迫りくる介護時代に必要なケアシステムとは

2015年7月17日

【介護をめぐる課題と連合の取り組み】

地域包括ケアシステムの構築へ
~介護労働者の組織化を進め処遇改善を実現するためには~

大介護時代、誰もが安心して地域で暮らし続けるには、医療と介護サービスが切れ目なく提供される体制が必要だ。その観点から、2025年に向けて「地域包括ケアシステム」構築の取り組みも始まっている。
連合は、介護をめぐる現状をどう認識し、何を重点に取り組んでいるのか。
平川則男連合生活福祉局長に聞いた。

介護保険制度創設から15年になります。

介護保険制度は「介護の社会化」を目的に創設された。それ以前の高齢者介護は、基本的に家族で行うものとされ、主な担い手は嫁や妻だった。施設介護は、低所得や身寄りのない高齢者向けの「福祉」と位置づけられていた。しかし、3世代同居家族が減少し核家族化が進み、また長寿命化に伴う介護期間の延進などの、家族だけでは介護を担いきれない状況が生まれてきた。

1994年、連合が行った「要介護者を抱える家族についての実態調査」では、家族介護者の3割が要介護者に「憎しみを感じる」と回答。このままでは介護で家族が押しつぶされるという危機感から、「介護の社会化を進める一万人市民委員会」(樋口恵子・堀田力共同代表)が立ち上がり、連合も連携して積極的に制度創設に取り組んだ。法案は1997年12月に成立。
当時は「自社さ連立政権」で自民党の一部議員から「美しい家族介護を潰すのか」という強い反対もあったが、「介護の社会化が必要」という国民的コンセンサスが制度化を後押しした。

介護保険制度の最大のポイントは、社会保険制度にしたことだ。
保険料を払ってそれに見合った給付を受ける仕組みにすることで、利用者にとって使いやすく、誰もが使える制度となり、広く国民に受け入れられたのだと思う。

介護保険制度だけでは支えきれない

介護の現状と課題は?

介護のニーズが飛躍的に増大している。平均寿命が男女ともに80歳を超えるという「長寿化」に加え、団塊世代が高齢期となり高齢者の数が絶対的に増えている。また寿命が延びる中で、認知症など高度な介護が必要とされる高齢者が増加するという構造的問題も生じている。
一方で、家族による介護の機能は大きく低下している。高齢者のみの世帯が増え、地域で支え合う関係も薄れている。
介護保険制度の重要性はいっそう高まっているが、もはやそれだけでは支えきれない状況も生じている。介護保険制度と合わせて、さまざまな社会資源を活用していく仕組みを考えていかないと、来る大介護時代には対応できない。

それが地域包括ケアシステム…。

要介護になっても住み慣れた地域で暮らすことができるよう、医療・介護・生活支援などが一体的に提供される仕組みをつくろうというものだ。

第1のポイントは、医療と介護の連携強化。高齢の入院患者が退院後に介護が必要となる場合、医療機関と介護者が情報を共有し切れ目のないケアを行う。かつて医療機関は退院後のケアには無関心だったが、地域包括ケアシステムが提起されて以降、積極的に連携をはかっている。これは、歓迎すべき大きな変化だ。

第2は、家族など介護者(ケアラー)に対する支援の強化。認知症などで介護の負担は重くなっている。また、在宅で家族に介護されている高齢者自身が、家族に負担をかけたくないと施設入居を希望するケースも増えている。また、ショートステイやデイサービスに365日滞在する実態もある。良心的な事業所もあるが、夜間は職員1人体制であったり、男女が雑魚寝状態で寝かされているような実態も報告されている。家族が休息をとれるレスパイトケアや相談窓口など、介護者に対する支援をもっと充実させていく必要がある。

第3は、地域の社会資源の活用。例えばフラダンス教室や囲碁クラブなども重要な見守りの社会的資源だ。「デイサービスなんか行きたくない」という高齢者であっても、囲碁教室なら喜んで通う人もいる。そこでつながりができて、互いに気づかう関係ができる。都市部では、団地の自治会で居場所づくりに取り組んだり、NPOの力を借りて見守りをしているところもある。認知症高齢者の1人暮らしも増えているが、孤立すると、孤独死やゴミ屋敷などの深刻な問題につながりかねない。また、簡易宿泊所が低所得の高齢者の受け皿になっている実態もある。

いずれにしても、これからピークを迎える高齢化・大介護時代は、いま思っている以上に深刻だ。どういう支援が求められているのか。介護保険や家族介護だけでは対応できない部分をどうカバーしていくのか。そこをしっかり考えていく必要がある。
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平均で月7000円の賃金アップ

介護人材の確保は?

実は介護職員は増え続けている。ただそれを上回って介護ニーズが増えていて追いつかない。いちばんの問題は離職者が多いことだが、「職員の高齢化」という新たな問題も生じている。現場で活躍する60代、70代のスタッフが「10年後はどうなるのか?」と不安を抱いている。

介護保険制度がスタートした時点で、人材確保という視点は乏しかった。制度以前の介護職員は、公務員や公的セクターの職員という地位にあり、一定の労働条件が確保されていたからだ。しかし、介護保険が導入され、訪問介護などの分野が広がると、その処遇は大きく低下した。ニーズの増大に財源が追いつかない中で、介護報酬のマイナス改定が続き処遇が低下するという悪循環が生じた。小泉政権における「社会保障費年間2200億円削減」の影響も大きかった。また、「介護ヘルパー」の働き方が「130万円の壁」を前提とした専業主婦モデルであったことも処遇低下の一因となった。

全産業平均を大幅に下回る賃金ゆえに、若い職員が次々に辞めていく。政策的に処遇改善を進めるべきだという声が高まり、2009年4月の介護報酬改定で処遇改善分3%が上乗せされた。
これは、制度創設以来初めてのプラス改定だった。同年10月には、民主党政権のもとで「介護職員処遇改善交付金(1人当たり月額平均1・5万円)」がスタートし、2015年4月には「介護職員処遇改善加算」が制度化された。厚生労働省の調査では、平均で月7000円の賃金アップにつながっているという。
十分とは言えないが、徐々に処遇改善が進んでいることは確かだ。ただ、1人当たり1万2000円の加算について、「どこを基準に増やすのか」が問題になっている。どう配分するのか、長期的にどう人材を確保していくのか、それぞれの労使でしっかり話し合いを重ねてほしい。

最重要課題は介護労働者の組織化

労働組合の課題は?

地域包括ケアシステムを支えるのは働く人たち。安心してサービスを提供できる労働条件・職場環境を実現していかなければならない。そのための最重要課題は組織化だ。思えば、看護職員も「4‌K職場」と言われた時代があったが、労働組合や職能団体の地道な取り組みで社会的地位の向上・処遇改善を実現してきた。介護分野への外国人材導入の動きがあるが、これは問題がある。単に「安い労働力」が目的となれば、介護職全体の社会的評価を引き下げることにつながりかねない。

財源確保も大きな課題だ。現在、介護保険の総費用は約10兆円だが、今後加速的な増大が見込まれる。保険料負担の年齢を引き下げ、障害者介助も含めたユニバーサルな制度への統合を検討すべきだ。

介護離職防止も喫緊の課題。介護は誰もが直面し得るリスクだが、介護保険制度がどうなっているのか、当事者になって初めて知ったという人が多い。利用の仕方を学んでおけば離職を防ぐ一歩になる。まず、職場で学習会を開くことから始めてみてほしい。

平川様写真

平川則男連合生活福祉局長

 

 

用語解説
■2015年介護報酬改定
介護報酬は、介護保険が適用される介護サービスを提供した事業所や施設に対価として支払われる。3年ごとに改定され、2015年改定では中重度の要介護者や認知症高齢者への対応強化や活動と参加に焦点を当てたリハビリテーションの推進に関わるサービス単価が引き上げられた一方で、基本サービスは4.48%引き下げられ、全体で2.27%の引き下げとなった。また、この改定の中で介護人材確保対策を推進するために、「介護職員処遇改善加算」が介護報酬に上乗せされた。
■介護職員処遇改善加算
介護職員の賃金アップにかかる原資として、特定の要件を満たした事業所からの申請に応じて事業所へ支払われる報酬加算。他産業と比べて低賃金状態に置かれている介護職員の処遇改善を目的として、2009年度に「介護職員処遇改善交付金」が導入され、2012年度には加算制度が創設された。2015年介護報酬改定にあたり、従来の加算(職員1人当たり月額1万5000円)に上乗せする形での新設加算(職員1人当たり月額1万2000円)が決まった。厚労省は「安定的な処遇改善が重要であることから、基本給による賃金改善が望ましい」と通知。現行の賃金水準をいったん下げ、新たな加算分で補塡するという扱いは原則禁止とされている。
■2割自己負担
介護保険サービスの自己負担は1割だったが、2014年6月に成立した医療・介護総合推進法により、2015年8月からは年間の年金収入が単身で280万円以上の人は2割負担となる。また、要支援1・2の人を対象とする介護保険の予防給付(訪問介護・通所介護)は、市町村の地域支援事業に移行されることとなった。

 

※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2015年7月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。「月刊連合」の定期購読や電子書籍での購読についてはこちらをご覧ください。