いつ、誰が、判断したのかいまだ明らかにできないまま
当初の予定であれば11月には、築地市場から豊洲新市場への移転が完了しているはずでしたが、小池百合子都知事は、就任直後に豊洲移転を予定通り行うかどうかを、「立ち止まって検証する」と発言。その時点では、地下水の調査結果が出る来年1月ごろを判断の目安としていたようですが、その後は問題続出で、今や豊洲への移転はまったく先が見えない状況となっています。
豊洲の移転予定地はガス工場の跡地であり、土壌がベンゼンなどに汚染されていたため、「地表から2mを掘削し、その上に高さ4.5mの盛り土を施す」と、都側は説明していました。しかし実際には主要な建物の下には盛り土はされず、空洞になっていたことが判明し、「いつ、誰が、こうした判断・決定をしたのか」、都庁内にチームを組織して調査することになりました。しかしながら、その結論は、どの段階で決定したか、具体的に明らかにできないというもので、その間、歴代の市場長が「自分は地下空洞の存在を知らなかった」との発言が報道され、さらには、石原慎太郎元知事が関与していた疑いも浮上するという事態になりました。
重視されるべきは安全・安心 見切り発車は許されない
小池都知事は、山本七平氏の『「空気」の研究』を持ち出し、「そのような空気が支配していた」との観測を述べました。山本七平氏の著作は私もよく読みましたが、『「空気」の研究』は、日本の意思決定の本質を射貫いたような指摘です。山本氏は著書の中で、「空気」とは、非常に強固でほぼ絶対的な支配力をもつ「判断の基準」であり、それに抵抗する者を異端として、社会的に葬るほどの超能力であって、「われわれは、常に論理的判断の基準と、空気的判断の基準という、一種の二重判断のもとに生きている」と述べています。
ドンのような存在が一言発すると、それが非論理的であっても、誰も反論できない。そんな経験は私にもあります。東京都中央卸売市場は、都民の食を賄う大事な場所であり、安全・安心を何よりも重視しなければならないところです。そこでつくられた地下空洞の決定過程が不明で、「空気の支配」といわれても納得いくはずがありません。
移転が遅れれば、東京オリンピック・パラリンピックの選手村と競技会場を結ぶ、環状2号線の整備が遅れ、大会に間に合わないという懸念もありますが、見切り発車は絶対に許されません。安全が確認できるまで、移転が凍結されるのはやむを得ません。
同音折句(同じ音を頭に折り込んだ句)
◇地下空洞 違うじゃないのと 知事怒り
◇市場長 知らなかったと シラを切り
◇東京都 豊洲移転が 頓挫する
※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2016年11月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。「月刊連合」の定期購読や電子書籍での購読についてはこちらをご覧ください。