セクシュアル・ハラスメント(以下「セクハラ」)に関する裁判では、企業の責任が問われるケースも増えている。企業には「従業員が働く上で権利を侵害されないよう使用者として配慮する義務」がある。
男女雇用機会均等法第11条では、職場におけるセクハラについて、事業主に防止措置を講じることを義務づけている。
事業主は、労働者個人の問題として片付けるのではなく、雇用管理上の問題ととらえ、適切な対応を取る必要がある。
「職場」において行われる、「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応により労働条件について不利益を受けたり(対価型セクハラ)、「性的な言動」により就業環境が害されたりする(環境型セクハラ)ことで、異性だけでなく同性に対するものも含まる。
また、被害を受ける者の性的指向(人の恋愛・性愛がいずれの性別を対象とするか)や性自認(性別に関する自己意識)にかかわらず、「性的な言動」であれば該当する。
事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所をさし、労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、労働者が業務を遂行する場所であれば「職場」に含まれる。勤務時間外の「宴会」「懇親の場」などであっても、実質上職務の延長と考えられるものは「職場」に該当するが、その判断にあたっては、職務との関連性、参加者、参加が強制的か任意かといったことを考慮して個別に行う必要がある。
[例] 出張先、業務で使用する車中、取材先、取引先の事務所、顧客の自宅、取引先と打ち合わせをするための飲食店(接待の席も含む)
正社員だけでなく、パートタイム労働者・有期雇用労働者など雇用するすべての労働者が対象。派遣労働者については、派遣元事業者だけでなく、派遣先の事業主も措置を講ずる必要がある(労働者派遣法第47条の2)。
事業主、上司、同僚に限らず、取引先、顧客、患者、学校における生徒などもセクハラの行為者になり得るものであり、男性も女性も行為者にも被害者にもなり得るほか、異性に対するものだけではなく、同性に対するものも該当する。
相手の性的指向または性自認にかかわらず、該当することがあり得る。「ホモ」「オカマ」「レズ」などを含む言動は、セクハラの背景にもなり得る。また、性的性質を有する言動はセクハラに該当する。
労働者の意に反する性的な言動や行動に対する労働者の対応により、その労働者が、解雇、降格、配置転換などの不利益を受けるもの。
[典型的な例]
労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、その労働者が働く上で看過できない程度の支障が生ずること。
[典型的な例]
具体的内容については指針で定められている。また、派遣労働者に対しては、派遣元のみならず、派遣先事業主も措置を講じなければならない。
相談した労働者のプライバシーを保護し、相談・苦情等を理由として不利益な取り扱いを受けないよう特に留意すること。
記録をとる。①日時、②場所、③具体的なやりとり、④周囲の状況(他に誰がいたか)など。悪質な電話は録音し、手紙などは保存しておく。
一人で悩まず、①会社の相談窓口、②労働組合のセクハラ対策担当者、③都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)、④弁護士などに相談をする。
セクハラに関する労働者と使用者の職場での紛争については、都道府県労働局長による助言・指導を受けられるほか、都道府県労働局の「紛争調整委員会」による調停も受けられる。窓口は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)。
セクハラに関しては、行政による紛争解決だけでなく、本訴や労働審判でのセクハラ被害による損害賠償請求も可能である。
男女雇用機会均等法第11条、第30条
労働者派遣法第47条の2
事業主が職場における性的言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号)