コロナ禍で、労働組合は職場の不安をどう受けとめ対応したのか。
UAゼンセン、私鉄総連、航空連合、連合石川に話を聞くと、働く人や産業をまもり、つなぎ、未来を創り出そうと、懸命に行動する労働組合の姿が浮かび上がった。
航空連合 将来を見据えて雇用維持・産業存続に取り組む
航空業界は、コロナ禍で最も深刻な打撃を受けた産業の一つだ。2020年度の国際線旅客輸送実績は前年比96・5%減、国内線は69・0%減。それでも日本の航空業界は、「雇用維持」を高く掲げ、労使であらゆる取り組みを展開している。その視線はどこに向けられているのか。
報道先行には戸惑いも
ー最初のコロナ対応は?
2020年2月4日、強い危機感をもって「新型コロナウィルスによる感染症に関するコメント」を発出。空港や機内、ホテルなどの職場では外国人を含むお客様との接点が多数あることから、マスクの支給や健康管理体制の構築など、働く者の意見を十分に踏まえた感染防止対策を求めた。また、検疫における混乱防止策や、事態が長期化した場合の生産体制・機材計画についても検討を求めた。
ーその後、影響が深刻化する中、雇用維持の観点から一時帰休、副業・兼業制度の導入、在籍型出向などに取り組み、その都度大きなニュースになった。組合員の受けとめは?
厳しい状況や各社の施策について、報道が先行することに不安を覚える組合員も多い。内容がすべて正しいとも限らない。組合員には会社や労働組合の情報発信から、正確に状況や施策を理解してほしいと伝えている。
「一時帰休」に関しては、当初、雇用の維持という意義が浸透していない状況があった。整備や貨物物流では繁忙感が継続しており、受けとめに温度差があったからだ。「副業・兼業制度の導入」は、コロナ禍以前に組合員から要望が出ていた。コロナ禍で、賃金補填という位置づけが生じたが、一過性のものとせず、「外部から知見やスキルを得て本業に生かす」という本来の趣旨に基づいて制度を充実させていきたい。「在籍型出向」は、従来も実施されていたが、コロナ禍で規模の大きい出向が増えた。試行錯誤の状態だが、受け入れ側の皆さんが温かく迎えてくれて、そのサポートがあってこそ成り立っていると感じている。特に出向先に労働組合がある場合は、その支えが頼もしく、本当に感謝している。
出向先で得た経験を本業に活かす
ー在籍型出向の位置づけは?
会社からは、「雇用を守る。そのためにできることはなんでもやる」との姿勢が示され、その一つの方法として、昨年秋頃「在籍型出向」が提案された。航空機の安全運航は、非常に専門性が高いスタッフによって支えられている。一人前になるまでの訓練に時間がかかるし、機材も高価だ。安易に手放せば元の生産体制を構築するのに数年単位の時間がかかる。需要回復に即対応できなければ、産業として成り立たず、役割を発揮できない。その危機感を労使で共有する中で、在籍型出向も、雇用を維持し、社外で様々な知見を得て本業で活かしてもらうことを目的としている。
ー出向の具体的事例、その進め方や条件の取り決めは?
客室乗務員やグランドスタッフが、小売やコールセンターなどの接客サービス業に出向したり、グランドハンドリングスタッフが物流や製造現場に出向している。
大手では、会社が直接出向先に打診したり、逆に申し出を受けて成立したケースが多い。地域では加盟組合も交えて産業雇用安定センターの斡旋を受けたケースもある。航空連合として関わった事例はまだないが、その仕組みはコロナ後も必要なものであり、連携のあり方を模索しているところだ。
具体的な進め方については、出向前、出向中の確認事項を整理した。出向前は、実施時期と期間、勤務地、出向形態、労働条件のほか、労働条件の違いの調整方法や人事評価、組合費の徴収方法についても確認しておく。また出向目的の明確化も重要だ。
出向中は、出向者懇談会の開催などフォロー体制を整備し、問題解決のルートも明確化する。また、出向先に労働組合があれば、連携を強化する。
自らが変わるUXにチャレンジ
ーそういう中で迎えた2021春季生活闘争では、何を重点に交渉されたのか。
「産業・企業の存続」と「雇用の確保」だ。「雇用は守る」とのメッセージを出している企業は多いが、すでに役員報酬や給与の減額、一時金の大幅減額などに踏み込まざるを得ない状況下での春季生活闘争であり、現状の認識を共有し、将来に向けて何ができるかという対話を重視した交渉となった。
具体的には、予測される2024年頃の国際線需要回復を念頭に置きつつ、課題を洗い出した。ワクチン接種が進んだ国では需要が急回復しているが、日本でも感染防止策と一体となった需要喚起策や、ワクチンパスポートなどのデジタル環境整備が急がれる。また、人材育成や施設・設備の点検を継続するとともに、この機会に圧倒的な「生産性向上」に向けた取り組みをスタートさせる必要がある。その推進には健全な労使関係が基盤となることも確認した。
連合の春季生活闘争の集会では、「連合は連合でしっかり闘ってほしい」と発言した。コロナ禍で連合が掲げる「底上げ」「底支え」の大切さを再認識したからだ。
ー今後の課題や、連合、政府への要望は?
航空業界は裾野が広く、未組織の職場も多い。今後は、その雇用状況も注視しつつ、組織化にも取り組みたい。また、労働組合として、社会の構造変化に対応した「産業としてのありたい姿あるべき姿」「新しい働き方」についても議論を始めたい。航空連合では、これをUX(Union Transformation)と名づけたが、職場原点の運動を深化し、ダイナミックに変化する環境における運動を「探索」するため、自らが変わるという意志をもって実験検証を重ねている。
今後は、産業の枠を超えた取り組みがより求められる。課題は、①雇用の維持(セーフティネット)に対する政府への働きかけ、②「失業なき労働移動」に資する産別を超えたスキームの検討、③移動需要の創出につながる運動推進。航空連合として、労働組合の存在意義を問い直し、連合の仲間とともに日本の未来を創っていきたい。
※この記事は、連合が企画・編集する「月刊連合7月」をWEB用に再編集したものです。