連合は、今期運動方針で「曖昧な雇用で働く就業者の法的保護の実現や集団的労使関係による課題解決の促進」を掲げ、具体的な取り組みの一歩として、昨年5月、ウーバーイーツユニオンの支援を決定した。コロナ禍もあり、飲食宅配代行サービスなどのプラットフォームワーカーは増え続けている。どんな課題があるのか。解決に向けてどう取り組んでいくのか。山本昌弘連合組織企画局長に聞いた。
「曖昧な雇用」で働く人たちの課題とは?
これまでは、働く人たちについて「働かせる側と働く側」という雇用関係を基本に法制面・運動面での取り組みが進められてきた。ところが今、フリーランスやプラットフォームワーカーなど「曖昧な雇用」といわれる多様な就労者が急増している。多くは「個人事業主」扱いであるため、労働者保護法制が適用されず、働く上でのルールも整備されていない。法的保護を広げていくことと同時に、労働組合法上の労働者として労働組合を結成し、集団的労使関係の下で労働環境や処遇の改善を進めていくことが課題となっている。
連合は、結成30年に策定した連合ビジョンにもとづき、「すべての働く仲間をまもる・つなぐ・創り出す」ために何をすべきかという観点から、今期運動方針に「曖昧な雇用で働く就業者の法的保護の実現や集団的労使関係による課題解決の促進」を掲げた。そしてその取り組みの一歩として、昨年5月にウーバーイーツユニオンの支援を決定し、10月には多様な雇用・就労形態で働く人たちが緩やかに連合とつながる仕組みとして「連合ネットワーク会員(愛称:Wor−Q)」を立ち上げた。
事故補償の拡充や新型コロナ対策を要求
ウーバーイーツユニオンの取り組みとは?
フリーランスやプラットフォームワーカーなど、会社とは雇用関係になくとも、その実態から労組法上の労働者として労働組合を結成することができる。
ウーバーイーツユニオンは、「個人事業主」である配達員が2019年10月に結成した労働組合。「事故やケガの補償」「運営の透明性」「適切な報酬」を要求の柱とし、会社側に団体交渉を求めるとともに、労災保険適用などの法的整備を求めて活動している。
ウーバーイーツの日本法人であるウーバージャパン合同会社は「配達員は労組法上の労働者でない」と主張し、頑なにユニオンとの団交を拒否しているため、ユニオンは2020年3月に東京都労働委員会に不当労働行為の救済申立を行っている。さらに、新型コロナウイルス感染拡大対策(マスク・消毒液の配布、危険手当など)の要求や、事故調査プロジェクトの実施、交通安全講習会などの企画に取り組んできた。事故調査プロジェクトの報告書は昨年7月に公表され、同じ問題意識を持つ配達員が組合に加入する一助ともなった。
会社側は交渉には一切応じない姿勢をとっているものの、意識をしているようだ。ユニオンが事故調査プロジェクト報告書を発表すると傷害見舞金の上限を25万円から50万円に引き上げ、新型コロナウイルス対策も要求内容に近いものであった。いずれもユニオンに対する回答ではなく、会社として制度導入を表明した形だが、実質的なユニオンの活動の成果と受けとめている。
連合の支援は?
連合本部内に組織、法制、運動の各局からなる「ウーバーイーツユニオン支援チーム」を立ち上げ、定期的にユニオンと連絡会議を持ち、都労委の状況や取り組み課題について情報を共有し、助言や支援を行っている。
今、力を入れているのは組織拡大だ。組合員が今後増えれば、会社側に対する影響力が格段に高まる。コロナ禍で配達員同士がコミュニケーションをとれる場所や機会が少なくなっていて、ユニオンの定例会もオンライン開催だが、需要拡大で配達員が増えていることから、会社のやり方に疑問を感じて相談してくる人も増えている。最近は、仙台・富山・福岡などの組合員も定例会に参加し組織の運営にとって不可欠な存在となっている。
オンラインでの活動のほか、昨年夏には新宿で配達員に冷たいドリンクを手渡しする企画を実施し、好評だった。ユニオンも配達員へ直接アプローチしたいという思いが強く、近くその第2弾を計画している。将来的には配達員が休憩しながら情報交換できる詰め所をつくることが夢で、連合からのぼり旗などのグッズを提案したら、「それはいい!」と話が進んでいる。思いに寄り添い、一緒に歩んでいきたいと思っている。
雇用関係がなくても労働組合はつくれる
連合が支援することの意義とは?
ウーバーイーツユニオンは、雇用関係を求めているわけではなく、あまりにも本人任せの事故対応や一方的なシステム変更を改善し、安全に安心して働きたいと活動している。
なぜ、「曖昧な雇用」が増えているのか。最大の要因は、雇用責任や社会保険などのコストを逃れるために、個人事業主や業務委託という形を濫用する会社が増えているからだ。しかし、雇用関係がなくても、労働組合法上の労働者として労働組合を結成し、集団的労使関係の下でルールをつくっていくことはできる。そのことをすべての労働者、すべての経営者に知ってもらうことは、連合の役割でもある。
そういう中で結成されたウーバーイーツユニオンは、プラットフォーマー労働組合の先駆けであり、連合として曖昧な雇用で働く人たちとつながり、新しい運動を創り出していくという意思表示として、支援を決めた。また、曖昧な雇用に対応した労働組合のあり方や労使関係についてノウハウを蓄積したいという思いもあった。
まだまだ試行錯誤の連続だが、先駆的な取り組みが広く知られ、成果を積み上げていければ、「曖昧な雇用」で働く人たちにとって労働組合が一つの選択肢になっていくはずだ。将来的には、クラフトユニオンのような職種ごとの組織も考えられる。例えば、Wor−Qを同業者の交流の場にして、共通の課題を洗い出し、その解決のために労働組合を結成するという動きが生まれれば、労働組合の輪が広がっていく。
労働組合とは「水と空気」のようななくてはならない存在であり、組合があればこそ、働く人たちの声を集め、会社を良くしていくことができる。今こそ「労働組合」の役割と必要性を再認識し、曖昧な雇用で働く人たちとともに新たな運動を創り出していきたい。
※この記事は、連合が企画・編集する「月刊連合4月」をWEB用に再編集したものです。