オードリー・タン氏と一問一答 これからのデジタル✕ダイバーシティ✕デモクラシー②

2021年9月2日

新型コロナウイルス感染症について、台湾はデジタルを活用した迅速な対応で封じ込めに成功し、世界から注目を集めた。そのキーパーソンとなったのが、デジタル担当政務委員(閣僚)であるオードリー・タン氏だ。新時代のデジタルと多様性と民主主義の連携をテーマにした基調講演ののち、質疑応答を行った。(7月21日開催の連合サマートップセミナーより構成)

 

オードリー・タン(唐 鳳)Audrey Tang

台湾デジタル担当政務委員(閣僚)

1981年台北市生まれ。8歳から独学でプログラミングを学び、14歳で中学を自主退学。19歳の時にシリコンバレーで起業。24歳の時にトランスジェンダーであることを公表。その後、Apple社で人工知能Siriのプロジェクトに加わる。2016年、35歳で蔡英文政権に入閣。2019年、米国外交専門誌『フォーリン・ポリシー』の「グローバル思想家100人」に選出。著書に『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)、『オードリー・タン 自由への手紙』(講談社)など。

 

オードリー・タン氏に聞く! 一問一答

 

Q.1 多様性と生産性

男性が主力であった製造現場では、女性が増えると生産性が下がるとの受け止めがある。多様性は生産性向上につながるのか。現状を変えたくない人たちにどう働きかければいいのか。

ジェンダー平等に関して、台湾と日本の状況は大きく異なります。台湾の政権トップは女性であり、国会議員の40%が女性です。

ただ、科学技術分野については、女子学生比率はまだ25%強と低い水準にあります。私の見るところでは、エンジニアリングなどの機械分野よりも、人と密接に関わるデザインなどのソフトウェア分野のほうが多様性は進んでいます。特にプログラミングは、その恩恵を最も享受できている分野です。

私からの提案は、それぞれの分野・部門にフォーカスを当てていくことです。製造現場ではオートメーションが進化し、人間の仕事はデザインや設計に関わる分野に重点化されていきます。だから、その部門で多様性を進めていくと、従来型の部門でも変化が起きるのではないかと思います。台湾では、過去20年の間にそういう形でシステムが変わってきました。旧来のやり方と争うのではなく、未来へ向けて新しいものをつくってほしいと思います。

 

Q.2 インターネット投票と主権者教育

台湾ではインターネット投票を導入する予定はあるのか。また若い世代の政治参加の状況はどうか。

台湾には、実現したい政策課題を提案し、5000人のオンライン署名(賛同)を集めることができれば、それが実際の政策に落とし込まれる仕組みがあります。実際に2017年には高校生がプラスチック製ストローの使用禁止を訴え、実現に至りました。今では、紙やサトウキビ製のストローが使用されています。

台湾には、まだ投票権がない若者にも政策実現のルートがあり、提出される請願の4分の1は、その世代からのものです。政治参加というと選挙のイメージが強いかもしれませんが、選挙のように人に対して投票するのではなく、政策(問題解決の方法)について投票することも参加の一つの方法なのです。

オンライン投票を導入する予定はありません。投票用紙のほうが集計のプロセスも含めて透明性を確保できますし、重複投票の心配もないからです。投票は録画し、集計は専用アプリで行い、政党のメンバーが監視しています。だから集計結果に対して後から疑義があがることはありません。予算配分や政策に対する投票であれば、オンラインも可能ですが、選挙は「1人1票」なので投票用紙がいいと考えています。

台湾では、若者が国の方向をリードし、年配者は若者に権限を委譲しています。若い世代はシニア世代に時代のトレンドを教え、逆にシニア世代から知恵や経験、過去の教訓を学びます。これは「青銀共創」と呼ばれていますが、私の仕事場の一つであるラボ「社会創新実験センター」にもそうした活動を行う団体が入っています。

プラスチック製ストローの使用禁止を請願した高校生は、現在、政策に関する意見交換会のメンバーとして活躍しています。私自身も35歳の時に閣僚に指名されました。内閣でも、自治体でも、あるいは大学でも、若手が上司や先輩に助言するリバースメンターが機能しています。

 

Q.3 障がい者雇用の促進

日本では障がい者雇用がなかなか進まない。リモートワークなどの働き方は、その拡大につながるのか。

台湾では、大企業を中心に障がい者を多数雇用しているところがあります。政府はモデル事業など雇用の質を高める支援も行っています。また「社会創新実験センター」におけるつながりからも、パン屋やレストラン、絵画制作工房など、障がいのある人の雇用の場が生まれています。

最近は、高齢者や障がい者をサポートするI‌T機器が多数出ています。こうした機器を活用すれば、社会に積極的に参加し、社会に貢献できるようになるでしょう。雇用の拡大にあたっては、同時にいかに収益性を高めるかという視点も重要です。デジタル社会の発展にはインクルージョンが欠かせません。それは、新しい社会的な価値をつくり出していくことなのです。

 

Q.4 デジタル化とデモクラシー

インターネット上でフェイク画像やフェイクニュースが拡散していることは、民主主義を歪めることになりかねない。どう立ち向かえばいいのか。

私の画像も、勝手にマンガのキャラクターにリメイクされたり、アートの素材になったりしていますが、私は問題にしていません。私は、私自身の情報をすべて公開しています。アカウントは検証され、本人確認もされています。だから、ダイレクトメッセージなどで攻撃する人は、その事実も全世界に公開されることを理解しています。公開こそ悪質な攻撃を防止します。透明性が確保されていれば、そこに陰謀論が生まれる余地はありません。

とはいえ、不確かな情報が大量に拡散されるインフォデミックは、しばしば人々を混乱させます。民主主義を守るには、情報に関する闘いが必要であり、特に共通の困難な課題に立ち向かっている時は「団結」が必要です。

 

Q.5 マスクマップ作成について

マスクマップ作成にあたって、どういう課題があり、それをどう乗り越えたのか。

マスクは、薬局で一般に販売されているものですが、それが公平に行き渡るようにすることを目的に、社会セクターのエンジニアが、リアルタイムでどの薬局にどれくらいあるのかを把握するアプリを作製しました。しかし最初は、そのマスクマップに掲載された薬局に人々が押し寄せ、薬局では「このアプリを信用しないで!」という張り紙を出さなければならなくなりました。そこで、私は薬局に行って薬剤師に「もしデジタル大臣だったらどうしますか?」と聞きました。その意見をもとに、その日の最後のマスクをお客様に販売した時に、ボタン一つで「終了通知」ができるシステムを導入しました。これによって在庫隠蔽の心配もなくなりました。さらに全民健康保険証番号でマスクを割り当てるシステムをつくりました。この共創によってソーシャル・イノベーションが実現したのです。

 

Q.6 対面とオンラインの違いについて

海外の労働組合指導者の招聘事業はコロナ禍で中止となり、代わりにオンラインセミナーを開催したが、直接交流したいという声は多い。どう対処すべきか。

デジタル・コミュニケーションには帯域幅の制限があり、face to faceと比べると、その速度は50分の1、最新の5Gでも10分の1程度。だから、細やかな表情が読み取りにくく、対面と同じ感覚でコミュニケーションをとるのは難しいのです。

現状では、デジタル・コミュニケーションは追加的・補完的なものにしかなりません。私も、コロナの感染拡大が落ち着いたら、ぜひ訪日してみなさまと直接お目にかかりたいと思っています。

 

Q.7 透明性と信頼性の確保について

政策の透明性、信頼性の確保のために必要な視点とは?

政策の透明性と相互信頼を確保するには、やはり人々から話を聞いて、共通の価値観や解決策を見出していくことが重要です。同質な人々の集団の中で物事を決めると、取り残される人が出てしまいます。

私は、政務委員を受諾するにあたって、①行政院に限らず、他の場所でも仕事をすることを認めること、②出席するすべての会議・イベント・メディア・納税者とのやりとりは、録音や録画をして公開すること、③誰かに命じることも命じられることもなく、フラットな立場からアドバイスを行うこと、という3つの条件を提示し、それは実行されています。

テクノロジーの進化で仕事を奪われるのではないかと危惧する声がありますが、私は、テクノロジーとは人間に奉仕するものであり、デジタル担当政務委員の仕事というものは、人間を中心において公共の利益を達成することだと考えています。

デジタル活用についても、若い世代だけでなく、抵抗が大きいシニア世代からもきちんと話を聞き、何が問題かを把握し、その解決策を考えることが重要です。多様な人々の話を聞くことによって、新たな視点を獲得できるのです。

 

Q.8 社会参画の仕組みについて

不登校や引きこもりの人たちも、デジタル技術によって自分の居場所を見つけることができるのではないか?

自己表現が困難な人たちも、最近はハイブリッドになってきています。対面は苦手だけれども、オンラインなら積極的に参加するという人たちです。オンライン会議システムは、ビジネス利用を想定して開発されましたが、最近は個人利用が増えています。現実とバーチャルは、二者択一的ではなく、追加的に使うことができる状況になっています。デジタル担当政務委員としての私の役割は、まさに人々がお互いに語り合える場をオンライン上で提供することです。対面が苦手な人にとっても、そこが一つの居場所になり、社会とつながる場になればうれしいです。

※この記事は、連合が企画・編集する「月刊連合8・9月合併号」をWEB用に再編集したものです。

 

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