6.民主主義の基盤強化と国民の権利保障(教育政策)

教育政策<背景と考え方>

  1. (1)政府は2017年12月、2019年10月からの幼児教育の無償化、2020年4月からの高等教育の一部無償化を含む「新しい経済政策パッケージ」を閣議決定した。連合はこの間、「第4次税制改革基本大綱」ならびに「新21世紀社会保障ビジョン」の改定の検討作業と併せて、「教育制度構想」の検討を行ってきた。これは、「教育費の無償化」「労働教育」「リカレント教育」を3つの柱とするもので、「教育費の無償化」では、家庭の経済格差が子どもの教育機会の格差を生まないよう、すべての教育にかかる費用の無償化を行い、社会全体で子どもたちの学びを支えることを求めている。
  2. (2)GIGAスクール構想における一人一台の端末整備は、コロナ禍を受けた計画の前倒しにより、2020年度末に義務教育課程での整備が概ね完了した。
     一方、端末利用が本格化する中で、アクセス環境の地域間・学校間格差が課題となっている。また、各種設定やトラブル対応などの負荷が一部の教員に集中する状況も散見しており、負担軽減に向けた対策が求められる。
  3. (3)異なる文化・言語を背景とした子どもも含め、すべての子どもを教育の場に包摂し学ぶ権利を保障することが求められる。また、いじめ防止対策推進法が施行されているが、社会問題化を背景とした、いじめに関する積極的な把握もあり、文科省の調査では、いじめの認知件数は増加の一途をたどっている。価値観の多様性を認め、いじめの根本的な解決につながる体制を整える必要がある。
  4. (4)連合は、「教育制度構想」において、働くことに関する知識を深め活用できるよう、労働教育のカリキュラム化をさらに推進することを求めている。誰もが安心と希望を持ちながら働き続けることができる社会を実現する必要がある。
  5. (5)2019年12月に給特法一部改正法が成立し、「在校等時間」の計測のもと、教員の「時間外勤務」には上限が設定された。しかし、文部科学省による2022年度の「教員勤務実態調査」結果(速報値)の時間外勤務は、2016年度調査と比べて小・中学校とも1日30分程度減少したものの、1か月では、今なお、中学校は36.6%の教諭が過労死ライン超え、小学校も14.2%の教諭が過労死ライン超えの状況にある。教職員の業務の削減や定数の改善、そして、教員の長時間労働の是正により学校の働き方改革を実現する必要がある。
  6. (6)連合は、「教育制度構想」において、社会人の学び直しには、「費用」と「時間」が大きな阻害要因となっているため、学費負担の軽減をはじめ、「有給教育休暇」の制度化など、社会人の学び直しに向けた環境整備を求めている。変化し続ける社会に適応し、個人が生涯に渡って学び続ける社会を実現するため、誰もが学びたいときに学べる環境を整える必要がある。

1.社会全体で子どもたちの学びを支え、すべての子どもの教育機会を保障するため、教育にかかる費用は原則として無償とする。

  1. (1)国・地方自治体は、貧困の連鎖を断ち切り、家庭の経済格差が教育機会の格差を生まないよう、就学前教育から高等教育まで、すべての教育にかかる費用の無償化を行い、社会全体で子どもたちの学びを支える。

    ①就学前教育の完全無償化を推進する。子どもの最善の利益をめざして幼保一体化を進め、社会で支える保育・教育環境を確保する。

    a)幼保一体化を進めるにあたっては、児童虐待の世代間連鎖対策、保護者支援、子育て相談支援機能などの福祉的機能を基盤に据える。

    b)保育所と幼稚園の保育・幼児教育の実践を活かしつつ、施設基準・人員配置基準の統一化、資格の統一化、研修機会の保障等の処遇の統一化などを進めるとともに、各施設に養護教諭を配置する。

    c)入所方式や価格設定などについて、すべての子どもと保護者への公平な利用を保障する仕組みとする。また、公平な利用を保障するため市町村の責務と権限を強化する。

    ②義務教育の学校給食を完全実施し無償化する。

    ③教育の機会均等を保障するため、義務教育の根幹である国庫負担制度を拡充し、学習指導上必要な教材を無償支給とする。デジタル教科書についても無償化制度を適用する。

    ④就学援助制度を拡充するとともに、援助が必要な家庭に漏れがないような基準とする。また、国は地方自治体が実施する就学援助事業のための財源措置を確実に行う。

    ⑤GIGAスクールなど教育のICT化にかかわる接続環境について、社会インフラとして、同時アクセスに耐えうる高速大容量ネットワークを早期に整備する。あわせて、情報通信技術支援員の一層の拡充や、GIGAスクール運営支援センターを早急に整備する。また、国によるソフトウエア費、保守・機器更新費などの予算化、家庭における接続環境の違いへの配慮、高校生までの対象の拡大、を推進する。

    ⑥高等学校に通うすべての生徒の授業料を無償化する。所得制限のある高等学校等就学支援金、生活保護受給世帯および非課税世帯のみを対象としている高校生等奨学給付金、定時制・通信制の教科書等給付費を拡充する。

    ⑦大学・専門学校などのすべての学生の学費を無償化する。

    a)奨学金に頼らずに高等教育を受けられるよう、運営費交付金や私学助成を増額し学費を低額化する。

    b)無償化に至るまでは、高等教育における奨学金制度を充実し、周知・広報を徹底する。

    c)無利子奨学金貸与者のみが対象となっている所得連動型の返還制度を、有利子奨学金貸与者にも拡大する。

    d)返還猶予や減額返還(現行10年)の期間延長、延滞金の賦課率(現行5%)の引き下げなど、返還困難者への救済措置を拡充する。保証制度は人的保障を廃止し、機関保証を原則とし、保証料を引き下げる。

    e)当面は、無利子奨学金の枠を拡充するための予算措置を行う。将来的には、国の奨学金制度をすべて無利子とする。

    f)学習の時間を確保する観点から、住民税非課税世帯を対象とした給付型奨学金は金額および対象者を拡充し生活費に充てる。

    g)中間層(無償化対象外)の負担軽減をはかるため、所得連動返還型奨学金制度の仕組みを活用した卒業後拠出金制度を導入する。

2.多様な価値観や文化の違いを認め合える社会をめざし、すべての子どもを包摂する教育を推進する。

  1. (1)国・地方自治体は、子どもの権利を保障し成長を支援する「子ども(児童)の権利条約」および「こども基本法」で定めた基本理念の周知徹底をはかり、価値観の多様性を認め、いじめの根本的な解決につながる体制、子どもが相談しやすい体制をつくる。また、不登校や中途退学、虐待を受けた子どもの学ぶ権利を保障する。

    ①多様な子どもに対応するため、すべての学校に養護教諭や栄養教諭を配置する。あわせて、養護教諭の複数配置の拡充のため義務標準法および高校標準法を見直す。

    ②いじめや虐待、貧困などを早期に把握し、適切に対応するため、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーをすべての学校に常勤配置する。

    ③フリースクールや中学校夜間学級での学びを支援するなど、すべての子どもが学ぶための環境を整備する。また、教育費負担の軽減を含め、家庭に対する経済的な支援を行う。

    ④地方自治体は、公立の中学校夜間学級について、教育機会確保法等にもとづき、少なくとも各県・指定都市に1校は設置されるよう取り組みを促進する。あわせて、ボランティアで運営している自主夜間中学のうち希望する中学について、地域の実情に応じて一定の要件のもとで、正規の中学校夜間学級の分校等の位置づけで認証できる仕組みを創設する。

  2. (2)国・地方自治体は、障がいのある子どもや、異なる文化・言語を背景とした子どもなどが、普通学級に在籍して教育を受けられるインクルーシブ教育を推進する。

    ①障がいのある子ども・保護者と十分に話し合い、必要な合理的配慮を行う。

    a)子どもの障がいの程度や特性に応じたきめ細かい対応を行うため、就学前教育から中等教育まで、普通学級を含めた教職員の増員や予算の拡充、十分な研修機会を提供するなどの条件整備を行う。

    b)就学先の決定は、障がいの程度、教育的ニーズなどを踏まえ総合的に検討した上で、子ども・保護者の選択権を最大限尊重し、教育委員会・学校と合意形成をはかる。

    c)意思表示に課題がある子どもに対するICT教育の充実など、自立した生活につながる内容を組み込む。

    d)普通学級に在籍しながら通級指導教室で学ぶ子どものために、担当教員の増員と専門性の向上など環境整備を進める。

    ②異なる文化・言語を背景にした子どもの教育環境を整備する。また、生命・人権・平等の尊重を土台に、社会的な資質・能力・態度を育む教育を進める。

    a)教員の指導体制および指導力の充実による、留学生および外国人児童・生徒の受け入れ体制の強化、また、帰国児童・生徒の入学・編入などの条件を整備・拡充する。

    b)外国人児童・生徒の教育の権利と機会を確保するため、就学に関する情報を、より多くの言語(多言語)、および、いわゆる「やさしい日本語」で伝えるとともに、日本語教育および母語・母文化教育の支援、外国人学校への運営補助を行う。

    c)諸外国語教育、とりわけ英語教育の充実とともに、諸外国の文化などを認識しあい共生できるよう、話し合いや交流の場を設定する。また、近隣諸国との相互理解を進めるため、対立する意見も含め、現代・近代史にも時間をかけた歴史教育を進める。

    d)人種、民族、宗教、肌の色、性別、年齢、疾病、障害、門地、性的指向・性自認等による人権侵害を解消し、人権意識を高めるための教育を行う。

    e)ジェンダー平等教育のための基本方針を策定し、教職員や社会教育主事などに対する研修を行う。また、教科書の見直しや教材開発、性別で分けない名簿を進めるとともに、スクール・セクシュアル・ハラスメント防止に努める。

3.社会人として必要な知識を身につけ意識を醸成するため主権者教育を充実する。

  1. (1)主権者教育の観点から、以下の教育を推進する。

    ①参政権、生存権、社会保障、税・財政、国の債務、司法

    ②環境、防災、食、農林水産、資源、エネルギー、ICT、消費、金融、生活設計、経済

  2. (2)政治的教養・活動に関する教育にかかわる文部科学省2015年通知の「公正かつ中立な立場で生徒を指導する」ことを市区町村の教育委員会・学校長・教職員に浸透させる。あわせて、教職員が主権者教育の指導に必要な知識や指導方法等を身に付けるための研修を充実させる。
  3. (3)幼少期から主権者としての意識を積み重ねるために、新学習指導要領に基づき、小・中学校の段階から指導の充実を図るとともに、児童会・生徒会や地域活動を充実化させる。
  4. (4)子どもたちがICTを利活用する中で、発達段階に応じて必要なスキルや行動規範を身に付け、デジタル社会の良き担い手となることを目指す「デジタル・シティズンシップ教育」を推進する。

4.働くことに関する知識を深め活用できるよう、労働教育のカリキュラム化を推進する。

  1. (1)国・地方自治体は、幼児教育から高等教育までの教育課程や社会教育において、労働の尊厳や労働組合の意義を深く理解し行動するための教育を行い、勤労観・職業観を養う。

    ①労働組合、企業、NPOなど、各種団体と連携し、勤労観・職業観を養うための社会体験や労働体験の場を活用する。また、労働組合役員やOB・OGなど外部講師による出前講座や職場見学の機会など、働くことの意義や知識を学ぶ時間を設定する。

    a)労働組合などによる、労働教育に関する寄付講座や出前講座を支援する。

    b)職場見学や労働体験の内容を充実するとともに、インターンシップなどを通じて多様な労働の現場に触れ、働くことの意義について学ぶ機会を充実する。

    c)ものづくり教育や公共職業能力開発施設での工作教室、技能塾などを通じて、ものづくりの大切さについて学ぶ機会を充実する。

    d)教員が寄付講座や出前講座を受け入れるための時間を確保できるよう条件整備を行う。

  2. (2)国・地方自治体は、働く上で必要なワークルールや労働安全衛生、使用者の責任、雇用問題などに関する知識を深め活用できるよう、労働教育のカリキュラム化を推進する。

    ①働くことに関する知識を深め活用できるよう、働くことの意義や労働の尊厳を深く理解し、働くことによって社会や地域とかかわり成長していく力を育成する。

    a)ILO憲章、日本国憲法や労働関係法にもとづく働く者の権利・義務(ディーセント・ワーク、ワークルール)

    b)健康で働くための諸制度、労働安全の確保の大切さ、ワーク・ライフ・バランス

    c)労働組合の意義、労働組合が果たしている役割

    d)起業家・NPO・NGO・農業・漁業・林業などの様々な働き方

    ②地域の産業界などと連携し、教職員と企業で働く労働者の人材交流をすすめるとともに、学校から社会へ円滑に移行する進路保障システムを構築する。

    a)労働体験、インターンシップなどの推進のために、学校、地域、企業などの連携を強化するしくみや、インターンシップ期間の単位認定など、制度面の拡充を推進する。また、トライアル雇用を活用し、柔軟に就職に結び付けられるようにする。

    b)進路指導を充実させるため、地域の産業界や労働組合の人材を活用する。

    ③学習指導要領に、労働基準法、労働契約法など、ワークルールにかかわる基本的な項目を盛り込む。

 

5.人口減少や少子化を踏まえ、地域に根ざした教育基盤を整備し、家庭・学校・地域が一体となった教育を推進する。

  1. (1)国・地方自治体は、人口減少や少子化を見据えた教育環境を整備する。

    ①学校が地域コミュニティの拠点や災害時の避難所となっているため、学校統廃合を行う際には、保護者や地域住民の意見・要望を聞いた上で慎重に検討する。やむを得ず学校統廃合を行う場合には、スクールバスを必置とし、遠方から学校に通う子どもの負担を軽減し安全を確保する。

    ②ICT人材の育成に向けてプログラミング教育等を進める際には、地域間格差が生じないよう、教育条件を整備する。

    ③現実の課題解決に取り組む「リビング・ラボ」や「プロジェクト型学習」を活用し、地域社会における課題解決に向けた学びを拡充する。

    ④全国学力・学習状況調査の結果公表が、学校や児童・生徒の競争や序列化につながらないよう取り扱う。子どもや保護者、教職員などの意見を踏まえ必要な見直しを行う。

    ⑤大学等の受験機会など、高大接続における地域間格差に配慮する。

  2. (2)地方自治体は、地域に開かれたコミュニティ・スクールの設置を推進し、地域・学校・保護者がつながることで、地域の大人が子どもを見守る体制を構築する。

    ①地域住民・教職員・保護者の代表などが学校運営や協力のあり方に関する協議する、コミュニティ・スクールや学校評議員会の設置を推進する。

    ②「地域学校協働本部」を設置し、地域・学校・保護者がつながることで、子どもの成長を支える体制を構築する。

    ③子どもが地域で希望するスポーツ・文化活動に参加できるよう、総合型地域スポーツクラブや文化クラブ等の設置を進める。

    ④体験活動や保護者とのふれあいなどを重視した「子どもの休暇制度(仮称)」を創設し、地域・学校・家庭の教育機能が発揮できる環境整備を進める。

    ⑤放課後に子どもが安全に過ごせる放課後子ども教室など、保護者の勤務時間を考慮した、子どもの居場所づくりを強化する。

    ⑥通学路の安全対策を進めるとともに、登下校時の安全確保に向けた施策を推進する。

    ⑦一部の原動機付自転車の規制緩和により移動手段が多様化する中、子どもが被害者、加害者とならぬよう、地域と学校が連携し、交通ルールの遵守、運転マナーの励行、自らの命を守るためのヘルメット着用の重要性など、交通教育の充実をはかる。

  3. (3)保護者が地域で安心して子育て・家庭教育を実践するための環境整備を推進する。
    ①長時間労働の是正や単身赴任の削減・縮小を進める。また、授業参観や就学説明会、地域の教育活動に保護者が参加する場合の「子育て・教育休暇(仮称)」を制度化する。
    ②保護者のワーク・ライフ・バランスの実現につながる職場風土・制度面の環境整備を推進する。
  4. (4)子どもの最善の利益の実現に向けた施策を推進する。
    ①子どもの権利条約およびこども基本法で定めた基本理念にもとづき、こども家庭庁・文部科学省をはじめとする子ども施策の関係府省庁が密に連携する。あわせて、子どもの権利擁護のための第三者機関を設ける。
    ②子ども等に関する施策の検討における子どもの意見の反映および実施状況の検証について具体的な方法を早期に検討する。
    ③デジタル化された学習履歴(スタディ・ログ)などの個人情報の取り扱いについては、慎重に検討を進める。また、学校健康診断結果の電子化に際しては、その活用を学校保健に限定する。

6.教育行政の政治的中立性、継続性、安定性を確保するとともに、教職員の長時間労働の是正や働きがいの向上を通じて教育の質的向上を推進する。

  1. (1)国・地方自治体は、教育行政における政治的中立性、継続性、安定性を確保する。

    ①地方議会は、首長が任命・罷免する教育長や教育委員について同意する際に、候補者の教育に対する考えや課題認識に関して所信表明を求める。

    ②総合教育会議は会議を公開し議事録を公表する。

    ③教育委員会は、事務局が扱う日常的な業務に対し監査機能を持つとともに、より多くの地域住民や保護者を教育委員に選任する。

    ④教職員の人事権や給与負担権限の都道府県から市区町村への移譲については、自治体間格差が教育格差につながりかねないことから慎重に検討する。

    ⑤教育委員会は、会議の運営改善、情報公開などにより活性化をはかり、教育、文化、スポーツなどの幅広い分野で地域の特性を活かした、教育行政を推進する。部活動の地域クラブ移行に際しては、行政として責任をもって推進し、子どもたちの活動を保障する。

  2. (2)国・地方自治体は、教職員定数の拡充や業務負担の見直しなど、学校の働き方改革を通じて教育の質的向上をはかる。
    ①総額裁量制にもとづく教職員の給与・配置について、教育予算の増額を前提に、運用実績を踏まえて地方自治体の裁量を拡大する。また、教職に質の高い人材を安定的に確保するために、人材確保法の理念を堅持する。その上で、人材確保の観点から、給与月額の改善や義務教育等教員特別手当の引き上げなど労働条件の改善をはかる。
    ②教員が子どもと向き合う時間を確保し、一人ひとりにきめ細かな教育を行うため、中等教育までの教職員の定数改善などによる配置増や週の持ちコマ数減による業務削減、小学校における35人学級の効果と課題を検証し、中等教育を含め、さらなる少人数学級を推進する。
    ③教員業務支援員の人材確保など、外部人材の抜本的な増員により、教職員の負担軽減の実効性を担保する。
    ④学校現場において、「こどものために」と肥大化しがちな業務の縮減に向けて、労使で時間管理意識の醸成に向けた取り組みを行う方策を検討する。あわせて、「カリキュラム・オーバーロード」を背景とした、教職員の長時間労働と、子どもたちの過剰な負担の改善に向けて、学習内容の再構築を行う。
    ⑤学校が担うべき業務は、授業をはじめとした子どもの教育に関する事項に特化することを明確化し、その周知徹底をはかる。また、教員が担う必要のないものと分類された業務について、教育委員会、保護者、地域住民の役割分担、および、その人材確保策も含めて明確にする。
    ⑥教員の長時間労働の是正など、労働環境を改善するため、上限指針の遵守および「在校等時間」の削減に向けて教員への労働基準法第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)の適用など、給特法を抜本的に見直す。あわせて、在校等時間の上限45時間等を超過している教職員の休息を確保するため、代償休暇(代替休暇)の付与を検討する。
    ⑦臨時的任用教員等の抜本的な処遇改善を行うなど、学校にかかわる人材の労働環境の改善をはかる。加えて、労働安全衛生法に則り、教職員に対するメンタルヘルス対策を強化し、精神疾患で休職する教職員数を減少させる。
  3. (3)国・地方自治体は、改正教育公務員特例法(教特法)の附帯決議に則り、研修機会を確保し、教員養成システムの改善など、教職員の専門性およびやりがいを高める施策を通じて教育の質的向上をはかる。
    ①研修を充実し、本人の希望や適性に応じて目標を持ったキャリア形成を進める。
    ②企業やNPOなどでの外部研修の充実、管理職型、専門職型等のキャリアの複線化、短時間勤務制度の充実など、養成から研修まで一体的な改革を進める。

  4. (4)国・地方自治体は、入学式や卒業式などの学校行事を、子ども(児童)の権利条約にある意見表明権に基づき、児童・生徒の主体的な参画によって行うことを保障する。内容は児童・生徒の意向なども取り入れ各学校の判断に委ねる。
  5. (5)国は、いわゆる特任(特命)助教など、極めて不安定なポジションかつ低収入な状況にある若手研究者が安心して研究できるよう、テニュアトラック制(注1)の普及・定着など、雇用環境の改善に向けた取り組みを強化する。

  6. (注1)テニュアトラック制~教員を自立的な教育研究環境で一定期間雇用し、テニュア審査を経て独立した教員として採用する、大学教員の育成・選抜のための公正で透明性の高い人事制度。

7.持続可能な社会の発展を担う人材を育成するために、リカレント教育・学び直しなど、生涯学習の観点から必要な教育環境の整備を進める。

  1. (1)国・地方自治体は、第4次産業革命による技術革新を見据え、能力開発支援に必要な一般財源を確保するとともに、専門職大学をはじめとした働くことに直結する学びの機会を拡充する。

    ①国際化・情報化社会における連帯、共生による発展をめざし、必要な教育を充実する。

    a)持続可能な社会の基礎となる環境教育

    b)ものづくり教育を再構築するための科学技術・理数教育

    c)プログラミング教育などのICT教育

    d)グローバル社会に対応する外国語教育

    ②潜在的な需要を有する成長分野(子育て、医療・介護、環境、情報通信、農業、林業等)をはじめ、幅広い分野において社会のニーズをとらえた教育を促進する。

    ③専門高等学校は、農業、工業、商業など職業現場のノウハウに関する教育を通じて、将来のスペシャリストを育成するため、職業教育の位置づけを明確にした上で、社会状況の変化や学習ニーズに柔軟に対応できる教育環境を整備する。また、高度な実践的かつ専門的な職業教育を行うために高等専門学校や各種専門学校の教育環境を整備する。

    ④大学・大学院は、国際的な質保障を意識した質の高い高等教育を実践する教育プログラムを確立する。また、地域活性化に資する、学びの拠点として位置づけ、企業・地域との連携を強化し、産学一体となってわが国の成長を支える厚みのある人材層を戦略的に形成する。

  2. (2)国・地方自治体は、生まれてから亡くなるまでの生涯にわたって、誰もが学びたいときに学びの機会に参加できるよう環境を整備する。また、高齢者のインターンシップや再雇用の観点からも学び直しの環境整備を進める。

    ①国は、幅広い知識にもとづき多様な考え方を理解できる人材を育成するための、リベラルアーツ教育を充実させる。

    ②国は、企業が長期の教育訓練休暇制度を導入しやすいよう、社員が休暇を取得し学び直した際に支援を行う「人材開発支援助成金」を拡充する。

    ③高等教育機関は、社会人が企業に在籍しながら通学できるカリキュラムの編成や休日に開講する講座、オンデマンド講座などを充実させる。

    ④企業は、企業が社会人の学び直しの課程におけるインターンシップに協力するなど、連携を強化するとともに、学び直しをした社会人を評価するよう人事制度を変革する。

    ⑤高等教育機関は、社会人特別選抜枠の拡大、編入制度の弾力化、夜間大学院の拡充、科目等履修制度・研究生制度の活用、通信教育・放送大学の拡充を進める。また、公開講座を拡充するとともに、施設の地域開放を進める。

    ⑥国・地方自治体は、教育デジタルトランスフォーメーション(教育DX)を推進し、教育格差の是正や情報化社会への適応をはかる。

     a)教育と技術を組み合わせたEdTech(エドテック)を活用し、個別最適化された多様な学びのプラットフォームを構築する。

     b)放送大学や大規模な公開オンライン講座の「MOOC」(ムーク:Massive Open Online Courses)を活用した学びを拡充する。

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