2018春季生活闘争 「格差是正フォーラム」開催

2018年1月31日

12月18日、連合は、20回目となる「格差是正フォーラム」を開催。主催者挨拶に立った相原事務局長は「今や格差拡大は先進国に共通する問題。労働運動の最前線にいる私たちの責務として、継続的・安定的な賃金引き上げと公正な分配による格差是正の道筋を提起し、力強く進めていこう」と投げかけた。続いて中小企業家同友会全国協議会の青木義彦経営労働副委員長の講演、構成組織・地方連合会から職場・地域における取り組み報告を受け、2018春季生活闘争の前進へ、決意を新たにした。

講演

 

 

青木義彦
株式会社サンテック 代表取締役
中小企業家同友会全国協議会経営労働副委員長
愛知中小企業家同友会理事

「中小企業の人材不足及び生産性向上に向けた労働条件改善への取り組み対応と課題」

人を生かす経営を

私は、NC制御システムの組み込みソフトを開発し、1985年に(株)サンテックを設立。以来、産業機械だけでなく、自動販売機やカーナビのソフトウエア開発、クラウド業務支援サービスの提供も手がけ、今日に至っている。

会社設立当初は、人材確保に苦しんだ。仕事はいくらでもあるのに人が足りない。専門学校の講師を務め、その教え子に声をかけて人材をつないできた。バブル崩壊後、同業の経営者は人員削減に走ったが、私はやっと育てた大事な社員を切ることはできなかった。「会社がつぶれるぞ」と言われ、もやもやしていた。そんな状態を10年近く過ごした後、再創業のつもりでやろうと気持ちを切り替えつつある時に中小企業家同友会の存在を知り入会、町工場の経営者から企業経営の責任を学んだ。人を切るのではなく、人を生かしている企業のほうが伸びる。それができるのが良い経営者だと。そして、経営指針書を策定する中で、仕方がないと諦めていたことも、経営課題として捉え解決策を考えることができるようになった。

社員からは「給料が安い、休みが少ない」と言われ、顧客からは「もっと安く早く」と言われる。絶え間ない仕様変更・追加に対応するには残業するしかない。しかし、人を大事にしなければ技術は維持・向上できない。大企業には、自社の利益だけを考えるのではなく、全体のプロセスをみてほしい。中小企業を開発・製造のパートナーという視点で考えれば、「価格」以外のアプローチも出てくるはずだ。

「人を生かす経営」を掲げ日々努力している中小企業経営者が希望をもてる社会を実現するために、ともに社会運動として格差是正の取り組みを進めていきたい。

構成組織・地方連合会の取り組み報告

JAM 個別賃金要求の取り組み

 

 

 

 

中井寛哉 JAM書記長

日本は、他の先進国に比べ大手と中小の賃金格差が大きく固定的だ。背景には、大手による系列下請支配の構造がある。加盟組合の8割が中小組合であるJAMでは、1999年の結成以来、この構図を打破し、格差を是正するため「個別賃金要求」に取り組んできた。

中小では、採用難に加え人材流出が深刻化している。初任給だけでなく、中長期的に全体の賃金水準を底上げしていく必要がある。JAMの闘争方針は「絶対額」を重視した取り組みとして「一人前ミニマム基準」を設定し、その水準への到達をめざす。「一人前労働者」とは、職種を問わず、一定の範囲の仕事について緊急時対応や不具合チェックなど定型的仕事を除いた部分についても自分自身で判断し、責任をもって行う労働者である。社会的な生活を営む生計費という視点も含めて、賃金全数調査より第1四分位数を目安に算出している。すべての一人前労働者がここへの到達をめざすとともに、すべての組合員はミニマム基準の80%水準である「年齢別最低賃金基準」をめざす。

手順は、まず賃金台帳や賃金明細等で賃金データを集めて、個人別賃金をプロットしていく。その際、それぞれの賃金ポジションは説明がつく格差なのかどうかを明らかにして賃金構造上の問題点を抽出する。そこに社会的な水準として「JAM一人前ミニマム基準」と「JAM年齢別最低賃金基準」を描き、水準比較を行う。次に職場を代表する組合員(標準労働者)を選定し、実態モデルの賃金カーブを描き賃金構造維持分を決める。そして、あるべき水準・めざすべきカーブを策定し、ベア分、賃金改善分、格差是正分を確定させ、要求案をつくる。要求案づくりは組合員による職場討議を通じて行うことが重要だ。この4年間で個別賃金要求に取り組む組合は109から273に増え、獲得額も平均賃上げ方式より高いという結果が出ている。JAM結成以降、組合員の賃金データを集める賃金全数調査を行ってきた。まさに「調査なくして運動なし」である。この調査を積み重ねてきたことで見えてきたのが「アラフォー」問題だ。2000年前後の就職氷河期に就職した40歳代前後の賃金がJAM結成当時(2000年)の40歳代と比較して大きく低下している。早急に是正が必要だ。

個別賃金要求とは、職種別・熟練度別に企業の枠を超えて社会的に賃金を決定していく取り組みである。このことは、労働組合の団結の基礎である「同一労働同一賃金」原則の具体化の端緒にもなるはずだ。

 

働き方改革(長時間労働の是正)と運輸労連の取り組み

 

 

 

 

小畑 明 運輸労連書記長

運輸業界は、1990年の規制緩和により、事業者数が1・5倍に増える一方、国内貨物は減少が続き、運賃のダンピングが生じた。企業の売上高に占める物流コスト費の比率は、同じく規制が緩和されたアメリカでさえ10%近いのに対し、日本は5%。その差は運輸産業で働く者の賃金・労働条件にシワ寄せされてきた。

運輸労連の春闘妥結額の推移を見ると、1990年は1万円〜1万1000円であったのが、規制緩和以降は「ゼロ」回答が多数を占めるようになり、一時金の水準も半減した。一方で、労働時間は増加し、年間総労働時間は2600時間で全産業平均より400時間も長い。その結果、直近の過労死認定状況を見ると、全体の支給決定件数251件のうち運輸業・郵便業が96件(38%)を占めるに至っている。

過労死ゼロへ長時間労働を是正しようと、国をあげて「働き方改革」が始まったはずだが、年間720時間という時間外労働の上限規制は、自動車運転者は5年間適用猶予とされた上、5年後に適用される上限規制は960時間で休日を含まないという。これを拘束時間に置き換えると年間3516時間超。働き方改革の結果、現状より悪くなるなんて到底納得できない。そこで「再改正」を求めて、100万人請願署名に取り組み、2017年12月1日現在で186万筆を超えた。連合の仲間のみなさんの協力に感謝したい。

運輸産業の取引環境、労働時間の改善については、産業全体でさまざまな対策を講じている。2015年には「トラック輸送における取引環境・労働時間改善中央協議会」が設置され、関係省庁、経団連、連合、運輸労連、交通労連が参加して協議を重ねている。また、「標準貨物自動車運送約款」の改正で、運賃以外の積み込み・取り卸し、待機料などを付帯料金として位置づけた。宅配の再配達削減をめざす環境省の「COOL CHOICE」運動も始まった。

運輸産業はサプライチェーンに不可欠な一端を担っている。適正配分の観点から改善に向けていっそうの取り組みを進めていきたい。

 

すべての働く人の「底上げ」へ 連合長野“信州賃金地図”の挑戦!

 

 

 

 

根橋美津人 連合長野事務局長

底上げ・格差是正に向け、連合長野では「信州賃金地図」の作成を進めてきた。賃金の実態把握は、労働組合の原点だが、加盟単組では、男女を区別して把握している組合は37%、男女を区別していないが把握している組合は21%にすぎなかったことから、まずそれぞれの単組で実態調査を行うことから始めた。組織拡大の運動と連動させて組織外にも調査を依頼し、昨年までに約4万人の賃金データを収集した。次に、連合長野のシステムを活用し、産業別、業態別、属性、学歴、地域別、それぞれの賃金を比較できる資料を作成。調査組合には、地域の実態をプロットし単組の数字と比べることのできるツールから、それぞれの組合「”ならでは“の要求」をつくる根拠を提供している。さらに、連合長野方針として、年齢ポイントごとの中位数に2%乗じたものを個別の到達水準、300人未満男性の第1十分位をミニマム賃金として示し、社会的波及に取り組んでいる。働き方改革に向けては、労使協議の定期化も方針に入れた。これも、定期的な労使協議の場があるとする加盟組合は半数に満たない実態があったからだ。

また、経営者団体への申し入れ、地域フォーラムの開催、記者説明などを通しても、底上げ・格差是正の重要性を訴えている。こうした信州賃金地図の取り組みを通じて、昨春闘では、100〜299人の層で13年ぶりに最終集計が5000円を上回るという新たな傾向が生まれた。引き続きすべての働く人たちの底上げに向けて、連合長野としてこだわりを持ちながら構成組織のみなさんと手を取り合って取り組んでいきたい。

格差是正に向けた連合の取り組み

 

 

 

 

冨田珠代 連合総合労働局長

まず、「『格差』と『差』の違いは何か」。格差とは「同類のものの間における価格・資格・等級・水準などの格付け上の差」であり、そこに「良い、悪い」の価値判断基準は含まれていない。「客観的な違いに正当性があるのか」が是正すべき格差かどうかの判断基準だ。2018春季生活闘争では、月例賃金にこだわった賃金引き上げに取り組む中で、そこにある容認できない格差を1つでも2つでも埋めていく取り組みが「底上げ・底支え」の基軸になる。企業規模間の賃金格差については、中小組合のピーク時(1997年)からの下落幅が大きく、年齢とともにその差が拡大している。年齢別のポイントを取って、賃金水準を明確にしながら到達水準を決め、要求としていく取り組みが必要だ。雇用形態間の格差は、正規フルタイム労働者の賃金は年齢とともに上昇カーブが描かれるのに対し、非正規や短時間労働者は、年齢が上がっても横ばいが続く。この差が容認できるものなのか。また男女の賃金格差はどうなのか。個々の企業の中で検証し、是正に取り組んでほしい。

連合では、要求の根拠となる指標を用意している。まず、生活できる最低水準を示した連合リビングウェイジ(最低生活賃金)を参照し、それがクリアできていれば、次は、地域ミニマム運動で集約した都道府県毎の産業別特定値を参考に、産業や地域の相場と比較し、さらに過年度物価上昇分や可処分所得維持・向上なども考慮しながら、明確な根拠を持って具体的な要求額を決めてほしい。

もう1つ、「すべての労働者の立場に立った働き方の見直し」では、先行的に長時間労働是正に向けた職場の基盤づくりに取り組んでほしい。そして、中小組合の長時間労働の是正には、月60時間以上の割増賃金率の早期適用、有給休暇の取得促進が必要だ。総実労働時間は、中小組合のほうが長いが、所定外労働時間は実は中小組合のほうが短い。これは年次有給休暇の取得率、取得日数に大きな違いがあるからだ。併せて、無理な納期、過度な消費者対応、手待ち時間の改善など、取引の適正化を実行するために労使で知恵を絞っていく必要がある。さらに、サプライチェーン(バリューチェーン)をつなぐのは「価格」だけではない。自社の長時間労働を見直した結果、取引企業に負荷を付け替えるようでは適正な取引とは言えない。2018闘争では、労働組合側からのアプローチとして、「自社の働き方を見直す時には、取引先企業の働き方も見直す」ということを新たな観点として提起していきたい。

※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合2017年1・2月合併号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。「月刊連合」についてはこちらをご覧ください。