今、「働き方改革」の実現に向けて、労働組合や労使関係への期待が高まる一方、それを否定・破壊するような動きが出ている。連合の仲間が、それをはね返そうと日夜闘っている。前回は使用者責任逃れの「業務委託契約の濫用」に疑問を投げかける全ベルコ労働組合(連合北海道・情報労連/冠婚葬祭互助会の最大手)の闘いを報告した。今回は、東京コンピュータサービス(株)を母体とする「TCSグループ」に買収された企業で起きている、露骨な労働組合つぶし。その標的となったJAM傘下のセコニック労組と日本コンベヤ労組は、懸命の闘いを続けている。
【TCS闘争】日本の「労使関係」を守る闘い
繰り返される不誠実団交
TCSグループによる企業買収・労働組合破壊の手法はこうだ。まず、グループ企業を動員して市場で株を買い占め、業務提携の話を持ち込む。その後、TCSグループから役員を送り込み実権を握る。買収した会社を事業会社と持株会社に分割し、実体のない子会社などを複数設立。そして、一方的に労働条件の切り下げを行う。労働組合があり、健全な労使関係が築かれていた会社では、それをズタズタに破壊していく。
JAM本部で闘争支援の先頭に立つ栄敏彦組織グループ長は、その執拗な攻撃に怒りを隠さない。「最初に一時金の減額および業績連動の廃止、定昇凍結や賃金制度の変更などを組合の合意を得ないまま強行する。春闘の賃金・一時金交渉はゼロ回答から始まり、きわめて低額の回答が示され、合理的な説明のない不誠実団交が何度も繰り返される。さらに、ユニオンショップ協定の廃止など労働協約の改定について会社提案を押し付けるか、期限切れを理由として一方的な協約の破棄を行ってくる」。
労働組合そのものの危機
こうした組合破壊攻撃に対し、セコニック労組、日本コンベヤ労組は、労働委員会に不当労働行為救済を申し立てるとともに、一方的な賃金・一時金の切り下げに対して、時間外労働拒否、ストライキなどあらゆる手段を駆使して対抗してきた。しかし、他のグループ企業からの出向により人員補充を行い、組合役員をねらって配置転換を行うなど、労働組合組織の弱体化をねらった攻撃をエスカレートさせている。
栄グループ長は、「セコニック(光学電子情報機器メーカー)と日本コンベヤ(大型コンベヤのトップメーカー)、どちらの企業も、TCSに買収される前は、ユニオンショップ協定のもとで確固たる労使関係が構築されていた。このような経営者が跋扈すれば、当該単組のみならず、労働組合そのものの存在が危うくなる。親会社の使用者責任を厳しく追及していくと同時に、日本の労使関係を危機に陥れる重大な社会的問題として世の中に警鐘を鳴らす必要がある。また、事業譲渡、合併などの企業再編においては、労働組合への事前の情報提供・協議を義務づける労働者保護ルール、親会社の雇用・使用者責任、純粋持株会社、グループ企業、派遣先企業、投資ファンドなどにおける使用者責任を明確化するなどの法制化も喫緊の課題だ。この危機感をすべての労働組合に共有してほしい」と訴える。
陰湿かつ悪辣な労働組合つぶしを仕掛けるTCSと日本コンベヤ労組の闘いは、3年を経過し激しさを増している。
2015年12月、TCSは、「ユニオンショップ(ユ・シ)条項の破棄」、「同意条項の削除」、「便宜供与の削除」など、労働組合を弱体化させ破壊を目論む労働協約改定を申し入れてきた。組合は改定を拒否したが、3カ月後には一方的に期間満了を宣言。さらに、2016年4月には組合の反対を押し切り、日本コンベヤの上にNCHD という純粋持株会社を設立。そこから出向という形で新入社員が送り込まれた。
これに対し組合は、①労働協約が有効であること、②NCHDからの出向を中止し直雇用として組合員にするか、ユ・シ条項の範囲を拡大し出向社員を組合員にすること、③数々の不当労働行為に対する反省と謝罪を求め、2016年5月、大阪府労働委員会に不当労働行為救済申立を行った。
安心して働ける職場を取り戻すために、組合員の団結を背景とする現場での実力闘争と労働委員会闘争に全力で取り組む日本コンベヤ労組に強力な支援をお願いしたい。
【弁護団より】M&Aを利用した企業のブラック化への対策を
M&Aは、近年再び増加傾向にある。M&Aにより経営権を握った企業は、「労働条件の破壊」「労働組合に対する支配介入」「会社財産の簒奪(さんだつ)」を繰り返しブラック化している。セコニックでは、TCSグループが会社の経営権を握って以降、「協約で定められた一時金全額不支給」「課長職の降格」「退職勧奨」「組合脱退工作」が行われてきた。セコニック労組は、労働協約の失効措置が支配介入(労組法7条3号)であるとして東京都労働委員会に不当労働行為救済申立を行い、現在命令を待つ段階である。TCSグループは、経営権を握った日本コンベヤでも同様の攻撃を行っており、日本コンベヤ労組は、争議行為を繰り返し抵抗している。TCSホールディングス総務部の管理職が、両組合との団体交渉に出席しグループ全体の支配をはかっている。労働組合は、M&Aを利用した企業のブラック化の課題にもっと目を向ける必要がある。
これは対岸の火事ではない
労使関係を破壊する経営との闘いだ
労働組合は社会の公器だ。対等で健全な労使関係を通じて、労働者の権利保護や雇用確保、労働諸条件の向上をはかり、企業の発展や持続可能性の向上にも資するという役割を担っている。まさに企業にとって労働組合は大切なパートナーである。
おりしも、「働き方改革実現会議」の議論を踏まえ、非正規雇用労働者の処遇改善や長時間労働是正を柱とする「実行計画」が示された。その実現に向けては、現場の労使の取り組みこそがカギになる。そうした意味でも、労使関係や労働組合の役割に社会の期待が高まっているのだが、一方でそれを否定し破壊しようとする経営も登場している。
ベルコにおける使用者責任逃れ、TCSグループによる労組攻撃と労働協約破棄。いずれもこれからの時代にますます重要性が高まる集団的労使関係を真っ向から否定するものだ。しかも、ベルコのケースは、放置すれば日本全体に広がりかねない危険をはらんでいる。またTCSグループのケースは、いつ自分たちの企業で起きるかもしれない問題だ。
これに対し闘う労働組合は、労働者の権利だけを主張しているのではない。まして会社を倒そうとしているのでもない。一方的に労働組合を敵対視する経営に対して、お客様の信頼のため、会社をよくするため、労使関係を大切にするために闘っているのである。
これは、絶対に負けられない闘いだ。連合は、ベルコ、TCSグループに対する闘いを全面的に支援していくとともに、組織内外にその実態を伝え、世論形成を通じて何としても裁判・労働委員会闘争を勝ち抜きたい。
仕事での不安や悩みは、職場の労働組合に相談しましょう。職場に労働組合がない場合は、「連合 なんでも労働相談ダイヤル(0120-154-052)」にご相談ください。
※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2017年5月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。「月刊連合」の定期購読や電子書籍での購読についてはこちらをご覧ください。