【古賀伸明会長のフェスティナ・レンテ】
原爆投下から70年平和の想いを若い世代へ
記録的な暑い日が続いたこの夏、「連合2015平和ナガサキ集会」に参加した。今年は、第二次世界大戦・太平洋戦争終戦から70年の節目の年であり、5年に1度の核不拡散条約(NPT)再検討会議が開催された年でもある。
本年4月にニューヨークの国連本部において開催されたNPT再検討会議では、連合が全国で実施し集約したおよそ720万筆の平和への願いを、国連の潘基文事務総長宛てに提出した。さらに、会議の開催に合わせ、ニューヨークでのセミナーやアピール行動も実施したところである。しかし、核兵器保有国と非保有国との対立により、5月22日、最終文書が採択されないまま会議は閉幕となり、NPT体制自体が揺らぐことになってしまったことは極めて残念な結果である。さらに、世界の指導者に広島、長崎に訪問を促すといった、日本国民の切なる願いも受け入れられなかった。
連合は、世界で唯一の被爆国のナショナルセンターとして、これまで以上に、核兵器廃絶に向けた国内世論の喚起に注力するとともに、国際労働組合総連合(ITUC)ともさらに連携を強化し、核兵器の悲惨さと非人道性を広く世界の仲間に訴えていかなければならない。
一方、原爆投下からすでに70年が経過し、その脅威を身をもって体験された方々が高齢化しその伝承の課題が深刻化している。こうした現状を踏まえれば、若い世代を対象に、戦争の歴史や知識、「語り部」の皆さんの想いを継承していく必要がある。各構成組織や地方連合会では、教材として提供している「連合の7つの絆」のほか、本年作成した「平和検定」、そして「平和の語り部DVD」などを活用し、未来に平和への想いをつなぐことが求められている。
世界の核軍縮を進めていく上で、日本が果たすべき役割は大きく、とりわけ私たち労働組合や、さまざまな平和団体・組織の皆さんが、これからの国際的な運動を牽引する立場にある。
連合は、平和首長会議が提唱している、2020年までに核兵器の全廃をめざす「2020ビジョン」の推進や、同年開催される次回のNPT再検討会議、「核兵器禁止条約」の発効などさまざまな課題に対し、原水禁、KAKKINをはじめ、平和首長会議やITUCとも連携・連帯し、国内外の世論喚起の活動を一層強化していく。
国民の声を無視した法案の成立阻止に向けて全力で取り組もう
今、私たちが生きている日本の社会は、持続可能性が失われつつあるといっても過言ではない。だからこそ、社会の裾野に光を当て、当たり前に生きる人々の幸せのために汗をかく政治が求められている。しかし、今の政権運営は、経済だけを見れば、なんとなく上向きの雰囲気を見せているが、それに紛れる形で、国民の懸念に正面から答えないまま、強引に物事を進める動きには目に余るものがある。それは、労働法制の問題しかり、安全保障法制をめぐる問題しかりである。
今国会では「労働者派遣法の改悪案」は、残念ながら衆議院を通過し、現在、参議院において審議されている。法案の内容はこれまでも指摘してきた通り、派遣労働者が低賃金で一生働くことを助長するもので、労働者保護ルールの改悪に他ならない。この他にも一部の労働者の労働時間規制を除外する労働基準法改悪案も国会に提出されている。こうした改悪案は、労働者の声をまったく聞かずに決められたものである。参議院の審議では、法案の問題点を浮き彫りにして、最後まで成立阻止に向けて全力で取り組んでいかなければならない。
また、現在、参議院の特別委員会で「安全保障関連法案」が審議されている。
この法案論議をめぐっても、安倍政権の強引な政治手法が国民の目にも明らかになってきた。私たちの暮らしと国の将来に関わる重大なテーマであるにもかかわらず、国民的な合意形成や立憲主義の原則を軽視した進め方で、歯止めのない安全保障法制を推し進めようとしている。
特に、「存立危機事態」や「重要影響事態」に対する懸念は、これまでの審議の中でクリアになったとは思えない。加えて、従来であれば、それぞれ1つの国会で審議してきたような重要課題を10本まとめて審議にかけるという乱暴な議論の進め方も見過ごすことはできない。
今や与党の数の力は強大であり、9月14日以降は、参議院で審議中でも60日ルールを使っていつでも衆議院での再可決が可能となる。しかし、国民の理解と納得の得られない重要な法案に対してのこのような行為は、民主主義の根幹を揺るがす暴挙と言わざるをえない。
今、国会では何が行われているのか一人ひとりが注目し、国民の声を聞こうとしない安倍政権には、渾身の怒りを込めて、はっきりと「NO!」の声を上げていこう。
アジア全体で活動するITUC─AP書記長に日本から連合の鈴木則之さん再選
さて、5月にネパールで開催予定であった第3回ITUC─AP(国際労働組合総連合アジア太平洋地域組織)地域大会が大地震のため延期、8月1〜3日にインド・コーチで開かれ、連合は16人の代表団で参加した。
まず、4月25日にネパールを襲った大地震による犠牲者とそのご家族に心からお悔やみを申し上げる。また被災された多くの方々へのお見舞いと同時に、今後ともITUC─APの仲間とともに支援を継続していきたい。そして、3カ月に満たない短い期間で、別の都市での開催にこぎ着けることができたのは、インドの仲間の好意ある招待と、鈴木書記長をはじめとしたITUCP書記局の皆さんの多大なるご尽力があってのことである。心より感謝申し上げる。
この地域大会は、アジア・太平洋地域としての運動の方向を議論する場であり、「組織
化、団結―進むべき道、労働者の力を構築する」をメインスローガンとし、「組合の成長」「持続可能な雇用・安定した収入・社会的保護」「権利の実現」を主なテーマとして議論を重ねた。そして、今後4年間のITUC─APのアクション・プログラムを確認した。また、今回の大会は従来にないいくつかの課題があった。一つはオーストラリアからの規約改正の提案であり、もう一つは書記長選挙である。
オーストラリアが提起した規約改正案は「組織運営の変更」「書記長の任期や副書記長の権限の拡大」「会長の選出方法」「監査役の要件」などであり、私たちはどれも改正の必要がないものとして、反対の立場で議論に臨んだ。多くの議論を呼んだ規約改正案は、議長の差配でこの地域大会では採決せず、地域執行委員会での議論に委ねられることとなった。今後、地域執行委員会の下に置く専門委員会で議論される。
また、書記長に立候補したのは、私たち連合出身の鈴木則之さん、そしてニュージーランドのキャロル・ボーモントさんである。選挙方法についても地域執行委員会で議論されたが、選挙の結果「鈴木書記長」が圧倒的多数で勝利し続投となった。
アジア・太平洋地域は、歴史・宗教・文化・経済成長のスピードなど多種多様な国々の集まりであり、運動推進も難しい局面を迎えることが多いと思う。私たち連合は出身組織として、これからも鈴木書記長を全面的に支持し、より一層支援をしていかなければならない。
(8月21日記)
※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2015年9月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。「月刊連合」の定期購読や電子書籍での購読についてはこちらをご覧ください。