【東奔西走 古賀伸明会長のフェスティナ・レンテ】
~ゆっくりと、しかし確実に~
「若者の組合離れ」ではなく
役員の「若年組合員離れ」では
昨年1月、埼玉をスタートに開催した地方連合会のニューリーダーとの対話(KNT)が、4月4日の群馬で47都道府県すべて終了した。ちなみに、KNTは古賀・ニューリーダー・トーク(対話)の頭文字を取ったとのこと。他人事みたいだが実際の名付け親は私ではない。しかし、会を重ねるごとに愛着が湧いてきたし、ある対話会ではこのネーミングを参加者からほめられたこともあった。提起された意見は今一度整理し、連合本部としての運動方針に盛り込むもの、地方連合会や構成組織でやるべきものなどに区分けしてまとめていきたい。
対話の中でどの地区でも提起されたのが、「一生懸命考えたイベントをやっても人が集まらない」「若年層は定時後や休日の組合活動より自分の時間を大切にする」など、いわゆる「若年組合員の組合離れ」だ。対話を重ねるうちに、私が三十数年前に専従役員になった時のことを思い出した。当時、先輩からよく言われたことが3つある。第1に、専従役員は組合事務所に居るのではなく、職場を回って職場の課題を把握すること。第2に、まず500人の名前と顔を一致させること。そして、第3に、名前と顔が一致したら、その人の顔を見るだけで「何か言いたいことがあるな」とか「何かに困っているな」など、分かるようになれ…ということだった。今にして思えば、まさに職場や組合員に密着した運動・活動を教え込むアドバイスであったのだ。
私は、ニューリーダーの皆さんに、「“若年組合員の組合離れ”ではなく“組合役員の若年組合員離れ”ではないだろうか?」「イベントも大事、しかし、より重要なことは、もっと組合員の日常に自分たちが近づくことではないだろうか?」と投げかけた。彼ら彼女らは、その言葉をどう受け止めたであろう。
貴重な時間を割いていただいた皆さんが、この対話の中で何か心に響くものがあったなら幸いである。私にとっても、極めて刺激的で学びの多い「鍛えられた時間」であった。お互いにこの体験は大切にしたいものだ。
昨年を上回るさらなる賃上げの波及を
さて、2015春季生活闘争は、十数年にわたるデフレから脱却するため、賃上げを起点として新たなサイクルの「経済の好循環」を作り出すとともに、そのサイクルを継続的・安定的に回していくことが重要との認識に立ち、すべての組合が月例賃金の引き上げにこだわった交渉を展開している。
4月16日に公表した4月14日時点での賃上げ集計では、昨年以上に多くの組合が、前年を上回る回答を引き出している。現段階では、賃上げの広がりと交渉の加速の両面が進んでおり、新たなサイクルの道筋がつきつつあると受け止めている。回答を引き出した組合のご奮闘に心より敬意を表するとともに、その流れをすべての働く者の底上げ・底支えと格差是正に確実に波及させていかなければならない。
賃上げとともに、春季生活闘争の3本柱の一つである時短の取り組みも重要である。3月31日までの集計で、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた総実労働時間短縮や労働時間規制の取り組みなど、過重労働対策に関して、昨年を1割程度上回る要求が提出され、一定の成果を引き出している。超少子高齢・人口減少社会の中で、家事・育児・介護・地域活動などの時間確保や分担のあり方の見直しが必要であり、ワーク・ライフ・バランスが保障される社会の構築が急務である。この時短についても、積極的な取り組みが求められている。
そして、もう一つの柱である政策・制度実現の取り組みについても、2015年度の重点政策や第189通常国会における7つの最重点法案の実現など、精力的に進めていかなければならない。また、労働者保護ルール改悪の動きに対しては、雇用社会の不安定化を招き、わが国経済の推進力である働く者の不安を掻き立てる言語道断の政策であり、徹底して対峙していく必要がある。社会を巻き込んださまざまな運動を力強く展開し、世論喚起の取り組みを強化していくので、積極的な参加を要望しておきたい。
中小企業や地場産業を中心にいまだ6割から7割の組合が交渉継続中である。正規・非正規、組織・未組織、企業規模を越えて、「底上げ・底支え」「格差是正」が広範に広がらなければデフレからの脱却は困難だ。2015春季生活闘争は、これからがまさに正念場である。
働き方・暮らし方と政治は直結している
一方、第189通常国会は4月9日に2015年度政府予算が成立し、第18回統一地方選挙、ゴールデンウィーク後に重要法案の本格的論議に入る。
統一地方選挙の後半戦の状況が判明しなければ全体の課題について言及できないが、前半戦は率直に言って、期待した結果は出なかった。何よりも、投票率は全体的に落ち込み、大半の都道府県で戦後最低を記録した。
日本は一般の国民が動いて社会を変えたことのない稀有な国だと言われている。欧米は時代の差はあれ、一般の国民が社会を変化させているが、日本には、特に政は誰かに任せておけばよいという風土・土壌がある。それを称して「観客民主主義」とか「お任せ民主主義」とやゆされる。
確かに、「経済は一流、政治は三流」と言われた時代があったし、政治家も平気でこの種のことを言っていた記憶がある。その時代は高度経済成長時代、いわゆるパイが右肩上がりにどんどんと増える時代である。しかし、今、時代は大きく変化した。成熟社会の中では、私たちの働き方・暮らし方、もっと言えば生き方にまで、政策決定プロセスである政治は直結している。労働法制・雇用の問題しかり、税制・社会保障の問題しかりである。したがって、私たち働く者の組織・連合は、政治活動を運動の大きな柱の一つに据える必要があるのだ。
その政治の世界にも緊張感が必要である。一方の政権政党がだめな場合、それに取って代わる政党が存在しなければならない。いわゆるお互いに切磋琢磨する健全な緊張感のある政治体制、いつでも政権交代可能な二大政党的体制である。残念ながら、私たちが支援する民主党には依然として強い向かい風が吹きつけていることも事実である。しかし、生活者、納税者、消費者、働く者の立場に立つことを綱領で明確にうたう民主党が、一方の勢力の基軸を担わなければならず、私たちも歩みを止めるわけにはいかない。
来年夏には参議院選挙が控えている。衆議院総選挙とていつあるか分からない。参議院議員選挙には、非拘束名簿方式が導入されて以降で最多となる12人の比例代表の組織内候補が立候補予定である。私たち自らが持続可能な社会の実現のための政治体制への足がかりをつけなければならない。
※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2015年5月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。「月刊連合」の定期購読や電子書籍での購読についてはこちらをご覧ください。