真の多様性 女性参画 若菜先生に叱られる!?特別編 なぜ女性参画はすすまないのか?

2021年6月3日

連合は、運動方針の重点分野に「男女平等をはじめとして、一人ひとりが尊重された『真の多様性』が根付く職場・社会の実現」を掲げている。そして6月は、その取り組みのいっそうの強化をはかろうという「連合男女平等月間」だ。

さて、日本の現状は深刻だ。3月末に発表された世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数は、156カ国中120位。政府目標の「2020・30」(指導的地位に占める女性の割合を2020年までに30%)は達成できずに先送りされた。労働組合も例外ではない。女性組合員比率は36.2%と増加しているが、女性執行委員比率は構成組織15.4%、地方連合会12.8%。さらに女性参画が進んでいない結果として、弱い立場に置かれてきた女性たちがコロナ禍の直撃を受け、失業や生活困窮に追いやられている。これ以上、格差を放置すれば、社会全体が不安定化してしまうという危機的状況にある。

そこで、[第1部]では、本誌連載『若菜センセイに叱られる!?』で「なぜ女性参画は進まないのか?」をテーマにインタビューを重ねている首藤若菜立教大学教授と相原康伸連合事務局長の対談をセッティング。「なぜ進まないのか」を徹底的に検証し、「どう進めるのか」を真剣かつ具体的に考えた。

 

なぜ日本の女性参画は進まないのか?

チャンスは平等なのに人材がいない?

井上 ジェンダー・ギャップ指数で現在上位にある国も、最初から女性参画が進んでいたわけではなく様々な努力を重ねて平等を実現してきました。しかし日本はいまだ足踏み状態で、156カ国中120位。なぜだとお考えですか。

相原 120位という現実から目をそらすことはできない。同時に、瞬間風速の順位のみならず、順位を落としてきた事実を重く受け止める必要がある。それは日本全体の取り組みそのものが世界の中で劣後している証拠です。

リアルでもWEBでも国際会議は、まったく景色が違う。ジェンダー・ギャップ指数の上位4カ国は女性が首相ですが、世界の労働組合も、多くの国々で女性のトップが誕生しています。会議の設定も、ジェンダー平等が徹底され、日本はいかに遅れているかを痛感します。

首藤 日本も様々な男女平等施策を実施してきました。女性参政権が実現し、労働基準法に男女同一賃金が入り、男女雇用機会均等法が制定され、男女共同参画基本法もできました。労働組合も職場で男女平等課題に取り組み、それをバネに法制度の改正や整備を積み重ねてきました。にもかかわらず、男女の格差はまったく縮小していない。数字で測れるものだけをみても、女性の賃金は男性の74・4%、上場企業の女性役員は6・2%。非正規雇用の割合は、男性22‌%に対し女性は54%。衆議院議員の女性比率は9・9%。制度は平等になってきているのに、結果が伴っていない。120位はあまりに低すぎます。それはなぜかをもっと考え、格差に切り込んでいく必要があります。

相原 よく聞くのが、3つの言い訳です。①登用したくてもポストに見合う女性人材がいない。②女性がなりたがらない。③そもそも女性社員が少ない。

首藤 その言い訳をずっと続けてきた結果が120位ですよね。

相原 個々の職場では、制度的格差を解消し、女性の登用に力を入れているところも少なくないですが、全体として格差が拡大している。長年、労働条件改善については、先行組合がリードして全体を引き上げてきましたが、女性参画はその方式だけでは難しい。世界の中での日本社会の位置づけを踏まえて、「どういう社会をめざすのか」「女性参画をどう関係づけるのか」を議論し、遅れを挽回するための社会的合意を共有していくことが重要です。

井上 高度成長期に形成された日本的経営や社会保障制度は「男性稼ぎ主世帯」をモデルにしたもので、すでに時代に合わなくなっています。その再構築も、女性参画がカギになると思います。

 

女性参画が進まないことで何が起きているのか?

本格的なセーフティネットの構築を

井上 コロナ禍で、今まで見過ごされてきた女性の労働をめぐる格差が一気に噴き出しています。国連のグテーレス事務総長は昨年4月、「女性に対する暴力防止と経済的救済」を新型コロナ対策の重点項目とするよう声明を出しましたが、現状をどうご覧になりますか。

首藤 女性は、雇用、所得、労働時間の面で強い影響を受けています。非正規雇用やフリーランスなど低賃金・不安定就労で働く人が多いからです。雇用や賃金の男女間格差は、コロナ禍以前から問題視されてきましたが、是正が進んでいません。それが今回の危機で露呈した。今こそ、格差を解消していく契機としなければと思います。

相原 おっしゃる通りです。コロナ禍で元々弱い立場にあった労働者にシワ寄せがきている。反省を活かし、前に進む起点にしなければならない。具体的には、ダメージの実態把握はもとより、個々の困難を点から線へとつなげ、政策に結び付けることが大切です。コロナ禍においては、時々の政府等の政策対応に気を取られがちですが、すべての働く人をカバーする本格的セーフティネット構築、そのための議論を急がなければいけません。安心して働けることが、社会の安定と成長には不可欠と強く訴えていきたい。

 

労働組合の女性参画をどう進めるか?

「労働組合が変わる!」を突破口に

井上 労働組合の女性参画については?

首藤 労使関係や労働組合のあり方も、ジェンダー・ギャップの大きさに影響されてきたのではないでしょうか。労働組合は「男性中心の組織」と言われ、ボーイズクラブ的な風土がありますが、実は「女性労働者のために」様々な取り組みを行ってきました。そこは非常に評価しています。ただし、「女性を一人前の労働者として男性労働者と等しく扱ってきたのか」と言えば、少し違う。どちらかといえば、性による差異や役割を前提に「女性を守る」という視点が強かったのではないか。例えば育児休業や育児短時間勤務制度は、労働組合の要求で制度化され期間も延長されましたが、一方で、その取得が、マミートラックと言われるように女性のキャリアアップの遅れや昇進・賃金の格差につながっている実態があります。

でも、労働組合がその姿勢を転換できれば、労使協議や交渉を通じて、企業内の女性登用のあり方を変えていくことができる。まず、労働組合が変わる。それが日本を変える突破口になる。そんな期待も持っています。

相原 その期待に応えたいですね。労働組合役員イコール、自分の生活や業務を犠牲にするとの見方は根深いですが、近年、多様な価値観に触れ、知見を広げることを重視する社会へシフトしています。イメージチェンジのチャンスです。

首藤 得るものは大きい。ただ、そのメリットは男女等しくあるのに、組合役員の大多数は男性です。なぜ女性がならないのか、あるいはなれないのか。

相原 仕掛けがそうなっていない。意識が変わっていない。活動が変わっていない。配置が変わっていない。この「仕掛け」「意識」「活動」「配置」という4つをしっかり点検していく必要があると考えています。

井上 単組レベルでは、女性委員長や女性書記長が多数活躍していますが、そこから上に行けない。そこを突破する「仕掛け」をもっと考えたいですね。

 

労働組合活動の見直しも

首藤 仕事と組合活動と家庭の両立が難しいという声も聞きます。組合役員は大変な仕事だからと、家族的責任のある女性に「配慮」する組織も多い。でも、発想を転換して組合活動のあり方を見直せば、もっと多くの人が役員になれるのでは?

相原 労働組合として「必ずそばにいる。頼りになる存在」でありたい。そのマインドはこれからも大事にしたい。その上で、性別を問わず、年齢を問わず、国籍を問わず、誰もが参加しやすい活動にしていく。ここは、新しいデジタルツールを最大限活用していくことが、労働組合のDX、組合活動の変革の突破口になるのではないかと考えています。

首藤 ただ、その課題認識が弱い組織も少なくないのでは?

井上 そこはきめ細かい対応が必要です。今は、担当者だけに仕事が集中しているから、「自分には無理だ」と考える人が多い。でも、男女を問わず誰でも助けが必要な時はある。まず、一人ひとりの状況を組合として把握し、複数で仕事や責任を分担できるサポート体制をつくっておく。例えば急に子どもが熱を出しても、代わりに会議に出てくれる人がいれば安心です。また、単組では報告事項は事前に共有し、昼休みに執行委員会を開催する。あるいは組合事務所をきれいにして、組合員がランチできる空間にする。そんな工夫も生まれています。デジタルツールの活用と合わせて、日常的に助け合い、支え合う体制をつくることで参画の間口を広げたいと思っています。

相原 労使協議の場では、多様な人材を活かせる職場をつくろうという話をしています。労働組合活動の環境整備、仕事の棚卸しにもなる訳ですね。

首藤 壁になっているのが、先輩たちが築いてきたものを途絶えさせてはいけないという「前例踏襲」だと聞いています。専従役員が減っている中で、前例踏襲に時間を取られ新しい活動ができない組織も多い。これはどう克服したらいいのでしょう。

相原 優先順位をつけることも必要です。連合は今期運動方針で、運動を「重点分野」「推進分野」「基盤整備」に区分けし、ナンバリングしました。今までどの運動も同じ高さに置いてきましたが、重点分野を3つに絞った。多様な雇用・就労形態で働く人を守りつながること、安心社会に向けた政策の実現、ジェンダー平等、多様性が尊重される社会の実現。ナショナルセンターの運動方針としては大転換であり、意識変革にもつながったと思います。

 

女性が政策決定にコミットする仕組み

井上 「仕掛け」「意識」「活動」ときて、最後の「配置」が最大の課題。

首藤 海外のナショナルセンターでは女性リーダーが次々誕生していますが、連合に女性会長が誕生する日は来るのでしょうか。

相原 確かに、女性会長の誕生は大きな意味を持つと思います。そのためには、政策決定へのコミットを可能とする仕組みにアイデアをこらすべきです。

いわゆる、選出のための「女性枠」も長年の一つの工夫として定着してきましたが、そこから脱却することも私たちのチャレンジ。自然な形でジェンダーバランスが保たれる時代づくりに歩みを進めなくてはなりません。

例えば、一つのアイデアとして、全国9つの地方ブロック代表を1名から2名にすることも。その際、共有する意識はジェンダーバランス。女性参画のドアをひとつ開けることができるでしょう。外づけとも称されることが多い「女性枠」という形をとらずに政策決定への参画を促すことができる。人材育成の機会と捉えるブロックがあってもよい。中央執行委員会などの会議にオンラインで参加する柔軟性も広げたい。女性連合会長が誕生する道筋はいかに多くの機会を創れるかにかかっています。

首藤 女性枠は、実態として「外枠」になっていて、そこに入れられた女性役員は教育もされず、メインストリームに入れませんでした。教育の機会はぜひ広げてほしいと思います。新しいアイデアへの反応は?

相原 まさに今、検討途上。地方ブロック代表者の皆さんと率直かつ建設的な話し合いを進めています。検討に終わらせず、新しい仕組みづくりを進めます。それには全国の構成組織の参加、協力が欠かせません。地方連合会では、連合奈良と連合宮崎に女性の会長が、連合東京では女性の事務局長が誕生しています。次に続く副事務局長や副会長など複数の女性役員がいるところもあれば、配置が難しい組織もある。時代から取り残されないためにも、連合本部が積極的にドアを開けながら、単組、産別、地方連合会が連動する形が大切です。

首藤 現在の役職者の選び方では、女性が登用されにくいとの声も聞きます。選び方を見直す可能性はありますか?

井上 男性組合員が多い労働組合で中央執行委員を公募制にした組織があって、それをきっかけに女性委員長が誕生し、様々な役職に女性が増え始めるなどの成果が出ているところもあります。

相原 セーフティネットの強化、デジタル化と雇用の公正な移行などの重要課題は目白押し。「労働組合の未来」についてもナショナルセンターとして不可避のテーマです。「男女平等参画推進」と「コロナ禍で露呈した社会の脆弱性」と併せて内外の人材を集めてもいい。

首藤 そこで結果として女性が多数関わり成果が出れば、次につながる事例になりますね。

相原 ぜひやりたいと思います。

首藤 連合は、単に産別の連合体ではなく、すべての働く人のためのナショナルセンター。今回の取り組みが、連合自体を変えるきっかけになることを期待しています。

井上 今日のアイデアは次の連合男女平等参画推進計画にも活かしたいと思います。ありがとうございました。

※この記事は、連合が企画・編集する「月刊連合6月」をWEB用に再編集したものです。