コロナ禍の労働組合② 私鉄総連

2021年7月2日

コロナ禍で、労働組合は職場の不安をどう受けとめ対応したのか。

UAゼンセン、私鉄総連、航空連合、連合石川に話を聞くと、働く人や産業をまもり、つなぎ、未来を創り出そうと、懸命に行動する労働組合の姿が浮かび上がった。

 

私鉄総連  組合員をまもり、公共交通をまもるために

 

鉄道、バス、タクシーは、コロナ禍で利用客が大きく減少する中でも、公共交通の使命として安全で正確な運行を続けている。現場の組合員は、どんな悩みを抱え、労働組合はその解決のためにどう動いているのか。

 

マスク着用をめぐるトラブルも

ー公共交通の現場における感染症対策は?

鉄道、バス、タクシーなどの公共交通労働者は、不特定多数の乗客と接する仕事であり、急病人の搬送、病院・検査センターへの送迎など感染リスクが高い業務も多い。

感染症対策として、車内や券売機の消毒、換気などを行っているが、現場の負担増は間違いない。また、乗客には「マスク着用」をお願いしているが、協力していただけない場合の対応や乗客同士のトラブルに苦慮している。特に1人で対応しなければいけないバスやタクシーの運転士の精神的負担は大きい。

乗務員については、出社前と点呼時の検温・体調確認を徹底するほか、家族に濃厚接触者が出た場合なども勤務停止としている。急遽代わりの乗務員を手配するなど、勤務シフトを調整する担当者の苦労は大きい。万が一職場でクラスターが発生すれば、通常のダイヤ維持が困難になる。公共交通をストップさせるわけにはいかないと、組合員たちは自宅や寮でも細心の注意を払い、神経をすり減らしている状況だ。勤務停止は年次有給休暇を使っているケースが多い。加盟組合では、休業補償を求めて協約化に取り組んでいるが、対応にはかなり幅があるのが実情だ。

不採算でも休業できない

ー組合員の声や要望は?

雇用や生活への不安を訴える声が多数届いている。「乗客の命を預かる輸送の使命に見合った手当がない」「基本給が上がらないまま時間外労働で賃金水準を維持してきたが、残業が減少し生活が成り立たない」「不特定多数と接する仕事で感染が心配」「休業できる業種には雇用調整助成金があるが、不採算でも休業できない公共交通従事者には支援がない」「鉄道のグループ企業は、ホテル・旅行業・百貨店などコロナ禍の直撃を受けた業種が多く、グループ内で支え合うことも難しい」など、本当に切実だ。

私鉄総連では、こうした声を受けて、車両改造扱いとなるアクリル板の設置や減便ダイヤ対応の許認可、政府によるマスク着用徹底の呼びかけなどについて関係省庁に要請し、迅速な対応を引き出してきた。また、公共交通従事者のワクチン優先接種も強く求め、5月に国から軽症者輸送のタクシー運転者の優先接種の考えが示された。職域接種については、現場組合員からは、一斉接種で複数の乗務員に副反応が出たらダイヤに影響が出るとの指摘も届いている。

ー経営や雇用への影響は?

「人の移動」の制限は産業を直撃し、ほぼすべての加盟組合が深刻な影響を受けている。2020年度の鉄道輸送人員は、大手民鉄で約3割減、中小民鉄はそれ以上に減少し、企業の存続自体が危ぶまれる状態にある。

バス事業は、高速バスや貸切バスの収益を内部補助して路線バスを維持してきたが、高速バスや貸切バスの需要激減で路線バスの維持も困難になっている。

タクシーも外出自粛や飲食店の時短営業で乗客が激減し、雇用調整助成金で雇用を維持している状態だ。歩合制運転者の賃金は地域別最低賃金の水準まで落ち込んでいる。

コロナ禍が長期化する中で、出向・転籍、希望退職、賃金減額などの合理化提案も出されてきている。もはや個別労使だけでこの難局を乗り切れる状況にはなく、私鉄総連としては、感染症対応地方創生臨時交付金からの支援や雇用調整助成金特例措置の延長などを要請している。このままではコロナが収束して需要が戻っても、要員不足や車両不足で反転攻勢をかける体力が奪われ、地域の足が失われる可能性がある。

ダイヤ改正には十分な調整が必要

ー終電繰り上げなど社会的要請への対応やテレワーク推進などによる様相変化の影響は?

鉄道は各社相互乗り入れが進んでいるため、本来ダイヤ改正には半年以上の調整期間が必要だが、急遽の終電繰り上げ要請で現場は相当混乱した。ダイヤは、翌日の列車運用や乗務員の配置まで考慮して組まれているため、繰り上げた終電後には乗客がいなくとも回送列車として同じダイヤを走らせており、コストや乗務員の負担は変わらずかかる。G‌Wなどで減便も要請されたが、かえって「密」になるのでほとんど減らしていない。路線バスでは、減便後、「密」対策として国や自治体から続行便(同時刻に2本目のバスを運行)の要請を受け、採算割れで運行している。

今後、社会全体へテレワークが普及することは避けられないだろうが、人の移動を支え生業とする公共交通の立場からすると複雑な心境だ。駅の構内放送で鉄道事業者自らが「テレワークなどを活用して利用をお控えください」とアナウンスしているのを聞くと切なくなる。輸送人員の減少が恒常化するのであれば、公共交通を維持すべく適正な運賃についての議論は不可欠だ。需要の増減で運賃を変動させるダイナミック・プライシング導入の話も出ているが、単なる値下げ議論になれば公共交通を破壊しかねないと危惧している。

 

働く仲間の絆で難局を乗り越えたい

ー連合や政府への要望、世の中に広く発信したいことは?

日本の公共交通は、安全性、快適性、ダイヤの正確さのいずれも大変優れている。支えてきたのは、専門的な教育訓練を受け、使命と責任を自覚した交通労働者だ。

これまで地域の公共交通のあり方は、企業に丸投げされてきた。しかし、マイカー普及や人口減少などにより地域によっては採算が取れなくなり、人員整理・賃金抑制が繰り返された。労働者は時間外労働で何とか生活を維持してきたが、コロナ禍でそれもできなくなり、人材の流出が始まっている。この負のスパイラルを止めるためには、地域の公共交通のあるべき姿を国や自治体と議論し、必要な部分は、しっかりと支える枠組みをつくらなければならない。そして、そこで働く労働者の価値を高めていくことが重要であり、それは日本の地域の足としての公共交通を守ることにつながる。

公共交通が止まれば、エッセンシャルワーカーが出勤できなくなったり、ワクチン接種に行けない人も出てくる。もちろんどの産業も厳しい状況に置かれているが、輸送の重責を理解し、全力を尽くしている公共交通労働者を応援してほしい。働く仲間の絆で、互いを思いやり助け合いながら、この難局を乗り切っていきたい。

 

※この記事は、連合が企画・編集する「月刊連合7月」をWEB用に再編集したものです。

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