雇用をめぐるトラブルを防げ!ワークショップ開催

2017年5月10日

そのトラブル、ワークルールを知らないから?

今、働く現場が病んでいる。「長時間労働」や「過労死」「パワハラ」など深刻な問題が連日報道されている。これらは学生のアルバイト現場でも起きている。その原因の1つとしてあるのは、働く側も使用者側も、ワークルールの知識が乏しいことだ。

雇用をめぐるトラブルを未然に防ぎ、働きやすい環境を整えるために、「ワークルール」をどう浸透させていくか。連合は4月6日、都内で「ワークルールを考える」ワークショップを開催。職場の実情をよく知る岩本充史弁護士、アルバイト学生の実情に詳しい上西充子法政大学教授、日本ワークルール検定協会の高橋均専務理事が、西野ゆかり連合広報・教育局長の進行で語り合った。

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今、現場で何が起きているのか

西野 まず岩本先生から、寄せられている相談等をもとに職場の現状をお話しいただきたい。

岩本 私は、企業からの相談や労働事件の処理に携わっているが、その中でも、やはり「会社の担当者にもう少しワークルールの知識があれば、こんな紛争は起こらなかっただろう」という事例が少なからずある。本社の人事担当者は知識を持っているが、問題はそれが現場まで浸透していない場合があることだ。

事例を紹介すると、例えば「採用内定取り消し」をめぐるトラブル。採用内定とは、労働契約が成立しているが、使用者側に解約権が留保されている状態で、大学を卒業できなかった場合などを除いて安易に取り消しはできない。また、職業安定法では、新卒者の内定取り消しがあった場合、ハローワークへの通知を義務づけており、2年連続で取り消しがあると、制裁として企業名が公表される。ところが、こうしたルールを知らずに安易に取り消しを行い、トラブルになるケースが出ている。

また「就業規則(労働条件)の不利益変更」に関する相談も多い。昨年2月、最高裁は「山梨県民信用組合事件」において、退職金規程の不利益変更も労働者の同意があれば可能である旨の判断を示した。しかし、これをもって同意さえあれば不利益変更は有効と早合点することは危険である。就業規則の変更においては、不利益の内容・程度、変更の必要性、不利益を緩和するための代償措置や経過措置を講じることが求められる。ワークルールを学ぶ時には、うわべのルールだけでなく、背景にある労働法の考え方をしっかり理解することが重要だ。

西野 連合の「なんでも労働相談ダイヤル」からも事例を紹介したい。昨年1年間で全国から1万5000件超の相談が寄せられた。「シングルマザーで、幼い子を抱えて働いている。勤務時間は8時半から17時までだが、7時前に出勤するよう言われ、断るとパートに変更すると言われた」(20代女性)。「1人で母の介護をしているが、転勤命令が出た。仕事を辞めるしかないのか」(50代男性)。他にも労働条件の不利益変更や残業代未払いの訴えはたいへん多い。ワークルールの知識がないため、仕方なくあきらめている…。そんな実情もみえてくる。

続いて上西先生からは、学生アルバイトの実情をお話しいただきたい。

上西 3月に『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』という本を出した。授業の中でアルバイトや就活におけるトラブルを学生から聞く機会が多く、そうした事例をもとに対処法を解説している。岩本先生から、現場の管理職はルールを知らないことが多いという指摘があったが、学生たちがアルバイトで働くのは、まさにそうした現場だ。

厚生労働省の調査(2015)では、学生1000人が経験した延べ1961件のアルバイトのうち、労働条件通知書を交付されていないとの回答が58.7%、何らかのトラブルを経験したとの回答が48.2%。内容は、「実際に働いた時間通り賃金が支払われない」「一方的にシフトを変更された」など。私自身の授業でも事例を聴いたが、同様の訴えは山ほど出てきた。セクハラやパワハラも深刻だ。学生アルバイトは補助的労働で、正社員が面倒をみてくれるというイメージがあるかもしれないが、今では現場の基幹的な労働力であり、労働法を知らないことにつけこまれ都合よく使われている。また、就職活動でもトラブルは多く、内定拘束が強まり学生生活に支障が出ている実態もある。

問題なのは、トラブルになった時、学生たちはほとんど対処していないことだ。おかしいと思っても、人間関係が気まずくなると我慢してしまう。

ワークルールの知識がもっとあれば

西野 学生アルバイトも「労働者」であるとの認識が不足しているのではないか。「ワークルールの知識がもっとあれば…」と思わずにはいられないが、高橋専務理事から、ワークルール検定についてのご説明を。

高橋 2013年の「日本人の意識調査」(NHK放送文化研究所)で、「労働組合をつくることは、憲法で保障されていることを知っている」「職場で労働条件について強い不満が起きたときは労働組合をつくる」という回答は、1973年の第1回調査に比べ半減していた。労働組合組織率も賃金水準も低下している。ワークルールの知識、権利意識、賃金には相関関係がある。また、ある労働基準監督官から「労基法違反で指導に入った会社の社長に、『うちの会社は労働基準法に加入していない』と言われた」と聞き、経営者にもワークルールの知識が必要だと痛感した。ただ、勉強するには何かきっかけがないと難しい。そこで、クイズ形式の検定試験を考えた。2013年にスタートし、初級は年2回、中級は年1回実施している。いきなり試験を受けるのではなく、その前の講習で基本的なワークルールの考え方を学んでもらう。岩本先生がおっしゃるように、そこが何より重要だと考えるからだ。現場の管理職の研修にもぜひワークルール検定を活用してほしい。

岩本 ワークルールの知識を職場の末端まで行き渡らせ、継続していくことは、企業にとっても非常に有益かつ重要なことだ。例えば直属の上司が36協定の意義、効果を知っていれば長時間労働が原因となる紛争を防げたというケースは相当あると思われる。ワークルール検定は企業にとっても有益なツールだと思う。

上西 一人で問題を抱えてしまうと、「いやなら辞めろ」という話になる。職場で問題を共有し、みんなで改善を求めていくことが大切であり、ワークルールを学ぶ意義はそこにもある。

高橋 車の運転には免許証が必要なように、人を雇う時はワークルールの知識が不可欠。それが社会の常識となるよう検定を普及させていきたい。

西野 次回ワークルール検定は、全国9会場で6月11日に実施。ぜひチャレンジしてほしい。今日はありがとうございました。

【登壇者紹介】

            ● 岩本充史 いわもとあつし
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弁護士
早稲田大学法学部卒業後、参議院法制局、安西法律事務所を経て、2009年より中央大学法科大学院、駒澤大学大学院にて講師を務める。東京労働局公共調達監視委員会委員。東京簡易裁判所民事調停委員。東京地方最低賃金審議会公益代表委員。共著に『別冊ビジネス法務・不況下の労務リスク対応』(中央経済社)、『社員が裁判員に選ばれたらどうするか?』(労働調査会)、『緊急災害と人事管理Q&A』(産労総合研究所)など。

 

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● 上西充子 うえにしみつこ
法政大学キャリアデザイン学部教授
東京大学大学院経済学研究科第二種博士課程単位取得退学。労働政策研究・研修機構の研究員を経て、2003年より法政大学教員。専門は社会政策、若年労働問題。(一社)日本ワークルール検定協会啓発推進委員。 共著に『大学のキャリア支援』(経営書院)、『就職活動から一人前の組織人まで』(同友館)、『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社)など。

 

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● 高橋 均  たかはしひとし
(一社)日本ワークルール検定協会専務理事
1974年より読売旅行労働組合結成に参加。書記長、委員長を経て観光労連(現サービス連合)書記長、委員長を歴任。1996年から連合本部組織調整局長、総合組織局長を務め、2003年に同副事務局長に就任。2007年より労働者福祉中央協議会事務局長に就任。現在、同アドバイザー。

 

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 ● 西野ゆかり[進行]
連合広報・教育局長、(一社)日本ワークルール検定協会理事

 

 

 

【書籍紹介】

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働く上で最低限必要なワークルールや相談窓口をまとめました。連合HPで掲載中です。ぜひご活用ください。

仕事での不安や悩みは、職場の労働組合に相談しましょう。職場に労働組合がない場合は、「連合 なんでも労働相談ダイヤル(0120-154-052)」にご相談ください。

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ワークルール検定問題にチャレンジしよう!
Q:以下のうち、最低賃金法の適用を受ける労働者をすべて選びなさい。
1.嘱託社員  2.学生アルバイト  3.派遣労働者  4.パートタイマー
A:1、2、3、4
〈解説〉:岩本弁護士
学生アルバイトも労働者です。すべての労働者が最低賃金法の適用を受けます。

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検定会場は、北海道、山形、群馬、東京、島根、佐賀、和歌山の7か所です。5月13日まで受付しています。ぜひ、検定にチャレンジしてください。

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ワークルール検定とは、労働基準法や労働組合法などの法律や、休日や賃金、解雇など、職場で問題になりやすいワークルールに関する一般的な知識を問う検定試験。問合先:(一社)日本ワークルール検定協会☎03-3254-0545

※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2017年5月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。「月刊連合」の定期購読や電子書籍での購読についてはこちらをご覧ください。