労使の創意工夫でワーク・ライフ・シナジーを高める 連合・経済4団体「働き方改革 労使シンポジウム」開催

2017年11月8日

働き方改革 労使シンポジウムの様子

働き方改革 労使シンポジウムの様子

 

「働き方改革」が社会的な注目を集める中、連合は9月22日、経団連、日本商工会議所、経済同友会、全国中央会の経済4団体と共同でシンポジウムを開催し、550名が参集した。きっかけとなったのは、今年2月の連合・経団連トップ懇談会。「働き方改革については、労使がしっかりコミュニケーションをとり、主体的に取り組んでいく」との認識で一致し、その思いを広く社会に発信するため、他の3団体の賛同も得て初めて実現したもの。シンポジウムは、開会挨拶の後、柳川東京大学教授が講演。続いて、4つの組織が働き方改革の好事例を報告した。

 

開会挨拶

未来を見据えた「働き方改革」と労使の役割

神津里季生 連合会長

神津里季生 連合会長

わが国は、少子高齢化・人口減少という大きなトレンドの変化に直面している。生産年齢人口の減少は、「人手不足」という形で、すでにさまざまな産業・企業で顕在化し、より多くの働き手が活躍できる職場や社会環境の整備が求められている。また、AI(人工知能)に代表される新たな技術革新の波も、職場や働き方に影響を与えつつある。そうした未来を見据えた「働き方改革」を社会全体で進めていく必要がある。

働き方をめぐっては、男性正社員・長時間労働モデルからの転換が叫ばれて久しいが、今なお過労死・過労自殺などの痛ましい事件や、雇用形態間の不合理な格差をめぐる訴えが後を絶たない。政府は、働き方改革実現会議のとりまとめを受けて、罰則付の時間外労働上限規制や同一企業における均等・均衡処遇基準などの法改正を進めようとしているが、「仏つくって魂入れず」とならないよう、それぞれの職場で労使が問題意識を共有し、時代を先取りした取り組みを主体的・積極的に進めていくことが重要だ。

同時に、公正取引の実現など経済・社会システムの改革も進めていく必要がある。例えば運送業の働き方を改善するには、荷主や消費者の理解を得ながら、商慣行を見直していくことが不可欠だ。また、「働き方改革」の背景にある少子化を反転させるには、若者が安心して結婚し子育てできる環境をつくらなければいけない。

これまでも、日本の労使は、知恵を出し合い、経済社会の変化に対応してきた。これからも、引き続き日本的労使関係の強みを生かし、共に「働き方改革」を進めていきたい。

 

創造的かつ生産的な働き方の実現を

鵜浦博夫  経団連副会長・労働法規委員長

鵜浦博夫 
経団連副会長・労働法規委員長

日本の総人口は加速度的に減少し、政府推計では、2053年に1億人を割り、2065年にはおよそ8800万人まで減少すると見込まれている。これは、わが国の経済機能を縮小させ、総合的な国力の衰退を招きかねない国家的危機であり、社会全体で克服していくべき重要課題だ。

他方、世界に目を向けると、グローバリゼーションの深化により、国際競争は激しさを増している。特に近年は、IoT(モノのインターネット)やAIなど革新的技術を取り込んだ新たなビジネスモデルによる競争へと変化しつつある。まさにパラダイムシフトの中、わが国企業が活力を維持・向上させていくには、多様な人材が多様な働き方を選択できる環境を整え、潜在的労働力を引き出すとともに、革新的技術を成長のチャンスと捉え、イノベーションの創出を加速させていく必要がある。そのための取り組みの柱の一つが「働き方改革」だ。

時間外労働の上限規制が導入されるが、法制はあくまでインフラだ。「働き方改革」を実現するには、労使の意識や企業の商慣行を見直し、創造的かつ生産的な働き方を促していく必要がある。経団連では、会員企業に対し、長時間労働是正、年休取得促進、柔軟な働き方促進に関する自主行動計画の策定を呼びかけている。また、本日、経済4団体を含む110団体で「長時間労働につながる商慣行の是正に向けた共同宣言」(下表参照)をとりまとめた。課題は多肢にわたるが、労使が知恵を出し合い、大きな歯車を着実に回していくことで必ず克服できる。本シンポジウムを機に、労使一体となった改革の勢いがいっそう力強いものとなることを期待している。

 共同宣言(一部抜粋)

◆契約条件(納期・価格等)の明示を徹底する

◆仕様変更・追加発注では納期見直しなどに適切に対応する

◆取引先の休日・深夜労働につながる等の時間・曜日指定の発注は控える など全6項目

 

基調講演

技術革新と今後の働き方

柳川範之 東京大学大学院 経済学研究科・経済学部教授

柳川範之
東京大学大学院
経済学研究科・経済学部教授

心配の種を大きなチャンスに

働き方をめぐる大きな構造変化として、人口減少・長寿化、グローバルなパワーバランスの変化、AI等の技術革新の進展を挙げることができる。それにどう対応するか。足元の政策・制度の論議も重要だが、今日は少し未来を見据え、特に急速な技術革新を踏まえて、今後の働き方や企業のあり方の方向性を考えてみたい。

今、IoTを通じてさまざまな情報が集まり、それがビッグデータとして解析され、AIの発達を支えるというサイクルが生まれている。このトータルな技術革新の特徴の一つは、そのスピードの速さだ。新しい産業、新しい職業がどんどん生まれてくる。あるいは、新興国や途上国における経済発展や技術革新が進み、需要の急激な伸びが見込まれるが、それはモノやサービスの流れを変え、日本の企業も多様な人材の活用を迫られることになるだろう。

職場の文化や習慣を変えるのは時間がかかるが、変化にスピーディに対応し、組織や働き方を変えていく必要がある。それは多くの困難を伴うが、成長やより望ましい働き方を実現するチャンスでもある。

AIを生かせる組織づくりを

では、具体的に何が求められているのか。AIは、ディープラーニングの登場で飛躍的にその能力を高めている。例えば、「コンピュータが『眼』を獲得した」と言われるように画像の判断もできるようになった。遠くない将来、人間を凌駕するという論もある。しかし、それが画期的と言われるのは、これまでのコンピュータが、人間なら当たり前にできることができなかったからだ。おそらくAIがさらに発展しても、人間の能力をすべて代替できるわけではない。人間の多様な能力のうち、代替が有効な分野はどこか、まず棲み分けを考えるべきだろう。また、AIが得意な分野についても、その前段の情報整理や、結果の分析・活用は、人間の仕事になる。つまり人間とAIは補完的関係にあり、AIを有効に活用するには、適切な人材配置と組織・経営戦略が不可欠だと言える。必要な人材は、単なるIT技術者ではない。むしろ現場で働く人たちの「知恵」を集めてこそ、どの領域でどうAIを活用すればいいのかが見えてくるはずだ。だから、働く人たちは恐れることはない。現場をよく知る労使の工夫で、AIを生かせる経営戦略や組織づくりを進めてほしい。

「個人の視点」に立って

さて、環境変化に柔軟に対応できる組織づくりにおいて、重要なポイントになるのが、多様な働き方を認める「働き方改革」だ。情報技術革新は、時間と空間に縛られてきた仕事のスタイルを変え、働き方に自由度をもたらすツールにもなる。育児や介護を担う人や高齢の人も、「制約」を解き、働くチャンスが広がる。それは経営にとっても大きなメリットだ。

その時に重要なのは、働く側がどうすればより充実した働き方ができるかという、「個人の視点」に立って考えることだ。急激な変化がやってくるが、働く人たちが「人ならでは」の力を発揮できるように組織を変え、多様な働き方のメニューを用意していく。そうした柔軟性の確保こそが、未来のチャンスを広げることになるだろう。

事例紹介

1 大和ハウス工業株式会社

人財基盤を強化する「働き方改革」

菊岡大輔 大和ハウス工業株式会社 東京本社人事部次長

菊岡大輔
大和ハウス工業株式会社
東京本社人事部次長

大和ハウス工業は、企業理念として「事業を通じて人を育てること」「企業の前進は先づ従業員の生活環境の確立に直結すること」を掲げている。そして「人財基盤」を、「顧客基盤」「技術・ものづくり基盤」と並ぶ重要な経営基盤と位置づけ、その強化に向けて「生産性向上のための人財の育成・最適活用」「従業員が働きやすい職場づくり」の両面から、長時間労働是正と健康経営に取り組んでいる。

「労働時間長時間化の改善」としては、2004年、経営トップがメッセージを発信し、過重労働を物理的に防ぐために全事業所を22時に閉鎖する「ロックアウト制度」を導入(現在は、21時閉鎖に運用変更)。その後、「パソコンロックアウトシステム」も導入した。その上で意識改革として、「36協定」遵守を全社員に意識づけるため、上限に近づくと警告メッセージが出る「時間外労働の見える化」システムや事業所ペナルティ制度も導入した。その結果、4年間で約2割の時間外労働を削減できた。

年休取得促進は、半日単位、時間単位など柔軟に取得できる制度や最大100日の「積立制度」を導入。さらに2007年には取得を後押しする「ホームホリデー制度」(四半期に1日の計画的取得を義務づける制度)を実施したことで、飛躍的に取得率が上がった。

また、改善に取り組む事業所が報われるよう、「1人当たり生産性」ではなく、「時間当たり生産性」を重視した評価制度に改め、各現場に適正な人員を確保し、工事の集中を分散する工夫を評価する制度も入れた。その結果、1人当たりの売上高が増加する一方、年間総労働時間はこの4年で86時間の削減を達成した。今後も引き続き「労働生産性」の向上に全力で取り組んでいきたい。

 

2 損害保険ジャパン日本興亜株式会社

ダイバーシティ・働き方改革に向けた取り組み

小坂佳世子 損害保険ジャパン日本興亜株式会社 人事部特命部長

小坂佳世子
損害保険ジャパン日本興亜株式会社
人事部特命部長

人口減少、気候変動、デジタル技術の進化など、保険業界にとって「脅威」とも言えるビジネス環境の変化が起きている。それに対応するには、多様な人材による多様な議論と実践が必要だと考え、当社では「ダイバーシティ」を経営戦略の柱の一つに掲げている。

具体的取り組みは「女性活躍推進」から始めた。2003年に専門部署を設置し、女性が働き続けられる環境づくりとして、両立支援制度を充実。続いて、働きがいという観点から、「総合職」「業務職」の区分を廃止し、「女性管理職比率2020年度30%」というKPI(重要業績評価指標)を立てた。女性の勤続年数が約2倍に延び、管理職比率も高まったが、女性だけを対象としていては限界がある。そこで、全社員の生産性向上をめざし、2015年度から「男女ともに働き方の変革」をスタート。「時間と場所にとらわれない柔軟な働き方」を実践しようと「テレワーク」と「シフト勤務」を導入した。

全社員対象のテレワークは、「午前のみ」「午後のみ」など柔軟な利用が可能で、役員を筆頭に約2000名の社員が利用。アンケートを実施したところ、約7割が「生産性が向上した」と回答したが、「ペーパーレスの推進」「職場のコミュニケーション確保」などの課題も指摘された。また、働き方改革には、仕事の効率化が不可欠であり、「ゼロベースの仕事の棚卸」にも全社で取り組み始めたところだ。今後も引き続き、労働組合とも連携しながら、ハード(インフラ整備)、ソフト(意識改革・風土の醸成)の両面から、一人ひとりの社員の成長につながる「働き方改革」を進めていきたい。

[2016年度女性が輝く先進企業・内閣総理大臣表彰受賞]

 

3 東京急行電鉄株式会社

限定正社員制度導入のメリットと課題

下田雄一郎 東京急行電鉄株式会社 人材戦略室労務厚生部統括部長

下田雄一郎
東京急行電鉄株式会社
人材戦略室労務厚生部統括部長

東急電鉄は、中期経営計画における重点施策に「ライフスタイル&ワークスタイル・イノベーションの推進」を掲げ、「社員がいきいきと輝ける環境づくり」として、ダイバーシティマネジメントや健康経営などの施策を推進している。今日は、その取り組みの一つである限定正社員制度導入について報告する。

当社は、鉄軌道事業を中心に不動産事業や生活サービス事業などを展開し、事業特性に応じて約1000人の有期従業員(契約社員・パート)を雇用している。この有期従業員を事業・職種に限定した正社員へ登用する仕組みとして、「事業特化型特定職」制度を2011年に導入。対象は、東急世田谷線のアテンダント、不動産事業の店舗コンシェルジュ、旅行代理店事業のカウンター、情報処理事業のWeb製作を担う有期従業員。仕事の内容は変わりないが、小集団のまとめ役など期待する役割を一段引き上げ、意欲と適性のある人材については全社型正社員への登用も行う。

背景にあったのは、生産年齢人口の減少、労働契約法改正(無期転換ルール)、人材活用の多様化という外部要因に加え、従業員のモチベーション維持・向上なくして事業が成り立たないという内部要因だ。有期従業員に雇用の安定や将来のキャリアパスを示すことができず、多くの離職を止められなかった。

制度導入によって、働く側は、定年までの雇用の安定、福利厚生や退職金を含めた処遇の改善を得た。会社は、人件費が増えたものの、人材の長期的な確保と質の高いサービス、生産性の向上を得た。今後は、定期昇給など長期的キャリアパスを明確にした「(新)事業特化職」への移行を進め、人材確保と個人の能力を最大限発揮できる環境づくりにつなげたい。

 

4 電機連合

総実労働時間短縮に向けた取り組み

矢木孝幸 電機連合 総合労働政策部門書記次長

矢木孝幸
電機連合
総合労働政策部門書記次長

今年3月、春季生活闘争の産業別労使交渉において、電機・電子・情報通信産業経営者連盟と電機連合は、「長時間労働の是正をはじめとする働き方改革に向けた電機産業労使共同宣言」を確認した。経済の持続的成長のためには、多様な人材が活躍できる環境整備が喫緊の課題であり、長時間労働を前提としない生産性の高い働き方が求められている。

重要なのはアクションだ。「長時間労働による過労死を絶対に出してはならない」という強い決意を持って、労働時間管理のあり方や職場風土を見直していく必要がある。もちろん職場の努力だけでは限界がある。社会全体の価値観を変えていく運動も重要だ。一つ実例を挙げれば、毎年診療報酬・薬価の改定があり、4月1日に全国で新しい診療報酬・薬価改定が正確に反映されている。これが可能なのは、電機産業に働くシステムエンジニアが、一つひとつの病院・薬局のシステムデータを更新しているからだ。4月1日の運用開始期日に間に合わせるため一部のシステムエンジニアはたいへんな長時間労働を行っている。また、電機産業には裁量労働で働く人がたくさんおられるが、裁量労働者はその他の方々と比較して労働時間が増える傾向がある。電機連合調査では、残業時間の増加に伴い「このままでは、身体が壊れ、心が折れる」という悲鳴があがっている。私たちは、社会全体で長時間労働を強いる取引慣行や制度を変えていく必要がある。

電機連合では、ワーク・ライフ・バランスの推進と過労死等防止・健康確保の観点から、総実労働時間短縮の取り組みを進めてきたが、とりわけ重要なのは、労使が主体的に取り組むことだ。ベンチマーク指標の活用や成功事例の共有を通じて、加盟組合の取り組み支援によりいっそう力を入れていく。

※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合2017年11月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。「月刊連合」の定期購読や電子書籍での購読についてはこちらをご覧ください。