カタールのカファラ制度とILOが果たした役割
総人口の88%が外国人労働者
中東諸国で広まっている「カファラ制度」をご存じだろうか? カファラ制度とは、カタールをはじめ中東諸国特有の労働契約制度のことであり、雇用者が保証人となって外国人労働者に職を提供し、ビザを発給するというもの。この制度の下で、強制労働、契約の書き換え、高額な就職斡旋料、雇用主によるパスポートの没収が行われることがある。この問題が、2022年ワールドカップの開催地となるカタールで起きたためにITUC(国際労働組合総連合)、BWI(国際建設林業労働組合連盟)、ITF(国際運輸労連)等がカファラ制度廃止キャンペーンを大々的に行ったのである。さらに、同国では多くの外国人労働者が建設現場等で死亡するという安全面の問題もあった。
まず、カタールという国を見てみよう。オイルマネーにより豊かなこの国の一人当たりGDPは約6万1000ドル(日本は3万9000ドル)。所得税なし、医療費、電気代、電話代無料の国である。人口は267万人(2017年)であるがその大半が外国人労働者である。総人口のうち88%が外国人労働者で、最も多いのがインド人、これにネパール、バングラデシュ、フィリピンと続く。
ILO条約違反の申し立て
外国人労働者に労働力を大きく依存しているカタールで、問題が起きたのである。2014年のILO総会において、カタール政府に対しILO条約第29号(強制労働)及び第81号(労働監督)違反として、苦情申し立てが行われた。申し立ての内容は、上記以外に、外国人労働者が、虐待を行っている雇用主を変えられない、契約期間中は自由に帰国もできないといったことが挙げられた。同国の労働者保護監督制度は非常に弱く、ただでさえ立場の弱い外国人労働者の権利を守るのに十分ではなかった。さらに、労働者が雇用主の報復を恐れるため、苦情申し立てを行うことは困難であった。
ILOはこの申し立てを受け、理事会で審議し、2015年にハイレベル・ミッション、2016年にハイレベル三者構成ミッションを派遣した。その後、同政府に対し、ILOミッションの評価に基づき、特に弱い立場にある外国人労働者の問題に対応するよう求めた。
労働者を保護する法整備を実現
2017年10月のILO理事会で、この問題にようやく終止符が打たれた。①外国人労働者の入出国及び居住に関する法律(2015年)を効果的に実施し、②家事労働者に関する法律及び労働者紛争解決委員会設立に関する法律を施行していることをILO理事会は評価したのである。また、ILOはカファラ制度を無効にし、労働者保護に関する監督を強化するために技術支援を行っていくこととした。外国人労働者は原則自由に出国できるようになり、また雇用主の変更を妨げていた問題も是正されていくことになる。さらに、政府は、外国人労働者を含めた全労働者を対象にした最低賃金を設けると発表した。
ILOに提訴されてから3年を経て、労働側は勝利を手にした。もちろん今後も法律が誠実に実行されているか、状況を見守らなければならない。しかし、この例で言えるのは、時間はかかるがILOはITUCや国際産業別組織と共に、労働者保護のために、確実にその機能を果たしたということである。
※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合3月号」に掲載された記事をWEB用に再編集したものです。「月刊連合」についてはこちらをご覧ください。