労働相談

 

労働相談Q&A

42.妊娠・出産、育児休業等に関するハラスメント
Q
同僚から「育児短時間勤務だから周りに迷惑をかけている」と何度も言われた。
A
会社の相談窓口や労働組合などに相談を。
法律のポイント
2017年1月より、妊娠・出産、育児休業等に関する上司・同僚による就業環境を害する行為を、従来から禁止されていた事業主が行う「不利益取扱い」と区別し、「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」と整理し、事業主に対して防止対策を講じることを義務づけている。
解説

 職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(マタニティ・ハラスメント、ケア・ハラスメント)について、事業主に防止措置を講じることを義務づけており、(男女雇用機会均等法第11条の2、育児・介護休業法第25条)、具体的な内容は指針に示されている。
 事業主は、労働者個人の問題として片付けるのではなく、雇用管理上の問題ととらえ、適切な対応をとる必要がある。

職場における妊娠・出産、育児休業等に関するハラスメント

 「職場」において行われる上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した「女性労働者」や育児休業等を申し出・取得した「男女労働者」の就業環境が害されることで、「制度等の利用への嫌がらせ型」と「状態への嫌がらせ型」がある。

※「職場」や「労働者」については、→「セクシュアル・ハラスメント」参照

 育児休業制度等の利用等や妊娠等の状態と嫌がらせ等となる行為の間に因果関係があるものがハラスメントに該当する。
 なお、業務分担や安全配慮等の観点から、客観的に見て、業務上の必要性にもとづく言動によるものはハラスメントには該当しない。

制度等の利用への嫌がらせ型

 制度または措置(制度等)の利用に関する言動により就業環境が害されるもの。

<対象となる制度または措置>
均等法で対象となるもの 育介法で対象となるもの
  1. ①産前休業
  2. ② 妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(母性健康管理措置)
  3. ③軽易な業務への転換
  4. ④ 変形労働時間制での法定労働時間を超える労働時間の制限、時間外労働及び休日労働の制限並びに深夜業の制限
  5. ⑤育児時間
  6. ⑥ 坑内業務の就業制限及び危険有害業務の就業制限
  1. ① 育児休業
  2. ② 介護休業
  3. ③子の看護休暇
  4. ④ 介護休暇
  5. ⑤ 所定外労働の制限
  6. ⑥ 時間外労働の制限
  7. ⑦ 深夜業の制限
  8. ⑧ 育児のための所定労働時間の短縮措置
  9. ⑨ 始業時刻変更等の措置
  10. ⑩ 介護のための所定労働時間の短縮等の措置

※ ⑧~⑩は就業規則にて措置が講じられている必要がある。

<防止措置が必要となるハラスメント>

1.解雇その他不利益な取り扱いを示唆するもの
 労働者が、制度等の利用の請求等をしたい旨を上司に相談したことや、制度等の利用の請求等をしたこと、制度等の利用をしたことにより、上司がその労働者に対し、解雇その他不利益な取り扱いを示唆すること。

[典型的な例]

  • 産前休業の取得を上司に相談したところ「休みをとるなら辞めてもらう」と言われた。
  • 時間外労働の免除について上司に相談したところ、「次の査定の際は昇進しないと思え」と言われた。

2.制度等の利用の請求等または制度等の利用を阻害するもの

  1. ① 労働者が制度の利用の請求をしたい旨を上司に相談したところ、上司がその労働者に対し、請求をしないように言うこと。
  2. ② 労働者が制度の利用の請求をしたところ、上司がその労働者に対し、請求を取り下げるよう言うこと。
  3. ③ 労働者が制度の利用の請求をしたい旨を同僚に伝えたところ、同僚がその労働者に対し、繰り返しまたは継続的に、請求をしないように言うこと。
  4. ④ 労働者が制度利用の請求をしたところ、同僚がその労働者に対し、繰り返しまたは継続的に、その請求等を取り下げるよう言うこと。

[典型的な例]

  • 育児休業の取得について上司に相談したところ、「男のくせに育児休業をとるなんてあり得ない」と言われ、取得をあきらめざるを得ない状況になっている。
  • 介護休業について請求する旨を周囲に伝えたところ、同僚から「自分なら請求しない。あなたもそうすべき」と言われた。「でも自分は請求したい」と再度伝えたが、再度同様の発言をされ、取得をあきらめざるを得ない状況に追い込まれた。

3.制度等を利用したことにより嫌がらせ等をするもの労働者が制度等の利用をしたところ、上司・同僚がその労働者に対し、繰り返しまたは継続的に嫌がらせ等を
すること。
 「嫌がらせ等」とは、嫌がらせ的な言動、業務に従事させないこと、または専ら雑務に従事させること。

[典型的な例]

  • 上司・同僚が「所定外労働の制限をしている人はたいした仕事はさせられない」と繰り返しまたは継続的に言い、専ら雑務のみさせられる状況となっており、就業する上で看過できない程度の支障が生じている(意に反することを明示した場合に、さらに行われる言動も含む)。
  • 上司・同僚が「自分だけ短時間勤務をしているなんて周りを考えていない。迷惑だ」と繰り返しまたは継続的に言い、就業をする上で看過できない程度の支障が生じる状況となっている(意に反することを明示した場合に、さらに行われる言動も含む)。
状態への嫌がらせ型

 女性労働者が妊娠したこと、出産したこと等に関する言動により就業環境が害されるもの。
<対象となる事由>

  1. ① 妊娠したこと
  2. ② 出産したこと
  3. ③ 産後の就業制限の規定により就業できず、または産後休業をしたこと。
  4. ④ 妊娠または出産に起因する症状により労務の提供ができないこともしくはできなかったことまたは労働能率が低下したこと。

    ※「妊娠または出産に起因する症状」とは、つわり、妊娠悪阻(にんしんおそ)、切迫流産、出産後の回復不全等、妊娠又は出産をしたことに起因して妊産婦に生じる症状。

  5. ⑤ 坑内業務の就業制限もしくは危険有害業務の就業制限の規定により業務に就くことができないことまたはこれらの業務に従事しなかったこと。

<防止措置が必要となるハラスメント>

1.解雇その他不利益な取り扱いを示唆するもの
 女性労働者が妊娠等したことにより、上司がその女性労働者に対し、解雇その他の不利益な取り扱いを示唆すること。

[典型的な例]

  • 上司に妊娠を報告したところ「他の人を雇うので早めに辞めてもらうしかない」と言われた。

2.妊娠等したことにより嫌がらせ等をするもの
 女性労働者が妊娠等したことにより、上司・同僚がその女性労働者に対し、繰り返しまたは継続的に嫌がらせ等をすること。

[典型的な例]

  • 上司・同僚が「妊婦はいつ休むかわからないから仕事は任せられない」と繰り返しまたは継続的に言い、仕事をさせない状況となっており、就業をする上で看過できない程度の支障が生じる状況となっている(意に反することを明示した場合にさらに行われる言動も含む)。
  • 上司・同僚が「妊娠するなら忙しい時期を避けるべきだった」と繰り返しまたは継続的に言い、就業をする上で看過できない程度の支障が生じる状況となっている(意に反することを明示した場合にさらに行われる言動も含む)。
「業務上の必要性」の判断

 妊娠中に医師等から休業指示が出た場合のように、労働者の体調を考慮してすぐに対応しなければならない休業についてまで、「業務が回らないから」といった理由で上司が休業を妨げる場合はハラスメントに該当する。しかし、ある程度調整が可能な休業等(例えば、定期的な妊婦健診の日時)について、その時期をずらすことが可能か労働者の意向を確認するといった行為までがハラスメントとして禁止されるものではない。
 ただし、労働者の意をくまない一方的な通告はハラスメントとなる可能性があり得る。

<ハラスメントには該当しない業務上の必要性にもとづく言動の具体例>
[「制度等の利用」に関する言動の例]

  1. ① 業務体制を見直すため、上司が育児休業をいつからいつまで取得するのか確認すること。
  2. ② 業務状況を考えて、上司が「次の妊婦健診はこの日は避けてほしいが調整できるか」と確認すること。
  3. ③ 同僚が自分の休暇との調整をする目的で休業の期間を尋ね、変更を相談すること。

    ※②や③のように、制度等の利用を希望する労働者に対する変更の依頼や相談は、強要しない場合に限られる。

事業主が雇用管理上講ずべき措置

[「状態」に関する言動の例]

  1. ① 上司が、長時間労働をしている妊婦に対して、「妊婦には長時間労働は負担が大きいだろうから、業務分担の見直しを行い、あなたの残業量を減らそうと思うがどうか」と配慮する。
  2. ② 上司・同僚が「妊婦には負担が大きいだろうから、もう少し楽な業務にかわってはどうか」と配慮する。
  3. ③ 上司・同僚が「つわりで体調が悪そうだが、少し休んだ方が良いのではないか」と配慮する。

    ※①から③のような配慮については、妊婦本人にはこれまで通り勤務を続けたいという意欲がある場合であっても、客観的に見て、妊婦の体調が悪い場合は業務上の必要性にもとづく言動となる。
     具体的内容については指針で定められている。また、派遣労働者に対しては、派遣元のみならず、派遣先事業主も措置を講じなければならない。

<参照条文>

男女雇用機会均等法第11条の2
育児・介護休業法第25条
事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(平成28年厚生労働省告示第312号) 
子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針(平成21年厚生労働省告示第509号)

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