- (1)わが国では、超少子高齢化や人口減少が進行するとともに、都市部と山間部、内陸部と沿岸部など、地域間だけでなく、地域内での二極化が進む一方で、地域で求められる公共サービスも多様化している。また、リーマンショックを契機とする経済危機からの回復過程や東日本大震災からの復興過程の中では、それまでの行き過ぎた経済効率の追求が、ソーシャル・キャピタル(注1)の減少をもたらし、そのことが地域経済、地域社会に様々な負の影響を与えたことが明らかになっている。
- (2)社会経済が成熟し、大きく右肩上がりの成長が期待できない中で、上記のような本質的課題を克服するためには、政府・地方自治体だけでなく、地域の民間事業者、NPOなどが持つ知的・人的資源を有効に活用することが重要である。そのためにも、地域住民の参加のもと、NPOや企業等の多様な主体が当事者としての自覚と責任を持ち、協働・共助に取り組むことで、支え合いと活気ある社会をつくる「新しい公共」を推進する必要がある。
- (3)また、限られた財源の中で、住民のための公共サービスを維持・向上させるためには、行政改革を積極的に推進する必要があるが、その一方で、行政の透明性の確保、安心・安全のためのセーフティネットの確保を前提としながら、効率的で質の高い公共サービスを実現することが求められる。そのためには、それを担う「人と組織の改革」を行わなければならないが、まずもって、国際基準から大きく逸脱している公務員の労働基本権を取り戻すことが必要である。わが国の公務員の労働基本権については、これまでILOから11度もの勧告を受けていることを踏まえ、自律的労使関係が確立されるまでの間、国、地方自治体は労働基本権制約の代償措置たる人事院・人事委員会勧告制度を尊重することが必要である。国民本位の行政を行うためには、引き続き政府に対し、透明で公正な公務員制度改革を求めていかなければならない。
- (4)規制改革にあたっては、「雇用の安定」「消費者保護」「公平・公正な競争条件の確保」を前提とし、そのメリット・デメリットを慎重に見極め、行き過ぎた規制緩和にならないよう、雇用のセーフティネット、国民への安心・安全を保障する必要がある。
- (5)司法制度についてはこれまで「労働審判制度」や「裁判員制度」が実施されるなど、国民が参加することでより良い制度となるよう改革が進んできた。また、2016年5月には刑事訴訟法が改正され、冤罪を防止する観点から一部事件に限って被疑者取り調べの過程の録画が義務づけられた。今後、わが国の司法制度が国民の信頼を得つつ、増加するニーズに応えるためには、引き続き制度を充実させることが求められている。
- (注1)ソーシャル・キャピタル(Social capital)~社会関係資本と訳される事が多い。OECDでは、「グループ内部またはグループ間での協力を容易にする共通の規範や価値観、理解をもったネットワーク」と定義される。地域社会においては、住民同士の信頼関係や良好な人間関係のもとで、相互の協調行動や行政とのパートナーシップが活発になるほど、豊かな社会を形成できるとされる。日本では、東日本大震災の復興過程において、地域のつながりや絆の重要性が指摘され、注目が高まった。