「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下、フリーランス法)」の第3条では、発注事業者がフリーランスと業務委託をした場合には、直ちに取引条件を書面またはメールなどの電磁的方法で明示しなければならないとされている。なお、この「取引条件の明示義務」違反は所管省庁による勧告、命令の対象だが、その命令に違反する場合には、50万円以下の罰金となる。
「個人」として業務委託を受けるフリーランスが、「組織」である発注事業者から業務委託を受ける場合、交渉力・情報収集力の格差から、フリーランスは取引上、弱い立場に置かれやすく、報酬の不払いやハラスメントなど様々なトラブルが発生している。
そうしたことを背景に、発注事業者とフリーランスとの取引の適正化と、フリーランスの就業環境を整備することなどを目的として「フリーランス法」が制定された(2024年11月1日施行)。
法の対象について、基本的には、業務委託契約※における、従業員を雇用する発注事業者(法律では業務委託事業者又は特定業務委託事業者)とフリーランス(法律では特定受託事業者)となる。ただし、第3条の「取引条件の明示義務」については、フリーランス同士の取引も対象となる。
なお、労働者が、副業においてフリーランスとして発注事業者と業務委託を締結している場合には、その取引についてはフリーランス法の対象となる。
発注事業者はフリーランスに業務委託をした場合には、直ちに給付の内容、報酬の額、支払期日などの取引条件を明示※しなくてはならない。その際、口頭ではなく、書面又はメールなどの電磁的方法のいずれかの方法としなければならない。(第3条第1項)
※明示すべき事項
●期日における報酬支払義務(第4条)
発注事業者は、検査をするかどうかを問わず、発注した物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で報酬の支払期日を定め、それまでに支払わなければならない。(第4条第1項・第5項)
支払期日を定めなかった場合などには、次のように支払期日が法定される。(第4条第2項)
●特定業務委託事業者の禁止行為(第5条)
フリーランスとの1か月以上の業務委託に関し、以下①〜⑤の行為をしてはならない。
①受領拒否(第5条1項1号)②報酬の減額(第5条1項2号)③返品(第5条1項3号)④買いたたき(第5条1項4号)⑤購入・利用強制(第5条1項5号)
フリーランスとの1か月以上の業務委託に関し、以下①〜②の行為によって特定受託事業者の利益を不当に害してはならない。
●募集情報の的確表示義務(第12条)
発注事業者は、フリーランスの募集をする際に、その募集情報(求人)について虚偽の表示や誤解を与える表示をしてはならず(第12条第1項)、その内容を正確かつ最新のものに保たなければならない(第12条第2項)。
●育児介護等と業務の両立に対する配慮義務(第13条)
業務委託期間が6か月以上の場合について、発注事業者は、フリーランスが育児や介護などと業務を両立できるよう、フリーランスの申し出に応じて必要な配慮※を行わなければならない(第13条第1項)。なお、6か月未満の業務委託の場合であっても、必要な配慮をするよう努めなければならない(努力義務)とされている(第13条第2項)。
※必要な配慮の具体例
また、フリーランスが配慮を申し出たことや、その配慮を受けたことのみを理由として、契約解除などの不利益な取り扱い※を行うことは、望ましくない取り扱いとされている。
※不利益な取り扱いの例
●ハラスメント対策(第14条)
発注事業者は、ハラスメント(セクハラ、マタハラ、パワハラ)行為によりフリーランスの就業環境を害することのないよう相談対応のための体制整備その他の必要な措置※を講じなければならない。(第14条第1項)なお、契約の交渉中の段階からハラスメント対策を講じることは望ましいとされている。
※その他の必要な措置とは
また、フリーランスがハラスメントに関する相談を行ったこと等を理由として、発注事業者が、契約の解除などの不利益な取り扱いをすることは禁止されている。(14条第2項)
●中途解除等の事前予告・理由開示義務(第16条)
業務委託期間が6カ月以上の場合について、契約の中途解除をしたり、契約更新をしなかったりする場合には、発注事業者はフリーランスに対し、少なくとも契約満了日の30日前までにその旨を予告しなければならない※(第16条第1項)。また、フリーランスが中途解除などの理由の開示を求めた場合には、例外事由を除き、発注事業者は遅滞なくその理由を説明しなければならず、その際は、書面やメールなどの方法で行わなくてはならない。(第16条第2項)
発注事業者がフリーランス法に違反している場合、フリーランスは所管省庁(公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省)に対し申し出ができる(第6条第1項、第17条第1項)。なお、発注事業者は、申し出を理由にして、フリーランスに対し契約解除などの不利益取扱をすることは禁止されている(第6条第3項、第17条第3項)。
申し出を受けた所管省庁は、その内容に応じ、必要な調査(報告徴収・立入検査)を行い、申し出の内容が事実である場合、本法律の規定に則って、指導・助言のほか、勧告、命令・公表を行う。命令違反に対しては、50万円以下の罰金がある(第24条)。
◯フリーランス・トラブル110番
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電話番号:0120-532-110
フリーランス法 第2条第1項、第2条第3項、第2条第5項、第3条、第3条2項、第4条1項・5項、第4条2項、第5条1項1号、第5条1項2号、第5条1項3号、第5条1項4号、第5条1項5号、第5条2項1号、第5条2項2号、第6条3項、第12条1項、第12条2項、第13条1項、第13条2項、第14条1項、第14条2項、第16条1項、第16条2項、第17条3項、第24条