「最低賃金」みんなにメリット!この社会的コンセンサスづくりを地域から

2018年7月18日

法定最賃の引き上げには、みんなにメリットがあるという社会的コンセンサスづくりが欠かせない。その第一歩として重要なのは、最賃制度と法定最賃額の周知活動だ。そもそも、労使ともに法定最賃を知らないことが少なくないのだ。各地方連合会は、機会あるごとに、働く者に対する法定最賃の周知はもちろん、経営者団体などに対する法定最賃引き上げへの理解活動にも取り組んでいる。

地方連合会の地域に根ざした多様な取り組みの一部を紹介する。

※本特集では、以下の表記を使用しています。

最低賃金:最賃

最低賃金法:最賃法

法定最低賃金:法定最賃

地域別最低賃金:地域別最賃

特定(産業別)最低賃金:特定最賃

 

■地方連合会の取り組み

 

連合長野 最賃街宣キャラバン隊で県内に周知活動

最賃街宣キャラバン隊で県内に周知活動

県内で働くすべての労働者に新たな地域別最賃額を周知すべく、昨年8月中旬の長野駅前での街宣を皮切りに、県内全域をまわる「77市町村最賃街宣キャラバン隊」を結成。全地協で、地域別最賃額に加え、特定最賃額も含めた周知活動を12月末まで行った。また、今年5月からは最賃制度の重要性と最賃引き上げに向けた街宣行動を全地協にて行い、幅広く周知活動を展開している。

 

 

連合山形 街宣行動と署名運動を実施

地域別最賃の大幅引き上げを求める街宣・署名活動には山形市議会議員も参加、市民からは「がんばって」という激励の声も届いた。集めた3万筆を超える署名は、最低賃金の大幅引き上げを求める要請書とともに山形労働局長に提出する。

 

 

連合三重 公用車にマグネットを貼り付けて周知

「2017年度の三重県の地域別最賃は時給820円」。これを周知徹底する広報用マグネットを作成し、連合三重および地協のすべての公用車・街宣車に貼り付け、年間を通じて周知活動を行っている。車での移動が多いという地域特性を活かした広報活動だ。

 

 

連合大阪 街頭や商店街での最賃引き上げのアピールと特定最賃の存続に向けた取り組み

 

井尻雅之

連合大阪 事務局長

 

2017年度の大阪府地域別最賃は26円上がって時給909円。今回の引き上げで小規模事業所の労働者の約20%、29・2万人の方が賃金の引き上げ対象となり、クラシノソコアゲに大きく寄与した。それでも日本の最低賃金は先進国の中でも極めて低い水準だ。経営側は、地域別最賃が上がると経営を圧迫すると言いつつも、労働側の粘り強い審議交渉もあり、深刻な人材不足や中小企業支援策の拡充などを背景に引き上げを受け入れた。

連合大阪では、地域別最賃周知のため、大阪労働局への要請とともに大衆行動に力を入れている。具体的には街頭宣伝行動、御堂筋デモ行進、天神祭でうちわを5000枚配布するアピール、チンドン屋を活用した商店街の練り歩き等も行っている。また、2年前は商店街の店主にも、「最賃はどのくらいの水準が望ましいか」を尋ねる突撃アンケートを実施。9割以上が「900円以上」(当時の地域別最賃858円)と答えた。こうした現場の声を審議会へ反映すべく公益、使用者側への理解促進活動も行っている。これらの行動をテレビや新聞などに取り上げてもらうよう、マスコミにも積極的に働きかけている。

一方で、地域別最賃を上回る金額で設定しなければならない特定最賃の存続は、地域別最賃の大幅な引き上げにより年々厳しくなっている。連合大阪では、2016年に「特定最賃のあり方研究会」を設置し、特定最賃の存続と産業にふさわしい水準確保に向けて、対象となる基幹的労働者の定義見直しなど、有識者も交えて検討を行い、2017年に研究会報告をとりまとめた。当面は、企業内最賃の協定化と拡大に取り組むが、今後は「特定最賃の意義づけをどうするか」が重要なポイントで、「産業の入口賃金」や「一人前労働者のモデル賃金」などの方向性を示さない限り、維持するのは困難な状況である。

 

 

連合沖縄 行政・労使の周知 合同街頭キャンペーン

連合沖縄、沖縄県庁、沖縄労働局、沖縄県経営者協会、沖縄県商工会連合会、沖縄県中小企業団体中央会、沖縄県商工会議所連合会が合同街頭キャンペーンを実施し、地域別最賃改定額の周知を行い、履行確保などを訴えた。行政と労使が一体となって地域別最賃額をアピールするのは、全国でも珍しい取り組みだ。

また、法定最賃の引き上げ改定額を受発注単価に反映するよう、沖縄県庁、公正取引委員会を所管する内閣府沖縄総合事務局に要請を行った。

 

 

なんでも労働相談ダイヤル

連合本部と47地方連合会が実施している「なんでも労働相談ダイヤル」に寄せられる相談のうち、賃金関連は約2割を占めている。うち、最低賃金については、「現在の地域別最賃の額」や「払われている月給が最賃をクリアしていないのでは」といった内容であり、法定最賃と月給の比較方法などをアドバイスしている。

 

 

■構成組織の取り組み

 

【UAゼンセン】特定最賃を通じた公正労働基準の確立は労働組合の重要な役割だ

永井幸子

UAゼンセン 常任中央執行委員 短時間組合員総合局局長

 

特定最賃の存続に強い危機感

─特定最賃をめぐる状況は?

U‌Aゼンセンの正式名は「全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟」。その名の通り多種多様な産業の組合が加盟している。全国の特定最賃233件のうち、U‌Aゼンセンが主に関わるのは繊維と小売(流通)を中心に38件。繊維産業の歴史は長いが、産業の縮小に伴い、今も毎年金額を引き上げられているのは石川県、福井県の2件のみ。また、小売(流通)への就業人口が拡大しているが、その多くは時給制のパート労働者だ。採用時給は地域別最賃を参考にして設定され、企業内最賃が地域別最賃ギリギリというケースも珍しくない。両産業ともに、取り組みは難航している。かつてに比べ地域別最賃の大幅引き上げが続く中、それ以上に特定最賃を引き上げる必要はない、と使用者側の抵抗が強いからだ。

産業の基幹的労働者を対象とする特定最賃が、すべての労働者のセーフティネットである地域別最賃と同じ金額、ましてや逆転されるようでは、その存在意義を失いかねない。

 

企業内最賃は必須の取り組み

─特定最賃に取り組む意義とは?

特定最賃は、公正労働基準確立の柱だ。公正労働基準とは、同じ市場で競争するすべての企業が守るべき労働条件の基準だ。例えば、かつて小売(流通)業では、パート労働者や契約社員を低賃金で働かせることで、商品を安く売って儲ける企業があった。このような抜け駆け、賃金ダンピングがまかりとおっては、労働者の賃金が全体的に押し下げられ、経済成長の循環メカニズムを阻害しかねない。同じ基準を守った上で競争する仕組みが必要だ。これを法律で制度化する仕組みこそ、特定最賃なのだ。

 

─労働組合に求められるのは?

特定最賃の引き上げに不可欠な企業内最賃の協定化・金額引き上げの取り組みだ。U‌Aゼンセンの2018労働条件闘争では、すべての加盟組合の必須の取り組みとした。その結果、取り組み件数は飛躍的に増えた。企業内でしっかり企業内最賃協定を結ぶことが、その企業内のみならず、産業・社会を底支えすべき公正労働基準の確立につながる。このことを再確認し、労働組合としての役割を果たしていく。

 

情報交換や議論の場を

─今後の課題は?

特定最賃の新設だ。新たな業種での新設はもちろん、既存の特定最賃を存続させるため、業種区分の見直しによる新設申出の必要に迫られるケースもある。いずれもハードルは高いが、今期方針では「新設に向けた取り組み」を強化し、すべての部門で検討することとした。例えば流通部門では、「各種商品小売」の特定最賃で対象にならない食品スーパーやホームセンターも対象として新設できないか等、検討中だ。また、総合サービス部門では、介護分野で資格・技能に連動した特定最賃新設の可能性を模索している。

 

─連合への要望は?

特定最賃は当該構成組織が主導すべき取り組みではあるが、特定最賃が存亡の危機に瀕している今こそ、中央でも地域でもオール連合で取り組むことを共有してほしい。苦しい時こそ他の構成組織との連携、情報共有、人的ネットワークの強化が助けになる。連合のリーダーシップに期待したい。

 

【自動車総連】特定最賃の取り組みを通じ、自動車産業で働く人全体の底上げと産業の発展をめざす

 

吉清一博

自動車総連 中央執行委員 労働政策局局長

 

全国の最賃委員の苦労や思いに寄り添った活動を

─特定最賃の現状は?

自動車総連は、約1100単組(組合員数77万人)で構成。完成車メーカー、車体・部品製造、販売、輸送、一般とさまざまな業種があり、約7割が300人未満の中小単組。47都道府県に「自動車総連地方協議会」(以下、「地協」)という地方組織があり、特定最賃が設定されている38都府県にはそれぞれ最賃委員がいる。全国の特定最賃233件のうち、自動車総連が産別として関わっているのは、製造32件、小売(販売)22件、整備1件の計55件だ。

近年、特定最賃を取り巻く環境は非常に厳しい。地域別最賃の大幅な引き上げに伴い、特定最賃の優位性が年々縮小しており、使用者側が金額水準引き上げや特定最賃の存在そのものに難色を示しているからだ。こうした状況下、各地協と本部が一体となって取り組んでいけるよう、昨年、本部役員が手分けして全国の地協を回り、最賃委員の声を直接伺った。

 

─どんな要望が?

主には、①本部主催の研修、②効果的な情報共有、③経営者への理解促進、④企業内最賃協定の取り組み等に集約されるが、いちばんの気付きは、各地協の最賃委員の苦労や思いに寄り添った活動を本部として展開できていなかったことをあらためて痛感したことだ。

最賃委員は、特定最賃の存続と産業・地域の発展に向け、相当な思いを持って各地域で審議にあたっている。その思いに少しでも応えるべく、本部でできることはすぐに着手した。例えば、毎年1月の「全国特定最賃会議」を、本部と各地協の双方向議論や、最賃委員同士の人的ネットワークづくりに重きを置いた形に大幅に見直した。また、本年9月には、新任最賃委員を対象にした本部主催の「最賃研修会」も新設する。

 

産業で働く人全体の底上げと産業の発展に必要不可欠

─特定最賃に取り組む意義とは?

自動車産業を含め金属産業は、バリューチェーン全体で高い付加価値を生み出しており、それが強みでもある。特定最賃がなければ、賃金の押し下げ圧力が強まり、その強みを自ら毀損させかねない。また、付加価値生産性の高さに見合った賃金でなければ、人材の確保もままならなくなる。労働力人口の減少や厳しい国際競争を踏まえれば、特定最賃の存続と発展は、産業にとって極めて重要である。

また、自動車産業は、組織・未組織にかかわらず、多くの仲間で支えられている。労使交渉で決定された賃金水準を未組織労働者にも波及させるという特定最賃の特性に鑑みれば、特定最賃に取り組むことは、労働組合の社会的責任でもある。

特定最賃の取り組みに加え、今次総合生活改善の取り組みの中でも進めた「非正規労働者の処遇改善」や特定最賃の金額改正に大きな影響を与える「企業内最賃協定の取り組み」、また、産業の付加価値の最大化・適正循環をめざした「WIN─WIN最適循環運動」も併せもって、産業で働く人全体の底上げと産業の発展を実現していきたい。

 

付加価値生産性に見合った「あるべき水準」の実現

─今後の課題は?

特定最賃の金額改正審議では、「上げ幅」の議論が中心となることが多いが、それだけではなく、生み出している付加価値や人材確保に真に見合う水準はどれくらいなのかという「あるべき水準」や「絶対額」に重きを置いた議論が必要だ。

また、経営者団体への働きかけや産別間での連携強化など、本部でしかできない取り組みにはまだまだ改善の余地があると考えており、連合や金属労協との連携も強化していきたい。

 

■連合の取り組み

連合は、最低賃金の取り組みをどう位置付けているのか。どういう課題認識を持っているのか。冨田珠代連合総合労働局長に聞いた。

絶対水準に関する議論を進めその到達への道筋をつけていきたい

富田珠代

連合総合労働局長

─労働組合が最賃に取り組む意義とは?

最賃は、すべての働く者の安心につながる、社会的セーフティネットだ。これを守り高めていくことが重要だが、取り組む意義はそれだけにとどまらない。

連合は、毎年、春季生活闘争に取り組んでいる。賃金・労働条件を改善して働く者の生活の安定をはかり、働く意欲や生産性を向上させ、個人消費の活性化や経済の自律的成長につなげていくことをめざすものだが、まさにそれは最賃に取り組む意義と重なり合っている。

 

あるべき絶対水準と地域間格差是正

─地域別最賃をめぐる課題は?

一つは、その水準の低さだ。現在、地域別最賃の全国加重平均は848円。1カ月の平均労働時間は165時間。これを掛け合わせると月額約14万円。年収にすると約168万円。10年前に比べれば、かなり上がっているが、安定した生活に足る金額とはいえない。国際的にみても、先進国で最低レベルの水準だ。

非正規雇用労働者が全労働者の4割を占め、「年収200万円以下」のワーキングプアは1‌00‌0万人を超えている。非正規雇用労働者の賃金の下限となっているのが、地域別最賃であり、その水準の低さが、ワーキングプアとなる一因になっている。

地域別最賃は、生活の安定をはかるとともに、労働の対価を決めるものだ。その役割を考えれば、「上げ幅」だけに注目するのではなく、「その水準は、いくらが相応しいのか」という議論を進め、まずは「誰もが時給1000円」への到達をはかる道筋をつけていくべきだ。

もう一つの課題は、地域間格差だ。現在、最高額と最低額は、率にして76・9%、額で221円もの差がついている。格差拡大の一因は、目安制度だ。目安は、A、B、C、Dの4つのランクごとに示されるが、Aランクは、大都市圏で地域別最賃が適用される労働者の人数が多い。ここの引き上げ幅を大きくすれば、加重平均の目標は達成しやすいが、結果として、ランク間の格差拡大につながってしまう。

 

使用者側にもメリットがある

─特定最賃については?

特定最賃は、公正競争を促す産業のミニマム賃金であり、また日本で唯一の企業の枠を越えた産業別労働条件の決定システムとして、団体交渉を補完・代替している。

地域別最賃とは役割が違うが、地域別最賃の引き上げが進む中で、使用者側から「地域別最賃が上がるなら産業別の特定最賃はいらない。屋上屋の制度だ」という主張がなされ、必要性審議が難航する地域が増えてきた。しかし、特定最賃は、使用者側にもメリットがある制度だ。今後、「同一労働同一賃金」が法制化されれば、産業としてベースとなる指標が必要だが、特定最賃はその指標の一つとなり得る。その重要性をいま一度認識し、「産業のセーフティネットは産業労使で決める」という機運を高めていきたい。

 

─構成組織、地方連合会の取り組みは?

地方連合会は、地域別最賃の改定時期を中心に周知活動を展開しているが、地域別最賃が地域の生活を支えていることを広く発信し、地域別最賃が守られているか、チェックを強化してほしい。

構成組織は、法定最賃の目的や役割について、職場での理解活動を進めてほしい。そして春季生活闘争において、賃金引き上げ、企業内最賃協定の取り組みをいっそう強化してほしい。最賃は、まさに春季生活闘争から始まる一体的な取り組みの重要な一環をなしているのだから。

※この記事は、連合が企画・編集する「月刊連合7月号」の記事をWEB用に再編集したものです。