新春対談  働く者・生活者のため の政策実現をめざし、 受け身から 攻めへモード をチェンジ!

2021年2月2日

今年は、衆議院議員が任期満了を迎える10月までに必ず総選挙が実施される。昨年は、コロナ禍への対応が求められる中で、政治も揺れ動いた。歴代最長の在任期間を記録した安倍首相が辞任し、菅内閣が発足。野党においては、立憲民主党と国民民主党が両党解散・合流し、9月15日に国会議員150名の新「立憲民主党」が誕生。連合は、旧両党の経緯を引き継ぐもとで、同17日にこの合流新党「立憲民主党」と「共有する理念」を締結した。

コロナ禍の影響はより立場の弱い人に集中し、格差問題の深刻さとともに、セーフティネットの不十分さなど社会構造の脆弱さが露呈した。この危機をどう克服し、命とくらしを守っていくのか。 次期総選挙は、それを鋭く問う選挙になる。

この間の国政選挙では与党が圧倒的な強さを見せる一方、野党は分裂・再編を繰り返し「多弱」に甘んじてきた。政治に緊張感が失われ、政治不信が高まり、投票率は低下している。この流れに歯止めをかけ、働く者・生活者のための政策を実現するにはどうすればいいのか。総選挙に向けて、野党勢力、とりわけ野党第一党の新立憲民主党には何が求められるのか。連合は選挙にどう臨むのか。中北浩爾一橋大学教授と神津会長が率直に語り合った。

(2020年12月4日対談)

命とくらしを守る政治を

−2020年を振り返ると、8月28日に安倍首相が辞任を表明し、9月16日に菅新内閣が発足。野党では、立憲民主党と国民民主党の合流協議が進展し、9月15日に国会議員150名の新「立憲民主党」が誕生しました。まず、その合流の経緯について、連合の関わりも含めて会長からお話しください。

神津 新「立憲民主党」の結党は、2019年12月からの立憲・国民両党の「大きな塊づくり」の一定の到達点だと受け止めています。困難を乗り越え結集した150名の国会議員、そして地方議員のみなさんに敬意を表し、その経験や教訓を今後に生かしてくれることを切に望んでいます。

連合は、結党を受けて9月17日に新立憲民主党との間で「共有する理念—命とくらしを守る『新しい標準(ニューノーマル)』を創る—」を締結しました。これは、6月から立憲、国民、連合の三者で議論を始め、8月27日に基本合意に至ったものです。

新型コロナウイルスの感染拡大で雇用や経済は深刻な影響を受け、特にそれは弱い立場の人に集中しました。しかし、政府の対応は混乱を極め、国民の不安は一向に解消されない。そのような中、連合は、6月12日から「コロナ時代を考える有識者との緊急勉強会」(全12回)をスタートさせていました。

これらを背景として、その翌週の連合中央執行委員会に国会閉会の挨拶に来られた立憲の枝野代表、国民の玉木代表に対し、私から「一緒にアフターコロナの新しい社会像や政策理念について考えていきませんか」と声をかけたのです。両代表に快諾いただいて、意見交換を重ね、「共有する理念」の内容が確認されました。

並行する形で立憲と国民の合流協議が進展し、8月11日に合流新党の綱領・規約案、代表・党名選挙規定案の合意に至りました。24日には2党2グループの幹事長が合流新党の細目に合意し、9月15日に立憲・国民両党が解散して新党を結党。投票で党名は「立憲民主党」と決定し、代表には枝野氏を選出。連合は、9月17日に一連の経過の上に立って合流新党である新立憲民主党と「共有する理念」を改めて締結した、というのが一連の流れです。

一方で、8月11日の国民民主党の役員会後の会見で、玉木代表は分党と合流新党への不参加を表明し、9月9日の両院議員総会で政党分割が了承され、国民民主党解散後の9月15日に玉木氏を含め国会議員15名の新「国民民主党」が設立されました。

最大の問題は野党の力不足

−中北先生は合流新党の意義をどうお考えですか。

中北 この間の日本の政治のいちばんの問題は、野党が分立・弱体化し、結果として自公政権を長期安定化させてきたことです。森友学園、加計学園、桜を見る会など様々な不祥事が続いたにもかかわらず、安倍政権は逃げ切り、その姿勢は菅政権にも受け継がれている。それを許した最大の要因は野党の力不足です。野党が結集して「大きな塊」をつくることは、政治の現状に疑問を抱く国民の期待に応えることであり、そういう意味で合流新党の結成は大変意義があると思います。

ただ、完全な合流とはならなかった。新党は150人規模という一定の「大きな塊」になったのに、人々の目には結局2つの党が残り、党名も代表も変わっていないと映る。本当に残念です。連合は、合流に先立って三者で「共有する理念」を確認されましたが、理念や政策では一致できていたとお考えですか。

神津 「共有」できていたと思います。連合が両党に声をかけたのは、一つには、コロナ禍の影響が立場の弱い人に集中し、政府の対応が状況をさらに悪化させているという強い危機感からでした。特に感染拡大初期の対応は、他の先進国との違いが際立っていた。多くの国では、納税者番号制度や給付付き税額控除などの制度が基盤として整備され、行動制限をかけると同時に迅速に生活保障を給付できたのに、日本では泥縄式の対応が続いていた。

もう一つは、前回の衆院選、参院選の経験から「二度とこういう選挙はやりたくない」という思いが強くあったことです。次の選挙は両党が力合わせをしている姿が見えないと闘えない。まず政策理念の共有から始めようと…。

理念の検討は両党幹事長と相原事務局長が中心になって進めましたが、私も枝野代表、玉木代表と一緒に2回議論に参加しました。そこでの議論状況から、両党は同様の基盤に立っており、必ず合流は実現できると確信したんです。だから、土壇場での玉木代表の不参加表明には心底困惑しました。完全な合流とならなかったことで、新立憲と新国民は対立の構図で捉えられ、「違い」が針小棒大に強調される。両党が共有するものをもっと世の中に見えるようにしなければと思います。

中北 3年前の民進党の分裂も、理念や政策の違いによるものではありませんでした。希望の党を旗揚げした小池旋風が起きて、支持率が低迷していた民進党が合流を決断し、そこに行けなかった人たちが立憲民主党を結成した。実は今、コロナ禍への対応を考える中で、民主党政権の政策はもっと正しく評価されるべきだという思いを強くしています。

神津 民主党政権が制度化した求職者支援制度や生活困窮者自立支援の仕組みはセーフティネットとしてさらに広がりを持ち、役割を果たすべきです。地方への財源移譲も然り。さらには、マイナンバー制度や給付付き税額控除が機能し、子ども手当や一括交付金がきちんと継続されていれば、命とくらしを守る基盤として力を発揮したと思います。

中北 「共有する理念」に示された地方分権や、セーフティネットを強化して個人を支援するという方向性は、コロナ禍の中でいっそう重要な政策基盤になると思います。優先順位を明確にしてブラッシュアップしていけばいい。問題はガバナンスです。民主党政権は、それができなかったために理念や政策まで間違っていたかのようにイメージされているからです。

神津 安倍前首相は事あるごとに「悪夢の民主党政権」と批判し、そのイメージが世の中に刷り込まれてしまった。しかし、ご指摘のように民主党政権の失敗とはひとえにガバナンスの問題です。生真面目に議論をやりすぎてバラバラになり、有権者に「本当に政権を託せるのか」という疑念を抱かせてしまった。今回の合流も、「決裂」が強くイメージされる結果になってしまったことは残念でなりません。

中北 「正しく強かれ」という言葉がありますが、今の野党には「正しさ」はあるが、「強さ」がない。「大きな塊」をつくり、地域の支持基盤を固めて与党に対峙していく中で、国民の期待に応えうる強さを培ってほしいと思います。

神津 「強さ」はやはり「数」です。労働組合は「数は力なり」と大同団結の努力を重ね、31年前に連合を結成しました。数やまとまりは間違いなく力の源泉になる。

中北 政権の暴走をチェックする上でも「数」は重要です。国会の委員会ポストや質問時間も「数」で決まる。「対決か対案か」と言われますが、これは二者択一ではなくて、政権を獲るという構えが与野党の緊張感を生み、「数」のまとまりがあってこそ、対案を仕掛けることができる。だから、野党は、どうやってその数を増やすのかを真剣に考えないといけないんです。

新立憲民主党に期待することは?

中北 新しい箱はできたけれども、まだ魂が入っていない感があります。臨時国会では、日本学術会議の任命拒否問題や新型コロナ対策について菅政権を追及し、足並みは揃えやすくなった。ただ、政権獲得に向けてどういう体制を組むのかという政権構想のパッケージがまだ見えてこない。合流新党は150人規模の塊になったのだから、政権を担う発射台に立ったという自覚を持って政権構想を打ち出していけば、相乗効果で力をつけていけるはずです。また合流新党には、旧民主党政権の中核を担った豊富な人材も集まっている。その経験や手腕を生かして組織だった党運営をしていくことを期待しています。

−野党が数の力を高めるには、次期総選挙の闘い方がカギになります。連合は9月17日に基本方針を確認しましたが、次期総選挙の意義とは何か、どう臨むべきかお聞かせください。

中北 2012年以降、国政選挙では自公が常勝し、有権者には「もはや政権交代は起きない」というマインドが広がっています。次期総選挙は、その流れを変えられるかどうかの極めて重要な選挙になります。

神津 連合は、現時点のものとして「第49回衆議院選挙の基本方針」を確認しています。

小選挙区選挙においては、地方連合会で支援を決めた候補者を、所属政党を問わず組織として全力で応援していく。比例代表選挙については、合流新党という到達点を最大限生かしきるために「原則、立憲民主党を支援する」こととしました。いずれにしても、両党が力を合わせることが大前提です。

中北 一連の状況の中で地方組織は不安を抱えているのではないでしょうか。

神津 そもそも民進党分裂で各地方組織は大変厳しい状況に置かれ、今回の合流でも再び苦労を背負うことになってしまいました。連合として、地方連合会が軸となり、各地方組織と思いを共有する中で、構成組織とともにしっかり支えていかなければなりません。

組織一丸となって闘える環境の構築を

−野党間連携を含め、選挙の闘い方については?

中北 すべての前提として、地方連合会と新立憲の地方組織が力合わせできる状況をつくることが重要です。政治の世界における野党間連携で大切なのは、連携の優先順位を間違えないことだと思います。第一に新立憲を中心に新国民・社民の3党が連携し、候補者調整に加えて相互推薦・支援を行い、連立政権をつくる準備も進める。その上で第二に、共産党をはじめとする他の野党と可能な限り候補者調整を行う。そうでなければ、無用な混乱が生じてしまいます。

神津 今、調整が進んでいるところだと思いますが、基本となる2党の連携がしっかりしていないと、共産党の存在感が相対的に高まってしまうことになりますね。

中北 共産党について言えば、政策面も含め野党共闘に向けてかなりの努力をしていることは事実です。ただ政権をともにできるかというと、過度の反アメリカ・反大企業の綱領の内容や労働運動における対立の歴史を考えると、現状では難しいでしょう。一方で、小選挙区制である以上、候補者調整をしなければ野党には厳しい選挙になる。選挙協力の方法と連立政権の枠組みを冷静に整理して、野党が最大限その力を発揮できる状況をつくり出してほしいと思います。

−選挙では、幅広い国民の共感を得られる政権構想の提示も求められます。

神津 自民・公明の両党は、お互いに政策や考え方に相当の違いがありますが、その違いをうまく利用して政策を修正し、強固な基盤を築いています。立憲と国民も、互いに認め合い力を合わせていく着地点を見出し、それを政権構想として打ち出してほしい。

中北 私は自公政権を研究してきましたが、公明党自体、政策的には自民党よりも民主党系に近いと認めています。しかし、自公は対立しても最後に決めきるから、政策的な多様性が力になり、時代の変化に対応できる柔軟性が生まれる。一方、民主党系は違いを過剰に強調して分裂を繰り返しています。問題は、政策ではなく、違いを力にできるかどうかです。そこを学んでほしい。

現在の政治の選択肢は「自公」か「風」か。しかし、いつまでも風頼みの選挙では困ります。塊を大きく、かつ強くして、自公対民主の構図をつくっていくべきです。

その上で、もう一つの検討課題は、選挙制度を含む政治改革です。55年体制が38年間続いた後、1994年の政治改革で小選挙区制が導入されましたが、その検証を踏まえて次にどういう民主主義の制度をつくるべきかを議論する時期にきているのではないでしょうか。

神津 同じ思いを持っています。94年の政治改革は、政権交代可能な二大政党的体制をつくるという目的があり、日本の政治において一つの重要な過程であったと思います。ただ、民主党政権崩壊以降、政権交代可能な緊張感ある政治は遠のき、建設的な政策議論も停滞したままです。改めて選挙制度も含めた改革の議論があって然るべきだと思うのですが、そういう熱意が与党にも野党にもまったく感じられない。コロナ禍で明らかになった社会の脆弱さに対する危機感をバネに、政治を動かそうという熱意も生まれてこない。そこがまた深刻な事態だと危機感を持っているんです。

中北 各国のコロナ禍への対応を見ると、民主主義のタイプの違いが影響しているように見えます。アメリカやイギリスでは感染が拡大し死亡率が高まりましたが、二大政党制が敵対的な政治や分断を生み、そのことが国を挙げての対応を妨げたのではないかとの見方もあります。一方、対話と合意を重視する連立政権のドイツでは、いち早く国民を守るというメッセージが発せられ、感染症対策も生活給付も迅速に行われました。

神津 ドイツは、第二次世界大戦への反省から、連立政権のもとで合意を重視した政治運営を行ってきました。日本の政治風土を考えると、学ぶべき点が多々あるのではないでしょうか。

中北 米英の二大政党制モデルは、緊張感のある政権交代可能な政治システムですが、ドイツの「穏健な多党制」モデルでも政権交代は起きます。日本社会にマッチする政治制度は何か、いま一度考えていくことが必要だと感じています。

いかに組織の力を高めるか

政治への関心が低下し、投票率の低下につながっている現状については?

また中北先生からは連合に期待すること、神津会長からは連合としての決意をお願いします。

中北 政治への関心の低下については、やや誤解があると思います。若い世代の投票率が低いのは、組織の網の目に入っていないから、つまり「○○候補に入れて」という働きかけを受ける機会が少ないからです。

なぜ有権者は投票に行くのか。「実現したい政策があるから」よりも、「声をかけられたから」という動員効果のほうがはるかに大きい。組織が動員力を高めれば投票率は上がるし、政治への関心も高まる。逆に言えば、投票率が低下しているのは、労働組合や農協、地縁組織、宗教団体などが弱くなってきているからです。連合の「政治アンケート調査」でも、職場の地道な働きかけが実際の投票行動に影響していることが明らかになっていますね。

神津 連合はずっと「投票に行こう」運動に取り組んできたのですが、今回の調査で、組合員の投票率は全体の投票率よりも大幅に高いことがわかりました。しかし、もともとそれらの組合員が政治に高い関心を持っていたわけでは必ずしもなく、職場の組合役員など身近な人からの働きかけが投票の大きな動機になっている。また組合役員や経験者は、その多くが連合や構成組織が推薦する候補者・政党に投票していることもわかりました。

中北 政治参加における組織の力を裏書きするような興味深い調査結果です。何らかの組織に属していれば働きかけがあり、投票率も高くなる。組合役員に話を聞くと「組合活動なんて面倒だと思ったけど、やってみたら面白かった」と口を揃える。政治活動を通じて視野や人脈が広がり、さらに選挙で応援する候補者が勝てば素直にうれしい。政治に関わることは人生を豊かにするきっかけになります。やはり日常的な組合活動の質を、政治を含めて「やってみたい」と思える水準まで高めていけるかどうかが、ポイントになると思います。

今、コロナ禍で人と人の接触が抑制され、あらゆる組織の危機が進行しています。それは残念なことです。組織が衰退することは無縁社会を生み出し、孤立して声を上げられない人が増えることを意味します。政治への関心を高め、投票率を上げるためにも、組織に頑張ってほしい。その代表格である連合には、様々な共助のための組織と手を取り合って日本社会に絆を取り戻し、人々の切実な声が届く政治を実現してくれることを期待しています。

神津 お話を聞いて、私たちの「組織の力」を高めることは、労働組合だけの局所的な問題ではなく、日本の社会全体において極めて重要な意義を持つのだと改めて気づかされました。

今回の合流は画竜点睛を欠くことになりましたが、それを嘆いていても仕方がない。前に進むために、受け身から攻めへモードを切り替えて政策実現に取り組んでまいりたいと思います。

−ありがとうございました。

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