「最低賃金」 働く者の生活を底支えし、 公正競争を促して経済の好循環へ

2018年7月4日

パート労働者、契約・派遣社員などのいわゆる非正規労働者が雇用者全体の約4割を占める中、その労働条件改善は急務だ。雇用形態の違いのみを理由に労働者を低賃金で雇用することは許されない。どこで、どんな雇用形態で働こうとも、賃金は少なくとも生活できる水準を確保しなければならない。さらにいえば、働きに見合う水準であるべきだ。

多くの非正規労働者のクラシノソコアゲに直結するのが、法定最低賃金の引き上げだ。日本の法定最賃は、地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の2つ。いずれの金額も、春季生活闘争の取り組みが大きく影響する。例えるならば、春季生活闘争で種をまき、夏の地域別最賃引き上げ、秋の特定最賃引き上げにつながるイメージだ。すべての働く者が実りある秋を迎えるため、われわれ労働組合の果たす役割は大きく、他人事ではない。

なぜ法定最賃が必要なのか。どこでどう決まるのか。どんな課題があるのか。3回にわたって掲載する。まずは基礎知識を理解し、これから本格化する法定最賃の審議に注目していこう。

※本特集では、以下の表記を使用しています。

最低賃金:最賃

最低賃金法:最賃法

法定最低賃金:法定最賃

地域別最低賃金:地域別最賃

特定(産業別)最低賃金:特定最賃

 

■最低賃金の全体像

これだけは知っておきたい! 最低賃金の基礎知識

1 最賃制度の目的

めざすは経済の健全な発展への好循環

最賃制度は、労使双方の努力で経済の健全な発展への好循環を実現することが究極の目的だ。低賃金労働者の賃金額の最低額を保障し、労働条件の改善をはかることが第一の目的であることは言うまでもないが、経済の健全な発展に向けた手段であることも忘れてはいけない。そのことは、最賃法第1条にも、明記されている(図1)。

 

 

賃金の最低額を保障することは、労使双方にメリットだ。労働者の生活が安定すれば、知識やスキルに磨きをかけるゆとりが生まれ、生産性向上につながる。同時に、公正競争の確保にもつながる。自由競争といえども、最低限守るべきルールは定め、賃金ダンピングを防ごうという仕組みだ。生産性向上と公正競争を促し、経済の健全な発展を後押しするのが、法定最賃なのだ。

そもそも、賃金・労働時間などの労働条件は、労使交渉で決めるものだ。労使交渉を通じて、それぞれの職場で法を上回るルールづくりに取り組む。この光景は、労使交渉の機会が保障されている労働組合にとっては当たり前だ。しかし、労働組合の組織率は17%台にとどまる上、非正規雇用で働く人が増えてきた。そこで、法が定める最低限のセーフティネットが重要性を増している。このセーフティネットの一つが、最賃法なのだ。

 

MUSTの地域別最賃とCANの特定最賃

法定最賃とはいえ、その金額は全国一律ではない。働く地域や産業によって、適用される最賃額は異なる。

地域別最賃と特定最賃、この2つの法定最賃は、それぞれ期待される役割が違う(図2)。2007年の最賃法改正にいたる議論の中で、明確に整理されている。順に特徴をみていこう。

 

 

地域別最賃は、セーフティネット機能を重視する行政主導型だ。したがって、すべての労働者を対象とするとともに、各地域で設定が義務付けられている(MUST)。現在、最高額958円〜最低額737円の水準で47都道府県ごとに設定されており、全国加重平均は848円だ。

一方の特定最賃は、公正競争を確保する機能が重視されている。したがって、その産業に関係する労使が特定最賃を設定する必要性について合意すれば、地域・産業ごとに設定できる(CAN)。労使のイニシアティブを尊重したボトムアップ型と言える。設定できるとしても、さまざまな要件がある。例えば、適用対象者をその産業の主要な業務に従事する基幹的労働者に絞り込むこと(ただし少なくとも1000人程度は必要)、その金額は地域別最賃を上回らねばならないことなどだ。基幹的労働者の定義は、設定される特定最賃により異なる。ほとんどの特定最賃では①18歳未満又は65歳以上の者、②雇い入れ後一定期間内で技能習得中の者、③その産業に特有の軽易な業務に従事する者、は適用対象外だ。現在、特定最賃は全国233件、適用労働者数は約320万人。金属関係の製造業、各種商品小売業、自動車小売業などで多く設定されている。

いずれにも共通するが、法定最賃を下回る金額で労使が合意しても、その合意は無効だ。支払われる賃金が法定最賃額を下回る場合、労働者はその差額を請求できるし、使用者には罰則が科せられる。

派遣労働者については、派遣元ではなく、派遣先がある地域の法定最賃が適用される。また、企業によっては、法定最賃を上回る金額水準で、同じ職場で働く従業員のみを対象とする企業内最賃協定を労使で交わしているケースもある。これらのうち、2つ以上の最低賃金が適用される場合もありえるが、金額の最も高いものが適用される

 

 

2 法定最賃決定の流れ─労働組合の果たす役割は大きい

春季生活闘争の賃上げ率や企業内最賃協定の適用労働者数・金額が大きく影響

最賃はどこでどう決まるのか。地域別最賃も特定最賃も、実質的な決定が行われるのは、最低賃金審議会。公益、労働者側、使用者側の三者同数の委員構成だ。

地域別最賃は、中央最低賃金審議会(以下、「中賃」)が「金額改定の目安(以下、「目安」)」を提示し、47地方最低賃金審議会(以下、「地賃審議会」)それぞれで改定金額を決めるという2段階審議だ(図4)。中賃は、厚生労働大臣による諮問で目安審議をスタート。47都道府県はA〜Dのいずれかのランクに区分されており、ランクごとに目安をとりまとめ、厚生労働大臣に答申する。この目安を踏まえ地賃審議会が調査審議を行い、改定金額をとりまとめ、各地方労働局長が決定する。

 

 

改定金額を決めるにあたっては、地域の労働者の①生計費、②賃金の上昇率、③通常の事業の支払能力の3要素を考慮しなければならない。例えば、春季生活闘争の賃上げ率そのものに加え、労働組合がないような小規模事業所(従業員30人未満)の賃金引き上げ率なども重視される。これらに時々の事情を総合的に勘案して地域別最賃額が決められる。

なお、A〜Dのランク区分については、中賃「目安制度の在り方に関する全員協議会(目安全協)」で5年ごとに見直しが行われている。

特定最賃は、地賃審議会で、金額改定の必要性審議と具体的な引き上げ額を決める金額審議の2段階で審議される(図5)。審議のスタートは、労使いずれかからの申出だ。申出には、適用労働者数の相当数をカバーする企業内最賃協定や、金額改定の必要性を求める署名などの提出が求められる。申出を受けた地賃審議会は、関係労使からのヒアリングなどを行いながら、必要性審議を行う。この段階で、「必要性あり」と全会一致で合意できれば、金額審議に移行できる。この全会一致というのがくせものだ。特定最賃が必要だと主張する労働者側と、不要だと主張する使用者側の溝が埋まらず、必要性審議をクリアできないケースも珍しくない。

 

 

金額審議に移行できれば、その産業の現場実態をよく知っている、当該産業の労使が中心となって調査審議し、金額をとりまとめ、各地方労働局長が決定する。この際、申出に添付された企業内最賃協定の金額も参考とされる。なお、金額審議では、全会一致の合意までは求められていない。

地域別最賃も特定最賃も、各段階で意見書や異議申立など、外部から意見を聞く機会も保障されている。また、決定した金額を周知するため、官報公示を経て効力が発効する。

 

3 地域別最賃引き上げの必要性は政労使で合意済み

かつてに比べ地域別最賃の大幅な引き上げが続いている。2‌00

7年の最賃法改正以降、地域別最賃が生活保護を下回る逆転現象の解消を促進した影響もあるが、そもそも、なぜ最賃法は2007年に改正されたのか。それは、非正規労働者の増加に伴って拡大した賃金格差を許容できなくなったからだ。格差拡大が超少子高齢化の一因ともなり、深刻な社会問題となる中、セーフティネットとしての機能を充実させねばと、最賃引き上げを求める声が高まったのだ。このような声は政労使合意や政府のいわゆる骨太方針などにも反映されている(図6)。

引き上げのトレンドは続いているが、課題もある。地域別最賃については、その金額水準の低さと地域間格差だ。現在の地域別最賃は、安心して生活できる金額には依然として届いていない。さらに、最低額は最高額に比べ76・9%、額にして221円の差だ。地域別最賃の低い地域から高い地域への働き手流出の一因にもなっている。特定最賃については、その存続が危ぶまれる状況だ。地域別最賃との金額水準差が縮小する中で、一部地域では必要性審議が難航し、金額審議に移行できないケースも見受けられる。

2014年度には地域別最賃と生活保護費との逆転現象は、一応解消された。働きに見合う金額水準をめざすステージに入った今、地域別最賃の金額水準引き上げと格差是正をどう両立させていくのか。特定最賃をどう存続させ、金額水準をどう引き上げていくのか。労働組合の果たす役割が大きいぶん、その責任は重い。

 

 

※この記事は、連合が企画・編集する「月刊連合7月号」の記事をWEB用に再編集したものです。

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