若者・子どもたちの将来に禍根を残してはならない

2015年7月9日

【古賀伸明会長のフェスティナ・レンテ】

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すべての国会議員は重く受け止めるべきだ

私たちの国・日本の安倍政権は、発足してから2年半余り、国民の懸念や不安に正面から答えないまま、強引に物事を進めてきている。
その一つが、安全保障法制をめぐる問題である。6月4日の衆議院・憲法審査会で、自民党の推薦した専門家も含む憲法学者3人が、今の安保法案に対して違憲の見解を表明した。また、国民世論も、各メディアの調査では、いまの法案に対する疑問や不安が多いことを示している。それにもかかわらず、数の力で押し切るのは断じて許せない。

二つ目が、言うまでもなく「労働者保護ルール」の課題である。政府が進めようとしている労働者保護ルール改悪の動きに対し、私たちはこれまで一貫して「断固反対」「絶対にNO」と言う声を上げ続けてきた。しかし、政府は社会を支える私たちの声を聞くことなく、強引に国会審議を進めている。
とりわけ、労働者派遣法の改悪法案が6月19日、衆議院本会議において、十分な審議が尽くされないまま可決に至ったことは極めて遺憾である。あらためて言うまでもなく、今回の派遣法案は世界に類を見ない悪法である。派遣労働者に一生涯不安定かつ低賃金の労働を強いることになる。世界の標準ルールである一時的・臨時的という派遣の原則をないがしろにし、均等待遇も入れようとしていない。生涯派遣労働に道を開くということは、これからの日本を担う若者・子どもたちの将来に禍根を残しかねない。このことをすべての国会議員は重く受け止めるべきだ。私たちは、参議院における徹底審議を強く求めるとともに、同法案を廃案に追い込むべく、取り組みを一層強化していく。

また、もう一つの労働基準法の改悪法案については、ホワイトカラー・エグゼンプションを導入し、裁量労働を大幅に拡大しようとするなど、「長時間労働助長法案」「過労死促進法案」であることは明白である。悲しいことだが、現に過労死や過労自殺といったケースが後を絶たない。この現実に目を向けず、働く者をさらなる長時間労働へと追いやる改悪を行う政府の動きは論外である。

これらの動きを止めるには、私たちが反対の意思表示を粘り強く行動で示し続けるしかない。改悪阻止に向けた決意を固めあい、職場・地域とともに社会のうねりを巻き起こしていこう。

対話がつくる「仕事の未来」

6月上旬、ILO(国際労働機関)第104回総会がスイス・ジュネーブで開催され、出席した。
今年の総会でのガイ・ライダー氏の「事務局長報告」では、2年前に提起したILO創設100周年に向けた7つのイニシアチブの一つである「仕事の未来」についての課題が提起された。

また、この「報告」の中では、雇用形態の多様化が進む状況下で、ILOがその基本理念である社会正義を追求し続けるにはどうすればよいのかを問いかけている。私たちがあらためて認識しなければならないのは、1919年のILO憲章の前文に明記されている同一価値労働・同一報酬の原則が確保されなければならないということである。この原則が確保されてこそ、働く者一人ひとりが、妊娠、出産、子育て、介護など人生の各ステージで起こり得る出来事に際し、自らの働き方を主体的に選ぶことができ、働き続けながら人間らしい生活を営むことが可能になる。

仕事を通じての行為である「働く」ということは、人と人がつながり、職場や企業と社会がつながることで、社会の課題を解決し、新たな価値を創造していく営みである。そのことが、個人の成長や自己実現を促し、企業の成長、さらには社会の持続可能性を高めていく原動力になるのだと思う。しかし、世界の現実は、失業者の増加や雇用の質の劣化により、仕事と社会のつながりは、細く弱くなっている。成長戦略と雇用・労働政策の一貫性を強化することをあらためて共有化しなければならない。

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さらに、この「報告」は、仕事のガバナンスについても重要な課題を提起している。ILOの三者構成原則は、100年近くも、社会対話による労働基準の設定と遵守促進を通じ、私たちが生きる社会に比類のない価値をもたらしてきた。とりわけILOの中核的労働基準が、今日、貿易協定において、その存在感を確かなものにしつつある現状は、ILOの普遍的価値を世界が再確認する契機になっている。

社会正義を追求するILOの使命は、次の100年においても揺るぎのないものであろう。そして、「仕事の未来」は、すべての関係者が真摯に、誠意を持って対話を行う絶え間のない取り組みを愚直に積み重ねる先に見いだすことができると信じている。

震災を忘れず、子どもたちの笑顔を守るために

6月2日、東日本大震災の被災地の一つである岩手県盛岡市で、昨年に続き今年で2回目となる「いのちを守る絆フォーラム」を開催した。未曾有の被害をもたらした、あの3・11東日本大震災から4年余りが経過した。あらためて、犠牲になられた多くの方々に対し、心から哀悼の意を表する。

私たち連合は、「政策・制度 要求と提言」の第1部に、「東日本大震災からの復興・再生に向けた政策」を掲げ、被災地の復興を最優先課題として取り組んできた。また、今年の1月から被災地ヒアリングを行ったが、今もなお多くの課題が山積していることが明確になった。継続的な支援、そして災害に備えることの必要性をあらためて認識するとともに、引き続き政府に対する要請行動を強化していかなければならない。

また、幼くして震災を経験した子どもたちの「心」に寄り添う活動として、被災三県の地方連合会との連携による「東北の子ども応援わんぱくプロジェクト」を推進している。初開催となった昨年は、連合大阪、連合新潟、連合静岡の皆さんにご尽力をいただき、成功裡に終了することができた。本年の実施に向け、連合北海道、連合東京、連合佐賀、連合長崎の皆さんのご協力のもと、現在準備を進めているところである。私も、昨年宮城で開催された会場を訪問したが、子どもたちの元気な姿や、心の底からの笑顔を見て、本プロジェクトが意義のあるものであること、そして継続的に活動を進めていくことの必要性を実感した。

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私たちは、この大災害を忘れない、決して風化させない、そして犠牲になられた多くの方々が遺された教訓を胸に、事前に備え、組合員をはじめ地域住民を災害から守ることをめざしていく決意を全国の仲間と確認しあった。

当日は、3月に仙台で開催された「国連防災世界会議」に政府として対応されていた内閣府の齊藤参事官と、被災地の現場で復旧・復興のための活動を展開してきた連合岩手気仙地協の森事務局長から報告を受けた。

それらの報告を聞きながら、今もなお必死に踏ん張っている被災者の方々へ思いを寄せるとともに、私たち一人ひとりに何ができるのか、何をしなければならないのかをこれからも考え、行動し続ける必要があることを痛感した。

 

(6月19日記)

※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2015年7月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。「月刊連合」の定期購読や電子書籍での購読についてはこちらをご覧ください。