初!特別講義 @ 東京工業大学 東工大の学生と考えた 「働き方改革」1

2018年9月13日

労使関係が世界を救う

7月上旬、神津会長、相原事務局長が特別講師として東京工業大学の教壇に立った。授業は、西田亮介准教授が担当する「社会学A」で、今期のテーマは「労働と政治」。特別講義としてリクエストされたのは、今最もホットな「働き方改革」をめぐる課題。連合からの問題提起に、学生から鋭い質問が投げかけられた。

 

神津里季生 連合会長

 

神津会長からの問題提起

講義にあたって神津会長は、「今日のテーマは『働き方改革』を考えることだが、ぜひ、そこから視野を広げて、今、自分たちが暮らしている日本や世界はいったいどうなっていくのかということにも思いを馳せてほしい」と投げかけた。そして労使関係の重要性について「徹底した話し合いを重視するとともに、経済的な豊かさを実現していく機能を持っている。労働者が一生懸命働いて生み出した価値をきちんと分配すれば、生活が向上し、購買力が高まって消費が拡大し、経済が成長するという好循環が生まれる。世界の紛争やテロの背景には、雇用の悪化や貧困があるが、労使関係を構築し機能させることができれば、生活や経済を建て直し、平和を実現できる。私は、こうした労使関係の枠組みが存在するからこそ、究極は楽観論に立ってものを考える。労使関係こそが世界を救う」と説いた。

また、財政問題や雇用のセーフティネットの脆弱性を指摘し「人手不足の中で顕在化していないが、いずれ、第4次産業革命としてAI(人工知能)がさまざまな分野にビルトインされれば、加速度的に失われる職種や仕事が生じてくるだろう。今、人手不足で失業率が極めて低いこの時期にこそ、将来に向けてセーフティネットを拡充しておくことが重要だ」と訴えた。

 

学生からの質問

Q ネットメディアについて

若者がネットメディアに触れると思考が右翼化すると言われているが、それは若者が労働組合に入りたがらないという心理にもつながっていると考えるか。

神津 ネット右翼を中心とする誹謗中傷的な言動が、若い世代の社会・歴史認識にネガティブな影響を与えていると感じることはある。現実から目を背けない議論を投げかけていくことが重要だと考えている。

例えば、「外国人排斥」はネット右翼の常套句だが、日本にとっては外国人労働者との関係は、もはや避けて通れない問題だ。政府の外国人労働者政策は本音と建前が乖離している。人手不足の業種は往々にして低賃金で重労働。そこに外国人労働者が入れば、新たな差別感情が生まれる恐れがある。

連合は、高度人材は積極的に受け入れ、単純労働は受け入れるべきではないという立場をとってきた。介護人材は圧倒的に不足しているが、処遇の低さから離職する日本人も多いことから、外国人を入れる前にそもそもまず処遇を改善すべきだと主張してきた。これらは「正論」として貫いていくが、個人的には移民政策についてもきちんと議論すべき時期にきていると思っている。

 

Q 女性参画について

次代のユニオンリーダーが考える「労働組合のあり方」の調査で、女性参画について「a 女性枠を設けるなどして、女性役員の人数を増やすことを優先すべき」が23・1%、「b 女性を男性と区別せずに、組合役員にふさわしい人材を育てることを優先すべき」が49・4%という結果を伺ったが、会長はどのように考えるか。

神津 私も、昔はbの考え方に近かったが、女性たちがどういう思いで働いているのかを知る中で、積極的な登用を行い環境を整えることが必要だと考えるようになった。日本が抱えるさまざまな問題を解決するためにも、女性が職場や地域でその力を発揮することが必要だが、労働組合に限らず、企業でも政府や議会でも女性リーダーは非常に少なく、女性参画の国際ランキングでは114位にまで順位を落としている。他の国も、かつては「女性は家庭を守る」という考え方が根強くあったが、意識を変え、制度を変え、社会を変えてきた。今は、女性枠を設けてでも、女性の参画を積極的に後押しすることが必要だ。

 

Q セーフティネットについて

若者のキャリア形成観の調査で、職場に不満があれば転職するほうが良いと考える割合が、日本は14・2%と低く、スウェーデンの47・4%と対照的と伺った。その要因の一つにセーフティネットの弱さがあると会長は指摘されたが、なぜ、日本では、今までそれが強化されてこなかったのか。

神津 高度成長期の成功体験をいまだに引きずって、将来を見据えてステップを刻んでいこうという政策立案が行われていない。雇用のセーフティネット強化の先送りもその一つだと考える。

 

Q 非正規雇用について

非正規雇用労働者の増加についてはどう考えるか。

神津 基本的に多様な働き方はあってしかるべきだ。短時間働きたい、自分のスキルを生かしていろいろな職場で働きたいというニーズはある。しかし現実は正社員を希望しているのに非正規雇用しかないという「不本意非正規」が依然として多い。また、その処遇をみると雇用が不安定で賃金が上がる仕組みがほとんどない。セーフティネットを強化して、ニーズにあった働き方が可能になるよう支援することが必要だ。

ヨーロッパでは、産業ごとに結ぶ労働協約が組合員ではない労働者にも拡張適用され、格差の拡大を防いでいるが、日本ではそのような仕組みが機能していない。連合は、均等待遇ルールの整備やパートや契約社員の人にも組合員になってもらう組織化の取り組みを続け、現在、700万人の組合員のうち100万人以上が非正規雇用だ。

皆さんは理系の学生だが、研究者の世界に増えている非正規雇用も日本の将来を考えれば、非常に問題だ。

 

Q 高度プロフェッショナル制度について

高収入の一部職種に限定し、本人の同意が必要という制約が課されているが、それでもこの制度が悪用される懸念はあるのか。

神津 懸念があると考えて制度創設に反対してきた。例えば現在、36協定を締結していない企業が45%もあるが、そうした企業で残業がまったくないとは考えにくく、たとえ制度があっても守られないケースがある。また管理・監督者は労働時間規制の適用除外だが、「名ばかり管理職」など残業代の支払いを避けるために制度の悪用が行われる例は後を絶たない。高プロ制度についても非常に危惧している。

 

Q より良い日本にするために

自分が「おじいちゃん」になった時も、日本が良い国であるためには、私たちは、今何をするべきか。

神津 問題を先送りせずに現実に向き合い、その解決に向けたグランドデザインを持つことだ。そして、本当に将来世代のことが考えられているのかどうかという視点で、有権者として政治について考えてほしい。

 

西田准教授(左から5人目)、学生の皆さんと

 

講義を終えて From 東工大生

●労働問題は自分には遠い問題だと思っていましたが、身近なことだと気づきました。社会に出る前に知っておくべきことがたくさんあるとわかりました。

●セーフティネットが整えばブラック企業で我慢して働き続ける人も減るのではないかと思いました。

●労働者の権利を守るためには労働組合が必要なのだとわかりました。

●海外に比べて日本は女性の活躍が遅れていることがよくわかり、女性が優遇されるのは不平等だという考え方が変わりました。

●国民一人ひとりが政治に関心を持ち、投票に行き、政治に関わることが大事だと思いました。参政権をしっかり行使したいです。

 

※この記事は、連合が企画・編集する「月刊連合8・9月合併号」の記事をWEB用に再編集したものです

 

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