偽装雇用か!?ベルコだけの問題じゃない!!

2019年8月27日

今回、お伝えしたいことは「会社組織の丸ごと偽装」。指揮命令の実態は通常の会社組織と変わらないのに、業務委託契約を濫用し、ほぼ全従業員を「個人請負」扱いにしてあらゆる労働法規の適用を逃れている。こんなやり方を許したら、日本の雇用社会は根底から破壊されるという危機感が広がっている。これではどんな仕事でも業務委託になってしまう。これは人ごとではない。明日は我が身…すなわち、私たち自身の問題だ。冠婚葬祭互助会大手の「ベルコ」で起きている問題を見てほしい。
6月13日には、北海道労働委員会が、全ベルコ労働組合の組合員に対する事実上の解雇と団体交渉拒否を不当労働行為と認定し、職場復帰等を命じる命令を下したが、高裁での裁判は継続中。闘いはまだまだ続く。この問題、ますます目が離せない。

 

記者の解説を見てみよう!(東洋経済の記事より)

「個人請負」の深い闇

冠婚葬祭互助会とは、前もって受け取る掛け金を元手に葬儀や結婚式などのサービスを提供するもので、業界全体の加入者数(口数)は約2400万口、掛け金の総額は2兆4000億円。その最大手が、「玉姫殿」で知られるベルコだ。
2015年、労働組合の結成を理由に解雇されたとして、ベルコの北海道内の代理店で働いていた元従業員2人が裁判所と労働委員会に提訴。その審理の中で明らかとなったのが、同社の徹底した「業務委託契約」だ。全従業員約7000人のうち、正社員はたった35人。
業務委託の対象は、営業職にとどまらない。葬祭所長やホール館長、結婚式場の支配人ら、管理職の支社長や支社長代理はもとより、経理や消費者相談室のスタッフまで、一様に業務委託契約を結んでいる。

 

個人請負なのに「人事異動」、労働者なのに「無権利状態」

個人が会社と業務委託契約を結び「個人請負」となると、労働基準法などの労働法規がいっさい適用されない。解雇規制はなく、職を失っても失業保険給付はない。時間外、休日、深夜労働手当、有給休暇もなく、最低賃金も適用されない。年金や医療保険もすべて自己負担だ。労働組合を組織して団体交渉を申し入れることもできない。ひとたび個人請負となると、パートや派遣などの非正規雇用の労働者に輪をかけた「無権利状態」に置かれることになるが、ベルコの個人請負には「人事異動」があり、明らかに会社の指揮命令下にある。

会社側は、「頑張れば頑張るほど収入が増える仕組み」だというが、実際には頑張って働くほど収入が不安定になる実態がある。近年は冠婚葬祭の簡素化が響き、互助会の加入者数が頭打ちとなる中、「ベルコ方式」が互助会業界に拡大しているが、国民生活センターに10年連続で3000件を超える苦情が寄せられている。働き手の疲弊は、消費者のデメリットにも直結しかねない。

 

この記事を書いた記者のコメント

労働組合の存在基盤にも関わる問題

風間直樹 週刊「東洋経済」記者 (東洋経済新報社編集局調査報道部副部長)

消費者から苦情の多い冠婚葬祭互助会の実態を調べてみると、「業務委託」を濫用したビジネスモデルが横行し、労働争議も起きていることにいきついた。消費者問題の背景には労働問題がある。働く人たちの環境を蔑ろにすると、それはその会社で働く人だけの問題に止まらず、消費者、国民全体の不利益につながりかねない。警鐘を鳴らしたいと、「冠婚葬祭業に蔓延する『個人請負』の深い闇」(2017年3月21日)という記事を書いた。

実態は普通の労働者なのに「業務委託契約」を結んだだけで無権利状態になってしまう。多くの労働事件を取材してきたが、これほど極端なケースはない。「働き方改革」の議論の中で、非正規雇用の処遇改善の法整備が進む一方、個人請負がその抜け穴や逃げ道とされるようなことがあってはならない。これは、労働組合にとっても、「労働者性」というその存在の基盤に関わる一丁目一番地の重大な問題だ。ベルコ争議の支援を広げ、国民的な議論を投げかけてほしい。


※東洋経済ONLINE記事より抜粋。全文はこちら

 

 

●元ベルコチェッカー (本社直轄人事考課部署)のNさん(女性)

 以前働いていた会社がベルコに吸収合併されたが、移行時にはきちんとした説明はなく、自分はベルコの社員だと思っていた。「事業主」「業務委託契約」と言われても訳がわからず、無我夢中で働いてきた。社員じゃないと知った時には愕然とした。騙されたと感じた。最も憤っていることは、日常的にパワハラ、モラハラ、セクハラが横行しとても苦しかったこと。体形や服のサイズ、見栄えが悪いなど毎日会社から小言を言われ、精神的苦痛は筆舌に尽くしがたいものだった。何もかもがつらかった。休みは取れても月に2日がせいぜい。他のスタッフも同様だった。さらに不当な扱いは給料。自分の給料はベルコの指示で月25万円の固定給にされた。収益があがらないと、スタッフへの給料が払えず、自分の給料からまわした。毎月毎月やりくりが大変だった。そのくせ収益が増えても私の給料は25万円の頭打ちだった。ベルコには不信感しかない。時代に合った雇用をして働いている人たちを大切にしてほしい。

 

●元ベルコ代理店で働いていたSさん(男性)

 大学卒業後、ベルコの代理店へ入社しました。とにかくきつかったのが契約獲得ノルマ。試用期間3カ月は月3本だったのが、月5本と増え、1年後は月10本に。基本給が10万円で、契約1本で2万。残業代も払われず、タイムカードで退勤を押してから通夜の仕事へ…。国民年金、国民健康保険に自身で加入。もちろん賞与も有給休暇もなく、営業には自家用車を。ガソリン代は基本給に含まれ…会社とはそういうものかと諦めていました。獲得した会員が途中解約すると2万円が給料から引かれ、朝礼ではノルマの突き上げでパワハラが横行。精神的に追い込まれ、とてもじゃないけど続けられないと次々に人が辞めていきました。自分も使い捨てにされたようなもの。自分がベルコ社の社員じゃなかったと知ったのは退職後。採用募集欄には「ベルコ〇〇代理店」とあったのに…。
現在は地元企業に正社員として転職し、厚生年金にも入れました。労働組合を立ち上げるために地方連合会の地協を訪ね尽力いただきました。
ベルコにはまっとうな会社になってほしいです。

みんなで闘っています!

道労委の画期的な救済命令を高裁での勝利につなげよう

棗 一郎 弁護士
全ベルコ労働組合裁判闘争弁護団

札幌地裁での敗北…とても苦しく、悔しかった。しかし北海道労働委員会では一転し歴史的勝利を得た。全く同じ事件、同じ証拠、同じ主張なのに結論が真逆。明暗を分けた最大の要因は判断者の質の違いだろう。会社組織丸ごとの業務委託契約の濫用、使用者責任を一切負わないというベルコ社の異常性を認識し、事件の本質である「不当労働行為」を的確に捉え、救済の必要性、重要性を認識していたのが道労委である。命令の優れた点は、①直接の雇用契約はないが、ベルコ社が労働組合法上の使用者に該当し、会社、支社、支部、従業員は「実質的に一体の組織を形成」と判断された点。②労組を立ち上げた2人の解雇は「不当労働行為に該当」と判断し、直ちに「就労措置を取らせ、賃金相当額の支払い」という救済命令を出した点で、非常に画期的なものだ。
請負・業務委託契約の濫用事案で、会社組織の実質的一体論で労働者を勝たせた命令も判決もこれまでにはない。この成果を今後の中労委、札幌高裁での勝利につなげられるよう、組合の皆さんと団結し、力の限り奮闘していく。
※7月26日ベルコ闘争緊急報告会での決意表明より一部抜粋

 

「雇用によらない働き方」で苦しむ労働者に希望を!

出村良平 連合北海道会長

一本の相談電話から始まった全ベルコ労働組合のたたかい。最初は手探りであったが、高橋委員長の情熱と連合北海道斎藤副事務局長他スタッフの頑張りによって、労働委員会闘争、裁判闘争へとたたかいは進んでいった。使用者責任を放棄し、利益を貪る企業を許してはならない。6月13日の北海道労働委員会の救済命令は、私たちに勇気を与えてくれた。「雇用によらない働き方」で苦しむ多くの労働者に希望を与えるたたかいにしなければならない。

 

「まっとうな雇用、まっとうな経営」のために

北野眞一 情報労連中央本部 書記長

業務委託契約とは、企業に雇用されるのではなく、企業と対等の立場で業務の依頼を受ける働き方だが、ベルコ社は全従業員約7000名のうち正社員数約35人以外は雇用責任がまったく生じない業務委託契約を濫用した働かせ方で冠婚葬祭業を営んでいる。この様な働かせ方が“問題なし”となれば、“まっとうな雇用”も“まっとうな経営”も成り立たなくなる。近江商人の“三方よし”ではないが、「会社よし、社員よし、顧客よし」でなければならない。私たち情報労連は、全ベルコ労組とともに本闘いを継続する。

 

※この記事は、連合が企画・編集をしている「月刊連合8・9月合併号」をWEB用に再編集したものです。

 

 

 

 

 

 

 

,