#多様な社会運動 〜新たな時代を切り拓く〜

2021年4月27日

「社会運動」という言葉から、何をイメージするだろうか。公民権運動、労働運動、女性運動、反戦・平和運動、環境保護運動…。世界でも、日本でも、それは「社会を変える原動力」となってきた。ただ、時代を経る中で、日本の、特に若者は、その伝統的手段であるデモや集会、抗議行動などへの忌避感が強いとも言われてきた。

そしてこの1年、コロナ禍で私たちの日常は否応なく変わることを求められた。

労働組合の活動もそうだ。春季生活闘争の決起集会もメーデーもオンライン開催となり、街宣行動も縮小を余儀なくされた。ところが、世に目を向けると、SNSの#ハッシュタグを使った抗議行動やオンライン署名、クラウドファンディングなどの新しい形の運動が広がりをみせている。

これは、コロナ禍による行動様式の変容の一つなのか。それとも、もっと深いところで変化が起きているのか。人々は何を思い、どう声を発し、どう行動し、何を求めているのか。その深層を知りたいと、連合は今年3月、「多様な社会運動と労働組合に関する意識調査2021」を行った。

結果から見えてきたのは、これまでとはまったく違う風景だ。若い世代が社会運動や労働組合に高い参加意欲を持っている。それをどう行動につなげるのかを考えることは、新たな時代を切り拓き、労働運動を見直す好機ともなるのではないだろうか。

調査の概要

社会運動は、「社会問題の解決や、社会の制度や仕組み等の改善を目的として行われる運動」である。調査では、これを9つの類型に区分した。まず従来のオフラインの運動として「デモンストレーション型」「自筆署名型」「シンボル型」「金品支援型」「ボイコット型」、新しいオンラインの運動として「#ハッシュタグ型」「パフォーマンス型」「ネット署名型」「クラウドファンディング型」。調査対象は、全国の15〜64歳の2000名で、年代のバランスも考慮した。

注目は若者の高い参加意欲

まず、それぞれの類型について「参加したい」という参加意向と、実際に「参加した」参加経験を聞いたところ、両者には大きな開きがあることがわかった。

「デモンストレーション型」は、参加経験率2・9%に対し、参加意向率12・7%。比較的参加へのハードルが低いと思われる「シンボル型」でも参加経験率は5・3%にとどまるが、参加意向率は32・1%と高い。オンラインで参加しやすいと思われる「#ハッシュタグ型」も参加経験率は5・3%で、参加意向率は21・6%。

注目されるのは、年代別の参加意向率だ。10代では、「金品支援型」60・0%、「クラウドファンディング型」50・0%、「シンボル型」49・0%、「#ハッシュタグ型」40・5%、「ネット署名型」40・5%という衝撃的な数字が並ぶ。次いで高いのは、20代と60代。

「社会運動に消極的な若者」というイメージは過去のものになっているようだ。

社会運動のイメージ

では、より多くの人に社会運動に「参加」してもらうにはどうすれば良いか。ヒントを探るため、7つの意見・イメージを提示し、9類型の社会運動にどのくらい同意できるか聞いてみた。

その結果、参加経験率・参加意向率ともに高い「金品支援型」と「自筆署名型」は、「市民の声を代弁している」「社会や世論を変えるのに有効である」とイメージする人が多かった。「ネット署名型」も同様のイメージがあり、今後参加する人が増えていく可能性が高い。

一方で、参加経験率・参加意向率ともに低い「デモンストレーション型」と「ボイコット型」は、「恐い・過激など印象が悪い」「主張の押し付けで周りの迷惑である」との回答が多いという結果になった。

意見や考えに影響があるもの

社会運動の目的の一つである世論喚起についてヒントを得るため、「社会や政治に関する自身の意見や考えに影響があるもの」を聞いた。全体で一番影響があるのは「テレビ」、次に「ネットニュース」、「家族・パートナー」と続いた。社会運動では、「自筆署名型」の次に「デモンストレーション型」「#ハッシュタグ型」の影響が大きい。また、年代別では、若者世代のSNS使用率が9割を超えている中、10代が一番影響を受けているのは「テレビ」ではなく「SNS」であった。

より良い社会の実現にむけて

「社会を良くするために社会運動は必要だと思うか」。この問いに45・5%が「必要」と回答し、10代に至っては62・5%と他の年代より圧倒的に多かった。

自由記入でも「社会をより良くするために必要(10代)」「世論を動かす力がある(40代)」「社会問題を知るきっかけになる(20代)」「日本人はもっと声を大きく上げる必要がある(50代)」との声があった。一方で、「中身がない活動が多い(30代)」「奇異の目で見られる(10代)」「過激になりがち(50代)」「社会運動のイメージアップが必要(10代)」との声もあった。

最後に「労働組合は必要だと思うか」と聞いたところ、54・0%の人が「必要」と回答し、こちらも10代が60・0%と、60代の次に多かった。しかし、「労働組合の活動に参加したことがある」人は、全体で12・5%。年代別では、20代6・5%、30代11・5%と若い世代での参加率が低いことがわかった。

より良い社会の実現にむけて、より多くの人が「参加」できるように、労働運動をはじめとする社会運動の変革が求められていると言えそうだ。

 

識者はどうみる?

希望の持てるデータだ

若い世代、特に10代・20代の参加意欲と参加経験率が高い点が印象的でした。もちろん、インターネット調査のため意欲の高い層が調査に参加している可能性を踏まえなくてはなりませんが、それでも希望の持てるデータです。

オンライン、オフライン問わず、「デモンストレーション型」「ボイコット型」以外の参加意欲が10代・20代で3割前後にわたる点はとても興味深いです。60代から30代にかけて減少が見られた社会運動参加率が、10代・20代において増加しているのも、近年国際的に見られる「Z世代」「ミレニアル世代」といった世代による社会運動の波を彷彿とさせます。

若年層において運動参加・運動意欲が高まっている背景として、情報取得・政治参加プラットフォームとしてのSNSの存在は無視できませんが、「シンボル型」や「金品支援型」活動など、学校経由で行われる活動(赤い羽根共同募金など)が運動参加に含まれる可能性や、「クラウドファンディング型」「ネット署名型」活動が認知されたことによる「社会運動」と捉えられる活動の幅の広がりも考えられます。

一方で、上述した活動や「#ハッシュタグ型」の活動など「一人でできる活動」が好まれる現状には課題も残ります。社会運動内での相互行為の不在は活動の持続性に影響しますし、古くから行われているデモンストレーションやボイコットのような抗議活動・表出的活動に対しては依然として忌避感が強いです。これらの課題は、組織行動・抗議行動としての社会運動の重要性をどう提示していくかという議論にもつながりうるでしょう。

富永京子(とみなが・きょうこ) 立命館大学産業社会学部 准教授 北海道大学経済学部経営学科卒業。東京大学大学院人文社会系研究科修士課程、博士課程修了後、日本学術振興会特別研究員(PD)を経て、2015年より現職。 著書に『社会運動と若者』(ナカニシヤ出版)、『社会運動のサブカルチャー化』(せりか書房)、『みんなのわがまま入門』(左右社)など。

 

 

※この記事は、連合が企画・編集する「月刊連合5月」をWEB用に再編集したものです。