5.くらしの安心・安全の構築(消費者政策)

消費者政策<背景と考え方>

  1. (1)政府の「第4期消費者基本計画(2020年度~2024年度)」では、「消費者教育を通じ、地域の活性化や雇用等も含む、人や社会・環境に配慮して消費者が自ら考える賢い消費行動、いわゆるエシカル消費の普及啓発を図る」としている。事業者と消費者との関係において、情報の非対称性などの問題から、消費者が保護されるべきであることは当然である。その上で、持続可能なより良い消費社会を実現するためには、事業者と消費者が互いを思いやり、消費者教育などを通じて、倫理的な消費者行動を促していく必要がある。今後は、工程表にもとづく同計画の着実な実行が求められる。
    なお、「第4期消費者基本計画のあり方に関する検討会」最終報告では、消費者庁として初めて「消費者(生活者)同士のトラブルや、常識的な程度を超えて執拗・過剰に苦情を申し立てるクレーマーへの対応について消費者教育に一定の効果を期待する」といった考え方が記載されたが、第4期消費者基本計画には織り込まれなかったため、倫理的な消費者行動を促すための法制面の整備をはじめ、施策の実施が求められる。

  2. (2)国や地方自治体においては、消費者団体訴訟制度を効果的に運用するため、「被害回復」を行うことができる特定適格消費者団体の適切な認定による体制の強化や公的な活動をしているにもかかわらず予算や人的な配置が厳しい状況におかれている適格消費者団体の実情を踏まえた対応が求められる。また、消費者庁が設置されて12年が経過したにもかかわらず、消費者の身近な相談窓口となる消費生活センターの設置は1,116ヵ所に留まり、設置されていない市区町村が605ヵ所もある。(2021年度「地方消費者行政の現況調査」)地方自治体における人手不足や財源不足などの問題が背景にあることが指摘されており、地方消費者行政の財政基盤を強化し、消費生活相談員の大半を占める非正規職員の処遇改善と能力開発の機会の充実をはかることで、すべての市区町村に消費生活センターの設置を進める必要がある。

  3. (3)改正民法の施行により、2022年4月以降、成年年齢が18歳となった。これに伴い、保護者の同意がなくとも、クレジットカードの作成をはじめ、各種ローンやクレジット契約を締結できるようになった。一方で、これまでの未成年者取消権による保護の対象とはならなくなったが、若年消費者の保護を明確化した改正消費者契約法とあわせて、消費者庁、文部科学省、法務省、金融庁が連携し、消費生活センターの相談員による高等学校等での出前授業など、消費者教育の強化が求められる。

 

1.倫理的な消費者行動の促進に向けた施策を推進するとともに、消費者行政の組織体制の充実ならびに機能強化をはかる。

  1. (1)消費者による行き過ぎたクレームや迷惑行為などカスタマー・ハラスメントから労働者を守るため、厚生労働省の指針に定める事業主が講ずべき措置を法律に定める。

  2. (2)国・地方自治体は、倫理的な消費者行動を促進するための施策を推進する。

    ①「第4期消費者基本計画」を踏まえ、消費者と事業者との適切なコミュニケーションなど、倫理的な消費者行動を促す消費者教育や、雇用・労働を含む人や社会・環境などに配慮して消費者自らが行動するエシカル消費を促進する。

    ②持続可能なより良い消費社会の実現へ向けて、消費者・消費者団体、事業者・事業者団体、消費者庁等の関係機関が連携できるような枠組みを構築し、協働する。

    ③消費者が行うクレームや改善要望は、健全な消費活動の実現のために必要な行為であり、商品開発やサービス向上につながるため、積極的に受け止める。

    ④業界や企業に対し「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(厚生労働省作成)」を積極的に活用するよう周知に努めるとともに、防止マニュアルの作成や従業員教育などの実施に向けたガイドラインを作成・公表するよう働きかける。

  3. (3)国は、専門人材の確保・育成など、消費者行政の司令塔として消費者庁の機能強化をはかる。また、関係省庁、地方自治体との連携を十分にはかり、消費者行政の充実・発展につとめる。

    ①消費者基本計画を実効性あるものとするため、地方自治体との連携を強化する。

    ②消費者安全調査会は、消費者に関する重大な事故があった際には、関係省庁と連携し、事故原因究明、調査、再発防止、消費者への丁寧な説明などを行う。

    ③消費者委員会は、独立した第三者機関として機能強化をはかり、消費者行政に関する監視・提言につとめる。

    ④食品安全委員会は、科学的知見にもとづき客観的かつ中立公正にリスク評価を行う機関として機能強化をはかり、食品安全行政の充実につとめる。

    ⑤国民生活センターは、消費者のための中核的機関として、消費生活センターとの連携を通じて、消費者行政の充実につとめる。また、「全国消費生活情報ネットワーク・システム(PIO-NET)」による事故情報の一元的集約、分析、原因究明の体制強化をはかる。

    ⑥誰もがどこに住んでいても質の高い消費生活相談・消費者被害の救済を受けられるよう、地方消費者行政の体制整備、消費者被害に遭いやすい高齢者などの見守りネットワークを構築する地方自治体を支援する。

    ⑦「地方消費者行政の充実・強化のための指針」を踏まえ、「地方消費者行政活性化基金」などによる財源確保について留意するとともに、地方自治体の自立的かつ持続的な消費者行政の運営を可能とするための基盤整備を行う。

  4. (4)国・地方自治体は、地方消費者行政の推進に向け、多様な消費者の身近な相談窓口として、人口規模に関わらず、すべての市区町村に消費生活センターを設置する。
  5. (5)国・地方自治体は、特定適格消費者団体の適切な認定を行い、体制を強化するとともに、公的な活動をしているにもかかわらず運営面で厳しい状況に置かれている適格消費者団体に財政的・人的な支援を行う。

2.消費者の権利を守り、健全な消費行動の確保に向けた施策を推進する。

  1. (1)国・地方自治体は、食品をはじめとする商品・サービスの安全基準の設定や、重大事故情報報告・公表制度の運用の徹底、問題のある商品の回収ならびにサービスの差し止めなどに関する制度を整備し、消費者の生命・身体の安全を確保する。

    ①「事故情報データバンクシステム」を活用し、生命・身体にかかる消費生活上の事故情報などを収集・周知し、事故を防止する。

    ②商品・サービスの安全確保に関する事業者の責任を明確化したうえで、遵守に向けた啓発・支援を推進するとともに、違法な行為に対する厳正な措置を講ずる。

  2. (2)国・地方自治体は、消費者契約に関する各種制度の整備および適切な運営をはかり、消費者と事業者との公正な取引を確保する。

    ①不当な勧誘・契約によって消費者の財産上の利益を侵害することがないよう、消費者契約に関する制度を整備し、適切な運営をはかる。

    a)消費者契約に関して、消費者被害に関する裁判例、消費者相談の蓄積を踏まえ、調査・分析を行い、救済に向けた環境整備、消費者保護を強化する。

    b)改正「特定商取引法」の施行によるダークパターン(消費者を不利な決定に誘導する表記やサイト設計)への対応などについて改善効果を検証するとともに、訪問販売・通信販売・電話勧誘販売など特定商取引に対して、引き続きICTの進展に対応した消費者保護ルールの整備をはかる。

    c)「割賦販売法」「貸金業法」などの実効性を担保するとともに、多重債務問題などに関する実態の把握ならびに対策の充実をはかる。

    d)「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」の消費者へ周知徹底をはかる。

    ②取引に関する事業者の責任を明確化したうえで、遵守に向けた啓発・支援を推進するとともに、違法な行為に対する厳正な措置を講ずる。

  3. (3)国・地方自治体は、消費者の安全かつ適切な商品・サービス選択を確保する表示制度の整備・運用をはかる。

    ①食品表示に関する規定を一元化した「食品表示法」にもとづき、産地判別などへの科学的な分析手法の活用などにより、効果的かつ効率的な監視及び立入検査などの執行業務を通じて食品表示の適正化を担保する。

    ②食品表示制度は、消費者が適切に食品を選択するための機会の確保や、消費者のニーズに即した食品の生産の振興に資するよう国際基準との整合を進める。また、「不当景品類及び不当表示防止法」「外食の原産地表示ガイドライン」にもとづき、事業者に対する適正な表示に関する啓発・指導を強化し、外食におけるメニューなどの適切な表示を推進し、不正表示を一掃するとともに、食品表示ウオッチャー制度の継続・強化をはかる。

    ③加工食品の原料原産地表示の義務化については、実行可能性を確保しつつ、消費者にとって真に必要な情報が提供可能な表示方法を検討する。

    ④機能性表示制度については、消費者の健康被害が発生した場合や、事業者による虚偽の届出、消費者が誤解をする誇大な表示をした場合などに対し、届出の撤回と事業者に対する厳正な処分を行う。また、表示が妥当かどうか監視を行い、本制度の適正運営の周知徹底をはかる。

3.科学的根拠にもとづく食の安全を確保し、安心して食生活を営める環境を整備する。

  1. (1)国・地方自治体は、消費者基本法と基本計画をふまえ、科学的根拠にもとづくリスク分析を行い、生産地から食卓にわたる食品の安全性の確保・品質管理の徹底をはかるとともに、消費者に対する適切な情報提供を行う。

    ①TPP11の発効に伴い、表示義務のない外国産の遺伝子組み換え食品の増加や、低濃度・長期間摂取による影響も加味した適切な規制値の設定ならびに見直しを行い、身体への影響に関する研究の推進、含有濃度の実態調査、消費者に対する情報提供・摂食指導など、リスク低減のための対策を講じる。また、健康への懸念が示唆される物質については、予防的取り組み方法にもとづき、その情報を公開する。

    ②食品表示法にもとづくアレルギー表示や食品添加物表示について、飼料添加物中の不純物および分解・反応生成物に関する表示の徹底、適切な規制値の設定、摂取状況の調査と分析法の向上、検討過程を含めた消費者に対する情報公開など、安心・安全の確保に向けた取り組みを推進する。

    ③いわゆる健康食品など栄養機能食品制度(特定保健用食品・機能性表示食品・栄養機能食品)は、製造管理・品質管理の徹底、身体への影響に関する研究の推進、健康被害の情報収集・分析、消費者に対する情報公開・摂食指導など、安全確保に向けた取り組みを推進する。

    ④遺伝子組換え食品・動物用医薬品の原料生産に用いる遺伝子組み換え微生物については、安全性に関する審査の徹底、身体や環境への影響に関する研究の推進、流通管理の徹底、消費者に対する情報提供や適切な表示など、安全確保に向けた取り組みを推進する。

  2. (2)国・地方自治体は、食中毒をはじめとする食品事故などの未然防止と、発生時の拡大防止・原因究明に向けた食品衛生監視の体制を強化するとともに、消費者への適切な情報提供を徹底する。

    ①フードディフェンスの考え方を踏まえた衛生管理システム強化によるHACCP導入、GAPやGMPの導入に向けた環境整備、実効性を慎重に考慮したトレーサビリティの拡大などを通じて、食の安全・安心の確保に資するフードチェーンを確立する。衛生・品質管理システム導入などを担う人材育成や、消費者理解を促進するための取り組みを推進する。

    ②食中毒事件の被害拡大防止に必要な原因究明を行うとともに、対策事例を共有し、細菌・ウイルス・動物性自然毒・植物性自然毒などに関する疫学調査を支援する。

    ③食品防御の考え方と対策を周知し、危機管理などに関する取り組みを促進する。法令遵守の徹底や食品事故対応マニュアルの整備などを促す取り組みを継続する。

  3. (3)国は、「食品安全基本法」を、国・地方自治体および食品関連事業者の責務ならびに消費者の役割を明らかにする法律から、消費者の権利を保障する法体系に改める。
  4. (4)国は、「食品衛生法」で規定されている食品等事業者の販売食品および原材料等の安全性確保のための必要な知識・技術の習得や検査などの措置を義務規定とする。
  5. (5)国は、食品ロスの削減を推進する。また、食品関連事業者における消費期限・賞味期限の適切な設定ならびに流通現場における納入期限・販売期限に関する運用ルール(「三分の一ルール」)の見直しを促進する。

 

4.悪質商法などによる消費者被害の防止と救済に向け、消費者教育や情報提供を強化する。

  1. (1)国・地方自治体は、不当な取引や表示などに関する消費者への情報提供・注意喚起、被害の回復・救済および苦情処理、事業者に対する監視・指導強化、悪質な行為に対する罰則の強化などをはかり悪質商法から消費者を保護する。
    ①社会問題化している各種特殊詐欺(振り込め詐欺など)、個人間取引による消費者同士のトラブル、災害に便乗した火災保険金の請求代行に関する悪質商法などについて、消費者に対する情報提供・注意喚起を行い、被害の未然防止をはかる。
    ②新手の悪質商法については、手口や形態を迅速に把握し、省庁間で情報の共有化を進めて適切な措置をはかるとともに、消費者に対する情報提供・注意喚起を行う。
    ③適格消費者団体による消費者団体訴訟制度の適切な運用により、消費者被害の未然防止・拡大防止をはかるとともに、集団的消費者被害回復にかかる訴訟制度を通じて、被害者救済のための環境整備をはかる。
    ④裁判外紛争処理手続(ADR)の機能強化を通じて、消費者の苦情を適切かつ迅速に処理する。
  1. (2)国は、事業者内部の労働者からの通報が阻害されないよう、「公益通報者保護制度」について政府のガイドラインの活用や労使協議の促進などを通じて、制度の周知と普及、および適切な運用を徹底させる。また、通報者に不利益取扱い(報復)を行った企業に対する行政措置や刑事罰の導入、通報を理由とすることの立証責任の事業者側への転換など、通報者の保護・救済の強化につながる法改正を行う。(「産業政策」4.より再掲)
  2. (3)国は、「個人情報保護法」の円滑な運用をはかり、個人情報の適切な取り扱いの推進をはかるとともに、個人情報漏洩事故の未然防止のために事業者等に対する啓発・支援を推進する。
  3. (4)国・地方自治体は、消費者被害に遭いやすい高齢者や子ども、障がい者などに配慮しつつ、被害の未然防止・拡大防止をはかるとともに相談体制を強化する。
  4. (5)国・地方自治体は、若年者から高齢者まであらゆる世代に対して、社会保障、金融経済、生活設計、財やサービスの価値に対する正しい理解、食品ロスの削減、食の安全の推進、事業者との適切なコミュニケーションのとり方、消費者志向経営のあり方、労働者問題を含む持続可能なエシカル消費などに関する消費者教育を実施する。また、大規模災害やウイルス感染拡大時は、判断力の低下など一時的に消費者のぜい弱性が高まるため、契約や購買時などに冷静な消費行動を促すよう情報提供を行う。

    ①消費者被害・トラブルに関する相談ダイヤル「消費者ホットライン188」の認知率を向上させるために、広報活動を強化する。

    ②改正民法の施行により新たに成年となった18歳・19歳はもとより、若年者の知識や経験の不足に乗じた悪徳商法による消費者被害を防止するため、悪意ある事業者に対する規制強化や違法行為への罰則強化をはかる。また、被害の未然防止のため、学校への出前講座などにより、消費者教育を強化する。

    ③「消費者教育推進法」にもとづき、行政、教育機関、民間企業、労働組合など多様な主体の参画により、消費者教育に関する方針や計画を策定し実施する。

    ④消費者教育の担い手となる専門人材を確保・養成する。

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