- (1)新型コロナウイルスの感染拡大は、わが国のデジタル化の遅れについて改めて国民に広く認識される契機となり、政府は、経済・産業におけるデジタル化の促進はもとより、2021年9月の「デジタル庁」創設をはじめ、行政や生活を含む社会全般における推進に向けた検討を行っている。今後、多くの領域においてAI、IoT、ICTなどデジタル技術の利活用が進展し、経済・社会・産業全般における「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」は加速化していくことが想定される。
- (2)デジタル技術の利活用によるDXの推進は、経済産業省などが掲げる持続的な経済成長や国際競争力の向上に向けた、生産性向上などの産業・事業活動面の変革はもとより、働く者・生活者の視点からあらゆる社会基盤においてその必要性は高まっている。デジタル・ガバメントの実現による利便性向上や包摂的なセーフティネットの構築、多発する自然災害への対応、医療や教育などの現場におけるICT技術の活用など、国民生活に関わる様々な分野におけるDXの推進は、持続可能な社会への構造変革につなげるという観点からも重要な課題である。
- (3)一方、サイバー攻撃やICTなどを利用した犯罪が深刻化するとともに、AIなどの活用に関し、プライバシー等の人権侵害、セキュリティの安全性、データやアルゴリズムの不利益など倫理的課題をはじめとする諸課題の存在も指摘されている。デジタル化の健全な進展と安心・安全で信頼性のあるAIの社会実装に向け、政府には、徹底した個人情報保護策はもとより、こうした課題への対応を強化することも重要である。
- (4)AI、IoT、ICTなどデジタル技術の利活用によるDXの進展は、新たな産業・事業による雇用創出や、業務の効率化などによる労働力不足の緩和に繋がることが期待される一方、産業構造や労働市場において、労働力需給の変化による雇用喪失や大規模な労働移動など、様々な変化が起ることが想定される。「誰一人取り残されることのない社会の実現」に向け、こうした産業構造の大きな転換期においては、失業なき労働移動を可能にするとともに、格差の拡大が助長されることの無いよう、ディーセント・ワークを維持しながら全体の底上げをはかるなど、雇用など社会・経済への負の影響を最小限にとどめる「公正な移行」を実現する必要があり、具体的な対応策を検討するための労使参画の枠組みの構築や、企業の職業能力開発に対する支援などが必要である。また、デジタル技術の利活用促進とDXの加速化に向けては、継続的なデジタルデバイド(注1)対策の徹底が必要不可欠である。加えて、国民一人ひとりが日常生活にあふれる情報と適切に向き合い、情報を扱う能力を身につけるための教育も必要である。
- (注1)デジタルデバイド ~パソコンやインターネットなどの情報技術を使いこなせる者と使いこなせない者の間に生じる待遇や貧富、機会の格差。