性的指向・性自認にかかわらず誰もが安心してくらせる社会へ

2020年7月13日

 

「真の多様性」シリーズ第2弾のテーマは、「性的指向・性自認(SOGI)」。連合は2016年に「性的指向及び性自認に関する差別禁止に向けた連合の当面の対応について」を確認し、日本初となる非当事者を中心とした「LGBTに関する職場の意識調査」を実施、2017年には「性的指向及び性自認(SOGI)に関する差別禁止に向けた取り組みガイドライン」を策定し、関係団体との連携強化などを進めてきた。

連合結成30周年の2019年には、中長期の羅針盤として策定した「連合ビジョン」において、「持続可能性」と「包摂」を基底に、年齢や性、国籍の違い、障がいの有無などにかかわらず、多様性を受け入れ、互いに認め合い、誰一人取り残されることのない社会をめざすことを確認している。

国際的には、1990年代からSOGIに関する差別禁止が議論され、E‌U諸国やカナダなどではすでに差別禁止法が制定されている。また、2011年には国連がSOGIに関する初めての人権決議を採択し、SOGIにもとづく暴力と差別に懸念を表明している。

日本は、こうした動きに後れを取っていたが、東京オリンピック・パラリンピックの開催決定を一つの契機に対応が進んできた。さらに最近の動きで注目されるのは、厚生労働省が5月8日に公表した「職場におけるダイバーシティ推進事業」報告書・事例集と、6月1日施行のハラスメント対策関連法(労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法等の改正)にもとづくパワー・ハラスメント(パワハラ)防止措置の義務化だ。報告書には、国として初の職場のLGBT実態調査の結果が示され、パワハラ防止措置の指針には、「パワハラにはSOGIハラおよび望まぬ暴露であるアウティングも含まれる」ことが明記された。

これらをどう生かし、多様な人々が安心して働ける職場をつくっていくのか。LGBT法連合会の神谷悠一事務局長、ReBitの藥師実芳代表理事、電機連合の山中しのぶ中央執行委員によるオンライン座談会を行った。

[進行 照沼光二 連合ジェンダー平等・多様性推進局次長]

 

照沼 まず、問題意識を含めて自己紹介を。

神谷 LGBT法連合会事務局長の神谷悠一です。正式名称は「性的指向および性自認等により困難を抱えている当事者等に対する法整備のための全国連合会」で、賛同団体は約100団体。相談事例から、9分野354項目のLGBTに関する「困難リスト」を作成し、それをもとに政策提言活動を行っています。

日頃から当事者は日常会話や飲み会でSOGIを揶揄する「ホモネタ」などのハラスメントにつらい思いをしています。LGBTは外見からわかりにくい場合が多く、人知れずつらい思いをしているのが現状です。仮に自分が当事者だとカミングアウトしても、そのことでさらにいじめやハラスメントを受けやすく、異動させられたり、アウティングで働けなくなった人もいます。場合によっては転職を重ね、非正規雇用に就かざるを得ない、経済的に困窮するケースも少なくありません。様々な場面での何気ない言動に当事者は強いストレスを感じていることをまず知ってほしいと思います。

藥師 認定NPO法人ReBit代表理事の藥師実芳です。LGBTを含めたすべての子どもがありのままで大人になれる社会を願って、2009年に学生団体として設立しました。

LGBTの子どもや若者は、自殺願望を持つ割合が高く、いじめを受けることも多い。そこで学校現場で啓発に取り組んできたのですが、今、大きな課題になっているのが、就活時の差別やハラスメントです。LGBの42・5%、トランスジェンダーの87・4‌%が、就活時にSOGIハラなどを経験しています。例えば、面接官にトランスジェンダーであると言うと、「体はどうなっているのか」など性的な質問をされるなど、公正な採用選考がされなかったり、内定後にカミングアウトしたら内定を取り消されたりというケースもあります。

職場でも困難があります。職場の同僚にカミングアウトしている当事者は4・8‌%しかいないという調査もありますが、「職場にLGBTなんていない」という周囲の思い込みや偏見が、SOGIハラにつながることもあります。また、カミングアウトをしている場合、周囲の無理解によりSOGIハラを受けたり、アウティングをされたり、場合によっては辞めざるを得ない状況につながることもあります。また、トランスジェンダーの場合、トイレや更衣室などの男女別設備や宿泊研修などの部屋割に関する悩みも深刻です。カミングアウトしている人がいてもいなくても、誰もが安心して働ける環境づくりを進めていく必要があります。

山中 電機連合中央執行委員の山中しのぶです。実は、労組役員からも「うちの職場にLGBTはいないから、取り組む必要はない」という声を聞くんですが、それは、いないのではなくカミングアウトがためらわれる職場だからなんですね。電機連合では、LGBT・SOGIに関する取り組みを重ねる中で、当事者にとってカミングアウトは非常に重い問題であることを知り、カミングアウトを前提としない、安心して働ける職場づくりに取り組まなければいけないと考えています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

厚生労働省「職場におけるダイバーシティ推進事業」報告書・事例集の評価と注目ポイント

照沼 では、厚生労働省が公表した報告書・事例集について伺います。目的は性的指向・性自認に関する社会の関心の高まりを背景として、誰もが働きやすい職場環境を実現するための取り組みや政策に役立てること。企業・労働者調査のほか、労使や当事者団体へのヒアリング、個別企業の取り組み事例などが掲載されています。どう評価されますか。

神谷 国の事業として初のSOGIに関する職場の定量調査は画期的です。特に労働者調査では、LGBの約4割、トランスジェンダーの5割以上が職場で困っていることがあると回答しています。また、報告書は500ページにもおよびますが、一つだけ解釈の難しい結果がありました。LGBT当事者は「性的少数者」とも表現されますが、「自分は多数派である」と自認している人が相当数いる。自分を「当事者」と認めたくない、「内なるフォビア(嫌悪)」とも言うべき感情があるのかもしれません。しかしメンタルヘルス不調は高い傾向にあり、問題の根深さに改めて気づかされました。企業調査では、「多様性尊重」の方針を掲げる企業で取り組みが進んでいます。

藥師 重要なのは、報告書を職場の取り組みや政策にどう生かしていくか。

大企業での取り組みは進んでいますが、課題は、国内企業の99%を占める中小企業での取り組み。それを後押しする仕組みが必要です。すでに民間の評価制度として「PRIDE指標」がありますが、例えば「くるみん」(子育てサポート企業)や「えるぼし」(女性活躍推進企業)のような認定・表彰制度の充実や、取り組みを行う事業主への助成金の実施等があると、中小企業もより取り組みやすいと考えられます。

山中 LGBT・SOGIに焦点を当てた報告書が出された意義は大きいです。しかし、コロナ禍の状況もあり、ひっそり出された感があります。また、ページ数が多く、一般には読み取りづらいので、もう少しわかりやすくポイントを絞ったものを出していくことが重要だと思います。

神谷 連合会では、賛同団体に向けて、パワハラ防止措置とあわせて報告書の解説を行う予定です。制度や調査を支援者が有効活用できるかが試されています。これまでも、よりそいホットラインを開設する「社会的包摂サポートセンター」と協力して「性自認および性的指向の困難解決に向けた支援マニュアルガイドライン」を作成して現場を支援していますが、次回改訂時には今回の制度や調査を踏まえた新たな内容を反映していく予定です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6月施行の「パワハラ防止措置義務化」への期待と課題

照沼 昨年5月にハラスメント対策関連法が成立し、この6月より大企業に新たにパワハラ防止措置が義務付けられました。労働政策審議会雇用環境・均等分科会委員として審議に携わられた山中さんから。

山中 ポイントは、附帯決議を踏まえ、指針に「SOGIに関するハラスメントおよび望まぬ暴露であるアウティングもパワハラであり、防止措置の対象となる」と明確化されたことです。しかし、SOGIの問題とハラスメント対策を未だに別々に考えている企業もあるので、周知に課題が残ります。

神谷 LGBT法連合会では、制定に向けて様々な働きかけを行ってきました。パワハラ対策とSOGIの問題は別々にとらえられがちで、当事者が主張し続けないと抜け落ちてしまう危惧があったからです。

防止措置は、懲戒規定や相談窓口設置など「4分野10項目」にわたって定められました。また、指針には、SOGIに関する侮蔑的言動はパワハラであること、アウティングさせないための啓発も防止措置義務の範囲内であることなどが明記されています。これは地方公務の職場にも適用されます。非常に大きなターニングポイントになり得る法改正です。

藥師 今回のパワハラ防止措置について、文科省から、教員同士、教員から児童・生徒へのハラスメントだけでなく、教育実習生へのハラスメント防止措置を求める通知が出されました。教育実習生を守るルールができたことはありがたいです。

一方、課題は、就活生へのハラスメント防止が「望ましい取り組み」にとどまったこと。内定者については「雇用労働者であり、防止措置の適用対象」との確認がとれましたが、就活生は対象外。就活生は、企業に対して弱い立場にあり、LGBTに限らずハラスメントの事例が生じています。包括的に防止対策の議論を行い、そこにLGBT・SOGIの問題も入れ込んでいく必要があると思っています。

神谷 文科省通知は、パワハラ防止措置全体にSOGIハラが含まれるとする書きぶりですが、厚労省のパンフは少し限定的で、就業規則例やリーフレット例に記載が乏しい。ただ、通達で「被害者の性的指向・性自認を問わない」としたことは、重要なポイントです。これをテコに、LGBTでなくても、多数派であっても(カミングアウトしていなくてそう見える場合含む)、日常的にSOGIを揶揄する言動は問題であると訴えていきたい。とにかく言いすぎだと思うくらい言わないと届かないという点は、女性労働運動とも似たような点があると思います。

山中 実は労働組合の中でLGBT・SOGIの取り組みを提案するのは、ほぼ女性の執行委員。やはりマイノリティの経験をしてきた女性役員は、多様性にもっと光を当てなければという意識が強いのだと思います。

今回の義務化で、パワハラ対策としてSOGIハラへの対応が求められますが、おそらく職場では、SOGIへの対応にパワハラを入れ込んでいくアプローチのほうがわかりやすい。そこで電機連合では、SOGIのガイドラインを策定し、パワハラ関連の項目を入れることにしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京オリンピック・パラリンピックを一つの契機とした進展と課題

照沼 2020東京大会は延期となりましたが、開催に向けて、東京都が性的指向・性自認を理由とする不当な差別の解消等を謳った人権条例を制定するなど、取り組みが推進されています。この動きについては?

山中 オリンピック憲章にはあらゆる差別の禁止が規定されており、それにもとづく持続可能性に配慮した調達行動の策定が契機となって取り組みが進展しました。電機連合の加盟組織には、公式スポンサー企業も多いのですが、東京レインボープライドへの参加やハンドブックの作成のほか、同性婚を含む事実婚を法的婚姻関係と等しく扱うよう労働協約を改定するなどの動きも広がっています。

藥師 ダイバーシティやSDGs(国連持続可能な開発目標)の「誰一人取り残さない社会」という大きな流れの中に、LGBT・SOGIの課題解決を位置付け、取り組みを進めていきたいと思っています。

神谷 私はこの運動を始めて15年になりますが、確かに東京オリパラに向けた流れを契機に運動が底上げされたと感じます。課題は、これを社会にどう定着させていくか。差別禁止を規定した都条例は、異性間の事実婚と同性パートナーに同じ福利厚生制度を適用することを企業に求めていますが、そのことはほとんど知られていません。

照沼 同性婚については、政府は依然として「想定されていない」との姿勢です。

神谷 男女の区別は、あらゆる社会制度、企業制度に埋め込まれています。今は、個別課題を中心に取り組んでいますが、税制、社会保障、相続、福利厚生など既存の制度を踏まえて丁寧に取り組む運動が必要です。

藥師 パートナーシップ制度は51の自治体に広がっています。法整備には多くの課題がありますが、自治体や企業の取り組みにより、国内でも議論が高まっていると感じます。

アメリカの調査では、同性婚を認める法律が可決された州で、L‌GB‌Tの10代の自殺未遂が低下したと報告されています。同性パートナーを社会がどう扱うかは、大人の課題と捉えられがちですが、若者・子どもたちの生きやすさにも影響すると考えられます。

照沼 法律婚と事実婚では、税制上の優遇や相続の権利が異なります。連合としても、この課題に向き合い掘り下げた議論を行っていきたいと思います。もう一つ、新型コロナウイルス感染症の影響については?

藥師 現在、ReBitではプライドハウス東京と共同で、12〜34歳の性的マイノリティの若者に対する緊急調査を行っています。他の調査からも、LGBTは非正規雇用の比率が高いとも言われており、コロナ禍に収入が減り、経済的不安を抱える人が増えています。また、前述の通り求職時にはSOGIハラを受けやすく、仕事を失った人の求職活動はたいへん厳しい。また、リモート会議時に同性パートナーとの同居がばれるのではないか、もし感染したら感染経路の調査で同性パートナーの存在が知られるのではないかという不安も多数寄せられています。

神谷 LGBT法連合会も、4月上旬に加盟団体アンケートを実施し、現在、国会の議員連盟、知事会、市長会などに政策要請を行っています。問題点として指摘したのは、①感染者情報には性別とあわせた形で濃厚接触者や続柄などの機微な個人情報が書かれ、アウティングにつながる恐れがあること、②非正規が多いとされる当事者の雇止めや解雇への対応などです。やはり、情報管理でも、雇用でも、平時の課題が危機の中でいっそう色濃く出てきています。第2波、第3波に備えてしっかりと対応を求めていきたいと思います。

山中 電機連合では、コロナ禍において、働く妊婦さんから不安の声が寄せられたため、組織内議員と連携して企業や政府に対応を求めています。LGBTの方含め、様々な声に耳を傾け、取り組みを進めたいと思います。

 

連合や労働組合に期待すること

照沼 最後に連合や労働組合に期待することをお願いします。

藥師 労働組合が、早くからダイバーシティやLGBTの運動を牽引し、労働者の声にならない声を可視化し取り組んでいることに感謝しています。これからの重点課題として、就活ハラスメントの防止と就労支援に特に注目しています。本当にたくさんの人がセーフティネットからこぼれ落ちている。連携して取り組めることを願っています。

神谷 労働組合にお願いしたいのは、LGBTなど多様な当事者の声を受け止め、参画できる労働運動をつくること。いろいろな人の声が上がってこそ、労働組合も強くなれると思います。パワハラ防止対策に関する取り組みを契機に、声を届ける回路はいくつもあることを示してほしい。労働組合の持つ力は大きいと考えています。これからも連帯して様々な課題に取り組んでいけたらと思います。

山中 「労働組合役員には、パワハラの相談をしづらい」という声を聞くこともあります。組合員に信頼されてこその労働運動。LGBT当事者は声を上げづらい現実がありますが、声なき声をしっかり受け止め政策につなげたいと思います。

照沼 「多様性の尊重」という時、気を付けなければいけないのは、相対的に強い立場にある人が、上から目線で相対的に弱い立場にある人を助けてあげるという議論になりがちなことです。一方通行ではなく、互いに認め合い、支え合うという「多様性の尊重」を実現していきたいと思います。今日はありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※この記事は、連合が企画・編集する「月刊連合7月号」をWEB用に再編集したものです。