連合2018春季生活闘争方針決定に向けて

2017年12月7日

第76回中央委員会 会長挨拶

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連合 神津里季生 会長

まず本日の主要議題であります、2018春季生活闘争方針についてです。これまでも、中央執行委員会や中央討論集会において、2018春季生活闘争の位置づけや考え方を述べてきたところでありますし、詳しくは後ほどの提案と論議に委ねることといたしますが、とりわけ、この方針案に込めた思いを述べておきたいと思います。

一つには、なんといっても「底上げ・底支え」「格差是正」に継続して取り組む、さらに強める・拡げるということです。連合は、2014年春季生活闘争から「底上げ・底支え」「格差是正」の旗を掲げ、すべての働く者の月例賃金の引き上げにこだわる取り組みを進めてきました。特に2016年春季生活闘争からは「大手追従・大手準拠からの構造転換」など労使関係の歯車を回すことに重点をおいて、底上げを強調して取り組んだ結果、直近の2017春季生活闘争では、中小組合において賃上げ率が0.56%となり、大手組合の0.48%を上回るという成果を勝ち取りました。いわゆる非正規の形態で働く仲間の賃上げ率についても、正規労働者を上回りました。60年を超す春闘の歴史上、物価上昇がほとんどない中ではじめてのことです。2018春季生活闘争では、これを組織内でさらに深め、社会に広げていく事が必要です。

我われ労働運動が有する大きな強みの一つは、労使関係を確立している、ということです。労使は、異なる立場から、企業の労働条件向上のみならず、業績や企業の枠を超えた経済、産業、労働市場等についての関心を共有しながら、生産性の向上とそこから得られる成果の公正な配分を実現するために徹底した協議を重ねる、緊張と相互信頼にもとづいた関係を構築してきました。この労使関係を確立している我われこそが春季生活闘争の先頭に立ち、「底上げ・底支え」「格差是正」の実現に向けてあらゆる手段を用いて取り組みを進め、「大手追従・大手準拠などの構造を転換する運動」の流れの継続・定着・前進をはかり、「賃金は上がるもの」という常識を取り戻していくことが重要です。

あわせて、「サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配」についても、連合として、より多くの関係者が参加できるプラットフォームをつくり、産業横断・社会横断の取り組みとして、社会的認知から公正さの実践・実行のフェーズに移行していく必要があります。

そしてこの間、「取引の適正化」に重点をおいてきていますが、2018闘争からは「働き方」とのつながりにも目をむけていくことが重要です。取引条件や価格は賃金だけではなく、働き方でも働く者の立場とつながっています。自分達の働き方の見直しや長時間労働の是正を通じ、自分の職場だけでなく、企業を超えて、仲間の働き方の改善につなげて行くことは、まさに労働運動ならではのアプローチであります。

もちろんその前提の取り組みとして、職場労使による働き方改革を一層強化していくべきことは言うまでもありません。長時間労働是正や同一労働同一賃金など雇用形態間の均等待遇の実現などをはじめとする「働き方改革」も、我われ労働組合が、労使関係の枠組みのなかで改善をはかっていくことこそが雇用社会における根っこの「エンジン」の力を形成します。まさに「魂を入れ込む」環境整備を行い、「すべての労働者の立場にたった働き方の実現」に向けて、私たち連合が先頭を切って進まなければならないのであります。

そして、いわゆる非正規の形態で働く仲間の労働条件に関わる取り組みについても、そのステージを新たにしてまいります。連合は、2006春季生活闘争で、エントリー制のパート共闘会議を設置し、その後、すべての構成組織が参加する非正規共闘へと枠組みを強化し、非正規労働者の処遇改善に取り組んできました。非正規共闘を通じて、いわゆる非正規労働者の雇用環境や処遇の状況などを社会に知らしめてきた役割と意義は大きいものがありました。一方で、個別労使交渉の中で、正規労働者と同様に非正規労働者の処遇改善をはかる取り組みが進んできたのか、この事を今一度振り返る必要もあります。

すでに職場は、多様な雇用形態の労働者で構成されており、今後、同一労働同一賃金など均等均衡待遇の実現、有期契約労働者の無期転換の取り組み、派遣労働者の3年の期限到来時の対応など、これまで以上に労働組合としての対応力が求められる中、正規労働者の処遇改善と同様に、いわゆる非正規労働者の処遇改善を個別労使、産業労使の交渉のど真ん中におく必要があります。

非正規といわれる形態で働く仲間の問題解決を強化していくことの必要性については、中央討論集会、中央執行委員会等で、的確かつ力強いご意見をいただいてきています。まさに、2018春季生活闘争では、これまで非正規共闘が果たしてきた役割を個々の労使協議の中に埋め込み、そして必ず結果につなげ、そのことを社会に発信することで、非正規労働者の処遇改善の実効性を高めていかねばなりません。確実に前に踏み出す中での今回の方針の取り扱いであることを、しっかりとお互いに確認しておきたいと思います。

加えて、「障がい者雇用」「社会保険の適用拡大」「育児・介護・治療と仕事の両立」「男女平等」など、課題は様々あります。これらを含めて、連合が求める政策・制度の実現を、春季生活闘争とともに取り組む運動の両輪として推進し、「働くことを軸とする安心社会」を実現するための歩みを着実に進めていかねばなりません。

なお男女平等の推進に関しては、この場を借りて一言付け加えておきたいと思います。この分野においては政策面・制度面の対応だけでなく、社会参画の促進、わけても自らの足もとの問題として、労働組合における女性参画の促進が重要であることは論を待ちません。先般、連合宮崎と連合奈良で、地方連合会として初の女性会長が誕生いたしました。宮崎の中川さん、奈良の西田さんです。ご紹介をし、皆さんに激励の拍手を求めたいと思います。

連合本部では、女性役員の比率が3割を超えるなど、取り組みの成果は着実に表れてきています。連合の「第4次男女平等参画計画」は2020年9月を目標としています。男女平等参画の推進が、組織全体の取り組みとなりますよう、各構成組織、地方連合会における取り組み強化を改めてお願いしておきたいと思います。

 

2018春季生活闘争方針決定に向けて討議ポイント

 「継続」は停滞ではない 新しい連合運動で前進

「基本構想」の提起を受け、職場や地域で、2018春季生活闘争の方針決定に向けた議論が行われる。そのポイントは何か。相原事務局長に聞いた。

 
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連合 相原康伸 事務局長

賃上げの重要性を再確認しよう

─2018春季生活闘争の意義とは?

連合は、基本構想で、月例賃金にこだわり、すべての労働者の「底上げ・底支え」「格差是正」の取り組みを継続していくことを提起した。「継続」とは、2017闘争と同様の取り組みを行えばよいということではない。停滞に陥ることなく、新しい運動を展開していこうという意味だ。そのために、賃上げの重要性を再確認することから、議論を始めてほしい。社会を構成する働く者全員で経済を支えていくには、業種、企業規模、雇用形態、男性・女性にかかわらず、月例賃金は然るべき水準が必要。そして、格差の放置は働く者全体に悪影響を及ぼす。将来にわたって賃金が上がっていくことを前提とした仕組みをつくっていかなければ、社会保障も地域サービスも成り立たない。賃金引き上げは、個人の家計を支えると同時に、経済や社会を発展させる重要なエネルギーだ。従って「賃上げはコスト増。国際競争力を弱める」との一面的な見方ではなく、今の日本に必要な「社会的合意を定着」させていく必要がある。それは、「賃金は上がっていく」という将来への確かな見通しだ。

今、働く人たちの賃金・労働条件は十分な水準と言える状況ではなく、さまざまな格差を生んでいる。そうした現実を直視し、状況を変えるために、すべての労働者の「底上げ・底支え」「格差是正」を掲げ、賃上げを実現していくことが、2018春季生活闘争の最大の意義だ。

チェーンでつながるのは「プライス」だけではない

─取り組みのポイントは?

1つは、「大手追従・大手準拠などの構造を転換する運動」だ。これは、春季生活闘争を通して、経済・社会の構造を転換しようというスケールの大きな運動だ。一歩一歩着実に進めていく必要がある。

「取引の適正化の推進」は、この間の構成組織、地方連合会の努力が実を結び、社会的機運を高めてこれた。それをもう一段進めたい。ポイントは2つ。1つは、プラットフォームづくりだ。取引の適正化は、特定の産業や地域、特定の労使が取り組むだけでは自ずと限界がある。ナショナルセンター連合として、この取り組みに、より多くの関係者が参加できるプラットフォームをつくり、社会的認知から公正さの実践・実効のフェーズに移行していきたい。

もう一つは、「働き方」のつながりに目を向けることだ。取引の適正化を通じて、「サプライチェーン」「バリューチェーン」の重要性も定着してきたが、チェーンでつながっているのは、なにも取引条件としての「プライス」だけではない。働き方でも労働者はつながっている。自分たちの働き方の見直し、長時間労働の是正を通じ、自分の職場だけでなく企業を超えて、仲間の働き方の改善につなげたい。職場の風土改革やマネジメントのあり方なども不可避の課題だ。政府が進める「働き方改革」を否定しないが、取引を通じてつながりあう私たちが、どうすればお互いの働き方をより良いものにできるか考え行動することは、まさに労働運動ならではのアプローチだと思う。

2018闘争では、「サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配」を、取引だけでなく、働き方も含めた概念に進化させ、新しい連合運動として展開していきたい。

均等待遇実現を労使交渉のど真ん中に

─非正規共闘の見直しについては?

連合は、2006春季生活闘争でパート共闘会議を設置し、それを非正規共闘へとステップアップさせて、非正規労働者の処遇改善に取り組んできた。「非正規の問題ここにあり」と社会に知らしめる役割を果たしてきた意義は大きい。ただ一方で、個別労使や産業労使の取り組みの中に、非正規問題を落とし込んで処遇改善をはかることが追いついていないという反省はないか。この間、非正規共闘が果たした役割は十分認識しつつ、労使の協議・交渉のテーブルにより自然体で非正規問題の改善を組み込む重要性を課題提起したところだ。

今後、有期雇用労働者の無期転換や正社員化の取り組みを通して、職場には多様な雇用形態が生まれる。産業労使、個別労使においては、その処遇改善に向け職場の実態に即した、より濃密な話し合いが求められる。ならば、個別労使交渉において、非正規問題をど真ん中に置いて処遇改善を求めるのはごく自然なこと。これまでの取り組みを後退、希薄化させるものではなく、非正規の問題によりいっそう光を当てていくバージョンアップの提案と受け止めてほしい。

労使が協議・交渉の結果に責任を負う

─マスコミの「官製春闘」という言葉に対しては?

私たちは、政府に要求書を出し、政府から回答を得るわけではない。春季生活闘争において、労使は真摯に交渉に臨み、徹底的な話し合いによって解決点・合意点を見出している。私が考える労使自治とは、労使の関係に誰も立ち入らせないという縄張り意識ではなく、その協議・交渉の過程にもその結果にも労使がすべての責任を負うということ。他に責任を求めることは一切ない。政府に望むのは、将来不安の払拭など賃上げがより生きる環境づくりに尽きる。

また、「長時間労働を是正したら残業代が減って消費が冷え込む」と心配する見方もある。だからと言って、長時間労働の是正を止めるとの選択はなく、むしろ「残業代に頼らざるを得ない賃金実態、家計実態」がより浮き彫りになり、「月例賃金へのこだわり」という連合のメッセージが重みを増す。積極的に発信していかなければならない。

「生産性が上がらなければ、時短も賃上げもできない」という主張も突破していく必要がある。生産性運動は単なる能率向上運動ではないし、そのスキルを競うものでもない。人間は古来から、昨日よりも今日、今日よりも明日と、わずかな工夫を積み重ね、より良いものを追求してきた。まさしく人間の労働の本質であり、歴史を動かす成長や豊かさの源泉でもある。2018闘争を通じて、生産性をめぐる誤った認識に警鐘を鳴らし、生産性三原則の正しい理解と実践を広げることも、重要な課題になるだろう。

若手の組合役員を労使交渉の場に

─職場や地域の組合役員に向けたメッセージを。

2018春季生活闘争の団体交渉や労使協議では、男女を問わず若手の組合役員の積極登用、活躍の場を重視したい。日々の職場の息づかいや変化を肌身で感じる職場リーダーの発信を活かせないか。次代を担うフレッシュな仲間がリアルな労使関係を学ぶ機会だ。

2018闘争は、2017闘争の取り組みに全力を挙げた結果の上に構築される。そして、2018闘争に私たちが全力を傾けた結果が2019闘争につながっていく。そう考えれば、一瞬たりとも気は抜けない。これからの安心や豊かさをつくっていく責任が、この2018闘争には宿っている。全力投球で臨もう!