座談会「Z世代が考える社会を良くするための社会運動調査」結果を読み解く(前編)

2022年3月4日

「Z世代」と呼ばれる若者の社会課題への関心の高さが、国内外で注目されている。昨年3月に連合が実施した「多様な社会運動と労働組合に関する意識調査2021」においても、10代の6割、20代の5割が、労働組合や社会運動は「必要」と回答し、社会課題解決に向けた社会運動への参加意欲が高いことがわかった。

とはいえ、多くは実際の参加には至っていない。そこで、連合は、2022連合アクションのテーマを「若者とともに進める参加型運動」とし、2021年12月に「Z世代が考える社会を良くするための社会運動調査」を実施した。目的は「Z世代」の若者が関心を寄せる社会課題を浮き彫りにし、新しい労働運動のスタイルを探ること。

調査の結果、「関心のある社会課題がある」との回答は約9割にのぼり(図1)、学生Z世代では「ジェンダーにもとづく差別」、社会人Z世代では「長時間労働」が最も高い関心を集めた。この結果をどう受け止めればいいのか。連合、労働組合には、どのようなアプローチが求められているのか。これらテーマについて、社会運動を牽引する若者、若者の社会運動を研究する有識者、清水連合事務局長が意見を交わした。

−まず、自己紹介をお願いします。

富永 元々は社会運動の組織文化や下位文化を研究していました。日本の若年層は社会運動に忌避感を持つと想定していましたが、2015年、安保関連法案反対のデモを呼びかける学生団体「SEALDs」が登場。その意識や動機を知りたいと若年層の運動参加研究を始めました。最近は、Z世代の社会運動に研究者として刺激を受けています。

室橋 若者の声を政策に反映させることを目的に、2015年に「日本若者協議会」を設立しました。若者の政治参加、教育、労働、社会保障、ジェンダー、環境・気候変動などをテーマに、政府・政党・地方公共団体との政策協議や提言を行っています。

谷口 ジェンダー学を学んでいた大学4年の時に「#みんなの生理」という団体を立ち上げました。きっかけは卒業論文です。「生理への認識」に関するインタビューを行うと、多くの人が問題を抱えていました。折しも消費税率引き上げに伴い軽減税率が導入されるタイミングでしたが、生理用品は対象外。生理の経済的負担を減らしたいと「生理用品を軽減税率対象にしてください!」というインターネット署名を呼びかけ、「#みんなの生理」を設立しました。現在、メンバーは8人。生理をめぐる不平等をなくすことを目的に、行政への要請行動、調査・発信を行うほか、生理に関する自由な意見交換ができる場づくりにも取り組んでいます。昨年は、日本若者協議会と共同で「学校の生理休暇についてのアンケート調査」を実施し、その結果にもとづく提言も行いました。

西良 大学院で社会人類学と国際社会学を専攻し、ダイバーシティ政策、宗教、ジェンダー・セクシュアリティというテーマを掛け合わせた研究をしています。これまで学生という立場で様々な社会運動に携わってきました。大学1年の時は、「AIESEC」という国際学生団体のスタッフになり、運動の基礎を学びました。その後、大学の小平国際学生宿舎の学生スタッフになり、多様性への理解を促すために「Diversity & Safer Space 推進班(DS班)」を設立しました。寮には様々な文化的背景の学生がいてダイバーシティが掲げられていましたが、それがとても表面的なものに思えたからです。人種差別や性差別、性暴力の問題には踏み込もうとしない。より深くダイバーシティを考えようと投げかけ、性暴力をなくすための団体も設立しました。1年間のアメリカ留学では、ジェンダーやセクシュアリティについて深く学び、現在はそれに関連して、「一般社団法人ちゃぶ台返し女子アクション」と「LGBTQ+Bridge Network」という団体で活動しています。

清水 昨年10月に連合事務局長に就任しました。出身は日本教職員組合で、2008年までの19年間、中学校の国語科の教員をしていました。1959年生まれのバリバリの昭和世代です。

関心のある社会課題

−では、調査結果を見ていきます。まず《関心のある社会課題》(図2)を聞いたところ、全体の1位は「いじめ」20・7%でした。続いて2位が「長時間労働(ワーク・ライフ・バランス)」18・7%、3位が「自殺問題」16・7%、4位が「ジェンダーにもとづく差別」16・3%。女性では「ジェンダーにもとづく差別」23・6%、男性では「長時間労働」19・1%が1位でした。また、学生では「ジェンダーにもとづく差別」22・7%(図3)、社会人では「長時間労働」21・9%(図4)が最も関心のある課題となっています。この結果について、どのように思われますか。

室橋 いじめや不登校、自殺問題が上位にきていることは、非常に危機的です。不登校は過去最多を更新し続け、小中学生で19万人以上。これまでの画一的な学校教育は限界にきています。また、環境やジェンダー平等などへの関心は、SDGs教育などの効果が出ているということだと思います。

西良 「ジェンダーにもとづく差別」への関心は、男女差が大きい。これは「どれだけ当事者性を感じているか」の違いだと思いますが、それでも学生のトップにきたことは驚きです。おそらく就職活動等を通じても強く意識される課題であり、当事者としての関心と、逆にそうした主張に対する反感も含めての数字だと思います。

谷口 ジェンダーは幅広い課題を含んでいるので、個々人が具体的に何をイメージしているのか見えづらい。ですが、そのことに取り組む学生団体も増えていると感じています。

富永 基本的には、学歴が高いほうが社会運動参加率が高いという前提があり、そうした層のほうが身近ではない社会課題に関心を持つのかなと考えていました。ところが、今回の調査では、学歴を問わず、身近で当事者性の高い課題への関心が高く出ている。身近な場で問題を見つけることが上手になっているのかなと…。例えばですが、私が「生理の貧困」の運動を知ったのは10年ほど前のイギリスでした。当時の私は、その運動に接してもあまり当事者性を持てなかったんですが、谷口さんはそれを可視化し、社会運動にされた。
もう一つは貧困化です。例えば大学生でも、私たちの世代と比べて単純に貧しくなっている。東京私大教連の調査でも仕送りが年々減少し、日本学生支援機構の調査でも奨学金の受給率が高止まりしている。貧困や格差が自身や周囲の問題になっている。そういう中で、社会課題が身近になっているのだと思います。

清水 この20年、日本の賃金が上がっていないのに学費は高騰している。給付型奨学金ができたものの対象は限定的。多くの若者が高額の借金を背負って社会に出なければならない現状を放置してはいけない。これは、社会全体でどう人を育てるのかという問題です。

−Z世代の関心が高い社会課題に対する連合の取り組みは?

清水 「長時間労働」については、年間総実労働時間の短縮、時間外割増賃金の引き上げ、有給休暇の取得促進などに取り組み、罰則付時間外労働規制(労働基準法の改正)も実現しました。36協定の適正な締結にも力を入れています。また、大学における寄付講座やワークルール検定などを通じて、若者に対する労働教育にも取り組んでいます。
ジェンダー平等は、連合結成以来の重要課題です。男女間賃金格差はコロナ禍でますます拡大し、「生理の貧困」に追い込まれる女性が増えている。ここは、取り組みをいっそう強化しなければと思っています。

関心を持った理由・関心を持ったきっかけ

−次に《関心を持った理由》(図5)ですが、「身近にこの問題に直面した」は、「奨学金問題(学費高騰問題含む)」54・0%、「不登校」41・2%(図6)。一方、《関心を持ったきっかけ》(図7)は、ほぼすべての社会課題で「テレビで見た」がトップですが、課題ごとに見ると「環境」「平和」に関する項目は「学校の授業で学んだ」、「ジェンダー」「人権」は「SNSで見た」が、そして「教育」「労働」は「自分が課題に直面した」が、それぞれ2位となります。これについてはいかがでしょう。

西良 関心を持った理由では「身近にこの問題に直面した」が多いのに、関心を持ったきっかけでは「自分が課題に直面した」は多くない。このギャップは興味深いです。読み解いてみると、差別やハラスメントは、自分がそれを受けた時、すぐには何が起きたのか認識されにくい。自分の身に起きたことを大きな問題とは考えないようにする心理も働きます。でも、その後、問題について学んだり、SDGs等の切り口からたまたま触れたりすると、自分に何が起きたのかに気づく。そこにギャップが生じているのだと思います。また、ダイバーシティやSDGsは問題領域が広く、当事者性を前面に出さなくても一定の距離をおいて参画できる。「関心がある」と表明しやすい項目だと言えます。

谷口 名前のないモヤモヤに名前が付けられると、「私の経験したことはこれだったんだ」と気づかされる。「生理の貧困」もまさにそうでした。活動を始めた頃は反応が乏しく、受け止めてもらえなかった。でも、テレビで取り上げられると対応は一変しました。ただし、テレビは両刃の剣で、自分の思いとは異なる方向に誘導されるという経験もしました。

富永 「個人の悩み」が可視化され、社会問題化される。例えば、家族の介護のために友だちと遊ぶこともできない子どもはずっと存在していたのに、「ヤングケアラー」と名付けられ実態が報じられることで社会問題化しました。

清水 学校では、平和や環境、健康の課題にずっと取り組んできました。授業に組み込むだけでなく、朝の会で「このニュース、みんなどう思う?」と投げかけると、子どもたち同士で活発に意見が飛び交う。「いじめ」が最も関心の高い課題になったことは、重く受け止めています。若い人たち自身が、自分はこの問題にどう関わってきて、今どう思っているのか、そういう話ができる場が必要ではないかと思っています。

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※この記事は、連合が企画・編集する「月刊連合3月号」をWEB用に再編集したものです。