座談会「Z世代が考える社会を良くするための社会運動調査」結果を読み解く(後編)

2022年3月4日

参加したい社会運動・参加したくない社会運動

−《参加したい社会運動》(図8)を聞いたところ、「環境」「平和」「健康」「経済」「労働」では「政府や団体、企業への要請」が、「教育」「ジェンダー」「人権」では「SNSでの個人の発信」がトップになりました。《参加したくない社会運動》(図9)は「集会やデモ、マーチ、パレードなど」が46・8%。この結果についてはいかがですか。

谷口 デモへの忌避感はわからなくもないですが、「#みんなの生理」を立ち上げた直後に新型コロナの感染拡大が始まったので、セミナーやイベント、ミーティングはほとんどオンライン。だから、私自身はデモをやってみたいと思っているんです。

室橋 日本のデモは動員型で対話が乏しく、それが忌避感につながっています。海外では、政策要求・世論喚起行動の一つにデモがあり、同時に意思決定者との直接対話が行われる。しかし、日本でデモなどを行う運動の主体は、それらによる政権への抗議を重視し、直接的な対話を避けてきました。

富永 デモをやっている人々の立場も様々ですが、批判的、攻撃的な印象が強いというか、少なくない若年層の人々には「バチバチしている」と感じられるのかな。

室橋 上の世代は、社会運動やジャーナリズムに「反権力」を求めている。でも、若い世代は「社会課題を一緒に解決するパートナー」と捉え、与党とも野党とも対話する。そこは、世代間で大きな差があると感じます。

参加経験のある社会運動・参加した理由・参加したことがない理由

−Z世代の社会運動参加経験率は36・8%(図10)。《参加したことのある社会運動》(図11)は、「知識を深めるためのセミナー」「SNSでの個人の発信」が比較的多く、「政府や団体、企業への要請」は5・0%と最も少ない。《参加した理由》(図12)では「自分ができることをしたかったから」「自分の気持ちを表現したかったから」「友人・知人・家族に誘われたから」がトップ3。《参加したことがない理由》(図13)は「顔や名前が出てしまうことに抵抗があるから」「自身に知識が足りないと思うから」「忙しかったから」が、《どのような社会運動であれば参加できるか》(図14)は、「顔や名前を出さずに参加できる」「気軽に参加できる」「参加したいときだけ参加すればいい」が上位となっています。

西良 国際学生宿舎で「DS班」をつくるときに苦労したことの1つに、政治的な問題への忌避感がありました。一橋大学では、同級生にゲイであることを暴露されたアウティング事件や教員のヘイトスピーチ問題を受けて、二度と起こさないために行動すべきだと考える学生と、関わりたくないと考える学生に二極化していました。500名超の寮生・スタッフを対象にアンケートを実施しましたが、参加したくない理由では、「知識がないから」のほかに「逆差別言説」を持つ人が少なからずいた。「フェミニズムは逆差別」など、時に攻撃的になる人たちです。
そういう現状を考えれば、政治的だと思われている課題を、人権、ダイバーシティ、SDGsなどのソフトイメージのテーマに変換することで、参画を促せる面はあると思います。ただ、裾野を広げていくと、いろいろな考えを持った人が入ってきて運動が混乱するという弊害もある。間口は広くしながらも、テーマは深く理解してもらえるよう努力しています。

谷口 共感します。私たちは、政治的でラディカル(急進的)な主張をしているんですが、テレビで取り上げられる時は、そこがすべてカットされ脱政治化される。多くの人が参加できることは大事ですが、譲れない部分が切り取られ置き換えられてしまうことにモヤモヤを感じています。

富永 結果として政治的な問題を真正面から扱う力、批判の力が弱くなってしまう危険性もある。批判より対話、対決より解決という姿勢は、間口を広げるには有効ではあります。ただ、政治的な課題は扱わず、個人的な経験の語りが重視されると、急進的、批判的な言説は忌避されてしまいますよね。

室橋 若者協議会も、参加しやすいよう「社会課題の解決」というフレームで活動してきました。それでも、就活の時期になると、名前を消してほしいという依頼がきます。「顔や名前が出ることに抵抗がある」のは、本当に叩かれるから。気候変動への対策を求める「Fridays For Future」に参加した人の個人名が晒される事件も起きています。

社会運動への期待・Z世代にとって社会課題・社会運動とは

−《社会運動に期待する》(図15)ものとしては、「運動の成果を感じられる」「課題がわかりやすい」「人とのつながりを感じられる」が上位にきました。Z世代は、総体的に社会課題や社会運動をどう捉えているのでしょうか。

富永 内閣府「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」では、自分の政治参加によって社会現象が変えられると答えた人は、日本が最も少なく3割程度に留まっている。自分の行動が成果につながるという感覚を重視しているんでしょう。

室橋 オンライン署名に参加し、それが実際に政策を変えたというような体験が積み重なっていけば、社会運動に継続的に参加していく人が増えるかもしれませんね。

−若者とともに社会運動を進めるために必要な工夫とは?

室橋 改めて対話の重要性を訴えておきたいと思います。ただ、対話による微修正だけでは、日本社会の停滞は改善しきれなくなっている。同時に構造的な変革への議論も必要です。

谷口 私は、対話より「ラディカルに変えていく」派ですが、社会運動を始めたきっかけは労働組合だったんです。学生の時にバイト代の未払いがあって、労働組合に相談し解決できた。その体験が「声を上げる」ことを後押ししてくれたんです。「社会を変える」ってすごく大きなことに思えますが、分解していくと、身近な問題を解決する小さな成功体験の積み重ね。だから、労働組合がそういう場をつくってくれていることは、社会を変え、未来をつくるという重要な社会運動なのだと思います。

清水 この間の大学入試改革や「生理の貧困」などへの取り組みを見て、若者自身が声を上げることは社会を変える大きな力になると改めて思いました。大学入学共通テストへの英語の民間試験導入が決定された時、日教組はただちに問題点を指摘し、文科省に見直しを要請しましたが、相手にされなかった。ところが、出願直前になっても詳細が示されない中で、当事者である高校生が撤回を求めて行動を起こし、急転直下、導入が見送られた。声を上げれば変わるんです。おかしいと思う問題は身近にいっぱいある。それを可視化し、一緒に声を上げていきたいと思います。

室橋 政策を要請する相手は、政府や国会議員だけではない。校内や社内の問題は、そこで話し合って解決できるんです。

富永 校則の問題なども身近ですよね。調査結果を見ても、若年層が参加しやすいのは、キャンペーン型の「参加したい時にできる運動」なのだと思いますが、ならば連合もキャンペーン型の運動を仕掛ければいいのかというと、私はちょっと違う気がします。連合の組織力を活かして、若者が自ら立ち上げた運動のバックアップや情報提供に力を入れる。そして、労働条件・労働環境改善の取り組みを強化し、その成果を共有する。それが若者とともに社会運動を進めるカギになると思います。ちなみに労働運動は特別な知識がなくてもできますか?

清水 「職場の困りごとの解決」は、特別な知識がなくてもできます。それこそが労働運動の原点なんです。

富永 労働運動は当事者性が強く、「困りごとの解決」は初心者でも参加しやすい。若者が貧しくなっていると申し上げましたが、その解決のために労働組合は重要な存在になるはずです。

-改めて連合、労働組合に期待することは?

室橋 連合は政治団体というイメージを持たれていますが、本来の役割は、労働条件・労働環境の改善。具体的な改善事例を発信し、「身近な問題を解決できる場所」だと認識されれば、イメージは変わります。

谷口 どんな問題をどう解決したのか、ビフォー・アフターが明確にわかる情報発信があるといいですね。私は、自分の経験から、労働組合は重要な存在だと思っています。若者が直面する労働問題にコミットしていけば、「頼れる存在」として認知される。問題があっても我慢している人たちが、「声を上げていいんだ」と気づける機会を提供してほしいです。

西良 若者はみんな、バイトや就活で労働問題に直面している。でも、それをサポートしてくれる労働組合という存在を知らない。学生が会社を選ぶ基準も、ジェンダー平等やワーク・ライフ・バランス重視に変わってきましたが、企業側の情報だけではわからないことも多い。連合には、働く人の立場から学生にアプローチしてほしいと思います。

富永 連合は、すべての働く人のための取り組みをたくさんやっている。その成果をもっと前面に出せばいいのかなと…。若い世代に限らず、低賃金で苦しんだり、ハラスメントに遭っても「困っている」と言っていいのかと悩む人は多いし、どこに相談すればいいかわからない人もいます。連合のLINE労働相談やチャットボットを勧めたり、「こんなことでも困っていると言っていいんだよ」と伝えるのが大事なのかな。「労働組合ってこんなこともやっているんだ」という事例はありますか。

清水 ある町の教員住宅で、海外から招聘したALT(外国語指導助手)の部屋にだけクーラーが付けられたので、粘り強く交渉して、全戸にクーラーを付けてもらいました。芳野会長は、単組の役員時代、社員食堂の肉団子の数が1個減ったのは実質値上げだとの声を受けて、交渉して元に戻したそうです。身近な問題を一つひとつ解決していくことが、労働組合への信頼につながるんですよね。

富永 身近すぎる要求は「わがまま」だと思われがちですが、それが労働環境の改善につながるのであれば堂々と要求していいんだと、ぜひ労働組合から発信してほしい。

清水 身近な問題も含め、みんなの思いをしっかり受け止める運動を行っていきたいと思います。

 

※この記事は、連合が企画・編集する「月刊連合3月号」をWEB用に再編集したものです。