真の多様性 若者の声を社会に!

2021年4月2日

長期化するコロナ禍で、感染拡大の要因として「自粛しない若者」への批判が止まない一方、学習の機会や就職活動など様々な面で深刻な影響を受けているのも、また若者たちだ。若者自身は、この状況をどうとらえ、何を求めているのか。

若者の声を社会に反映しようと活動する、高校生、大学生、大学院生のニューリーダーと、新たな労働運動の創造をめざす相原連合事務局長が意見を交わした。(2021年3月開催)

室橋 昨年2月に「日本若者協議会と連合の意見交換会」を開催し、それがきっかけで月刊連合に「View Point #若者→労働組合」を1年間連載しました。今日は、そこでの問題提起を踏まえ、まさに若者の声を社会に届ける活動をしている車さん、能條さん、そして相原事務局長を交えて意見交換ができればと思います。では、まず自己紹介をお願いします。

 N高等学校2年の車です。昨年、連合の「みんなの春闘」に参加してから、「働くって何だろう」と思い始め、いくつかインターンを経験し、今は高卒就活支援などを行う会社で働いています。働くことで自分に自信が持てるようになったので、もっと若者と働くことをつなぐことができたらと「起業」の準備も進めています。

能條 一般社団法人「NO YOUTH NO JAPAN」代表の能條です。2019年7月の参議院選挙の時に、若い世代の投票率を上げたいとInstagramを利用した選挙啓発を始めました。思った以上に反響があって、政治をより身近によりわかりやすく伝える活動を継続しています。私自身は、気候変動やジェンダーというテーマにも関心があって、企業や組織に声を届ける活動もしています。

相原 連合事務局長の相原です。コロナ禍で、労働組合もこれまで積み上げてきた運動の見直しを迫られています。本日のテーマである「若者の声を社会に」は、連合が最も力を入れなければならない分野の一つです。新しい運動を創り出すには若者の参加をはじめとする「多様性」がカギだと考えています。

室橋 昨年3月には小中高が一斉休校となり、大学の多くはオンライン授業になりました。学校行事や部活動も制限され、留学の機会やキャンパスライフが失われ、アルバイト収入が激減して困窮する学生も出ています。

中退者の急増が心配されましたが、文科省調査では、昨年4月〜12月までの中退者・休学者はむしろ前年より減少している。連載では、その理由として政府や大学の緊急支援策が功を奏したこと、ただし授業料納付猶予の申請は20万人を超えていて今後も支援の継続が必要であることを指摘しました。またオンライン授業自体は「意外と嫌われていない」というデータも紹介しました。

現役大学生の肌感覚として、実際にどういう影響が出ているのか。「若者の行動」への批判をどう受けとめているのか。能條さんいかがでしょう。

能條 アルバイト先の休業や営業時間短縮で働く機会が減った学生は多いです。ただ、休業補償が出た人も多くて、お金を使う機会も減っているので、収入減をある程度カバーできている印象があります。休業補償がなくて給付金を申請した人もいます。この情報は、NO YOUTH NO JAPANのメンバーが、学生も受給できるという新聞記事を読んで、それをわかりやすくSNSで発信して広がりました。逆に大学には行けないのにアルバイトは休ませてもらえないという悩みもよく聞きます。

オンライン授業については、今まで大教室で板書をとる授業を受けてきたので「オンラインでも良かったね」と話しています。ただ、キャンパスライフや「つながり」というところでは、いろいろな影響が生じていて、特に1年生は心配です。

私の周りの学生は、大学にも行かないし、イベントや飲み会や旅行も自粛して、活動量は以前の10分の1くらいまで減っています。それなのに若い世代が感染を広げていると批判され、政府はGoToキャンペーンで旅行や飲食を奨励しているのに若者は我慢を強いられる。「オンライン授業なんてイヤだ」という声の裏側には、「なぜ大学生だけが?」というモヤモヤもあるのだと思います。

 若者の立場として正直「自粛、嫌だな」と感じる部分はあります。全日制の高校では「マスク付けたまま喋って。対面で話さない。昼食は窓側向いて食べて」と細かく指導されました。でも、どうせ守ってもコロナに感染する時はするとの思いもある。それは学生だけでなく、社会人も同じではないでしょうか。目に見える数字だけで批判するのではなく、もっと具体的にどこにどういうリスクがあるのかを示して、その根拠にもとづいてこういう行動は自粛しようという呼びかけが必要だと思います。

相原 具体的な体験談は説得力がありますね。「社会を良くしよう」という各々の思いが統合しにくいのが今の日本社会といえます。自粛の同調圧力の強まりを懸念する声もあります。自分より弱い人を叩く。コロナ禍でそんな人間の弱さが露見しています。

世代や住む地域や仕事の違いで見える世界が違っている状況もありますが、大事なことは「公共の利益の最大化」。その軸を社会にしっかり埋め込まないと、分断が進んでしまう。なんとかしなければと思います。

室橋 政府や大学側に求めることは?

能條 気になるのは、オンライン授業だから特別なのか、成績の付け方が甘くて単位が取りやすかったこと。今後もオンライン授業を選択肢の一つとするのなら、授業の質を上げて学力が定着する工夫をしてほしいです。

 昨年8月にN高校(角川ドワンゴ学園)に転学しました。N高は、インターネットと通信制高校の制度を活用した新しい形の高校で、高校卒業資格が取得できます。授業はすべてオンデマンド動画で、いつでも好きな時間に受けられる。テストも何度でも受けられる。だから、かえってモチベーションを維持できなくなる生徒も出てしまう。単位が取りやすいのは、学生にとって良いことでもありますが、悪いことでもあるのかもしれませんね。

室橋 オンライン授業が嫌われていない背景には、いわゆるマスプロ教育と言われる大講義授業が多く、少人数でのディスカッション形式の授業が少ないこともあるのかもしれません。授業の質向上のためにティーチング・アシストなどのサポート体制を強化している大学もありますが、政策的対応は一切されていない。相原さんはどう受けとめますか。

相原 30年前と比較すると、18歳人口は200万人から120万人に減少する一方で、大学の数は500から800に増え、大学進学率は2倍となり、大学に求められるものは著しく変化しています。マスプロ教育の見直しを含めて、その変化を企業や社会が受けとめていく必要があると思います。

東京の大学に進学する学生は、実家から通学可能な皆さんも少なくありませんが、地方から上京して大学生活を送る学生は今回経済的にも精神的にも難しい状況に置かれています。

能條 確かにそうですね。特にメンタルヘルスへの影響は本当に深刻です。地方出身で一人暮らしの学生は、ワンルームの部屋でオンライン授業を受けるだけの日々が2カ月くらい続いて、メンタルが強い人でも落ち込んだり、生活リズムが乱れて眠れなくなったと聞いています。自宅通学でも、家に居場所がない学生には、オンライン授業が大きなストレスになっています。政府には、メンタルヘルスケア対策を強く求めたいです。

室橋 コロナ禍で若年層の自殺が急増していますね。

相原 政府は、今年2月に「孤独・孤立対策担当室」を設置して対策に乗り出したところですが、若い世代への支援は本当に重要です。

室橋 今回のコロナ禍の特徴は、脆弱な層にさらなるダメージがもたらされ、格差と分断が広がっていること。こうした状況に対し、連載では「労働教育や労働組合が重要」と結論しました。アルバイトでも休業補償や支援金が受けられる事実を「知らない」若者がたくさんいます。労働教育が足りていない、労働組合などの相談窓口も選択肢となっていない。労働への影響についてはいかがですか。

能條 学生は、バイトする時も新卒で就職する時も「自分には労働者としての権利があり、それを主張していい」というメッセージはまったく受け取っていない。例えば、入社前の内定者研修は1週間フルタイムで働いても給料がまったく出ない。私が「おかしくない?」って言うと、「そんなもんだよ」と諦めている。そのモヤモヤを解消できる存在として労働組合が認知されたら、職場は変わると思います。

 高校生もワークルールをまったく知りません。業務委託で働く友人も多いんですが、契約書をよく見ないでハンコを捺してしまう。例えば、契約書に「競業避止義務規定」があれば、転職時に問題になる可能性があるのに、そういうリテラシーが身についていない。また、良くも悪くも金銭感覚が低いので、この仕事はこの値段と言われても、対価として適正なのか判断できない。だから、労働組合が必要なんですが、一方で労働組合は「過激」というイメージが根強くて、どう労使関係を築いていけばいいのかわからない。そこがボトルネックになっていると思います。

相原 契約に関するリテラシーを高めていくことは重要な課題ですね。また、労働組合が社会的な役割をしっかり果たしているのか。果たしているつもりだけど、ピントがずれていないか。届いていないのではないか。考えていく必要もある。昨年、若者協議会が労働組合に対するイメージを調査してくれましたが、アルバイトやフリーランスで働く若者と労働組合との接点はまだまだ乏しい。このような方々に対する労働組合の果たすべき役割も重要であり、連合は昨年10月に「Wor−Q」という特設サイトも立ち上げ、様々な情報提供や相談対応を始めています。

能條 デンマークでは、労働組合が社会的に認知され、身近な存在になっています。

夏休みには、中高生を対象に労働現場をまわって労働者の権利やルールを学ぶイベントがあるんですが、レクチャーするのは大学生。それを見ていて、若者は、年の近い先輩から同じ目線で教えられるほうが「自分事」だと感じられると気づきました。それでNO YOUTH NO JAPANを始めたんです。日本の労働組合も、若い組合員や当事者の学生が同世代に情報を伝える工夫をすれば、もっと伝わると思います。

 もっと若者向けにポップに発信するツールがあるといいですね。

相原 非常に参考になります。デンマークは、将来に向けてどの分野に力を入れて、そのために何の技術・技能が必要か、政労使で議論する場があります。それが職業訓練プログラムなどに活かされる。労働組合の社会的機能として、今重要性を増しているのは、相談機能や政策決定に関わる社会的対話。情報発信については、これまで労働組合や連合を知ってほしいとの思いが前に出ていましたが、これからは連合が持つ情報を広く共有していくというスタンスで、必要な人に必要な情報が届く仕組みをつくろうと努力しているところです。

室橋 コロナ禍で、行政は人員不足による機能不全に陥り、デジタル化の遅れも露呈しました。「機動力ある政府」が求められていますが、それと表裏で「執行権の民主的統制」「透明性の担保」「意思決定層の多様化」が課題になっています。政策成果の検証やデジタル活用による「行政システムの簡素化・不要化」も急がれます。こうした課題を踏まえていかがでしょう。

能條 コロナ禍で海外の政治家よりも日本の政治家が自分の言葉で話せないことに驚きました。与党と官僚の調整で政策がつくられ、国民に説明する必要がなかったからだと思います。でも、これからデジタル化も含め、新しい政策を進めていくには、国民の声を聞いて信頼や納得感を得ること、リーダーが丁寧に説明することが不可欠です。

 不思議なのは、政府や政党が戦略をまったく議論していないことです。戦国時代であれば、武将が天下統一に向けて戦略・戦術を練っていましたが、今の政府の対応を見ると、いろいろな施策はやっているけど、何のためにやっているのか、どこに向かえばいいのかわからない。

相原 そうですね。今の日本のリーダーを見て寂しい思いをするのは若者だけではないと思います。ただ、私たち自身も自分の言葉で課題提起を行い、それを自ら実践し、刈り取っていくというマインドとアクションが求められています。室橋さんは「機動力ある政府」と表現されましたが、「機能する政府」と言いかえることもできます。国の付加価値を最大化し、それを再分配する機能を果たす政府です。意思決定のスピードを高める権力集中とデジタル活用という新しい接合において、どういう民主主義を育むのかは重要なテーマ。透明性を求める声も高まっていますが、その意味するところは「他者からの批判」を受け入れ、それをプラスに変えていく懐の深さではないかと思います。

室橋 私自身は、10年前の東日本大震災の影響を強く受けた世代で、そこから社会問題に関心を持つようになりましたが、今回のコロナ禍は若者の意識や行動にどんな影響を与えるものになると考えますか。

能條 これが正しいという一つの答えはないことに気づかされ、自分がまず強くならなければと思うようになっています。私は大学に5年在籍しましたが、4年で卒業した友人は新卒1年目の社会人。憧れの旅行会社や航空会社に就職した人たちは、今休業手当をもらいながら不安な日々を過ごしています。だから、社会がどう変わっても、生き延びなければと考える人が増えているように思います。

室橋 では、若者の声をどう社会に反映させるか。日本の若者は、投票率だけでなく他の活動への参加も低調で社会運動に対する意識も否定的です。実際はどうでしょう。

能條 関心がないというより、触れる機会がない。私も、日本にいた時は「デモに行く」なんて考えたこともなかったんですが、デンマークでは、大学のSNSのグループ掲示板に「水曜の授業は2限から3限に移りました」という情報と並んで「デモに一緒に行きたい人はここに集合!」という情報が流れてくる。デモは、例えば花火大会のようなもので、理由なく誘われるし、風物詩のような感覚で参加するものなんだと理解しました。

日本の若者も、実は社会課題への意識は高いんです。半数以上が社会課題の解決の一助になりたいと思っているけど、投票に行くのは3割。投票に行くことが、社会を良くすることにつながるとは思えていないからです。一つの要因は、政局的な話ばかりの選挙報道。でも、社会課題にフォーカスして政策を比較できる情報があれば、そこから政治に関心を持ち、投票する人も増えるのではないか。そういう問題意識を持って活動しています。ただ、デモは今の日本人には向いていないのかも。怒りを前面に出すのがデモですが、それは美徳ではないと刷り込まれているからです。

 例えば競馬では、自ら競馬新聞を買って情報を集め、予想を比較して馬券を買う。当たれば利益があるし、単純に楽しい。でも、選挙では、政治が変わったという達成感も見返りもない。だから若者の投票率は上がらないんだと思います。

室橋 自分が参加することで社会を変えられるという「政治的有効性感覚」の低さが、若者の政治参加が進まない大きな要因になっているんですね。

相原 だから、「選挙に行こうよ」と呼びかけるだけの運動はもう古い、政治参加とリターンの関係をもっと見える化していくべきだと思っています。日本に残された時間は決して多くない。もっと切迫感を持って新しい運動を投げかけたいと思います。

室橋 民主主義とは何かを実践的に学ぶために、日本若者協議会では「学校内民主主義」を提言しています。労働組合が働く人の声を拾い上げ、その利益を代表し、労使で職場のルールを決めていく仕組みは、民主主義の学校とも言われますが、それを学校にも広げたい。若者の声を社会に反映させるためには、何が必要でしょう。

能條 社会全体として声を上げられていない。その姿を見て育った若い世代は、さらに声を上げられなくなっている。まずはフラットに職場の不満や要望を吸い上げて、自分たちでルールを決めていける状態をつくることが大切です。

私が通っていた高校は週6日授業があって、先生も週6日出勤だったんですが、先生たちが協議してシフト制の週休二日制を導入しました。そういう先生の姿を見て育った生徒は「働く職場は自分たちで変えていくことができる」と感じたのではないかと思います。今は、まずロールモデルやロールケースをつくる段階なのかなと思っています。

 若い人が声を上げられないのは、「今我慢すれば将来豊かになれる」と思わされているからです。ただ、豊かさも「年収1000万円」になれば「幸せになる」とは限らず、いつまでたっても「今」を犠牲にする働き方を続けてしまう。「今、幸せになる」ために職場を変える。そこに意義を見出すことが重要です。

相原 私たちは働くことでつながっている。社会を支える様々な仕事があって自分も支えられている。その意味を労働組合が十分発信できているのか、考えさせられます。原点である職場で、労働組合が働く人の声を拾い上げ、労働環境・労働条件を良くしていくことの重要性は変わらない。それを疎かにして社会を変えるなんて言ってはいけないと思います。

室橋 日本の若者は、仕事の内容よりワーク・ライフ・バランスを重視するというデータがありますが、連載ではそれを実現するには単にルールを守るのではなく、自らつくっていく、「主体的・⾃律的な」対応力が必要だと提起しました。

能條 私たちの閉塞感は、課題があるのに、その解決方法がわからなくて社会を変えられるとは思えないこと。これだけ変化が激しく、正解がない時代においては、つくる側にまわるという発想は重要だと思います。

 社会には自分も身近な人も含まれている。だから自分や身近な人の幸せのために一歩一歩行動していきたい。その意味で「つくる」シティズンシップに共感します。

相原 結成30周年にあたって、連合は「私たちが未来を変える」をスローガンに掲げ、「まもる・つなぐ・創り出す」をキーワードとする連合ビジョンを提起しました。まさに私たち自身が社会を変え、未来を変えていく時代が、今来ている。コロナ禍で時代が一気に進んでいる感もありますが、その波にのまれないよう戦略を立て直していきたいと思います。

室橋 最後に、政治や連合・労働組合に期待することを。

能條 世代や地域や働き方の違いで見える世界が違うという話がありましたが、本当にそう思います。だからこそ、違う景色を見ている人たちに共通の利益を提示し、その実現の道筋を示してほしい。もちろん「正解」は一つじゃないから、みんなをリードするというより、対話する存在になってくれるとうれしいです。

 一人ひとりの個人が「幸せになれる」と思える理念を提示し、それを共有して様々な運動に参加できるようにしてほしいです。

相原 「ここまでやるの?」と言われるくらいチャレンジして、皆さんを勇気づけられる存在になりたいと思います。そのためにもこうした対話の機会は大切ですね。

室橋 対話は、自らの軸や指針をはっきり示し、それに対する批判も受け入れてより良いものにしていく姿勢が大切です。そういう対話を重ねてくれることを期待しています。今日はありがとうございました。

※この記事は、連合が企画・編集する「月刊連合4月」をWEB用に再編集したものです。