コロナ禍の労働組合④ 連合石川

2021年7月6日

コロナ禍で、労働組合は職場の不安をどう受けとめ対応したのか。

UAゼンセン、私鉄総連、航空連合、連合石川に話を聞くと、働く人や産業をまもり、つなぎ、未来を創り出そうと、懸命に行動する労働組合の姿が浮かび上がった。

連合石川  職場の状況を把握し、マッチングにつなげたい

 コロナ禍における雇用維持のスキームとして期待される「在籍型出向」。今年初めには、在籍型出向等支援協議会設置、産業雇用安定助成金創設など支援策も整備された。連合石川では、地域在籍型出向等支援協議会に参画するとともに、これまで築いてきた地域のネットワークを活かし雇用と生活を守る取り組みを展開している。

 

地域の企業同士のつながりで

ー県内の雇用情勢は?

観光業や飲食業は、コロナ禍で大きな打撃を受けている。新規求人の動向は、一昨年に比べて、宿泊が▲43%、 飲食が▲63%。石川県内の温泉地も観光客は戻っていない。有名な輪島の朝市も閑散として人影がまばらな状況だ。主要産業の製造業は、ばらつきはあるものの、機械製造を中心に堅調で全体として回復の兆しがある。

労働相談では、事業所・店舗閉鎖に伴う解雇や雇い止めの事例が出てきている。パワハラやカスタマーハラスメントの相談も増えている印象がある。

ー地域における在籍型出向の取り組みは?

「在籍型出向」は従来からある仕組みだが、コロナ禍に対応して地域協議会設置や助成金新設などの支援策が強化されたことから、制度の周知が進み、地域でも反応が出てきた。

石川県では、4月26日に「在籍型出向等支援協議会」が発足。石川労働局が事務局となり、経営者協会、商工会議所連合会、中小企業団体中央会、社会保険労務士会、金融機関、行政機関、連合石川が参加し、産業雇用安定センター(以下、産雇センター)が具体的なマッチングをはかっている。産雇センターには、これまでに受け入れ企業24社、送り出し企業7社が登録し、80名ほどのマッチングが成立している。

また、産雇センターを通さない在籍型出向も実施されている。バスを製造する「ジェイ・バス」では、以前から業務量に応じて相互間で「コマツ」などへの「在籍型出向」を行ってきた。そういう土壌があって、コロナ禍においても地域の企業同士のつながりで雇用維持の取り組みが進められている。例えば、創業100年を超える陶器製造業の「ニッコー」は、外食産業からの食器受注が落ち込み、現在、十数人を地元の流通関係の会社に「在籍型出向」で送り出している。連合石川でも、助成金新設を加盟組織に周知したところ、傘下組合の企業同士で在籍型出向が成立した。

 

出向の目的や意義を明確に

ー地域協議会では何が話し合われたのか?

県内の状況や在籍型出向をめぐる課題について共有した。

コロナ禍では異業種への出向となるケースが多いが、当事者にとっては抵抗感がある。成立のポイントは、やはり送り出す側の目的や意義が明確であることだ。例えば、運輸業の会社から宿泊業への出向にあたっては、「老舗旅館の接客を学んできてほしい」という動機づけがされた。「コロナ禍が収束して需要が戻ったら、生産の回復に貢献してほしい。そのために出向先でこういうことを経験し、学んできてほしい」と、経営者みずからその目的を伝えることが大切だと思う。

もう一つの課題は、送り出し側の不安だ。元々人手不足に悩んでいた会社では、雇用関係を維持したままの出向とはいえ、貴重な人材をつなぎ留めておきたいという思いが強い。だから雇用調整助成金で耐え忍んでいる。例えば観光バスの運転士を運送業のドライバーに出向させるという提案があるが、実は簡単なことではない。同じ運転の仕事でも、トラック運送では荷上げ・荷下ろしまでドライバーの仕事で、フォークリフトなどの免許が必要とされる。出向する場合、新たにそうした資格をとることになれば、そのまま転職してしまう可能性も高まるというジレンマが生じる。

また、受け入れ側の事情もある。今、産雇センターと労働局がペアになって、求人を出している会社に直接訪問を始めているが、人材育成を考えれば、やはり直接雇用したいという。半年や1年で元の職場に戻る出向者の仕事は限られてしまうからだ。

ー6月中にすべての都道府県で「地域在籍型出向等支援協議会」が設置される。地方連合会で共有できることは?

1つは、産雇センターとの連携強化。連合石川では、コロナ禍で地域の雇用を守る取り組みが求められる中で、改めて産雇センターとの関係を強化している。特に在籍型出向については、産雇センターの力量発揮が期待される。協議会の場だけでなく、もっと日常的な情報交換を行っていきたい。

2つめは、職場の状況把握。連合石川では、県内4つの地協が春の職場激励行動を行ってきたが、そこに連合石川の役員も同行するようにしている。そうすると、単組との関係が生まれ、その職場の課題も見えてくる。直接現場をウォッチングする機会を増やし、情報を集め、雇用維持のマッチングにつなげていきたい。

 

地域別最低賃金の引き上げを

ー経営者への働きかけは?

連合石川では、これまでも様々な機会を通じて経営者協会や商工会議所などの経営者団体と対話を重ねてきた。今年の春季生活闘争では、コロナ禍を踏まえ、こういう話をさせてもらった。「いつかコロナ禍は明けて、経済が回復する時が必ず来る。その時にまた人を囲い込もうと思っても難しい。今、この厳しい状況にあっても、一定の労働条件は担保し、需要回復期を支えてくれる社員を確保しておくべきだ」と。

関連して、夏以降、労使の重要なテーマとなるのは、地域別最低賃金の引き上げだ。石川県の最賃は833円。コロナ禍は、この水準で働いている、より弱い立場の人たちにより深刻な影響を及ぼしている。ダメージを和らげるためにも、今年は何としても2桁以上の引き上げをめざしたい。

ー政府や連合本部に対する要望は?

政府には、ワクチンの迅速な接種を求めたい。また、感染状況については、新規陽性者数だけでなく、その感染ルートなどの開示を要望する。それがないと具体的な感染防止行動に結びつかないからだ。

コロナ禍で労働組合の活動は大きな制約を受けてきた。連合石川でも、春季生活闘争の集会はサテライト開催、メーデーも規模を大幅に縮小したが、一般の組合員が連合の取り組みに参加する貴重な機会が失われている。連合本部も対応に苦慮されていることは理解できる。ただ、例えば平和行動は例年通りの開催を断念するとしても、その代わり「各地方連合会でこういう行動に取り組んでほしい」というオーダーを投げてくれれば、対応できる。コロナ禍であっても、連合やその取り組みを一般組合員に知ってもらう機会を最大限大切にしていきたい。

 

※この記事は、連合が企画・編集する「月刊連合7月」をWEB用に再編集したものです。

,