1 .持続可能で健全な経済の発展(税制改革)

税制改革<背景と考え方>

  1. (1)新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、わが国のセーフティネットの脆弱性が改めて浮き彫りとなるとともに、従前からの税財政の危機的状況は、緊急対応としての巨額の国債発行により、さらに深刻化している。税制面においては、所得再分配機能の強化、社会保障・教育の安定財源確保に向けた改革、企業の社会的責任に見合った法人税・社会保険料負担のあり方、働き方やライフスタイルなどにおける価値観の多様化など従来からの課題に加え、デジタル化や脱炭素社会の推進による産業構造の転換、with/afterコロナ社会における不確実性への備えなどへの対応が求められている。
  2. (2)貧困の固定化と格差の拡大がこれまで以上に進む中、所得再分配機能の強化に向けた所得税改革は喫緊の課題である。与党大綱においてここ数年「検討課題」とされながら見送られている「金融所得課税の強化」や、「所得税の人的控除の見直し」など、抜本的な見直しが必要である。
  3. (3)今後、社会保障給付費のさらなる増大が見込まれる中、連合が掲げる社会保障制度・教育制度を実現していくためには政府推計を上回る費用がより早い時点で必要となる。これまで「社会保障の安定財源」として位置付けていた消費税のあり方を含め、財源調達機能の強化を念頭に置いた税制全体の抜本改革は不可避であり、将来世代への負担の付け回しに歯止めをかけ、国民のくらしと将来の希望を確かなものにすべく、議論の深掘りが必要である。
  4. (4)連合は、2019年6月に「働くことを軸とする安心社会」の実現に向けた税制のあり方として「税制改革構想(第4次)」を確認した。次の世代に持続可能で包摂的な社会を引き継いでいくためにも、同構想の基本理念である「公平・連帯・納得」の税制改革の実現が求められる。

1.政府は、納税者の理解・関心・納得に資する税制を実現する。

  1. (1)納税者の権利と義務をわかりやすく明示した「納税者権利憲章(仮称)」をつくるとともに、給与所得者に対しても、申告納税制度と年末調整制度との選択を認める。
  2. (2)行政手続きのデジタル化と税・社会保障の連携をはかるべく、マイナポータルを活用した「記入済み申告制度」の普及など、確定申告手続きの簡素化と利便性向上をはかる。
  3. (3)税のもつ意義・目的や主権者たる納税者の権利・義務についての租税教育を充実させ、学校教育の場で広く実施する。
  4. (4)税の使途に関する情報、中央・地方の財務の実態(債務残高など)、審議会や政党(とくに与党)における税制改正にかかわる議論経過の公開など、国民・納税者が税の使途を理解するのに必要な情報の開示を徹底する。
  5. (5)納税者の立場に立ち、裁判所への直接訴訟を認めるなど、不服申し立て制度を見直す。
  6. (6)税務通達を極力法令化するなど、通達行政の不透明性を是正する。
  7. (7)低所得者対策および有事における迅速かつ適切な給付のためのインフラとして、マイナンバー制度の活用により制度設計が可能となる給付付き税額控除を導入する。(注1)
  8. (8)「国税電子申告・納税システム(e-Tax)」と全自治体での「地方税ポータルシステム(eLTAX)」の一層の普及と利便性向上をはかるとともに、税制上のメリットを与える。
  9. (9)適正な税務執行をはかるため、ICTやAIの活用を進めることで所得把握や徴税業務の効率化をはかるとともに、必要な税務職員の人員数を確保し、その専門能力を高める。
  10. (10)報酬、料金等の支払調書について、本人への交付を義務づける。
  11. (11)公平な納税義務を確保するため、総収入申告義務の強化、脱税等の違反に対する罰則強化など、申告納税の環境を整備する。
  12. (12)各国と租税条約を締結し、租税に関する国際的な情報交換・監視体制を整備し、租税回避を防止するとともに、司法・警察と連携し、マネーロンダリングなどの犯罪撲滅にも役立てる。
  13. (13)デジタル経済における個人間取引やプラットフォームビジネスが進展する中、フリーランス等曖昧な雇用で働く労働者に対するセーフティーネットの提供に向け、マイナンバー制度を活用し、プラットフォーム事業者から税務当局への情報提供制度など、適切な所得把握と課税制度を構築する。
  14. (14)所得捕捉の適正化に向けて、所得捕捉率の実態調査を定期的に実施し、その結果を公表する。
  1. (注1)給付付き税額控除~給付付き税額控除とは、個人所得課税において税額控除を導入し、その控除額が引ききれなかった場合に「負の所得税」を給付する仕組みである。「負の所得税」を給付することで、課税最低限以下の層を含めた所得再分配が可能となる。
  • 「就労支援給付制度」のイメージ
    給与収入55~200万円で社会保険料・雇用保険料を負担している雇用労働者(約1500万人)に対し、社会保険料・雇用保険料(給与の約14%)の半額に相当する金額を所得税から控除する。給与収入200万円から徐々に低減し、250万円で消失する措置もあわせて講じる(対象者約600万人)。必要財源は1.5~2兆円程度を想定。
  • 「消費税還付制度」のイメージ
    合計所得が課税最低限の人(4000万人程度)に対し、扶養者数に応じて、最低限の基礎的消費にかかる消費税負担相当分を定額で給付する。課税最低限の水準から徐々に低減し、消失する措置もあわせて講じる。必要財源は、消費税に換算した場合で税収の1割弱程度を想定。

 

2.政府は、所得再分配機能の強化や、社会保障制度などの構築に必要な安定財源の確保に向け、税制全体を抜本的に改革する。

  1. (1)政府は、所得税を再構築し、所得再分配機能と財源調達機能を高める。

    ①利子・配当、株式等譲渡益の分離課税制度を廃止し、資産性所得を含めて所得課税を総合課税化する。「金融所得課税の一体化」は、総合課税化を条件とする。それまでの間は、金融所得にかかる税率を30%に引き上げるとともに、税率構造を段階化する。あわせて、租税回避措置を講じる。

    ②将来的な総合課税化実現の前提となる金融所得を含めた正確な所得捕捉の実現に向け、国民が開設する全ての預貯金口座とマイナンバーの紐付けを行う。

    ③人的控除は、できるだけ社会保障給付や各種支援施策等に振り替える。残すものは所得控除から税額控除に変えることを基本とする。

    a)基礎控除は、基礎税額控除に変える(所得税4.8万円/人、住民税4.3万円/人)。

    b)配偶者控除は、扶養税額控除に整理統合する。

    c)成年扶養控除は、扶養税額控除(所得税3.8万円/人、住民税3.3万円/人。平均所得(給与所得400万円程度)以下に対象を限定)に変える。税収の増加分は、就労支援や子育て支援等の財源とする。同居特別障害者加算は、障害者福祉手当の増額に振り替える。

    d)特定扶養控除は、扶養税額控除と教育費税額控除(新設:所得税:2.5万円/人、住民税:1.2万円/人)に分割する。新設する教育費税額控除は、大学、専門学校等に通う扶養者がいる場合、所得制限、年齢制限を設けずに適用する。

    e)平均所得以下の層に限定して、被扶養者が扶養から外れる際に生じる世帯での「手取りの逆転現象」を調整するため、現状の配偶者特別控除に準じた措置を講じる。

    f)勤労学生控除、老人扶養親族控除(70歳以上)、同居老親等加算、障害者控除、寡婦・寡夫控除は税額控除に変える。

    ④所得税の税率を5%ずつ、最高税率から段階的に引き上げる。当面、現行税率45%ブラケットを50%に、40%ブラケットを45%に、33%ブラケットを38%に引き上げる。

    ⑤低所得雇用者の社会保険料・雇用保険料(労働者負担分)の半額に相当する金額を所得税から控除する仕組み(就労支援給付制度)を導入する。(注1)

    ⑥課税最低限以下の層を中心に消費税の逆進性対策として、最低限の基礎的消費にかかる消費税負担分を給付する制度(消費税還付制度)を導入する。(注1)

    ⑦特定支出控除の控除対象基準(給与所得控除額の2分の1)を引き下げて申告納税の機会を拡大するとともに、給与所得者の必要経費の実情およびテレワーク等の進展に合わせて、職務上の慶弔費・自動車関係費、能力開発のための費用、周辺機器を含めたパソコン購入費、通信費、書籍購入費、労働組合費等を対象項目として追加・拡大する。

    ⑧テレワークにかかる費用を一旦労働者が負担し、後日手当で支払われる場合、通勤手当のように非課税にするなど、税制上の取り扱いについて検討する。

    ⑨単身赴任者の帰宅旅費については、本人の必要経費であり、通勤手当と合算のうえ、通勤費の非課税限度額(月額15万円)までは非課税とする。

    ⑩年俸制や派遣労働の通勤にかかる交通費実費は、納税者の申告にもとづき非課税とする。

    ⑪退職金控除は、働き方によって不利が生じないよう、勤続1年あたりの控除額を一律(年60万円)とする。

    ⑫医療費控除は、適用の下限額(10万円または総所得額の5%のいずれか低い方)を堅持する。

    ⑬日本国内に住所を有しているが、職業上の理由により、1年の大半を日本で居住していない者を「準居住者」とし、所得税・住民税の軽減をはかる。

    ⑭医師の社会保険診療報酬の特例(概算経費率による必要経費の計算特例)は廃止する。

  2. (2)政府は、資産課税を強化し、資産の再分配機能を回復・強化する。

    ①相続税の基礎控除を引き下げ、2,000万円+400万円×法定相続人数とする。なお、基礎控除の引き下げによる相続税の課税対象者の拡大を注視しつつ、必要に応じて死亡保険金の現行の相続税非課税限度額の拡充を検討する。

    ②相続税および贈与税の最高税率の引上げなど、累進性を高める税率構造の見直しを行う。

    ③直系尊属から子・孫に対する住宅、教育、結婚・子育て資金の一括贈与を非課税とする贈与税の特例措置については、資産を有する者ほど有利な制度であることから、制度廃止を基本とし、家族内の承継ではなく寄付の促進など社会への還元を促す方策を検討する。

    ④小規模宅地等の課税特例(相続した住居に引き続き住み続ける場合、330㎡まで評価額を80%減額する措置)は継続する。事業承継税制は、現行制度を維持する。

    ⑤現行の相続時精算課税制度は、将来的には一生累積課税方式(生前贈与を一生にわたって累積課税し、最終的には相続時に相続税と合わせて課税する方法)とする。

    ⑥土地基本法の理念に沿って、保有段階の安定的な課税を基軸に、経済状況に応じた譲渡・取得段階の課税を弾力的に組み合わせることで、地方税収の安定化と土地の有効活用促進をはかる。

    ⑦地価税は、性格・役割(資産課税や土地政策面)を踏まえて、その基本的枠組みを維持し、地価の上昇率が2桁を超えるまで凍結を維持する。

    ⑧土地等の譲渡に関する税制の簡素化や国税、地方税等の課税標準となる土地の評価のあり方について検討する。コンパクトシティづくりの促進や市街化調整区域内の土地利用のあり方等に留意しつつ、租税特別措置を総点検し、課税ベースを拡大する。また、住宅にかかる登録免許税と不動産取得税のあり方について簡素化、地方財源化する方向で検討する。

  3. (3)政府は、消費税の逆進性対策として「給付付き税額控除」の仕組みを導入するとともに、持続可能で包摂的な社会保障制度・教育制度の構築に向けた財源として、将来的な消費税率のあり方を明確に示す。

    ①軽減税率制度の政策効果・運用状況につき、不断の検証を行うとともに、真に効果的・効率的な逆進性対策、および、有事における迅速かつ適切な給付のためのインフラ構築に向け、マイナンバー制度を活用した「給付付き税額控除」(消費税還付制度(注1))を導入する。

    ②持続可能で包摂的な社会保障制度・教育制度等の構築のための必要財源確保に向け、将来的には、「給付付き税額控除」など効果的・効率的かつ徹底した低所得者対策の導入を条件とした上で、消費税率を段階的に引き上げる。

    ③「期間を限定した消費税減税」について、有事の際は、一律の減税よりも真に支援を必要とする層に焦点を当てた施策が優先されるべき。

    ④次の世代が安心できる社会と健全な財政運営の実現に向け、国債の継続的な大量発行にもとづく財政運営や、それらに依存した消費税減税は行わない。

    ⑤2023年10月のインボイス制度導入に向け、特に中小企業における円滑な導入支援策を進める。

    ⑥簡易課税制度・法人の免税点は、廃止する。

    ⑦消費税の滞納防止のため、公共工事入札、備品調達の際にも納税証明書の添付を求める。

    ⑧ガソリン、酒、たばこ等の消費税における二重課税は、解消する。

    ⑨電子取引の増加等商慣行の変化に対応し、印紙税の課税対象を抜本的に見直す。

    ⑩納税者の消費税負担の理解浸透および滞納防止のため、消費税の小売り段階での表示は外税方式を原則とする。また、内税方式の場合は、価格表示や領収書に税額を明記する。

    ⑪消費税納税額の圧縮を目的とした正規雇用から派遣・請負への置き換えを防止するため、派遣労働、請負労働などの対価にかかる「消費税の仕入税額控除」について、そのあり方を見直す。

 

3.政府は、企業の社会的責任に見合った税負担の実現をはかる。

  1. (1)法人税率の引下げを行う場合には、引下げ分が企業における国内投資や雇用・所得の拡大に充てられることおよび代替財源の確保を大前提とする。また、過去に実施済の減税措置の政策効果を検証・公表する。
  2. (2)法人税の租税特別措置等は、政策手段として適切か、不断の見直しをはかる。また、租特透明化法にそって情報公開を行う。公表範囲について拡大する方向で検討する。
  3. (3)多国籍企業への国際課税について、課税対象や最低税率などを定めた「経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対する合意」を踏まえ、多国間条約の批准や国内法(法人税法)の改正などを行う。(注2)
  4. (4)いわゆる「法人成り」の問題等について、課税の適正化に向けた対策を強化する。(注3)
  5. (5)法人事業税については、外形標準課税(付加価値割)の法人事業税全体に占める割合を縮小させる。外形標準課税の適用範囲の拡大、税率、実施時期については、雇用や所得に与える影響および中小企業の業績回復の状況などを見極め、慎重に検討する。中小企業については、雇用安定控除を拡大する。そのうえで、外形標準による課税の考え方を維持しつつ、法人住民税などとの整理・統合を検討する。
  6. (6)欠損金の繰越控除については、現行の控除限度(控除前所得の5割)および控除可能期間(10年)を維持することを基本としつつ、コロナ禍による企業業績の落ち込みによる雇用への影響が長期化する恐れがあることも踏まえ、期間を限定し控除上限を緩和する。
  7. (7)中小企業の支援やディーセント・ワークを後押しする税制改革を行う。

    ①税法や各種制度ごとに異なる中小企業の定義について、対象範囲を拡大する方向で見直す。

    ②中小法人に対する法人税の軽減税率を基本税率の1/2の水準とする。

    ③「人材確保等促進税制」「中小企業向け『賃上げ促進税制』」の適用要件判定などで使用される「給与等支給総額」から、時間外・休日労働による支給額を除外する。

    ④中小企業に対する人材投資促進税制を復活させる。

    ⑤法定雇用率を上回って障がい者を雇用する企業、重度障がい者などを多数雇用している企業、障がい者の雇用促進と職場定着に資する設備投資を行う企業に対して法人事業税を減税する。

    ⑥事業拡大に伴い税制優遇措置の対象外となる場合、一定の猶予期間を設ける。

  1. (注2)2021年10月に「経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対する合意」が140カ国・地域が参加するBEPS(税源浸食と利益移転)包摂的枠組にて実現し、課税対象(全世界売上が200億ユーロ超、かつ、利益率が10%超のグローバル企業)や最低税率(実効税率ベースで15%)などが定められた。今後は合意にもとづき多国間条約の批准や国内法(法人税法)の改正などを行う必要がある。
  2. (注3)いわゆる「法人成り」の問題~個人事業者が所定の手続きを行い、株式会社等の法人に成り代わること。法人化により節税メリットが生じる場合が多いことから、個人事業者との間の課税不均衡の問題が指摘されている。

4.政府は、社会的課題に対応した公平で簡素な税制措置を行う。

  1. (1)NPO法人等の活動を支援する措置を強化する。

    ①NPO法人が行う介護サービス事業は、社会福祉法人の場合と同様、非課税とする。

    ②NPO法人についても、一般社団法人と同様に基金制度(出資金を債務でなく資産に計上できる仕組み)を使えるようにする。

    ③各自治体において、NPOなど市民活動団体を支援するため、自分の納税する住民税の一部について市町村を通じて寄附する仕組みを創設する。

    ④大規模自然災害の発生時における義援金や被災地支援を行うNPO法人などへの寄附金にかかる所得税、個人住民税、法人税の控除適用を迅速化するため、寄附金指定の仕組みを恒久化する。

    ⑤コミュニティ投資を含むESG投資に関する枠組みを整備し、税制上の措置も含め、普及・促進させる取り組みを検討する。

  2. (2)住宅関連の負担軽減措置として、下記の措置を講じる。

    ①住宅取得に要した借入金がある場合は各年の返済金にかかる利子相当額の、賃貸住宅に居住している場合は支払い家賃額の、それぞれ一定割合を各年分の所得税額から控除する、「家賃・ローン利子比例税額控除制度」を恒久措置として創設する。その際、一定の所得制限を設ける。

    ②新築住宅にかかる固定資産税の軽減期間を10年に延長する。

    ③個人住宅における耐震やバリアフリー、省エネのための改修工事と長期優良住宅に対する促進税制について、内容を拡充し、期間を延長する。

    ④現行の「住宅ローン減税」適用者が家族帯同で転居を伴う転勤をする場合は、減税措置を中断しないこととする。

    ⑤居住用財産の譲渡損失の繰越控除期間を5年に延長する。

  3. (3)退職後の所得確保などに向けて、中長期の資産形成を支援する税制の拡充をはかる。

    ①財形年金貯蓄および財形住宅貯蓄の利子非課税限度額(現行550万円)を1,000 万円に引き上げるとともに、公的年金支給開始年齢が65歳となることに対応し、契約締結時60 歳未満の労働者を対象とする。

    ②貯蓄額が利子非課税限度額を超えた場合の課税方法を、非課税貯蓄額を超えた部分のみに課税するよう改める。

    ③退職後の所得確保に向けて、公的年金や企業年金を補完する個人の資産形成努力に対する税制上の措置について、資産形成手段の多様化などを踏まえ、利便性向上や充実の観点からあり方を検討する。

    ④退職給付である企業年金と自助努力である個人年金は性格が異なるため、税制上の取扱いを区別する。その上で、企業年金は労使合意に基づいて行われるものであり、労使自治を尊重する制度とする。個人年金は、高所得者優遇とならないよう考慮しつつ、すべての人が自助努力への支援を公平に受けられるようにする。

  4. (4)国民が将来の不安に備え社会保障でカバーできない部分について行う自助努力に対して、税制での支援を積極的に拡充・改善する。そのため、遺族、年金、医療、介護、地震など自然災害の保障にかかる各種保険料控除の拡充をはかる。
  5. (5)自然災害の激甚化と生活再建の長期化を踏まえ、現行の雑損控除から自然災害による被害の損失にかかる控除を分離し、「災害損失控除(仮称)」を創設する。
  6. (6)障害者雇用助成金、特定求職者雇用開発助成金等の益金不算入等、雇用拡大を支援する。
  7. (7)雇用労働者の能力開発を促進させる観点から、研修・資格取得費用の負担を軽減する「自己啓発税額控除」を検討する。
  8. (8)デジタル・トランスフォーメーション(DX)など技術革新の対応をはじめ、企業におけるイノベーションの創出およびオープンイノベーションによる新たな価値創出に資する研究開発の強化をはかるため、研究開発税制の拡充をはかる。
  9. (9)自動車関係諸税を軽減・簡素化する抜本改革を行う。

    ①いわゆる「当分の間税率」を廃止する。また、課税根拠を失っている自動車重量税を廃止する。自動車の保有・走行に関わる税のあり方を抜本的に見直し、軽減・簡素化をはかる。税体系は、環境性能の高い自動車や安全で自由な移動の確保につながる自動運転車の開発・普及促進に資するものとし、物流・公共交通機関(バス・タクシー・トラック)および軽自動車に軽減措置を講じる方向で検討する。

    ②今後の次世代自動車(圧縮天然ガス(CNG)車、燃料電池車、電気自動車など)の普及状況、自動運転技術の進展、自動車シェアリングの動向、ならびに道路など社会インフラ維持や移動の自由を確保するために必要な費用分担のあり方を踏まえ、地方財政に配慮しつつ、保有・利用を通じた課税根拠や税率のあり方を総合的に整理し、自動車関係諸税の軽減・簡素化をはかる。

  10. (10)総合的な交通政策の視点から、物流・公共交通に対して、適切な税財政上の措置を講ずる。

    ①インフラ整備や事業運営についての国・地方・事業者等の責任と役割を明確にし、総合的な交通政策推進に資するよう、税と予算のあり方を見直す。

    ②政策目的を踏まえ、固定資産や燃料に関わる税の軽減措置等を講ずる。

  11. (11)大規模空港整備が終了した現在、その役割を終えた航空機燃料税を廃止・縮減する。
  12. (12)地球温暖化対策税については、以下の観点から、政策効果、国民負担の動向などを検証し、改善をはかる。
    • 国民生活への影響に対する配慮と特定の産業・企業に過度な負担とならないよう現実的な税制とする。
    • 化石燃料の最終消費段階で広く薄く負担をすることを基本とする。
    • 税収は、地球温暖化対策に資するエネルギー対策、技術開発等に使用し、雇用創出に結びつける。
    • 国内排出量取引制度等との二重の負担とならないよう調整する。
    • 原料用の石油・石炭等は非課税とする。
    • 物流・公共交通機関、農林漁業、石油化学産業等に負担軽減措置を講ずる。
    • 税負担の明示やCO2の見える化をはかり意識喚起を行う。
  13. (13)各種税制のグリーン化(環境への負荷を軽減するために政策誘導する税制)をはかる。既存の減税措置については、政策効果の検証にもとづき制度の見直しを行うとともに、必要に応じて適用要件の簡素化を行う。
  14. (14)既存の目的税・特定財源は、その目的に照らして、歳出内容を厳格に評価し、かつ、その役割や税の負担割合についても評価結果にしたがい、必要な見直しを行う。
  15. (15)地方自治体は、森林環境保全にかかる独自課税について、森林環境税および森林環境譲与税との二重課税とならないよう、住民の意見を踏まえつつ税収の使途や課税内容を見直す。
  16. (16)労働債権を公租公課より優先するものとするため、国税徴収法第19条に「一般先取特権を有する労働債権は国税より優先するものとする」ことを追加する。
  17. (17)国際レベルで資金の投機的な動きを抑制するため、金融取引税などの国際連帯税導入について、国内における合意形成と国際合意を早期にはかる。その税収は主に貧困撲滅や気候変動対策の財源として活用する。

 

5.国と地方は、地方分権にふさわしい地方税・財政をめざして改革を行う。

  1. (1)地域による偏りが少なく安定的な地方税体系とする。

    ①所得税改革と歩調を合わせ、地方住民税の人的控除を所得控除から税額控除にかえる。所得税の基礎税額控除の引き上げと歩調を合わせ、地方住民税の基礎税額控除(4.3万円→6.6万円)と税率(10%→11%)を見直す。

    ②地方分権に逆行する特別法人事業税および地方法人税の仕組みを廃止し、法人住民税(法人税割)および法人事業税(所得割)と消費税の税源交換を実施することについて検討する。

    ③法人事業税については、外形標準課税(付加価値割)の法人事業税全体に占める割合を縮小させる。外形標準課税の適用範囲の拡大、税率、実施時期については、雇用や所得に与える影響および中小企業の業績回復の状況などを見極め、慎重に検討する。中小企業については、雇用安定控除を拡大する。そのうえで、外形標準による課税の考え方を維持しつつ、法人住民税などとの整理・統合を検討する。

    ④税制改革全般について地方財政への影響に配慮し、必要な税財源を確保する。

  2. (2)財政調整機能と財源保障機能の両方を兼ね備えた地方交付税の仕組みとし、現行の交付税水準を維持・改善する。

    ①地方財政計画の仕組みを基本的に維持する。

    ②地方における社会保障などの財源不足への対応として、臨時財政対策債の発行に替えて地方交付税の法定率引き上げを検討する。

    ③国と地方の協議の場等を活用し、地方財政計画の策定や地方交付税算定を行うなど、決定プロセスの透明化をはかる。

  3. (3)既存の国庫補助金負担金制度について、公共事業等のための地方自治体の使い勝手の良い財源として国庫補助金の一括交付金化をはかるなどの改革を進める。このとき、社会保障や義務教育に係わる国庫補助負担金は、一括交付金化の対象としない。社会資本整備総合交付金、防災・安全交付金については、地方自治体におけるより自由度の高い活用に向けて不断に制度を見直す。
  4. (4)「ふるさと納税制度」については、本来寄附金は経済的利益の無償の供与であることに鑑み、過度な返礼品の規制や個人住民税の特例控除の段階的な縮減など、制度・運用の両面において実効性のある改善をはかる。また、ふるさと納税の理念を周知徹底して、納税者や地方自治体における適切な制度活用を促す。
  5. (5)住民のニーズをふまえ、住民の立場に立った公共サービスとなるよう不断の見直しを行う。それに伴う税負担等について情報発信し、租税教育を行う。
  6. (6)地方自治体の課税自主権の活用は、住民の行政参加を促し自治意識を高める観点から、基本的には尊重する。ただし、新たな税を創設する際には、①財政状況や行・財政改革の計画を明らかにし、課税の必要性についての説明責任を果たす、②住民(法人も含む)が意見反映できる機会を設ける、③既存の地方税との関係を整理する、ことを前提とする。
  7. (7)税法上の総所得が基準となる国民健康保険料や自治体の補助金について、税法改正により生活困窮者の連鎖的な負担増とならないよう措置を講じる。
  8. (8)法人事業税の診療報酬に対する非課税措置を見直す。

 

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