- (1)コロナ禍やロシアによるウクライナへの軍事侵攻に端を発した資源や原材料の供給制約が断続的に発生しており、わが国の産業全体に大きな影響を与え、収益の悪化につながっている。加えて、労働力人口の減少による深刻な人手不足が産業の持続的な成長に向けた喫緊の課題として顕在化している。また、今後、国家間の分断がさらに深まる懸念もあり、国際経済秩序は歴史的な岐路に立たされていることから、資源や原材料の供給途絶、重要システムへのサイバー攻撃および技術の流出などの国際的な脅威から国内産業を守り、経済上の安全保障を確保する必要性が高まっている。そのような背景から、2022年5月に経済安全保障推進法が成立した。
- (2)中小企業を中心に、この間のエネルギーや原材料費の高騰、労務費などの上昇を価格転嫁できずに収益が悪化している。また、建設業や運輸業、サービス業・小売業、医療・福祉業をはじめとして人手不足が収益力の強化を妨げており、企業規模間、地域間、業種間の差が大きくなっている。加えて、中小企業では、人手不足による倒産や廃業が発生するなど、状況は極めて深刻である。デジタルやグリーンといった産業構造の変化への挑戦は、中小企業の成長に向けた好機となり得る一方で、対応が図られない場合には困難な状況に陥る事態も懸念される。
- (3)以上のような状況の中で、わが国の経済を立て直し、新たな成長軌道に乗せていくには、価格競争から付加価値の向上に向けた企業戦略の転換、グリーン、医療・ヘルスケアなど新たな内需型産業の拡大・創出などを通じ、持続的な産業の発展、安定的な雇用の確保につなげていくことが求められる。また、資源や原材料の供給途絶リスクやカーボンニュートラルの実現といった世界が直面する課題解決に向けた技術・システムなどを確立するとともに、それらを海外展開することで、新たな外需を獲得し成長へとつなげていくことも求められる。2015年6月に施行された「コーポレートガバナンス・コード」は、東京証券取引所の上場会社に適用され、その後の改訂を経て「会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上」のための指針となっている。
- (4)わが国産業は、知識と経験による技術、技能、運用ノウハウなどが競争力の源泉であり、これらを担う人材の確保・育成の推進が重要である。産業自体の持続性、安定性を鑑みれば、ものづくりと人づくり重視の経済構造を指向すべきであり、新規技術の開発・実用化、基盤技術の振興、技能・技術の伝承等を確立すると共に、地域社会と連携した経済構造を構築することで、より一層の強化をはかる。また、政府は、研究・開発立国に活路を求めるための政策を用意しているが、技術・技能やノウハウに対する正当な対価を保障する知的財産保護の仕組みや、知的財産保護にも優越的な地位の濫用を防止する法的な制度を整備する。
- (5)中小企業政策は、地域経済活性化による雇用創出と密接不可分であり、資金的な支援、技術の開発・保護・育成のための支援など、各種支援策強化の為の政策・制度の確立が求められる。また、サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正な分配を実現するためには公正な取引慣行の確立・促進などの環境整備が必要不可欠であり、「パートナーシップ構築宣言」の推進およびその実効性確保が求められる。
- (6)厳しい財政状況を背景に、公共サービスの効率化、コストダウンへの要請が高まり、国や地方自治体から民間事業への公共工事や委託事業等における低価格・低単価の契約・発注が増加しており、結果として労働者の賃金および労働条件の著しい低下を招いている。政府として、人件費が公契約に入札する企業間で競争の材料にされることを一掃し、公契約に労働基準条項を確実に盛り込ませる政策が求められる。
- (7)政府は、2022年6月に閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」において、各国がデジタル化、最先端技術の開発、グローバルサプライチェーンの再構築など、コロナ後の経済・社会システムの再構築を見据えて大規模投資を官民一体となって推進しており、日本も変革を迫られているとし、「人への投資」「科学技術・イノベーションへの投資」「スタートアップへの投資」「GX(グリーントランスフォーメーション)及びDX(デジタルトランスフォーメーション)への投資」の4本柱に投資を重点化する考えを示した。今後、すべての産業に起こり得る様々な変化への対応について、政府と研究機関、産業界などが連携して総掛りで取り組むことが求められる。また、産業構造の変化に対応した働く者の学び直しや企業の職業能力開発に対する支援を強化する必要がある。その際には、持続的、安定的かつ包摂的な成長を実現する観点から、中小企業を含めて、構造変化に的確に対応できるよう支援することが求められる。
- (8)経済連携の推進に関しては、近年、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)、日EU経済連携協定、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定などが発効した。この間、連合は、これらの協定がわが国の持続的成長と雇用創出はもとより、各国における公正で持続可能な発展とディーセント・ワークの実現に寄与するものとなるよう、交渉参加国のナショナルセンターをはじめとする多様な関係先と連携強化をはかり、必要な対応を政府に求めてきた。経済連携協定は、幅広い分野に影響を及ぼす可能性があることを踏まえ、懸念される課題について引き続き丁寧に把握・検証のうえ、必要に応じて対策を講じることが求められる。