今、「働き方改革」の実現に向けて、労働組合や労使関係への期待が高まる一方、それを否定・破壊するような動きが出ている。連合の仲間が、それをはね返そうと日夜闘っている。これは、決して対岸の火事ではない。それぞれの職場で何が起きたのか。労働組合はどう行動しているのか。どんな支援が求められているのか。闘いの最前線からの報告を中心にその惨状を2回にわたってお伝えする。
1つは、使用者責任逃れの「業務委託契約の濫用」に疑問を投げかける全ベルコ労働組合(連合北海道・情報労連/冠婚葬祭互助会の最大手)。もう1つは、企業買収会社による露骨な組合つぶしに立ち向かう、JAM加盟のセコニック労組(光学電子情報機器メーカー)と日本コンベヤ労組(大型コンベヤのトップメーカー)だ。
不当な働かせ方や支配介入を許してはならない
業務委託契約の濫用、露骨な組合つぶし、その背景には何があるのか。労働組合としてどういう視点を持つべきか。連合逢見事務局長に聞いた。
ギグ・エコノミーへの懸念
最近、米国で「ギグ・エコノミー(Gig Economy)」という言葉が注目されている。ギグとは、非正規雇用労働者、(仕事がある時のみの)不定期就労者や請負契約などを指し、そうした労働者によって経済が成り立っている状態をギグ・エコノミーという。米国では、ギグ・ジョブがすでに全労働者の16%を占めると言われる。
日本でもそうした動きは出ている。その典型例がベルコだ。ベルコが昨年7月、監督官庁である経済産業省に提出した報告では、全従業員7128人のうち、正社員はわずか32人で、残る7000人以上は、本社と直接、業務委託契約を結ぶか、委託契約を結んだ代理店と雇用契約を結んで働いている。
驚いたことに、支社長や支社長代理、現場の管理職まで業務委託契約になっている。本当は会社組織であるのに、本部・複数の支社・多数の支部(代理店)にバラバラの独立した法人格を取得させ、支部を見せかけの「使用者」として労働者と雇用契約している。まさに「会社組織の丸ごと偽装」だ。労働法の規制を免れ、支店従業員への雇用責任を逃れる悪質な手法は、決して許されるものではない。
米国で流行したものは、数年後に日本でも流行するとの説があるが、ギグ・エコノミーが拡大すると、不安定雇用が広がり、低賃金労働者がますます増える懸念がある。また、業務委託・請負労働などには、労働基準法などの労働法制や最低賃金が一切適用されないことから、法律で保護されない労働者が増加することになり、看過できない。この米国の流行を決して日本に広げてはならない。
保有資産目当ての企業買収
TCSホールディングスのケースは、企業買収による労働組合への支配介入だ。1997年6月に独占禁止法が改正され、純粋持株会社の設立が認められるようになった。連合は、直接の使用者の上に来る持株会社にも使用者概念を拡大すべきと主張し、団交応諾義務を労組法に書き込むよう主張してきたが、それが入れられないまま現在に至っている。「ハゲタカ」ファンドに代表されるように、国内外のファンドや持株会社が日本の事業会社を買収し、そこに労働組合がある場合には組合つぶしにかかる。その企業の事業に魅力があるのではなく、保有資産や知的財産目当ての買収であるケースも少なくない。その場合は雇用関係の維持などはお構いなしで、企業組織がズタズタに切り割かれてしまう。今回のTCSの動きもこうした疑念が強い。
—労働組合としてどう立ち向かう?
これは日本の雇用と労使関係を守る闘いだ。情報労連と連合北海道は、全ベルコ労働組合を全面的にサポートして闘っている。連合も「全ベルコ労働組合裁判闘争支援対策チーム」を設置し、私が対策本部長として、こうした不当な働き方をなくすための闘いを展開している。また、組合破壊を阻止すべく、JAM傘下のセコニック労組と日本コンベヤ労組も懸命に闘っている。
逢見直人連合事務局長
【ベルコ闘争】「会社組織の丸ごと偽装」が明るみに、日本の「雇用」を守る闘い
ベルコ社の「会社組織の丸ごと偽装」が明るみになった発端は、連合北海道の労働相談ダイヤルに寄せられた1本の電話だった。連合北海道の全ベルコ労働組合対策委員会委員長を務める齊藤勉副事務局長は「業界のトップ企業が、こんな違法行為満載の働かせ方をしているとは思ってもいなかった」、全ベルコ労組の高橋功委員長は「葬祭業で働いていることに誇りを持っている。だからこそ、劣悪な労働環境を改善したいと連合に相談した」とその経緯を振り返る。
悪質極まりない使用者責任逃れ
株式会社ベルコは、会員から毎月互助会費を集め、結婚式や葬儀のサービスを提供する「冠婚葬祭互助会」の最大手。本拠地は大阪だが、全国に支社・支部(代理店)を配して事業を展開している。
2014年7月、連合北海道が別の葬祭会社の組織化に取り組んでいた時、ベルコの東札幌支社手稲支部代理店で働く従業員から、「労働組合を結成して劣悪な労働環境を改善したい」との相談があった。相談者は、支部代理店と雇用関係にあるが、支部代理店長は、ベルコの社員ではなく業務委託契約を結んでいるという。交渉を求める相手(使用者)は支部代理店長ということになるが、相談の電話を受けたスタッフは、直感的に「違法性」を疑った。詳しく話を聞くと、支部代理店長は「個人事業主」とは名ばかりで、実質的にはベルコ本社の支配下にあり、「応諾の自由のない」指示命令を受け、ベルコ本社の発令指示による人事異動も行われていた。代理店は、互助会会員を獲得するとベルコ本社から成約手数料が支払われる仕組みだが、解約や未納が生じると、その手数料の返還を求められる。また本社から無理な営業ノルマが課せられ、休日や深夜も問わず働いているが、時間外手当や深夜手当は払われない。指示に積極的に従わない代理店長や従業員に対しては契約打ち切り・解雇のプレッシャーをかける。そういったことが常態的に行われているという訴えだった。
全ベルコ労働組合の高橋委員長は「多くの従業員は、今後も如何なる不利益を課されるかわからず不安を抱えて仕事をしている。私たちは、葬儀業を誇りに思っている。みんなお客様のために精一杯仕事をしている。そんな仲間のために、ベルコの劣悪な労働環境を改善したいと、労働組合を結成して会社と交渉をすることを決断し、連合に相談した」と、その切実な思いを打ち明ける。
労働組合結成を理由に解雇
連合北海道は、こうしたベルコ社の手法について、業務委託を濫用することで使用者責任を放棄し、労働者保護ルールの適用を免れ、利益のみを確保しようとするきわめて悪質巧妙なビジネスモデルであり、「偽装雇用」だと判断。労働組合結成の準備に入った。
ところが、この動きを察知したベルコ本社は2015年1月28日、組合結成の中心メンバーである高橋委員長と豊田書記長が勤務する手稲支部代理店長に対し、契約期間満了まで半年を残しているのにもかかわらず、契約を無理やり解除し、代理店を閉鎖。その業務と両名を除く全従業員を、新たな支部代理店を設置して承継した。
これに対し高橋・豊田両氏をはじめとする労働者は1月30日、全ベルコ労働組合を結成し、連合北海道地域ユニオンに加盟(のちに情報労連にも加盟)。翌日、ベルコ本社に労働組合結成通知と団体交渉申し入れを行った。連合北海道は、全ベルコ労働組合対策委員会を設置して、ベルコ本社宛の抗議行動と組合への激励行動、ベルコ労組・情報労連・地協役員による全道組織化オルグを展開。また、地位保全などを求める仮処分、本裁判を提訴し、労働委員会への不当労働行為救済の申し立ても行った。連合本部もまた「全ベルコ労働組合裁判闘争支援対策チーム」を設置し、弁護団への支援を強化する一方、これまで札幌、東京、大阪でのシンポジウム開催や厚労記者クラブでの記者レク実施など世論喚起に努め、週刊東洋経済(2017・3・25号)には「冠婚葬祭業に蔓延する『個人請負』の深い闇」というタイトルでベルコの特集記事が組まれた。
「私たちの情報発信に対し、全国のベルコで働く方や元社員などから問い合わせが相次いでいる。ベルコの仲間が安心して働くことができるよう力を貸してほしい」と齊藤副事務局長。ベルコ闘争は、ベルコで働く人だけでなく、まさに日本の雇用を守るための社会的な闘いなのだ。
齊藤 勉 連合北海道副事務局長
【弁護団より】ベルコ解雇事件の本質は究極の「雇用関係によらない働き方」である
株式会社ベルコは、全従業員7128人のうち、正社員はわずか32人。残る「臨時社員」は、すべて業務委託契約か業務委託している支部長が雇用している形式を取っている。驚くべき「究極の業務委託の濫用事例」であり、ここまで大規模で徹底的に業務委託形式を悪用して使用者責任を免れる事例は日本の労働裁判史上、過去に類例がない。
労働委員会も、「支社長までが業務委託とは…。こんな企業はありえない」との認識をもっている。従来の法理論や判例法理では解決できない初めての類型の労働事件であり、新しい労働者保護法理が検討されなければ、労働組合と労働者を守れない危険性のある事件である。
現在、経産省は「雇用関係によらない働き方」を推し進めようとしているが、ベルコはまさに「労働法の不要な」「労働組合も結成できない」社会へのリーディング・カンパニーと言える。悪質極まりない「業務委託」の濫用が広がれば、日本の雇用社会は崩壊してしまう。これは、絶対に負けられない闘いだ。
棗 一郎氏(弁護士、日本労働弁護団常任幹事)
不正な企業と闘う労働組合の後半②では、日本コンピュータサービスを母体とするTCSグループのJAM傘下のセコニック労組と日本コンベヤ労組の闘いについての詳細を報告します。
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※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2017年5月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。「月刊連合」の定期購読や電子書籍での購読についてはこちらをご覧ください。