4.社会インフラの整備促進(交通・運輸政策)

交通・運輸政策<背景と考え方>

  1. (1)2020年12月に施行された改正交通政策基本法では、法の目的として「交通が地域社会の維持・発展へ寄与するよう行わなければならないこと」、「国土強靭化の観点を踏まえた我が国の社会経済活動の持続可能性の確保」「人材の確保(これに必要な労働条件の改善を含む。)の支援」が盛り込まれた。また、2021年5月に閣議決定された「第2次交通政策基本計画」では、「誰もが、より快適で容易に移動できる、生活に必要不可欠な交通の維持・確保」「我が国の経済成長を支える、高機能で生産性の高い交通ネットワーク・システムへの強化」「災害や疫病、事故など異常時にこそ、安全・安心が徹底的に確保された、持続可能でグリーンな交通の実現」の3つを柱に、持続可能で強靱、高度なサービスを提供する「次世代型の交通システム」へ転換するとしている。
  2. (2)第2次交通政策基本計画にもとづき、地方自治体、交通事業者をはじめ、多様な主体が連携・協働して交通の維持・強化や自然災害・老朽化・重大事故対策を講ずる必要がある。とりわけ、人口減少・少子高齢化が進む地域における公共交通について、地域のあらゆる関係者が緊密に連携して、真に必要とされる輸送サービスのあり方を議論し、その維持・確保をはかることが求められる。
  3. (3)訪日外国人旅行客は、コロナ禍における水際対策の徹底により2019年の年間3,188万2千人から、2021年には年間24万6千人に激減した。一方で、政府は2022年6月から外国人観光客受け入れを再開し、同年10月には検疫措置の見直しとともに入国者数の上限の撤廃や個人旅行の解禁など、入国制限を大幅に緩和した。また、海外からの旅行者も含めた移動手段の最適化へ向けた「MaaS(マース)」(注1)の構築、人口減少・少子高齢化や訪日外国人旅行客に適応した地域公共交通網の形成・再構築も進められている。
  4. (4)官民ITS構想・ロードマップを踏まえた、次世代ITS(注2)による交通渋滞対策・交通事故ゼロ、環境負荷を低減した自動車(二輪車等を含む)の開発・普及、モーダルシフトによる輸送の効率化などにより、環境への負荷が小さい交通・運輸体系をさらに発展させていく必要がある。
  5. (5)自動運転化技術については、2022年4月に成立した改正道路交通法により、限定地域でレベル4(注3)の車両を利用した公道上での移動サービス(特定自動運行)が可能となる。また、鉄道車両においても自動運転の実現に向け、一部の路線で運転士以外の係員が乗務するGoA2.5(注4)の実証運転が行われている。実用化に向けて開発が急速に進む中、引き続き、事故発生時の責任の所在を含めた法整備や社会ルールの構築、およびその周知を早急に進める必要がある。
  6. (6)2020年に成立・施行された改正道路法では、国による地方管理道路の災害復旧等を代行できる制度の拡充、バス・タクシー・トラック等の事業者専用の停留施設(特定車両停留施設)、および磁気マーカ等(自動運行補助施設)の道路附属物としての法定化、歩行者利便増進道路(通称:ほこみち)制度、および特殊車両の新たな通行制度の創設がはかられた。これらの各制度の利活用促進に向けた支援や環境整備など施策の推進が求められる。
  7. (7)2016年の軽井沢スキーバス事故を踏まえて2017年4月に導入された貸切バスの事業許可更新制により、期限(原則5年)を迎える事業者のうち1割以上が退出しており、不適格事業者退出の仕組みが一定の効果を上げている。しかし、今なお無理な運行指示などを背景とした悲惨な事故が発生している。輸送の安全確保は各交通モード共通の課題であり、参入段階でのチェック体制のさらなる強化や監査の徹底、更新制度の厳格な運用が重要である。また、契約上認められる運賃の範囲は、旅行会社と交わす「運送引受書」に記載が義務づけられたが、運賃を抑えたい旅行会社と安くても定期的に仕事が欲しいバス会社の関係から安値競争は続いている。安全をきちんと担保できる適正な運賃を収受するとともに、安全対策を含めた品質の底上げに向け、貸切バス事業者安全性評価認定制度(セーフティバス)を取得したバス事業者が選ばれるよう市場環境の整備が必要である。
  8. (8)自動車運送事業における運転者不足が深刻となっている。国土交通省が創設した「働きやすい職場認証制度」は、職場環境改善に向けた各事業者の取り組みを「見える化」することで優良事業者の運転者不足解消をめざす取り組みであり、その周知と申請・認証事業者の拡大が急務である。また、高卒新規就職者のトラック乗務のため2017年に新設された準中型免許に続いて、2022年5月から「受験資格特例教習」の修了を要件に中型以上の第一種、および第二種免許取得の年齢要件を19歳(普通免許保有1年以上)に引き下げる特例が創設された。職業ドライバーが安全運行を続けながら長期に働くためにも、新免許制度の導入の前提である、運転者、とりわけ若年運転者に対する各モードの事業法の体系の中での教育訓練や、定期的な適性診断など、行政と業界の連携による総合安全対策の着実な実施が求められる。さらには、改正貨物自動車運送事業法にもとづく標準運賃の徹底やその恒久化、そして安全を維持するための費用の確保にむけた適正運賃・料金の収受により、早期に運転者の賃金・労働条件改善を進めなければならない。
  9. (9)改正タクシー特別措置法にもとづく供給削減措置が十分に機能せず、運転者不足により稼働しない遊休車両を保有し続けている状況にあるため、同法の実効性ある運用が求められる。国土交通省は課題や利用者ニーズの多様化に的確に対応するため、タクシー革新プラン2016にもとづく「事前確定運賃」「相乗りタクシー」「変動迎車料金」「定額タクシー運賃」など需要喚起と運行効率化による事業者の生産性向上の検証を行ってきた。引き続き、利用者のニーズに応えられるタクシーサービスを進化させていくことが求められる。他方で「ライドシェア」は、運行管理や車両整備等についての責任主体、安心・安全といった利用者保護やドライバーの労働者保護等の観点で、厳格に対応していく必要がある。また、外国人観光客受け入れの再開にともなう訪日旅行客によるレンタカー利用と事故や、白タクの利用について、交通法規や通行規制等の遵守、および違反した場合の罰則について外国人利用者に対する説明や環境整備が必要である。
  1. (注1)MaaS ~「Mobility as a Service」の略。自動車や自転車、バス、電車など、多様な交通モードを1つのサービスとしてとらえ、出発地から目的地までの移動にかかわる検索・予約・決済などをオンライン上で一括して提供する次世代モビリティ。小売・宿泊・観光・病院など多様なサービスやMaaS相互間の連携による移動の高価値化も含む。
  2. (注2)次世代ITS ~自動走行システムの高度な安全性を確保するため、近接する車両や歩行者等の間で互いに位置・速度情報等をやり取りする高度運転支援システム。
  3. (注3)レベル4自動運転~自動運転のレベル区分の段階で、レベル3までは運転または監視のためドライバーを必要とするが、レベル4からはシステムによる運転(今次改正法による自動運転で必要とするのは遠隔監視者のみ)となる。
  4. (注4)GoA(Grades of Automation)~鉄道の自動運転技術における自動化レベル。GoA2.5は、緊急停止操作、避難誘導等を行う運転免許を有しない係員が列車の前頭に乗務する形態の自動運転。

1.「第2次交通政策基本計画」の着実な実行により、持続可能な社会基盤としての交通・運輸体系を確立する。

  1. (1)国・地方自治体は、交通政策基本計画を着実に実行し、わが国が直面する経済・社会の変化に的確に対応するとともに、国民生活や経済活動を支える社会基盤として、持続可能で強い交通・運輸体系を構築する。加えて、交通・運輸を担う人材の計画的な確保に向けて、資格・免許の取得や技術・技能の習得など、その費用の支援をはじめ、人材育成や同産業への就業を支援する。

    ①国は、交通政策基本計画の趣旨に沿って、地方自治体における「立地適正化計画」や「地域公共交通計画」の策定を誘導・指導する。

    ②国・地方自治体は、交通政策基本計画に掲げた数値目標等の進捗状況を「見える化」しつつ、目標の達成に向けた施策のフォローアップを行うとともに、法制上・財政上の支援措置を講ずる。

    ③国は、地方自治体に交通政策を担当する専任者を派遣するなど、自治体職員の育成・確保に努める。

    ④国は、自然災害が頻発化・激甚化する中、被災した鉄道、道路、空港、港湾等の社会インフラの復旧に財政措置をはかるとともに、老朽化が進む橋梁やトンネル、車両、安全通信装置等の維持・更新や、耐震化を含めた安全対策などへの支援を通じて、持続可能な交通基盤を構築する。

    ⑤国・地方自治体は、交通政策基本計画および「第2次自転車活用推進計画」にもとづき、交通安全対策や歩道・自転車道・車道の分離、公共交通機関と連携した災害時における交通機能の維持、国民の健康増進などをはかる。

    ⑥地方自治体は、条例による荷捌き駐車施設の設置の義務化、駐車場法の特例制度として規定された荷捌き駐車施設の集約化、住宅街における駐車規制の見直しなど、地域実情にあわせて物流を考慮したまちづくりを推進する。

  2. (2)国・地方自治体は、改正地域公共交通活性化再生法などにもとづき、「地域が自らデザインする地域の交通」「持続可能な地域モビリティの刷新」の実現に向け法定計画を見直していく。

    ①国は、交通機関の経営効率や地方自治体の財政負担軽減に係るKPIを設定した計画にもとづく事業を支援し、その実現に向けては、地方自治体における組織体制充実のための安定的な財源と人財の育成・定着を確保する。

    ②国は、交通事業者と地域との官民共創等による持続可能性と利便性の高い地域公共交通ネットワークへの再構築のため、法整備や財源も含めた「実効性ある支援」を行い、地域の生活基盤を確保する。その際には、整備新幹線の建設と並行在来線の存続問題が発生していることも踏まえ、環境負荷の少ない物流ネットワーク維持の観点にも配慮する。

    ③国・地方自治体は、交通事業者の固定費負担の軽減をはかるとともに、必要に応じて上下分離方式の導入など、地域公共交通の再構築に向けた措置を講じる。

    ④地方自治体は、「法定協議会」「地域公共交通会議」「運営協議会」などで、地域住民に必要不可欠な交通路線の存続や廃止・代替を検討するにあたっては、交通・運輸産業に従事する労働者代表の意見を反映する。また会議運営にあたっては、交通事業者や利用者、住民など地域のあらゆる関係者が緊密に連携して真に必要とされる輸送サービスを検証し、納得・合意にもとづく協議を実施する。また、複数市町村にまたがる広域的な公共交通を取り扱う協議会も積極的に設置する。

    ⑤地方自治体は、新たな路線等の入札にあたって、安全運行を担保するため、国土交通省が示した「地域公共交通会議及び運営協議会の設置並びに運営に関するガイドライン」を遵守するよう行政指導を行う。

  3. (3)国・地方自治体は、交通のシビル・ミニマム(生活基盤最低保障基準)維持の観点から、子どもの通学や高齢者の通院など、市民生活に必要不可欠な地域公共交通に対する助成を行い、路線・航路を維持・確保する。特に山間部・離島などに関しては、地域振興と一体となった維持対策を行い、自動運転技術等の先進技術の活用も観点として加え、実証実験などを積極的に展開し、早期の実用化をめざす。また国は、人的・財政的基盤が脆弱な地方自治体への専門人材派遣などの人的支援、財政支援を積極的に行う。

    ①地域公共交通の維持・確保に向けては、「クロスセクター効果」(注5)を勘案し、地域の実情を踏まえた上で、交通政策とともに、教育や医療・福祉など各分野の政策とのポリシーミックスをはかり、地域公共交通の維持に向けた支援を積極的に行う。

    ②生活交通の存続が困難な地域は、地方自治体が地域公共交通確保維持改善事業の拡充と事業計画策定の簡略化により、地域のニーズを踏まえた最適な代替交通手段を確保する。日常的な生活物資輸送など、離島の住民生活に不可欠な海上航路については、国が補助制度を充実させ、代替船の建造への支援を行う。

    ③複数市町村にまたがるような広域的・幹線的な生活交通路線については、複数市町村により構成する協議会を設置し、国・地方自治体が地域の生活を支える観点から積極的に支援・補助するとともに、採算を向上させる対策を講じる。

    ④国は、高齢・障がい者の食料品アクセス問題の解決に向けて、関係府省間で連携し、施策を一体的に推進する。また地方自治体・商工会などで構成する協議会を設置し、情報通信技術を駆使した交流などを通じて「買い物弱者問題」に取り組む先進事例を共有する。また、宅配ネットワーク維持のための「小さな拠点」形成などの施策や貨客混載など、持続可能な買い物環境の改善に向けた仕組みが検討・創出されるよう地方自治体への支援を行い、地域の自立的な取組を促進する。

  1. (注5)クロスセクター効果~地域公共交通を廃止したときに追加的に必要となる多様な行政部門の分野別代替費用と、運行に対して行政が負担している財政支出を比較することで把握できる地域公共交通の多面的効果。地域公共交通にかかわる費用を、地域社会を支えるための支出という観点でとらえる。

2.先端技術を活用し、環境負荷が小さく、すべての利用者が利用しやすい交通・運輸体系づくりを促進する。

  1. (1)国・地方自治体は、各交通モードの特性や地域・エリアの実情を踏まえ、モード間連携・機能分担や他分野の政策とのポリシーミックスを図りつつ、地域公共交通を有効活用した交通体系の整備、まちづくりを進める。また、環境負荷が小さい公共交通のいっそうの利用促進に向けて総合的に政策を推進する。

    ①国・地方自治体は、鉄道の複線化・複々線化・相互乗り入れなど、混雑緩和対策・輸送力増強施策とともに、その助成を拡充する。また、市街地における路面電車(LRT)については、地域住民の合意形成をはかったうえで整備する。

    ②国・地方自治体は、駐車場・駐輪場の整備により車や二輪車・特定小型原動機付自転車(電動キックボード)・自転車と公共交通機関との接続をはかり、パーク・アンド・ライドを推進する。

  2. (2)国・地方自治体は、ゼロエミッション車など環境対応車(二輪車等を含む)の開発・普及、交通渋滞の解消をする道路システムなど、先端技術を活用し、環境負荷が小さい、自動運転や安全対策、環境に配慮などの技術開発・普及による交通・運輸体系を構築する。

    ①国は、国連自動車基準調和世界フォーラムの自動車安全・環境基準の国際調和と認証の相互承認をふまえ、自動運転にかかわる法整備、保険などの検討、自動運転に関するセキュリティガイドライン、自動運行補助施設など自動運転に必要な施設の整備、安全技術の促進に向けた支援制度を進める。

    ②国は、環境対応車(二輪車等を含む)の開発・普及のための各種優遇措置を拡充するとともに、充電設備や水素ステーション等インフラ整備に対する支援策を推進する。また、公用車を環境対応車に代替する。

    ③国は、CASE(注6)の実現に向けた技術開発の推進、ビッグデータの活用、VICS(道路交通情報通信システム)によるプローブ情報活用サービスの実用化への支援、新交通管理システムの整備を行うなど、次世代ITSを推進し、交通渋滞や交通事故を減少させる。

    ④国・地方自治体は、交通・物流を効率化するため費用対効果を検証した上で、交差点の立体化、道路の拡幅、環状道路・バイパス道路・物流拠点の適正配置などを実施する。

    ⑤国・地方自治体は、駐車場・タクシー乗場の他、バスタ(注7)などの特定車両停留施設をはじめ、主要駅での路線バス乗降場および貸切バスの駐車場の整備など、停まる安全を推進する。

    ⑥SAFやe―fuelなど、合成燃料をはじめとするカーボンニュートラルに資する燃料の免税や、国産化を含む供給能力の拡大など、導入促進に向けた施策を推進する。

  3. (3)国・地方自治体は「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」にもとづき、物流のデジタル化や自動化(物流DX)、およびモノ・データ・輸配送プロセスを含む業務プロセスの標準化による簡素で滑らかな物流、トラックドライバーの働き方改革など担い手にやさしい物流、持続可能性を確保した強くてしなやかな物流の整備の実現に向けて施策を推進する。

    ①国は、各業界における輸送に関する商習慣など、荷主と輸送事業者の関係に充分留意した上で、物流DXや業務プロセスの標準化を推進する。

    ②国は、物流MaaS(注8)の推進にあたっては、分担する事業者が細分化されないよう、輸送の安全確保の観点から一定の事業規模を要件に設定する。

    ③国・地方自治体は、長距離貨物輸送におけるモーダルシフトを推進する。

    a)港湾での鉄道施設の整備、貨物鉄道と海上大型コンテナ輸送を結合する。

    b)大都市間貨物鉄道経路・時間の確保、コンテナヤードの増強、貨物駅を改良する。

    c)港湾と道路の一体的整備、複合一貫輸送に対応した内貿ターミナルの整備、環境負荷の小さい船舶の普及を促進する。

    ④国・地方自治体は、地域内・地域間物流の効率化のため、共同輸配送の拠点を整備する。

  4. (4)国・地方自治体は、ユニバーサル社会実現推進法およびバリアフリー法にもとづき、すべての利用者が円滑に移動・乗換えできる、交通機関・交通施設の整備を促進する。

    ①国・地方自治体は、旅客施設について、ユニバーサルデザインの推進、ホームドアの設置とベビーカーの利用環境改善、幅の広い歩道整備、歩道の段差・傾斜・勾配の改善、無電柱化、バリアフリー対応型信号機、見やすく分かりやすい道路標識・道路標示などの整備、視覚障がい者用ブロックの整備、誰でも使えるトイレの設置などによる、すべての人が利用しやすい施設整備を推進する。また国は、地方自治体が施工するエレベーターの設置、人工地盤や通路の新設など大規模工事に対する人的・財政的支援を行う。

    ②国・地方自治体は、旅客車両について、バリアフリー車両の導入を促進し、高齢者・障がい者などにやさしい交通事業を組み合わせて、地域の実態にあった効果的な交通環境整備を支援する。

    ③地方自治体は、高齢者・障がい者およびその介護者に対する福祉目的の運賃・料金割引を拡充するとともに、利用しやすい料金体系やダイヤを整備できるよう、地域の公共事業者と病院やスーパーなどとの業務提携を支援する。

    ④国は、まち歩きを促す歩行空間の整備などへの支援を行うとともに、「心のバリアフリー」啓発活動、多言語対応、無料公衆無線LAN環境提供や多言語表記案内の改善、観光地における公衆トイレの整備など、ユニバーサルデザインにもとづくまちづくりを関係機関と調整し進める。

  5. (5)国・地方自治体は、事故を未然に防ぎつつ機能性を向上させるための道路整備や信号制御の高度化を行うとともに、諸外国の禁止・罰則例を参考に、地域事情に応じて「歩きスマホ」を禁止する条例等による規制のさらなる強化を検討し、安全で人間優先のみちづくりを推進する。また、障がいの有無、年齢、性別、人種などにかかわらず安全に安心して利用できる道路環境を形成するため、コミュニティゾーン形成事業、あんしん歩行エリア、自転車通行環境整備モデル地区などの各種施策を推進する。
  6. (注6)CASE~「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Shared & Service(シェアリング)」「Electronic(電動化)」というモビリティの変革を表す4つの領域の頭文字をつなげた、自動車業界全体の未来像を語る概念。
  7. (注7)バスタ~国土交通省が事業主体となって官民連携で整備する鉄道やバス、タクシーなど、多様な交通モードがつながる集約型の公共交通ターミナル。2016年4月にバスタ新宿を開業するとともに、バスタプロジェクトとして全国に事業展開。
  8. (注8)物流MaaS~複数の商用車メーカーのトラック車両データを共通的な仕組みで連携させ協調して取り組むべき課題に活用する等、物流分野における新しいモビリティサービス。

3.災害に強い交通・運輸体系を構築し、交通・運輸全般の安全強化と輸送の安定確保を両立する。

  1. (1)国・地方自治体は、東日本大震災をはじめ想定外の自然災害が多発する現状をふまえ、災害に強い交通・運輸体系を構築する。(「東日本大震災からの復興・再生および防災・減災政策」参照

    ①地方自治体は、災害に強い物流システムの構築に向けて、物流総合効率化法にもとづき広域物資拠点として機能すべき特定流通業務施設(民間物流施設)の選定を進め、非常用電源を完備する。また、自治体等の関係者などから構成される協議会を活性化し、地域事情に応じた支援物資輸送を実現するための広域連携体制を構築する。

    ②国は、港湾の事業継続計画(港湾BCP)の策定を支援するとともに、民間事業者との連携を進め、「災害救援フェリー」による救急輸送ネットワークを整備する。また、海上輸送については、レーダー等の施設整備、航路標識の耐震・耐波浪補強、航路用電源の自立型電源化(太陽電池化)を支援する。

    ③国・地方自治体は、発災時に被災地の支援を可及的速やかに実施するため、燃料備蓄を進めるとともに、代替輸送手段を迅速に確保できるよう、平時から輸送モード間の連携を促進する。

    ④国・地方自治体は、交通運輸インフラの耐震・津波・浸水・土砂災害対策や老朽化対策に対する支援を拡大し公共輸送機関の安全を確保するとともに、ICTを活用した渋滞情報・規制情報の提供などによる道路交通対策を行う。

  2. (2)国は、自動車運転者の労働時間の短縮など労働環境の改善をはかり、ワーク・ライフ・バランスおよび安全輸送の観点から、自動車運転者の長時間労働の改善および公正競争の確保のために、労働環境や賃金体系が適正なものとなるよう関連法規を厳格に運用する。

    ①国は、自動車運送事業における監査体制の強化、自動車運転者の過労運転防止のための運行管理の高度化などを通じて、安全対策を強化する。

    ②国は、自動車運転者の長時間労働による過労死および事故を防止するため、労働時間の正確な把握のもと、改正労働基準法の時間外労働の上限、60時間超の時間外割増50%の中小企業への適用、限度時間超過にかかわる手続き、改正「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(告示)の周知、および施行後の違反に対する監督指導および運輸支局との相互通報を徹底する。あわせて、告示の運用状況を検証し、最大拘束時間の見直しをはかるとともに、事業者に連続休息期間の確保を義務づける。また、自動車運転業務に対する労基法一般則の適用に向けた検討を速やかに開始する。

    ③国は、改善基準告示の連続運転時間違反の解消に向けて、絶対数が不足している高速道路のSA・PA、道の駅における大型車やトレーラーの駐車マスを拡充する。また、まちづくりの観点から、大規模な工業団地や物流団地、荷主の庭先等における大型トラック等の駐車場設置を推進する。あわせて、ETCの深夜割引適用方法の見直しにより午前0時直前の滞留問題を解消する。

    ④国は、すべての事業用自動車へのデジタルタコグラフおよびドライブレコーダーの搭載や、衝突被害軽減ブレーキシステムの義務化の対象外となる使用過程車への衝突警報装置の導入を推進する。また、すべての事業者に定期的な電子監査を義務づける。

    ⑤国は、規制緩和による過当競争や賃金体系における過度な歩合制が低賃金・長時間労働の原因であるため、安全輸送の観点から累進歩合制度の禁止を法律に明記する。また、需給調整規制や運賃規制などにより、不適切な事業者を排除する制度を構築する。

    ⑥国は、「適切な賃金(報酬)・労働時間を無視した」発注(発注業者・荷主・顧客)を規制するため、トラック輸送の「標準的な運賃」や貸切バスにおける「公示運賃」、または「確保すべき適正な人件費」を含めた適正な運賃・料金を収受しない事業者への指導を強化する。また、道路運送法にもとづく適正な人件費の算出にあたっては、全産業平均給与額を基礎とする。

    ⑦国・地方自治体は、「定額乗り放題タクシー」等と呼称される新たな輸送サービスに対し、地域の公共交通全体の持続可能性や旅客の安全性を踏まえ、採算性を無視した過度な低価格運行等を抑制する措置を講じる。

    ⑧国は、事業への参入要件を厳格化するとともに、事業者に対する事業継続の許可について、事業場の労働者の労働・社会保険への加入状況をより厳格に精査する。

  3. (3)国・地方自治体は、いわゆる「ライドシェア」などの新たな有償旅客運送事業について、既存の公共交通で保障されている利用者の安心・安全が確保されない限り、導入しない。また、空港、港湾、観光地において、訪日外国人旅行客を対象とした違法な白タク・白バス類似行為が目立つことから、道路運送法をはじめとする法令違反として厳正に対処する。
  4. (4)国は、運転代行における随伴用自動車に代わり、折り畳み式原動機付自転車等(電動キックボード・自転車を含む)を使用した自動車運転請負サービスについて、自動車運転代行業法の類型に加えるとともに、利用客の車両は代行運転普通自動車とみなし、第二種免許を運転の要件とする。
  5. (5)国は、貨物自動車運送事業にかかわる現行の基準が、輸送の安全確保に最低限必要なものであるという原則に立ち、事業法による規制の対象とならない自家用自動車による有償貨物運送については容認しない。
  6. (6)国は、車内・機内・船内における迷惑行為・危険行為・暴力行為に対する関連法規を周知徹底し、厳格に運用する。また、必要な法整備も視野に当面は安全阻害行為等の類型の見直しなど運用の改善により当該行為の抑止をはかる。
  7. (7)国は、飲酒や薬物中毒による運転の根絶に向け、交通事故発生時には飲酒検査等を必ず実施し、交通事故証明書に結果を記載する。
  8. (8)国・地方自治体は、交通事故・負傷者の減少、交通事故死亡者ゼロをめざす。

    ①国・地方自治体は、急発進や急ブレーキをしないエコ運転の推進、交通安全教育の充実、運転技術の維持向上、安全な車とまちづくりを促進する。

    ②国・地方自治体は、高齢運転者による交通事故防止対策として、衝突被害軽減ブレーキやペダル踏み間違い時加速抑制装置が搭載された普通自動車(サポートカー)の購入支援や、サポートカー限定免許の申請促進に向けた施策など、ハード・ソフト両面からの環境整備をはかる。あわせて、代替移動手段の拡充など、運転免許の自主返納後の支援をはかる。

    ③国・地方自治体は、訪日外国人旅行客による交通事故の防止や事故被害者の利益を守るため、車線規制や速度規制、交通標識などの国内交通ルールや、事故発生時にとるべき行動などについて、運行供用者による外国人自動車運転者への周知を徹底する。

    ④国は、特定小型原動機付自転車(16歳以上であれば運転免許不要、ヘルメット装着が任意となる最高時速20キロ以下の電動キックボード)について、人・自転車・自動車(二輪車などを含む)など既存の道路交通との安全が阻害されないよう、厳格な走行ルールを設定し、その周知徹底、および違反に対する取り締まりを強化する。

  9. (9)国は、改正自動車損害賠償保障法により恒久化された自動車事故対策事業について、被害者支援事業や事故防止にむけた施策の充実化を推進するとともに、一般会計に貸し出されている「自動車ユーザーが支払った保険料」全額を早期に返還する。
  10. (10)国は、航空機を利用したテロ・ハイジャックなどの犯罪防止をはじめ航空輸送の安全確保に向けて、国が検査の実施主体となるなど、財源を含め、その責任を一層強めるとともに、旅客・荷主の義務の周知など航空保安体制を強化する。
  11. (11)国は、民間機優先の空域再編を実施するとともに、国土交通省・防衛省(自衛隊)・在日米軍に分かれている航空管制を国土交通省へ一元化し、航空安全を強化する。
  12. (12)国は、一元的な海上交通管制のもと、船舶の動静監視および情報提供体制を整えた、海上交通センターの機能向上をはかる。
  13. (13)国は、座礁をはじめ海難時における海洋汚染に対する被害者保護のため、改正船舶油濁損害賠償保障法の周知徹底をはかるとともに、油流出防止対策や油濁損害の防除に対し、省庁横断的に対処して地方自治体への支援を実施する。
  14. (14)国は、国内空港における外国航空機による運送(シカゴ条約)、国内港間における外国船舶による旅客・貨物の沿岸輸送(船舶法)を認めないカボタージュ規制について、国内輸送の安全性を担保するため、一元的に制度の維持・運用をはかる。
  15. (15)国は、混雑が著しい港湾・浅瀬・狭水道における船舶航行の安全対策の強化・通航制限の解消のため、航路整備の推進、航路内漁網の排除、新規埋立事業・大型浮体構造物設置に際しての港湾機能・海上交通との調整、わが国に寄港する外国籍船舶への水先人の乗船・タグボート使用の義務化や責任制限の整備など各種対策を強化するとともに、事業停止・許可取消も含めた罰則強化・責任追及を推進する。
  16. (16)国は、貨物輸送ユニットの収納のための行動規範(注9)や改正SOLAS条約(注10)と陸上輸送の整合性をはかるため、海上輸送コンテナに関して、積荷内容(重量、危険・有害物質等)・積付方法などの情報提供を荷主に義務付ける「国際海陸一貫運送コンテナの自動車運送の安全確保に関する法律(案)」(注11)の再提出を検討する。危険・有害物質輸送に関する国内規制に関して、危険・有害物質表示を国際基準に統一する。
  17. (17)航空貨物にかかわるKS/RA制度(注12)について、国がKS認定を行うなど保安検査の実施主体を見直す。

  18. (18)国は、航空・船舶・陸上輸送貨物および郵便への無申告危険品の混入を防止するため、改正商法に規定された危険物に関する通知義務を周知・徹底するとともに、荷主・梱包業者・代理店に対して、危険品を取り扱う責任に関する教育を義務化し、違反者への罰則を強化する。
  19. (19)国は、海上輸送の安定・安全性確保のため、日本籍船舶と日本人船員の確保、海賊・武装強盗などへの対応強化に向けた国際的な連携・協力など、必要な措置を講じる。
  1. (注9)貨物輸送ユニットの収納のための行動規範~IMO(国際海事機関)/ILO(国際労働機関)/UNECE(国連欧州経済委員会)により2015年1月に発行された、コンテナ運送中の事故を防止するための具体的な貨物の収納及び固縛方法等が記述された規範。SOLAS条約においてコンテナ内の積み付けを適切に実施するためのガイドラインとして参照されている。

  2. (注10)SOLAS条約~海上における人命の安全のための国際条約。2016年7月に発効した改正条約では、計量・証明されたコンテナ重量情報の発荷主から船長への提供の義務付けも盛り込まれた。

  3. (注11)「国際海陸一貫運送コンテナの自動車運送の安全確保に関する法律(案)」~輸送の責任を明確にし、荷主、船社、港運、運送会社と港湾関係に携わる労働者の安全を守るための法案。関係者の合意が得られぬまま2012年の第181臨時国会において審査未了・廃案となったが、(注10)などのとおり再度の検討を後押しする方向性は見られる。

  4. (注12)KS/RA制度~Known Shipper(特定荷主)/Regulated Agent(特定航空貨物利用運送事業者)制度:国際民間航空機関(ICAO)の国際標準などにもとづき、セキュリティレベルを維持しつつ物流の円滑化を図るため、荷主から航空機搭載まで一貫して航空貨物を保護する制度。

 

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