から、中小企業を含めて、構造変化に的確に対応できるよう支援することが求められる。
  8. (8)経済連携の推進に関しては、近年、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)、日EU経済連携協定、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定などが発効した。この間、連合は、これらの協定がわが国の持続的成長と雇用創出はもとより、各国における公正で持続可能な発展とディーセント・ワークの実現に寄与するものとなるよう、交渉参加国のナショナルセンターをはじめとする多様な関係先と連携強化をはかり、必要な対応を政府に求めてきた。経済連携協定は、幅広い分野に影響を及ぼす可能性があることを踏まえ、懸念される課題について引き続き丁寧に把握・検証のうえ、必要に応じて対策を講じることが求められる。

 

1.政府は、新規産業・雇用を創出する経済構造改革を進めるとともに、グローバル成長の取り込みをはかり、産業政策と雇用政策を一体的に推進する。

  1. (1)新規産業・雇用を創出するために、将来にわたり特に発展が求められる分野(ICT、グリーン、医療・ヘルスケア、観光、サービス、農林漁業の6次産業化等)と、それぞれの分野を有機的につなぐコンサルティングなどの分野において、人材育成、技術開発、規制改革、予算・税制措置等官民の資源を集中投資する。また、カーボンニュートラルの実現をはじめとした世界が直面する課題解決のための技術・システムなどの確立に向けて投資を行うとともに、新たな外需の獲得に向けた海外展開を支援する。
  2. (2)雇用創出を新規産業の育成策の目標に据えるとともに、産業や事業の再生にあたっては、雇用の確保を第一義に政策を展開する。また、産業政策や関連する法律案の策定にあたっては、経済合理性の視点に加え、雇用安定や労使協議を前提とした良好な労使関係を活用できる内容とし、雇用保険財源によらない職業訓練の充実、企業における人的投資の支援、労働者が教育機関にアクセスしやすい環境の整備などセーフティネットを強化する。
  3. (3)今後すべての産業に起こり得る様々な変化への対応について検討するための、労使が参画する枠組みを早急に構築する。その際には、失業なき労働移動を可能にするとともに、格差の拡大が助長されることの無いよう、ディーセント・ワークを維持しながら全体の底上げをはかるなど「公正な移行」が実現するよう検討を進める。

    ①政府は、社会基盤やあらゆる産業におけるDXの実現に向けた環境整備を積極的に支援する。とりわけ、すべての産業におけるデジタル化の実態把握をはじめ、すべての産業・企業に対するIT人材育成を含めたデジタル化の導入促進の強化、中小企業におけるDXの支援を充実する。

    ②国・地方自治体は、イノベーションへの対応など企業の環境対策を促進するため、環境対策に関連した技術・事業・産業の育成・支援を強化する。(「環境政策2.(7)」より再掲)

    ③企業における人的投資、テレワーク環境の整備をはじめとする設備投資、研究開発等に対する支援を着実に実施する。特に、産業構造の変化に対応した働く者の学び直しや企業の職業能力開発に対する支援を強化する。その際には、雇用形態や企業規模による格差が生じることのないよう、特に弱い立場の労働者や、中小企業に対する支援策を講じる。

    ④政府は、IoT/ビッグデータ・AI等の活用によるデジタル化の健全な進展と安心・安全で信頼性のあるAIの社会実装に向け、研究・開発環境整備への支援のみならず倫理的課題への対応を強化する。

  4. (4)雇用創出量が大きく、経済波及効果も見込める観光産業について、観光案内所の増設、交通機関等での多言語表記、ICTを活用した多言語情報の提供等の環境整備を進めるとともに、通訳案内士の養成等多言語人材の育成を推進し、地域と連携した推進体制で取り組む。
  5. (5)超少子高齢化に伴う労働人口の減少、労働力の高齢化に対応するため、ロボット技術の開発や導入・普及の促進など、作業負荷の軽減や省力化に向けた整備を進める。
  6. (6)海外需要の取り込みをわが国経済の活性化に繋げるため、国内企業の海外展開を支援するとともに、社会インフラシステムの輸出促進のための環境整備等を行う。
  7. (7)知的財産・標準化戦略にもとづき知的財産を有効活用し、技術立国としての地位確立をはかる。また、わが国の産業を保護・強化するべく、知的財産制度の一層の強化を図る。

    ①ソフトウェアも含め、知的財産の評価・権利を確立し、不正使用の防止を徹底する。

    ②特許市場の整備、特許審査期間の短縮化のための審査体制強化、裁判所の知的財産権紛争処理体制の強化など、知的財産権制度の整備を行う。

    ③金型をはじめとする中小企業の技術が、特許・実用新案・著作権等知的財産権の枠組みで保護されるよう法整備を進め、外国への特許出願に対する支援策を強化する。

    ④外国出願特許については、早期権利化を実現するために、知的財産権制度の国際的な共通化をはかる。

  8. (8)わが国産業の競争力強化のために、企業の国際標準獲得を支援する。

    ①多様化する国際標準化活動に的確に対処できる仕組み作りを推進する。

    ②国際標準の策定にあたっては、技術優位の確保に向けたイニシアチブを得るため、基礎段階から産学との連携強化を積極的に推進する。

    ③認証の戦略的活用の促進に繋がる支援策を講じる。

    ④各国で異なる国際標準・規格については調和を図る。

  9. (9)営業秘密の流出防止のための制度整備を行う。

    ①不正競争防止法の適正な運用をはかるとともに、労使協議における情報開示や労働者の権利が影響を受けることの無いよう、従業員と事業者に対し営業秘密管理指針の周知・徹底を行う。

    ②企業における知的財産戦略が多様化する中で、研究者の発明に対するインセンティブの整備に向けた取り組みを進める。

  10. (10)地震・津波・火山噴火・台風・集中豪雨などの自然災害、新型コロナウイルス感染症などのパンデミック、大規模停電、大規模システム障害、テロなど災害や事故の発生時における事業継続や事業復旧に関する企業等のリスクマネジメント(事業継続管理:BCM)の普及・促進を支援する。また、風水災など予測できるものによる人的被害、帰宅困難者などの発生を防ぐため、政府は、企業に対し、事前の業務停止などに関するマニュアルの設置に係る支援策を進めていく。
  11. (11)経済安全保障の確保の推進にあたっては、民間事業者の自由な経済活動を阻害しない範囲に規制措置をとどめるとともに、WTO協定などの国際ルールとの整合性を十分にはかる。
     また、サプライチェーンの強靭化の対象となる特定重要物資、基幹インフラ役務の安定的な提供に資する対象分野の対象事業者や事前審査の対象となる重要設備の省令指針などの策定にあたっては、労働者の意見が十分に反映されるよう求めていく。

 

2.政府は、わが国経済の根幹を担う人材の育成をはかる。

  1. (1)ものづくりの重要性を認識し、実感できる初等・中等・高等教育の実施、さらには、生涯にわたる技術・技能の修得・継承の促進・支援を通じ、国民の勤労観の確立をめざした、人材の育成をはかる。

    ①ものづくり技術・技能の継承はもとより、世代に偏りのない技術・技能労働者の確保と人材の育成に向けて、技術・技能評価制度の社会的認知の向上をはかるともに、熟練技術・技能者が国内で積極的に活躍できる環境整備を行う。

    ②ものづくりマイスター制度(若年技能者人材育成支援等事業)等を活用し、効果的な技能の継承や後継者の育成を行うために、必要な場所・設備等の提供・支援を行う。

    ③ものづくりに関連する業種・職種における高度熟練技術・技能労働者を社会全体の財産と位置づけ、社会的評価を向上させると共に、有効的な活用をはかる。

    a)工業系高等学校での技術実習指導や中小企業における技術・技能伝承に対する技能者派遣事業などへの助成を強化する。また、安全の確保など高等学校の教員に対する技術・技能の指導強化をはかる。

    b)ポリテクセンターや都道府県産業技術専門校、専門高校・高等専門学校・大学の学校教育において、実践指導員や技能コンサルタントとして採用する。

    c)ポリテクセンター・産業技術専門校の教育内容を精査するため、都道府県単位に政労使三者構成の教育内容検討委員会を設置し、民間ニーズに対応した教育内容を実現する。

    ④若年労働者のものづくり現場への就業意識を高めるため、小学校・中学校段階からのものづくり教育の履修時間の拡大と内容を充実させるとともに、職場体験学習の機会を増やす。また、高校・高専・短大・大学では、インターンシップを単位として認める制度を普及させると同時に、産業界の技術者等の外部講師を積極的に活用するなど、実践カリキュラムを盛り込む。勤労観の確立につながるよう努める。

  2. (2)産業・企業の発展に資する産業人材の育成のため、産学労と連携をはかり、産学連携教育や産学共同事業の強化、技術経営(MOT)人材を育成するとともに、国際標準作成の専門家を養成するために、企業や大学の技術者の育成に努める。また、理系人材の育成を担う企業・教育機関等への支援を強化する。
  3. (3)地域活性化に資するまちづくりを担う人材育成のため、地域を担うステークホルダーと連携を図り、まちづくりを担うリーダーを市民の中から登用するしくみや、インキュベーションマネジャーの育成強化を推進するとともに、ベンチャー・ビジネスを支援する。
  4. (4)今後起こり得る産業の変革に対応した人材育成について、新たに必要とされる資質や能力・スキルなどを速やかに示すとともに、年齢や居住地に関わらず広く雇用の安定につながる実践的な育成システムの構築のために、産(労使)・官・学(高等教育機関、職業訓練機関)による具体策の議論を加速させる。
  5. (5)あらゆる産業におけるDXを推進する観点から、各企業におけるDX実現を担う人材の能力開発、育成・確保を促進するとともに、データやAIを活用して仕事を進めるためのスキルやITリテラシーの向上に向けた支援強化を図る。

 

3.政府は、中小企業が自立できる基盤を確立し、独自の高度な技術と経営基盤の確立に向けた支援を行う。

  1. (1)「中小企業憲章」に関する国会決議を行うなど、中小企業の位置付け、中小企業政策の基本理念、政府の行動指針等をより明確にすることにより、中小企業政策の推進をはかる。都道府県は市区町村の中小企業振興基本条例の制定に向けた環境整備を進める。また、条文において労働団体の役割や大企業の責任を明確にするとともに、条例にもとづく施策を検証する会議体を設置し実効性を高める。
  2. (2)「中小企業総合情報センター」を設置するなど中小企業に対するサービスを一元化する窓口である中小企業支援センターの役割を拡充するとともに、中小企業のワンストップ相談窓口である「よろず支援拠点」の活用推進とサービスの向上に努める。
  3. (3)中小企業の販路開拓(ビジネスマッチング)のため、中小企業基盤整備機構が運営するJ‐GoodTech(ジェグテック)の機能を拡充し、周知に努める。
  4. (4)海外企業からの受注を増大させるために、JETRO(日本貿易振興機構)の「国際ビジネスマッチング(TTPP)」の周知と活用推進を行うとともに、海外からの問い合わせ、引き合い等を受け付ける窓口を設置する。
  5. (5)中小企業経営者の高齢化等を踏まえ、円滑な事業承継の促進に向けて、「事業承継ガイドライン」の周知や支援策の拡充を行い、あわせてニーズの掘り起こしなどを行っていく。
  6. (6)中小企業に対する高度な技術支援と生産基盤強化のため、産官学の共同研究を積極的に推進し、国が持つ技術や特許権を有効に活用できるシステムを構築する。
  7. (7)中小企業の経営戦略確立のため、ミラサポ(中小企業庁の中小企業支援サイト)における中小企業診断士や専門家の無料派遣枠の拡充を行うとともに、指導を受ける際の助成を行う。
  8. (8)不良原因究明、品質改善に取り組む中小企業を支援するため、工業試験場等からの人的支援等、地域における工業試験場等と中小企業の連携を強化する。
  9. (9)中小企業者による新卒者の採用を支援するため、ハローワークや、行政の外郭諸団体が積極的に採用会を開催する。さらには、業界団体・協同組合等が共同採用会を開催する団体を支援する。
  10. (10)中小企業に対し、業務効率化による生産性の向上や、求人時における効果的な企業PRが可能となるように、ICTの利活用を促進するための支援を行う。
  11. (11)中小企業に対するIoT導入および人材育成の支援を強化する。具体的には「地方版IoT推進ラボ」や「スマートものづくり応援隊」の拠点増加を推進する。
  12. (12)地域経済を支える中小企業・地場産業の活性化に資する金融環境整備を進め、地域金融機関は地域経済活性化支援機構等とも連携し、支援策を着実に実施していく。
  13. (13)中小企業における人材育成を支援するため、単独で負担することが難しい「社員教育等の研修会」や「福利厚生施策」などについて、地域または複数企業が連携して実施するための支援を行う。
  14. (14)中小企業における知的財産に関する悩みや相談を受け付けるために全都道府県に設置している「知財総合支援窓口」の機能を強化し、周知を徹底する。
  15. (15)中小企業における省エネ・生産性・安全性向上、人材不足への対応のための設備投資促進施策を拡充し、周知を徹底する。生産性向上特別措置法による税制支援の活用については、市町村による「導入促進基本計画」の策定、中小企業への働きかけを促進する。
  16. (16)大企業と中小企業が共に成長できる環境整備を目的に、地域の関係者による連携協定や地方版政労使会議などを通じて「パートナーシップ構築宣言」の宣言企業数を拡大しつつ実効性を高める。
  17. (17)独占禁止法や下請法などにもとづき公正な価格転嫁対策を強化するため、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」の周知を徹底するとともに、業種別マニュアルの整備や、指針を反映した下請け振興基準の補強を行う。

4.政府は、労働者の意見反映システムの確立等を進め、健全な産業・企業体質の構築に向けた支援を行う。

  1. (1)企業のCSR(企業の社会的責任)への取り組みを強化させるとともに、地域や消費者も含めたすべてのステークホルダーに対して情報を公開させる。なお、取り組みにあたっては、雇用・労働・人権・環境分野を重視するとともに、重要なステークホルダーである労働組合や従業員の意見反映や利益確保が十分に行われるものとする。
  2. (2)CSR調達の取り組み促進に向けて、2025年日本国際博覧会協会は、「持続可能性に配慮した調達コード」に則り、全ての物品・サービスの受注者(サプライヤーおよびライセンシー)がILO中核的労働基準をはじめとする労働に関する国際的な基準を遵守するよう周知徹底をはかる。調達コードの不遵守またはその疑いが生じた場合の通報受付窓口については、効果的なものとなるよう整備する。国・地方自治体は同コードを採用する。
  3. (3)多様なステークホルダーの利益への配慮を含む企業統治や企業再編時の労働者保護を実現するために、事業譲渡における雇用や労働条件の保護に関する法律を整備する。また、企業の不祥事や法令違反を抑止するために、監査役・監査委員会の構成員に労働組合代表あるいは従業員代表を含めるなど、監査の機能および権限の強化をはかる。なお、現行の株主代表訴訟制度については、ガバナンスを効かせるために維持する。
  4. (4)企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、多様なステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを企業に認識させるとともに、ESG(環境、社会、統治)問題への対応を含め、労働組合への情報提供や協議など、ステークホルダーとの積極的な協働を促進するよう取り組みを進める。
  5. (5)上場企業における財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスにかかる情報等の非財務情報について、法令にもとづく開示を適切に行わせるとともに、法令にもとづく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むよう徹底をはかる。また、非上場企業における決算公告制度の運用についても徹底をはかる。
  6. (6)国際財務報告基準(IFRS)への対応方針は、労働者など多様な「利用者」の理解と納得の上に検討し、日本の産業構造や企業活動の実態に即した、成長と雇用の維持・創出に寄与するものとする。また、当面は、上場企業の連結財務諸表に対してIFRSを強制適用するべきではなく、任意適用を継続する。
  7. (7)投資ファンドや信託口を介した株式保有の増加に対応するため、上場企業が真の株主を調査することのできる権利を創設する。
  8. (8)上場企業の買収に関する規律を策定し、企業買収時における交渉過程・内容の透明化をはかるとともに、被買収企業の労働者代表に対して、買付文書に関する意見表明機会を担保する。また、この運用機関として、法的根拠を持った企業買収規制専門機関を設置し、構成員については、政府、金融機関、民間企業、弁護士、労働組合等から受け入れる。
  9. (9)国は、事業者内部の労働者からの通報が阻害されないよう、「公益通報者保護制度」について政府のガイドラインの活用や労使協議の促進などを通じて、制度の周知と普及、および適切な運用を徹底させる。また、通報者に不利益取扱い(報復)を行った企業に対する行政措置や刑事罰の導入、通報を理由とすることの立証責任の事業者側への転換など、通報者の保護・救済の強化につながる法改正を行う。
  10. (10)個人情報の保護をはかる際には以下の点に留意する。

    ①国、地方自治体は、個人情報取扱事業者等における実効ある個人情報保護を支援するとともに、個人情報保護状況の把握に努め、事業者に対し、適切な指導・支援を行う。ただし、就業規則等の改定を求める場合には、労使の十分な協議が前提であることに留意する。

    ②各省庁は、事業者に対する監督、指導等に関して、事業分野によって内容に過度な差異が生じないよう連携・調整を行う。特に高度な安全管理措置が求められている分野については、現場の従業員に過剰な負荷がかかることのないよう、守るべき基準の明確化と不断の見直しを行う。

  11. (11)建設工事の適正な工期の確保をするための「工期に関する基準」につき、丁寧な実態把握を行うとともに、適切な運営がなされるよう徹底する。

5.政府は、ディーセント・ワークの実現のための公契約基本法、公契約条例の制定など国内法等の整備および、ILO第94号条約の批准をはかる。また、国や地方による入札制度を改革する。併せて取引の適正化の実現に向けて、公正取引委員会や関係省庁の体制および権限の強化等を行う。

  1. (1)公契約(公共工事、サービス、物の調達など)に関する基本法を制定し、その中で公正労働基準と労働関係法の遵守、社会保険の全面適用等を公契約の基準とする。法整備をはかることにより、ILO第94号条約の批准をはかる。また、違反企業に対する発注の取り消しや違約金の納付制度等のシステムづくりを進めるとともに、発注者の責任も明確にする。

    ①公共工事等の入札における透明性確保、建設労働者の適切な労働条件確保に悪影響を及ぼすような工事価格や工期設定での受注に歯止めをかけるための措置を講ずる。

    ②努力義務として位置づけられている「予定価格と積算内訳」や「低入札価格調査の基準価格と最低価格」などの情報開示を、法的に義務づける。

    ③各自治体においては、労働基準条項を含む「公契約条例」を制定する。また、自治体の工事や業務委託の入札・契約に関わる条例や要綱などに、労働基準法等の労働法制や社会保障関連法規に違反した企業を、発注対象から除外する項目を設けるとともに、発注者の責任も明確にする。

  2. (2)国や地方自治体による公共工事や公共調達等の入札にあたっては、透明性確保のための措置を講ずる。公契約において、公正労働基準の確保、環境や福祉、男女平等参画、安全衛生等社会的価値やコンプライアンス遵守なども併せて評価する総合評価方式の導入を促進する。

    ①公共事業等の入札において、労働条件等を含めた総合評価方式の導入を促進する。また、その際は、明確な評価基準を設定する。

    ②ダンピング受注の判断基準を明確に定める。発注機関において受発注者間で取り交わされる契約には対象範囲を明記し、各々の責任範囲を明確にする

    ③総合評価基準の運用にあたっては、労働条件の悪化につながる早期着手や工期短縮提案が加点対象とならないよう、提案内容を精査するとともに入札業者にその旨明示する。

  3. (3) 国や地方自治体による公共工事の発注にあたっては、労働条件、安全衛生および品質を確保する観点から、事業計画、設計、施工各段階においてそれぞれ適切な工期を設定する。
  4. (4)サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正な分配の実現に向けて、優越的地位の濫用を防止し取引の適正化と透明な市場を確立するため、独占禁止法、下請法、下請中小企業振興法を強化するとともに、公正取引委員会や中小企業庁の体制および権限の強化、調査・監視の強化、企業への周知徹底等により法の実効性を高める。また、すべての労働者の立場にたった働き方を実現するため、中小企業などの「働き方改革」を阻害するような取引慣行の是正などを強化する。

    ①公正取引委員会や関係省庁担当部門の人員を拡充し、機能・体制の強化をはかる。

    ②「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(ガイドライン)の周知徹底をはかる。

    ③下請法(下請代金支払遅延等防止法)については、資本金区分による適用を廃止し全取引を対象とするとともに、銀行等の金融機関による信用供与も対象とする。
    下請Gメンが把握した業種別の実態を踏まえ、「下請適正取引等の推進のためのガイドライン」の拡充や実効性の向上をはかる。

    ④下請企業からの情報提供・申告等に対し親企業からの報復措置をなくすシステムを設ける。また、単価の過度な水準引き下げ要求に対し、商取引における一定の規制を設けることを検討する。

    ⑤下請法の適用対象外となっている発注者と元請事業者の取引について設計労務単価水準の賃金が支払われるようにするため、適正な単価や積算モデルでの契約となるよう検討を行う。

    ⑥知的財産に関する優越的な地位の濫用を防止する法制度を整備するとともに、その実効性を高める。

    ⑦国・地方自治体は、労働基準関係法令違反防止に向けて、下請取引や工事委託契約において下請法や建設法に定められた公正取引の遵守を適切に監視するともに、通報制度である「中小企業における労働条件の確保・改善に関する公正取引委員会・経済産業省との通報制度」について、関係者への周知をはかる。

  5. (5)地方自治体の公共工事において、建築工事と設備工事の「分離発注方式」を徹底させる。
  6. (6)国や地方自治体におけるソフトウェア、アプリケーション開発の入札では、必要な工数(人日)に人件費を積算させたものに加え、著作権の帰属のあり方も含めた知的財産としての価値を付加して価格決定がされるよう制度を改革する。また、政府は、民間企業間におけるソフトウェアの開発において、適切な受委託となるよう、ソフトウェアの機能価値に基づく積算や多段階契約等の推進など対応を強化する。
  7. (7)改正官製談合防止法を適切に運用し、談合根絶に向けたさらなる改正や天下り規制の強化を行う。
  8. (8)国際的な経済活動における外国公務員に対する贈賄の防止のため、国外における捜査体制を強化する。

6.政府は、公正・透明・自由な国際経済活動の発展を促すとともに、経済連携協定に、労働条項・環境条項を入れるべく見直しをはかる。また、新規案件については、有益な協定内容とするべく早期に参入を表明し、ルール作りから参画するよう努める。

  1. (1)国際経済活動については、WTOの理念である公正・透明・自由な多角的貿易体制の構築を国際協調のもとに進めることを念頭に、より質の高い経済連携協定(FTA/EPAなど)締結に向けて努力する。外交面において国内産業のリスクとなりうる事項に関しては、適時適切な対応を行うとともに、国民への適切な情報開示、国民的合意形成に向けた丁寧な対応を行う。また、経済連携協定に労働条項・環境条項が組み込まれるよう努める。
  2. (2)わが国の経済成長と雇用創出、各国における公正で持続可能な発展につながるよう経済連携を推進する。環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)、日EU経済連携協定および地域的な包括的経済連携(RCEP)協定については、幅広い分野に影響を及ぼす可能性があることを踏まえ、懸念される課題について引き続き丁寧に把握・検証のうえ、必要に応じて対策を講じる。
  3. (3)モノ以外のすべての貿易が対象となりうる新サービス貿易協定(TiSA)について、国民生活に広範な影響を及ぼすことを踏まえ、国民への適切な情報開示を行うとともに、懸念される課題に適切に対応する。(注1)

    (注1)新サービス貿易協定(TiSA)~世界貿易機関(WTO)に加盟する有志国・地域により、サービス貿易の一層の自由化に向けた新しい協定。現在、日本、米国、EUなど23カ国・地域が参加(EU各国を含めると50か国)。

  4. (4)二国間及び地域内のFTA/EPAについては、自由で多角的貿易を促すWTOの理念を念頭とした内容となるよう努めるものとし、他国を排除することなく、自由・公正・透明な世界経済活動の交流を拡大し、各国労働者の生活を改善し、ILOにおける労働基本権をはじめとする中核的労働基準の遵守を確立するものとする。

    ①当該国にとって、持続可能な経済発展、国民生活や雇用の改善、環境保護、安全・健康の向上等を促すものとする。

    ②労働基本権の確保、労働者の雇用の安定と創出、公正労働基準の確保が、必ず実施されるものとする。

    ③当該国の労使関係の慣行(労使協議等)を尊重したものとする。

    ④労働分野については、当然、ILOの中核的労働基準やOECDの多国籍企業行動指針を遵守する。

    ⑤労働者の移動については、当該両国における雇用との調和と国民的合意を原則とする。

  5. (5)地域レベル、二国間のFTA締結に向けた共同研究会に労働組合代表を含める。
  6. (6)外国の不当な安値攻勢や知的所有権の侵害等の不公正貿易に対しては、アンチ・ダンピング措置の発動を含め厳正に対処する。また、市場の混乱をもたらす急激な輸入の増大に対しては、協定の範囲内でのセーフガード措置の機動的な発動を行う。
  7. (7)国際協定の規定を遵守させるため、各国に公労使三者が参加した委員会を設置し、違反事例の解消をはかる。

 

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