6.民主主義の基盤強化と国民の権利保障(人権・平等政策)

人権・平等政策<背景と考え方>

  1. (1)人種、民族、宗教、肌の色、性別、年齢、疾病、障害、門地、性的指向・性自認等による人権侵害はいまだに続いている。また、近年では特定の人種や民族に対し憎しみをあおるような差別的表現、すなわちヘイトスピーチやインターネット上で知らない間に行われている差別拡散などによる悪質な人権侵害が横行しており、大きな社会問題となっている。
  2. (2)日本国憲法第13条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と規定している。国に対しては、人権の尊重を国政上の最重要課題として扱うことが要求されているが、公権力による人権侵害、私人間における人権侵害のいずれに対しても、十分かつ迅速な解決と救済は保障されていない。
  3. (3)民主党政権時の2012年11月、「人権委員会設置法案」ならびに「人権擁護委員法の一部を改正する法律案」が国会に提出されたが、審議に入れず廃案となった。一方、自民党は、人権委員会設置に対して反対の姿勢を明確に示しており、「個別法」で対応するとしている。2016年には「障害者差別解消法」、「ヘイトスピーチ解消法」および「部落差別解消推進法」など、差別禁止に関する法律が制定されたが、法の実効性に欠けるため、地方自治体での条例制定など法の具体化に向けた取り組みや差別禁止を含む包括的な人権侵害救済法(仮称)の制定など、救済制度や国内人権委員会の創設が急務である。
     なお、インターネット上の誹謗中傷などによる権利侵害について、より円滑に被害者救済をはかるため、発信者情報開示について新たな裁判手続(非訟手続)の創設などを盛り込んだ、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律」(改正プロバイダ責任制限法)が2021年4月に公布され、2022年10月1日に施行された。
  4. (4)日本人拉致問題について、日朝政府は、再調査の実施および拉致被害者を含むすべての日本人に関する包括的調査を行う特別調査委員会を設置することで合意したが(2014年5月「ストックホルム合意」)、2016年2月12日、北朝鮮は特別調査委員会を解体すると一方的に宣言した。その後、何ら進展がない中、2021年8月現在、政府が認定している日本人拉致被害者17名のうち、帰国者はわずか5名にとどまり、拉致の可能性を排除できない行方不明者は2021年11月現在、800名以上にのぼっている。

     

1.人権侵害を廃絶するため、人権侵害への救済制度を確立し、差別を許さない社会づくりを推進する。

  1. (1)国は人権侵害に対する十分かつ迅速な解決と救済を目的とする「人権侵害救済法(仮称)」を早期に制定し、人権救済機関を設置する。

    ①人権侵害救済法(仮称)は、人権侵害を受けた被害者の救済を目的とし、人種、民族、信条、性別、年齢、社会的身分、障害などを含むものとする。

    ②人権救済機関については、政府からの独立性を担保した人権委員会を設置する。

    ③人権委員会については、我が国における人権侵害に対する救済・予防、人権啓発のほか、国民の人権擁護に関する施策を総合的に推進し、政府に対して国内の人権状況に関する意見を提出することなどをその任務とする。

  2. (2)国は就職差別の廃絶へ向け、応募採用の実態把握を行い企業への指導を強化するとともに、ILO111号条約を早期に批准する。

    ①「職業安定法第5条の4、および大臣指針」「男女雇用機会均等法」「統一応募用紙」の趣旨を各事業所に周知徹底するため、さらに創意工夫を加え、啓発・指導を強化する。

    ②文部科学省および高校、大学などと協力して、「受験結果報告書」用紙の収集など各地の取り組みの実態を具体的に把握するとともに、「報告書」用紙の参考例または好事例を示し、特に大卒者の取り組みの全国化と充実をはかる。また、事業所独自の「エントリーシート」の項目についての点検も強化する。

    ③応募時における健康診断の実施や健康診断書の提出について、事業主に対して啓発、指導を強化するとともに、業務遂行に必要な特定職種の場合に限定されるよう啓発、指導を徹底する。

    ④取り組みの遅れている地方自治体や小規模事業所などに対して啓発活動の強化などの対策を講じる。

    ⑤採用における差別を禁止する法整備をおこない、ILO111号条約を早期に批准する。

  3. (3)国は北朝鮮による日本人拉致事件を早期に解決する。
  4. (4)国はすべての被爆者を対象に、国家補償に基づく被爆者支援を実現する。(「被爆者援護政策」より再掲
  5. (5)国は差別やえん罪のない安心して働ける社会に向けて積極的に取り組む。
  6. (6)国は「障害者差別解消推進法」、「ヘイトスピーチ解消法」および「部落差別解消法」について、法の実効性の確保に向けて必要な法改正等に取り組む。

2.政府は、グローバル化の進展に伴って増加する人権擁護など諸課題への対応を強化する。

  1. (1)「人身取引対策行動計画2014」などに基づき、労働搾取の防止、人身取引被害者の保護・未然防止と被害者支援の強化に努める。また、ILO「1930年の強制労働条約の2014年の議定書」を批准する。(「国際政策」より再掲
  2. (2)真に保護するべき難民に対する保護強化の観点から、難民条約等国際的な理念に則り、難民認定制度や運用を改善し、包括的保護制度を確立する。また、第三国定住の拡大および「難民保護法」の制定を目指し、早急に検討を進める。(「国際政策」より再掲)

3.人権を冒とくする性の商品化や暴力を許さない社会づくりを推進する。(「男女平等政策」 より再掲)

  1. (1)政府は「第5次男女共同参画基本計画」(2020年12月決定)の「第5分野 女性に対するあらゆる暴力の根絶」に記載されている施策について迅速かつ着実に実行する。
  2. (2)女性に対するあらゆる暴力(パートナーからの暴力(DV))、性犯罪、売買春、ストーカー行為、セクシュアル・ハラスメントなどを根絶するため、「女性に対する暴力をなくす運動」(毎年11月12日から女性に対する暴力撤廃国際デーである11月25日までの期間、内閣府男女共同参画推進本部)を中心に、社会認識の徹底、意識啓発や情報周知などの充実をはかる。また、商業的な目的で行われる未成年の性的搾取に対する規制を強化するとともに、偽装請負に対する取り締まりなど性的搾取を防ぐための監視と査察のプログラムを強化する、「親子断絶防止法」の制定や離婚別居後の子の居所指定に関連する法改正については、配偶者からの精神的・身体的暴力が深刻なケースにおいて、被害者や子どもの安心・安全が脅かされる恐れがあるために慎重に検討する、ストーカー対策においては、加害者への説得を行える体制を地域ごとに整備するなど、性の商品化や暴力への対策を講じる。
  3. (3)性の商品化や暴力を許さない社会づくりに向け、包括的な「性暴力等被害者支援法」を制定する。

    ①法の目的を性暴力、売春、虐待等様々な困難を抱える女性等や同伴する子どもをはじめとする被害者が、尊厳を回復し、基本的人権が尊重される旨を記載する。

    ②基本理念に、女性等や同伴する子どもをはじめとする被害者の人権と自己決定を尊重し、困難からの自立に向けた切れ目のない支援を明記する。

    ③法は困難からの自立に向け支援を必要とするすべての女性等や同伴する子どもをはじめとする被害者を対象とし、従来の相談、一時保護、施設利用に加えて就労支援など地域生活における中長期支援を含む。

    ④関係機関の連携により、個々の事情に応じた支援を行う。

    ⑤医療費・検査費用等は公費負担とする。

    ⑥専門性の確保や人権への配慮、プライバシー保護の担保のため、関係機関等は研修等を実施する。

    ⑦広く暴力被害等に関する教育・啓発を実施する。

  4. (4)「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」について、緊急保護命令違反に対する罰則強化、デートDV(恋愛カップル間暴力)被害者保護、対象に同性カップルなどあらゆる形態の家族を含めることや、加害者を自宅から出て行かせる別居命令、暴力を受ける子どもへの単独の保護命令を可能とすることなどの見直しを行う。
  5. (5)国および地方自治体は、性別にかかわらずすべての暴力(性犯罪、性暴力、DVなど)の被害者の支援体制の充実をはかる。

    ①配偶者などからの暴力相談支援センター機能を充実し、全市区町村での設置を促進する。

    a)相談、緊急時の一時保護、居住施設の確保、保護命令制度の周知徹底など、婦人相談所の相談保護体制の強化と全政令指定都市への設置など、施設整備の充実をはかるとともに、全市区町村に婦人相談員等の相談窓口の設置を進める。

    b)婦人相談員の専門性の向上と雇用の安定をはかり、心理療法担当職員の増員、医療機関との連携など緊急一時保護体制を強化する。

    c)官民の資源を活用した被害者保護の受け皿づくりを進め、母子生活支援施設や民間シェルターなどがDV被害者への安定した支援を行うよう連携強化する。

    d)保護された母子への心理的ケアの充実をはかるため、児童家庭支援センターや児童相談所との連携をはかる。保護期間中は通学できない同伴児童のために学習指導員の配置を行う。

    ②性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターを全国に設置し、性犯罪・性暴力被害者の保護と支援の受け皿づくりを促進する。

    a)性犯罪被害者のニーズに寄り添った支援を実施するため、二次被害を受けることなく1カ所で法的・医学的(心身両面)・心理的・社会的支援を受けることができるワンストップ機能を確立する。

    b)医療関係者、弁護士、臨床心理士、ソーシャルワーカー、支援者、NPOなど、地域で活用できる資源を結集し、24 時間対応可能な緊急保護体制を整備する。

    ③外国人に対する通訳や在留資格手続きなどの支援を進める。

    ④女性警察官の増員など、関係各機関における女性担当者の増員や、相談担当者に対する研修の実施など、二次的被害の防止をはかる。

    ⑤性犯罪・性暴力の専門的知識を有する司法へのアクセスを確立する。

  6. (6)加害者には、適切な更正プログラムを受講させるなど、再発防止の体制を確立する。
  7. (7)国は、人権擁護の観点から、人身売買(トラフィッキング)について、以下の取り組みを実施する。

    ①「人身取引対策行動計画2014」にもとづき、未然防止策を強化する。

    ②2014年7月に出された「国連自由権規約委員会」勧告を踏まえ、人権に配慮した被害者の保護と帰国、再定住までのきめこまかなフォロー体制を構築する。

    ③被害者支援の強化に向け、民間シェルターなどへの積極的な支援を行う。

  8. (8)国は、性犯罪、性暴力被害者の人権擁護を強化する。

    ①性暴力被害者の人権擁護の強化、二次的被害を受けないよう事件の立証のあり方について改善するため、いわゆる「レイプシールド」(注3)を被害者の権利として法制化する。

    ②教職員、警察官、婦人相談員、人権擁護委員、民生委員、児童委員、家庭裁判所調停員、裁判官などの対応者側に、セクシュアル・ハラスメント、配偶者から の暴力、つきまとい行為(ストーカー行為)、児童虐待などについての理解を深める研修と最新の情報提供を行う。

    ③被害者の人権擁護の強化をはかるために、「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(リベンジポルノ法)」の法改正を早期に実現する。

    ④性犯罪の事実認定における暴行・脅迫要件を削除し、国連女性差別撤廃委員会の勧告にもとづき、対象に配偶者の強姦も含めるものとする。

    ⑤性犯罪・性暴力被害に対する予防教育を関係機関が連携して取り組むよう改善する。

  9. (9)「児童買春、児童ポルノ禁止法」の確実な履行と施設の充実をはかるため、中央・地方行政は、子どもの人権に関する相談・一時保護・広報などを行う窓口または支援センターなどを設置する。
  10. (10)子どもを有害情報(性の商品化、暴力表現など)から保護するために、報道・表現の自由に留意しつつ、放送・新聞・出版などマスメディアに対して、自主的な規制機関の設置 や機能の充実を強く求め、受け手側から苦情や意見の申し立てが簡便にできる仕組みを提 供させる。インターネット上の「子どもポルノ」など有害情報を排除する対策を講じ、子どもの商業的性的搾取に関する取り組みを強化する。「ネット上のいじめ問題」への対策を強化する。また、子ども自身のメディア・リテラシー(注4)向上のための支援を積極的に行う。
  1. (注3)レイプシールド ~犯罪事実とは無関係の被害者の過去の性遍歴等を暴いたり、証拠として提示することを禁止することについて、アメリカをはじめ欧米各国で法整備されているが、日本では未整備。
  2. (注4)メディア・リテラシー ~メディアからもたらされる膨大な情報を、各人が無批判に受け入れるのではなく、批判的に読み解く力をつけること。

 

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