介護報酬改定による現場へのしわ寄せとその苦悩 

2015年7月24日

【介護をめぐる課題と連合の取り組み ~介護現場の実態②~】

~介護現場の実態①~では、介護報酬引き下げによる影響と、簡易宿泊所での急激な高齢化の悩みについて聞いた。
さらに、三好市社会福祉協議会労働組合 執行委員長の橋本敦士氏と、全済労富美ヶ丘荘支部生活相談員・介護福祉士の須田直樹氏に話を聞いた。


2割自己負担に伴う事務作業がコスト増に

三好市社会福祉協議会は、三好市と東みよし町の広域連合から委託を受けて地域包括支援センターを運営している。管内の高齢化率は36%で、2040年の全国平均予想を先取りした高齢地域だ。
今回改定で介護報酬が2・27%減となり、介護職の有資格人材が確保できなくなる懸念が出ている。すでにヘルパーやケアマネージャーは不足しており、ある病院ではツーユニット(最大18人)のグループホームを建てたのに、人手不足でワンユニット(最大9人)でオープンせざるを得ないという事態が生じた。

また、介護予防など新たな総合事業をめぐる課題も多い。一つは、人材育成の立ち遅れだ。これまで地域を支えてきたボランティアなども高齢化しており、それを補う人材育成ができていない。
日常生活自立支援員派遣事業が廃止された結果として介護申請が増えるという悪循環も生じているし、デイサービス事業の地域支援事業への移行がサービスの地域差につながることも懸念される。

当面の大きな課題は、8月の2割自己負担の導入に向けた膨大な事務作業だ。ケアマネージャーチームは1カ月分の介護報酬の中で給料をまかないながら事務手続きのために利用者を訪問するが、1カ月では回りきれない事態が予想される。サービス提供以外の事務時間の増大はコスト増を招くから、簡略化と効率化の方策が必要ではないか。

また、退院時に介護認定申請が必要になるケースが増加し、夫婦とも認知症になるなど要介護者が意思決定できない困難事例も出ている。多職種の連携とチームケアが必要だが、そのための知識やスキルを磨かなければならない。介護事業所に人材が集まらないのは、有期契約が多いからだ。
専門性を上げるためにも、正職員として雇って相応の賃金を提供し、専門職としてのスキルアップがはかれる制度が必要だ。

hashimoto

 

自治労 徳島県本部
三好市社会福祉協議会労働組合執行委員長
橋本敦士

 

 

 

 

 


人員配置基準を見直し過酷な労働条件の改善を

特別養護老人ホーム富美ヶ丘荘には、入居者10人に対して職員6人のユニットが11ユニットあり、非常勤を含め66人の介護職員が働いている。夜間は入居者20人に職員1人で対応するため、休憩もしっかり取れない。仕事の割に賃金が安く、身体的にも精神的にもきつい。腰痛などを患い退職する職員も少なくない。国が定めるユニット施設の配置基準は満たしているが、現場には数字で表せない業務や個別ケアへの対応がある。何カ月も週休を翌月に繰り越す状態が続き、有給休暇の取得などもってのほか。このような状況の中、配置基準を上回っているという理由で、ユニットの介護職員をデイサービスに配置転換するという話が出ている。これ以上重労働かつ休みも取れない状況を強いることが、施設入居者と職員の両方にどれほど悪影響があるか、計り知れない。

2009年4月に始まった介護職員処遇改善交付金によって、当初は私たちの施設でも月約1万3000円の一時金があったが、今は3000円に減額された。2009年4月以降の処遇改善分は控除できるという国の方針のため、さかのぼって定期昇給分が差し引かれたからだ。このようなやり方で、処遇改善ができるのか。こうした算定方法が採られる限り、本当の意味での賃金改善にはつながらない。

介護職員が不足し、週休や有給休暇といった当然の権利行使もできない状況。その中で、今年4月から施設入居基準が要介護3以上となり、ますます重度の入居者が増えると予想される。2015年度介護報酬マイナス改定により、今まで以上の賃金カットも懸念される。増額改正された介護職員処遇改善加算を本当の意味での賃金改定につなげるとともに、人員配置基準を見直してユニットケアの現場に沿った人員配置と労働条件の改善をはかることが課題だ。

suda

 

ヘルスケア労協
全済労富美ヶ丘荘支部
生活相談員・介護福祉士
須田直樹

 

 

 

 

 

 

※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2015年7月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。「月刊連合」の定期購読や電子書籍での購読についてはこちらをご覧ください。