「底上げ・格差是正」を ど真ん中に! 2019春季生活闘争最大の力点

2019年3月12日

2019春季生活闘争は、企業規模間、雇用形態間、男女間の「格差是正」をど真ん中に据えて、一人ひとりが働いた価値に見合う賃金・処遇が担保される社会の実現をめざす闘いだ。その意義と熱を社会全体に波及させるために、職場・地域で力強く取り組みを進めよう。

底上げ・格差是正をめざす私たちの「熱」を社会全体に広げよう!

神津里季生 連合会長

 

2019春季生活闘争の最大の力点は「底上げ・格差是正」だ。

連合はここ数年、「底上げ」の重要性を繰り返し訴え、「格差是正」に向けて一歩も二歩も踏み込んだ取り組みを進めてきた。これまでの「賃上げ」の繰り返しではむしろ格差は拡大するのではないかとの問題意識のもとに主張を強めてきた。その結果、構成組織、単組、地方連合会が、それぞれの交渉において「格差を放置できない」という強い思いを体現していただいた。直近では、中小の賃上げ率が全体の水準を上回る、あるいは非正規雇用といわれる形態で働く人の賃上げ率が正規雇用のそれを上回るということが、当たり前のものになってきた。

しかしながら、私たちの持つ「熱」がどこまで伝わっているのかという思いも抱かざるを得ない。世の中全体を見渡せば、いまだ賃上げをめぐる動きは冷え冷えとしているのではないか。私たちの持つ熱をどう波及させるかが、問われている。

したがって、単に従来の取り組みを繰り返していたのでは、この壁は突破できない。社会全体に熱を波及させ、全体を温めていくには、「上げ幅」にこだわりつつも「絶対水準」にもっと光を当てた取り組みが必要だ。そして、一人ひとりの働きの価値が重視され、その価値に見合った処遇が担保される社会を実現していかなければならない。交渉本番を迎える今、このことを再度確認し合っておきたい。

より良い働き方をめざして

「働き方」の見直しについては、昨年7月に「働き方改革関連法」が成立し、今年4月以降に施行となる。それぞれの構成組織、単組においては、法改正に対応し、法を上回る取り組みを進めてきた。しかし、これもまた世の中全体のものとなっているとは言えない。労働組合の具体的な取り組みをアピールし、「労働組合が必要なんだ」「労使関係が重要なんだ」ということに気づいてもらわなければいけない。

その一つのアプローチとして、連合は昨年秋に「Action!36」のキャンペーンをスタートさせた。3月6日を「36(サブロク)の日」記念日とし、すべての職場でのより良い働き方の実現をめざし、36協定の適切な締結を呼びかけてきた。

ある調査では、経営者の45%が36協定を知らないという実態が浮き彫りになっている。 「Action!36」では、まず「時間外労働には36協定が必要」ということを周知する。そして適正な36協定締結を通じて、労使が職場の労働時間の実態を把握し、問題点を洗い出し、その解決を通じて長時間労働是正に取り組んでいけるよう働きかけていく。また、行政、経済団体、産業・労働関係事業団体、職能団体、国際機関等と連携して、「36(サブロク)の日」記念日への協賛や、長時間労働の是正に向けた共同宣言の締結なども進めている。

格差是正や働き方の見直しの「熱」の波及を妨げているものは何か。連合がその最大の課題と捉えてきたのは、取引関係だ。立場の強さを利用して、下請・中小企業に無理難題を押し付けていないか。労働組合の責任として、目を凝らして実態を厳しくチェックし、適正な取引を実現していくことが必要だ。

2019春季生活闘争のスローガンは「今こそブレイクスルー! すべての労働者の処遇改善と働き方の見直し!」。これまで乗り越えられなかった壁を、連合総体の力を結集して突破し、社会全体に「底上げ・格差是正」の熱を広く強く波及させていこう!

 

「格差是正」の意義

 取引の適正化 ─経済の好循環を達成するために─

大手と中小の格差是正のカギを握るのは、「取引の適正化」を通じた付加価値の適正分配だ。神奈川大学の細田孝一教授は、「従来の弱者救済策を超えて、中小企業自体の競争力を高め、経済全体の基盤強化につながる重要な政策だ」と説く。

細田孝一
ほそだ・こういち
神奈川大学法学部教授

 

中小企業の稼ぐ力を引き出す「取引の適正化」

2009年以降、企業収益は右肩上がりで拡大しているが、中小企業に焦点をあてると、収益は低迷し、とりわけ製造業では横ばいに近い状態が続いている。

なぜ、中小企業の収益は上がらないのか。実態を探ると、大企業と中小企業の不公正な取引が大きな要因になっていることが見えてきた。本来、親事業者の大企業が負担すべきコストが下請の中小企業に押し付けられ、その収益を圧迫している実態がある。企業間の収益格差が大きいと景気の波及は非効率になり、経済発展が阻害される。これは放置できないと、政府は2015年12月に「下請等中小企業の取引条件改善に関する関係府省等連絡会議」を設置し、「取引の適正化」に向けた取り組みをスタートさせた。

 重点課題は、第1に「価格決定方式の適正化」。親企業が下請企業に対して一方的に価格を決定したり、毎年一定率のコスト削減を要求するような慣行を見直していく。第2は「コスト負担の適正化」。部品製造に必要な金型・木型を下請企業が自己負担(無償)で保管しているケースが多いが、そのコスト負担のあり方を見直していく。第3は、「支払い条件の改善」。慣習的な手形支払いを現金払いに変えていく。

政府は、この重点課題の解決に向けて3つの具体的方策を講じてきた。

1つめは、「下請法の運用強化」。下請法自体は抽象的な規定なので、業種別に具体的なガイドラインを策定している。そこに不当な減額要求、「型保管」のコスト負担(不当な経済上の利益の提供要請)などの違反事例を明示して改善を促す方策だ。

2つめは、「下請中小企業振興法の振興基準の改正」。これは、2016年12月に、・取引先の生産性向上等への協力、・合理的な原価低減要請、・取引対価への労務費上昇分の影響の考慮、・型の保管・管理の適正化、・手形支払い及び支払い関係(支払いの現金化など)、・業種別下請ガイドライン及び業界団体の自主行動計画の明文化などの項目を追加した。適正化は、個別企業だけで対応するのは難しい。業界全体の取り組みや行政指導が求められるが、振興基準は、その法的根拠となる重要な法令だ。

3つめは、「未来志向型・型管理に向けたアクションプラン」。私もその策定に関わったが、実態調査結果を見て驚いた。下請会社の敷地に古い型が山のように積み上がっている。保管場所がいっぱいになって場所を借りた会社もある。そもそも保管期間が不明確、あるいは廃盤が通知されないがために、処分することができないからだ。そこで2017年にアクションプランを策定し、・不要な型は廃棄する、・引き続き保管が必要な型については、保管費用や保管義務期間等について当事者の協議・合意のもとで取り決める、・型管理について社内ルールを明文化するという手順を示した。

こうした取り組みを受け、「取引の適正化」はどこまで進んだのか。2018年6月のフォローアップ調査では、「不合理な原価低減要請の改善」38%、「型の廃棄・返却」11%、「支払い条件の改善」11%。「働き方改革」については、「影響がない」が多い(60%)ものの、「急な対応の依頼が増加した」29%、「納期の短い発注が増加した」24%という結果であった。業界によって温度差があること、支払いの現金化が進んでいないことなどの課題も見えてきた。

そこで、現在、振興基準を再度改正する作業が進められている。ポイントは、・下請代金の支払い条件に影響を及ぼす大企業間取引の支払い条件の見直し、・働き方改革の推進を阻害する取引慣行の改善、・自然災害時の下請事業者への一方的な負担押し付けの防止、復旧支援、取引関係の継続等。また、フォローアップ調査も継続・強化することが決まった。

弱者救済から健全な競争力強化へ

従来の中小企業対策は、金融支援や税制優遇措置などの「弱者救済」策が中心だった。経営基盤の脆弱な中小企業には必要なものではあるが、一時しのぎのカンフル剤で根本的な経営強化にはつながらない。しかし、「取引の適正化」をキーワードとする、新たな中小企業政策は、中小企業自体の健全な競争力強化と経営安定化をはかることを目的としている。ここが最も大切なポイントだ。

取引関係における不公正な慣行の結果、本来、中小企業に属すべき利益が大企業に移転し、それが中小企業の収益低下や働く人たちの賃金・働き方の格差につながっている。人材確保が困難になり、後継者不足から継続が危うくなっている中小企業も増えている。これが進行すれば、大企業もまた、自らの土台が足元から崩れかねない危機に直面し、日本の産業・経済全体にも深刻な影響が及ぶだろう。「取引の適正化」とは、狭い範囲の中小企業対策にとどまらず、日本経済全体の将来を見据えた重要な政策なのだ。

中小企業への支援は、自由競争をゆがめ、本来退出すべき企業を温存することになるとの批判もある。しかし、競争政策とは、けっして弱肉強食のルールなき競争を推進するものではない。自由意思に基づく自由な競争と、公正取引が担保される公正な競争がミックスされてこその競争政策であり、一定のルールは必要だ。例えば、強者が弱者に不利益を押し付ける行為は、「優越的地位の濫用」として独占禁止法でルール違反とされている。この「優越的地位の濫用」を特別法化したルールが、下請法なのだ。

「取引の適正化」とは、経済運営の基盤を成すものであり、親事業者と下請事業者の間にWIN─WINの関係を築いて経済の好循環に寄与することが期待されると理解してほしい。

粘り強く継続した取り組みを

「取引の適正化」は、粘り強く継続して取り組むことが重要だ。政府や大企業の責任が大きいが、下請・中小企業の努力も不可欠。まずは取引先に対し、自分たちの要望を伝えてみてはどうか。不公正取引の要因や対策が見えてくるはずだ。

労働組合の取り組みも大きな推進力になる。特に連合は、ナショナルセンターとして大所高所に立ち、個々の企業の利害の違いを超えて行動できる存在だ。働く人たちが生き生きと笑顔で働けるよう、これからも積極的に「取引の適正化」に取り組み、「格差是正」を実現してほしい。

 

※この記事は、「月刊連合3月号」の記事をWEB用に再編集したものです。