はじまった職安法の改正議論、求職者を守るルールづくりを

2016年11月5日

連合は「ホントにあった怖いブラック求人!!」キャンペーンを10月7日から31日まで実施。Twitterでハッシュタグ「#ブラック求人あるある」をつけて投稿された求人詐欺の実例を集め、3,000件を超えるネットの声が寄せられた。

連合_ブラック求人

実際の労働条件とは異なる求人情報によって求職者が不利益を被るケースが後を絶たない。不適切な求人情報を信じて就職し、働き始めてから気付いて泣き寝入りせざるを得ない場合も多く、顕在化していない悪質なケースが多くあると考えられる。

連合が、この時期にキャンペーンを実施した背景には、ハローワークや職業紹介事業等に関して定めた職業安定法の見直しの議論が、労働政策審議会で行われており、来年1月からの国会における法案審議をめざしていることがある。

職業安定法は1947年に制定されて以来、大きな改正がなく現在に至る。しかし、近年は多様なメディアが求人・求職に介在するようになったことから、こうした雇用仲介事業(※)に関する新たなルールづくりが求められている。

(※)職業紹介事業、労働者派遣事業、委託募集、求人広告・情報提供事業などの就労マッチングを担う事業の総称。

この審議会で連合は労働側の代表として、いわゆる「詐欺求人」をなくしていくために、以下を求めていく。

  1. 事実と異なる労働条件を明示してはならないことを法律に明記
  2. 明示された労働条件が事実と異なる場合には労働基準監督官の指導・監督を可能に
  3. 違法行為で行政指導を受けた企業名の公表

また、雇用仲介事業の適正化のためにも次の法制化・見直しを要求していく。

  1. 現在法規制の対象外である求人・求職者情報提供事業にも雇用仲介事業者としてのルールを明確化
  2. 多様化する事業の実態を踏まえて、職業紹介事業と求人・求職者情報提供事業の区分基準の見直し

キャンペーンに先駆けた10月6日には「『ブラック求人』問題を考える座談会」を実施。上西充子法政大学キャリアデザイン学部教授、嶋﨑量弁護士(神奈川総合法律事務所所属)、村上陽子連合総合労働局長が登壇した。

ブラック求人

村上総合労働局長は、ハローワークの求人票の記載内容に係る求職者からの申出・苦情等件数が2015年に10,937件にのぼり、「求人票の内容が実際と異なるといったものや、求人者への説明不足によるものが多い」と指摘。また、求人情報・求職情報提供事業を実施する企業に対する求職者からの苦情について、半数近くの48社が「苦情があった」と回答し、その内容は「掲載された求人情報と内容が異なっている」が一番多いというデータを紹介した。

村上局長

連合が全国で行っている「なんでも労働相談ダイヤル」には、「ハローワークの求人票には月給19万となっていたが、初めての給与明細を確認したところ、基本給12万5千円、固定残業、他手当含む19万円となっていた」といったものや、「求人票と違うことを指摘すると“求人票が間違っている”と言われ、労働契約書に捺印するように迫られた」といった悪質なケースが相談として寄せられている。

また、賃金などの労働条件は書面で明示されることが義務付けられているが、連合が若手社員(入社2~5年目)に対して行った調査では、「書面で渡された」のは3人に2人の割合にとどまり、労働条件を書面で渡された場合よりも書面で渡されなかった場合の方が、若手社員の離職発生率が高い傾向にあるという結果が出ている。

 

学生や求職者側の意識改革も重要

若者の就職問題に詳しい上西教授は、「学生はいかに内定をもらうかという指導を受けているため、労働契約という意識がない。まず労働条件をしっかり見なければいけないということがわかっていない。募集要項を見ないで応募している学生もいるのでは」と話した。また、内定の段階で労働条件通知書をもらえないことについて、「入社時にわかっても取り返しがつかない」と話し、内定時に労働条件通知書を受け取ることの重要性を指摘した。

上西教授

「ブラック企業」や詐欺求人の問題に詳しい嶋﨑弁護士は、「本当は被害に遭っているのに気づかないケースがある。被害に遭っているという自覚のないケースも多い」と語り、ブラック求人問題が多くの人に意識されることが重要だと指摘。「正社員と言われて働きはじめて、大きなトラブルがあって裁判所に行って実は異なる雇用形態(派遣など)で働かされていると会社から主張されるという例もある」と話し、「まともな求人を出している会社が損をするような不公正な労働市場になっている」と働く人の問題に留まらない現状があることを強調した。

近年は就職・転職サイトの利用が一般的になっている。上西教授は「大学生の就職活動は就職サイトに登録するところからはじまるが、学生は自分たちを応援するサイトだと思っている。実際お金を出しているのは求人側で、おすすめの企業として表示されるのは企業が追加料金を払っているからかもしれない。大問題は正社員か契約社員かなどの雇用形態が書いてある欄がそもそもないこと。学生は当たり前に正社員だと思うが実際はそうじゃないこともある」と語った。

一方で嶋﨑弁護士は「IT化の社会の中でブラック企業という問題が出たわけではなく、古典的な紙媒体等の求人にもブラック求人はある。IT化によって問題が顕在化したと捉えるべきだろう。あらゆる形態の求人情報が無法地帯だと思う。当事者である就職活動をしている人がこれらを認識しているかというとそうではない」と述べた。

 

罰則を含めた法制化が必要

上西教授と嶋﨑弁護士の見解が一致したのは「ブラック求人をなくすためには、罰則を含めた法制化が必要」ということだった。上西教授は「誠実に労働条件を明示して契約する企業もたくさんあるが、記載の見た目が良くて実態が悪いところがあるので、限られた中でもきちっとしたところを選べる労働市場になってほしい」と語り、嶋﨑弁護士は「当事者の意識だけでは限界がある。このままでは不公正な競争が放置されてしまうので、適正化するために規制はぜひ入れたい。騙される求職者がいなくなるような法律を作るべき」と話した。

嶋崎先生

この秋からはじまった労働政策審議会での議論について「求職者を守るルールづくりを一歩でも二歩でも前に進めるような議論をしていきたい」と村上総合労働局長は語り、ブラック求人がなくなる社会へ少しでも近づけていく決意をにじませた。

今回のキャンペーンでは、労働組合の有無にかかわらず、あらゆる雇用形態の人から多くの声が寄せられた。こうした働く人たちの声が国の法律を動かす力になることから、連合は引き続き多くの方に、誰にでも起こりうる身近な問題として、このブラック求人問題に関心を持ってほしいと考えている。

 

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