“思いやり”の心で“優しい社会”を!~よりよい消費社会をめざして~第1回

2018年3月16日

商品・サービスに関するクレームや改善要求は、健全な消費活動にとって必要な行為であり、事業者にとっても商品開発やサービス向上につながる情報として積極的に受け止めるべきものだ。ただ、最近、暴言や土下座を強要するなどの「行き過ぎた行為」によって、接客業務で働く人が強いストレスを感じるケースも報告されている。

消費をめぐる現場で何が起きているのか、背景には何があるのか。第1回では、連合が実態把握を目的に実施したインターネット調査(消費者行動に関する実態調査)を紹介。連合の小熊社会政策局長には、実態調査を実施した経緯と今後の取り組みについて聞いた。
第2回では、消費者心理を研究する関西大学の池内教授に、クレームがエスカレートする背景とメカニズムについて、つづいて、UAゼンセン流通部門の西尾事務局長に、現場の切実な声と労働組合の役割について伺った。
最終回では、「行き過ぎたクレーム」への対応を始めている、自治労の川本委員長、情報労連の野田委員長、運輸労連の難波委員長、航空連合の島会長と相原連合事務局長による座談会の様子をお送りする。

今、労働組合として何が求められているのか、また私たち一人ひとりが消費者として何をすればいいのか、この特集を通じて考えたい。

 

行き過ぎた行為をなくすには「消費者への啓発活動」が必要

連合の「消費者行動に関する実態調査」の特徴は、一般消費者と接客業務従事者の双方を対象にしていること。接客業務従事者の半数以上(56.9%)が行き過ぎた行為を「受けたことがある」と回答し、一般消費者も約6割(58.4%)が実際に見聞きしたことがあると回答。両者の認識に大きな隔たりはなく、今後の対策につながる課題が明らかになった。

◆連合「消費者行動に関する実態調査」(2017年11月実施)

一般消費者1000人、接客業務従事者1000人から回答を得た。

 

事業者と消費者が相手を思いやる気持ちを持って

連合は、「消費者行動に関する実態調査」の結果をどう受け止め、どういうスタンスで取り組みを進めていくのか。小熊栄連合社会政策局長に聞いた。

メンタルヘルスの不調や退職も

─調査を実施した経緯は?

苦情やクレームそのものが悪いわけではない。商品・サービスに瑕疵があった場合、消費者はそれを指摘し、事業者はそれを受け止めて商品・サービスの改善につなげていくのが本来の姿だ。しかし近年、消費者が、販売員に土下座を強要するような事件が大きく報道され、通常のクレームの範囲を超えた行為が起きていることが浮かび上がってきた。背景には、社会に対する不満や不安が高まり、その矛先がより弱い立場にある人に向けられているという社会状況がある。また、事業者においては、「お客様第一主義」を掲げ、過剰な要求であっても、できる限り穏便に解決しようとしてきたが、それが根本的解決を阻み、クレームをエスカレートさせる一因ともなってしまっている。

そういう中で、昨年、UAゼンセン流通部門が実施した組合員調査で、働く人の多くが消費者からの行き過ぎた行為を経験し、大きなストレスを感じていることが明らかになった。メンタルヘルスが不調になったり、退職に追い込まれる人も少なくない。連合としても、社会問題としてこの問題に向き合い、解決に取り組む必要があると、今期の運動方針において「実態把握を進めるとともに、取り組みを検討していく」ことを確認した。それを受けて実施したのが、今回の「消費者行動に関する実態調査」だ。

不十分なマニュアル作成や教育

─調査結果からわかったことは?

調査は、一般消費者と接客業務従事者の双方を対象に行った。後者だけを対象とした場合、被害が強調される可能性があると考えたからだが、結果は、両者の認識に大きなギャップは見られなかった。どちらも「行き過ぎた行為」は問題だと考えていた。これは非常に注目すべき点だ。

今後の取り組みのポイントも見えてきた。1つには、消費者が「許せない」対応として、「たらい回しにされた」「失礼な言葉づかい」などが挙げられた。つまり行為がエスカレートしていく前段には対応のまずさがある。事業者におけるマニュアル作成や教育が十分行われていないことも明らかになった。なぜ、クレームがエスカレートするのか、そこに踏み込んで、問題の本質を探り出す仕組みづくりや従事者のスキルアップを進めなければ、本当の解決にはつながらない。

2つめに、行き過ぎた行為の原因のトップに「消費者のモラル低下」が挙げられ、対策として「消費者の啓発活動」が求められた。一般消費者の側には、「客のほうが立場は強い」という意識があり、それが行き過ぎた行為につながっていると考えられる。

自らの行動を見つめ直そう

─連合の取り組みは?

この問題は、どちらが悪いのかという議論にしてしまうと解決から遠ざかってしまう。連合の組合員には、接客従事者が多数いる一方、誰もが消費者という立場になる。だから、まずこの問題の存在に気付き、消費者としての自分の行動を見つめ直し、一人ひとりが相手を思いやる気持ちを持つことで、より良い社会をつくろうと呼びかけていきたい。

それは、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」における環境や人権に配慮した生産と消費、ディーセント・ワークの推進に通じるものであり、消費者庁が提唱する「倫理的消費(エシカル消費)」のめざすところでもある。

もう一つ重要なのは、職場での取り組みだ。クレーム対応のマニュアルや教育内容をチェックし、足りない部分があれば、労使で改善を進めてほしい。連合としては、それを後押しすべく、法対応も含めた制度的な仕組みづくりについても検討していきたい。

 

 

 

小熊 栄 連合社会政策局長

 

※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合2018年3月合併号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。「月刊連合」についてはこちらをご覧ください。

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