【神津里季生のどまんなか直球勝負!】
国民軽視の暴挙としか思えない
─政権・与党の暴走が止まりません。
安倍政権は、派遣法改悪法案に続き、安保関連法案も世論に背いて衆議院で採決を強行した。国民軽視の暴挙としか思えない。政権・与党は「審議時間も110時間を超え、議論は尽くされた」としているが、とんでもない。この間の政府答弁はひどいものだった。野党の質問に正面から答えない「のれんに腕押し」状態で、国民的な合意形成をはかろうとする姿勢はまるで見られなかった。
かつてPKO協力法では、3国会にまたがって審議が行われた。まして、今回の安保関連法案は、11本もの法案を無理矢理1本に束ねたもの。そのわかりにくさはPKO協力法の比ではない。にもかかわらず、丁寧に説明して国民の疑問に答えようという姿勢は見られない。むしろその逆で、「国民がコトの本質に気付く前に、数の力でさっさと通してしまおう」。そう考えているとしか思えないのが、この間の政権・与党の国会運営だ。
報道各社の世論調査では、6割の国民が安保関連法案の成立に反対し、8割の国民が「国民への説明が不足している」と答えている。内閣支持率も、この1カ月で急落し、支持する人と支持しない人が逆転した。まともな内閣ならば審議のやり直しを考えるところだ。ところが現政権は「反対がこれ以上増えないうちに、早く押し切ってしまおう」と真逆の発想。そのうえ首相に近い議員は「法案が成立すれば国民は忘れる」と豪語する始末。「来夏の参院選まで、大きな国政選挙が予定されていないから大丈夫」と高をくくっているのかもしれないが、私たち国民もずいぶんナメられたものだ。
思えば、昨年2014年12月の総選挙は「年末どさくさ総選挙」だった。安倍総理は野党の意表を突き、野党の選挙体制が整わない間隙を縫って解散総選挙を仕掛けることで勝利した。あの選挙で安倍総理が掲げた争点は「アベノミクスの是非」の一点のみ。「この道しかない」と安倍さんが国民に問うたのは、経済政策であって安保政策では決してなかったはずだ。国民にしてみたら、バスに乗ったら行き先が急に変わり、ブレーキが利かないという感じだ。
国民の懸念は、安倍総理の言う「この道」の先に何が待ち構えているのかだ。平和を守り、国民のいのちと暮らしを守るため、その時々の政府の暴走に対して歯止めをかけることができるのか否か。
憲法調査会の参考人質疑で、与党推薦の憲法学者を含む全員が今回の法案は違憲だと指摘した。元法制局長官も違憲だと答弁した。国民の不安は増すばかりなのに、安倍総理は「時の内閣が適切に判断する」から一任してくれと。政権や政治家はいずれ交代していくものなのに、どうして将来世代にわたって責任が持てると断言できるのだろうか。
平和主義国家の信頼をご破算にしてしまう
─どう対峙していきますか?
私たちは大変な危機の中にある。この危機を押しとどめることができるのは世論の力しかない。私たち連合は、毎朝、街頭に立って法案の問題点を国民の皆さんに訴えるとともに、国会前での集会や抗議行動などを行っている。引き続きこうした取り組みに注力していく。
懸念材料は、国会の会期が長いことだ。参議院で採決に至らない場合でも衆議院で再可決できる「60日ルール」を使えるよう、与党は会期を9月まで大幅延長した。予断を許さない状況だが、世論調査の結果では、確実に潮目が変わってきている。最後まで諦めずに、全力で取り組んでいきたい。
今年は戦後70年の節目の年だ。連合も6月の沖縄に続けて8月に広島と長崎で、そして9月に根室で、全国から仲間が集まって平和行動を行う予定だが、8月15日を中心に平和の意味をもう一度見つめ直そうという機運が全国的に高まってくるだろう。そして、戦後70年にあたって政府が出す安倍談話がどのようなものになるのか、海外からの注目も集まるだろう。そんな時期に、安倍政権の都合で安保法案を決めることを許していいのか。日本が「どこにでもある普通の国」になってしまっていいのか。国民一人ひとりが、よく考える必要がある。
それに海外から見たらどうなのだろう。日本にとって先の戦争は、南方の石油資源の確保が大きな動機の一つだった。そして今回も石油をめぐってホルムズ海峡での機雷除去という話が出ている。国会答弁で、安倍総理は「抑止力」による説明を繰り返したが、それは「ケンカの強いアソウ君」のような単純な問題ではない。外国からは「日本はアメリカに協力して、歯止めなく軍隊を出す国になったのだな」としか見られない。戦後の国際社会の中で日本が積み上げてきた平和主義国家としての信頼を、むざむざご破算にしてしまうだけの話だ。
低賃金で都合良く使える派遣労働者が増える
─派遣法の改悪については?
参議院に送られた労働者派遣法改悪法案も、極めて大きな問題を抱えている。派遣労働には2つの世界標準ルールがあるのだが、それがまったく盛り込まれていないからだ。ルールの1つ目は、雇用が不安定な派遣労働は「一時的な働き方」にとどめ、より安定した正社員への転換を進めていくというルール。2つ目は、派遣先の社員と同じ仕事をしている派遣労働者の賃金は同じでなければならないという「均等待遇」のルール。この2つが盛り込まれていない今の法案が成立すれば、低賃金で都合良く使える派遣労働者が増え、景気が悪くなったら企業の都合で使い捨てられる。そういう世の中になる。
いま働いている人に限った問題ではない。高校生や大学生、私たちの子や孫が社会人になる時、雇用が不安定で低賃金の仕事にしか就けない社会になっているという意味で、将来世代に関わる問題でもある。
「上から目線」の政治から「国民目線」の政治へ
─来夏の参院選から18歳選挙権がスタートします。
18歳、19歳の人たちはもちろん、20歳より上の人たちがもっと投票に行くきっかけにもなってほしい。日本で最初の普通選挙が実施されたのは戦前の1928年。資本家や地主など一部の納税者だけの制限選挙から、すべての成年男子に選挙権を付与する普通選挙が実現したのだが、いろいろと禁止事項が多かった。
現在の公職選挙法にも、このときの考え方が相当程度引き継がれていて、「あれもダメ、これもダメ」と、がんじがらめ。もちろん、お金で票を買収するとか、職権を使って支持を広げるといったことは禁止しなければいけない。でも、選挙活動でSNSは使っていいのに電子メールはダメなど、不思議な規定も少なくない。
私たちの政治意識は、こうした「上から目線」の規定によって、実は無意識のうちに狭いところに押し込められていないだろうか。お上が一方的に押しつけてくる「上から目線」の政治に従順に従うのではなく、自ら投票に行き、自ら声を上げることで、「国民目線」の政治を取り戻していく。政治が遠い存在で、政治家に任せておけばよいと考えがちな日本の政治風土を変えていく。
それを可能にするのも世論の力なのです。
[7月21日インタビュー]
※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2015年8月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。「月刊連合」の定期購読や電子書籍での購読についてはこちらをご覧ください。